――実況席控え室――


京太郎「んじゃ、ちょっと個人行って来ます。」

健夜「行ってらっしゃい、頑張ってきてね。」

京太郎「健夜さんもお仕事頑張ってくださいね。」

恒子「京太郎君、健闘を祈る!」

京太郎「いってきます。」



恒子「ねぇ、すこやん?」

健夜「ん、なにこーこちゃん?」

恒子「京太郎君って実際どのくらい強いの?」

健夜「んー、地力だけなら間違いなく男子ではトップクラスだと思うよ?」

恒子「へーそんなになんだ。」

健夜「ただ、勝負は時の運だからね、運が左右する麻雀なら尚更どうなるかわからないよ。」

健夜「それに今回京太郎君にとっては初めてのIHだから、例え優勝出来なかったとしても得られるものがあると思うんだ。」

恒子「ほうほう、すこやんの今の口ぶりだと京太郎君なら優勝出来るって思ってるね?」

健夜「まぁ、自慢の弟だから、ね。」

恒子「それって単なる親の欲目ってやつじゃないよね……」

健夜「ちゃんと先生としての評価だよー」





――白糸台控え室――


京太郎「おっと今日は男子の個人もやるんだっけか……」

京太郎「小鍛治の俺も出るみたいだからチェックしとくか。」

京太郎「今は男子個人を見てても大丈夫だよな。」

――――――
――――
――


菫「ん?もしかして男子の個人か?」

京太郎「あーはい、俺は出れなかったけどちょっと気になりまして。」

誠子「男子の方は日程が先行してるからなー。」

菫「…………」

菫「君ももしかしたら本戦に出れたのかもしれないのにな……」

尭深「地区予選決勝前にあんな事が起きなかったら……」



自由安価

京太郎(白糸台)が決勝に個人的な理由で出られなかった原因

↓5



281 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage] 投稿日:2012/09/11(火) 18:40:04.91 ID:QdXDxNHSo
誘拐された菫さんを助けに行ってた



安価:誘拐された菫さんを助けに行ってた

――西東京・男子個人地区予選決勝前――


照「ついに決勝まで来たね、京ちゃん!」

菫「これで次を勝ち抜けば全国出場だな。」

京太郎「あ、あんまりプレッシャーかけないで下さいよ……」

菫「白糸台で男子全国はまだ出てないからな、いやでも期待してしまうよ。」


俺を応援しにきた二人だが、決勝前の緊張を解しにきたのかよくわからない部長はからかい気味に笑っていた。

菫「どれ、全国がかかってる後輩を労う為にもジュースを奢ってやろう。」

照「9本でいい。」

菫「9本もいらんだろ!そもそもお前には奢らん!」

照「えー」

京太郎「ははは、やっぱり二人は仲いいですね。」

京太郎「じゃあちょっと飲み物買ってきますね。」

照「あ、私も行く!」

菫「行ってしまった、あ、私が奢るはずだったのに!?」

菫「まったく、あいつらに付き合うと調子が狂わされるな……」

――その数分後――

男A「あの娘だな。」

男B「ああ、くれぐれも傷付けるなと旦那様からのお達しだ。」



男A「あなたが弘世菫さんですね?」

菫「?はい、そうですが?」

男A「失礼します。」バッ

菫「?むぐ……!」

男B「おい早くしろ!」

菫「んー!んー!」ジタバタ

男A「車に乗せてくれ!」

菫「んー!」ジタバタ






京太郎「部長ー?」

照「菫の奴、私たちに飲み物買いに行かせて自分は迷子か!」

京太郎「なぁ照ちゃんあれって?」ユビサシ

照「あれ菫じゃない?何遊んでるんだろ?」

京太郎「……?」

菫「!……んー!!んー!!」ジタバタジタバタ

京太郎「!」ダッ

照「あ、京ちゃん!?」

男A「乗せたぞ!車を出せ!」

男B「あいよ!」

京太郎「待て!」


ブオン、ブウウウン……


京太郎「!……逃がすかよ!」バッ


気付いたら車に手を伸ばしていた、だが車に掴ったも虚しく、引き摺られ車が発進した2、3m先で落とされてゴロゴロと転がってしまった。


京太郎「ぐ、いってー!」

照「京ちゃん大丈夫!?」

京太郎「!……そうだ!照さん携帯電話ある!?」

照「あるけど……」

京太郎「以前照さんの迷子対策に買った携帯のGPSを使えば!」

照「無茶だよ!京ちゃん傷だらけだよ!?」

京太郎「無茶かどうかはやってみなきゃわからないだろ!」

京太郎「……」

京太郎「よし!繋がった!」

京太郎「今から部長を追ってくる!」

照「ちょ、ちょっと!?京ちゃん!?」

京太郎「すいません!自転車借ります!」

おじさん「え?え?あ、どうぞ……」

京太郎「ありがとうございます!」





男A「しかしいいんだろうか……こんな荒っぽい方法で……」

男B「仕方ないだろ、命令なんだから……」

菫「んー!んー!」

男A「出来れば大人しくしてて下さい……」

男B「……!あいつ追って来てるぞ!」

男A「なんだと!?振り切れ!」

男B「分かってるって!」



京太郎「くそ!スピードを上げやがった!」

京太郎「唸れ!俺の健脚!ここで魅せなきゃどこで魅せるって言うんだ!」

京太郎「うおおおおぉぉぉ」



男A「げぇ!?あのガキ追いついてきやがった!?」

男B「なんなんだよあいつ!?」

男A「振り切ってどっかに逃げ込め!」

男B「わ、わかった!」


京太郎「今度は曲がりやがった!」

京太郎「だがこっちも伊達に十年ここに住んでたわけじゃないんだよ!」





――廃工場――

男A「おい、追ってきたやつはいなくなったぞ!」

男B「振り切ったか……」

菫「んー!」



京太郎「GPSからみて、ここか、真正面からは得策じゃないな。」

京太郎「奇襲をかけて一人ずつ確実に倒していこう……」


奇襲コンマ安価

↓3

00~20 失敗

21~99 成功


297 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage] 投稿日:2012/09/11(火) 21:03:59.32 ID:BI7duYdbo
とう


カラン


男A「おい、今の音……」

男B「ま、まさか……」

男A「ちょっと見てくる……」

男B「お、おう、気をつけろよ。」


タッタッタ……

……

ウワー!

男B「お、おい!?大丈夫か!?」

京太郎「大丈夫だぜ?たんこぶは出来てるかもしれないが。」

男B「な、なんでお前が!?」




              ヒーロー
京太郎「女の子を救いにくるのは英雄の役目だからな。」

京太郎「さぁ返してもらうぜ、"うちの部長”を。」

男B「くそ!やられてたまるか!」


戦闘コンマ

↓3

00~29 成功

30~99 失敗


304 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本)[sage] 投稿日:2012/09/11(火) 21:14:20.67 ID:2tsuRqI1o
こうか?


残念!失敗だ!

すまん、別に一回でどうこうなるわけじゃないんだ……
ただ京太郎の怪我の具合が変わるだけで……


男B「おら!」

京太郎「ぐ!?」

男B「さっきまでの威勢はどうした!?」

菫「んー!んー!(やめてくれ!やめてくれ!)」

京太郎「はぁはぁ……」ユラリ

男B「まだ立ち上がるかこいつ……」






京太郎(くそ、一気に倒せたらいいんだが……)

菫「んー!(もうやめてくれ!須賀!これ以上怪我したら……)」

京太郎「どうした?俺はまだやれるぜ?」

男B「さっさと倒れろこのガキ!」


戦闘コンマ

00~49 失敗

50~99 成功

↓3


315 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2012/09/11(火) 21:28:12.39 ID:TAaXrvVlo
とう




男B「さっさと!倒れろよ!この!」ガッガッガッ

京太郎「う!?がは!ぐわ!?」

菫「ウッ……ヒッグ……(もう立たないでくれ……須賀……私なんかのために傷つかないでくれ……)

男B「はぁはぁ……これで……どうだ……」

京太郎「まだだ、まだ俺は立てるぜ……」

男B「なんだよこいつ……なんなんだよこいつー!」


戦闘コンマ

00~49 失敗

50~99 成功

↓3


323 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2012/09/11(火) 21:39:07.53 ID:TAaXrvVlo
ほい



京太郎(これ以上貰ったら体が持ちそうに無い……)

京太郎「一気に決めさせてもらうぞ!」

男B「てめえを潰して、俺は勝つ!」

京太郎・B「うおおおおぉぉぉ!」

男B「うらぁ!」ブンッ

京太郎「ぐっ!」

京太郎「まだだ!」

男B「こいつ受けるのを覚悟の上で……!」

京太郎「せい!はっ!」

男B「がっ!ぐは!」

京太郎「これを食らえ!!」

京太郎「一子相伝の技を見よ!」ゴッ

京太郎「斬!」ガッ

男B「あぐ!?」

京太郎「空!!」ダンッ

男B「がは!?」


  天翔剣!!


