「むう」

ポリポリと、滝見春が好物の黒糖をかじりながら、眼前を見やっている。
一組の男女──須賀京太郎と石戸霞が、仲睦まじく談笑している。

京太郎は時折、霞の胸に視線を遣りながら、緩んだ顔で話しかけ。
霞はその様に蕩けたような笑顔を浮かべて応じる。

(私から見ても見てもお似合いだけど……あれでまだ交際していないなんて……)

内心の呆れも程々に、春は無表情で黒糖をかじった。
穏やかな瞳には、かつての憎悪の煌めきはない。

──結論から言えば、春もまた、京太郎に流された。

いっそ情けないほどに普通でしかなかった彼の末裔は、当たり前のように距離を詰め、当たり前のように蟠りを解かし、当たり前のように友宜を結んでいった。

あの、異様なまでの人心掌握の手練手管。あれこそが須賀京太郎の最大の才だったのだ。──春のように、当初敵意を抱きながらも、結局絆されていった者の数は未だに増えていっている。

神代当主をして魔的とすら言わせるカリスマ性。神境にあっては最早、誰一人として抗うことのない存在へと至ってしまったのだ、あの男は。

立ち上がり、春は歩を進めた。幸せそのものな二人だが、春にも春の想いがある。

彼が奪ったものは数知れない。悪意であったり、邪心であったり、或いは欲望であったり。──心であったり。

春は笑う。力には責任が伴う。やった事には落とし前を付けなければならない。

ならば、彼は自分の、あるいは他の誰か達の、心を奪った責任だって、取るべきだ。霞には申し訳ないが、そこはそれ、厄介な男を捕らまえたモノだと諦めていただく。

(六女仙が一角、滝見の後継、その名にかけて)

──滝見春は、横恋慕へと至った。