遠い昔に縁を切られた筈の、須賀家が神境に舞い戻り半年になる。

同時に、その須賀家の倅、京太郎が鹿児島にて、六女仙であるところの石戸霞のご近所となり、親しく接している事については、同じく六女仙の滝見春も知っていた。

はっきり言ってしまえばいけすかない男だ。容姿も言動も軽薄で、努力もせず、才能もなく、しかも欲望を隠すことすらしない。

春は普段、表に出すことはないが……霞を慕っている。尊敬に値する六女仙であり先輩であり、姉のようにすら思っている。

しかし、最近、そんな素晴らしい霞の周りを、京太郎がうろついているのだ。

しかも、馴れ馴れしく近づき、薄っぺらい愛の言葉を吐き──それがなぜか、受け入れられている。

そう、受け入れられている。少なくとも春の目には、信じがたいことだが、そう見えている。

京太郎の戯言を受けとる霞の顔は常に赤く燃えている。瞳は潤み、吐息は熱く、まっすぐに京太郎を見据えて笑っている。

恋なぞしたことのない春にも手に取るように分かってしまう。霞は、あの女性として巫女として尊敬すべき霞は、あの京太郎なぞに惚れているのだ。

その事実が、春には到底認めがたく。

日増しに積もる疑問と不満は、やがて憎悪へと変わっていった。

忌々しい、須賀のせがれめ。勝手に神代を離れ、勝手にまた引っ付いてきた厚顔無恥の輩、その一族の末裔め。

思い知らせてくれる。路傍の石め。貴様なぞ断じて認めるものか。滝見の後継、六女仙が一角たる我が名にかけて。

須賀京太郎、貴様を、貴様ら一族を、この地より再び追放してくれる!

──かくして春の暗躍は始まったのだ。