照が長野から逃亡(3度目)した翌日・放課後
白糸台高校麻雀部部室前の廊下


淡「ふー!やっと授業終わったーっと。さて部活部活ー…って…あれ?どうしたんですか?皆さんお揃いで」

菫「ああ、淡か。いや何ちょっと…な」

淡「?」

尭深「…うん。ちょっと…」

誠子「ちょっと…ね…」

淡「変な先輩方…っていうか、もう早い人部活始めてる時間ですよね?どうしたんですか一体」

菫「今日は、レギュラー以外は皆休みだ」

淡「はあ?この時期に!?」

菫「…ちょっと、例のお姫様が変なんでな」

淡「…」ヒクッ

菫「…今部室の中に居る」

淡「ここから覗いてみても大丈夫ですか?気付かれたら襲いかかってきたりしませんか?あと、噛まれたりしません?」

菫「問題無い。何なら触っても大丈夫だと思うぞ」

淡「触ってもって…」

菫「見た感じの機嫌自体はな。すこぶる良いんだ。否。良すぎる。気持ち悪いくらいに」

淡「…え?」

尭深「あれはブチギレてる証拠。ただし、自分自身に」

誠子「1年は知らないかもだけど、試合で納得いかない麻雀をした日の翌日とかたま~になるんだよ。最近はそういうのもほとんど無かったんだけど…こりゃ過去最大級かもね」

菫「周りに自分の不機嫌を悟られまいと不自然に周囲に愛想を振りまく」

尭深「記者会見でも無いのに全方位営業モード」

淡「うわぉ…」

誠子「まったく…怪我を悟られないために自然に振る舞う野生動物みたいだ。他の部員も気味悪がってさ」

菫「だから私が皆を帰したんだ。…まあ、淡ならアイツの奇行には馴れてるし大丈夫だろう。ためしに話しかけてみればいいさ」

淡「はあ…」

菫「さあ、行け」クイッ

淡「…もしかして、皆さんで廊下に居たのって、私に先陣を切らせるためじゃ…」

菫「そうだ。行け」

尭深「がんば」

誠子「悪いね」

淡「せめて誤魔化すくらいはして欲しかった…」

淡「…わかりましたよ。じゃあ、骨は拾って下さいね。あと、皆さん今日は帰りに私に一個ずつお菓子を奢ること」

菫「善処する。どら焼きでいいか」

尭深「抹茶プリンあげる」

誠子「私はマックでなんかセットでも」

淡「…約束しましたからね」

淡「…はぁ」

淡「…」

淡「おっはよーございまーーーす!」ガチャッ


照「ん?ああ、淡!お疲れ様!」キラキラ

淡「ひっ!?」ゾワワワッ!!

照「もう、遅いじゃない。菫が今日は大会も近いから、レギュラーだけでミーティングだって言うからずっと待ってたのに…」

照「みんな、私がずっと待ってるのに来ないんだもん。不安になっちゃう!」プンプン

淡「す、すみません…じゅ、授業が長引いちゃいまして…」

照「そうだったの?なら仕方ないね。部活も大事だけど、あくまで私達学生の本分は勉強だもんね!」ニコッ

淡(だ、誰だこの人ーーーーーーーー!!?)

照「それにしても、来たのは淡だけ?菫達は知らない?」

淡「…」チラッ


菫「…」カキカキ

菫「」サッ

メモ『近くに居るって言ったら殺す』


淡「…」

照「淡?」

淡「は、はい!…すみません、私も良くは知りませんので…おそらくみなさんもうすぐ来るとは思うんですが…」

照「もうっ!相手は全国で地区予選を勝ち抜いてきた手強い高校ばかりなんだよ?しっかりミーティングして、相手を研究しなきゃ、油断してたら足元すくわれちゃうんだから!」

淡(言ってることは正論なのになんでこんなに心に響かないんだろう…)

照「あ。そうだ淡。ところで、お腹すいてない?」

淡「は?」

照「大切なミーティングの前に、糖分補給。ちゃんと頭回らせておかないと、ミーティングの内容が頭に入らないぞっ☆」

淡(なんだろう。本人は大真面目なのかもしれないけど、凄く馬鹿にされている気がする…)

淡「は、はあ…まあ、甘いモノは大好きですが…」

照「そうでしょ?だと思って、淡にプレゼント!」

淡「…」

照「あとでみんなが集まってから出そうと思ってたんだけど、みんなが遅いんだししょうがないよね」ゴソゴソ

淡「…」

照「…はい!じゃ~~ん。東京ばな奈~!しかも4箱も!」

淡「…おうふ」

照「ね!ね!ね!私達でみんなが来るまでに1箱食べちゃわない?実は私これ大好物なんだー」

淡(やばい…意識が遠のいてきた…)

照「…淡?」

淡「あ、す、すみません…そうですね。食べましょう。いただきます。ありがとうございます…」

照「ふふ。淡は面白いな。はいどうぞ」スッ

淡「いただきます…」

照「…」

淡「はむはむ…うん。おいひい」モグモグ

淡(なんかアレであるけど…まあいいか。東京ばな奈自体は嫌いじゃない)

照「…」

淡(うーむ。この柔らかい食感と濃厚なクリーム。流石高いだけあって結構なお味…)ホワホワ


照「…」シュン

淡「?宮永先輩、どうかしました?」

照「あっ!ご、ごめんごめん!淡が美味しそうに食べてくれるものだから、ついつい見ちゃって…」

淡「はあ…」

照「本当に、ごめん…」

淡「…?」

照「ごめん…ごめん…気持ち悪いよね私…ごめん…」

淡(なんか一気にダウナー系!!?)

淡「い、いやいや!そんな事ないですって!ただ宮永先輩は食べないのかなーって思っただけなので!」

照「えっ!?あ、そ、そう!?いや、ごめんごめん。そうだったね。それじゃあ私もいただきますっ」

淡「」ホッ

照「はむっ!もぐもぐ…」

照「」ホワ~~ン

淡(おお。マジで美味しそうな顔。口元が緩んでる)

照「うん、美味しいね」

淡(ここは話に乗って、良い感じにご機嫌を取っておこう)

淡「そうですね、最高に美味しいです。私東京ばな奈大好き!」

照「ふふ。私もだ。東京ばな奈は、昔長野に居た頃から憧れのオヤツだったんだ」

淡(口調が戻ってきた!機嫌が治ってきた?よしこの調子で)

照「だから、こっちに来て早速、初めて買って食べて、予想通り…いや、それ以上に美味しくて嬉しくて…いつか、大好きな人とこの大好きなオヤツを一緒に食べるのが夢で…」

淡「…?」

淡(…あれ?)

照「先日、ついに居ても立ってもいられなくてその夢を叶えようと勇気を出して、その人に会いに行って…いつでもいっしょに食べるチャンスは一杯あって…」ジワッ

淡(ま、マズい。地雷を踏んだ?)

