私は京太郎が好きだ
のどちゃんは当然として、察しのいい部長や染谷先輩も知ってること

問題は一人、咲ちゃんだ
咲ちゃんは京太郎と仲がいい
同じ中学だったといっても、流石に距離が近すぎる
恋人と言われても周囲が納得するレベルで近い
咲ちゃん本人は否定するけど、言われたときにちょっとにんまりとしているのは見過ごせない
恋する乙女の目は敏感なんだじぇ

それに京太郎に世話されるのは麻雀部では私の役割だったのに、いつのまにか咲ちゃんまでそのポジションだ
京太郎に構ってもらえる時間が半分になったせいで十分に絡めてない
いら立ちまぎれにタコスの買い出しを命じて、それで出て行ってしまった京太郎にやきもきする
「一緒に行こう」ってその一言が言えなくて、ついつい強く当たってしまう自分が嫌だ
咲ちゃんなら、簡単に「しょうがないから一緒に行ってあげるよ」なんて口にできるんだと思うと、敗北感が増す

京太郎に嫌われてないだろうか?
そんな不安を押し隠したままいつもの笑顔を張り付けて、少しでも心が近づくようにスキンシップをとる
なのに京太郎は「いらねー」とすげなく邪険にする
そんなにおっぱいが好きか?
のどちゃんみたいな胸部装甲が私にもあれば京太郎は振り向いてくれるのか?
そんな悲しい現実に涙した夜も数えられない

京太郎はのどちゃんが好きなつもりだろうけど、その目はよく咲ちゃんにも向けられている
「いつ迷子になるか分からねー」からだって言うけど、それなら同じ女子の私達が目を配ればいいだけのこと
京太郎は女子トイレの中まで入れないのだから

いや、流石にトイレの中で迷子になることはないか、ごめん咲ちゃん

とにかく、京太郎と咲ちゃんは怪しいんだじぇ
咲ちゃんはのどちゃんと一緒にいるとき以外は、大体京太郎の傍か迷子中
何をしているでもなく、自然に隣にいるのだ
私は理由を無理やり作らないと京太郎に絡めないのに、咲ちゃんはずるい

咲ちゃんは友達だ
だから別に悪く言いたいわけじゃないけど、京太郎に関するときだけは別
私にとっては、咲ちゃんが一番怖い
のどちゃんみたいに分かりやすい美貌を持っているわけではないし
部長みたいにいたずらめいたカリスマを持っているわけでもない
染谷先輩のようなこまやかな心遣いって感じでもない
ただ傍にいるのが自然、京太郎と並んで一番しっくりくる
自分で勝てないと思えてしまうのが怖いのだ

きっと、咲ちゃんが京太郎を好きだったらその瞬間に私の恋は終わる、そんな確信がある

だから

「私は――」

私が開けられない扉の奥で

「京ちゃんが」

それ以上は――

「好きです」

ああ、終わった、終わってしまった

目の前で顔を真っ赤にした咲ちゃんと京太郎の影が重なるのを、呆然と見ていることしかできない

和「どうしたんです、優希、部室の前で立ち止まって?
  ゆーき!?」

駆ける、のどちゃんの声を置き去りにその場から駆け出す

きっと二人は付き合いだしたことを皆に告げるのだろう
のどちゃんは素直に祝福して、部長はからかって、染谷先輩はやっとくっついたんかと嘆息する
でも、今の私は耐えられない

明日には笑って「犬のくせに咲ちゃんとなんて生意気だじぇ」って言ってみせるから
だから今日だけは、泣かせてほしい

私は京太郎が好きだ、だから気づいていた
咲ちゃんを部室に連れてきたときから、この恋は失恋で終わるんだと


カン