あまりもの事態に俺の頭は白くなって体が凍った。
状況を冷静に考えればこの上なく嬉しいはずなのだ。
だが、その状況を受け入れるには衝撃的にも程があった。

本来ならばテレビの向こう側の女性。しかもアイドルという手の届かない存在。
その人が、俺の家の台所で鼻歌交じりに料理をしている。
あの牌のお姉さん、瑞原はやりが、この俺、須賀京太郎のために。

はやり「かんせーい☆ 年頃だからたくさん食べるよね? 大盛りでよそっちゃうぞ☆」

家事になれた機敏な動きで、ご飯をよそって『どうぞ』と渡してくれる。
受け取る際に柔らかい手の感触がした。

彼女、瑞原はやりは俺の婚約者だという。
アイドルであるがゆえに恋愛をできない彼女にとって須賀家との縁談は渡りに船だった。
長男がまだ15、すなわちアイドル引退に伴う引継ぎに2年半近い時間があることも決め手だった。
それまでに新しい牌のお姉さんを作り上げ、そのあとは麻雀のプロと兼業で主婦をするらしい。

全部、俺の知らないところで決まっていた。
嫌な訳じゃない。彼女は憧れのアイドルで、スタイルも好みど真ん中で、そんな人と結婚できるのだ。

ただ一つ思う。少しは心の準備をさせてくれないかなあ、と。
いや、その心の準備のための期間がこの10日間限定の同棲生活なのだろうか?

一つ確かなのは、俺は理想の年上の嫁さんをゲットできる幸運な男だということだ。
咲、優希、和、俺一足先に幸せになるよ。


『ひと夏の押しかけ妻』瑞原はやり編  カン