熱い夏の季節。
インターハイ会場のある東京の街を京太郎は軽快に走る。
元は咲達の応援として雑用や応援の為付いて来たのだが、ずっと一緒に居るわけでもない。
むしろ雑用をこなせば暇になるわけで空いた時間を使い走ることにした。

「長野と違ってあっつ」

夏という事もあり、日課のランニングを早朝に行なうも長野と違い、朝から熱い東京に少し眉を顰める。
早朝だというのに人も多く、長野とは違った賑わいを見せていた。

「よっと」

そんな道を走り、途中で最後とばかりに大きく一歩を踏み込み止まる。
止まれば、持って来ていたペットボトルを取り出し、ぐいっと一口飲んだ。
冷たく少し凍ったスポーツ飲料が口、食道を通り抜けお腹へと入る。
少しばかり冷たくし過ぎたのか、食道を通る際に少しばかり身悶えた。

「った~~~! 冷た過ぎた」

冷たさで痛む胸を押さえ、京太郎は暫し一人で軽く笑う。

「ってあれ?」

そんなことをして一人早朝のランニングを楽しみながら、辺りを見渡していれば異常に気付いた。
走ってる人や通行人の中に一人の少女が木陰で辛そうにしている。
それが目に入った。

少女は京太郎と同じく、スポーツウェアに身を包んでいる。
髪の毛は緑色で鶏冠のようにハネた前髪が特徴的だ。
それに加え顔はすっきりとした顔立ちで眼鏡が良く合い、少女にしては身長が高い。

「……ってやばい!」
「あっ……」

少女を見ていれば、ふらりとその子が倒れそうになる。
それを見て京太郎はすぐに足を其方に向け少女を片手で抱きとめた。

「……飲み物は?」
「財布、忘いて」
「なら……これ」

少しふらついている彼女を見れば、顔が少し赤い。
頬を染め、荒い息を吐く少女はどう見ても熱中症のように見えた。
少し失礼と思ったが腰などを見て飲み物を持ってないのか確認しないと分かれば聞いた。

聞けば財布を忘れたらしく情けないとばかりに軽く微笑む。
そんな少女に京太郎は自分の飲みかけであるスポーツ飲料を渡した。

「よか?」
「よ……?」
「あっ、いいの?」
「構いません」

彼女の口から出てきた言葉に少し面を喰らうものの、彼女の訂正で方言だと分かる。
特にそこにはつっこまず、京太郎が飲み物を渡せば少女は嬉しそうに飲み物に手を付けた。

「ありがと……少し楽になった」
「いえ、お役に立てて良かったです」

近くの椅子に座り込み互いに顔を改めて合わす。
軽い症状だったらしく、彼女はすぐに調子を取り戻し問題なさそうに見える。
そんな彼女に京太郎はほっとし、前の少女と会話を続けることにした。

「私は安河内 美子。新道寺ん三年生」
「新道寺……あぁ! 思い出した、次鋒の」
「うん、あまり活躍出きんかったけど」

言われて思い出す。
Aグループ準決勝で活躍した新道寺の次鋒だと見たことあると……。

「俺は清澄の一年生の京太郎です」
「清澄?」
「ははは、応援や雑用ですけどね」

そのことを思い出し、京太郎もまた自己紹介をする。
自己紹介をすれば、美子は少しばかり不思議そうに首を傾げた。
京太郎自身、大会で活躍したわけでもない。
しかし京太郎の高校は現在ダークホースとして大会を暴れまわっている為有名だ。
そんな有名な高校と男子の自分が合わなかったのだろうと京太郎は判断した。

その事に少しばかり胸が別の意味で痛むも笑みを浮かべた。

「偉かね」
「え?」
「応援は大事やけん。してもらっとほんなごて頑張れっ」
「……」
「雑用もそう。すっ人が居るから時間に余裕が出来っ」
「……」
「不貞腐れず、相手ば思って出来っ須賀君は偉かね」

そんな京太郎に美子は微笑み、飲み物を口に含んだ。
京太郎は美子に視線を向けるも次第に言われた事に気付き唖然とした。

「そんな風にとられると思ってなかったです……俺はただ」
「無意識?」
「はい、負けて悔しくて……それでも咲達はずっと前に進んで」

美子がゆっくりと立ち上がるも京太郎は胸の中の言葉を吐き出すように続ける。

「それで……そんな咲達が眩しくて……俺にも何か手伝えないかと」
「……よしよし」
「あ……はは」

美子は京太郎の頭に手を伸ばし優しく撫でる。
それを京太郎は受け入れつつもじんわりと胸が温かくなるのを感じた。
自分を評価してくれる人がいる。
それが凄く嬉しく、自然と笑みがこぼれた。

「……ありがとうございます」
「ううん、思った事言っただけやけん。むしろ助けてもらったんはうち」

既に氷も解け、飲みやすくなったペットボトルを美子が軽く振るった。
ちゃぼんと軽く中身が揺れる。

「あっ……」
「っと……ホテルに戻った方がいいですね」
「ごめんね?」
「いえ、問題ないですよ」
「ありがとう」
「此方こそ」

ふらっと体も揺れる美子に京太郎は肩を貸す。
そして互いに少し微笑み、今日何度目かのお礼を互いに言い合った。
その後、事の事情をホテルに戻り話せば「間接キスですね!」と言われて互いに顔を真っ赤にし、視線を逸らした二人が居たとか。

カンっ!