照「そうしたらあんな事があって、凄くびっくりしたけど、本当に嬉しくて、けど気が動転しちゃって、何をすれば良かったのかも私は訳がわからなくなってしまって…」ブツブツ

淡(うわああああ!これはヤバイ!本格的にヤバい!怖い!面倒くさい!なんとか話題を逸らさないと…)

照「本当に…痛感したよ。私は救いようのない馬鹿だ。…いっそ死んでしまいたい」

淡「な、何言ってるんですか!!!」

照「…淡?」

淡「み、宮永先輩は馬鹿なんかじゃないです!」

淡「そりゃたまには…て言うか、しばしば…結構…かなり…アレでソレな所もありますし、私には特に実害も結構な頻度で及んでて勘弁して欲しいなーこの人とか思うことも良く有りますけど!」

淡「この私に対する偉そうな態度がムカツクんでいつか麻雀で徹底的にボッコボコにして悔しがってるを写真に撮ってネットでばら撒いてやりたいとかも思ったりしますけど!」

淡「な、なんだかんだいいところは一杯有りますよ!宮永先輩は!ほら…その…角とか…」

照「淡…具体的に褒めたとこが角だけ…」

淡「と、兎に角!そんな欠点も含めて!麻雀の強さや人格も含めて!私は宮永先輩のことは、その…嫌いじゃない…んで…」

淡「し、死ぬとか…そういうのは…無しで…お願いしたいんですが…」

淡「…なんか悲しくなっちゃいます。私を悲しませないで下さい。先輩なんですから」

照「…ごめん」

淡「まったくです」

照「…」


照「…」

淡「…」

照「…」

淡「…」

淡(し、しまったーーーーー!何恥ずかしいこと言ってるんだ私!アホか!!しかも今の何にも考えずに口から出たって事は、本音か!!アホだ!!)

照「…」

淡「…」

照「…」

淡「…」

淡(しかも会話無くなったし!)

照「…」

淡「…」

照「…」

淡「…」

淡(ううううう…沈黙が重い…)

淡(な、なにか…話題…話題は……あっ!)

淡「あ、あれ?宮永先輩」

照「…何?」

淡「い、いえ。その…卓の上に置いてある携帯…」

照「ああ。それがどうした?」

淡(あ、口元が緩んだ。これはやっぱり、聞いて欲しいからわざわざこんなところに置いたんだろうな。と言う事は私のこれからする質問は間違ってない!)

淡「可愛いストラップが着いてますけど、こんなの持ってましたっけ?」

照「あ…ああ、それは…。ちょ、ちょっと入手までの経緯に複雑な事情があるんだけど…」

淡(おお、珍しい。はにかむような、困ったような、嬉しいような、悲しいような…こんな複雑な表情も出来たんだこの人)

淡「えー?なんですか?複雑な事情って。あ、もしかして好きな人にでも貰ったとか?」

照「な!!?お、おい淡。お前なんでそんな…いや、そういう訳では…えっと…その…」オロオロ

淡(おおおー!?なんだこの反応!乙女か!!まさか弘世先輩の言ってた、例の幼馴染君の話なのかーーーーー!?)

照「あ、あの…ね?淡。こ、こういう話はちょっと恥ずかしいから…特に菫にはナイショにしておいて欲しいんだけど…」

淡(はは。まさか酒に酔わされてすでに自白済だとは思うまい。同情しますよ。宮永先輩…)

淡「えー!聞きたい聞きたい!教えて下さいよ宮永先輩!この、ハート型のストラップを受け取った経緯!」スッ

照「…は?」

淡「へー。プニプニしてるんだ。面白いですねコレ」プニプニ

照「…」ビキッ

淡「それによく見たら顔が付いてる。あはは、ブサ可愛い感じで結構いいかもー…」プニプニ

照「…淡?」

淡「なんか、この安っぽい感じがいい味出してますねー。メイドイン・チャイナって感じで…」プニプ…

照「…おい、貴様何してる」ガシッ

淡「…へ?」プニッ?

照「誰が触って良いと言った」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「…えーっと…」プニプニ…


照「」ガタッ

淡「…あ、あの…宮永先輩…?」

照「」ギュインギュインギュイン

淡「なんか、その…腕にサイクロン的な何かが集まってるような幻影が…」

照「死ね!」ブンッ

淡「おわあっ!?」サッ

照「避けた!?」

淡「な、何するんですか!いきなり殴りかかってくるなんて!」

照「五月蝿い!無断でそのストラップに触るな!それは私のものだ!」ブンッ

淡「ひょわぁ!?お、落ち着いて下さいよ!」サッ

照「くっ…ちょこまかと…!!」

淡(あわわ。宮永先輩が運動音痴だから助かってるけど、このまま避けてるだけじゃいずれ捕まる…)