男B「こんな、こんなガキに……」バッターン
                 ヒーロー
京太郎「俺は、俺は誰かの笑顔を守れる英雄になりたいんだ……」






京太郎「大丈夫ですか、部長?」

菫「……君はばかか?大丈夫じゃないのは君の方だろう!」

菫「こんなに傷だらけになって!こんなに殴られて!」

菫「その上決勝まで放り投げて……」ポロポロ

京太郎「いいじゃないですか……」

京太郎「部長が無事だったんです、俺にはこれ以上望むなんて贅沢は出来ません。」

菫「君は、本当に、ばかだな……」ポロポロ

菫「最高の大馬鹿者だ……」

京太郎「その大馬鹿者は人の笑顔が大好きなんです。」

京太郎「だから、笑ってください、部長。」

菫「うん、ただし、戻ったら説教してやるからな?」


そういって部長は涙を零しながら笑顔を見せてくれた。





――現在・白糸台控え室――


照「結局あのあと京ちゃんが入院したし……」

照「心臓が止まるかと思ったよ……」

京太郎「あ、あはは……」

菫「君には本当に悪い事をしたな……」

京太郎「気にしないで下さい。」

京太郎「俺は決勝より大事なものを選んだだけです。」

京太郎「その選択自体に後悔はありませんよ。」

京太郎「まぁその後入院中の特典でお返ししてもらいましたし?」

淡「え、なになに?何があったの?」ワクワク

照「あ、そうそう菫がねーナース服を着て――」

菫「照!それ以上お前は喋るな!」

照「えー、菫あの姿にあってたのにー」ブー

菫「…………」プルプル

尭深「それは詳しく、聞きたいですね……」

誠子「たしかに……」

菫「お前らー!いい加減にしろー!」

淡「きゃースミレが怒ったー!」





――宮守控え室――


塞「それじゃ行って来ますね。」

シロ「ダル……いけど、がんばる……」

豊音「緊張するよー……」

胡桃「大会でマナー悪い人とかいないよね?」

エイスリン「キョータロー、オウエンシテネ?」

京太郎「頑張ってきてください!」

トシ「無茶しないようにね。」


みんなを見送ったあと、俺は残ったとトシさんに振り向く。


トシ「で、京太郎、話はなんだい?」

京太郎「よく分かりましたね。」

トシ「そろそろ付き合いも長いからねぇ。」

京太郎「お見通しってことですか……」

京太郎「……今日飲み物を買いに行った時に……自分と会いました。」

トシ「……そうかい。」

京太郎「……あまり驚かないんですね。」

トシ「この年にもなると多少の事では驚かなくなるんだよ。」

京太郎「生まれは同じでしたが、途中で選んだものが違うようでした。」

トシ「ほう。」

トシ「でもそうか……そういうことだったんだね。」

京太郎「?」





トシさんは少し考えたあと何か合点がいったように言葉を漏らした。


トシ「いや、なに、あんたと初めて会ったときのことを思い出してね。」

トシ「まさか文字通り『割けている』とはね。」


『割けている』とはどういうことだろう……

疑問が浮かぶが恐らく"俺たち"に関連することなのは想像に難くない。

トシさんがモニターを指して聞いてきた。

ちょうど男子個人が始まったようだ。


トシ「この小鍛治京太郎ってのがそうなのかい?」

京太郎「ええ、会った中での一人ですが……」

トシ「……会ったのは一人じゃないのかい?」


少しトシさんの目つきがきつくなった気がした。

そんな微かな変化に戸惑いながら答える。


京太郎「あー、はい、3人の俺と会いました。」

トシ「他には誰かいなかったかい?」

京太郎「えーと、シロさんぐらいですかね。」

トシ「そうかい……」


トシさんは何か思い悩んだ表情を浮かべながら溜め息を吐いていた。


京太郎「あの、トシさん?」

トシ「ああ、ちょっと考え事をしてたんだよ。」

トシ「この話を知ってるのは宮守の中ではシロだけなんだね?」

京太郎「はい、そうです。」

トシ「シロは先鋒だから他の子より早く戻ってくるだろう、その時また話を聞かせてもらおうかねぇ。」

京太郎「シロさんが何か関係してるんですか?」

トシ「いや、ただ単に他の京太郎達を直に会ったシロの感想を聞きたくてね。」

京太郎「はぁ……?」

トシ「それより、京太郎、あんたやっぱり男子個人に出たかったかい?」

京太郎「そりゃ出たかったですけど、あれは仕方ないですよ。」

トシ「まさか地区予選当日、雪で家から出られなくなるとはねぇ。」

京太郎「そうそう、みんなが来てくれて雪かきしてくれたんですよね。」

京太郎「女子の方は元々別の日でよかったですよ、まったく。」





――――――
――――
――




シロ「ただいま……」

京太郎「お疲れ様です、シロさん。」

トシ「ご苦労様、シロ。」

シロ「先鋒ってダルいな……」

トシ「戻ってきて早々悪いけど、他の京太郎について聞かせてもらいたいの。」

トシ「出来ればエイスリンが戻ってくる前に、ね。」

シロ「……わかりました。」

シロ「それで、何について?」

トシ「他の京太郎達にあった時の印象を聞きたいねぇ。」

シロ「うーん……」

トシ「あんたの直感でいいよ。」

シロ「……迷ってる?」

京太郎「?」

シロ「というより、迷った末に選んだ結果の京太郎……かな。」

トシ「そうかい……」

トシ「ありがとうね、シロ。」

京太郎「今ので何かわかったんですか?」

トシ「ああ、ちょっと確認を取りたかっただけだよ。」

トシ(深刻な事態にならなければいいんだけどねぇ……)






――清澄控え室――

和「ほら行きますよ、優希。」

優希「犬!私がいないからって寂しがるんじゃないんだじぇ!」

京太郎「ないから、さっさと行って来いタコス。」

咲「じゃあ行ってくるね、京ちゃん。」

京太郎「おう、頑張って来いよ、咲。」



京太郎「さて、俺に出来る事をやりますか。」





――選手控え室――


咲「まさかこうして全国まで来ちゃうなんてね。」

和「でも咲さんがこうして再び麻雀をするようになったのって須賀君のおかげなんですよね。」

咲「そうそう、京ちゃんが私を無理やり麻雀部に引っ張ってこなかったら今頃……」

咲「……あれ?」

和「?」


――自分で言っていて一つの疑念が〔生まれてしまった〕

あのとき京ちゃんが私を麻雀部に誘ったから今私はここにいる。

でもそれは食堂で京ちゃんがたまたま麻雀のゲームをやってたのが発端だ。

そう、京ちゃんが食堂で、

"たまたま"私の隣で麻雀ゲームをやりだし、

"たまたま"私に麻雀の事を聞き、

"たまたま"私の反応に見て、

"たまたま"私を半ば強制的に麻雀部に誘った。

こんな偶然があるんだろうか……

勘繰りたく無いのに、勘繰ってしまいたくないのに、一度走り出した思考が止まらない。

そんな思考の迷路に迷いそうな時、私に掛けられた声で現実に引き戻された。


和「…き…さん、咲さん?咲さん!」

咲「ふぇ?」

和「もう、どうしたんですか?いきなりぼーっとしちゃって……」

咲「あ、ごめんね……」

和「これから試合が始まるんですからしっかりしてくださいね?」

咲「あはは、そうだね。」

咲(そうだ、今は目の前の事に集中しないと……)







咲「……」

和「私達まで出番が回ってきませんでしたね……」

咲「うん、ちょっと残念かな?」

和「戻りましょうか?咲さん。」

咲(後で京ちゃんに聞くべき……なのかな……)






――清澄控え室――

優希「戻ったじぇ~寂しくて泣いてなかったか、犬~?」

京太郎「寂しくねっつーの。」

まこ「戻って来て早々騒がしい連中じゃのう……」

久「須賀君お使い頼めるかしら?」

京太郎「分かりました。」

優希「ついでにタコスも頼むじぇ~」

京太郎「あいよ~」

久「私たちは先にホテルに戻ってるわね。」




咲「あ、京ちゃん!」

咲(どうしよう……ちゃんと京ちゃんに聞いてみるべきかな……)

京太郎「お、咲、ついでに何か買ってくるか?」

咲「え、えーと特には無いかな?」

京太郎「そうか、なら買出しに行ってくるわ。」

咲「あ、うん、いってらっしゃい。」

咲「……あ。」

咲(結局聞きそびれちゃったな……)

――――――
――――
――







京太郎(清澄)「お?」

京太郎(白糸台)「ん?」

京太郎(清澄)「白糸台の俺か。」

京太郎(白糸台)「やっぱり何か妙な気分だな、自分と話すなんて。」

京太郎(清澄)「確かに、でもちょうど良かった、お前に話しがあったんだよ。」

京太郎(白糸台)「そいつは奇遇だな、俺もだよ。」

京太郎(清澄)「ここじゃ何だし、別のとこで話そうぜ?」

――

京太郎(清澄)「で、だ、話っていうのは「宮永咲」」

京太郎(白糸台)「の、ことだろ?」

京太郎(白糸台)「俺も宮永照に関して話しておきたくてな。」

京太郎(白糸台)「お前も知っての通り、今宮永姉妹は絶縁状態だ。」

京太郎(清澄)「で、二人の間を取り持ちたいと。」

京太郎(白糸台)「話が早くて助かる。」

京太郎(清澄)「でも、うちの咲は普通に姉と仲直りしたがってたぜ?」

京太郎(清澄)「そりゃ簡単に取り戻せる月日ではないけど、仲直りなら出来るんじゃないか?」

京太郎(白糸台)「照ちゃんも仲直りしたいとは思っているだろうけど、素直じゃないところとかあるからな……」

京太郎(白糸台)「実際に妹と会ったとしても上手く行かないかも知れないな。」

京太郎(清澄)「はぁ、何で俺らの姫様達はこうも手が掛かるんでしょう……」

京太郎(白糸台)「まったくだ。」

京太郎(白糸台)「……なぁ、清澄の俺。」

京太郎(清澄)「ん?なんだ?」

京太郎(白糸台)「お前はお姫様達の為に道化を演じる覚悟はあるか?」

京太郎(清澄)「……もう既になってるし、そしてこれからもなってやるよ。」

京太郎(白糸台)「そうか、分かりきってた事だったな。」

京太郎(清澄)「ああ、お姫様達の為なら幾らでも踊ってやるよ、それが例え、運命の悪戯という名の掌の上だとしてもな。」

京太郎(白糸台)「……成るほど、それなら――」

京太郎(白糸台)「俺も踊るか、その掌の上とやらを。」





――ホテル――

京太郎(確か部屋はここだったな。)

