熊倉トシが京太郎を見て回る。

なにか確認したと思ったら、考え得る中で最も聞きたくない言葉を吐き出した。


トシ「ふむ、やはりというかなんというか……」

照「何かわかったんですか!?」

トシ「端的に言うと、このままだと京太郎は全員死ぬ。」

全員「!?」

トシ「今倒れている京太郎について、簡単に言うと……」

トシ「京太郎は普通の人間が生きられる寿命が4分の1程度しかないのさ。」

咲「そんな!?京ちゃんはまだ15歳なのに寿命だなんて!」

トシ「肉体に寿命があるように魂にも寿命がある。」

トシ「魂が寿命を迎えると、肉体も寿命を迎え、生命活動を停止する。」

トシ「それを割いたんだ、肉体にも魂にも負担は掛かる。」

トシ「ドッペルゲンガーって言うのはそういうことさ。」

トシ「このままじゃいずれ京太郎は……だからその前に京太郎達を元の形に戻すしかないねぇ。」

トシ「つまり――」


「つまり俺ら四人の内、三人は消えるってことですね。」






トシ「おや、起きたのかい。」

京太郎(宮守)「大分、体の調子が良くなったんで。」

豊音「京太郎君無理しちゃダメだよー。」

京太郎(宮守)「もう大丈夫です、豊音さん、心配おかけしました。」

京太郎(宮守)「それとそろそろ他の俺も起きると思います。」

京太郎(白糸台)「う、う~ん……」

照「あ、京ちゃん!」

京太郎(白糸台)「照さん……」

京太郎(白糸台)「話って寝てても結構わかるもんなんですね。」

京太郎(宮守)「便利だな。」

京太郎(小鍛治)「……よっと、俺も話は聞いてた。」

健夜「やっぱり今朝からの不調って……」

京太郎(小鍛治)「そうみたいですね……」

京太郎(清澄)「うう、気持ちわりー……」

咲「京ちゃん、大丈夫?」

京太郎(清澄)「なんとかな……」


トシ「どうやら全員起きたようだね。」

京太郎(小鍛治)「それで元に戻す方法っていうのはどんなのですか?」

トシ「お互いが納得できる方法で勝負を付ければいい、ただそれだけさ。」

京太郎(宮守)「んじゃ、俺はあれかな、奇しくも俺達は同じ部に入っているわけだしな。」

京太郎(白糸台)「俺もそれでいいぜ。」

京太郎(小鍛治)「ああ、俺もだ。」

京太郎(清澄)「マジかよ……」

京太郎(清澄以外)「「「勝負方法は麻雀で。」」」

京太郎(清澄)「…………」

トシ「どうやら決まったようだね、予想通りと言えば予想通りだけども。」

トシ「小鍛治プロ、場所って何とかなるかねぇ?」

健夜「多分……会場が一つ空いてるので、そこを借りられると思います。」

健夜「ただ、公式戦じゃありませんから中継は出来ませんし、実況席も広くないので観戦できる人は限られます。」

トシ「そうかい、なら各京太郎に一人ずつってところかねぇ。」

トシ「京太郎達を見守る者は各々の高校で決めておくれ。」

トシ「一応、各校の関係者には話を通しておくからさ。」

健夜「……卓が使えるようになるのは、今からおよそ一時間後みたいです。」

トシ「わかった、それまでお前さん達は自由に話しておきな……」

トシ「これが京太郎との最後の会話になるんだからさ……」


熊倉トシはそういうと医務室から出て行った。

その場を酷く痛い静寂が支配していた。

そして各々が控え室に向かう。






菫が部員たちに説明する為、そして私たちを二人きりにするため、控え室を空けてくれた。


菫「照、須賀にはお前が付いててやれ。」

照「……うん。」

菫「私は部員たちに説明しておく。」


そういって菫はその場を立ち去っていった。

自分だって京ちゃんを見守りたいはずなのに……

だが今は菫の言葉に甘えて、京ちゃんと話をしよう。

下手をすればもう会えなくなるのだから。


照「京ちゃん……」

京太郎「照ちゃん、膝を借りていいかな?」

照「……うん。」


京ちゃんは椅子に腰掛けた私の膝を枕にして話し出した。


京太郎「照ちゃんにこうやってもらうの、いつ振りかな……」

照「小学生以来かな……」

京太郎「こうして膝枕してもらえるのもこれで最後になるかもな。」

照「またしてあげるよ。」

京太郎「その時はお願いします、照ちゃん。」


わかっている、最後になるかもしれない事を。

それでも、今は彼と一緒に居る未来を信じていたい。

信じたい、信じたいのに。

どうしてか不安が私の心を侵していく。

私の顔にでていたのだろう、そんな私を見て、京ちゃんは口を開いた。


京太郎「雨が……降っているな……」


彼が変な事を言い出した、ここは室内で窓も近くにないのに。


照「……京ちゃん、雨が降ってるってわかるの?」

京太郎「ああ、雨が降っている……照ちゃんの心に。」


こんな状況で、こんなにクサい台詞を吐くとは思わなかった。


京太郎「照ちゃんはさ、俺にとって太陽なんだ。」

京太郎「だから俺が居る所を、居るべき所を明るく照らしてくれないと、俺は凍えてしまう。」

京太郎「そんな照ちゃんには笑顔でいてほしい。」


違うよ、京ちゃん……私は『太陽』なんかじゃない……

むしろ私にとっては、京ちゃんが私の『太陽』なんだよ……

いつも温かい笑顔で迎えてくれる京ちゃん……

そんな京ちゃんだから……京ちゃんにも笑っていてほしい……




――――――
――――
――




京太郎「それじゃあ行ってくるよ、照ちゃん、応援よろしくな。」

照「うん、京ちゃんの笑顔の為に笑顔で応援するからね!」


私の顔をみた彼は、明るい顔をして対局室に向かっていった。


【心の雲を晴らす太陽】






――宮守視点――


京太郎「すごい緊張するんですけど……大丈夫ですかね、俺?」

トシ「宮守の信頼を一手に背負っているんだ、男らしくドーンと構えてなさい。」

京太郎「でも、俺はみんなを背負えるぐらいに強くないですよ。」

トシ「いいや、ここにいる連中はみんな京太郎が背負ってきたものだ。」

トシ「だから誇っていい、ここにある絆は京太郎が作った力なんだ。」

京太郎「そう、ですか。」

胡桃「須賀君、戻ったら充電してあげるね。」

京太郎「え?俺がするんじゃなくて?」

胡桃「そう、私の膝の上に――」

京太郎「サイズ的に無理でしょう。」

胡桃「ひ、膝枕なら出来るもん!」

京太郎「ああ、それは楽しみだな。」

豊音「私ね、ずっとずっと一人だったんだよ……」

豊音「誰も来ないあの場所で、誰もいないあの部屋で……」

豊音「でもね、京太郎君と会って一人ぼっちじゃなくなったんだよー。」

豊音「京太郎君、京太郎君は私の初めての友達なんだよ……」

豊音「だから、だから絶対いなくなったらいやなんだよー!」

豊音「京太郎君がいなくなったら……ちょーかなしいよー……」

京太郎「あはは、万が一俺が消えたら友引で戻してくださいね?」

塞(友引じゃあそんな事出来ないってわかってて京太郎君は言ってるんだ……)





エイスリン「キョータロー。」カキカキ バッ

京太郎「みんなと一緒に手を繋いで、道を歩いてる絵……?」

エイスリン「キョータロー、オワッタラ、ミンナ、イッショニカエル。」

京太郎「……そうですね。」

シロ「京太郎、迷ったら、思いっきり迷ってしまえばいい。」

シロ「迷いきって出した答えなら、きっと、後悔しなくていい……」

京太郎「シロさん……肝に銘じておきます。」

塞「京太郎君はもう、決めたんだね……」

京太郎「はい。」

塞(そうか、もう、君を苦しめる物はないんだね……)

塞(もう、君の事を守る為に塞がなくてもいいんだよね……)

塞(そして、もう、君を止める事は出来ないんだね……)

