記者会見会場 


 局アナ「○○さん、三尋木プロと須賀プロが今入ってきました!」

 局アナ「信じられません。二人は手をつないで一緒に歩いています」

 局アナ「席に着きました。これから会見が始まるようです」


  カメラのフラッシュがたかれ、俺と咏さんの姿がいくつものカメラに

 収められる。

  後悔はある。だが、自分のしたことにはけじめをつけなければならない。



  かつて麻雀プロとして活動していた時は、こんなに大きなホールで

 たくさんの記者に囲まれることは一度もなかった。

  麻雀ではなく、スキャンダルでここに立ってしまったことは一生

 忘れられないだろう。


 司会「では、これから須賀京太郎さんの謝罪会見を開きたいと思います」

 司会「記者の皆様は質問の時間まで静かにお願いします」


  無機質な司会者の声に促され、俺は立って深く頭を下げた。

  一際大きなシャッター音がホールに鳴り響く。



 京太郎「このたびは」

 京太郎「私の軽率な行為で、多くの方にご迷惑をおかけしたことを」

 京太郎「深く、お詫びさせていただきます」

  一言一言区切るようにして、ようやく謝罪の言葉をひねり出した。

  言い終えた途端、猛烈な立ちくらみに襲われた俺は、後ろの椅子に

 どっ、ともたれ込むようにして落ちるように席に座った。

 京太郎「ぁっ...ぁ」

  めまいが止まらない、舌が回らない。まるで水の中にいるようだ。

  もがき苦しんでいるのに、誰も手を貸してはくれない。

 京太郎(これが、罰なのかな...)

  ユキも今頃緊急謝罪会見を開いている筈だ。

  たぶん俺よりも何倍も苦しい窮地に立たされ、それでも必死に俺を信じて

 耐えて耐えて、耐え続けているだろう。

 記者1「おいっ!なに、黙ってやがんだよっ」

 記者1「何かしゃべれやゴルァ!」

 記者2「所詮は男芸者ってことよ、情けねぇ」

  頭が真っ白になった俺にかまうことなく、一ヶ月は飯の種に困らない

 金づるのケツをひっぱたこうとする心ない記者の当然の罵倒が、無秩序

 という名の濁流と共に一斉に俺と咏さんめがけて押し寄せてきた。

 司会「みなさんお静かに願います!」

 司会「これより質問時間に移らさせていただきます」

 司会「なるべく穏便に、和を乱さずにお願いします」


  次の瞬間、俺の目の前にタケノコがにょっきりと瞬時に生えだした。

  黒いもの、ベージュのもの、グレーのもの。

  よりどりみどりのバーゲンセールのタケノコ達は俺の手に取られようと

 必死になって激しく露骨なアピールを始めた。

  もっとも、どれも年を取り過ぎて、まともに扱えたものではない。


  司会者はなれた手順で次々に記者を指し当てる。

  まず最初に大手の新聞記者、その次に週刊紙、三番目にフリーライター。

 という感じで、彼らが抱いた疑問に対して、俺は回らない頭でそれでも

 皆に迷惑がかからないような当たり障りのない答えで対応した。


 司会「では、週刊○○の○○記者、どうぞ」

 記者1「どうも、○○です。須賀プロにお伺いしたいんですけどね」




 記者1「牌のお姉さんのえーっと真屋由暉子さんでしたっけね?」

 記者1「彼女の事務所が、須賀プロに前から言い寄られて困っているってね」

 記者1「ウチの雑誌のインタビューで言ってるんですよ」


  意図の見えない質問に見え隠れする最悪の悪意。


 記者1「そしてほら、私はお世辞にもイケメンじゃありませんしね」

 記者1「だから、教えて下さいよ」




 記者1「どんな気持ちで、牌のお姉さんと二股かけてたんですか?」




 京太郎(答えられるわけ、ねぇじゃねぇかよっ...!)


  元々、咏さんに隠れて続けてきた不義の関係だ。

  いくら口で俺がユキのことを愛しているといっても、それが世の中世間様に

 受け入れられることは絶対にない。

  それを理解している上で、この男は...

