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―――全国麻雀大会・インターハイ一日目―――


――清澄控え室――



久「さーて、会場に着いたんだけど、のど渇いちゃった、ということで……」

久「須賀君、買出しに行ってきてちょうだい。」

優希「犬!ついでにタコスも買って来るんだじぇ!」

和「私の分の飲み物もお願いします。」

まこ「ついて早々買出しとはのう……わしは水でええわい。」

京太郎「了解、咲はどうする?」

咲「あ、京ちゃん私も一緒に行くよ。」

久「あら、咲は私たちと一緒に対策立てるためにお留守番よ?」

咲「……へ?」

京太郎「咲、気を使わなくてもいいんだぞ?俺一人でも大丈夫だし。」

咲「でも……」

和「宮永さん私たちには今やるべきことがあるんですよ?」

京太郎「そうそう、お前は大会に集中してろって、な?」

咲「うん……」

京太郎「じゃ、ちょっくら買出しに行ってきま~す。」

まこ「……で、京太郎を体よくこの場から離した理由はなんじゃ?」

久「さっすがまこ、気付いてたのね?」

久「実はここに来る間に気になることがあったの」

和「気になることですか?」

久「男子の個人に気になる名前があってね。」

まこ「ちょっとまて、なんでわしら女子に男子個人戦が関係あるんじゃ?」

久「もう、まこはせっかちね、それはこれから話すから聞いててちょうだい。」

久「で、気になる名前ってのが茨城の小鍛治って人よ。」

和「小鍛治って言ったら国内無敗と言われた小鍛治プロの小鍛治でしょうか?」

久「そう、そう多くはない苗字よね。」

久「そして下の名前が"京太郎"という名前。」

咲「え?京ちゃんと同じ名前なんですか?」

久「そうなのよ、面白い偶然だと思わない?」

まこ「たまたまじゃろうに……」

久「どうしても気になってね?」




――同時刻・白糸台控え室――



淡「きょーたろーのど渇いたー」

京太郎「へいへいわかりましたよお嬢様。」

京太郎「今から買出しに行きますけど先輩達は何かいります?」

照「オレンジジュース。」

尭深「ん、私はお茶があるから……」

誠子「スポーツドリンク頼むわー。」

菫「私の分も頼む適当でいい。」

京太郎「じゃあ早速行って来まーす」

菫「いつもすまないな。」

京太郎「いえいえ、気にしないで下さい。」





――同時刻・宮守控え室――



京太郎「荷物多い……重い……あと東京は遠い……」

トシ「すまないね京太郎、荷物まで運んでもらっちゃって。」

京太郎「なんのこれくらい……」

シロ「歩くのダルい……」

胡桃「シロは須賀君におぶって貰ってて歩いて無いでしょ!」

豊音「京太郎君大変そうだったよー。」

エイスリン「キョータロー、ダイジョウブ?」

京太郎「ダイジョウブ……」

胡桃「余り大丈夫じゃなさそう!?」

塞「シロ、いい加減京太郎君からおりてあげて……」

シロ「おりるのもダルい……」

京太郎「み……水……」

トシ「京太郎、これで全員の飲み物を買ってきておくれ。」

京太郎「じゃあいってきま~す」

シロ「掴ってるのもダルくなってきた……」

塞「……ってシロはなにナチュラルに京太郎君におぶさったままなの!?」




――同時刻・実況席控え室――



健夜「ごめんね、京太郎君、荷物持ってもらっちゃって。」

京太郎「ついでですから気にしないで下さい健夜さん。」

恒子「いやーすこやんにこんなイケメンな弟さんがいるとは……」

恒子「しかも茨城の男子個人の地区予選をトップ成績で通過してるとか。」

京太郎「いえいえ、たまたまそのときはバカヅキしてただけですって。」

京太郎「あと俺には優秀な先生がついていますから。」

恒子「初めて二人に会ったときは彼氏かと思うほど仲良かったから。」

恒子「一瞬『アラフォーに高校生の彼氏!?』って文言が浮かんじゃいましたよ!」

京太郎「健夜さんはアラサーですよ!」

健夜「何言わせてるの!?というか突っ込むところはそこ!?」

恒子「京太郎君とすこやんは息ぴったりだね。」

京太郎「福与アナもノリがいいですね。」

恒子「私の事は恒子でいいよ。」

京太郎「では失礼ながら恒子さんって呼ばせていただきます。」

恒子「もう、そんな堅苦しくなくていいよー?」

京太郎「いえいえ、目上の方に失礼なことは出来ませんよ。」

恒子「京太郎君ってば、かたーい!」

健夜「二人とも仲いいな……」

京太郎「そうだ、二人とものど渇きませんか?俺ちょっと買いに行ってきますけど。」

健夜「え、そんな悪いよ、京太郎君大会控えてるでしょ?」

京太郎「男子個人は始まるまでまだ日数あるから大丈夫ですよ。」

健夜「それでも練習とか対策とかあるんじゃ……」

京太郎「そこはあとで健夜さんに頼ります」(キリッ)

健夜「うふふ、そういうところは昔から変わらないんだから。」

恒子(こんな空気作られたら入って行き難いよ!)

恒子「じゃ、じゃあ私はお茶で!」

健夜「私もお茶で。」

京太郎「わかりました、では行って来ます。」



――自販機前――


京太郎(清澄)「えーとタコスとかは買ったから……」

京太郎(白糸台)「自販機の場所はっと……」

京太郎(宮守)「シロさん掴るならちゃんと掴ってください……」

シロ「……ん。」モゾモゾ

京太郎(小鍛治)「お茶二つと俺は何にしよう……」


京太郎(清澄)「ん?」
京太郎(白糸台)「お?」
京太郎(宮守)「あ」
京太郎(小鍛治)「……え」

京太郎「「「「あれ俺がいる?」」」」

シロ「ダルすぎて京太郎が増えて見える……」




――さて、現状を説明しよう、今俺達は只ならぬ因縁を感じて

互いに自己紹介し、互いに今までの人生の経緯の情報を交換し合っている。

ここにいる『須賀京太郎』達は(一人は小鍛治の性を名乗っているが)元は1つ1つの分岐点から

分かれて行った者だと推察出来る。



そんなことを頭で整理しながら俺の人生紹介は終わった(清澄の京太郎)