塞「京太郎君、私の塞ぐ力の源って知ってる?」

京太郎「……いえ。」

塞「私の力のルーツは『塞の神』。」

塞「これは悪い物が『道』から入って来るのを塞ぐからそう言われてるの。」

塞「そして塞の神の別の名は『道祖神』……」

塞「道祖神は男女一対の神様で、『道』の安全を祈る神様。」

塞「だから私は京太郎君の行く道の安全を祈ってるよ。」

京太郎「塞さん……」

塞「京太郎君の行く手を塞ぐものはないんだよ、自分の信じた道を、まっすぐ行ってらっしゃいね。」

京太郎「はい!それでは行って来ます!」

塞「豊音もちゃんと京太郎君のことを見ていてあげてね……」

豊音「うん……みんなの分も応援するよー……」


大好きな彼の為に、二人は身を引いたんだと、私は気付いていた。

だからこそみんなの分も見ておかないといけないんだ。

彼が行く『道』を、その先にある結末を……


【遠野から続いた道】






――実況席控え室――


一旦控え室に戻ったが、ここまで会話は一つもなかった。

沈黙が辛かったのか京太郎君が口を開いた。


京太郎「ははは、まさか自分の命運を麻雀に託すとは思いもよらなかったですよ。」


運命は残酷だ。


京太郎「でも、ある意味よかったです、麻雀でなら誰にも負ける気しませんし。」


虚勢を張ってるのがわかる。


京太郎「麻雀なら怖いものなしですよ!」


なら、ならどうして君はそんなに怯えているの……

どう見たって無理してるのが私には見て取れる。

だから切り出さなくちゃ……最後になるかもしれないんだから。


健夜「……嘘。」

京太郎「へ?嘘なんかじゃ――」

健夜「だって、京太郎君、震えてるもの……」

京太郎「……健夜さん相手じゃ隠し事も出来ないか。」

健夜「……うん、一年や二年の付き合いじゃないもんね。」


彼は怯えていた、そして私も恐れた。

彼がいなくなる事、彼がいなくなった後のこと……

でも、私だけでも、いや、私だからこそ、彼の心の拠り所にならないと。

彼の不安を拭ってあげないと、彼は恐怖に負けてしまう。


健夜「だからさ、今は思いっきり甘えていいんだよ。」





健夜さんが両手を広げて俺を抱きしめてくれてる。

今まで俺が張っていた、虚勢の衣を優しく脱がせるような抱擁は、俺の本音まで晒してしまう。


京太郎「健夜さん、俺、俺、怖いよ……」

京太郎「もし、もし負けたら、今までの健夜さんと一緒に過ごしてきた時間や思い出が、全部無かったことになりそうで……」

健夜「大丈夫、大丈夫だよ、京太郎君……」


抱きしめてくれている力が強くなり、暖かいこの人の温もりがより強く感じられる。

ああ、なんて心地良い温もりなんだろう……

この人の温もりが、不安や恐怖に凝り固まった心を解してくれる。






――――――――
――――――
――――
――






京太郎「健夜さん、もう俺、大丈夫です。」

健夜「……うん。」

京太郎「そろそろ時間なので、俺、行って来ますね。」

健夜「うん、頑張ってね。」

健夜「あ、そうだ、これが終わったら家で祝勝会にやろうよ。」

健夜「地区優勝と全国優勝のお祝いも兼ねてさ。」

京太郎「そうですね、その方がより勝たなきゃって思えますし。」

健夜「でしょ?」

京太郎「それじゃ、"小鍛治京太郎"、行って来ます!」

健夜「はい、いってらっしゃい。」

健夜「ちゃんと……ちゃんと『ただいま』って言いに帰って来るんだよ……」


【姉弟の絆】






――清澄控え室――

久「というわけよ。」

まこ「……久、それは本当のことなんか?」

久「ええ、残念な事にね。」

和「そんなオカルト、ありえません……」

和「そんなオカルトが、あっていい訳がありません……」

優希「…………」


久「それで、付き添いなんだけど……」

優希「…………」

優希「咲ちゃんがいいと思うじぇ……」

和「!……優希……」

久「咲も……それでいい?」

咲「…………」コクン

久「それじゃ、私は席を外すわ。」

まこ「……そうじゃのう。」

優希「……咲ちゃん、犬……京太郎の事頼んだじぇ。」

咲「……うん。」

和「……よかったんですか、優希?」

優希「……うん、私じゃダメだから……咲ちゃんじゃないと……ダメなんだじぇ。」


まこ「のう、久。」

久「なに。」

まこ「お前、後悔してるじゃろ……京太郎に碌に麻雀させんかったこと。」

久「…………」

まこ「いいんじゃ、別に責める気はないしのう。」

久「……今は須賀君を信じて待ちましょう。」







二人きりになったあと、先ほどから咲は俯いたままだ。

沈黙が辛い、今まで二人きりで沈黙が続いても、辛くなかったのに……

重い口を無理やり開いて、なるべく軽い口調で話そうと思った。

声が震えないように我慢して。


京太郎「参ったな。」

咲「…………」

京太郎「よりにもよって麻雀で勝負とは……」

咲「…………」

京太郎「しかも相手は大会優勝者やオカルト持ちだ……」

京太郎「それに引き換え、俺は役を覚えた程度初心者だ。」

咲「…………」

京太郎「こりゃ、どうやっても無理だろ……」

咲「…………」グスッ

京太郎「咲、俺は居なくなるだろうけど頑張れよ。」

京太郎「中学の時と違って、俺が居なくても和や優希が助けてくれるだろうから、心配ないかも知れないけどさ。」

咲「……なんで」

京太郎「…………」

咲「なんで、京ちゃんは負けること前提で考えてるの……」

咲「なんで、京ちゃんは勝とうと思わないの!?」

京太郎「だって勝てるわけないだろ……」






バシンッ






俺の頬がはられていた、はった本人をみると大粒の涙をぽろぽろと零しながらこっちを見ている。


咲「京ちゃんのバカ!」

咲「諦めないでよ!諦めないでよっ!!」

咲「最後まで足掻こうよ!」

咲「諦めて消えちゃう最後なんて……いやだよ……」

京太郎「…………」

咲「ウッ……ヒッグ……」


なに泣いてんだよ、咲……

なに目の前の女の子泣かしてんだよ……!

女の子泣かすとか、俺、最低じゃねぇか!



もう時間だ、そろそろ行かないと。


京太郎「咲、俺、行ってくるよ、どんなに無様でも、どんなに格好悪くても、最後まで足掻いてみる。」

咲「……ヒッグ……」

京太郎「だから咲、見ていてくれ、俺のことを。」

咲「…………うん。」


そして俺は対局室に足を進めた。


【絶望の先に咲く花】







―実況・解説席―


健夜「これで京太郎君と見る人全員かな……?」

トシ「清澄・白糸台・宮守・小鍛治……全員だねぇ。」

トシ「それじゃ役者も揃った事だし、始めるとしようか。」

豊音「緊張するよー……」

照「…………」

咲「京ちゃん……」

恒子「それじゃ中に居る人たちにアナウンスしますね。」


マイクのスイッチを入れて内部に居る京太郎君たちにアナウンスを流す。

今回ばかりはいつもと違う空気に緊張した。


『持ち点50000点オカ・ウマなし、大会と同様のルールの東南戦です、それでは場決めをしてください。』


たったそれだけのアナウンスをしたあと、マイクのスイッチを切った。

これから文字通り自分の存在を懸けた京太郎君たちの戦いが始まる。






東:清澄 南:白糸台 西:宮守 北:小鍛治

「「「「よろしくおねがいします」」」」


東一局0本場


京太郎(清澄)(悪くはない配牌だと思うけど……こっからどう進めればいいのかがわからない……)タンッ

京太郎(白糸台)(とりあえず様子見かな、地力じゃ小鍛治が一番強そうだな。)タンッ

京太郎(宮守)(オカルトや能力も警戒しないとな……)タンッ

京太郎(小鍛治)(多分、地力でいうなら俺に次いで、白糸台、宮守、清澄の順だな……)タンッ

京太郎(小鍛治)(ただ、白糸台と宮守は何か隠し持ってそうだ。)

京太郎(小鍛治)(うだうだ考えるのは良くないな、速攻で行く!)


10順目


京太郎(小鍛治)「リーチ」タンッ

京太郎(清澄)(安牌とかわかんないぞ……一体どれを切れば……)

京太郎(清澄)(わっかんねー!ええいこれだ!)タンッ

京太郎(小鍛治)「ロン、裏は……無しで12000。」

京太郎(清澄)(親が流れて12000……やっべー……)


清澄:38000(-12000)
白糸台:50000
宮守:50000
小鍛治:62000(+13000(供託棒込み))





――――――
――――
――




南一局0本場

京太郎(清澄)(これで二回目の親……なんとか取り返さないと……)

京太郎(宮守)(このまま引き離されるのはまずい……)

京太郎(宮守)(それにそろそろ他の俺が能力使い始めてくるころか……)

京太郎(宮守)(牽制をかけさせてもらうぜ。)

京太郎(小鍛治)「リーチ」タンッ

京太郎(清澄)(やばいやばいやばい!ここでふったらどうしようもないぞ!?)

京太郎(清澄)(と、とりあえず、現物を……)タンッ

京太郎(宮守)「追っかけリーチだ。」タンッ

京太郎(小鍛治)(来ない……もしかして俺のリーチを待っていたのか?)タンッ

京太郎(清澄)(こっちもリーチかよ!?とりあえず安牌を……)タンッ

京太郎(宮守)「ツモ、1300・2600。」

京太郎(白糸台)(やっぱり能力を使ってきたか……)



清澄:32400(-2600)
白糸台:59900(-1300)
宮守:46300(+7200)
小鍛治:61400(-1300)







南二局0本場

京太郎(白糸台)(俺の親……能力使うならここしかないな……)

京太郎(白糸台)(俺も負けるわけに行かないから、遠慮無しに使わせてもらう。)


10順目

                 ヒーロー
京太郎(白糸台)「俺さ……正義の味方に憧れてたんだ……」タンッ

京太郎(白糸台)「みんなを守れる存在に憧れてたんだ……」

京太郎(白糸台)「でも、最近気付いた、俺が本当に守りたいもの。」

京太郎(白糸台)「それは、たった一人の女の子の笑顔なんだよ……」

京太郎(白糸台)「だから、俺はあの人の笑顔を曇らせたくねぇ……」

京太郎(白糸台)「俺は俺の『太陽』に笑っててほしいからだ!!」

京太郎(白糸台)「ツモ!500オール!」

照「京ちゃん……京ちゃんも私にとって『太陽』だよ……だから京ちゃんも笑っていて……」


清澄:31900(-500)
白糸台:61400(+1500)
宮守:45800(-500)
小鍛治:60900(-500)







南二局1本場

8順目

京太郎(白糸台)(俺はずっと照ちゃんと打ってきたんだ……)

京太郎(白糸台)(照ちゃんの打ち方を思い出せば……)

京太郎(白糸台)(よし!張った!)

