咏「いよいよだねー」

京太郎「はい」

咏「小鍛治プロと打つの、初めてじゃないんだ」

咏「一回目は高校卒業してプロになって直ぐの頃」

咏「あの頃は向こう見ずのはねっかえりでね? プロになっても連戦連勝でそれに発車がかかっちゃって」

咏「国内無敗の小鍛冶プロと打つために何度もアポ無しで尋ねていって」

咏「ボロッボロの大負けで帰ることになったよ」

咏「しばらくは牌握ることすらつらくって連戦連敗。マスコミからは叩かれまくったんだ」


咏「まあ、それでも必死でがんばってね」

咏「ただひたすら打って、ランクも上げて行って、世界戦の先鋒にしてもらって」

咏「少しずつ調子が戻ってきた。……けどね、どうしても牌を握るとあの負けを思い出しちゃってね」

咏「ある日、たまたま小鍛治プロと出くわしてさ。また勝負を挑んじゃった」

咏「この恐怖は、この人を倒さない限り続くんだって考えちゃってね」

咏「……負けちゃったけど」


京太郎「麻雀、やめたいと思わなかったんですか?」

咏「思ったよ。むしろ、いまでも思ってる」


咏「京ちゃんと初めてあった日がさ、小鍛治と二回目に打った日なんだよ」

咏「人がもう麻雀やめると思ってるところに、色紙持ってきてサインしてほしいって空気読めないことするからさぁ」

京太郎「……平手で叩かれましたよね、俺」

咏「えーわっかんねー? 覚えてないなー」

京太郎「えー……」

咏「うそうそ。ごめんね、あの時は痛い思いさせて」

京太郎「ほんとビビりましたよ」

京太郎「叩かれたと思ったら、目の前でわんわん泣かれて警備員の人に取り押さえられるし……」

咏「し、知らんし! そんな泣いてないし!」プイッ

京太郎「ちょー涙目でしたよ。あの時の咏さんの泣き顔はかわいかったなぁ……」

咏「うっせ!」ゲシッ

京太郎「痛いっ!?」


咏「……京太郎」

京太郎「はい」

咏「勝ったらさ……キス、しよーぜ」

京太郎「はい、絶対ですよ」

咏「……うっし! 気合入った、行ってくるわ!」


咏「お久しぶりです、小鍛治プロ」

健夜「こんにちわ、咏ちゃん」

咏「……三度目の正直って言葉があるじゃないですか」

健夜「……今日が三回目だね」

咏「勝たせてもらいますよ、私が」

健夜「私も、絶対負けないよ」


咏「そうだ……一つ約束しませんか?」

健夜「約束?」

咏「はい。……私が勝ったら、一線に戻ってきてください」

咏「私と一緒に並び立って、世界相手にドンパチやりましょう」

健夜「な、なんだかプロポーズされてる気分だよ」

咏「あ、私はノンケなんで」ノーサンキュー

健夜「私もそんな趣味ないからね!?」


咏「それに……そっちの相手はもう見つけてまして」

健夜「いいなぁ……」

咏「あげませんよ? まあ、小鍛治プロに勝たないと話が進まないんですが」

健夜「それは……祝福してあげたいけど、負けてはあげられないなぁ」

咏「ご祝儀は自分で掻っ攫うんで、大丈夫です」

良子「……あのー、そろそろ始めていいですか?」

照「…………」コクコク

健夜「あ、ご、ごめんね? 親決めよっか」アタフタ





咏「うし……小鍛治プロが起家で、私がラス親か」

咏「幸先いいなー。10万点持ちの変則ルール、トぶ心配もしなくていいしね」

健夜「……違うよ、咏ちゃん」

咏「は?」
        チーチャ
健夜「私が起家で――ラス親だよ」


解説『……一方的な展開だな』

アナウンサー『起家の小鍛治プロが連続和了! ここまで七連続和了で他家を一歩も寄せ付けません!』

アナウンサー『国内最強、小鍛治健夜! 一線を退いたいまでもまったく衰えを感じさせません!』

アナウンサー『そして東一局・七本場に突入です! このまま誰かのトビ終了となってしまうのか!?』

解説『あれほど気合の入ってる小鍛治さんは久しぶりに見るな』

解説『ただ……これで終わるとは思えないが』


京太郎「咏さん……」




咏(やっばいな……マジでこの人、東一局で終わらせる気だ)

咏(私はまだ三向聴。対面が中の特急券作ってはいるけど……)

健夜「リーチ」

咏(これに振り込むわけにはいかない)

咏(……わっかんねーけど、これかな)

健夜(ど真ん中……)

良子「ロン、3100」

咏(これで4位……でも親は蹴ってもらえた)

咏(こっちの親番はまだ二回もあるんだ――そこでまくる)





咏「――ツモ、8400オール」

咏「……上がりやめさせてもらいます」ペコッ


アナウンサー『試合終了! 三尋木プロがラス親で連荘!』

アナウンサー『小鍛治プロをまくってトップで終了しました』

アナウンサー『そしてここに、小鍛治プロの無敗伝説が打ち破られましたー!』


健夜「おつかれさま、咏ちゃん」

咏「ありがとうございます、小鍛治プロ」

咏「へへっ……小鍛治プロの初めて、もらっちゃいましたね」

健夜「なんでそのワードチョイスなの!?」

咏「いやぁ……ちょっとこれから、私の初めてもささげてきますんで」

咏「――京太郎!」




咏「勝ったよ、京太郎」トテトテ

京太郎「おめでとうございます、咏さん」

咏「じゃ、勝ったし……ちょ、ちょっと屈んで」ドキドキ

京太郎「こ、ここでするんですか?」

咏「いいじゃん! ドラマとかでよくやってるし、皆に見せ付けたいの!」グイグイ

京太郎「ちょ、カメラまわってますって……っ!?」


良子「ひゅーひゅー、おあついですねー」

健夜「わ、わ……咏ちゃん大胆すぎだよ~」

照「…………」チラッチラッ

良子「なんでこの二人は手のひらで顔隠しながらチラチラ隙間から覗いてるんですかね」


京太郎「……お、俺、はじめてだったんですよ?」

咏「へへ……おそろいだねぇ」


咏「よし、京太郎! 結婚しよ!」

京太郎「け、結婚? 飛躍しすぎですよ!」

咏「そんなことないし! デキ婚だもん」

京太郎「……デキ婚?」


咏「いまキスしたし、確実に子供できちゃってるし!」

京太郎「は……? なんでもう子供できちゃってるんですか?」

咏「え? だ、だって、キスしたら子供できるじゃん?」

照「…………」コクコク

良子「え、できませんよ。何勘違いしてるの、この二人」

健夜「その理屈だと恋愛ドラマはやばいよ……」


咏「え、え? う、うそだよね、京太郎……」オロオロ

京太郎「ところがどっこい……ウソじゃありません……!」

照(そ、そうなんだ……!)ズコーン