  これを皮切りに、いよいよ記者達は俺とユキの赤裸々な浮気の核心へと

 土足で踏み込んできた。


 記者2「三尋木プロは貴方の師匠ですよね?」

 記者2「恩人を騙して、裏切って浮気したのはどういうつもりなんですか?」

 記者3「貴方のせいで牌のお姉さんという職業が汚れたんですよ?!」

 記者3「はやりさんやその前の人たちに対して、何か謝罪はないんですか?」

 記者4「これから再就職するご予定はあるんですか?」

 記者5「チームメイトに何か一言お願いします」

 記者6「須賀プロは責任とって引退するおつもりですか?」



  もう、何もかも放り出して逃げ出したい。

  どうしてユキを追い詰めた連中がのうのうとしていて、そいつらに

 苦しめられていたユキを支えた俺がこんな目に遭うんだよ。

 京太郎(もう...勘弁してくれよ...)

 京太郎(俺、そんなに悪いことしたのかよ...)

  耐えられなくなった俺は、席を立ち、この場から逃げようとした。

  しかし、



 咏「...よっしゃ」


  聞き取れない声だが、確かに咏さんの声が聞こえた。

  怒濤の質問攻めを扇子で扇いで受け流していた咏さんが、ここでようやく

 その口を開いた。


 司会「三尋木プロ、なにかお話ししたいことがおありですか?」

 咏「まぁねぃ。でも、その前にこいつに一言言っておきたいのさ」

  一瞬で沈黙した記者達は、俺に向き直った咏さんと俺にその眼差しを向け...

 咏「てぃっ!」

  ばちんっ、

  咏さんは何の予告もなくたたんだ扇子で俺の頭を叩いた。

 咏「なっさけないねぇ、京太郎」

 咏「お前とお前が好きな女が苦しんでるのに、黙って終わる気かい?」

 咏「あんま腑抜けたことしてると、アタシもあの子も逃げちまうぜ?」

 咏「お前よりか弱い女が、自分を張って戦ってるんだ」

 咏「そろそろ格好いい所見せろよ、構わないぜ?なぁ」

  不敵な笑みを浮かべた咏さんの笑顔に、俺は衝撃を受けた。

  今まで何を俺はしていたんだ?

  今日ここに来たのは、何のためなんだ?