京太郎(白糸台)「リーチ!」タンッ

京太郎(宮守)(さっきより早い!)

京太郎(白糸台)「まだだ、もっと晴らしてやる!」

京太郎(白糸台)「ツモ!1000オールは1100オール!」

照「大丈夫、京ちゃんならもっと輝ける、周りを照らせる。」


清澄:30800(-1100)
白糸台:64700(+4300)
宮守:44700(-1100)
小鍛治:59800(-1100)






南二局2本場

7順目

京太郎(白糸台)「リーチ!」タンッ

京太郎(白糸台)「ツモ!2000オールは2200オール!」

京太郎(宮守)(これはまるで宮永照の……)

京太郎(小鍛治)(ここいらで止めないとまずいな……)

照「ここからが正念場……」


清澄:28600(-2200)
白糸台:71300(+7600)
宮守:42500(-2200)
小鍛治:57600(-2200)


南二局3本場


6順目

照(お願い、このまま突っ切って……)

京太郎(白糸台)「リーチ!」タンッ

京太郎(宮守)(やばい、止まらない!)タンッ

京太郎(小鍛治)「ポン!」カッ

京太郎(小鍛治)「俺にはオカルトも、麻雀における非凡な才能なんかもない……」タンッ

京太郎(小鍛治)「ただ、ひたすら、34種136枚で作られる役のパターンを、対局者のタイプを見極めて打ってるだけだ。」

京太郎(小鍛治)「それを十年間繰り返して、覚え続けて来たんだよ……」

京太郎(小鍛治)「それも最高の"先生"の元で……だから!」

京太郎(白糸台)(ツモ順が……!)タンッ

京太郎(小鍛治)「だから修羅場をくぐった数だけは誰にも負けねぇぇッ!!」

京太郎(小鍛治)「そいつだ!8000は8900!」

京太郎(白糸台)「ぐっ!?掴まされたッ!」

京太郎(小鍛治)「俺は絶対に負けられねぇ……」

京太郎(小鍛治)「なにせ、俺の『ただいま』を待ってくれてる人がいるから……」

健夜「私も……『おかえり』って言えるよう、応援してるからね。」


清澄:28600
白糸台:61400(-8900)
宮守:42500
小鍛治:67500(+9900)





南三局0本場


京太郎(清澄)(上がれねぇ……このまま行ったら焼き鳥だ。)

京太郎(清澄)(これは覚悟した方が良いかな……)

京太郎(清澄)(俺、消えるのかな……)

京太郎(宮守)「…………」

京太郎(宮守)(なんて面してんだ……あいつ……)

京太郎(宮守)(まるで世界が終わっちまったみたいな顔しやがって。)

京太郎(宮守)(…………)

京太郎(宮守)(何、敵に塩を送ろうとしてるんだ……)

京太郎(宮守)(今は自分の身すら危ないってのに……)

京太郎(宮守)(…………)

京太郎(宮守)(迷った結果なら仕方ないよな?)

京太郎(宮守)(思いっきり迷った結果なら……)

京太郎(宮守)(行くぜ……ちゃんと見てろよ、清澄の俺。)

京太郎(宮守)「チー」カッ

京太郎(宮守)「ポン」カッ

京太郎(宮守)「ポン」カッ

京太郎(宮守)「チー」カッ

京太郎(白糸台)(あっという間に4副露……)

京太郎(宮守)「俺はずっと一人ぼっちだと思っていた。」

京太郎(小鍛治)(…………?)タンッ

京太郎(宮守)「ずっと一人で生きていくもんだと思っていた……」

京太郎(白糸台)(いきなりなんだ……?)タンッ

京太郎(宮守)「でもな、そう思っていた俺でも……」

京太郎(宮守)「拾われて、迷って、色々あって大切な絆が出来た。」

京太郎(清澄)(…………)タンッ

京太郎(宮守)「だから……もう――」スッ

京太郎(宮守)「俺も!」

京太郎(宮守)「お前も!」

京太郎(宮守)「もう一人ぼっちじゃねぇ!!」ダンッ!

京太郎(宮守)「ツモ!2000オール!」

豊音「京太郎君……君のおかげで、もう私、ぼっちじゃないよー……」

京太郎(白糸台)「裸単騎から一巡で……!」

京太郎(宮守)「その塞がった目を開いて、もっと周りを見てみろよ……」

京太郎(宮守)「そしたら見えてくるはずだぜ、大事なものが。」

京太郎(清澄)「……!」






実況席に目をやると今にも泣きそうな『あいつ』が居た。

いつも隣にいると思っていた『あいつ』は今は遠くにいるけど……

それでも俺はいつだって『あいつ』の笑顔を守りたいと思っている。


京太郎(清澄)(やっぱり女の子を泣かすなんて最高にかっこ悪いよな……)

京太郎(清澄)(足掻いてやる!どんなに絶望的な状態だって!!)



