とある喫茶店で


 咏「京太郎、お前は誰の恋人なんだ?」

 京太郎「咏さんの、恋人です」

咏「うんうん。そうだよな」

 咏「今日までお前の面倒を見てきたのは誰かね?」

 京太郎「う、咏さんです」

  震える声で自分の詰問に答える青年を見やりながら、咏は悩んでいた。

  京太郎が大学卒業したと同時に麻雀の世界に足を踏み入れたと同時に

 咏が京太郎を拾い上げ、手塩にかけて五年もの間大切に育て上げてきた。

  大変なこともあったし、嬉しいこともいっぱいあった。

  しかし、結婚を考え始めたとき、京太郎は自分に別れを告げてきた。

  自分の身体的魅力も理由の一つだろうが、それ以上に京太郎を溺愛している

 咏にとって、今一番知らなければならないのは...

 咏「で、誰なんだい?」

 京太郎「う、咏さん」

 咏「誰が、私のかわいい京太郎に、色目を使ったんだい?」

 京太郎「い、いえません」

 咏「はやりん?えりちゃんか?それとも宮永姉妹か?」

 咏「ま、京太郎が言わないなら」



 咏「アタシが直接、ソイツをぶっ潰すから」



 咏「京太郎はわたさねー。逃げられると思うんじゃねーぞ」

 咏「なぁ...」  

  からん、と扉が音を立てて誰かが入ってきた。







 咏「すこやん」






 すこやん「...咏ちゃんってばこんなところで奇遇だね」

 咏「おー。小鍛治さんちっす。なに、なんかのロケなの?」

 すこやん「ううん、違うの違うの。今日はね...」



 すこやん「私の京太郎君を返して欲しいかなーって、相談に来たの」

 京太郎「咏さん、俺...俺」

 咏「だから言ったじゃんか、すこやんには気をつけろよって」

 すこやん「どういう意味かな、それ?」

 咏「はっ、頭の中が芥子畑でも悪知恵は回るみたいだねぃ」

 咏「あたしより小さい巨乳女を京太郎にあてがって籠絡して」

 咏「うまいことはやりん脅して引退に追い込んで、京太郎をゲット」

 咏「んで、京太郎の口から私を捨てさせると言うことを言わせてからの」

 咏「アタシの弱みの京太郎と牌のお姉さんのスキャンダル流出」

 咏「よくもまぁ、そんなゲスい事を次々考えつくもんさね」

 すこやん「いや~、全部咏ちゃんには見透かされてたか~」

 すこやん「ここで咏ちゃんが京太郎君を振っていれば、状況は変わったのに」

 すこやん「これ、みてごらんよ」

  すこやんがテーブルに放り出した、明日発売の週刊誌。その見出しには

 京太郎と由暉子の赤裸々な密会の様子が鮮やかにすっぱ抜かれていた。

  これが明日の発売日に発売されれば、男子プロの京太郎はおろか、京太郎を

 愛する咏も、牌のお姉さんを襲名してからまだ二ヶ月の由暉子のアイドル生命も

 全て断ち切られてしまう。

  だからこそ、すこやんは余裕綽々で咏と京太郎を脅している。

 京太郎「健夜さん!最初から、約束なんて...」

 すこやん「私的には今からでも遅くないかなーって思うんだ」

 すこやん「ユキちゃん、信じてたよ?」

 すこやん「いざとなったら私が全部京太郎君の分まで罪をかぶりますって、さ」

 京太郎「ううっ、こ、このっ...悪魔!」

  悔しさに歯ぎしりする京太郎と、それをせせら笑うすこやん。

  だが、それでも三尋木咏は動じない。

 咏「おっし、分かった。京太郎、お前この世界から足洗え」

 京太郎「...はい、分かりました。いままで」

 咏「待てよ、人の話は最後まで聞けよ。まだ終わっちゃいねーんだからさ」

 すこやん「どういう意味かな?」

 咏「私も一緒に頭下げる。って言えば分かるだろ?」

 すこやん「?!そんなことしたって...」

 咏「負の連鎖から抜け出せねぇってか?甘く見るなよ」

  不敵な笑みを浮かべる咏の目論見に気がつく健夜。

  しかし、一度点火した圧倒的火力の異名を持つ咏がこんな所で

 その炎を鎮火するなどあり得なかった。

 咏「すこやんよぉ、自分の全部をかける大博打の時間が来たぜ」