京太郎(清澄)「っとこんな感じか。」

京太郎(白糸台)「長野の俺はそんな風に生きてきたのか……」

京太郎(小鍛治)「というか部員からの扱いがぞんざい過ぎないか!?」

京太郎(宮守)「俺もそんな感じの扱いはされてないぞ……」

シロ「まったくだな、京太郎の扱いがなってない……」

京太郎(宮守以外)(この人は一体なんなんだろう……)

京太郎(白糸台)「じゃあ、次は俺について話していくぞ。」

京太郎(白糸台)「あれは今から十年位前かな?そのとき親父の転勤が決まって――」





――十年位前・長野――

京太郎父「おーい、京太郎早くしろー。」

京太郎「ちょっとまってーぼくのおもちゃが見つからないのー」

京太郎母「まったくあの子ったら落ち着きが無いんだから……」

京太郎父「誰に似たんだろうなー」チラッ

京太郎母「あなたじゃないの?」

京太郎父「そんなことは無い、と思いたい……」

京太郎「みつかったー」

京太郎父「それじゃ出発するか、予定より10分遅れてるけど急ぐ訳でもないからいいか。」



――東京――


京太郎父「車だと結構遠く感じたな。」

京太郎母「途中渋滞に捕まったから余計に時間取られちゃったわね。」

京太郎父「とりあえずご近所さんに挨拶回りしておかないとな。」

京太郎母「ええと、お隣さんの苗字は……>>30ね。」

白糸台の人物安価(幼馴染+京太郎が白糸台に入る動機になる人物になります)


30 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage] 投稿日:2012/09/04(火)