清澄:26600(-2000)
白糸台:59400(-2000)
宮守:48500(+6000)
小鍛治:65500(-2000)



南三局1本場

京太郎(清澄)(たった少しでもいい……少しでも点数を稼ぐんだ……)

京太郎(宮守)(これは……酷い配牌だな……)

京太郎(宮守)(他の奴らにこれ以上差をつけられるのはまずいな……)

京太郎(白糸台)(小鍛治だけは上がらせないようにしないと……)

京太郎(小鍛治)(多分流局かな……このまま逃げ切ってやる。)

18順目

流局

京太郎(清澄)「聴牌」

京太郎(白糸台)「ノーテン」

京太郎(宮守)「ノーテン」

京太郎(小鍛治)「聴牌」

京太郎(宮守)(ここに来て親流れ……痛いな……)

京太郎(小鍛治)(まだ油断は出来ないが次でオーラス、多分逃げ切れるな……)

京太郎(小鍛治)(だが、なにか嵐の前の静けさみたいな感じがするのも確かだ……)

京太郎(清澄)(これで圏内……)


清澄:28100(+1500)
白糸台:57900(-1500)
宮守:47000(-1500)
小鍛治:67000(+1500)







オーラス

京太郎(白糸台)(泣いても笑ってもこれが最後だ……)

京太郎(清澄)(この配牌……發三枚、中二枚、そして白一枚……)

京太郎(清澄)(無理やり鳴いてでも掴んでみせる……)

京太郎(宮守)(さっきは清澄以外ノーテンだったが、今度はいい配牌みたいだな……だが俺らは誰一人引く気はないみたいだぜ?)

京太郎(白糸台)(俺は俺自身のために……俺の『太陽』のために生きる。)

京太郎(小鍛治)(…………)


7順目

京太郎(白糸台)(勝つには親に5200直撃か6400のツモ……チートイにドラ二つ乗せるだけなら簡単に行けそうだな。)

京太郎(小鍛治)(点数的に白糸台、宮守の順で警戒しないといけないんだが……)

京太郎(小鍛治)(宮守・白糸台のパターンは見切っている……)

京太郎(小鍛治)(後は清澄の打ち方のパターンだが、この点数差だ、狙う手は限られてくる。)

京太郎(小鍛治)(恐らく清澄の俺は役満を狙ってくるはずだ……)

京太郎(小鍛治)(そして多分、この浮いた生牌がそのはず。)

京太郎(小鍛治)(今の内に潰しておけば何とでもなる。)

京太郎(小鍛治)(鳴け……こいつを鳴け!清澄の俺!)タンッ 中

京太郎(清澄)「ポン!」カッ 中中中

京太郎(小鍛治)(よし、食いついた、やつの役満手は封じた!)

10順目

京太郎(宮守)(俺も倍満をツモるか跳満をトップに直撃させないといけない。)

京太郎(宮守)(これでダマでも跳ね満聴牌……)タンッ 白

京太郎(小鍛治)「ポン!」カッ 白白白

咲「そんな!?」

京太郎(白糸台)(さっきの中は潰しに行きやがったのか……)

京太郎(小鍛治)(これで役満にはできねぇだろ!)

京太郎(小鍛治)(あとは宮守と白糸台に注意して逃げきるだけだ!)






京太郎(清澄)(くそっ!大三元が潰されちまった!)

京太郎(清澄)(中を鳴いちまってるから『国士無双』『四暗刻』『緑一色』『清老頭』『九蓮宝燈』は無理だ。 )

京太郎(清澄)(風牌は場に出ちまってて『小四喜』も無理。)

京太郎(清澄)(今から手を変えて『字一色』なんてとてもじゃないけど間にあわねぇ……)

京太郎(清澄)(もう残ってる役満なんて……)

京太郎(清澄)(……!!)

京太郎(清澄)(あったじゃねえか!一つだけ!)


17順目

咲(あの手……京ちゃん、もしかして!?)

京太郎(小鍛治)(潰したはずの清澄の俺が一向に諦める気配がない……)

京太郎(小鍛治)(むしろ……いや、そんなことはありえない……)


京太郎(清澄)(手は揃った……あとはあいつからあの牌を出させるだけ!)

京太郎(清澄)(来い……来い…来い!来いッ!!)

咲(お願い!来て!)

京太郎(小鍛治)(何だ?清澄の俺は一体何を企んで……)

京太郎(小鍛治)(いや、どっちにしろ奴には手がもう無ぇんだ……ッ!)

  タン

  九


咲「……!!」

京太郎(清澄)(ありがとう、咲……)

咲「来た!」

京太郎(清澄)「ははは……」

京太郎(宮守・白糸台)「「?」」

京太郎(小鍛治)「何だ?今になって勝利の女神でも微笑んだのか?」

京太郎(清澄)「微笑む……?それは違うぜ……ッ!」

京太郎(清澄)「生憎なぁ……」

京太郎(清澄)・咲「「カン!」」カッ 九九九九

京太郎(宮守)「ここで大明槓!?」

京太郎(清澄)「俺の女神はなぁぁッ!」ガシッ

京太郎(清澄)・咲「「もういっこカン!」」カッ 發發發發

京太郎(白糸台)「立て続けに……!!」

京太郎(清澄)「微笑むんじゃねぇぇッ!!」ガシッ

京太郎(清澄)・咲「「もういっこ!!カン!!」」カッ ④④④④

京太郎(小鍛治)「!!まさか!?」

京太郎(清澄)「横っ面をひっぱたくんだよおッ!!」ガシッ

京太郎(清澄)・咲「「最後のいっこ!!カン!!」」カッ 中中中中






   スゥ






京太郎(小鍛治)「引くなああぁぁッ!」


   ダンッ!

