「俺は京太郎が羨ましいぜ」

 家に弁当を忘れ、学食でボッチな昼食を食べているとそんな声が聞こえてきよった。
 後輩の名前に反応し、振り向いてみれば友人らしき男と食事を食べとる京太郎の姿が見えた。
 位置の関係もあってか、わしには気づいてはいないようじゃ。

「は? 何を言ってんだよ誠」

 誠と呼ばれた男は京太郎よりも恵体な奴じゃった。座っとる椅子が小さく見えるとは本当にデカイのぉ。

「麻雀部の男子はお前一人だけなんだろう? それってハーレムじゃねえか」

「はあ、分かってねえ、分かってねえよ。男子一人だけって結構キツイぞ……それなりに気も使うしな……」

 聞き耳を立てるつもりはなかったんじゃが、少し面白そうな話をしとった。ちと暇潰しに聞いてみるか。
 女所帯の中に黒一点。
 京太郎の本音が聞けるかもしれんからなぁ。次期部長として部員の内心を知っておいて損はないじゃろう。

「確かにそうかもしれないけどよ、美少女に囲まれてるんだから良いもんだろう?」

「美少女ね……」

 ふむ、わしはともかくとして麻雀部は綺麗所ばかりなのは間違いないのぉ。中でも和はとびっきりじゃし。

「小動物みたいな所があってさ、咲ちゃんって可愛いじゃねえか。しかも、幼馴染みとか、何それ?」

 ふむ、言われてみればそうじゃなぁ。
 金髪、背も高い運動の得意なイケメンが幼馴染み。しかも、家はカピバラを飼育できる金持ちとな。
 愛称とファーストネームで呼び合っとるしのう。しかも、幼馴染みは迷子になれば探してくれるし、悩んでいれば気遣ってもくれると……
 咲の奴はどこの乙女ゲーの主人公なんじゃ?

「誠は咲をよく知らないからそう思うんだろう。あいつ普段はポンコツだし、部活、否、麻雀中は魔王だからな……」

「ま、魔王!?」

「酷いなんてもんじゃねえぞ、えげつなくて、怖いほどだ……」

「そ、そうなのか?」

「ああ」

 う、うむ。
 咲は確かに異常な打ち手じゃからな。プラマイゼロ子は頭がおかしい。
 運はもちろんじゃが、自他の間に相当な実力差がないとそんなもん狙えんじゃろう。
 しかも、インターハイの舞台でもやらかしちょるし、咲は魔王呼ばわりされても文句言えんわなぁ。

「…………片岡さんていつも元気溌剌で、あの性格だからか結構人気があるんだよな」

「優希か。あいつはノリが良いし、話していて飽きないな」

「そうだろう、そうだろう!」

 京太郎と優希は軽口を叩き合っても遺恨を残さん程に仲がええからのぉ。
 わしには無理じゃ。
 タコスを買い与えるとか京太郎のようには振る舞えん。下手すればキレとるかもしれん。
 優希のようにも絶対できん。遠慮なく好き勝手をするのはわしのキャラじゃないしのぉ。

「だが、タコス狂徒だ。それに残念ながらあいつのパンツを見ても、押し倒しても俺は全くときめかなかった」

「は? いっぺん死ねよ。そんな美味しい思いをしていたとか羨ましいんだよ、この野郎!」

 そんなことしとったんかい!!

「小さな胸に興味ないから」

 お、お前と言う男は……

「チッ、これだからモテ男は……」

「モテねえし……」

 いや、この場合は哀れむべきは優希の奴か? それだけアピールしてもスルーされるとか可哀想じゃのぉ。
 しかし、京太郎は自分がモテとることに気づいておらんのか? 鈍感過ぎんか?

「はいはい。どうせおっぱい好きの京太郎くんは原村さんを狙ってんだろう?」

 なるほど。
 京太郎の奴は好いた子にしか興味がないわけか。それ以外の女の子には目が向いてないなら鈍感なことも納得じゃ。
 あやつはいつも和の胸を見ておるからな。不純な気もするが一途ではある、のか?

「和か……」

「何か反応悪いな」

「和は確かに俺にとって女の子の理想像だよ。将来はああいう感じの子と結婚したいさ。だけど、和は俺に興味ゼロだからな……」

 ん? はて?

「芽がない、眼中にないって感じか?」

「そうだな。多分、和は男に興味がないんじゃないかな?」

 おいおい、ちょい待たんか!

「え!? お、おい、それってまさか?」

「おそらく間違いない。咲にお熱をあげてるみたいだし……和は、レズなんだよ! よりによって相手が咲なのが辛いぜ……」

「京太郎、……今度、何か奢るよ」

「おう、ありがとう」

 な、なるほどのう……京太郎からはそう見えるんか……和も報われんなぁ。
 和は咲に懸想しとるわけじゃない。むしろ、逆なんじゃ。咲と京太郎をくっつけないように邪魔をして、咲も和と京太郎が距離を縮めないように牽制しとる。
 まあ、どちらも京太郎に嫌われたくないみたいじゃし、表立っては仲良くしとるからなぁ。
 わしは影で二人の対立に胃痛の日々を過ごしとると言うに、京太郎め……

「じゃあ、先輩はどうなんだ? そ、し、えっと渋谷先輩だっけ?」

 ちゃうわ!!

「それ白糸台の人。染谷先輩だよ」

「そうそれ、ちょっと地味だけど素材は悪くないよな。あの人はどうなんだよ?」

 褒めとるんか? 貶しとるんか?
 ええい、どっちのつもりじゃ小僧? 人が気にしておる所を語りくさってからにぃ、泣かすぞワレぇ!?

「普通だな。どこにでもある良き先輩後輩の間柄って感じだ」

「ドラマがねえな」

「そんなもんだろう」

 分かっておったわ。
 別に知っておったし、わしと京太郎は単なる仲良き先輩後輩じゃと……反応が薄くとも寂しくないわい……

「学生議会長の竹井先輩はどうよ? 黒いパンストがエロいよな。踏まれたいとか思わねえ?」

 これだから男子高校生ちゅう奴は……

「むしろ、逆に泣かしてやりたいと思う時がたまにあるわ……」

「ほう、何でだ?」

「麻雀卓」

 あっ!

「ん?」

「パソコン」

 お、おうぅ……

「んん?」

「大荷物、雑用……クククッ、ククッ、クックックックッ」

 す、すまんのう……

「きょ、京太郎?」

「ああ、すまん。部長は人使いがな……鬼、悪魔、竹井久なんだよ」

 久もな悪気があるわけじゃないんじゃぞ?
 他の部員と親密になられるより、雑用を押し付けてでも距離を縮めさせんようにしとるだけじゃからな……
 うん、ちと度を超えとるが……意地らしい乙女心なんじゃよ……擁護しきれん……

「そ、そうか。大変なんだな……その、羨ましいとか言ってごめんな」

「良いって、傍目からはそう見えても不思議じゃないからな。さて、そろそろ昼休みも終わるし、教室に行こうぜ!」

「おう!」

 今度、京太郎に差し入れしたるか。
 この話を一部だけ伝えて京太郎の待遇を改善するようにせんといかんのう。はは、次期部長は大変じゃぁ……


カンッ!