17:54:58.87 ID:4BthoBZMo
宮永で




安価てるてる

――インターホンがなる、大人が二人と金髪少年のがいた、如何にも活発に動き回る少し落ち着

きが無い男の子だった。


京太郎母「お隣に引っ越してきた須賀と申します。」

京太郎母「お父さんかお母さんはいるかしら?」

照「……今はいないです。」

京太郎母「あら、そうなの親御さんには今度またいるときに挨拶しに来ますね~。」

京太郎母「ほら京太郎も挨拶なさい。」

京太郎「すがきょうたろうです、よろしくね!」

照「……こちらこそよろしくね。」


両親に連れられてきたその男の子は京太郎と名乗り、それから数日後、良く家に来るようになっ

た。


「てるちゃん、あーそーぼ!」


男の子は周りに同年代の人間がいないからか、それとも母が仕事でいない私を慮ってか知らない

が私に良く会いに来てくれた。


京太郎「きょうはなにしてあそぶ?」

照「えっと……麻雀って知ってる?」

京太郎「なにそれー?」


元々インドア派の私は日がな一日中一人で牌を弄くってた。

決して最近引っ越してきたから迷子になりやすいとかそういう理由でインドア派になったとかで

は断じてない。


照「遊び方は私が教えるから、やってみない?」

京太郎「うん!」


~~~

京太郎「わっかんねー、すべてがわっかんねー!」


この男の子堪え性が無いのか直ぐに投げ出してしまった。

いや、そもそも小学に上がりたての子供に麻雀のルールを覚えろというのが土台無茶な話なのだ

ろうか……


照「少しずつ覚えていくしかないね。」

京太郎「それよりも、おそとであそぼーよー!」

照「外でなにするの?」

京太郎「えーと、サッカーとか野球とか?」

照「ボール遊びとか好きじゃない……」


男の子はうーんと悩みながら考えている。


京太郎「じゃあおままごとでもする?」

照「うん、それならいい。」




京太郎が夫役をする、私は奥さん役をする、至って普通のおままごとだ。

お互い夫婦ごっこの関係を満喫しつつおままごとにそろそろ飽きてきた頃、ふと自分の"家族"に

ついて思い出した。

遠くに住んでいる父親と妹についてだ。

姉妹そろって両親から教わって覚えた麻雀。

覚えたての麻雀を上手く出来て両親から「才能がある」とおだてられ、得意気になっていた。

だがそれは妹も同じだった、いやそれ以上だった。

事実、妹は直ぐに得意気な私の鼻っ柱を叩き折ってくれた。

衝撃だった、妹は何をやらせても私に劣ると思っていたのに、私が好きな麻雀では負けないと思

っていたのに。

気付くと私は憤慨していたのだ、『私の方がお姉さんなのに』、『私の方が先に麻雀を始めたの

に』、『私の方が麻雀を好きなのに』

そんな思いが私動かしてしまっていたのだ。

それから妹は私の顔を伺いながら、且つ子供ながらの大金の(お小遣い程度だが子供にしては大

金だ)を奪われないよう、±0を取り続けるようになった。

そんな歪な打牌に気付いたのか両親は私たち姉妹を引き離すようにしていったのだ……

そんことを思い出して感傷に浸ってしまっていた私は顔に出ていたのか、傍らにいた男の子に心

配を掛けさせてしまった。



京太郎「てるちゃんどっかいたいの?」

照「ううん、ちょっと家族のことを思い出してただけ。」


そして私は家族に関して男の子に語りだす。





京太郎「へーてるちゃんにいもうとがいたんだー」

照「うん、喧嘩別れしたみたいなもんだけどね。」

京太郎「じゃあいつか、あいにいってなかなおりしないとね!」


男の子の無邪気で屈託の無い笑顔が私の胸に突き刺さる。

果たして妹に会ったとして素直に謝れるのだろうか、妹は許してくれるのだろうか、そもそも会

わせてもらえるのだろうか。

そんな考えを逡巡させながら弱気な返事をしてしまった。





――今から数年前――

京太郎「それで照ちゃんは高校は何所に行くんだっけ?」

照「一応は白糸台に行くつもりだよ。」

京太郎「そっか~照ちゃんほど腕前なら白糸台に行くよな~、やっぱり目標は全国大会で優勝と

か?」

照「当たり前」フフン

照「その時は京ちゃん応援よろしくね?」

京太郎「麗しのお姫様の為ならこの須賀京太郎喜んで馳せ参じます!」跪き

照「んふふ、何それ。」


そんなやり取りをしながら数年後、私はIHで優勝し、京ちゃんは白糸台高校を入学した。


照「京ちゃん無事入学おめでとう。」

京太郎「ありがとう、しかし結構ギリギリの入学でしたよ……」

照「わざわざ一芸入試で無理して入らなくてもよかったのに……」

京太郎「いいのいいの、照さんと同じ高校に同じように入学したかったんだから。」

照「え?なんで?」

京太郎「だって照さんどっか抜けてるとこあるし、ほっとけないんだよなー。」

照「そんなことはない、はず、たぶん、おそらく……」

京太郎「だって照さん、歩けば迷う、忘れ物をしてされに忘れ物を作る、料理すると大惨事」

照「うぐぐ」

京太郎「こんなお姉さんほったらかす方がおっかない」ケラケラ


この青年は小さい頃からの付き合いで私の弱点や汚点を山ほど知っている。

このままでは上級生としての威厳が迷子になってしまうので上手く話を逸らす。


照「そういえば京ちゃん部活はどうするの?やっぱり麻雀部?」

京太郎「うん、わざわざ一芸入試にしてまで入学したんだし照さんと同じとこに入ってみようか

なって」

照「じゃあ放課後麻雀部に案内するよ。」

京太郎「麻雀部に行くまでの間、迷子にならないといいなー」

照「流石に通いなれてる高校で迷子にならないよ!」

京太郎「では、よろしくお願いしますね、"照先輩"?」

照「うむ、先輩に任せなさい」





――放課後――


―私は今校内をうろうろしている、別に道が分からなくて迷っている訳ではない。

ただ京ちゃんのクラスを聞き忘れていて一年生教室を右往左往しているのだ。


照「京ちゃん、何所にいるんだろう……」ウロウロ


傍から見れば三年生が一年生教室の前をうろうろしているのだ、それなりに目立つ。

そうこうしているうちに一年生から声を掛けられた。


京太郎「照さん、なにうろうろしてるんですか?」

照「ひゃ!?」ビクン


突然かけられた声によって、変な声を出してしまう、これは恥ずかしかった。


照「あ、京ちゃん、もう、びっくりした……」

京太郎「あはは、すいません、照さんの後姿が見えたもんで、つい。」

照「もー!もー!」プンスカ

京太郎「そんなに怒らないで下さいよ、それより案内してくれるんですよね?麻雀部に。」

照「あ、そうだった、それじゃあ付いてきて、京ちゃん。」

京太郎「はいはい」

照「ここの高校は結構広いから慣れるまで迷っちゃうかもしれないからちゃんと付いて来るんだ

よ?」


ちょっと先輩らしくお姉さんぶってみる。

しかしそんな気分は即座に上級生の威厳と共に壊されてしまう。


京太郎「その口ぶりからすると照さん、散々迷ったんだな……」

照「うぐ!?」

