「俺たち、付き合うことになりました!」
それはきっと、私がこの世で一番聞きたくない言葉だった。
夏休みも終わって、新学期を迎えた阿知賀麻雀部。
心機一転、気持ちを切り替えて部活の準備をする私たちの前で、京太郎はそういった。
その隣には、私たちがよく知る一人。恥ずかしそうに俯いている。
ああそうなんだ、と私は他人事のように納得した。
あっさりと、私、新子憧の初恋は終わってしまったのだ。
思えば、その兆候は確かにあった。
私と同じように、京太郎を追いかけるもう一人の目があった。
その頃から、京太郎のことが気になっていたんだろう。
付き合うきっかけになったのは、多分IH。
私の知らない何かがあって、あの二人は結ばれた。
私から見ても、二人はお似合いだと思う。
きっとお互いに支え合って、幸せな関係を築いていくんだろう。
そんな二人を見て、けれど、それでも。
未練がましく、色々な考えが、頭に浮かんでは消えていく。
――思えば、あのとき。
放課後の部室で、不意に二人きりになったとき。
――思えば、あのとき。
一緒になった帰り道で、他愛のない話で盛り上がったとき。
――思えば、あのとき。
偶然手が触れ合って、お互い照れくさそうに顔を逸らしたとき。
この想いを、告げてさえいれば。
あいつの隣に立っていたのは、私だっただろうか。
「京太郎」
「おう」
「……おめでと」
「へへ、サンキュー憧!」
胸が痛い。
息が苦しい。
笑顔を貼り付けた顔の下で、叫び出したい衝動が渦巻いている。
私も京太郎のことが好きなんだって、ここで全て曝け出してしまいたい。
でも、そんなことはできなかった。
こんな状況になっても、私は相変わらず臆病者だ。
そんなことをして、京太郎との関係が壊れてしまうことが怖くて。
それ以前に、未だにこの気持ちを口に出す勇気が私にはない。
みんなが二人を祝福している。
私はただそれを眺めている。
気遣うような視線が、横から送られてくる。
私はそれに気づかないふりをする。
和気藹々とする空間の中で、ひっそりと、音を立てずに。
私の想いは、その行き場を失った。
カンッ
最終更新:2016年10月10日 00:11