「ほらほら、京ちゃんこっち」
「わかったから引っ張るなって」
「座って、座って?」
「また本を読むのか?」
「いいじゃん。好きなんだもん」
そう言うと彼もバッグの中から本を取り出して、原っぱの上に腰を下ろす。
私の座る位置にハンカチを敷いてくれた心遣いが嬉しい。
あぁ、ダメだ。
ぜったいニヤニヤしちゃってる。
持ってきた本で顔を隠して、胸の高鳴りを必死に抑えて、ゆっくりと倒れこむ。
京ちゃんの大きな背中にもたれかかって、お日様の光を浴びながら、ゆっくり時間が進む。
私はこの時間が好きだ。
中学で知り合い、友だちになって、仲を深めて……そうして得た場所。
私だけの特別な、世界で一人だけが許された居場所。
京ちゃんの背中は温かい。
体温が服越しにでも伝わって、時々眠くなってしまう。
寝ちゃったこともあったけど、彼は苦笑いしながら頭を撫でてくれる。
そんな優しい時間が私は好き。
ページをめくる音。
紙に染み付いた特有の匂い。
柔らかな陽射し。
そよぐ涼風。
彼の体温。
私の想い。
全部がこの時間を成していて、一つでも欠けたらきっと輝かない。
幸せ。
そう、きっと今の気持ちは幸せで溢れている。
だから、少しでも彼にそれを分けてあげたくて。
「京ちゃん」
「なに?」
「好きだよ」
「……っ」
京ちゃんは面食らって、頬を照れくさそうにかいて、視線をあちこちへと移して――
「……俺も好きだよ」
向き直ると、笑って、そう言葉を返してくれた。
カンっ!
最終更新:2016年07月23日 10:37