「ふぅー…」

外の空気は見てわかるぐらいに澄み切っていて、普通に吐いた息でも白くなるほどに寒い。

そんな寒空の下を歩いているのは近くの公園にある自動販売機に行くため。

外出において「ついで」程度で利用するものであろう自動販売機を主目的にして外出するような酔狂は

全国…とは言い過ぎにしてもこの地域においては私だけではなかろうか。

だがそれも仕方の無いことだろう。目的のジュースはここぐらいしか置いていないのだから。

そんな自己弁護をしつつも自動販売機の前に到着した私はあらかじめポケットの中に入れていた小銭を投入し、

迷うことなくとあるジュースをひとつだけ購入する。

複数購入すればいちいち外出する必要は無いのだが家で飲むこれはどうにも味気ない。

美味しいのは美味しいのだが…なんというか、風情が足りないのだ。

たかだか十数年生きた程度で何を言っているのだと言われるだろうが仕方ないだろう。そう感じてしまうのだから。

だから私はどんな時であろうとこのジュースを飲むときはこの公園のベンチに座って楽しむと決めているのだ。

…まぁ、だからと言って――


「さむさむ…ずびびっ……うぅ、ちべたい」



――――――この寒空の下でさらに冷たいメロンソーダを飲むのは自分でもどうかと思う。



「そこのおねーさん。メロンソーダ、好きかい?」

インターミドル途中棄権から始まる様々な不幸のせいでずっと心の中に溜まり続けてた言い表しようの無いモヤモヤ感を少しでも晴らしたくて

家出…とまでは言わなくともちょっとした遠出をしている途中、なんでこんな寒い日に実行したのかと自問しつつ温かい飲み物で暖を取って一息ついたそんな時。

そんな風に声をかけられたわたくし上埜…いや、もう竹井か。竹井久ちゃんじゅうごさい。

声をかけてきたのは同じくらいの年恰好の男の子。おねーさんというからにはおそらく年下なのだろうか。

明るい金髪で人懐っこい笑顔を浮かべており、おそらく十人中十人が好感を抱くだろう。

しかし私は捻くれ者。そんなもので好感は抱かない。

嫌悪感を抱くほど捻くれてもいないが。

しかしそれにしてもメロンソーダ…メロンソーダねぇ…

とりあえず質問してみましょうか。

「ねぇ、私が今何飲んでるかわかる?」

「んー、缶のお汁粉?」

ふむ、目がおかしいわけではない。

次の質問。

「そのメロンソーダは?」

「冷たいよ。買ったばかりだし」

感覚がおかしいわけでもない、と。

次の質問。

「今の季節知ってる?」

「冬だね。真冬。すっげー寒い」

ふーむふむふむ。ほーうほうほう。

やっぱり普通の子よね。おかしなところもないし。

よし、最後の質問。

「こんなクソ寒いときにそんなキンキンに冷えたもの飲むと思う?」

「あ、やっぱり?」

わかってて言ってやがったのねこのガキャア。

「あなたは何でそんなもの買ってるのよ…」

「寒いときほどアイスを食べたくなるみたいな?」

「なら自分で飲みなさいよ。なんで私に渡そうとするのよ」

「いやぁ、買ったは良いんだけど予想以上に冷たくて…」

「くじけたのね…なっさけない…」

「アレだよ、男は馬鹿やって成長するみたいな」

「明らかに結果がわかりきってる馬鹿でも成長できるのかしらね」

「百聞は一見にしかずって言うじゃんさ。一回やらかしたんだからしばらく同じことはしないって」

「そこは二度としないって言い切りなさいよ」

「だって今回は美味しいときじゃなかったかもしれないじゃん。また別の機会があれば試したくなるのが男なんだよ」

「ふぅん…」

「てことで、これ飲まない?半分でいいから」

「何でそうなるのよ」

「良いじゃんお汁粉飲んでんだろ?ちょっとくらいアクセントあったほうが美味しくなるって多分!」

「あなたねぇ…」

「頼むよ!1人で一本はつらいんだよ!」

泣きそうな顔で懇願するその子に毒気を抜かれたのか、それとも母性にでも目覚めたのか。

「はぁ…しょうがないわねぇ…」

なんて、了承してしまったのだ。

そうして名前も知らないその男の子と分け合ったメロンソーダは外気に触れていっそう冷たくなっていたが

あらかじめ飲んでいたお汁粉のおかげだろうか、身体はなんとなく暖かった。

ぎゃーぎゃー騒ぎながらもなんとか飲み終え、男の子がお礼を言いながら走り去った後にお互いの名前を知らないことを思い出したけど

この時心に抱いていたモヤモヤ感がすっきりしていた私には割とどうでもいいことだった。

「その時に聞きそびれた所為で今もこんなことしてるんだけどねぇ…」

苗字が変わったのち、住所も変わった今の私は遠出だったはずのあの公園がいまや近所になっていた。

しかしこの近くに住んでたのであろうあの男の子には今も会えずじまい。悪待ちは嫌いではないけどめげない訳ではないのだ。

彼の言った「別の機会」をずっと待ち続けてる私。なんて乙女思考なんだろう。我が事ながらちょっと恥ずかしいわ。

今年で高3の学生議会長であるこの私がそれでいいのだろうか。まぁ高校2年間の青春をメンバーの揃わない麻雀部で過ごした私には今更だった。

いいもん、今年こそはメンバー揃えてみせるんだから。それに今年は良い事が起こりそうな予感がするし。

そんな風に自分を鼓舞しつつ飲み干した缶をゴミ箱に投げ入れる。よし、上手く入った。小さくガッツポーズをする私。

なんだか本当にいい事が起こりそうな気がしてきた。そんなルンルン気分で帰る私には数ヵ月後、ここではない場所で彼と再会するのは知る由も無いことだった。

カンッ






――4月某日


「すみませーん、麻雀部ってここです…か…?」

「いらっしゃ…あら?」

「……」

「……」

「……もしかして?」

「……ふふっ、ようこそ麻雀部へ。私は部長の竹井久よ。ねぇ、あなた―――」




―――――メロンソーダは、好きかしら?


モイッコカンッ