照「逃がさない…」ジリジリ

淡「ぐううう…」

照「ふん!!」ブンッ

淡「わっ!」サッ

照「たあ!」ブンッ

淡「やば、避けれな…」

淡「きゃぁ!」サッ

バキッ

照「痛っ…」

淡「~~~っ…」プルプル

淡「…」

淡「…はれ?」

照「いたたた…」

淡「あれ…殴られてない…?って…あ。無意識に先輩の携帯盾にしちゃったんだ…」

淡「…げ」

照「くっ!淡!お前、よくも私の携帯を…」

照「…」

淡「…まず」

照「あ…」

淡「えーっと…」

照「あああ…」

淡「その~…」

照「ああああああああああああああああああああああああ!!!」

淡「す、すみません…ストラップ…千切れちゃいました…ね…」

照「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!」

淡「うあー…」

照「わあああああああああああああああああああああん!!わあああああああああああああああああああん!!わああああああああああああああああああ!!!」

淡「…こ、これはどうしたものか…」


照「うええええええええええええええん!ええええええええええええええええええええええん!!えええええええええええええん!!!」

淡「こんな泣きまくってる宮永先輩初めて見た…ど、どうしよ…」

菫「まったく…何をやってるんだお前は」スタスタ

誠子「あーあ。可哀想に…」スタスタ

尭深「泣ーかした泣ーかした」テクテク

淡「せ、先輩方…」

菫「いじめっ子め」

淡「え…何ですかこの雰囲気。まるで私が悪いみたいな…」

照「ええええええええええええええええええええん!ええええええええええええええええん!!淡のばかあああああああああああああああああああ!!」

淡「私が悪いの!!?」

菫「ほら、照。落ち着け。大体、さっきから変だぞお前。何があったか一から話してみろ」ユサユサ

照「ヒッグ…ううえええ…す、すみれえぇええええええええ…うええええええ…」

誠子「よしよし、大丈夫ですよー。宮永せんぱーい。私達で良ければいつでも力になりますからー」

照「ええええええん。あ、ありっがとっ!せい゙ごぉおおおおおおおおおおお」

尭深「はい、冷たいお茶。落ち着いて…」

照「たかみ゙~~~~~~~~~~~!!」

尭深「ん」ナデナデ

淡「なんだこれ…」

菫「よしよし。落ち着いたら話聞いてやるから。な?ほら。特別にだっこしてやる」ギューッ

照「うん。うん。ありがと…うん。ごめんねすみれ…うん…」スンスン

菫「はいはい。そしたらちょっと休めお前」ナデナデ

照「すみれのおっぱいやわらかい…」ギューッ

菫「わかったわかった。お前は硬いな。はいはい」ナデナデ

照「…」ギューッ

菫「はぁ…」

淡「幼児退行してるし…」

照「…」ギュッ

照「…」

照「…」コックリコックリ

照「…」

照「すー…すー…」

淡「寝た」

菫「…ま、ざっとこんなものだ」

淡「…おみそれしました」

尭深「淡には、おっぱいが足りない…」

淡「ほっといて下さい!!」

誠子「まあ、なんにせよ話はこの人が起きてからだね」

淡「はあ…」

照「すやすや…」





10分後

菫「落ち着いた?」

照「…うん。すまない菫。尭深。誠子。ついでに淡」

淡「ついで…ぐぬぬぬ。まあ、私もすみませんでした。その…色々失礼なこと言ったりやったり」

照「いや。私の方こそすまない」

菫「よし、お互い謝罪は終わったな?それじゃあ、話してもらおうか。照、お前、日曜に…いや、ここ数日に何があった?」

照「…」

菫「話せ。お前、ここ数日の自分の奇行を誰にも疑問視されてないと思っていたのか?」

照「…」

菫「全国の近いこの時期にエースに身も心もあっちへフラフラこっちへフラフラされては私達も堪ったもので無いんだ。もういい加減話してくれてもいい時期だろう」

誠子「それに、私達だって、宮永先輩にはなんだかんだお世話になってきてますから。恩返し…じゃないですけど、力になれる所は、なりたいんですよ」

尭深「魚の干物のお礼もまだ。お返ししたい」

照「…」

淡「わ、私も…」

照「…淡?」

淡「私も…宮永先輩には、その…悲しい顔似合わないって言うか…その、そんな顔されてたら調子狂うって言うか…」

照「…」

淡「…その…げ、元気だして欲しいから…」

照「…」

照「…わかった」

淡「…」

照「…何があったか話す」

菫「…そうか。ありがとう」

照「けど、その前に」

菫「ん?」

照「尭深。お茶淹れてきて」

尭深「?…わかりました」

照「はい皆。東京ばな奈。みんなに均等に渡るように。あ、余った分は私のだからな。買ってきたのは私だし」

誠子「へ?」

淡「何やってるんです?」

菫「さあ」

尭深「淹れてきた」

淡「早っ!」

照「ありがとう。それじゃあみんな。聞いて欲しい。私の犯した馬鹿な間違いの話を」

菫「馬鹿な間違いねえ」

照「で、ついでに相談に乗って欲しい。これから私はどうすればいいか。何をすべきなのか」

誠子「何をって…まあ、出来る限りで」

照「でも、その前に、もう一個聞いて欲しい事がある」

尭深「もう一個?」

照「ああ。これは、最近の話じゃないんだけど…」


照「私の初恋の話」

淡「!!」

照「そして、私がこっちに来る前の、長野に居た頃の話」

照「私が、それまで一体どんな人間だったのか…」

照「それまでどんな人生を歩んできていたのか…」

照「どんな事を考えてきていたのか…」

照「物凄く恥ずかしい話なんだけど…」

照「もしかしたら、私の事を馬鹿にしたり軽蔑するようになるかもしれないけど…」

照「凄く凄く話すのが怖い話なのだけど…」

照「今まで、誰にも言えなかった話なんだけど…」

照「…でも、みんなには聞いて欲しい」

照「…お願いだから、聞いて欲しい」

淡「えっと…」

淡(なんかすっごく重そうな…だ、大丈夫なのかな私こんな話聞いちゃっても…)

誠子「おっ!もったいぶりますねー!」

尭深「なんだかワクワク。B級映画か糞アニメみたい」

淡「えっ。いや、お二方そんな軽い感じな…ってか、渋谷先輩今さらっと酷い事言いましたね」

菫「是非も無いさ。お前がそうやって大袈裟に言った相談事が私に本当に手に負えなかった事は無いんだ。今までもそうだったのなら、これからもそうだ」

淡「弘世先輩まで!?」

菫「話してみればいい。その口ぶりだと、どうやらその話は今までお前にとって随分と重荷だったらしいが…」

菫「お前のような麻雀以外ポンコツ女が一人でえっちらおっちら運んできた荷物など、我々5人で抱えればどれほどのものでも無くなるさ」

淡「…」

菫「それが仲間って奴だろう?まあ、柄じゃないがな」

淡「…」

淡「ま、私だって宮永先輩よりはしっかりものな自信ありますし。ちょっとくらいなら心の支えにはなれると思いますが」

照「…ありがとう。あと淡、あとで覚えてろ」

淡「…えへ」

照「…ふふ。それじゃあ長くなるから、お茶でも飲みながらゆっくりと話していこうか」

照「…」

照「…すーっ…」

照「…はーっ…」

照「…」

照「…あれは、私がまだ中学生だった頃の話だ…」

照「そう。たった数年前の話…」






淡(その日私が聞いた話は、まるで遠い世界の、知らない人の事のようでした)

淡(なぜなら、お話の中に出てくる宮永先輩は私の知ってる宮永先輩と全く違う人のようで…)

淡(途中で「年月はこうも人を変えるんですね」と素直に溢しちゃった私は、亦野先輩にゲンコツを食らったりもするんですが、まあそれは置いといて…)

淡(兎にも角にも、それはほんのちょっっぴりむかしのはなしです)

淡(牌に愛され、高校生史上最強のチャンプとまで言われ、まるで神に選ばれたかのような才能を誇る少女の、意外な昔話)

淡(妹想いで、優しくて、どん臭い、普通の女の子の話)

淡(それは宮永照が中学3年生の頃の話でした)





3年前・ある夏の日
宮永家リビング

そこには、ソファに腰掛け、物憂げに本を読む宮永照の姿があった

照「…ふう」

照「…もう、5時か…」

照「…咲、遅いな」

一息ついて深呼吸。ふと気になって壁掛けの時計を見やると、呟く
普通の中学生1年生の女の子が帰って来る時間としては、それほど遅い時間では無い。部活をやっていたり、友人と遊んでいればこれくらいの時間に帰ってくるのは寧ろ早いくらいだ