京太郎「……あー、やっぱり。」

照「迷ったっていっても、ほんのちょっとだけだよ……」フイッ

京太郎「……これは相当迷ってたな。」


そんなやり取りをしているうちに部室前に着く。

後輩たちが整列して私に向かって御辞儀しているのを見て、京ちゃんは面を食らっているようだ

った。


京太郎「あの照さん、麻雀部っていつもこんな感じなの?」ボソボソ

照「大体いつも通り」





彼は落ち着かないのかしきりにそわそわしていた。


京太郎「うう、視線が痛い……」


それもそうかもしれない、仮にも白糸台のエースが何所の馬の骨とも知らぬ男と一緒にやってき

たのだ、視線が集まらない訳が無い。

そんな彼にこれから一癖も二癖もある部員たちの目に晒される破目になることを予期して一言言

っておいた。


照「京ちゃん、頑張れ。」

京太郎「へ?」


彼が素っ頓狂な声を上げたあと、猛獣がひしめきあう檻の扉を開けた。




――白糸台麻雀部部室――


うちの麻雀部では入部テストと称して振り分けを行う。

入部希望者は入部テストで力量を量り、何軍に入れるかが決まる。

隣で部長が入部希望者の振り分けをしている。

そろそろ彼の番だ、応援はしたいが一応身内だからといって彼一人を贔屓にするのは良くないの

で心の中で応援する。

そんな気持ちが顔に出ていたのか隣にいた菫に声を掛けられた。


菫「なぁ、彼、えーと須賀京太郎と言ったか、照がいつも話題に出しているのは彼のことか?」

照「あー、うん、そう。」

菫「一応麻雀特待生として入ってきたんだ、それなりに期待して良いのだろう?」

照「その点は心配しなくていい、私が直々に教えてきたんだからな」フフン

菫「エースのお墨付きか、その腕前、とくと見せてもらおう」

菫「しかしなんでわざわざ白糸台に入ったのか……」





京太郎「よろしくお願いします。」
モブA子「よろしくお願いします。」
モブB子「よろしくお願いします。」
モブC子「よろしくお願いします。」


東一局目0本場

京太郎(配牌はそこまで悪くないな……)

京太郎(とりあえず様子見と行きますか……)


13順目

タンッ

京太郎(親と下家が張ったか……親の方は結構でかそうだし潰しておくか。)

京太郎(下家おそらくこっちだな……)タンッ

モブC子「!ロン!2600!」

京太郎「はい」

モブA子(満貫潰された……)


東三局目0本場

京太郎(俺の親番か……配牌が酷いな。)

京太郎(でもまぁ何とかしますか。)

京太郎(とりあえずタンヤオあたりにでもしとくか?)


16順目

京太郎(俺以外全員張ったみたいだが……皆さんが欲しい牌は全部止めてるんだな、これが。)

京太郎(あと二順だから俺を止めとかないとまずいぜ?)

18順目

モブA子「聴牌」

モブB子「聴牌」

京太郎「ノーテン」

モブC子「聴牌」

京太郎「あ、すいません、流し満貫です。」

モブA子「うわーないわー」

モブB子「マジ……」

モブC子「はい点棒」

菫「…………」





オーラス

京太郎(これでオーラスか……二回流し満貫と差込二回で俺の持ち点は38500点か。)

京太郎(よし、このまま流しちゃおう!)

流局

モブA子「聴牌」

モブB子「ノーテン」

京太郎「ノーテン」

モブC子「ノーテン」

「「「「ありがとうございました」」」」





菫「なぁ照、1つ聞きたいんだが彼はいつもあんな打ち方なのか?」

照「きょ、京ちゃんは結構シャイなだけだから……」(震え声)

菫「対局者の手を全部止めたり流し満貫を二回もやるのがシャイというのか……」

照「京ちゃんはすごく気遣いが上手いからかな、人の欲しい物が分かるみたいで……」メソラシ

菫「実にいやらしい打ち手に育ったんだな……」

菫「まぁいい、どの道、須賀は一軍辺りに入れる予定だったし。」

照「え?そうなの?」

菫「うちは慢性的な男手不足だ、女子に比べて男子部員が余りに少ないからな。」

照「男子は麻雀で進学するなら他の高校に進学するね……」

菫「ああ、だから白糸台に来たのが不思議だった。」

照「それは"幼馴染の私"(←ココ重要)を追ってきたからだね!」

菫「彼も妙な女に引っかかったもんだな……」

菫(それに彼がいれば照の面倒を見なくて済みそうだからという理由もある。)






菫「ということで新たに入った部員だ、各自自己紹介を頼む。」

京太郎「一年の須賀京太郎です、よろしくお願いします!」

淡「一年の大星淡、よろしくー」

菫「若干言葉遣いが気になるが……まぁいい。」

菫「私は三年の麻雀部部長、弘世菫だ、よろしく」

誠子「二年の亦野誠子だ!よろしくなー!」

尭深「二年……渋谷尭深……よろしく……」

照「そしてオオトリ!三年!麻雀部のエース!みみゃながてる!よろしく!」

1 ))



そんなこんなで楽しい事故(自己)紹介は終わった。


菫「えーと、須賀、だったな、いつも照から話を聞いてる。」

京太郎「あ、はい、あなたが菫さんですね、こちらこそいつも照さんからお話を聞かせてもらっ

ています。」

菫「その、なんだ、多分"普段の"照のことは君に任せることになるだろうからよろしく頼むな。


京太郎「あー、はい、そういうことですか、分かりました、任せてください。」

「「お互い苦労しますね(するな)……」」

白糸台episode
『虎と猛獣使い』





――現在・自販機前――


京太郎(白糸台)「まぁこんな感じかな。」

京太郎(清澄)「あれ、白糸台の俺、優遇されてね?」

京太郎(小鍛治)「マジかよ……東京太郎リア充じゃねぇか……」

京太郎(白糸台)「何その略し方!?」

京太郎(宮守)「色んなタイプの女の人に囲まれててすげえな……」

京太郎(清澄)「幼馴染系お姉さんとかクールビューティなお姉さんとか眼鏡系無口お姉さんとか

頼れる姉貴とか生意気なかわいい同級生とか……」

京太郎(白糸台以外)「「「リア充爆発しろ!」」」

京太郎(白糸台)「お前らだって対して変わんねぇだろ!?」

京太郎(宮守)「いや、俺はなんとなくノリで。」

京太郎(清澄)「ほら、俺んところは年上は悪女系部長とわかめ系眼鏡だし……」(震え声)

京太郎(小鍛治)「俺はそもそも一回りくらい年上のお姉さん一択しか選択肢ないんだが。」

京太郎(白糸台)「…………なんかゴメン。」

京太郎(小鍛治)「謝るなよ!健夜さんめっちゃ良い人なんだぞ!?」

京太郎(小鍛治)「そりゃちょっと弄られ系で『アラフォー』とか『行かず後家』とか『干物女』

とか言われちゃってるけど俺の恩人なの!!」

京太郎(宮守)「一旦落ち着け。」

シロ「少し落ち着いて。」

京太郎(白糸台)「それでアラフォーお姉さんのところの俺はどんな人生だったんだ?」

京太郎(小鍛治)「アラサーだよ!」

京太郎(小鍛治)「……まぁとりあえず話を進めるか。」

京太郎(小鍛治)「俺も実は十年前東京に引っ越す時に人生が変わることが起きてな……」





――実況席控え室――