  麻雀を続けるため?違う

  咏さんやユキの名誉を傷つけないため?いや、それも違う。

  答えはもう出てる、だけど...それは一番最初に俺が否定した筈だ。


  だって俺は、


  咏さんとユキのことを、愛している。



 咏「ま、もうちょっとしたら面白いもの見せたげるからさ」

 咏「そのときが来るまで、京太郎に相手してもらいなよ、マスコミ諸君」



  再び広げた扇子で口元を隠しながら、咏さんは正面を見据えた。



 咏「行ってこい♪男の子」



 京太郎「...ありがとうございます。師匠」


  ようやくここで俺は、腹をくくることができた。

 京太郎「記者の皆様、先ほどはお見苦しいところをお見せしてしまいました」

 京太郎「ただ今から、順を追って質問された方の質問に返答したいと思います」


 京太郎「まず一つ目の質問の答えですが...」


 京太郎「この須賀京太郎は、真屋由暉子さんを愛しています」

 京太郎「同時に、俺の師匠である三尋木咏さんも愛しています」



  俺の出したとんでもない暴答に、一瞬で記者達が噴火した。



 京太郎「先ほど、記者1さんはどんな気持ちと聞きましたよね?」

 京太郎「勿論、純粋に彼女を愛している、とお答えしましょう」

 京太郎「逆に、それ以外の理由が必要ですか?必要ないですよね?」


 記者1「何を馬鹿なことを、言っているんだ?お前」



  いままで追い詰めていたネズミが、壁に追い込まれた途端巨大な虎へと

 変化したかのように、俺は生き生きしながら次々に質問に答えていった。


 京太郎「次に、牌のお姉さんという職業を汚したとおっしゃっていましたが」

 京太郎「別に牌のお姉さんは、汚れていないと思います」

 京太郎「歴代のお姉さんは俺みたいな奴に汚されるような人達じゃないですし」

 京太郎「汚れているように見えているのは、貴方方の目が汚れているんですよ」


 記者2「そこまで貴方が言い切れる根拠は何ですか?」


 京太郎「決まっているじゃないですか?」


 京太郎「牌のお姉さんは誰よりも泥にまみれて、誰よりも華がある人達ですから」


 京太郎「再就職はまだ分からないので、これから考えます」

 京太郎「チームメイト達には後で土下座して一言ずつ謝るつもりです」

 京太郎「引退するかどうかは、ノーコメントで」


  これから事態がどう転ぶにせよ、悔いが残ったまま終わらずに済んで

 良かった。

  こんなどうしようもない俺に最後まで機会を与えてくれた咏さんに

 俺は感謝してもしきれない。


 京太郎「咏さん。終わりました」

 咏「おう、やりゃできるじゃねぇか」

 咏「あとはアタシに任せな」

  有無を言わさずに記者達の喧しい批判をシャットダウンした司会は

 今度は咏さんに向かって話しかけた。

 司会「では、これにて須賀京太郎プロへの質問を打ち切らせていただきます」

 司会「次に、三尋木咏さんのご意見を伺わせていただきたいと思います」


  うるさく喚く記者達をぴしゃりとした一喝で黙らせた司会...針生えりさんに

 咏さんは感謝の眼差しを向けながら、訥々と話し出した。


 咏「いやぁ~、参っちゃったね~」

 咏「アタシさ、京太郎の師匠だったのにコイツのことが大好きだったんだ」

 咏「けどさ、京太郎の奴浮気してやんの、マジで腹が立ったねぇ」

 咏「それもさ、二年間もだよ?ありえなくね?」

 咏「ま、最初から全部知ってたうえで泳がせておいたんだけどさ」


  今明かされた衝撃の真実に、この場にいる誰もが絶句した。


 記者4「では、やはり許せないと?」

 咏「あん?誰だお前?っていうかさー、何様のつもりだよ」

 咏「二人とも許すに決まってるだろーが、バカヤロー」

 咏「あっ、ちなみに京太郎は解雇しないし、引退させないから」

 咏「再就職するのだって許さねーし」

 咏「牌のおねーさんが汚れてようが、汚れていまいがそんなの関係ねー」

 咏「アタシの隣に京太郎、京太郎の隣にユキちゃんがいる」

 咏「京太郎の浮気行為の落としどころなんて、こんなんでいいじゃん」

 咏「あんたらの下らない質問につきあってあげたけどさー」

 咏「まだなんか、他に言いたいことある人いるかね?」


  この瞬間。全ては咏さんの完全な支配下におかれた。

  塵の一つでさえ咏さんが命じれば、即座に舞い上がるように完璧な

 統率による秩序がこの場にできはじめていた。


 咏「んじゃ、これで謝罪会見おしまい。ということで良いかねぃ?」


  京太郎の浮気を完全に咏が許してしまったため、これ以上の詮索をしても

 何も出ないとあきらめた記者達は、記事を書くために会社へ戻る準備を始めた。

  しかし、こんな所で終わる三尋木咏ではなかった。


 司会「えー、この中に**テレビの関係者はおられませんか?」

  カメラのフラッシュが焚かれる中、場違いな司会の声が聞こえてきた。

 咏「ちょっとさー、そこのテレビの報道席にいる人と話したいのさ」

 咏「ああ、テレビ局の人っすか~。ちょっと中継つないでよ」