照「…大丈夫かな」

…だが、照はソワソワと不安そうに窓から外を覗くばかりだ。妹の帰りを待つその姿はどう見ても普通の様子では無い。過保護も過ぎるように見受けられるが…

照「…あっ」

タッタッタッタ…

小走りに狭い歩幅の足音が聞こえ、安堵した声を漏らす照。雑誌をコーヒーテーブルに置き、立ち上がる。急いで玄関まで向かう

照「…」

ガチャッ

果たして玄関に辿り着くとほぼ同時、勢い良く宮永家のドアが開かれた

照「…おかえり、咲」

優しい笑顔でおかえりの挨拶を告げ、そっと腕を広げながら、靴も履かずに土間へ降りてゆく。膝を曲げ、目線を妹の高さに合わせる。足が汚れるが知ったことか。それよりも今は…

咲「…ヒッ…ヒック…ヒック…」

照「…また、いじめられたの?」

咲「…」コクン

照「そう。頑張ったね。もう大丈夫だよ」ギュッ

咲「うわああああああああああああああああああああああああん!!」

照「よしよし。もう大丈夫。もう大丈夫。もう怖くないから、大丈夫だよ」ナデナデ

咲「おねえちゃああああああああああああん!!!」

この大切な妹を、慰めてあげなくてはならない。この、最愛の、妹を

照「お姉ちゃんがついてるから。大丈夫だから。大丈夫。大丈夫だよ…」

咲「ええええええええええええええん!!えええええええええええええん!!!ええええええええええええええええええええええん!!!!」

照「…」ギュッ

妹は

咲は、いじめられっこ

臆病で

人見知りで

どん臭くて

いじめられて当然の…いじめられっこ

いじめられ、泣いて帰ってくる咲を慰めるのが、この頃の照の日常


泣き続ける妹を抱き締めながら、いつからこんな事になったんだろう、と考える
深く思い返すまでも無い。そう、あれは咲が中学生になって間もない頃の事だ

4月のある日、照が学校から家に帰ってくると玄関に咲の靴が置いてあったので、先に帰ってきていた妹とおしゃべりをしようと、部屋を訪ねることにした
(中学生にあがって一人部屋を貰って、咲は大喜びしていた)

ノックしてドアを開けて貰おうと手を差し伸ばした瞬間…部屋からすすり泣く妹の声が聞こえたのだ
その瞬間、気付けば部屋に飛び込んでいた。いつドアを開けたのかすら記憶にないくらいだった。今でもはっきりと覚えているのは、部屋の隅で小さくなって泣いている妹の姿
思わず激しい剣幕で何があったのかを問い正し、咲がいじめにあったのを知ったのは、それからすぐの事だった

大した理由など無い。強いて言うなら、ただ弱そうな獲物が目に入ったからいじめる事にしたのだろう。子供のいじめなどそんな程度のものだ
泣きじゃくる妹の前で、ただ呆然と立ち尽くすしか出来なかったその日から、咲と照にとってひたすらに辛い日々が始まった


しばらくして咲が泣き止んだのを見計らい、極力優しい様に声をかける

照「…もう、大丈夫?」

咲「…うん。ありがとうお姉ちゃん」

気丈に答える咲。目は真っ赤で、頬はクシャクシャだ。無理をしてるのがはっきり分かる。照の胸にまたチクリと鋭い痛みが走る

照「…そう」

自分の無力さに目眩を覚える

咲「お姉ちゃんが、慰めてくれたから…」

照「…」

咲「大丈夫…ありがとう、お姉ちゃん…」

照「…」

そういって笑う咲の笑顔が、悲しい

照「…ごめんね、咲」

咲「ふぇ?」

照「私がなんとかしてあげられればいいんだけど…」

咲「…」

無力感に打ちひしがられながら、思わず呟く。一度咲の担任に掛け合った事もあるが、巧妙に行われるいじめを暴く事は、照には出来なかった
照自身がいじめっ子に話を着けることも事も考えたが、逆に照が居ない時にいじめが激化する可能性を考え、それも出来なかった
親に相談するのは、二人とも考えもしなかった。最近両親の仲がギクシャクしているのには気付いている。今余計な問題を抱えさせて、これ以上二人の仲が悪くなるのだけは避けたい

照「ごめんね…ごめん…ごめん…」

だから、強く強く…ギュッと咲を抱き締める。せめて、この子の心の痛みを少しでも和らげられるように

咲「あはは…いたた…痛いよ、お姉ちゃん…」

照「ごめん…ごめん…ごめん…ごめんね、咲…」

咲「お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん…うええええ…」

照「咲…咲…咲…」

そんな地獄のような日々を送っていた二人に、思わぬ救いの手が現れたのは、それから少し経ってからだった



照「…遅くなっちゃった。咲は、もう帰ってきてるかな」

早足で帰路に就きながら、そんな事を呟く照
友人から遊びに誘われ、断っている内に結構な時間が過ぎていたのだ

最近は咲の為にとなるべく早く帰宅しようとしているので、友達と遊ぶ事も少なくなった
さっきはそれで最近付き合いが悪いと非難を浴びていたところだ

理由を尋ねられても、妹がいじめられているからなど、友人に話せるような内容ではないので、はぐらかして謝るしか無い
ここで適当な嘘を付けないのは照の美徳でも有り、欠点でもあった

照「早く咲を慰めてあげないと…」

ようやく家の前まで辿り着いた。逸る気持ちを抑え、呼吸を整える。殊更ゆっくりと玄関を開け、靴を確認すると、咲の靴が有る。帰ってきてる

照「…すぅー…はぁー…よし」

咲の前では余裕を持って接しよう。ここで自分まで余裕を失っては、咲の心の拠り所が無くなってしまう。そうだ、今、咲には私しかいないのだから…
リビングに咲の姿を確認し、優しく、元気に挨拶の声をかける

照「た、ただいま!咲…」

咲「あ、お姉ちゃん!おかえりっ!」

照「…え?」

咲「えへへ。今日は遅かったね。久しぶりに私の方が早く帰ってきたもんね」

照「あ、そ、そうだね…」

咲「今日も暑かったね。汗かいてない?冷凍庫にアイスが有ったから、持ってこようか?」

照「えっと…」

咲「あ、でもお姉ちゃん、ちゃんと手洗ってうがいした?アイスはその後だからね!」

照「うん…」

咲「うんっ!じゃあ私、お姉ちゃんが洗面所から戻ってくる前にアイス用意しておくから、早く戻ってきてね!」

照「さ、咲…?」

咲「ん?どうしたの?お姉ちゃん」

照「ど、どうしたの…?その…」

咲「うん」

照「なんだか今日は…その…凄く嬉しそう…だけど…」

いつも苛められて帰ってきていた貴女が、今日に限ってなんでこんなに嬉しそうなの?
そんな想いを、どうやって伝えようか迷っていると、咲が察して、いや、実は言いたくて言いたくて堪らなかったのだろう。自分から話してくれた