健夜「さーて、こーこちゃん打ち合わせ始めようか。」

恒子「……」

健夜「こーこちゃん?」

恒子「え?あ、すこやんどうしたの?」

健夜「いやだから打ち合わせを……」

恒子「うーん……」

健夜「なに?」

恒子「すこやんと京太郎君って姉弟の割りに似てないなーって」

健夜「…………」

恒子「それと京太郎君のすこやんの呼び方が姉弟っぽくないっていうか……」

健夜「……うん、そうだろうね。」

恒子「あ……もしかして地雷だったりする?」

健夜「ううん、別に隠すほどのことでもないし……」

健夜「まぁこーこちゃんになら話してもいいかな……」

健夜「実は京太郎君に出会ったのは十年前なの……」







――十年位前・長野――

京太郎父「京太郎忘れ物無いか?」

京太郎「あ、おもちゃ……」

京太郎父「引越しの荷物の中に紛れたんじゃないか?」

京太郎母「おもちゃくらい向こうで買ってあげるわよ。」

京太郎「うん、わかった」


――車内――

京太郎父「東京まで渋滞の情報は無いみたいだからすんなり行けそうだな。」

京太郎母「そうねぇ、向こうに着いたら荷解きしてそれからご近所周りに挨拶しないといけない

わね。」

京太郎父「挨拶回り用の粗品とか用意しとかないとな。」

京太郎母「予定より早めに出たから向こうに着いたら私が買っておくわ。」

京太郎父「京太郎、向こうでたくさん友達が出来るといいな。」

京太郎「うん!いっぱいともだちつくるんだ!」

京太郎母「うふふ…………あら?」

京太郎父「どうした?」

京太郎母「あのトラック変な動きしてない?」

京太郎父「確かに……おい!!こっちに向かってきたぞ!?」

京太郎父「危ない!!」

京太郎母「京太郎!!」ガバッ

京太郎「え?」



オイ!ジコダ!ハヤクキュウキュウシャヲヨベ!

――――――――
――――――
――――
――




京太郎(小鍛治)「結論から言えば俺の両親は死んだ。」

京太郎(小鍛治)「白糸台の俺と照し合わせると忘れ物を取りに行けば俺の親は助かってたんだよ

な……」

京太郎(小鍛治)「そしてそのあとに両親の葬儀が始まって――」

京太郎(小鍛治以外)「「「…………」」」



恒子「…………」

健夜「遠い親戚でもあり、生前すこしお世話になったことがある、京太郎君のご両親の葬儀で―

―」






京太郎・健夜「そこで健夜さん(京太郎君)と出合った。」






――十年位前・葬式会場――



「かわいそうになぁ……」

「相手の運転手は居眠り運転だったらしいわよ……」

フビンダナ…カワイソウニ…


――そんな囁き話が周りから聞こえてくる……

如何にも同情してますって感じの会話だ。

私は一通り葬儀が終わり、落ち着いた会場で一人佇んでいた。

私の両親は何所かで他の親類と話しでもしているのだろうと思い、会場で待っていた。

そんな待っている間、一人の少年に目が留まる。

よく見るとずっと一人で座って、じっと遺影を見詰めている。

何故か放っておけない雰囲気がある少年に声を掛けた、掛けてしまっていた。


「ねえ、僕?お父さんやお母さんは?」


少年はスッと棺桶の方を指差していた。

しまったと思った、なんと無神経なことを聞いてしまったんだろうと後悔した。

よく考えてみれば回りに子供なんて目の前にいる少年しかいないのに。

カワイソウニというのは一人残された子供に対して言われてた言葉でもあることにそのとき気付いた。

私は次の言葉を出す為に、この子を慰める言葉を、この子を励ます言葉を必死に探していた。





「す、少しお姉さんと話をしようか?」

とりあえず何とか場を繋げようとか考えてみたが出てきた言葉がこれである。

自分の語彙の引き出しが乏しいのがこれほど恨めしいと思ったことはない。

戸惑いながら少年の返事を待っていると、その少年は微かにだが確かに頷いた。


「お姉さんの名前は小鍛治健夜。」


まず自己紹介をして相手に警戒心を抱かせないようにしないと思い、

自分が今年から高校生になるだの、好きな物はなんだの、とりあえず色々話しかけてみた。

そんな話(一方的ではあるが)をしていながらとあることに気付いた。

この子の目の下にははっきりとした隈が残っている。

眠れなかったのだろう、目の前で両親の死に行く様を、そんな衝撃的光景を見ていたのだろうか

ら。

気付くと終始無表情であった少年を抱きしめていた。

何故いきなりそんなことをしたのか自分でもわからなかった。

ただなんとなくかもしれない、放っておけない雰囲気がそうさせたのかもしれない。

ほんの数秒か、はたまた数分か抱きしめていた時間が分からない中、少年はすうっと頬を濡らし

ていた。


健夜「あ、ゴメンね、苦しかった?」


少年は首を横に振り、私の服の端を掴んでいた。




少年のその行為に戸惑いつつ、私はその状況を受け入れた。



その数分後、私の両親が戻ってきて親類との話を伝えてきた。

先ほど一緒に居た少年のことについてだ、結論から言えば少年を施設に預けるという話になった

らしい。

周りでは預かれる状況にある人はいないらしく、他に近しい親類もいないらしい。

このままではこの子は一人っきりになってしまうのではないのかと思ったら勝手に口が開いて言

葉を発していた。


「あのこ家で預かれないかな。」


なぜそんな無茶なお願いをしたのか、両親にも少なからず負担が掛かるだろうに。

ただ、繊細なガラス細工みたいな印象を受けた少年をここで見放してしまうのは、絶対に後悔す

ると思ったからだ。

そんな考えをするのだろうと思ったのか両親はこう言ってきた。


健夜父「やはりか。」

健夜母「そう言うと思ったわ。」

健夜「?」

健夜父「健夜も受け入れてくれるだろうと思って親戚には話を通しておいたんだよ。」

健夜「へ?」


この人たちには敵わない、と同時に頭が上がらないと思った。


健夜母「後は京太郎君がうんと言ってくれればいいのだけれど……」


そのとき初めて少年名前を知った。

あれだけ話していたつもりなのに少年は一切言葉を発していなかったのだから名前も何も知らな

かったのだ。


健夜母「誰か京太郎君と話をしてくれる人がいるといいんだけどね~?」チラッ

健夜父「まったくそうだな~」チラッ


この人たちはそうなることわかってて私を会場で待たせていたのだろう。

まったくこの二人は……。


健夜「私が行くよ。」


そう両親に告げて私は再び、少年の方に足を向けた。




少年の近くに行き、話しかける。


健夜「ねぇ、京太郎君、家の子にならない?」


少年は私の服の端を掴みながら小さく頷いた。

その日から小鍛治家には家族が一人増えたのだ。




――小鍛治家――



健夜父「さぁここが今日から京太郎君のお家になるんだぞ~」

健夜母「遠慮なんていらないわよ~」

健夜「さぁあがって?」

京太郎「………お、じゃま……します。」

健夜「京太郎君、今日からは『ただいま』、だよ?」

京太郎「……た、だいま。」

健夜「うん、おかえり。」


