~東京でのある日~

「んぅっ……すぅ……すぅ……」

 あれはアスファルトの照り返しも激しく、35度を超える酷暑の日だったか。
 いつもの如く買出しに追われ、女子たちがたむろする宿泊所に荷物を届け逃げるように俺は町へ戻った。
 そんな時に見つけたのが神代さんだ。

 この暑い中、木陰とはいえ停められたバイクにもたれるように眠っていたのだ。
 巫女服という日常には珍しい衣装に身を包み、しかしそれが当然であるように自然体で。
 胸元を押し上げる豊満さが目に毒だった。
 やはり暑いのだろう、少し寝苦しそうに唸り、袂が着崩れるように開いたところをちょうど目撃してしまったのだ。

 瞬間、俺は時を忘れた。

 固まり向けられ続けた視線はついに力を持ったのか。木陰で眠る美少女の目がうっすらと開く。
 しかし忘れてはいけない。彼女のその時点での体勢、状況を。 

「ふぁぁぁっ? おはようございま、す……? きゃっ」

 案の定、もたれていたバイクは急な体重移動に耐えられずギリギリだったバランスは崩れ、倒れだす。
 俺がそれに反応できたのは奇跡だったろう。
 すっかり錆び付いてしまった杵柄が奮起したか、倒れ行く少女を前に驚くほどのスピードで飛びつき、支えることに成功した。

「ひゃん!?」
「あっぶね……え? あ、ああ、あああ! す、すみませんでしたァァァ~~~~!」

 意図せぬ接触、何が起こったのか自分でも訳が分からないのだが、俺の手は彼女の腰と、袂に滑り込んでおっぱいを鷲掴みにしていた。
 そのことに気付いた直後、俺は再びの尋常でないスピードを発揮。少女がしっかりと自立したのと同時にすぐさま逃げ出した。
 逃げる俺の背に視線が突き刺さっていた気がしたが、とても振り返ることはできなかった。





~また別のある日~

「あ、あの時の」
「うえっ、そ、その節はどうも申し訳なく……」

 あの後もどんな偶然か町中で、会場で、俺達は何度も会った。
 最初こそ後ろめたくびくついていた俺であったが――

「むぅ。気にしないでよろしいですのに。
 うーん、そんなに許しを欲されるのでしたら……私のことは小蒔とお呼びください。
 私は京太郎様とお呼びさせていただきますので!」

 名前で呼にあうことがいったいどんな謝罪になるのか分からなかったが、
 両の手をきゅっと握って見上げてくる様に押し切られた。
 そんなことがあったからだろうか。
 好きなはずの和や、心配していた咲と神代さんとの対局でも気付けば神代さんを応援している自分がいた。
 見た目で勘違いされやすいが、俺は一途なつもりだった。
 それなのに、俺は和たちではなく神代さんを……。

「京太郎。ぼけっとしてないでちゃんと聞きなさい」
「え、ああごめん。なんだっけ?」
「まったく……。小蒔ちゃん、もう一度言ってあげて。うちは当然オッケーだから」
「はいお義母様。  京太郎様、私神代小蒔は本日よりこちらに御厄介になります。仲良くしてください、ね?」

 熱のこもった視線に、俺は自然と頷いていた。
 こうして、俺だけの夏は始まったんだ――――――――


カンッ