インハイ決勝前夜。私は昂ぶったのか眠れなくて、少しだけ宿舎を抜け出した。
和ちゃんが「私も付いていきましょうか?」って言ってくれたけど、なんだかそういう気分じゃ無かった。

東京でも夜は少しだけヒンヤリしている。…やっとお姉ちゃんに会えるんだ──そう思えば余計眠れそうになかった。
突然ほっぺたに冷たい物が当たる。

咲「ひゃっ…!って京ちゃん何してるの…」

京太郎「わりぃわりぃ、なんか辛気臭い顔で外に出たから気になってよ。ほら、まだ暑いんだからこれでも飲んどけ」

咲「辛気臭いって…まぁでもありがとうございます!」

そう言ってくれた缶コーヒーを飲み干す。

京太郎「そんなに喉渇いてたのか?」

咲「そんなわけないよ!」

それから少しだけ談笑する。京ちゃんの中学時代のこととか、麻雀部での散々な日常を。気づけば麻雀部に連れてこられたことも。

咲「あのさ…京ちゃん。今までありがとね」

京太郎「何だよ急に」

咲「…だってあれだけ買い出しとか雑用とかやってくれているのに、私はまだ恩返しすら出来てないよ…。嫌いだった麻雀も、元を正せば京ちゃんが無理矢理連れてきてくれたお陰だもん…。だから…!」

言っていて涙が出そうになる。京太郎に見られたくない、その一心で必死に堪えようとすると、頭をぐしゃぐしゃ撫でてくる。

京太郎「ばっか、何年お前の幼馴染みやってると思ってるんだよ。俺に負担をかけたきゃお前を五人ほどつれてこいって!恩返しなんて良いよ、咲が明日頑張ってくれたらそれでいい」

その言葉は私の心を溶かした。顔は涙で濡れ、抑えようとしても嗚咽が出てくる。
泣いている間、頭のぐしゃぐしゃは続いていたけど、それを心地良く受け入れていた。

数分してやっと話せるようになる。

咲「ぐすっ、ありがとう…京ちゃん…明日も、これからもよろしくね」

京太郎「おう、俺に任しとけ!…って、もうこんな時間か。咲帰り道分かるか?」

咲「もちろ…ってここ何処、京ちゃん?」

京太郎「はぁ…どうせそんなことだと思ったよ!…ほら、手出せ」

咲「こう…?」

力強く、大きな手が私の手を包んだ。

京太郎「エスコートしますよ、お嬢様」

咲「…うん!」

明日はインターハイ決勝戦。今は隣に力強い味方がいる、みんながいる。いつの間にか涙に濡れていた顔は、笑顔に変わっていた。

───咲と決勝前夜 完