   ⅡⅡ   


京太郎(清澄)「リンシャンツモ!責任払いで32000!!」

京太郎(小鍛治)「この土壇場で捲くられた……ッ!」

京太郎(小鍛治)「それも……最も難しいと言われる役満を……ッ」

京太郎(清澄)「……俺一人じゃ、とてもここまで来れなかったよ。」

京太郎(小鍛治)「……そうか。」

京太郎(白糸台)「そろそろお姫様たちが来る頃だと思うし、とりあえずちゃんと終わっておこうぜ。」

京太郎(小鍛治)「そうだな。」

京太郎(宮守)「んじゃ、せーの――」

京太郎s「「「「ありがとうございました!」」」」


清澄:60100(+32000)
白糸台:57900
宮守:47000
小鍛治:35000(-32000)


【たった一人の対局者・たった一人の勝者】







対局室の扉が開き、ぞろぞろと人が入ってくる。

各俺の関係者達だ。


照「京ちゃん!」

京太郎(白糸台)「照さん……」

照「京ちゃん消えちゃうの……?」

京太郎(白糸台)「そういうことになるかな……」

京太郎(白糸台)「ごめんな……照さん。」

照「謝らないで……」

京太郎(白糸台)「折角、応援して貰ったけど勝てなかったよ。」

京太郎(白糸台)「ヒーローにはなれなかったな……」

照「…………」

京太郎(白糸台)「照さん、あんまりみんなに迷惑掛けちゃダメだよ?」

照「うん……」

京太郎(白糸台)「でも無理はしないように。」

照「うん……」

京太郎(白糸台)「困った時は菫さんを頼ってもいいと思うし。」

照「うん……」

京太郎(白糸台)「あまり仏頂面にならないようにね、他の人に誤解されやすいんだから。」

照「うん……」

京太郎(白糸台)「友達は大切にな。」

照「うん……」

京太郎(白糸台)「それから……」

京太郎(白糸台)「最後に、俺が居なくても妹さんとちゃんと仲直りしてくれよな……」

照「…………うん。」

京太郎(白糸台)「そろそろかな……」

照「!……」






行っちゃ、やだ。

行かないで、京ちゃん。

私まだ、あなたに伝えてない事があるんだよ……

今まで思っていたあなたへの気持ち……

だから、もうちょっとだけ待って。

今、勇気を出すから。

あとちょっとだけまってよ……京ちゃん……


照「京ちゃん……」

京太郎(白糸台)「照さん……」

照「京ちゃん、大好き……」

京太郎(白糸台)「ああ、俺もだよ、『照ちゃん』。」

照「!……行か……ないで……」


私は京ちゃんに抱きつこうとしたが……

少し遅かった。

抱きつく瞬間、京ちゃんは煙のように霧散してしまった。

消えていった京ちゃんを見て、自分でもわからないくらい涙が流れる。

頑張って我慢しても嗚咽は出てしまう。


照「……ウッ……ウッ……」






さよなら愛しい人、さよなら初恋の人。

両思いだとしても実らない恋もあるんだ……

初恋は実らないって聞くけど、こんなに辛い物だとはしらなかった……


後で咲と仲直りしよう、そして仲直りしたら、思いっきり泣こう。

だからあとちょっとだけこのまま泣いててもいいよね?






健夜「京太郎君……」

京太郎(小鍛治)「すみません、負けちゃいました。」

健夜「京太郎君は良く頑張ったよ……」

京太郎(小鍛治)「これから俺はいなくなっちゃいますけど……」

京太郎(小鍛治)「早くいい結婚相手を見つけておじさん達を安心させてくださいよ?」

京太郎(小鍛治)「あと、あんまりお酒とか飲みすぎて、体を壊したりしないでくださいね。」

京太郎(小鍛治)「それと恒子さん、こんなダメな人ですが、よろしくお願いします。」

恒子「任せなさい、京太郎君!」

健夜「京太郎君、これからいなくなっちゃうっていうのに、私の事の方が心配なんだ……」


ダメだ、せめて笑って送り出そうと思ったのに声が震えてしまう……

我慢しているのに、涙が零れてしまいそうになる……


京太郎(小鍛治)「健夜さんは意外とそそっかしいところとかあるんで放っておけないんですよ……」

京太郎(小鍛治)「まあ、おじさん達がいるから大丈夫だとは思いますけど。」

健夜「うん、京太郎君……はい。」


私は堪える涙を見られぬように手を広げて、彼を抱きしめた。


京太郎(小鍛治)「……健夜さん、いや――」

京太郎(小鍛治)「いままで……ありがとうございました、『姉さん』。」


彼は、私の腕の中で煙のように消えていった。


健夜「京太郎君、私こそありがとうね……自慢の『弟』だったよ……」

恒子「すこやん……今夜は一緒に飲みに行かない?」

健夜「うん、ありがとうね……こーこちゃん……」


今夜は、今夜くらいはヤケ酒を呑んで愚痴を溢してもいいよね?