そんなやり取りをし、京太郎君が何所の部屋で寝るか決めることになった。

私は、私の部屋を進言した、まだ心の傷が癒えてないこの子を一人にさせたくないと思ったから

だ。

夜、布団を引いて二人で並んで寝た。

京太郎君は中々寝付けないみたいだった、というより眠りたくないようだった。

事故の時のことが脳裏に焼きついているのだろう。

京太郎君は目を瞑る度にその小さな手足をカタカタと震わせていた。

こういった眠れぬ夜を過ごして来たのだろうかと思うと凄くやるせなかった。


健夜「京太郎君、寝るのが怖い?」


京太郎君が頷く、そんな様子を見て私は京太郎君を優しく包み込んであげた。

そんな行為がこの子の母親を思い出したのか、止めどなく溢れる涙を私に押し付け京太郎君は小

さく泣き叫んだ。


京太郎「ウッ……お…かあ、さん……ヒッグ……おと、うさん……」

健夜「大丈夫、大丈夫だから……」

健夜「もう眠っても、大丈夫だから……」


気付くと私までも涙を流していた……

どれほどそうしていただろう、いつの間にか私の体でも覆えるくらい小さな少年は泣き疲れて眠

っていた。





それから少しずつ、京太郎君は口を開くようになっていった。

元来明るく活発な子だったのだろう、両親とも打ち解けて私にも心を開いてくれた。

それによく私の後を付いて回ってきた、私に懐いてくれている証拠だろう。

この頃は私が部活等でやっている麻雀に興味を持ってくれたらしい。

試しに教えてみたが子供には中々難しいみたいだ。

それでも京太郎君は私と共有出来る物を得れたみたいで嬉しがっていたみたいだった。

私が学校に行っていて家に居ない時は一人で麻雀をしているみたいだった。

私が学校から帰ると直ぐさま玄関にやってきて「おかえり」と言ってくれる。

京太郎君に麻雀の基礎を教えながら遊んであげた。

麻雀について教えながら部活のこととか話しているうちに思い出したことを言った。


健夜「私ね、今度の全国大会に出るんだ。」

健夜「テレビにも出るみたいだから京太郎君も応援してくれると嬉しいな。」

京太郎「テレビに出れるなんて健夜お姉ちゃんすっごいね!絶対応援するよ!」

健夜「うん、ありがとう、京太郎君の応援に応えられるくらい頑張るよ。」





結果から言えば危なげなく優勝してしまった。

満貫すら振り込むことも無く、ただ自分の所に点棒を集めていった。

家に帰ってきてから京太郎君は「かっこよかった!」「すごかった!」としきりに私を褒めてい

た。

それからしばらくは京太郎君の私を見る目がテレビに出てくるヒーローをみたいに映っていたみ

たいだ。




それから二年、京太郎君は腕をあげてインターミドルに出しても恥ずかしくはないレベルにはな

った、はず。

これは先生としては将来が楽しみだ。

そして今年も全国大会が近づいてきていつものように京太郎君に応援されて全国に行った。

そして準決勝で事件が起きた。



いや、事件というより事故に近いのだろうか。

対局者の一人に打ち筋がわからない相手がいた。


健夜(張ったのかな……?とりあえずこの牌は大丈夫のはず……)タンッ

晴絵「ロン!12000!」

健夜(な!?全然打ち筋が見えなかった!)

健夜(お、落ち着かなきゃ。)

健夜(このまま動揺した状態で打ったら崩れて相手の思う壺!)

健夜(なんとか持ち直さないと……)

健夜(それに教え子に無様な打ち方は見せられないし!)


それからなんとか持ち直して打ったが、客観的に見てお世辞にも綺麗な打ち方とは言えなかった


対局者にも悪いことをしたし、京太郎君にも良くない打ち方を見せてしまった。




結局全国大会で負けはしなかったものの、心に残る結果となってしまった。

家に戻ってから京太郎君から謗りを受けるとも思ったがそんなことは無かった。

ただ、私に抱きついて一言。


京太郎「跳満が当たった時、健夜お姉ちゃんが遠くに行っちゃいそうで怖かった……」


私は決めた、もう二度とあんな無様な打ち方はしないと。

例え負けたとしても胸を張れる打ち方をしようと。






――今から数ヶ月前――


京太郎君も高校生になったころ一本の電話が掛かってきた。

京太郎君からだ。


健夜「もしもし京太郎君?どうしたの?」

京太郎「あ、もしもし、健夜さん?俺地区予選突破しましたよ!」

健夜「え!?おめでとう!じゃあ今度お祝いしないとね!」

京太郎「それはまだ待ってください。」

健夜「え、どうして?」

京太郎「お祝いをあとでもう一回やるのは二度手間でしょう?」

健夜「もう、全国で勝つつもりなんだ。」

京太郎「自信はありますよ?なんてたって俺には最高の先生が付いてますから!」

健夜「うふふ、ありがとう。」

京太郎「じゃあそっちに行ったらまた電話しますんで。」

健夜「んふふ、わかりました、全国でも気を抜かないでね?」

京太郎「分かってますって、それじゃ。」

健夜「うん、それじゃあね。」ピッ


正直複雑な気持ちだった私の人生を追ってくる彼を、

意図せずとも私の人生と同じ道を彼の人生にも強いてしまったのではないかと思ってしまった。

そんな気持ちが心のどこかにある。

だからこそ、私が支えて道筋を指し示さないといけないのだろう、人生の先輩として。


小鍛治episode
『救いの女神』





――現在・自販機前――


京太郎(小鍛治)「……掻い摘んで話したが大体こんな感じだな。」

京太郎(小鍛治)「健夜さんと出会わなかったら、今の俺はいなかった思うんだ。」

京太郎(小鍛治)「だから、健夜さんにも義理の両親にも感謝してるんだ。」

京太郎(清澄)「……小鍛治の俺、今、幸せか?」

京太郎(小鍛治)「ああ、それは迷うことなく言えるよ、今の俺は幸せだ。」

京太郎(白糸台)「そうか……」

京太郎(宮守)「俺たちは意外に救われてるんだな……」

京太郎(小鍛治)「湿っぽくなるのやめやめ!次行こうぜ、次!」

京太郎(宮守)「それじゃあ最後に俺の番だな。」

シロ「がんばれ……」

京太郎(宮守)「俺は途中まで小鍛治の俺と対して変わらん。」

京太郎(宮守)「ただ、俺の場合、小鍛治という人とは会わなかった。」

京太郎(宮守)「両親が亡くなってから数年は施設で預かられていたんだ。」

京太郎(宮守)「そしてある日とあるお婆さんに身元を引き受けられたんだ。」

シロ「おー、そんな過去が……」



――数年前・岩手――


――その子とあった時の印象は、『魂が裂けている』だった。

長年生きているとそんな人間もいくつか見たことはあるが、文字通り『割けている』子供を見た

のは初めてだった。

どこか仄暗い闇を感じさせるその瞳には、生への執着は薄く、また他者との深い関わりを拒絶し

てるようにも感じた。

このままではこの子はいずれ亡くなると判断した私は、怪異と所縁が深い岩手に居を構えること

にした。

この子は泣かない、笑いもしなければ、怒りもしない。

感情が乏しいのだ、だからこそ色んな人間と接触しなければならない、そしてそれが特殊な人間

