『憧、私にも好きな人ができました』

 そう、和に教えて貰ったときは驚いたのよね。
 だって、あの和よ、和。
 良く言えば真面目で、悪く言えば堅物で融通の利かない彼女から恋愛の話を受けることになるなんて思いもしなかったんだから。

『どうすれば振り向いてもらえるでしょうか?』

 しかも、私に相談してくるんだから頭が痛くなったわ。
 まあ、自業自得でもあるんだけどね……
 再会したときの和の驚き振りが面白くて、私は軽い悪戯のつもりで無駄に見栄を張ってしまった。
 和ったら真に受けて信じちゃったから、引くに引けなくて穏乃や玄にまで口裏を合わせて貰ったのよ。
 おかげで私は阿知賀の恋愛マスター、何人もの男と付き合っていたりする世界一の女よ……虚だから。

『髪は金色で、顔は凄く格好良いですね。とても優しくて力もあり、縁の下で支えてくれる人です』

 下手なアドバイスをしようにも相手のことが分からないから無理って断ろうとしたら写真も交えて丁寧に説明してくれたわ(泣)。
 件の男。
 須賀京太郎は確かにイケメンね。
 何処かで見覚えがあると感じたらインハイの時に会っていたことを思い出したわ。
 性格が良いのは本当で、かなりの苦労人みたい。ちょっと憐れに思ったと言うか……流石、清澄……マナーの悪さ、打ち筋の癖通りと言うか……あの部長は鬼ね……

『彼は間違いなく巨乳好きです。家庭的な女性が好きらしいとも噂で聞きました』

 一瞬ノロケかと思ったわ。
 だってさ、あんた彼のタイプに見事合致しているじゃない。これなら直ぐに付き合える。私の嘘もバレずに済みそうと最初は思ったのよ。
 詳しく聞いていくと困った問題も分かってきたんだけどね。

『以前は私の胸を鼻の下を伸ばして見ていたんですが、最近は全く見ようとしないんです……それどころか避けられているような……』

 巨乳好きの男が和の胸を見ないはずがない。
 原因は何かと思ってよくよく聞いてみれば、和ったら須賀を好きだと自覚してからの態度が最低だったわ。
 完全にツンデレ。
 恥ずかしいからって辛辣になるのはダメでしょう。反射的に、傷口を抉り、塩を塗るような毒を吐いていることが判明したの。
 そりゃあ、須賀も和が理想のタイプな女の子でも関わりたくないわよね……

『優希と咲さんも彼のことが好きみたいなんです。しかも、部長も……』

 まあ、イケメンに優しくされたらイチコロよね。
 昔の私みたいな子も、あの魔王ですら惚れさせるなんて……悪鬼が一番驚きだけどね。
 だからこそ、和は身近な友人じゃなく、私に相談したのだと納得したわ。そうよね、ライバルに、恋敵に相談なんて無理だもんね。

『優希は中学時代の先輩に相談しているみたいなんです……染谷先輩は部長の味方らしく……咲さんは彼の友人に背中を押して貰ってます……』

 四面楚歌ね。
 最大の敵だったはずの和が自爆してるし、彼女たちから見れば凄く良い状況なんじゃないかしら?
 和には悪いけど見込みゼロでしょう。
 今の須賀は和に対して好印象どころか悪印象、マイナスに大きく舵を切っていると見て間違いないわね。
 その辺りのことを理路整然と説明してあげたわ。ついでに諦めたらどうかともね。

『あこぉ……ぅぅ、何でもしますからぁ、助けてください……京太郎くんが他の人と付き合うなんて嫌ですぅ……』

 はあ、涙混じりに親友から頼まれたらさ、断れないわよね。その場の流れってのもあるしさ。
 世界一の憧様に任せなさいとつい言ってしまった。三秒後、私は感謝してくる和の声にまたやってしまったと気づいたわ……
 作戦を練るからと断って和との通信を切り、私はお姉ちゃんに泣きついた。
 だけど、私の周りには頼りになる恋愛マスターが一人もいなかった。困りに困った私は、恋愛のハウツー本、漫画、ネットの情報などを読み漁って徹夜で研究したわ。

 こうして阿知賀の恋愛マスター(虚飾)新子憧が爆誕したのよ。


「良いかしら和、嫌いも嫌いも好きの内、マイナスはプラスに変換できるのよ!」

 って何処かに書いてあったっけ。

『そ、そうなんですか!?』

 例えば、不良が動物に優しくしたり、ヤクザが震災時に住民を支援したりしたらどう思う?
 あれ? こいつ良い人じゃないって思ってしまうこともあるよね。
 元々の評価がマイナスだからプラスのことをすると良く見えるの。ハロー効果によるゲイン効果という奴かな。

「和は既に須賀にとってマイナスだからね。所謂、ギャップが発生し易い状況にあるわ!」

『つ、つまり?』

「素直に好意を示しなさい!!」

『ぅぅ、そんなの恥ずかしくてでできません……』

 あら、可愛いわ……顔を赤らめて……嫉妬しちゃうくらい……
 だけど、恋愛は守りに入ったら負けよ。攻めて攻めて、ほんの一歩引くことが大切らしいわ。
 人は一度手にしたものには執着心を抱くのよね。何処にでもあるありふれたものでも、それが自分のものだと大切にするように……
 だから、自らの手から離れそうになると追いかける。失うことを忌避する保有効果、損失回避の法則よ。

『す、凄いです憧! 阿知賀の恋愛マスター! 科学的な心理学の理論まで恋愛に応用するなんて目から鱗です!!』

「ふふ、当然じゃない! 私を誰だと思っているの? 世界一なんだから!!」

 はい、嘘です。
 ごめんなさい、和。
 心理学とか如何にもな事を言って煙に巻いてるだけです。人は権威に弱いのよ、そして情報元の一次ソースから得るよりも人伝の方が影響が大きくなるの。
 権威への服従原理とウィンザー効果ね。

「和なら大丈夫。あんたはライバルよりも抜きん出た武器を持ってるわ! その胸も使って須賀を骨抜きにしなさい!!」

 昔からある手よね。
 女の武器、身体を使えばイチコロよ。
 須賀は元々和に好意を抱いていたみたいだし、最近の態度の悪さ、その原因が判明して見方が変われば認識が変わる。
 大丈夫、大丈夫……失敗しないでくださいお願いします……ああ、神様……

 私の真摯な願いを天は聞き届けてくれたみたいで和と須賀は付き合い出したわ。
 だけど、私の受難は減るどころか増えてしまった。

「貴女が阿知賀の恋愛マスター? 晴絵ちゃんに聞いたんだけど、はやりの相談にも乗って欲しいんだぞ☆」

「……恋人……結婚……助けて!!」プンスコ

「もうアラフォーなんて呼ばれたくない。行き遅れたくないんです。お願いします憧先生、この健夜にも救いの手を!!」

 誰か、私を助けてくれないかしら?

 えっ、和。
 須賀とのエッチについて経験豊富な私の話を参考にしたいですって!?

 ま、任せておきなさい!
 海千山千、何人もの男と関係を持った私が教えてあげるわ!!

 本当に助けてぇぇ……

カンッ!