「京ちゃん、子供が出来たの。認知してくれる?」
彼の表情が驚きに染まり、困惑に変わる。
早々と回転し出す思考が答えを出すよりも早く、私は牽制するように次の言葉を告げる。
「大丈夫、奥さんと別れてなんて言わないよ。それにすぐじゃなくていい。いつか、子供の父親だって正式に認めて欲しいだけだから……ダメかな?」
既婚者だと知りながら、私は彼に近づいた。
そして、お酒の力で判断力を鈍らせて身体を重ねた。一度、一線を越えてからはずるずると関係が続いている。
小さな頃から彼が好きだった。
初恋を忘れられない愚かな女。
ずっと、ずっと、離れていていても何時までも彼が好き、愛していた。たとえ彼が他の女と結婚していようとも諦められない程、どうしようもなく……
「彼女が亡くなってからか、京ちゃんが死んじゃったらか、私が死んでからで良いから……」
「……そんなんで良いのか?」
「うん、なるべく京ちゃんに迷惑はかけない」
「はあ、分かったよ、照。養育費とかは幾ら払えばいい?」
「いらない。私はお金持ちだから心配ないよ」
愛している人との確かな結晶。
私の大切な宝物。
京ちゃんに愛されて、正式な家族になりたいと思わないでもない。
だけど、彼には愛する妻がいて、子供もいる。傍目から見ても幸せそうな、暖かな家庭を私は壊したくなかった。
自らの行いが矛盾していると知りつつも、そうしたいのだ。
「それに暫くはもう会わない」
「……そうか」
「うん、我儘でごめんね」
「俺こそごめんな」
この秘密の関係は隠し通す。
それが私の幸せ、京ちゃんの幸せに繋がっている。
「ねえ、京ちゃん。私のこと愛してる?」
「……二番目かな」
一番じゃなくても良い。
むしろ、一番じゃないからこそ真実なのだろう。確かな愛を感じ、最後の相瀬は幸福の中、微睡みへと沈んでいった。
カンッ!
最終更新:2016年08月06日 12:47