コンコン

ガチャ

菫「ん?何だ須賀か、どうしたんだ?」

京太郎「ちょっと個人的にお話がある人がいまして。」

照「あ、京ちゃん!」

菫「今ミーティング中なんだが……」

京太郎「照ちゃんを借りていいですか?」

照「……!」

菫「まぁ、構わんが手短にしてくれよ?」

照「……行くよ。」

――数分後――


京太郎(白糸台)「今ここに俺が来なかったか!?」

淡「え、あんた、テルと一緒に出て行ったじゃん。」

京太郎(白糸台)「バカ野郎!そいつがルパンだ、俺に化けて潜り込んだんだ!」

菫「何を言ってるんだ君は……」

京太郎(白糸台)「いやちょっとノリで。」

京太郎(白糸台)「まぁ、機会があればその内わかるでしょうし。」

菫「どういうことだ……?」






京太郎「……ここならいいか。」

照「…………」

京太郎「で、照ちゃん――」

照「やめて。」

京太郎「……どうしたんだ?」

照「京ちゃんと同じ顔した奴が、私の名前を気安く呼ばないで。」

京太郎(?)「よくわかりましたね。」

照「京ちゃんは皆の前では私を"ちゃん"付けで呼ばない。」

照「だから不審に思い、照魔鏡であなたを見て"偽者"だと気付いた。」

京太郎(?)「成るほど。」

照「それで、偽者が何の用事?」

京太郎(?)「一応俺も本物なんだけど……まぁいいや。」

京太郎(?)「単刀直入に言います。」



京太郎(?)「咲と仲直りしてください。」


照「…………そうか、あなたは咲の……」

照「だが、すまない……今は……まだ、出来ない……」

京太郎(清澄)「そんな!あんたら姉妹なんだろう!?だったら――」

照「ただ!……ただ一言、あなたが咲に言伝を頼まれてくれるとしたら……」

照「『――――――――――』とだけ咲に伝えて……」

照「それじゃあ、私はこれで……」

京太郎(清澄)「…………」




京太郎(白糸台)「あ、お~い、照さーん。」

照「本物の京ちゃんだ!」

京太郎(白糸台)「まるで偽者が現れたみたいな口ぶりですなー。」

照「もしかして京ちゃんは知ってたの?」ジトー

京太郎(白糸台)「さー?何の事でしょうか?」ニヤニヤ

京太郎(白糸台)「……それで、妹さんと仲直り出来そう?」

照「うぅ……」

京太郎(白糸台)「照さんは素直じゃないからなー。」

照「ふーんだ!」ツーン

京太郎(白糸台)「そんな顔しなさんな。」ナデナデ

照「ひゅうん!?」ボンッ

京太郎(白糸台)「あはは、やっぱ照さんはからかい甲斐があるなー。」ニヤニヤ

照「もー!」プンスカ



――――――
――――
――






俺は宮永照と別れた後、自分のホテルの部屋までの道をトボトボと歩いていた。

なんとか咲の姉に接触出来たものの、すんなり仲直りとは行かなかった。

そして、今、新たな問題に直面している。

咲の姉の伝言についてだが、伝言を伝えるという事は『咲に内緒で宮永照と会っていた』ということを説明しないといけない。

なので、咲にどう伝えるか悩んでいた。

そうこう考えているうちに、俺の目に見慣れた横顔が写った。


京太郎「咲……?」

咲「あ、京ちゃん。」

京太郎「どうしたんだ、咲?」

咲(やっぱり、あのこと聞いた方がいいよね……)

咲「ねぇ京ちゃん……聞きたい事があるんだけど……」

京太郎「何だよ咲、急に改まって?」

咲「京ちゃんが私を麻雀部に誘った理由って何?」

京太郎「!」


ついに、気付かれてしまった、避けては通れない問題にぶつかってしまった。

それは俺の入部した起因にもなること。

最早逃げられない詰問、ましてや本人を前にして誤魔化してはいけない問題。

年貢の納め時というのだろうか、そういうときは必ず来るものだとわかっていたのに。

俺は観念して、口を開いた。






京太郎「なぁ、咲……俺が麻雀部に入った理由を知ってるか?」

咲「……さっき、部長にちょっとだけ聞いた、私に麻雀をもう一度やらせようと思ったんだよね?」

京太郎「そうか……なら、そうしようと思った理由の話をするか。」

京太郎「中学の時、お前が麻雀の中継を見て苦い顔してたのを俺は見たんだ。」

京太郎「お前は直ぐに違うチャンネルに変えて誤魔化していたけどさ。」

京太郎「それで、姉と喧嘩して離れ離れになったって話を思い出したから、何か関係があるんだと思ってな。」

京太郎「勿論それだけじゃ確信は持てなかったから、咲の親父さんにそれとなく聞いてみたんだ。」

京太郎「そうしたら咲の親父さん、話してくれたんだ……咲のお姉さんのこと、麻雀の事。」

京太郎「そして、咲の親父さんが最後に申し訳なさそうな顔して『娘の事をよろしく頼む』って言ってきたんだ……」

京太郎「その時から、高校に入ったら麻雀部に入り、咲を誘ってもう一度打ってもらおうって……」

咲「そう……だったんだ。」

京太郎「それでな、咲……」

京太郎「そしてさっき、お前のお姉さんに会ってきたよ。」

咲「!……それで?」

京太郎「今はまだ会っても話せないみたいだったよ……」

咲「…………」

京太郎「ただ、お姉さんから咲宛に伝言を頼まれた。」






京太郎「『必ず決勝まで上がって来い。』だってさ。」







咲「……うん、わかった。」

咲「ありがとうね、京ちゃん。」

京太郎「気にすんな、咲がお姉さんと仲直りできるかどうかはお前にかかってるんだぜー?」

咲「もープレッシャーかけないでよ、京ちゃん。」

咲「それに感謝してるのは確かなんだから。」

咲「あ、でも……」

京太郎「ん?」

咲「もしかして、私のお父さんや部長はこうなる事がわかってて京ちゃんを促がしたんじゃないかなーと思って……」

京太郎「かぁ~、もしかして俺って掌の上で踊らされてたのかよー!?」

京太郎「まぁいいか、最後まで咲の為に踊ってやるよ。」

咲「うふふ、ねぇ京ちゃん、どうせ踊るなら"一人"より"二人"の方が楽しくない?」

京太郎「ふんふむ……」


少し考えてから俺は片膝をつき、御辞儀をしながらレディをダンスに誘う。


京太郎「それでは私と一曲踊って頂けませんか?」

咲「喜んでお引き受け致します。」


スカートをつまんで御辞儀してきた相手に、俺はスッと手を差し伸べた。


京太郎「さぁ、お手をどうぞお姫様。」

咲「うふふ、ダンスのエスコートはお任せしますね?王子様。」

京太郎「ははは、王子様って柄じゃないけどな。」






――IH・二日目――

――清澄控え室――

咲「じゃあ京ちゃん、行ってくるね。」

京太郎「おう、負けんなよ?」

咲「負けないよ……勝って、お姉ちゃんに会うんだもん。」

優希「なんか咲ちゃんと京太郎の雰囲気が違うんだじぇ……」

和「ほら、行きますよ、優希。」


――白糸台控え室――

京太郎「頑張ってきてください、先輩方。」

照「京ちゃんにいいとこ見せるために私がんばるよ!」フンス

菫「……暴走しないようなるべく照の手綱を握るよう努力する……」

京太郎「心中お察しします……」

菫「……うむ……では、行くか。」


――宮守控え室――

塞「次の相手は、永水女子、清澄、姫松ですか……」

シロ「ダルい、けど行って来る……」

豊音「みんなで頑張るよー」

京太郎「皆さん、いってらっしゃい、頑張って来て下さいねー。」

京太郎(清澄……別の俺がいる高校か……)

京太郎(あ、そういえば小鍛治の俺は男子個人でるんだっけか。)



――男子個人・準決勝――


京太郎(小鍛治)「さて、これに勝ったら次は決勝か。」

モブA「気が早いですね、まだ勝てると決まってないのに……」

モブB「余裕でいられるのも今のうちだぜ。」

モブC「ぼっこぼこにしてやるぜ~。」

京太郎(小鍛治)(ダメだ、こいつら……覇気がまるで感じられない……)







――宮守控え室――

モニター越しに先輩たちの闘牌を見ていた、あの人たちの最後のインターハイ、結果は4位……

あの人たちをどう慰めればいいか考えていたが、上手く言葉が見つからない。

掛ける言葉を探していたら、扉が開き、一際目立つ大きな体を有する彼女が、悔し涙を流しながら俺を目掛けて飛び込んできた。



豊音「うわーん!京太郎君、負けちゃったよー、ちょー悔しいよー!」エグエグ

トシ「おやおや、まるで大きな子供だねぇ……」

胡桃「あー、須賀君取られちゃったねー、シロ。」

シロ「なんで私に振るんだ……」

エイスリン「シカタナイ、シロト、イッショニナク。」

胡桃「そうだね、シロの胸を借りようか。」

シロ「なぜ、私のを借りるんだ……」



京太郎「えーっと……」

トシ「いいからそのまま貸しててあげなさい、男の胸の使い道なんてこんな時くらいしかないんだから。」

塞「…………」

塞(本当は私も京太郎君の胸で泣きたいんだけどな……)

トシ「塞、京太郎の代わりにはならないけど私の懐なら空いてるよ?」

塞「熊倉先生……」

シロ(流石の私だって泣きたいんだが……)

シロ(私は誰から借りればいいんだ……)

シロ(……誰かさんから、あとで背中でも借りるかな。)

京太郎(?)