咲「えへへ。聞いて聞いて、お姉ちゃん!実は今日ね…!」

咲の話は、興奮していた為か、ややまとまりに欠けるものだった

いつものようにいじめっ子にちょっかいを出されて泣いていたら、一人の男の子に助けられた
割りと背も高めのその子は一度も話した事の無かったクラスメートで、放課後に咲がいじめられていた現場に、偶々立ち寄ったらしい

その子は同学年の女子とはいえ複数の悪そうな子達相手でちょっと怖気づいていた様で、「いじめ、カッコ悪い。by前園」と結構ふざけた感じで注意してくれた
いじめっ子達もその間抜けな注意に毒気を抜かれたのか、それとも男子相手では分が悪いと思ったのか、引っ張っていた咲の髪を離してスゴスゴと退散していった
余りにもあっさりとしたその撤退に、咲自身も拍子抜けしてしまったくらいだ

それよりも、いじめっ子達が完全に立ち去ってから小さな声で「やーいやーい!弱い者いじめしてるんじゃねーよ、この臆病者どもー!」と急に強気?な態度で悪口を言い始めた男の子の姿が余りに滑稽で

咲は、泣きながら大笑いしてしまったという


京太郎「ああー!何笑ってんだよ、人が折角いじめっ子ども追い払ってやったのに!」

咲「あはははは!グスッ。ご、ごめんなさい!け、けど、だって、みんな居なくなってからそれって…あははは…!グスッ…ヒック」

京太郎「せめて泣くのか笑うのか、はっきりしてっ!」

咲「…ヒック…ヒック…ご、ごめんなさ…ヒック」

京太郎「…訂正。やっぱ笑ってもいいです」

咲「うぇ…ご、ごめん…なさ…ヒック…ヒック…うええええ…」

京太郎「おいおいおい。なんか、俺が泣かしたみたいになってるし…勘弁してくれよ。ダチに見つかったら俺が殺されちまう…」

咲「ううん。ごめんね。須賀君は悪くない…ありがとうね…ありがとう…ありがとう…」

京太郎「…」

咲「ありがとう…ありがとう…ありがとう…ありがとう…」

京太郎「…いじめられてたのか」

咲「…」

京太郎「そっか…」

咲「…」

京太郎「…あー…」

咲「…」

京太郎「…その、なんだろ」

京太郎「…あ、そうだ。あいつらって、クラスの連中だよな」

咲「…うん」

京太郎「…だよな」

咲「…うん。あと、隣のクラスの子も何人か。中学の時一緒だったんだって」

京太郎「はぁ。参ったなぁ。まさか自分のクラスでいじめが有ったとは。こえーなー」

咲「…」

京太郎「あ、悪い。えっと、別にお前が悪いって言ってるんじゃ無いぞ?」

咲「うん…」

京太郎「えっと…宮永だっけ」

咲「…うん」

京太郎「…ま、元気だせ」

咲「…」

京太郎「…」

京太郎「しょ、小学校の頃とか、こんなの無かったんだけどなー…」

咲「そうなの?私の学校は小学校でも有った」

京太郎「…お前もいじめられてた?」

咲「ううん。…私は、怖くて見てるだけしか出来なかった。…下手に手を出したら、私もいじめられるんじゃないかって…」

京太郎「そ、そうなのか」

咲「うん。…誰も助けてあげれなくて…遂にその子、転校しちゃった」

京太郎「おお、ヘヴィ…」

咲「…罰が当ったのかな。私があの時、あの子を助けてあげなかったから、私もいじめられるようになったのかな」

京太郎「…」

咲「…だからみんな、私の事助けてくれなかったのかな」


京太郎「あー…」

京太郎「いや、ただ単に知らなかっただけじゃね?」

咲「…え?」

京太郎「いや、だって。現に俺、今助けたじゃん」

咲「…須賀君みたいな人、中々居ないよ。私も須賀君みたいに勇気が有ったら…」

京太郎「有っても、宮永じゃどうにもならねーだろ」

咲「…だよね」

京太郎「…」

咲「…」

京太郎「えっと…ま、まあ、今回は女子相手だったし…俺でもどうにかなりそうかなって思っただけだし」

咲「…」

京太郎「う、運が良かったんだよ。もしあれが番長グループみたいのだったら、俺だってどうしてたかわかんないし…」

咲「…番長グループなんて有るの?この学校」

京太郎「…いや、流石に無いでしょ」

咲「だよね」

京太郎「…お前、結構ツッコミ上手いな」

咲「ごめん」

京太郎「…と、とにかく!怖いものは怖いんだ。そうやって、いじめられてた子を気にしてやれるだけ、お前は優しくていい奴なんだろ」

咲「けど…結局その子は…」

京太郎「その子を救うためにやりようとかは有ったのかもだだけどさ。だからって、宮永みたいな子にそんな、他人のために全てをかけていじめっ子と戦えなんて、言えないだろうし…」

京太郎「大体、その子だって転校して転校生デビューしてるかもだろ!」

咲「だったらいいけど…」

京太郎「だったら、その先はその子次第だ!あー!もうこの話やめやめ!暗い話しても良い事無いって!明るい話しようぜ!」

咲「明るい話って…」

京太郎「例えば、最近したおもしろい遊びとか!」

咲「最近…いじめられるから、なるべく早く帰るようにしてた。お昼休みとかは、教室で寝たふりして…」

京太郎「ですよねー!俺が悪かったですすみません!!」

咲「…」

京太郎「あう…」

咲「…えっと…」

京太郎「…うん」

咲「す、須賀君は…どんな遊び…とか?」

京太郎「…あー…そうだなー…」

咲「…」

京太郎「…例えば、この間の金曜に生物の授業で、先生が川の生き物の話してたろ。ほら、トビケラの幼虫がどうのって」

咲「うん。ザザムシの事だね。長野くらいなんだよね、あれ食べるの。たまにスーパーに置いてるけど、気持ち悪い…」

京太郎「…次の日にダチと川に行って釣りしてたんだ。そこでなんとなく石ひっくり返したらザザムシが居て…」

咲「…まさか、食べた?」

京太郎「じゃんけんして負けたほうが食べるって話になったんだけど、食べ方が分からなくて…取り敢えず揚げれば食えるだろうって焚き火起こして素揚げしてみたら、爆発した」

