「はぁ………」

夏も終わり緑々しかった葉っぱも茶色に代わり散り始める。
そんな季節の中、京太郎は大きな荷物を背負い運んでいく。
暫くして指定場所に荷物を置くと一息ついた。

「ツモッ!」「通らないなー!」「ワハハ」

「ロォン!」「2000・4000やね」「やっべー…まじやばいわ」

「………」

荷物を置き隣を見れば少女達が麻雀へと熱意を飛ばしている。
現在京太郎が居るところは、とある旅館だ。
インターハイも終わり一定数の高校が集まり大きな合同合宿を行なっている。
それに清澄も呼ばれたのだ。
本来なら女子だらけの所なので男の京太郎は来れない筈だったのだが、どんな幸運が重なったのか
雑用係りが必要と言うことで連れて来てもらっている。

「………」

京太郎は荷物を置くと無言で辺りを見渡し、気になる人の配牌など動きを見て勉強した。
別段仲間はずれにされている訳でもなく、雑用が終われば京太郎も参加していい事にはなっている。
それでも入らないのはレベルが高過ぎる為だ。
彼女らは全国大会で活躍した人達だ、初心者から一歩踏み出した程度の京太郎では相手にならなかった。
勉強をする前に終わってしまい、まったくもって身につかないのだ。


(今日も無駄に終わったな)

夕食を食べ1人でぶらぶらと歩き暇を潰す。
誰かに教えてもらえばいいかと初日は思ったが、予想以上に無理であった。
全員が全員来年のインターハイに燃えており初心者の京太郎に教えている暇がない。
更に男性というのが足枷となっていた。
ここにいる高校の8~9割が女子高なのだ。
ほとんど交流がない男性を見る目は厳しく、警戒をされていて話すことすら叶わない。

「………麻雀か」

ポツリと呟きくと無性に打ちたくなった。
負けても構わない情けなく終わっても構わない、ただただ麻雀を打ちたかった。

「誰もいないか」

広間を覗いてみると電気が消え誰も居なかった。
時間を見れば22時近く、皆部屋に戻り休んでいるのだろう。
京太郎はそれでも中に入ると一箇所だけ電気をつけ麻雀卓の電源を入れた。
麻雀卓は小さな機械音がし起動を始めた。
手を伸ばし麻雀牌を中央に入れると人差し指でサイコロを回す。
カランコロンと渇いた音が鳴り止る。

「1人でも…できるよな」

京太郎は四箇所にそれぞれ牌を配り整え開いた。
全ての牌が見えている状態になるので丸判りになるがそれでも構わない。
自分ならこう切る……相手だったらと考え一歩一歩進めていく。

「……これかな?」

「そっちじゃなか、こっち」

暫くそんなことをやってると後ろから手が伸びる。
声と手が伸びてきて京太郎は驚き振り向いた。

「こんばんは♪」

「…こんばんは」

振り向くとゆったりとした浴衣を着て立っている女性――鶴田姫子がいた。
月明かりに照らされた姫子は京太郎に優しく笑いかけてくる。

「1人でやっとっと?」

「えーあー……1人でですね」

少しばかり姫子の言葉に戸惑うも答えてみると姫子は他の人の浴衣より長い袖で口を隠しくすくすと笑った。
そんな姫子の対応に京太郎は頬を染め視線を逸らす。
仕草や物言いなどが女性らしい女性で周りにいないタイプだ。

「えっとね、ここはこっち捨てた方がよか」

「こっちですか?」

「うん」

姫子が京太郎の配牌の一つを指差しそう言った。

「でも聴牌遅くなりますよ?」

「点数的に余裕あっし問題なか、回した方がよかね」

「なるほど」

「んっ!そいじゃやろうか」

そう言って姫子は前の席に座り配牌を戻す。
どうやら教えてくれるようだ。

「いいんですか?」

「うん、乗りかかった船やけん……そいに一人より二人でやったほうが楽しかよ」

「……はい」

ふんわりとした姫子の笑みに釣られ京太郎もまた笑みを返す。
こんな自然に笑ったのは、合宿に着てから初めての経験であった。

「こんな感じで……」

「分かりました」

その日の夜、初めて心の底から麻雀を楽しんでいった。


『それじゃ三日目を始めます』

「……」


次の日となり、三日目が始まった。
昨日の夜が楽しかっただけに目の前の光景が灰色に見え物足りない。
勿論、みんなの中に姫子も居たが特に声を掛けなかった。

(俺が声を掛けたら目立つしな)

たった一人の男性が他の高校の人と仲良くやっていたら目立ってしょうがない。
姫子に迷惑が掛からないように何時ものように麻雀を見ていく。

「ロン」

「……」

それでも気付けば、姫子の後ろを陣取りついつい追ってしまう。
迷惑と分かっていてもそうしてしまうのは、寂しいからなのだろうか。

「わっと、ごめんなさい」

「俺拾いますよ」

「ありがと」

そんなことをボーと考えていれば、姫子が不意に牌を下に落としてしまった。
せめてとばかりに断り、手を伸ばし牌を手で取れば――

「……また夜に」

「!……はい」

耳元で姫子の声がした。
どうやら今日の夜も楽しくなりそうだと京太郎は軽く微笑んだ。

カンッ!