ちょっと思い出話と『弟』の自慢も入るけど。

祝勝会が出来なかったのは残念だったよ……

大丈夫、いつかは立ち直るから……だから、今夜だけは飲もう、飲んで泣いちゃおう。






京太郎(清澄)「なあ、なんであの時俺にはっぱかけたんだ?」

京太郎(宮守)「俺はお前でもあるからな……」

京太郎(宮守)「お前が湿気た顔してたから昔の自分を思い出したのかもな……」

京太郎(宮守)「ま、それで負けてるんだから世話無いな。」

豊音「京太郎君……」

京太郎(宮守)「豊音さん、友達、大事にしてくださいね。」

京太郎(宮守)「それと、シロさんにはちゃんと自分で動くように言って置いてください。」

京太郎(宮守)「あとみんなには『今まで迷惑かけてごめん』と伝えておいてください。」

豊音「……うん、わかったよー……でも。」

豊音「誰も迷惑かけられたなんて思ってないよー。」

京太郎(宮守)「そうですか、それはよかったかな……」

京太郎(宮守)「トシさん他の二人が消えていったのは……」

トシ「多分、"納得"したからだろうね……」

京太郎(宮守)「やっぱりそうでしたか……」

京太郎(宮守)「みんなのことをよろしくお願いします。」

トシ「言われるまでもないさ……」

京太郎(宮守)「そうでしたね。」

京太郎(宮守)「それじゃあ、みなさんお元気で、また会った時はよろしく。」

豊音「……!」


そう言い残した彼は消えていった……

私が望んで引いた友の手は、今度は運命が友を引いてしまって行った。

言い知れぬ感情が私の心を支配する……


豊音「京太郎君……ちょー……さみしいよー……」


ぽろぽろと私の頬を伝うもの理由は、かけがえのない友との別れの為か、それとも……

ただ、今となっては確かめるべき相手はいない。

例えこの感情がなんなのかとわかっても、帰ってこない相手には伝えられない。

彼は帰ってこないのだ……


トシ「豊音……今は思いっきり泣いておきなさい。」

豊音「……熊倉先生は、泣かないんですか?」

トシ「……みんなに伝えた後、私は外で泣くよ。」

トシ「しかし、あの子も随分あっさりいったねぇ……」

トシ「『また会った』時か……年功序列で私が最初に会うんだろうか……」


そう言って熊倉先生は対局室から出て行った。

涙で霞む視界ではあったが熊倉先生の目には薄っすらと涙がたまっていた気がした。






咲「京ちゃん。」

京太郎(清澄)「咲、勝ったぞ。」

咲「うん……おめでとう……」

京太郎(清澄)「ありがとう、と言っても、この場じゃ素直に喜べないけどな……」

咲「……みんな、泣いてるもんね……」

京太郎(清澄)「しかし、勝ったと思ったら急に疲れが出てきたよ。」

咲「大丈夫、京ちゃん?」

京太郎(清澄)「ああ、問題な――」






おかしい、俺の足に力が入らない……

気が抜けたからか、それとも他の俺が消えたからか。

体が傾く刹那、咲の瞳が見えた。

なにそんなにびっくりした顔してるんだ?