咲「なにそれ怖い」


京太郎「いや、マジで大惨事だったぜ。飛び散ったなんかの汁と油が驟雨の如く降り注ぎ横殴りに俺ら…ああ、全部で4人いたんだけど…を襲ったから」

咲「いきなり難しい言葉使い出した」

京太郎「そんで慌てて一旦避難しようとしたら、ダチが袖に油入れた小鍋引っ掛けて」

咲「大事件じゃん」

京太郎「それをかわそうとしたら俺、ジャケットに火が燃え移る」

咲「うわ」

京太郎「ダチ爆笑」

咲「爆笑なんだ」

京太郎「慌てふためく俺に、ダチが叫ぶんだ。川に飛び込め!!」

咲「脱ぐって選択肢は無かったの?」

京太郎「もう必死で」

咲「なるほど」

京太郎「で、飛び込んだはいいんだけど、水深がメチャクチャ浅くて、膝までしか濡れなくて」

咲「駄目じゃん」

京太郎「また友人爆笑」

咲「愛されてるね」

京太郎「どうすんだよこれ!!って半切れで叫んだら、全員でバケツに入った水ぶっかけて来やがってさ」

咲「最初からそれで良かったよね」

京太郎「そのあとでみんなして俺を抱えて一番水深深くて急流なとこに投げ込みやがった」

咲「男の子って凄い」

京太郎「為す術もなく流される俺」

咲「自然の脅威だね」

京太郎「10mもせずに岩に引っかかる俺」

咲「自然の優しさだね」

京太郎「必死こいて岩に手を着いて、ビショビショの服でみんなのとこに戻ってさ」

咲「よく風邪ひかなかったね」

京太郎「その後はもう乱闘よ。全員川に流してやったぜ。俺も流されたけど」

咲「私のいじめって、なんだか大したこと無かった気がしてきた」

京太郎「ちょっとは気が楽になったか?」

咲「え…もしかして、そのために…」ドキッ

京太郎「いや、ちょっとこの間の武勇伝を話したかっただけ」

咲「ぷっ…」

京太郎「…ま、ちょっとでも喜んでくれたんなら…」

咲「あはははははははははは!!」

京太郎「…」

咲「あははははははっはははははははははははははは!!けほっ!!ふはっ!げほげほ…っあはははははははははは!!」

京太郎「…」

咲「あははははははは!!須賀君っておもしろっ!!あはは!!あはははははははは!!」

京太郎「お、おう…」

咲「くふっ…あはは!あはははははははは!!ご、ごめ…ツボに入った…あははははは!!」


咲「はぁはぁ…」

京太郎「落ち着いた?」

咲「うん」

京太郎「そっか」

咲「うん……………………きゅふふふふ…」

京太郎「変な忍び笑いしやがって…ま、いいや。宮永って、結構明るい奴だったんだな」

咲「え?」

京太郎「お前がこんなにコロコロ表情変えてるの、初めて見た」

咲「そう…かな?」

京太郎「ああ。今のお前くらいアグレッシブな奴相手なら、誰もいじめには来ないだろ。普段人と話す時もそれくらい明るいキャラでいけよ」

咲「…けど、友達居ないし…誰とでも仲良く話せる訳じゃ…」

京太郎「…もしかして、宮永って人見知り?」

咲「…」

京太郎「…っぽいな」

咲「…うう。他人とお話する時は、どうしても気構えしちゃて…」

京太郎「…の割に、なんかお前俺相手には結構息合うよな。きもーち毒舌だし」

咲「だ、だって…なんか、その…」

京太郎「?」

咲「なんか、須賀君って、その、話やすいし…」

京太郎「初めて言われた」

咲「そう…?」

京太郎「…うーん。でも、確かにな。俺も宮永とは話ししやすいって言うか…テンポが合うんだよな」

咲「…」

京太郎「とても初めて会話したとは思えない、むしろ長年の知り合いのような…」

咲「…」

京太郎「…ああ、良い事考えた」

咲「え?」

京太郎「幼馴染」ビシッ

咲「は?」

京太郎「宮永、今から俺の幼馴染設定な」

咲「はい!?」

京太郎「実は、小さい頃から面識が有ったのです」

咲「須賀君、頭大丈夫…?」

京太郎「殴るぞ」

咲「ごめん」

京太郎「だから、俺の知り合いはお前には初めて会った人間でも、ただの他人じゃ無い」

京太郎「逆に、俺の知り合いから見ても、へー幼馴染居たんだー。じゃあこれから仲良くしてねー的な?」

咲「そう上手く行くかな…」

京太郎「大丈夫だって。俺の知り合い馬鹿ばっかだし。…それに、女の子の幼馴染って欲しかったし」

咲「それが本音!?」


京太郎「やべっ!!」

咲「…」ジーッ

京太郎「い、いやいや!そ、そそそそそんな事有りませんぞ!?」

咲「…ふふっ」

京太郎「…宮永?」

咲「…幼馴染だったら、いじめっ子から守ってくれる?」

京太郎「…」

咲「幼馴染だったら…私が泣いてる時、助けに来てくれる?」

京太郎「…」

咲「幼馴染だったら、私が困ってる時…ピンチの時…駆けつけてくれる?」

京太郎「…それって、幼馴染ってより、ゲームのお姫様と騎士の関係じゃ…」

咲「…あれ?そうかな…」

京太郎「…ま、いいけどさ」

咲「…」

京太郎「幼馴染だからな。守ってやるよ」

咲「…じゃあ、私達、今日から幼馴染だ」

京太郎「…なーんか、力関係が理不尽なことになってる気がするんですけど…」

咲「…ふふっ♪」

京太郎「…ま、いっか。それじゃあ、これからよろしくな。『咲』」

咲「!!」

京太郎「…ん?」

咲「ううん!よろしく!『京ちゃん』!!」

京太郎「うげ、京ちゃん?なんだその間抜けっぽいあだ名。初めて言われたぜ」

咲「えー。いいじゃん。可愛いあだ名だよ!」

京太郎「だって、なんだか恥ずかしい…」

咲「いいじゃんいいじゃん。京ちゃん京ちゃん京ちゃ~ん♪」

京太郎「うおーっ!なんかむず痒い!」

咲「へっへっへ~」

京太郎「覚えてろ、こうなったらこっちにだって考えがある」

咲「な~に?どうしたの、京ちゃん」ニヤニヤ

京太郎「ん。なんでもねーよ。それより、もう下校時間だ。帰らねーの?