であるなら尚良いと思う。


「京太郎、今からあなたにはこの洞窟に入ってもらうわ。」

「リュックには食料と水が入ってるから落とさないように。」

「私は洞窟の出口で待ってるから。」

「さぁ、お行き。」


私はそれだけ伝えて京太郎を洞窟へと進ませた。

京太郎は怪訝な表情を浮かべたあと、洞窟に向かっていった。

これで彼が何とか感情の欠片を掴むことが出来ればいいのだが……




彼が今回掴むべき感情は、『恐怖』。

闇から侵される不安と完全なる孤独に対しての恐怖。

これが他者への興味へと繋がってくれればいいと思っている。

そして次に『生への執着』。

闇への恐怖から生まれる生き物として持つべき『生きたい』という感情。

この二つが得られたら上出来だと思っている。




「ダルい……」


今の私の感想である。

知り合いに『洞窟をある程度進んだところで人を待て』そんな面倒くさい頼まれごとを受けて、

この一寸先も分からぬほどの闇に囲まれた中、私は休んでいた。

暇を弄び尽くして帰ろうかと思った時、遠くの方から一人の足音が聞こえてきた。

やがて私の近くまで寄ってきたところで、私とぶつかった。


「痛……」

「……え?」


どうやら相手は私の存在に気付いてなかったようだ。

無理も無い、先ほどから動いてすらいない私は、物音一つ立てずに休んでいたのだから。

加えてこの真っ暗闇だ、相手の顔どころか姿形の輪郭を認識するのすら危ういだろう。

とりあえず目的の相手も来たことなのでこの洞窟を出ようと思う、が……


「ダルい……」


口をついて出た言葉がこれだ。

正直動くのが面倒くさい。

だがここから出ない訳には行かないので、頑張って立ち上がろう……あとちょっとしたら……

そんなことを考えていると相手が語りかけてきた。


「えっと、あなた人ですか……?」

「暗くて見えないだろうけど、これでも人間だよ。」





声から察するに男の子だろう、それも変声期が来る前くらいだ。

それから直ぐに相手から提案を受けた。


「一緒にここから出ませんか?」

「ん、いいよ、はぐれるといけないから手を出して。」

「あ、はい。」


どこにあるかも分からぬ手を掴んだ後、私はこう切り出した。


「ダルいから引っ張ってって……」

「……え?」

「なんなら負ぶってくれてもいい……」

「怪我でもしてるんですか?」

「いや、ダルいだけ。」



それから二人でしばらく洞窟を進んでいくと少し開けたとこに出た。

そこには光苔が薄っすらと生えており、二つの道を指している。


「どっちに進めば……」

「ん、ちょいタンマ。」


私はそう言葉を発して数秒考える。


「こっち。」

「え、道を知ってるんですか?」

「たぶんこっち。」


私はそう言って手を繋いだまま進む。

相手の足取りも躊躇いながら付いて来た。

それから歩みを進めてしばらく経つと奥の方から微かに月明かりが見えた。

出口だ、私がそう思ったと同時に相手も口に出していた。

意外と気が合うかもしれない。

そして漸く出口に着いたとき、この面倒くさい頼みごとをした張本人が現れた。





トシ「お疲れ様、二人とも。」

京太郎「え、この人もトシさんの知り合いなんですか?」

トシ「そうだよ、今回の協力者。」

トシ「それで京太郎は何か感じたかい?」

京太郎「怖かったです……闇の中で一人になるのは。」

トシ「そうかい、それでいいんだよ。」

トシ「白望も悪かったね、私たちに付き合わせてしまって。」

シロ「ダルかった……」

京太郎「あなたのお名前、白望さんって言うんですか。」

シロ「ん、気軽にシロって呼んでいい……こっちも京太郎って呼ぶから。」


このとき今更ながらにお互いに名前を知ったのである。





――私は知り合いの伝で呼ばれ、一人の少年に引き合わされた、名前は京太郎というらしい。

『同年代の人物と接触させたい』という話らしい。

頼んできた人は老齢のご婦人で、名前は『熊倉トシ』と名乗っていた。

親戚が昔世話になってたらしく断れなかったみたいだ。

そして親戚内では私ぐらいしか条件の該当者が居なかったらしく、私にお鉢が回ってきたという

ことだ。




「えっと、君が京太郎君だっけ?私は臼沢塞、よろしくね。」

京太郎「臼沢さん、ですか、俺は、須賀、京太郎です。」


私たちはとりあえず名乗り合った。

そのあと、彼の目を見て第一印象が決まった、決まってしまった。

なんという寂しい目をしてるのだろう、なんという怯えた目をしているのだろう。

心の奥底になにか抱え込んだ目をしていた、そんな印象を受けた。

多分、こんな目をした彼に必要だと思って『同年代の人物と接触させたい』と親戚は頼まれたの

だろう。

とにかく明るく接した方がいいのかと思い、色々話した。

私の事、好きな物について、岩手について、最近の出来事。

そして親のことについて話題に移った時、彼の目には暗いものを感じさせた。





塞「――それで私の両親がね……」

塞「そういえば京太郎君のご両親ってどうしてるの?」

京太郎「えっと……」

塞「……?」

京太郎「……俺を残して死んでしまいました。」

塞「あ!?ゴメンね、辛いこと聞いて……」

京太郎「気にしないで下さい、もう随分前ですから。」


彼はそう言って苦笑いを浮かべていた。

やってしまった。

調子に乗って地雷を踏んでしまった。

彼は気にするなとは言っていたが、気にしてしまう。

私は気まずい雰囲気に耐えられなくなり、そろそろ帰ろうと思って席を立つ。

途中で熊倉さんに会ったので彼の生い立ちをつい、聞いてしまった。

彼の両親が死に際、彼にしたこと……そして彼がその光景を見ながら、両親が無くなったこと。

そんな話を聞いて、気付いたら彼の元へ向かっていた、そして暗い目をした彼を見て思わず抱き

ついていたのだ。


京太郎「……え?何で?」


何故そんなことしたのか自分でも分からなかった。

ただ、彼の話を聞き、彼の目を見たからか、憐憫の情を抱いたのかも知れない。

そしてその壊れそうな瞳を見て、彼の心に抱えた物を、彼の心を苛むものを、彼から守ってあげ

たいと思ったのだ。


塞「京太郎君、辛いことがあったら、私に言って……」

塞「私が京太郎君の、心の傷を塞ぐから……」

京太郎「……ありがとう、ございます。」

トシ「……ふふふ」

トシ(京太郎の話相手が出来ればいいと考えていたが、思わぬ掘り出し物かもね。)






――現在から一、二年前・岩手――


私は今、閑散とした村奥、閑散とした部屋にいる。

この閉鎖された世界が私の全てだった。

『■■様』これが私の呼ばれ方。

ちゃんと親から貰った名前があるのに、周りから私はこう呼ばれていた。

この部屋には誰も近寄らず、また近寄れない。

なので両親とも禄に会えずに、最近では顔も朧げになってきている。

人と話すこともめったに無い、ここに来た時から人と話すことが無くなってしまった。

ご飯を持ってきてくれる人が居るが、いつも無言で去っていく。