何故かシロさんがこっちを見てた気がした。




――――――
――――
――





トシ「少しは落ち着いたかい?」

豊音「……はい。」

京太郎(豊音さんの涙で俺の制服べっちょべちょですがね……)

トシ「ならこの後しばらくは東京観光にしようかねぇ。」

宮守s「「「「「?」」」」」

トシ「あんたたち3年生は今年が高校生活最後だし、ここで出合った他校の生徒とも関わりを持ってたいだろう?」

トシ「だからせめて、大会が終わるまではこっちを楽しもうじゃないか。」





胡桃「よーし、そうと決まれば東京観光ですね!」

豊音「色んなところを廻りたいよー」

シロ「動き回るのダルい……」

エイスリン「サイゴ、ミンナトイッパイオモイデツクル!」

シロ「京太郎、おんぶ……」

京太郎「はいはい……よいしょっと。」

シロ「あと喉が渇いた……」

京太郎「ちょっと自販機によりますか。」

トシ「ふふふ……あんたたちはしばらく寄り道してていいよ。」

シロ「!…………」

京太郎「?」

シロ「行こう……」


部屋を出て、少し歩いたらシロさんが俺の背中に顔をこすり付けて来た。

ちょっぴりシロさんの顔が赤らんでいた気がする。

シロ「ゴメン、ちょっとだけこのままでいさせて……」

京太郎「俺の背中で良ければいくらでも貸しますよ。」

シロ「ん、ありがと……」


シロさんはそれだけ言って、俺の体をぎゅっと掴み、こっそり俺の背中を涙で濡らしていた。







シロ「ん、もう大丈夫。」

京太郎「そうですか、どうでしたか俺の背中は?」

シロ「結構よかった。」


そう言ったシロさんは、恥ずかしかったのか、顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。


シロ「……ねぇ京太郎、辛くなったらまた背中、貸して……」



京太郎「泣きたい時はいつでもどうぞ。」







インターハイ二回戦が終わった後、気になる殿方を見つけた。

それはどこか懐かしい感じがして、でもその人と会った記憶はない。

それでも気になってしまうもので、つい声を掛けてしまう。





小蒔「あの、どこかでお会いしたことはありませんでしたか?」

京太郎「え?……いや、俺"は"貴女と会った事ないと思いますよ?」

小蒔「いえ、すみません、何故か知っている方の様な気がして……」

京太郎「……世の中、似たような顔は3人はいるって言いますからね。」

小蒔「貴方を見かけた時にどこか懐かしい気がして……」

小蒔「気が付いたらお声を掛けてしまいました。」

京太郎「あはは、あなたのような綺麗な方に声を掛けられた俺はとても果報者ですね。」

小蒔「うふふ、お世辞がお上手ですね。」

京太郎「いえいえ本心から言ったまでですよ。」






どこか懐かしい彼と話していると、何故か切なくなる。

もう会えない人と会ってるみたいで……

感傷に浸っていながら彼と話をしていると声をかけられる。


「姫様、何所に行ってらしたんですか?」

「あ、霞ちゃん。」

霞「それと、こちらの殿方は……?」

小蒔「あ、えっと……」

京太郎「あ、まだ自己紹介してなかったですね。」

京太郎「俺の名前は須賀京太郎です。」

小蒔「あ、私も自己紹介してませんでしたね。」

京太郎「確か神代小蒔さん、ですよね?」

京太郎「で、そちらのすばらしいものをおもちの方は石戸霞さん、で合ってましたか?」

小蒔「あ、はい、でもどうしてそれを……」

京太郎「女子団体の中継見てましたから。」

小蒔「成るほど……そうでしたか。」






霞「それで、姫様はどうしてこの殿方と話していらっしゃたんですか?」

小蒔「その、それは……」


なんとも説明し難い話だ。

彼を見かけて、懐かしい感じがしたから声を掛けたと正直に言ったら、ただナンパ目的に声でも掛けたように思われてしまうのも癪なのだ。

しかも霞ちゃんはこういう話に耳聡いので、ことあるごとにこの事を言ってくるだろう。

どうしたものかと返答に困っていた私に助け舟を出そうとしたのか彼が口を開く。


京太郎「あはは、素敵な女性がいたので俺がつい声を掛けてしまったんです。」

霞「ふんふむ……つまりナンパというやつですね!」

京太郎「あれ?何でこんなに食い付くんですか!?」

小蒔「あの、お恥ずかしい話、私たちは外には滅多に出れませんので、こういう話はめずらしいのです。」

京太郎「そうなんですか。」

京太郎「……そうだ、折角なのでどこかに行きませんか?」

小蒔「え?」

京太郎「いや、滅多に外へは出れないって言ってたので、もしよかったら俺とどこかを回らないかなと。」

霞「…………」ジー

京太郎「永水のみなさんも良かったらご一緒にいかがですか?……勿論、俺でよければですが。」

小蒔「みんなに聞きに行って来ます!」ダッ

霞「あらあら、姫様ったら……」

京太郎「あんなに急いでこけないですかね……」

霞「……大丈夫だと思うわ、多分。」

京太郎「随分、あやふやですね。」

霞「あら、あなたに言われるとは思いませんでした。」

京太郎「……どういう意味ですか?」

霞「いえ、深い意味はありませんよ。」





みんなの了解を取り、再び彼の元に足を運び、みんなで遊びに行く。

彼もここが地元と言う訳でもないらしく、近場のゲームセンターとやらお土産屋等を回ったが中々に楽しかった。

彼と行動を共にしている中で気付いたことがある。

やはり彼とはどこかで出会っている、それも私の実家ないしは本殿で。

何か思い出しそうになっていた私に霞ちゃんが声を掛けてきた。


霞「姫様?」

小蒔「あ、霞ちゃん、どうしたの?」

霞「いえ、どうも姫様の様子がおかしかったので。」

小蒔「大したことではないんですけど……」

小蒔「彼とはやはり以前会った気がするんです。」

霞「…………気のせいではないですか?」

小蒔「そうなのかも、須賀君も私とは初対面だって言ってたし。」


私はそう言ってみたものの気になる物だ、まるで胸に何か痞えてるような、そんなすっきりしない引っ掛かりがある。

それに、他のみんなはどうか分からないが、彼と遊んでる途中、少なくても霞ちゃんは何かに気付いていたようだった。

きっと彼には何かあるのだと思いながらも、誰かに聞くことも出来ず、ただただ溜飲が下がらぬ思いを続ける。





―霞視点―

最初、彼を見たとき姫様にナンパ男程度に思っていた。

だがなにか既視感があった、そしてそれは彼と二人で話しているときに彼の状態をみて、不審に思い彼を間近に見てみた。

印象としては『実体がある亡霊』といったところか……

そんなおかしな彼と我々が共に行動し始めてから、それは徐々に確信に向かっていった。

姫様が以前に会った事がある言っていたが、それは合っているが外れでもあるのだろう。






昔、まだ姫様が神を降ろす前、本家に拾われ子の男児がいたのだが、とある時期を境にいなくなった。

男児は七歳くらい、姫様は九歳になる前くらいだったか……

ともかくそのくらいの時期に男児はいなくなり、姫様は九面を降ろすことに成功したと聞いた。

いなくなった男児の事を親に聞いたことがあったが親はただ、「少年は病弱で亡くなった」と言っていた。

そして姫様が小さい頃、神を降ろす時に彼に似たものを私は見た気がする。





男児に似たものを見た後、それを訊ねたら「あの子が神を降ろすのを手伝っている」と言っていた。

姫様はきっと気付かないだろう、なにせ、神を降ろす時は姫様は寝ているのだ。

男児が亡くなった理由が分かった気がした、あの子は『神様に気に入られてしまったのだ』と。


ときたま今でも見かけるあの子はやはり彼に似ている気がする。

でも姫様は気付かないままなのだろう、今も、そしてこれからも……







シロ「……ねぇ京太郎、辛くなったらまた背中、貸して……」

京太郎「泣きたい時はいつでもどうぞ。」




「あれ、京太郎君?」

シロさんを背負ったまま歩いていると不意に声を掛けられた。

俺には面識のない声の主は、俺を怪訝な表情で見ている。

声を掛けられたが、掛けた張本人は何故か狼狽しており。

俺は俺で知らない人に名前を呼ばれ、事態を飲み込めずにいた。


「あの、京太郎君だよね……?」

シロ「多分、あなたの知っている京太郎では無いですよ。」

「え?あ、え?」


ああ、この人は間違いなく別の俺の知り合いだ。

同じ体格、同じ声、同じ顔、ほぼ同じなのだから、初見で人違いならぬ、京太郎違いをするのは仕方ない事だ。

この状況を説明するのも面倒くさいのでこの人の知り合いで事情を知る誰かを寄こして欲しい。

まぁ、それに該当する者なんて一人しか知らないのだが……


京太郎「本人が来れば手っ取り早く説明できると思うんですけどねぇ。」






目の前の女性はやたらとオロオロとしている。

多分今の雰囲気は「知り合いだと思って声を掛けたら別人でしたー」という何とも言えないあの空気。

誰かこの状況を何とかしてくれと願っていたところ、俺たちの後ろの方から助っ人が現れた。


「健夜さん落ち着いてください。」

健夜「え?あ、え?え!?」

京太郎(宮守)「よお小鍛治、いいタイミングだな。」

京太郎(小鍛治)「こんにちは宮守のとシロさん。」

シロ「昨日ぶり?」

京太郎(小鍛治)「さっき試合終わらせてきたんだよ。」