咲「あ、そっか。そうだね。それじゃあ私はそろそろ…」

京太郎「」ニヤリ

京太郎「姫、家までお送りいたしましょうか?」

咲「」ピシッ

京太郎「」ニヤニヤ

咲「…はい?」

京太郎「姫」

咲「…ひ…め…?」

京太郎「はい。お姫様」


咲「あ、あううううう…」カアアアアア

京太郎「ぷぷっ」

咲「な、ななななななあ…」

京太郎「あははははは!なーにそんな顔真っ赤にしてんだよ!」

咲「なっ!なに言ってるのー!」

京太郎「あはははは!照れてら。可愛いぞー、ひめー」

咲「~~~~~っ!!」プルプル

京太郎「お?どうした?ひーめ!ひーめっ!宮永姫!」

咲「うわあああああん!もうっ!もうっ!もうっ!もうっ!」バシッバシッバシッ

京太郎「あはははは!いてっ!いてててて!こらやめろ姫!」

咲「う~~~~っ…」

京太郎「ん?どした?ひ…」

咲「うわああああああああああああああああん!京ちゃんのばかあああああああああああああああああああ!!」ダッ

京太郎「あー…やりすぎたか」

咲「いじわるーーーーーーーーーーーーーーーー!!」タッタッタッタ…

京太郎「咲ーーーーーー!気を付けて帰れよーーーーー!!また明日なーーーーーーーーー!!」



咲「…と、こんな感じ」

照「そっか。良かったね、咲…」

咲「うん!」

照(良かった…うん。本当に良かった…咲に、味方が…)

咲「えへへへ。ちょっとおっちょこちょいでイジワルだけど、本当格好良かったんだよ」

照「そう…良かったね…良かった…良かった…」

咲「お姉ちゃん…?」

照「うっ…うっ…うっ…」ポタ…ポタ…

咲「お姉ちゃん?なんで泣いてるの…?」

照「良かったよぉ…本当に良かったよぉ…嬉しい…こんなに嬉しいのは生まれて初めてだよぉ…本当に…良かった…」

咲「お姉ちゃん…」ギュッ

照「うええええええええええええええええええええええん!!」

咲「…ありがとう、お姉ちゃん。…私のために泣いてくれて」

照「えええええええええええええええん!!えええええええええええん!!!ええええええええええええええええええええええええええええええん!!」


その後、イジメはぱったりと止んだ。例え傍に京太郎が居なくてもだ。要は切掛だったのだ
いじめっ子に怯えずに立ち向かう意志さえ見せれば、たった一握りの勇気さえ示せば、それだけで打ち勝てたのだ

その日から咲は少しづつ変わってゆく

京太郎を通じ、いつしか友人が出来た
その友人から紹介され、更に友人が出来た
そして遂には、咲は自分から友人を作ることにさえ、成功したのだ

泣いてばかりいた弱虫は、いつしかその名の通り、花の咲くような満面の笑顔を浮かべるようになっていた

まるで今までの分を取り戻すように、今、彼女の前には沢山の「楽しい事」ばかりが広がっている

そして

だから

だから

咲は、気付かない

気付かなかったのも、仕方ない

仕方ない

仕方ない

咲は、悪くない

悪く、ないんだ…


数ヶ月後、咲はすっかりクラスに馴染み、家でも照に嬉しそうに友人の話をするのが日課になっていた
国語の点数で良い点を取った事、次から体育の授業がマラソンなので嫌な事、クラスで図書委員に立候補した所、満場一致で当選できた事、休み時間に友達としたおしゃべりの事…
嬉しかったことも、楽しかった事も、嫌な事でさえも、目をキラキラと輝かせながら、大好きな姉に語る咲

特に、『京ちゃん』の話題では、その目の輝きが一層増し、照には眩しいくらいだった

穏やかな気持で咲の話を聞き、相槌を打つ照


咲「それでね!それでねっ!京ちゃんったら…」

咲「その時、京ちゃんってば…」

咲「そうしたら京ちゃんが…」

咲「京ちゃんのお陰で…」


照「ふふ。咲は、本当に京ちゃんの事が大好きだね」

咲「んなっ!」ビクッ

照「ははは」

たまにからかってやると、ゆでダコのように顔を真っ赤に染める妹が愛しい

咲「…」

照「咲?」

咲「…私、将来は京ちゃんのお嫁さんに…」

照「そ、そう…か。あはは」

ガチ過ぎた

咲「そ、その…お姉ちゃん?あの、やっぱ、付き合う時って、やっぱり、その、わ、私から告白した方がいいのかな…」

照「…ねえ、咲」

咲「うん?」

『京ちゃん』

咲にとってのヒーロー

照「…須賀君の事、ちゃんと捕まえておかないと駄目だぞ」

咲「うん!!」

ならば、当然照にとってだって、ヒーローだ

照「そうだ。今度家に呼んだら良いよ。お姉ちゃんにも、須賀くんを紹介して欲しいな」

咲「もちろんだよ!!」

…最愛の妹を救ってくれたのだから

照「じゃあ、明日学校が終わったら連れておいで」

咲「えー!そ、そんなに急に!?こ、心の準備が…」

照「ふふ。そんなこと言ってていいの?」

咲「?」

照「なるべく早く彼氏にしちゃわないと、誰かに取られちゃうかも」

咲「っ!それは嫌!!」

照「でしょ?だったら、少しでも早く、沢山、仲良くならないと。…ね?」

咲「うん…」

照「大丈夫。咲は可愛いよ」

咲「…」

照「私が保証する。がんば」


咲「お姉ちゃん…」

照「…ね?」

咲「…ん。じゃあ、明日京ちゃんを連れてくる」

照「うん」

咲「けど、お願いがあるの、お姉ちゃん」

照「何?お姉ちゃんに出来る事なら、なんでも聞いてあげる」

咲「京ちゃんにお姉ちゃんを紹介したいから…明日は、早く帰ってきて」

照「…」

咲「最近、お姉ちゃんたまに遅いから…一応、お願い」

照「…」

咲「…大好きな人を、大好きなお姉ちゃんに紹介したいから。大好きなお姉ちゃんを、大好きな人に紹介したいから…だから、明日は早く帰ってきて欲しいの」

照「…」

咲「…駄目?」

照「…うん。わかった。なら、明日は急いで家に帰るよ」

咲「本当!?」

照「うん。…ふふ。大好きな妹の、大好きな人だもん。紹介してくれるのを楽しみにしてるよ」

咲「やったあ!ありがとう、お姉ちゃん。…私、頑張るね!」

照「うん。頑張れ、咲」

咲「…うう。けどなんか緊張してきた」

照「はは。大袈裟だよ」

咲「むうー!だってだって!」

照「咲」

咲「…どうしたの?お姉ちゃん」

照「…」

咲「?」

照「お姉ちゃんは、いつだって咲の味方だから」

咲「…ありがとう。けど、お姉ちゃん。私だって、いつだってお姉ちゃんの味方!」

照「…そう。ありがとう、咲」

咲「えへへ。あ、そうだ。あとね、お姉ちゃん。もう一個お願い」

照「ん?」

咲「今日、お姉ちゃんと一緒の布団で寝てもいい?」

照「…またか。中学生にもなって咲は甘えん坊だな」

咲「えへへ。だって、お姉ちゃんあったかいんだもん」

照「ふふ、仕方ないな。それじゃあ、一緒に寝ようか。お風呂に入って着替えておいで。私はその間に宿題を終わらせるから」

咲「うん!じゃあ、お風呂入ってくる!」

照「ああ、行ってらっしゃい」

照「…」


翌日、咲は約束通り京太郎を家に連れて来た

自慢の姉を紹介する、と言って

だがしかし、その日、午後6時に京太郎が家を出るまでに照が帰ってくる事は無かった






咲が京太郎を家に誘っているのと同時刻

照(授業、終わった…!!)