 咏「うん、そこにいるっしょ。小鍛治さん」





  まだ帰ろうとしない、咏と京太郎をいぶかしんだ記者達がホールから

 退室しようとしたその瞬間、今まで何も働いていなかったプロジェクターに

 昨日の喫茶店の映像が映し出された。


 京太郎「う、咏さん」

 咏「誰が、私のかわいい京太郎に、色目を使ったんだい?」


  そこには無編集のまま、赤裸々に昨日のやりとりが映し出されていた。


 すこやん「ううん、違うの違うの。今日はね...」

 すこやん「私の京太郎君を返して欲しいかなーって、相談に来たの」

 京太郎「咏さん、俺...俺」

 咏「だから言ったじゃんか、すこやんには気をつけろよって」


  この瞬間、世論は須賀京太郎の事を綺麗に忘れた。


  プロジェクターに映し出された光景と共に、記者達のポケットの中の

 携帯電話が一斉に鳴り響く。

 京太郎「健夜さん!最初から、約束なんて...」

 すこやん「私的には今からでも遅くないかなーって思うんだ」

 すこやん「ユキちゃん、信じてたよ?」

 すこやん「いざとなったら私が全部京太郎君の分まで罪をかぶりますって、さ」

 京太郎「ううっ、こ、このっ...悪魔!」


  先ほどまで自分が糾弾していた相手が、全くの無実ではないものの

 二股をかけていた時とは比べものにならない悪事に組み込まれている。

  須賀京太郎を叩くよりも、もっと大きくて叩き甲斐のある小鍛治健夜

 という新たなターゲットを見つけたどう猛なピラニア達は我先にへと

 健夜がうっかり作ったそのかすり傷めがけて食いつき始めた。

 健夜「咏ちゃん...名誉毀損罪だよ。これ」

 咏「よぉ、すこやん。こっちはいま揉め事の真っ最中だよ」  

  ようやくテレビ局に中継がつながったと同時に、物凄い形相を浮かべた

 健夜が咏をにらみつけていた。

  プロジェクターには地位も名誉も全部投げ捨てんだよの場面が映し出され

 歪なすこやんスマイルが全国生中継で映し出されていた。


 咏「どうしたよ?あのうるさいどっきりアナウンサーは」

 健夜「こーこちゃんに手ぇ出したら、分かるよね」

 咏「安心しな、何も絶対にしないから」

 健夜「よかった...」

 咏「でさ、昨日の話どうよ?有言実行が好きなアタシとしちゃ」

 咏「もうルールもなにもかも整えて今か今かと待ってんだよね」

 健夜「今ならまだ間に合うよ?私に謝ろう?笑って許してあげるからさ?」

 咏「道徳の時間じゃねえんだよ」

 咏「ベソかいて被害者気取りで澄ましてんじゃねェ!」

 健夜「本気なんだね?本気で私を潰しにかかるんだね?」



 咏「勝負を受けるか、受けないかを答えろってんだよ!なぁ小鍛治ィ!」



 健夜「ずっと目障りだったんだよ。咏ちゃんさぁ」

 健夜「大して強くないくせにしゃしゃり出てきて大将風吹かせてさぁ」

 健夜「おかげで、だいぶ予定が狂っちゃったよ」




 健夜「いいよ、全部の上に命も上乗せして麻雀やろうか」

 健夜「京太郎君、咏ちゃんと短い間だけどお幸せにね?」


  ~~~~~~~~~


  長かった記者会見が終わった後、咏は京太郎の家にいた。

  家に帰るなり、京太郎は咏に抱きつき、今までしたことのないような

 熱いキスを咏の小さな体に何度も刻みつけた。


 京太郎「咏さん...」

 咏「京太郎...///」


  上気した頬と潤んだ瞳を向ける咏の口をふさぎ、京太郎はひたすらその体を

 むさぼり続けた。

 京太郎「咏さん、俺最低な男です」

 京太郎「ユキと不倫するとき、咏さんと天秤にかけたんです」

 京太郎「あのときだって、俺をかばうためにわざと...」

  一番隣にいたからこそ分かる、彼女の真意とその心の慟哭に京太郎は

 侘びることしかできなかった。

 咏「どうしてだよぉ...京太郎...」

 咏「どうしてアタシだけを見てくれないのさ...」

  平然としていられるわけない。平気でいられるはずがなかったのだ。

  なけなしの勇気を振り絞り、ただの虚勢で最後まで突っ張っていただけ。

 咏「悔しいよぉ...悲しいよぉ...」

 咏「一番好きな男の気持ちが半分しかアタシの中に無いなんて...」

 咏「あんまりだよぉ...」

  京太郎以上に頑張った咏の慟哭に比例するように、その涙の量も京太郎が

 流したものとは桁違いに多かった。

  それに咏には、これから小鍛治健夜との戦いも控えている。

 京太郎(許してください...咏さん)

  虚しく響く、形だけの優しい嘘を言う権利も、京太郎は失った。

 咏「どうしてなのさ、京太郎のこと好きになれば好きになるほど...」

 咏「どんどん京太郎と一緒にいるのが辛くなるんだよ...?」

 咏「一緒にいるのがこんなに辛いなら、もうさよならさせてよ...ね?」

 咏「きょうたろぉ...もう、もうアタシはこんなの耐えられない」


  遂に訪れた咏の限界。

  果たして京太郎はどんな答えを出すのか?

  次回、感動のフィナーレ!