私と彼が出会ったのはお嬢様が参加なされたインターハイの県予選決勝、先鋒戦の最中でした。

 井上さんが誤って彼の友人である片岡さんが持ち込んだ食事を食べてしまわれたのです。

 失われたタコスを買いに走る彼に店の所在を教えたのが切っ掛けであり、私たちの関係の始まりでした。

 私には彼を一目見た時から予感があり、情報を収集した結果、それは確信へと変わったのです。

「荻原さん、どうかしたんですか?」

 心配そうにこちらの顔色を窺われるとは、私もまだまだ精進が足りない。

「何でもありませんよ国広さん。ただ、ここに来て一月が経った彼のことを考えていただけですよ」

「須賀くんか……」

「荻原さんが推薦しただけのことはありますよね」

「そうだよね、歩」

 須賀京太郎君、彼は私の初めての弟子であり、大切な友人でもあります。

 真の従者に必要なものは色々とありますが、主を支える多種多様な技術と知識は当然のことながら、何よりも大切なのは精神性です。

 主の影となり、奉仕に身を徹し、決してでしゃばってはならない。

 しかし、我を殺すことは言うは易く、行うは難しいことでもあります。

 彼は執事として生きるに必要な要素を多分に持っておりました。

 資本たる肉体の強さ、裕福な家庭環境、他者への奉仕で喜びを見いだす心、鍛えれば輝く原石、まさに逸材。

「荻原さんみたいに動ける方なんてビックリですよね」

「うんうん、本当に人間なのかと疑っちゃったよね」

「彼も私も人間ですよ国広さん。ほんの少しだけ特別な訓練で技術を身につけた執事なだけで……」

 気の微細なコントロールができれば誰にでも可能なことです。

 気配を殺してその場から消えたように見せることも、主に存在を悟らせずに控えることも、高速で動くことも容易いのですよ。

「気ですか……」

「「無理だよね(ですね)」」

 噂をすれば影と言いますように、ドアを開いて彼が姿を見せました。

 気配を隠すことが上手くなりましたね須賀君。

 私でも部屋の出入口に近づくまで気づかせないとは中々……

「一さん、お嬢様が呼んでますよ」

「噂をすればだね」

「そうですね」

「何かありました?」

「何でもないよ。呼ばれたしボクは透華のとこに行くね」

 足早に去る国広さんを見送り、須賀君は食器の準備などを進めていきます。

 彼の動きを見て時計を見やり、慌てるように杉野さんも手伝いを始めました。

 透華お嬢様や衣様がおやつをお求めになられてもおかしくありませんからね。

 主人の求めに直ぐにでも応じられるように準備しておくのは当然のことです。

 言付けを受けてから用意するのではなく、事前に整えておく心配りが主の豊かな生活を支える一助となります。

 そつなく、テキパキと動く様を見れば、この一ヶ月で仕事にも慣れてきたことが見てとれますね。

 数ヶ月後には旦那様に上申してもよろしいかもしれません。

 彼なら衣様付きの執事としても上手くやっていけるでしょう。

 そうなれば、旦那様の下で次期当主として本格的に学び始めた透華お嬢様を支えることに専念できますね。

「ハギヨシさん、テイスティングをお願いします」

 ……ふむ、この味を出せるなら予定よりも早く衣様の件は進めても良いかもしれません。


カンッ!


-おまけ-

純「しっかし、まさかあいつが執事になるなんてな」

透華「本当ですわね。私は彼を清澄のマネージャーの方だと思っていましたわ」

衣「うむ、初めて見たときは凡夫にしか見えなかったが、衣の目をも欺くとはな」

智紀「能ある鷹は爪を隠す?」

一(はは、辛口だな……)

純「まあ、殆んど完璧だが、ハギヨシと違って欠点もあるよな」

透華「そうですわね……」

衣「衣の方がお姉さんなのに……」

智紀「彼に欠点?」

純「智紀には分からないんじゃないか?」ペタ

透華「微細な違いですから気づかなくても不思議じゃありませんわ」ペタ

衣「京太郎も男だ、多少は目を瞑ろう」ペッタン

智紀「??」ポヨン

一(須賀くんは大きな胸の子が好きだからね……ハギヨシさんは透華や衣と間違いは起きないと考えたから彼を推した線もあるのかな?)ペタン


もう一個カンッ!