健夜「!!???」

京太郎(宮守)「とりあえずこの人に説明した方が良いじゃないか?」

シロ「私は小瀬川です……」

健夜「あ、ご丁寧にどうも。」

京太郎(小鍛治)「この人は前に話した俺の先生でもあり、義姉さん。」

健夜「小鍛治健夜です。」

健夜「って、そうじゃなくてどういうこと!?」

京太郎(小鍛治)「分かれちゃった俺みたいな物ですかね?」

京太郎(宮守)「大体そんな感じだけどわからんだろ、それじゃ。」

京太郎(小鍛治)「健夜さん落ち着いて聞いて下さい、実は俺、分身の術が使えるんです!」

健夜「えー!?」

京太郎(宮守)「そんな説明でいいのか……」

京太郎(小鍛治)「少しは納得できましたか?」

健夜「え?あ、うん?」

シロ「あれは解ってない顔……」

京太郎(宮守)「仕方ないですよ、シロさん。」

京太郎(宮守)「同じ顔が二つあるんです、いきなり『落ちつけ』『(状況を)飲み込め』って方が無理だと思います。」

シロ「それもそうか……」

京太郎(小鍛治)「あ、そうそう健夜さん。」

京太郎(小鍛治)「決勝で勝ってきて、今のところ総合得点数も暫定トップです。」

健夜「え!そうなんだ、良かった~。」






若干無理やり話を持っていった感があるけど、その内ちゃんと説明をするのだろうと思った。

小鍛治姉弟に軽く挨拶をすませて、戻ろうとしたら、その場にいたもう一人の俺が意地悪そうな顔で小声で言った。


京太郎(小鍛治)「あンた、背中が濡れてるぜ。」

京太郎(宮守)「ん?ああ。」

京太郎(小鍛治)「あんまり女の子泣かせるなよ~?」

京太郎(宮守)「ほら、俺って罪な男だろ?」

京太郎(小鍛治)「うわぁ、俺はお前みたくなりたくないな……」

シロ「京太郎、早く行こう……」

京太郎(小鍛治)「じゃあな。」

京太郎(宮守)「おう。」


間接的に俺に茶化されたせいか、シロさんは顔を赤らめて、俺を急かしてその場を後にした。






健夜さんと共にしゃべりながら控え室まで向かう。

さっきのやりとりを聞いていたらしく「あまり女の子に恥じかかせちゃダメだよ?」とお叱りを受けてしまった。

だが、この方"女の子"と碌に話した事もないので、扱い方なんて解る筈もなく、

「そういう時はどうすればいいのか」と健夜さんに聞いてみたところ、

「そのくらいは自分で考えてみなさい。」と言われてしまった。

恋愛などはしたことないし、この人に浮いた話云々を聞こうとするのは酷だとわかっているので敢えてしない。

なので、男女の心の機微など必然的にわかりようもないから、さっきのやりとりは多少くらいは大目に見てくれても、と俺は思う。


健夜「最初小瀬川さんをおんぶしてる京太郎君を見たときびっくりしたよ……」

京太郎「あはは、俺たちも初めて見たときびっくりしましたよ。」

健夜「あ、そうだ。」


健夜さんは何か思いついたような表情をしたあと、体を傾け俺を覗き込むように見ると質問と提案をしてきた。


健夜「ねぇこの後の予定は?」

京太郎「えーと、特にないですかね。」

健夜「じゃあこの後どこかご飯食べに行こうか?」

京太郎「健夜さんのオススメのお店を教えてくださいね。」

健夜「うふふ、お姉さんにまかせなさい。」

健夜「あと『俺たちもびっくりしました』の詳しい話もよろしくね?」

京太郎「あらら……こりゃ長くなりそうだなー……」


とりあえず試合が終わって空きっ腹になった俺の胃袋を慰める為に、これから健夜さんと食事をしに行くのだ。





――白糸台・控え室――



菫「須賀、次に当たる高校の――」

京太郎「牌譜ならこれです。」

菫「そうか、いつもすまないな。」

淡「あ、お菓子切れた……」

京太郎「新しいのならそこにあるぞ。」

淡「さっすが京太郎。」

尭深「あ、お茶が……」

京太郎「今淹れますね。」

尭深「ありがとう……」

照「京ちゃ~ん。」

京太郎「は~い、照さん今行きますからちょっと待ってください。」

誠子「…………」

菫「どうした?」

誠子「いえ、今更ですが何で須賀を付れて来たんだろうと思いまして。」

菫「男手が欲しかったからな、おかげで試合に集中できる。」

尭深・淡「「え?」」

菫「なんだ?」

淡「てっきりテルの保護者かと思ってた。」

尭深「私も……」

菫「いくら照でも高校3年にもなって保護者同伴なんて――」

照「京ちゃ~ん!早くトイレについてきて!」

京太郎「それくらい一人で行ってください。」

照「道に迷ってもいいなら。」

京太郎「……わかりました。」

菫「無いと思ったんだがなぁ……」

誠子「須賀も大変ですね。」

菫「頭痛止めまだあったかな……」






――清澄Side――

京太郎「それじゃ買出し行って来ます。」

久「私も付き合うわ。」

京太郎「あー……はい。」

――廊下――

久「ねえ、須賀君ちょっといい?」

京太郎「なんでしょう?」

久「あなた、咲に何か言ったでしょう?」

京太郎「何かありましたか?」

久「彼女の意気込みが違ったのよ。」

京太郎「多少ははっぱ掛けました。」

久「ふーん、そうなの。」

久「そういえば、須賀君が彼女の事を入部させたいって言い出した理由ってやっぱりチャンピオンの事に関してかしら?」

久「須賀君自身が麻雀部に入った理由も咲のことなのよね?」

京太郎「……あまり人の家庭の事を話したくは無いんですが。」

久「……それもそうね。」

久「人に立ちいれられたくない複雑な家庭環境だってあるものね……」

久「私だってそういうことはあるもの。」

京太郎「?」




京太郎「そんな話をする為に付いてきたんですか?」

久「いえ、須賀君を労おうと思ってね。」

京太郎「別にいいっすよ。」

久「まあきいて。」

久「これでも日々の雑用に文句も言わずに頑張ってくれている須賀君には感謝しているのよ?」

京太郎「咲を麻雀部に入れてもらったお礼みたいなものですから。」

久「……それでもよ。」

久「私、今年が高校最後だからどうしても優勝したいの。」

久「その上で普通は部員全員がやるような雑用とかを全部須賀君に押し付けちゃって悪いとは思っているの。」

京太郎「それだけ部長が真剣だってことはわかってます。」

京太郎「だから俺はみんなが試合に集中しやすいように動いてるんです。」

久「ありがとう、でも……」

久「……須賀君はそれでいいの?」

京太郎「……なにがですか?」

久「私が言うのも何だけど、碌に練習も出来ず、やるのは雑用ばっか。」

久「そもそも麻雀部に入った理由も咲の為。」

久「じゃあ、須賀君が須賀君自身の為にやっていることってなに?」

京太郎「…………」

京太郎「ダメですかね?誰かの為に動くことが。」

久「確かに素晴らしい事だとは思うけど、あなたがあなたの為にやれることだってあるはずなのに、私にはそれを放棄しているように見えたの。」

久「私からしたら願っても無いことだけれど、須賀君は自分の事に関して何か希薄な感じがするの。」

京太郎「…………」

久「よく言えば仏のよう、悪く言えば死人のよう……」

久「だから聞きたかったのよ『本当にそれでいいの』か。」

京太郎「俺は……」

久「……まぁ直ぐに答えろなんて言う気はないわ。」

久「そのほかにも聞きたいことはあるから。」

京太郎「……答えられる範囲なら。」





久「今年男子個人の優勝者、と言ってもまだ暫定だけど、その人の名前が小鍛治京太郎って名前なんだけど……」

京太郎「……それがどうしましたか。」

久「苗字は違うけど須賀君と同じ名前ね。」

京太郎「凄い偶然ですね。」

久「中継も見たんだけど、顔も似ていたわ。」

京太郎「世の中には自分と似た顔が3人はいるって言いますからね。」

久「ねえ須賀君、あなた、わかりやすいわね。」

京太郎「何がですか?」

久「喋りたくないことがあると、いつもみたいな明るい雰囲気とはうって変わって、結構冷たい顔をするもの。」

京太郎「それは単に疲れているだけですよ。」

久「そう、別にいいわ、そこまで人の事情に深く入るわけにはいかないし。」

京太郎「部長も人が悪いな、表情が『ここで引く気はない』って言ってますよ?」

久「あら、そうかしら。」

京太郎「白々しいですね。」

久「なんか腹の探り合いみたいでいい気はしないわね。」

京太郎「よくいいますよ……」




照「京ちゃん、おまたせ!」

京太郎(白糸台)「照さん流石に高校生にもなって一人でトイレに行けないってまずくないですか……」

照「学校では一人で行けるもん……」

京太郎(白糸台)「出先では?」

照「迷います……」

京太郎(白糸台)「俺は照さんの将来が心配で仕方ないよ……」

照「大丈夫!将来の設計はちゃんと出来てるよ!」フンス

京太郎(白糸台)「……もしかして俺込みで?」

照「当然。」ムフー

京太郎(白糸台)「まぁ、いいか。」

京太郎(白糸台)「お?」

照「?」

久「あら?」

京太郎(清澄)「……部長、まさかここまで計算してたりしてたんですか?」

久「この状況、意味が解らないわ……」




京太郎(白糸台)「そっちは上手く行ってるか?」

京太郎(清澄)「ああ、おかげさまでなんとか、そっちも頑張ってくれよ。」

京太郎(白糸台)「お姫さま次第かな?」

照「?」

京太郎(白糸台)「ところでそっちのお美しい方は?」

照「む……」

