久「何でもない時こそ日頃の感謝を、ねぇ」

読んでいた雑誌に書かれていたその文章に何故か心惹かれふと考える

いつも私たちの為に雑用を他のメンバーよりこなしてくれる後輩、頼み過ぎている自覚はあるが全国優勝という目標に加え女所帯としては貴重な男手である

久「たまには真面目に労ってみるのも悪くはない、かな?」

もちろんIHが終われば今までの分も含めて指導するつもりではある。しかしそれまで何もなしというのも些か良心が咎めるところではあるし、これもいい機会だと思いは言わなければ伝わらないと述べるこの雑誌に便乗することに決めた

久「ちょっとしたプレゼントと一緒に渡すとより気持ちが伝わる、か」

確かにただいつもありがとう、なんて言うだけでは物足りないというかあっさりしすぎな気がするし、逆にあまりにちゃんとした物でもそれはそれで委縮させてしまうだけだろう

久「んー、須賀君にちょうどいいのは」

やはり初心者向けの教本だろうか?自分が昔使ってたものなら書き込みなども残ってるし役に立つかもしれない、でも…

久「普段雑用でこき使ってあんまり卓に着かせてあげられてないのに教本ってのも嫌がらせっぽいかしら?」

先輩としては正解だろうがまだまだ初心者を脱しきれない責任の一端があるだけに少し抵抗がある。彼はネト麻もやっているので活かす機会が皆無という訳ではないが

久「となると普段使いやすいハンカチとかタオルとか?夏場だから汗もかくだろうし…」

言っていて気付いた。汗をかかせている張本人がそんなもの渡したら労いとは名ばかりでこれからも雑用頑張れよ、という無言の圧力と感じてしまうのではないか?

久「というか考えてみればもしかして私って須賀君に好かれてる要素無いんじゃ…?」

普段の部活の空気は険悪どころかか良好そのものである。しかしそれは彼の高いコミュ力によるもので本当は嫌われてるのではないだろうか?仮に嫌われてないにしても自分に好印象を持ってくれているとは考え難い

久「ど、どうしましょう…」

別に彼のことを異性として意識しているわけではないが仲のいい後輩に実は嫌われているだなんて考えたくないし、もし自分が原因で麻雀その物が嫌いになってしまったらそれはとても悲しい事である

久「そうだ、彼も男の子なんだし…」

いつの間にやら思考が変な方向へと向かいだし夜は更けていくのだった

翌日

部活の終わりに彼を残し、昨日の結論を渡すために覚悟を決めようとする

京太郎「どうしたんですか部長、俺だけ居残りなんて…」

久「その、ね…。大した話じゃないんだけど、いつも雑用頑張って皆の為に動いてくれる須賀君にお礼を言いたくて」

京太郎「え?」

久「まだまだ須賀君に教えなきゃいけないこともいっぱいあるのに自分たちのことばっかで手一杯な私達を裏で支えてくれて、とっても感謝してるの。だからありがとう」

京太郎「何言ってるんですか改まって。そういうのは全国で優勝してから言ってくださいよ」

久「もちろん終わってからも言うけど、こういう何気ない時にも感謝の気持ちを伝えるのは大事かなーってね」

京太郎「あー、すっげえ嬉しいです。俺、これからも頑張りますから」

久「それでその、ささやかながらプレゼントもあるんだけど」

京太郎「マジっすか!?なんだろうなぁ、楽しみだわー」

後はあれを渡すだけ、なんだけど…

久「ちょ、ちょっと驚かせたいから目を瞑ってくれる?」

京太郎「うっす!」

そう言って目を閉じた須賀君を確認して両手をスカートの中に伸ばす

渡すと決めてシャワーを浴びてからずっと履いてる、ちょっと自信のあるこれ

後はただ手を下して足を上げるだけ、なんだけど…

京太郎「まだですかー?」

久「待って、もうちょっとだから!絶対目を開けちゃダメよ!」

軽い感じで聞いてくる彼の言葉が私をせかしてくるがどうしても勇気が出ない

顔もどんどん熱くなってるし体がプルプル震えているのが自分でもわかってしまう

京太郎「イタズラでもしかけてるんですか…って何してんですか!?」

いい加減訝しく思ったのだろう彼が目を開けて驚いている

久「もう、開けちゃダメって言ったのに…」

口調こそ冷静だが中身はテンパりまくりで思考がぐるぐるしている

京太郎「そんなことより!いったい何を」

久「これでも結構勇気出してるんだけど」

京太郎「いいからそこから手を放してください!こんなとこ誰かに見られたら」

そう言いながら私の腕を掴む彼に従い素直に手を放す。この状態が恥ずかしすぎたというのもある

京太郎「…で、本当になんだってあんなこと」

久「だって、教本とかタオルとかだと嫌味みたいになるじゃない」

京太郎「どういう理屈ですかそれ」

久「私、須賀君に嫌われてるような事しかしてないし何を贈ってもダメかなって」

京太郎「それでなんでそのパ、下着なんか」

久「だって年頃の男の子ならみんな好きなんでしょ?特に脱ぎたてが」

京太郎「どっから仕入れてきた知識か知りませんが違います」

なんてことだ。私からでも気に入ってもらえると思った渾身のアイデアが失敗とは

京太郎「だいたい、前提が間違ってるんですよ」

久「え?」

京太郎「そりゃ確かに俺だけ色々と雑用だの力仕事だのさせられて他が卓に着いてるの見てるだけってのが辛くないかといったら嘘になりますけど」

そうよね、やっぱり恨んでるわよね…

京太郎「でも、そんな皆を見て俺もやってやるって気持ちになってるし、学生議会長との両立で大変ななかでも頑張ってる部長は、本当に尊敬してるんです。だから嫌われてるなんて思われるのはちょっと心外というか…」

最後はポリポリと困ったように頭をかきながら話す彼を見てるとなんだかおかしな気分になってきた

久「クスッ、そこで最後まで自信ありげに言ってくれたらかっこよかったのに」

京太郎「笑わないで下さいよ…。というかもしかして最初からからかうつもりでした?」

久「そんな訳ないじゃない。冗談で下着差し出そうとするほど軽い女じゃないわよ」

京太郎「ですよね、すいません」

久「でも、ありがと。すっごく嬉しかった」

京太郎「どういたしまして。というかなんで労われてたはずの俺が逆に部長を励ましてんだ…?」

久「あら、ほんとね。じゃあまた何かプレゼント考えておくわ」

京太郎「いや、プレゼントはもういいですって」

久「安心して、今度はちゃんと普通のやつにするから。そろそろ帰りましょう」

須賀君と別れて家へ帰る途中、先ほどスカートの中に手を伸ばしたときとは別種の熱が集まっているのを感じていた

久「仲のいい後輩、だったはずなのにね」

異性として意識していたはずではなかったのに、冷静に考えてどうしようもない痴態を晒した私に狼にならず思いを伝えてくれた彼の事を思い出すと胸がドキドキしてきた

久「思いは言わなきゃ伝わらない、か」

須賀君が私をあんな風に思ってくれていたなんて分からなかったように、私が感謝の気持ちを持っていたのもああして言わなければ伝わらなかっただろう

そして、今私の中にあるこの気持ちも…

久「いつか本当に渡してみようかしら?」

その時はきっと彼にこの思いを伝えた後で…

カンッ!