話し方が悪いのかと思って、喋り方を変えてみた。

でも、いつも通り何も言わず去っていく。






ここに来た時、言われたことがある。

『人を好きになってはいけない。』

『ここから出てはいけない。』

なぜなのかと聞いたが、何も答えてはくれなかった。

人とも話せない、そんな狭い世界が、そんな何も変わらない毎日が過ぎ去っていった。






幾日も経ったとある日、戸が叩かれた。

聞き覚えの無い声で「失礼します」と聞こえた。

こんなことは今までなかった。

配膳に来る人だって戸を叩きはすれども、声は一切発しなかった。

だから突然のことに面を食らってしまった。

驚いて固まっているうちに、戸の向こうから男の人が入ってきた。

金髪の青年だった。

初めて見た金髪、初めて見た同年代の男の人、その青年はゆっくりとこちらに歩み寄り、名乗っ

た。


「俺、須賀京太郎っていいます、あなたが姉帯豊音さんですね?」

「そ、そうだよー。」


人と会話したのはいつ以来だろうか、自分の名前すら忘れかけていた私の名前を、誰かが呼んで

くれるのはいつ以来だろうか。

話し方すら忘れてたと思っていたのに、もう誰とも話すことはないのかもと思っていたのに……

「俺はあなたのご両親に頼まれてやってきたんです。」

「で、もしよかったら俺と少し、お話しませんか?」


期待してしまう、ここに来てから会話なんてなかった。

期待してしまう、ここに来てくれて話をしていいと言われて。

期待してしまう、ここ以外の世界を教えてくれるのではないかと。






彼は自分のことを軽く話し、外のことについて教えてくれた。

彼の住んでた町、おいしい物、面白い物、楽しい物、楽しいこと。

正直、期待してしまう、この人が私をここではないどこかへ連れて行ってくれるのではないかと


でも、それは欲張りな話だ、話し相手が出来ただけでいいのに。

その上ここから連れ出して欲しいなんて、なんて私は欲張りなのだろう。






京太郎「――それで俺は一人ぼっちだと思ってたんですけど、やっと人に頼れる事が出来たんで

す。」

豊音「……」

京太郎「姉帯さん?やっぱり俺の話って詰まんなかったですか?」

豊音「ううん、そんなことないよー、ちょーたのしいよー……ただ……」

京太郎「ただ……?」

豊音「私は、私にはそんな人、居ないよー……」

豊音「ずっと、ずっと、私は一人ぼっちだったんだよー……」

京太郎「そう、ですか……」

京太郎「……じゃあ、俺と友達になってください。」

豊音「え?」

京太郎「……もう一度言います、姉帯豊音さん、俺と友達になってくれませんか?」

豊音「……いいの?」

京太郎「いいもなにも、お願いしてるのは俺ですから。」

京太郎「姉帯さんがよければ友達になってくれないですか?」

豊音「…………」

豊音「友達になりたいよー……」

豊音「私、ずっとお話が出来る友達が欲しかったんだよー……」

豊音「でも、私、ここでぼっちだからできなかったんだよー……」

豊音「だから願いが叶って、ちょーうれしいよー。」

京太郎「じゃあもう、ぼっちじゃないですね。」


そういって彼は手を差し出してくれた。


豊音「うん、もうぼっちじゃないよー……」


その手を掴んだ瞬間、私の世界は広がった。




宮守episode
『迷ひ・塞ぎ・友を引く手』








――現在・清澄控え室――



優希「おそい……おそいじぇ……一体犬は何所で道草食ってるんだじぇ!?」

和「優希がタコスなんて頼むから……」

咲「それにしても京ちゃん遅すぎるよ……」

咲「私、ちょっと探してきます!」

久「はい、ストップ、あなたが行くと二次遭難が起きるから。」

和「なら私が咲さんと一緒に行きます。」

和「それなら迷子になりませんよね?」

まこ「そうじゃな、和が一緒なら流石の咲も迷子にならんじゃろ。」

咲「……京ちゃん、皆が私の事をお外を歩くとダメな子っていじめるよ……」ガックシ

和「さぁ、行きましょう、咲さん。」





――同時刻・白糸台――


淡「あ~んもー!きょーたろーおそーい!」

尭深「確かに、遅い……」

誠子「どっかで道草食ってるんですかねー?」

菫「須賀が何の連絡も入れずに遅くなるなんて妙だな。」

照「きょ、京ちゃん……」オドオド

誠子「案外美人にふらふら~っと付いて行ってるだけだったりして。」ケラケラ

照「!?」

菫「流石にそれはないだろうと思うが……」

菫「想定外の荷物が多くて難儀してるのかもな。」

照「……」ソワソワ

菫「念のために誰か探しに行ってくれるか?」

照「はい!はい!はーい!」

菫「照、お前は却下だ。」

照「」

菫「で、誰かいないのか?」

照「なんで私がダメなの!?」ギャー!

菫「お前が行ったら迷子になるだろうが!」クワッ!

照「京ちゃんがいるから迷わない。」キリッ

菫「その須賀を探す為に人を出そうとしとるんだろうが!」ガー!

照「むー」

誠子「あ~、弘世先輩?」

菫「どうした、誠子?」

誠子「どうやったって宮永先輩は付いてくると思うのでもう二人で行った方がいいかもしれませんね。」

菫「」

照「やったー!」パァー

菫「仕方ない照と私が行くか……」




――自販機前――


京太郎(宮守)「っとまあこういう具合かな。」

京太郎(宮守)「だから宮守の皆には感謝してるし、手伝えることは手伝ってる。」

京太郎(小鍛治)「なんか波乱万丈だな……」

京太郎(白糸台)「人のこと言えないだろ。」

京太郎(宮守)「話してたらもうこんな時間か。」

京太郎(小鍛治)「やべー結構時間経っちゃってるよ……」

京太郎(清澄)「うわー!これ多分みんな怒ってるよなー……」

京太郎(白糸台)「それじゃあ、一旦ここらでお開きって事で。」

京太郎(清澄)「おう、それじゃ、またな。」

京太郎(宮守)「また会おうぜ。」

シロ「またなー」


――――

照「京ちゃん!」

京太郎「あれ、迎えに来てくれたんですか。」

菫「君が余りに遅かったのでな。」

菫「一体なにをやっていたんだ?」

――――

京太郎「戻りましたー」

健夜「遅かったね、みちにでも迷ってた?」

恒子「案外自分探しの旅に出てたとか?」

京太郎「いやーそれがですねー」

――――

京太郎「すいません遅れました。」

トシ「おや、随分遅かったねぇ。」

塞「シロを負ぶってたから余計時間掛かったんじゃ……」

豊音「なにかあったのー?」

シロ「あー……説明するのがダルい……」

京太郎「飲み物買いに行く最中ちょっとありまして。」

――――

咲「あ、京ちゃん!」

京太郎「おー、咲に和、悪いな遅れちまって。」

和「何かあったんですか?」

京太郎「まあな……」

京太郎×4「「「「ちょっと(人生の)道を教えてました。」」」」


『前編』


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最終更新:2012年10月13日 21:26