久「あら、お上手ね。」

京太郎(清澄)「うちの部長です。」

京太郎(白糸台)「ああ、悪女の。」

京太郎(清澄)「ちょ、おま!」

久「須賀君?後でじっくり詳しく聞かせてもらうからね?」

京太郎(白糸台)「ははは、わりーわりー。」

京太郎(清澄)「あとで覚えとけよ!」

久「須賀君もよ?それではこれで失礼するわ。」

京太郎(白糸台)「それでは……」


京太郎(白糸台)「清澄の部長さん綺麗な人でしたね。」

照「…………」ゲシッ

京太郎(白糸台)「あいだ!?なにするの照さん!?」

照「ふーんだ」プイッ

京太郎(白糸台)「えーとなんで怒ってんの?」

照「京ちゃんのバカ……」ボソッ

京太郎(白糸台)「……清澄といえば照さんの妹がいる高校……」

照「…………」

京太郎(白糸台)「上手く行けば決勝であたるとこですね。」

照「来るよ……」

照「咲なら決勝まで上ってくる。」

京太郎(白糸台)「そうですね。」






――夜・居酒屋――

今とても面倒くさい事になっている。

健夜さんと恒子さんが酔っ払い俺に管を巻いているからだ。

まず大人二人がビールを頼んだあと、ジョッキが空になったと思ったら日本酒を頼みだした。

今は日本酒5合瓶が空になって二人は焼酎のお湯割を飲んでる。


健夜「うひひひ、京太郎く~ん飲んでる~?」

恒子「若者よ~どんどん食べて飲みたまえ~!」

京太郎「はいはい、飲んでますし食べてますよー。」


二人はこのざまである。

俺はと言うと、米物をさっさと頼んで適当に摘みながらウーロン茶を飲んでは注文を取ったり、酔っ払いを適当にあしらったり。

あしらい方がつまらなかったのか、酔っ払いの一人が健夜さんに矛を向けだした。


恒子「すこや~ん、京太郎君が冷たいよ~!」

健夜「え~?京太郎君ひど~い。」

恒子「レディの扱い方がなってな~い!」

京太郎「女性の扱い方なんて学べませんでしたから。」

恒子「すこやんに教わればいいじゃ~ん……」

恒子「あ、ゴメン!あらふぉーはレディに入らないね!」

健夜「アラフォーじゃないよ!アラサーだよ!」

健夜「って何言わせるの!?」

健夜・恒子「「…………」」

健夜・恒子「「あはははは!」」ケラケラ


さっきからこんな調子で酒が減っていく……

このあと苦労するのは俺だというのは火を見るより明らかなのに止めない自分が恨めしい。





恒子「ところで京太郎君?」

京太郎「なんですか。」

恒子「すこやんに浮いた話が無いんですが、そこんところどうなんでしょ~か?」


恒子さんが手に持ったおしぼりをマイク代わりに聞いてくる。

正直そんなもんしらんし、こっちだって浮いた話聞いたこと無いよ。


京太郎「一切聞かないですねー。」

恒子「え、もしかしてすこやん恋人いない歴=年齢だったりする!?」

健夜「恋人くらい……」

恒子「いるの?」

京太郎「いないでしょう。」

健夜「……麻雀が恋人です。」フイッ

恒子「うっひゃひゃひゃ!」ケラケラ

恒子「恋に生きない女なんて枯れてるじゃん!干物女だよ、干物女!」

健夜「仕方ないよ!仕方ないんだよ!こーこちゃん!」

健夜「高校のときは田舎でいい男の子が居なかったから、麻雀漬けになってたんだもん!」

恒子「高校卒業後は?」

健夜「みんな私の対局を見て引いてて……」

恒子「プロになってからは……」

健夜「私より弱いプロなんて恋人にしたくなかったし……」

健夜「実力あるようなプロは既に結婚してたり、おじいちゃんだったり……」

恒子「そして気付いたらあらふぉー……」

健夜「本当にこのままアラフォーになるかもしれない……」

恒子「ま、そのときは京太郎君に面倒見てもらえばいいじゃない!」

京太郎「え~?俺の意見はどうなるんですか?」

恒子「京太郎君に恋人っているの?」

健夜「聞かないな~?」


正直俺に浮いた話なんてない。

悲しい事に彼女なんて出来もしないしフラグなんて立った事すらない……

なので苦し紛れだがこう答える事にしよう。






京太郎「俺も麻雀が恋人ですから……」フイッ

恒子「姉弟揃ってこれだよ~。」

恒子「……で、話戻すけど、明日は表彰台に立つくらい麻雀が上手いこの男の子は……」

恒子「イケメンで、面倒見がよく、気が効き、休みの日はお姉さんの為に料理まで作っちゃう良い子な訳ですよ。」

健夜「いつもおいしいご飯ありがと~。」

京太郎「はぁ……」

恒子「で、そんな優良物件な彼に恋人が出来ないのは、きっとこわ~い小姑がいるからですよ。」

健夜「え、私!?」

恒子「そう、国内最強のプロが姉とか大抵の女なんて尻込みするよ。」

京太郎「俺がモテないのにはそんな理由が!?」

健夜「京太郎君、真に受けないで!?」

恒子「で、そんな彼がプロ入りしたとしましょう。」

京太郎「まだ人生設計決めてないですよ。」

恒子「まあまあ、ここは仮定の話だよ。」

恒子「で、プロ入りしたら鳴り物入りで入ってきたってことで大体目立つよね?」

健夜「うん、まぁ。」

恒子「そしたら、婚期の危なくなった女子プロとかがアタックしてくるわけじゃない?」

京太郎「そうですかね?」

恒子「正直な話こんな優良物件をみすみす見逃す手はないもの!」

健夜「うん、姉から見ても良い物件だよ。」

恒子「あわよくば結婚を、と近寄ってきた女が「小鍛治く~ん今度ご家族にあってみたいんだけど~?」とか言って来た女に対してすこやんが……」

恒子「すこやん『あら?京太郎君の"お友達"?貴方プロよね?ちょっと打っていかないかしら?』とか言い出してトラウマを植えつけて引退させる気だよね。」

京太郎「うわ~こえ~健夜さんちょーこえー。」

健夜「それこーこちゃんの勝手な想像だよね!?」

恒子「でもすこやん、京太郎君にそんな女が集ってたらどうするよ?」

健夜「……いや、まぁ多少は篩いに掛けるよね。」

恒子「基準は多分麻雀だよね。」

京太郎「健夜さんの得意分野はそこですからね。」

健夜「ひどい!?」

恒子「あれ?京太郎君今何歳?」

京太郎「15です。」

恒子「若!?十五!?」

恒子「今のうちに唾を付けておこうかな。」

健夜「あれ?こーこちゃん?」

恒子「よろしくお願いしますね、お義姉さん。」

健夜「こーこちゃん、冗談はほどほどにね?」ゴゴゴゴ


久しぶりに怒った健夜さんを見た気がする。

健夜さんは滅多に怒らないけど怒ったら怖いのだ。






恒子「…………冗談だよー」

恒子「あ、お酒の追加注文お願いね。」

京太郎「はいはい……」

健夜「無理やり話し逸らしたなー」

恒子「すこやん空いてるけど頼まないの?」

健夜「それじゃあ私も。」

京太郎「あんまり呑みすぎ無いでくださいよ?明日も仕事あるんですから。」

恒子「わかってるわかってる~。」

健夜「大人は飲む分量弁えているから。」キリッ

京太郎「ああ、もう……すいませ~ん!」


ここで俺が店員さんを呼んだのが運のつき。

何故ここで止めなかったのか、どう考えたって酔っ払いの戯言を鵜呑みにする方がおかしいのに。

このあと介抱するのは俺なのに……


そろそろ宴も酣なのでホテルに戻る事になった。

べろべろに酔った二人を両脇に抱えて恒子さんを部屋に送った後、健夜さんをおんぶして部屋まで向かう。






気が付いたら彼の背中に居た、情けないな、姉として。

そのほかにも彼に謝らないといけないことがある。

だから申し訳なさから胸に痞えた言葉を吐き出す。


健夜「ごめんね、こんなダメなお姉さんで。」

京太郎「別に気にしてないですよ。」

健夜「ううん、違うの。」

京太郎「何がですか?」


今日見た他の京太郎君のこと、こーこちゃんが来る前に話した他の京太郎君の話……

どうしてもその事を思い出すと、胸が締め付けられる。

だから酔った今、彼に告解をしよう。

聞けなかったことを聞こう。


健夜「…………」

京太郎「健夜さん?」

健夜「……私ね、思うんだ。」

健夜「私のせいで道を狭めてしまったんじゃないかなって……」

健夜「他の京太郎君の話を聞いて、本当はもっと違う生き方もあったんじゃないかなって……」

京太郎「…………」

健夜「だから、麻雀漬けの人生に引き込んで、私と同じ道を、茨の道を歩ませてしまったのが――」


酔って纏まらない思考で話していた私の声が、彼の声で遮られた。


京太郎「健夜さん。」

京太郎「俺は自分の意思で、この道を選びました。」

健夜「京太郎君……」

京太郎「だから、自分が……健夜さんが歩いた道を……」

京太郎「そして、俺が憧れた道を否定しないでください。」


そうか、もう彼は決めていたんだ。

この道を……そして私が歩んだ道を。

なら、もう何も言う事はない、私には彼が自ら進む道を阻む事は出来ないのだから。





健夜「……うん、わかったよ、応援するね。」

京太郎「お願いしますね。」

健夜「んふふ~。」

京太郎「?やけに機嫌いいですね。」

健夜「昔は私がおんぶしてたのに、今は私がおんぶされてるんだなって……」

健夜「京太郎君、おおきくなったんだなーって。」

京太郎「それはそうですよ、もう十年ですからね。」

京太郎「俺だって健夜さんを背負えるくらいに成長します。」

京太郎「そしてこれからは、健夜さんの心を支えられるくらいに成長してみせますよ。」


いつか彼は私の隣まで追いついて来るのだろうか。

それともいつか彼は私を追い越すのだろうか。

どちらにせよ、今はこの時間を、この幸せなひと時を、一秒でも長く感じていたい。


健夜「ふふふ、気長に待ってます。」


もう直ぐ私の部屋だ、私をベッドに寝かしつけたら、彼は自分の部屋に戻るのだろうか……


京太郎「健夜さん、着きましたよ。」

健夜「ん~……」


もういい年なのに、「人肌が恋しい」と弟にせがんでしまおう。

今夜くらい姉の我が侭を聞いてもらおう。


健夜「ねぇ、京太郎君、今夜は一緒に寝ない?」

京太郎「俺、もうそんな年じゃないですよ……」

健夜「ううん、私が京太郎君と寝たいの。」

健夜「ダメ、かな?」

京太郎「仕方ない、お姉さんの頼みなら聞きますか。」


そして彼は私をベッドに横たわらせると二人で同じベッドに入った。






京太郎「気持ち悪くなったら言ってくださいね。」

健夜「流石に吐かないよー」

健夜「京太郎君、もっとこっちに寄って。」

京太郎「はいはい。」

健夜「一緒に寝るなんて久しぶりだね、なんだか懐かしいよ……」

京太郎「そうですね……」

健夜「前は私の体でもすっぽり覆えるくらい小さかったのにね……」

健夜「今じゃ抱きつくくらいしか出来ないよ。」

京太郎「そうですね、腕枕でもしますか?」

健夜「ぜひお願いします。」


私は少し頭を浮かせて彼の腕を枕にする。

不思議な気分だ、あの小さかった腕が、あの壊れそうだった体が。

今は逞しく成長して私を包んでくれている。


健夜「腕辛くなったら言ってね?なんて言ったって大会選手なんだから、腕を痛めたら大変だからね?」

京太郎「大丈夫ですよ、もう個人戦は全部消化しましたから、あとは表彰式だけです。」

京太郎「それよりもう寝ましょう、健夜さん明日早いんでしょう?」

健夜「うん、それじゃあお休み。」

京太郎「はい、お休みなさい。」


そして重くなった目蓋を閉じて私の意識は夜の帳と共に落ちて、夜の帳と共に明けていった。







朝起きたら頭が痛い……ズキズキと頭に響く……完全に二日酔いだ。

腕枕をしてくれていた彼はすでに起きていて身支度を整えていた。

起きた私に気付いた彼は、私に朝の挨拶をする。


京太郎「おはようございます、健夜さん。」

健夜「おはよう……」

京太郎「あんまり調子よくなさそうですね、仕事大丈夫ですか?」

健夜「私は大丈夫だよ。」

京太郎「そうですか。」

健夜「?」

健夜「京太郎君、体調良くないの?」

京太郎「なんでですか?」

健夜「なんとなく?」

京太郎「多分、大会の緊張から解き放たれたから疲れが出たんだと思います。」

健夜「そうなんだ……」

京太郎「ええ、決して腕が痺れたなんてことはないです。」

健夜「え~?嫌味?」

京太郎「はは、冗談ですよ。」






――宮守Side――


京太郎「トシさん、本当に俺たちだけでいいんですか?」

トシ「私は用事があるからねぇ、後は若い者同士で存分に楽しんできなさい。」

トシ「"あんた達は最後"になるんだから目一杯、思い出を作ってきなさい。」

京太郎「わかりました、それじゃあみなさん何所行きますか?」

豊音「みんなで色んなところ回りたいよー」

塞「と言っても私たち地元の人間じゃないから何があるかわからないんだよね。」

胡桃「何所回るか決めてなかったの!?」

シロ「ダルいところじゃなきゃいい……」モソモソ

胡桃「だからなんでシロは須賀君の背中に乗ってるの!?」

シロ「歩くのがダルい……」

胡桃「恥ずかしいから降りて!」

エイスリン「…………」カキカキ バッ

塞「えっと……どこかに行くんだよね。」

胡桃「……翻訳お願い。」

京太郎「買い物と外食だな……」

シロ「あと、カラオケとゲームセンター……」

胡桃「二人はよくわかるね……」

塞「とりあえずゲームセンターに行ってそのあと昼食をとった後、カラオケ、ショッピング?」

豊音「どれも宮守じゃ中々できないことだよー」

京太郎「地元だと街まで行かないと無いですからね。」

シロ「家からだったらそこまでして行きたくない。」

京太郎「街まで遠いからですか?」

シロ「うん」

京太郎「それにダルい?」

シロ「うん」

豊音「シロはもっと積極的に動いた方が良いんだよー」

シロ「……いつかは積極的になる。」

胡桃「それやらない言い訳だよね……」

シロ「そんなことない、少なくともいつもは京太郎の背中に登る時は積極的になってる。」

塞「それ積極的なのかな……」





――ゲームセンター――


豊音「わーここがゲーセンかー!」キラキラ

京太郎「あんまり来た事無いけど色々あるんですね。」

胡桃「うるさい、ここ。」

シロ「んー、落ち着かない……」

塞「エイスリン、まずは何するの?」

エイスリン「>>+3!」


510 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2012/09/21(金) 18:53:49.10 ID:OjnIG7L0o
カップルが遊んでる格ゲーに対戦乱入


安価:カップルが遊んでる格ゲーに対戦乱入


エイスリン「アレ!」

京太郎「いわゆる格ゲーですね……」

豊音「ちょー面白そうなんだよー」

エイスリン「ハヤク!ハヤク!」

京太郎「急かしてますけど誰が行きます?」

塞「私こういうのやったことないから。」

胡桃「須賀君が入ってみたら?」

京太郎「あーわかりました……あまり得意じゃないんだけど……」

豊音「応援するよー!」

シロ「頑張れ……」

京太郎「背中から降りる気はないんですね……」






エイスリン先輩が嬉々として筐体の前に座って待っている。

先輩のあんな笑顔には逆らえない、仕方ないのでさっさと隣に座る。

それぞれ百円玉を入れてスタートする。

ところがエイスリン先輩が何を思ったのか乱入をしてしまった。


女「あ!乱入だよ!?」

男「いっちょやってやりますか!」

エイスリン「マチガエタ……」


どうやら素で間違ったようだ……

仕方ないので相手のカップルと思しき二人を相手に頑張ることにした。

かくして3対2(内一人は背中にいる)のバトルが始まる事になる……





シロ「あ、そこ次右から来るよ……」

京太郎「え!?まじですか!?」

エイスリン「ンフフ、アハハ!」ガチャガチャ

京太郎「エイスリン先輩楽しそうだなー」

シロ「集中しないと負けるよ……」

京太郎「おおっと、そうだった!」

エイスリン「タノシイ!タノシイ!」ガチャガチャ


なんだかんだでシロさんの助言とエイスリン先輩の活躍があり、辛勝であったが勝ちはした。

相手のカップルにはいきなり乱入して申し訳ないな、と思って一瞥をしとこうと顔を覗いてみた。


京太郎「あの、すみません、いきなり乱入とかしちゃっ……て?」

照「なかなか手ごわい相手だった。」

京太郎(白糸台)「きっと相手はカップルですよ、さっき男と女の声がしました。」

照「リア充ってやつかな?」

京太郎(白糸台)「きっと無駄にイケメンないけ好かないカップルですよ。」

京太郎(宮守)「なにやってんの。」


まさかの白糸台の俺参上。





京太郎(白糸台)「やっぱり無駄にイケメンなハーレム男か。」

京太郎(宮守)「遠まわしに顔自慢か、あとハーレムってなんだ。」

京太郎(白糸台)「いや、だってお前両手に花というか背中まで花を背負ってるじゃん。」

京太郎(宮守)「お前も大してかわらないだろ。」

京太郎(白糸台)「いやいや、俺と照さんは恋人じゃないから。」

照「てい!」ペシッ

京太郎(白糸台)「あだ!?なにするの!?」

京太郎(宮守)「……お前はもうちょい女心を学ぶべきだ。」

京太郎(白糸台)「え!?なんで!?」

シロ「京太郎も人の事言えないだろうに。」

京太郎(宮守)「こいつよりはマシでしょう?」

シロ「五十歩百歩。」

照「私の京ちゃんとそこらへんにいる京太郎を一緒にしないで。」ムッ

シロ(京太郎ってそこらへんに居る者なのだろうか……)

照「私の京ちゃんは他のよりカッコいい。」ドヤァ

シロ「……こっちの京太郎は他のより面倒見がいい。」

照「ぐぬぬ……」

シロ「……やる?」

京太郎(白糸台・宮守)「「落ち着いてください二人とも。」」




京太郎(宮守)「なに無駄な対抗心燃やしてるんですか、シロさん……」

シロ「無駄じゃない……」フイッ

京太郎(白糸台)「高校生三年にもなって大人げないですよ、照さん。」

照「女には譲れない戦いがあるの。」フイッ

「シローキョータロー?」

京太郎(宮守)「あ、エイスリン先輩待たせたままだった、それじゃ俺達はこれで。」

京太郎(白糸台)「それじゃ、またな。」


白糸台の二人に別れを告げて、先輩たちの下へ向かう。




エイスリン「キョータロードコイッテタノ?」

京太郎「ちょっと鏡を見てました。」

シロ「人の振り見て我が振り直せだった。」

エイスリン「?」

豊音「それじゃあ次は何にするー?」

京太郎「えーっとじゃあ――」

シロ「>>+3で」

京太郎「台詞取られた!?」


531 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage] 投稿日:2012/09/21(金) 20:27:39.72 ID:zsKezoXKo
クイズゲーム


安価:クイズゲーム


シロ「クイズゲームで……」

京太郎「ふっふっふ……」

胡桃「あれ、須賀君得意なの?」

京太郎「いえ、俺の出る幕でもないなと思いまして。」

胡桃「なにそれ……」

塞「それなら私やってみようかな。」

胡桃「いや、それなら私が。」

豊音「私がやろうかなー?」

京太郎「んじゃ俺が……」

「「「どうぞどうぞどうぞ」」」

京太郎「ちきしょー!わかってたよ!」

京太郎「やりますけどシロさんもですからね?」

シロ「ん、わかった。」


クイズゲームの筐体の席に着く。

ここでひとつ気付いたんだが、シロさんもやるのに背負ったままだとやり難くないだろうか。


京太郎「シロさん、体勢を変えましょう。」

シロ「んー」モゾモゾ

京太郎「わざわざ俺の膝の上ですか……」

胡桃「いいなー……」

シロ「あとで代わってあげる。」

胡桃「いやいいよ。」

京太郎「俺の膝の上とか誰得ですか。」

シロ「意外と需要はある。」


シロさんが膝の上に乗ったと思ったらお金を入れていた。

いつの間に……

ともあれ、クイズゲームなんてやった事無い上に知識なんてさしてないので、全部シロさん頼りだ。

他力本願な俺をよそにクイズが始まる。





ゲーム機「では第一問、アマゾン川で――」

ピコン

京太郎「はや!?」

シロ「ポロロッカ……」

ゲーム機「正解。」

京太郎「うそん!?」

ゲーム機「では第二問、中央アメリカのパナマと陸上で国境を接している南アメリカ――」

ピコン

京太郎「また!?」

シロ「コロンビア」

ゲーム機「正解。」

京太郎「迷いがないってどういうことなの……」


こんな感じ終始圧倒してたシロさんは途中で飽きたのか30問目でギブアップした。


京太郎「なんだろうこの感じ……」

シロ「疲れた……」モゾモゾ

塞「いつものシロとは思えないくらい早かったね……」

豊音「シロすごかったよー!」

京太郎「次は何にしますか?」

胡桃「>>3がいいんじゃないかな?」


542 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2012/09/21(金) 21:07:34.99 ID:OiI8zfKQo
プリクラ


安価:プリクラ


胡桃「そろそろお昼の時間だし、最後にみんなでプリクラ撮ろうよ。」

豊音「それいいよー!」

エイスリン「プリクラ!」

京太郎「あれに6人も入るかな……」

シロ「頑張れば行ける?」

塞「折角だから全員で撮りたいよね。」


頑張ってプリクラに入ってみる。

やはり狭い、豊音さんが一番後ろで屈んで入ってその前に俺、横にずれてくれたシロさんに抱えられて、その前に胡桃先輩がいる。

塞さん俺の横に付いてそのまえにちょこんとエイスリン先輩がいる。


豊音「ちょー狭いよー……」

塞「もうちょっと詰めてよー」

シロ「これはダルい……」

胡桃「シロ、腕がぷるぷるしてるよ!?」

エイスリン「ハイッテル?ネー、ミンナハイッテル?」

京太郎「これは、魔境だ……」


無理やり入って密着してるものだから色々と当たっている。

なにがとは言わないが。

男として中々にやばい状況である。

せめて先輩方の前では紳士でありたいのだが、この押し合い圧し合いの状況で下手に動いたら大惨事である。


京太郎「ある意味天国、ある意味地獄……」


健全な男子である事に今は辛い。


胡桃「撮るよー」

塞「はい、チーズ!」


パシャッ


こうして紳士として頑張った俺にみんなとの思い出が増えた。






―白糸台(照)視点―


照「…………」ムー

京太郎「照さん、まだ怒ってるの?」

照「怒ってない。」ムス

京太郎「……宮守の人たちも悪気があったわけじゃないし。」

照「……違うもん。」

京太郎「じゃあ、なんでそんなにご機嫌斜めになってるの……」

照「だって京ちゃんが……」

京太郎「俺が?」

照「今二人きりなのに昔のように読んでくれない……」

京太郎「え、そんなことだったの?」

照「そんなことじゃないもん。」ムス

京太郎「あーもう、機嫌直してよ、"照ちゃん"。」

照「……んふふ。」ニコニコ

京太郎「それじゃあ、ご飯食べたら戻りますか。」

照「えー、もうちょっと二人で遊びたい。」

京太郎「あまり遅くなったら部長に怒られます。」

照「……仕方ないな。」





―小鍛治視点―


京太郎「ふぅ、やっと終わりましたよ、表彰式……」

健夜「お疲れ様、家に帰ったら祝勝会だね。」

京太郎「そうですね、でも健夜さんまだこっちで仕事あるんでしょう?」

健夜「そうだね、女子団体が終わるまではこっちに居ないといけないかな。」

京太郎「それじゃあ、おじさんたちには電話だけして『健夜さんと一緒に帰る』って伝えておきます。」

健夜「ごめんね、付き合わせちゃって。」

京太郎「その間は健夜さんにご飯を奢ってもらいますから大丈夫です。」

健夜「……あんまり高いところはダメだよ?」

京太郎「恒子さんにいい所を教えてもらおう。」

京太郎「アナウンサーだからきっとおいしい物食べてるんだろうなー」

健夜(こーこちゃんが私の財布事情と空気を読んでくれれば……やっぱだめかも。)

京太郎「心配しなくても、流石にそんなに高いところに行きませんよー。」

健夜「お、大人の経済力を甘く見ない方が良い。(震え声)」

京太郎「もう27なのに……健夜さんの人生設計が心配です。」

健夜「……良い人見つけて結婚すればいいんだし(遠い目)」

京太郎「目ぼしい相手でも居るんですか?」

健夜「……いません。」

健夜「大丈夫、いざとなったら京太郎君に面倒見てもらうから。」

京太郎「その発言にびっくりです。」

健夜「そういえば体調は大丈夫?」

京太郎「大丈夫ですよ。」

健夜「……無理してない?」

京太郎「……直ぐに戻りますよ、多分慣れない大会で気疲れを起こしただけですから。」

健夜「……そう、あんまり無理しないでね?」

京太郎「はい。」




―清澄視点―

咲「京ちゃん、買出し一人で大丈夫?」

京太郎「いつもやってることだろう。」

咲「でも、京ちゃん顔色悪いよ?」

京太郎「心配すんなって、ほら、俺は元気だからさ。」

咲「うん……」







京太郎`s「「「「あ……」」」」







視点が変わる。

視界が揺らぐ。

世界が回る。

回る世界の中、倒れる間際、そこには確かに――


咲が

照ちゃんが

健夜さんが

宮守のみんなが


俺の目に映った。





色んな記憶を見る。

色んなことを思い出す。

自分のこと。

他人のこと。

今まであった事。

俺の知らない記憶。

ただ、自分のであって自分のではない記憶を垣間見た。






突然、照から電話があった。

照はかなり憔悴していて冷静に状況を聞きだすのに苦労した。


照「菫……どうしよう、京ちゃんが、京ちゃんが……」

菫「落ち着け、照。」

照「だって、だって、京ちゃんが!」

菫「いいから落ち着け、今何所で、須賀がどんな状況なんだ?」

照「今、会場の入り口で……京ちゃんがいきなり、倒れた……」

菫「そうか入り口だな、直ぐに行くから照はそこから動くな。」


私は急いで照の元へ向かった、そこには須賀がいた、居たのだが……

存在が薄い、と言うべきなのだろうか。

ここまで存在が儚い者を見たことがなかった。

彼はただ潮流に流されまいと木の枝に引っかかってる布切れ……

または風に吹かれれば消えてしまいそうな、そんな印象の儚い存在感だった。





菫「何所だ……!」


おろおろと狼狽している照と、ぐったりと倒れている須賀を見つけた。


菫「照!急いで須賀を医務室に運ぶぞ!」


照は憔悴していたが、私の声を聞いてかすぐさま須賀の体を担ごうとした。

だが男女の体格差が大きいので一人で担ごうとした照は、中々思うように動けない。

なので、私は急いで須賀のもう片方の肩を担ぎ、照と二人で医務室に向かった。


彼は恩人なのだ、私の恩人なのだ。

私が攫われたとき、真っ先に身を呈して救ってくれた。

そんな彼をここで放るわけには行かない。

彼を放って置けない理由を自分にそう言い聞かせて。





漸く医務室のベッドに須賀を横たわらせると、とある先客が居る事に気付く。

解説に入ってる小鍛治プロだ。

私の視線に気付いたのか小鍛治プロがこちらにやってきた。

小鍛治プロがベッドに横たわる須賀を一瞥すると、妙な事を口走った。


健夜「こっちの京太郎君もここに運ばれてきたんだね。」


その言葉に恐らく私は怪訝な顔をしていたのだろう。

小鍛治プロはそんな私を見て、こう言った。


健夜「多分、また、ここに、他の京太郎君が来るよ……」


言葉の意味が解らなかった。

まるで今しがた同じ事があったような口ぶりだ。


そして医務室の奥から一人の女生徒がやってきて、狼狽する照に声を掛けた。


咲「お姉ちゃんもなの?」

照「!……咲」


どうやら彼女は照の妹らしい。

照は記者会見の時、妹の存在を否定していたが、見た目から宮永照の親類だと容易に推測できる。


照「……どういうこと、咲。」

咲「"私の"京ちゃんも倒れたの。」

咲「そして小鍛治プロの所の京ちゃんも……」

健夜「そして貴女のところの京太郎君もだよね?」

照「…………」


照は何か得心がいった様な顔をした。

私には照が何に対して得心がいったのか、事態がどのように向かっているのか、何がなにやらわからなかった。

頭の中が纏まらないそんな私に追い討ちを掛ける様に医務室のドアが開いた。

中に入ってきた風貌に私は驚いた。

身長は2m近くある女が入ってきたのだ。

驚いたのはそこではない。

彼女が担いできた者が須賀に姿、顔が似ていたからだ。

そんな彼女が医務室に入ってきて開口一番に悲痛な声で叫んだ。





豊音「お願い……誰か……」

豊音「誰か京太郎君を助けてよー!」





そんな彼女が涙ながらの懇願に応えるように入ってきた老齢の女性が入ってきた。


トシ「おやおや、やっぱりこういうことになってしまったかい……」

豊音「熊倉先生……」

トシ「今から京太郎に関して話すよ。」


そういって、老齢の女性は照と、照の妹と、小鍛治プロ、そして先ほど入ってきた身長が高い女に話を始めた。




『中編』