 咏「明日の記者会見でアタシも首を賭ける」

 咏「死なば諸共って奴さ。地位も名誉も全部投げ捨てんだよ」

 咏「アンタはキャリアと自分を応援してくれるファン、そして相方」

 すこやん「咏ちゃんは京太郎君とチームと全てのコネクション」

 すこやん「信じられない...なんて、なんて馬鹿な選択肢を」

 咏「選ぶさ。二兎を追って二兎を獲るのがアタシ達なんだからさ」

  すこやんの顔が歪にゆがむ。

  第一線を退いてなお、京太郎を手に入れる邪魔をしたかつての

 戦友を屠ったときでさえ、顔色一つ変えなかったすこやん。

  しかし、今の彼女が感じているのは間違いなく歓喜だった。

  ようやく自分が全力を出しても壊れることのない不倶戴天の仇敵。

  その域まで達した相手が進んで死合を申し込んでくるのだ...

  断る道理も、逃げる理由もない。

  いまはもう色あせた無価値な栄光を捨ててまでも、この勝負は

 それ以上の興奮をきっと自分にもたらしてくれる。

  その歓喜に応えるように、すこやんの異能もその暴威を更に

 圧倒的な領域へと急速に昇華していった。

 すこやん「上等だよ。その挑戦受けてあげる」

 すこやん「ウィナーテイクオールなんて味な真似するね、咏ちゃん」

 咏「ああ、はやりんは消えたし。残ってんのがアタシとアンタだ」

 咏「いい加減どっちが上かケリつけようぜ」

 咏「逃げねえよな、逃げる訳ねぇよな?」

  咏の啖呵と共にすこやんと咏の背中から炎と異次元の重圧が吹き出す。

  咏にとっては唯一負け越している相手だけあって、すこやんの異能は

 他の追随を許さないほどに群を抜いて凶悪だった。

  しかし、

 咏「世代交代だぜ?その首寄越せや、すこやん」

 咏「嫌だというならアンタを遠慮なく踏み越えさせていただくぜ?」

 すこやん「のぼせ上がらない方がいいよ?」

 すこやん「迫り来る怒濤の火力が下火にならないといいね」

 すこやん「引退試合の日取りが決まったら教えてね?」

 咏「ああ、勿論私が試合に関する全部を決めさせてもらうけど?」

 すこやん「かまわないよ。」  

  三尋木咏も負けてはいない。

  小鍛治健夜がかつていたその場所はとっくに通り越している。

  卓上を蹂躙するその業火に焼かれた猛者達は数知れず、

  東風、半荘、共に世界大会では金メダル、国内では勝率九割ほぼ無敗。

  「今」の時点の本気の健夜と対面するまで勝利の確信が持てずとも、やはり

 怪物健夜も一人の人間。そのオカルトにも衰えが見えた。

  だからこそ、咏はこの時を以て敗北という二文字を自分の未来から消し去った。  

  即ち...    




 すこやん「ねぇ、咏ちゃん」

 咏「なんですかねぃ?」

  振り向いた健夜と口を開いた咏の言葉が激突した。


 健夜・咏「勝つのは私だ」 


  そして、健夜は足取りも軽やかに茨城の実家へと帰っていった。

  嵐が過ぎ去った後、咏は自宅で泣きじゃくる京太郎を抱きしめていた。



 京太郎「う、咏さん...俺、俺な、んかの為に」

 咏「大丈夫だ。心配すんじゃねえよ」

 咏「お前に惚れてるチビもまとめて面倒見てやるから」

  激しくしゃくり上げる京太郎の頭をなでながら咏は優しく微笑んだ。

  惚れた弱みで、よくもまぁ勝てるかどうか分からない相手に挑戦状を

 たたきつけることができたもんだな、と苦笑いしつつも

 咏「どんなときになっても私はお前の味方だからな」

 京太郎「はい」

 京太郎「俺、もう咏さんの信頼を裏切るようなこと...しませんから」

 咏「よしよし、分かりゃいいんだよ」

  胸元で泣きじゃくる京太郎を満足げに見やった咏は最後に一言、

 咏「次はねぇからな」

 京太郎「...」


 三尋木咏の迫り来る怒濤の恋の炎は、京太郎の浮気心を一瞬で焼き尽くす。

 この後、京太郎を巡る男女関係は二転三転するも、それはまた別の機会のお話。


  カン