徐々に地面が迫ってくる。







地面と衝突する瞬間、地面が水面へと変わった。








海のような広大な水の中に俺一人沈んでいく。

中から見る水面はきらきらと輝いていた。


ああ、なんて気持ちが良いのだろう。

このまま水の中に沈んでいたい。


そんな感情に浸っていると、俺の顔をした何かがやってくる。

一つが俺に重なって入ったと思ったら、頭の中に映像が浮かんできた。


ここは東京だろうか俺の家がある。

あ、照ちゃんがいる。

小学生の時の記憶だな。

今度は中学生の時の記憶か。

照ちゃんと麻雀やってる……ははは、この頃の俺って麻雀下手だな。

次は高校生になってからだ。

先輩と話している。

淡もぶー垂れながら俺に絡んできた。

菫さんとはなんか同じ苦労話をしてたな。


でも、何でこんなこと知っているんだろう……






また俺が入ってきた。

頭の中に映像が浮かんでくる。

茨城の家だ。

おじさんとおばさんがにっこりと笑っている。

健夜姉さんが俺の後ろから麻雀を教えてくれてる。

夜には姉さんと一緒に寝てる。

次は俺が中学生の時の記憶……

インターミドルに出て初めて勝ったときのだ。

姉さんはうれしそうな顔をしている。

同時にちょっと困った顔をしていた。

今度は高校に入った時の記憶……

地区予選突破したから姉さんに報告した。

姉さんもおじさんもおばさんもうれしそうだった。

でもやっぱり姉さんはちょっと困った顔をしていた。

今度のは恒子さんに出会ったときの記憶……

姉さんがいじられてる。

なにか新鮮な気がした。

滅多に見られない姉さんだった。


なんでそんな事がわかるのだろう……

映像をみると言うよりは、思い出すと言う感覚に近い。







三つ目の俺が入ってきた。

何かの施設だろうか。

あまり記憶に残ってない。

トシさんと出会った。

トシさんの家に引き取られた。

トシさんに連れられて暗い洞窟に入った。

暗くて何も見えない。

誰も居ない怖さをここで知った。

その内声が聞こえた。

女の人の声だ。

女の人と洞窟を抜けて顔をみる。

シロさんと俺の顔は泥で汚れていた。

思わず笑ってしまった。

次の記憶。

塞さんと出会った。

塞さんは俺の傷を塞ぐと言ってくれた。

何故か心が温かかった。


今度は豊音さんと会った時の記憶。

何も無い村にひっそりと建っていた家屋。

中に入ると何も無いような部屋に豊音さんがぽつんと座っていた。

何か驚いていたようだ。

友達がいないと言っていたので、俺が友達になると言った。

豊音さんはうれしそうな顔をしていた。






高校に入ってからの記憶。

麻雀部に入ってみた。

そこには見知った顔が二人居た。

塞さんとシロさんだ。

ちょくちょく会っていたので感動の再会とは行かなかった。

胡桃先輩もいる。

マナーにうるさく、小さい事を気にしていた。

それから部室にトシさんが入ってくる。

どうやら顧問だったようだ。

ちょっとだけ時間が飛んで部室に入ると豊音さんがいた。

制服姿を見るのは新鮮だったかも。

エイスリン先輩もやってきた。

初めは言葉が通じなくて苦労したけどジェスチャーで意思疎通した。

その内に小さいボードをプレゼントしてみた。

これでみんなと話せると思って喜んでいたようだ。

結局、絵だけでは要領を得ないのでシロさんと俺が翻訳するはめになっていたのだが……


どうしてこの出来事を知っているのだろう……

いや元々知っているんだ、思い出しているんだ……





ああ、そうかどれもこれも全部含めて"俺"なんだ。

全部ひっくるめて俺だったんだ。

全てを思い出した俺のところに何かがやってきた。

そのなにかは誰かは見覚えのある顔をしていたがはっきりとはわからない。

そのなにかは俺の手を掴み、水面まで引っ張り上げていく。

水面近くまで来ると、何かが聞こえてきた。


……ちゃ……う……ちゃん……きょ…ちゃ…


聞き覚えがある声だ。


「……咲?」

「京ちゃん!」

咲「もう京ちゃん、いつまで寝てるの?」

京太郎「わりー、……昨日から徹夜でゲームやっててさ。」

咲「何のゲームやってたの?」

京太郎「……麻雀。」

咲「京ちゃん、少しは上手くなったの?」

京太郎「まぁ、少しはな。」






ああ、そうだ思い出した。

これから俺はやり直すんだ。

咲にもう一度麻雀をやらせる為に。

咲と照ちゃんを仲直りさせる為に。

今まで力になれなかったみんなの為に。

そしてみんなの力になれなかった無力な俺の為に。

俺は何回もやり直したんだ。

白糸台の俺が育んできた十年。

小鍛治の俺が打ってきた十年。

宮守の俺が迷い続けて、救われた数年。

全部ひっくるめた俺の人生。

そして俺を引っ張り上げたあいつ。

ここから始まる、これから始まる。

本当の俺が打つ麻雀が……






優希「おい!犬!咲ちゃん!早く打とうじぇ!」

京太郎「おう、今から鍛えてやるぜ。」

優希「犬の分際で私を鍛えるとか何事だじぇ!?」

咲「……自信あるんだね。」

京太郎「死ぬ思いをしてまで頑張ったんだ、そのくらいはあるさ。」

京太郎「俺の集大成が通用しなかったら姉さんやトシさんに笑われちまう。」

咲「???」