帰りの挨拶と共に、弾かれたように椅子から立ち上げる照

照(早く、帰らなきゃ。今日は咲が『京ちゃん』を連れて来るんだ!早く…!早く帰らなきゃ!!)

授業道具はホームルーム中にこっそりと鞄に詰め終わっていた。そそくさと教室の後ろ側のドアへと向かう

照(急げ…急げ…急げ…急げ!!)ガラッ

教室のドアを開ける。さあ、あとは廊下を一目散に駆けるだけ…

「はーいちょっと待った、宮永さん」

…肩を強く掴まれた

照「痛…」

「あ、ごめんごめーんねー。けど、そんなに急いで帰ることないじゃんさー」

「そうそう。私らとー遊んでこうよー」

「あんたの付き合いが悪いから、こうしてわざわざ無理矢理にでも遊びに誘ってやってるんだよ。喜べよ」

「いつもの遊び場に行こうか。屋上ね」

照「…離して」

「あ?」

照「…お願い。今日はどうしても大切な用事があるの。明日だったら付き合うから…お願いだから、今日は許して」

「ざけんなっつーの。アンタの都合なんて知ったこっちゃねーんだよ」

「今日は私らの機嫌が悪いの。そんだけだから」

「遊び道具が生意気な口聞いてんじゃねーぞ」

照「…」

「なに?その目」

「調子にのってるんじゃ…」

照「っ!!」バシッ

「うわっ?」

照「…!!」ダッ

「逃げた!!」

「このガキ…!捕まえろ!」

「こいつ!」ガシッ

照「きゃっ!離して!お願い!お願いだから!!」

「うっせー!おい!早く連れてくよ!」

照(なんで…)

「なんだよお前ら!こっち見んな!」

照(なんで、いつも誰も助けてくれないの…?)

照「いやっ!」

「うぜえ!」パンッ

照「…っ!」

「黙った?よーし、それじゃあ行っくよー」

「ったく。普段抵抗なんてしない癖に…おもちゃの分際で…」ブツブツ



そう

少し前から、照はいじめられていた

運動は出来ないが、頭が良く、器量も優れ、人格者

そんな照が、友人達から距離を置き(実際には当時いじめられていた咲のために家に早く帰るようになっただけだが)、孤立した

あんなにムカツク女が一人ぼっちだ

なら、今の内にいじめてしまえ

そうして少しずつクラスの不良達にいじめられ始めた照は、徐々に友人達から本当に距離を取られ始め

今では、完全無欠のいじめられっ子

そして、いつしかその不良達の彼氏がカラーギャングだと言う噂が流れ始めた頃

照の味方は誰も居なくなっていた

まるで、いつかの妹のように

不良達にサンドバックにされながら、照は考える

照(ごめん、咲。お姉ちゃん、今日、間に合いそうにない…かも…)

髪を掴まれながら、考える

照(ごめんね。ごめんね。咲。お姉ちゃん、馬鹿だよね…昨日あんな事言っておいて…ごめんね…)

腹を殴られながら、考える

照(折角咲が勇気出してくれたのに、ごめんね。『京ちゃん』と、仲良く遊んでてね。お姉ちゃんのせいで気まずくなったり、しないでね…)

倒れ伏し蹲りながら、考える

照(…はは。ごめん…ごめんね。ごめんね。咲…お姉ちゃん、最悪だ)

背中を蹴られながら、考える

照(…お姉ちゃん、咲が…ちょっと、羨ましいって思っちゃった…)

考えるのは、絶望に潰れそうな自分を支える唯一の希望

大切な妹がくれた、不確かな希望

『いつか、誰かが私を助けてくれないかな』

『いじめっ子を追い払って、私をここから助けだしてくれる人が』

『泣いてる時に助けに来てくれて、困ってる時、ピンチの時に駆けつけてくれるゲームに出てくる騎士みたいな人』

『友達を作ってくれて、笑わせてくれて、勇気をくれる人が…」

『いつか、私にも『京ちゃん』が現れてくれないかな…』






その日、照が家に帰り着いたのは、夜の8時を過ぎてからの事だった
結局、不良達が照への暴力に飽きて彼女を開放したのは、午後6時半を過ぎた後

不良達も心得たもので、面倒を避ける為に顔などの傍目に見える部分に痣を付けることはしないでくれていたが
鍛えていない照の身では、殴られたダメージが抜けて歩けるようになるまで、そしてその足で家まで帰り着くまでには、1時間強の時間を有したのだ

照「咲…咲…」

未だ痛みの引かない身体を引きずって、うわ言のように妹の名を呼び、帰宅する照

どういう訳か、日の落ちたこの時間にも関わらず、家の中は暗く、光が漏れてこない

照「二人とも、まだ帰って来てないのかな…」

最近帰りの遅い両親が、今日もまだ帰宅していないのだろうかと考える

照「…けど、咲は今日、『京ちゃん』を家に連れて来てるから家に居るはずだし…」

ズキン。頭に鈍い痛みが走る。思考が上手く回らない。まあいいや。早く家に帰って、ゆっくり休もう。ズキン。ああ、お腹も痛い。思いっきりパンチされたし…

照「…畜生、あいつらめ…」

不良達のニヤニヤとした厭らしい笑いが頭から離れない。ズキン。鈍い痛みが増してきてイライラする
ああ、なんてどうしようもない奴なんだ私は。咲との約束を破っておいて、こんな怖い顔をして家に帰るつもりか
こんな、こんな…ああ、マズい。駄目だ。お腹が痛い。頭が回らない。イライラする。ズキン。痛い。腹が立つ。痛い。痛い。痛い。ズキン…

ガチャッ

扉が開く。痛い。マズい。咲だ。急げ。平気な顔を作れ。ズキン。ああ痛い…痛い…疲れた…痛い…

照「…」

咲「あ、お姉ちゃん…」

照「…咲」

咲「…おかえり」

照「…ごめんね。遅刻しちゃった」

咲「…」

照「きょ、『京ちゃん』は、連れて来れた…の?」

咲「…うん。もう帰ったけど」

照「そっか…」

咲「…うん」

照「そっか…うん。そっか……」

咲「…ねえ、お姉ちゃん」

照「うん?」

咲「…どうして遅れたの?」

ズキン



照「…」

咲「…」

照「…」

咲「…」

沈黙が痛い。重い。息苦しい。この沈黙は、咲が怒っている証だ。こうなった咲はしつこい。なんとか誤魔化さなきