誘いのメールに断りの旨を返す。

昨年も麻雀部から同窓会の誘いは届いたが断っていた。

アカギさんや傀さん、哲さん達と打つ先約があったしその方が楽しいからだ。

南4局までは続かずトバされるのが、高校時代からのほぼお決まりと言っていい。

それでも楽しいと思えるのはなんなのか。生き延びた証というべきか。

靴。腹にブチ込まれたアカギさんの一撃は忘れられるものではない。

高1、夏の全国大会間もない頃。

ノーレートの雀荘で知り合ったアカギさん達3人に東1局でトバされた半荘3回。

自身の無様さとイラ立ちでイチャモンをつけた。

外へ出な、アカギさんに言われついていった。

殴り合いというには程遠い遣り取り。

俺への憐憫でパンチを2、3発喰らってくれただけだろう。

殆ど俺がボコられただけだった。麻雀で勝てない俺の無様な八つ当たり。

それさえも大笑いと暴力で叩き伏せられた。

ただ、色んな意味で吹っ切れる理由にはなった。

あれだけ弱さと劣等感に振り回された自分はどこにもいなくなっていた。

蹴られ殴られている時は早くここから逃げたいとしか

考えていなかった自分を思い知らされたからだ。

俺は麻雀が弱い。それでも俺は俺でしかない、と。

どうにかこうにか家に帰って家族からは心配されたが、

喧嘩した、と告げたら次は勝ってこいと親父にドヤされた。

咲達の祝勝会などで部活はしばらくなかったことも幸いして、

治療に専念することができた。

殴られまくった肉体の回復のためとにかく動くことにした。

翌朝。重り、保冷剤、水をリュックサックに入れ背負う。

近所のファミマでサンドイッチを買って無理にでも食べる。

そしてひたすら歩き回る。5分もせず吐いた。

水で口を洗う。また口に詰め込む。歩く。今度は10分保ったが吐く。

ロクな状態じゃなかったが決してやめない。

真夏の暑さと気分の悪さに加え体中に走る痛みが、

勝てない自分のどうしようもない惨めさを薄れさせてくれたからだ。

やがて吐くまでの間隔が長くなり、昼過ぎには吐かなくなった。

100メートルを全力ダッシュ。熱の暑さで汗は出たが、

前の晩のような冷や汗ではなかった。

落ち着いて普通に歩き始めると空腹感があった。

目についたミニストップに寄り、握り飯と冷たいほうじ茶を買う。

店内の飲食スペースの椅子に腰を下ろし茶を飲んだ。

足の指先にまで染み渡るほど気持ちよかった。

握り飯の包装を取り、海苔で飯の部分を包む。

また戻すかもしれないと怖くもあったが、食欲には勝てなかった。

あの時の、海苔をかんだバリッという音は未だに鮮明だ。

まあ、それ以来マシなレベルにはなれた。

他家のロン牌を握ると、アカギさんや傀さんの笑い声が

空耳で聞こえてくるからだ。放銃が減るだけでも随分と違う。

ただ、それだけとも言えた。

ツモられて削られるはするし、自分がアガれない以上

勝ちの目は殆ど無いままだ。

高校の3年間は見切れ、とはアカギさんの言である。

実際女子に比べれば大した結果は残せなかったのが男子だ。

高3での個人戦は県大会3位に終わり、1年下の後輩が俺を下し全国への切符を勝ち取った。

しかしそいつも一回戦で負けた。

団体戦は県の準決勝で敗北しベスト8止まりである。

咲や和たち女子は2年の時こそ団体全国3位だったが、3年でまた全国優勝を果たす。

女子個人に於いては咲が優勝、和も優希もベスト8入りとなった。 

逆恨みをしなかったわけではない。嫉妬も羨望もあった。

なぜ自分だけが、と口に出かかったことも一再ではない。

ただ、その感情が長続きしなかっただけだ。

割と早く薄れてしまったという言い方が適当だろう。

とはいえ、薄れたのは逆恨みだけに限った話でもないのだが。