咲「誰?トシさんって?それに京ちゃん一人っ子じゃなかったっけ?」

和「それより早く打ちましょう。」

京太郎「んじゃ、まずは咲に六曜対策を、タコスには九面対策を、和には塞さんの……いや、普通(小鍛治)に打つかな。」

和「何のお話ですか?」

京太郎(真)「気にすんな、それより始めようぜ。」ゴッ





優希「私の親だじぇ!」

京太郎(真)「まずは照魔鏡かな、ついでに照ちゃん対策も仕込むか。」

咲「え?」

京太郎(真)「どうした、咲?」

優希「とりあえず先制リーチ!」

和「3順目でリーチ……」

優希「ツモ!6000オールだじぇ!」

和「一発ですか……」

咲「流石優希ちゃん……」

優希「どうした犬!さっきの威勢は何所に行ったんだじぇ!?」

京太郎(真)「安心しろ、まだ始まったばかりだ。」

京太郎(真)「それに大体わかったし。」






優希「ふふん、またリーチだじぇ!」

京太郎(真)「そうか俺も追っかけリーチだ。」

和・優希・咲「!?」

優希「犬が追っかけリーチとかまぐれに決まってるじぇ!」

優希「それにこれを引けば……!?」

京太郎(真)「わりぃが少しだけ『塞』がせてもらった。」

京太郎(真)「咲、これからやるのが先負だ。」

優希「まさか……」タンッ

京太郎(真)「ツモ、……裏無し、2000・4000。」

咲「これが先負?」

京太郎(真)「そういうこと。」

和「すごい偶然ですね。」

京太郎(真)「……和には対策いるのか?不安になってきたぞ……」ショボン

優希「次だじぇ!次!」

和「はいはい、優希は落ち着いてくださいね。」






京太郎(真)「チー」カッ

京太郎(真)「ポン」カッ

京太郎(真)「ポン」カッ

京太郎(真)「チー」カッ

優希「鳴いてばっかでどうするんだじぇ、手がバレバレだじょ。」

京太郎(真)「俺も、お前も、ぼっちじゃねえよ……」ボソッ

京太郎(真)「ツモ、1300・2600」

京太郎(真)「これが友引だ。」

和・咲「!」

咲「裸単騎からの一巡目で和了……これが友引……」

和「須賀君!点数計算が出来るようになったんですね!」

京太郎「あれ!?そこ!?」

和「だって4飜30符・3飜60符以下の計算出来てなかったじゃないですか!」

京太郎「実は満貫すらも怪しかったんだけどなー」

優希「!!そういえばそうだじぇ!」

咲「きっと隠れて特訓したんだよ。」

優希「誰に教えてもらった!」

京太郎「ふふん、某国内無敗のプロと某今年のインターハイ王者と言っておこうか!」

優希「おう……犬の妄想が迸ってるじぇ……」

和「で、本当のところはどうなんですか?」

京太郎「姉さんと幼馴染。」

優希「咲ちゃんか!」

咲「え?私教えてないよ!?」

京太郎「咲とは中学からだもんな。」

京太郎「さっきの二人は小学の頃からの付き合いだ。」

和「お姉さんなのに小学生からなんですか?」

京太郎「……複雑な家庭環境でして。」

咲「京ちゃん、ちゃんと目を見て話そうよ……」

優希「京太郎……モテないからってそういうゲームに手を出して妄想するのはよくないじぇ……」

和「そういうゲーム?」

優希「18禁のエッチなゲームだじぇ」

和「須賀君……」ジトー

京太郎「違うって!誤解だって!」

優希「大丈夫だじぇ!エッチなゲームをしてるからといって見捨てないじぇ!ダーリン!」

京太郎(真)「もう怒った!てめぇにはもう親番回さねぇ!」






久「元気ねぇ、部室の外まで聞こえてきたわよ?」

まこ「高校生はそんぐらいでちょうど良いんじゃ。」



優希「ひどいじぇ……」

優希「特に連荘中に『ちょいタンマ』をしたときは……」

咲「京ちゃんの下家だったから私にも回ってこなかった……」

咲「ダブロンしても京ちゃんの方が優先されちゃうし……」

京太郎(真)「頭ハネって便利だよな……」

咲「そもそもなんで私が鳴いたら3回もカンするの!?」

京太郎(真)「照魔鏡って便利だよな……」

和「SOA、SOA、SOA……」

京太郎「……なんかごめんなさい。」

和「ハッ!?今小さい須賀君と遊んでました!」

京太郎「和……ついにネット麻雀のやりすぎで頭が……」

和「そんなオカルトありえません。」

久「一体ここ数日でなにがあったのかしら?」

まこ「きっと血の滲む様な努力をしたんじゃろう。」

京太郎「ええ、そりゃもう数十年分の努力ですよ。」

久「まだ15歳なのに数十年とはおかしな話ね?」

京太郎「……それだけ密度の濃い特訓だったんですよ。」






『俺たち』が、自分の存在を懸けたあの対局は……

『俺たち』にはスタートだったんだ、みんなにとってはゴールでも。

多分、照ちゃんも、健夜姉さんも、トシさんや豊音さんと会っても『俺たち』の事は分からないかもしれない。

それでも確かに会ったし、在ったんだ。

『俺たち』の出会いも、『俺たち』の人生も、確かに在ったんだ。

今度どこかに遊びに行こう。

ありったけの小遣いを使ってみんなの所に行ってみよう。

例えみんなが、『俺たち』のことを思い出さなくてもいい。

ただ、みんなに会いたいんだ。

この世界でも。

いや、どの世界でも……

みんなに会いに行きたい。


【重なった世界・やり直した世界】

京太郎(清澄)・咲「「カン!」」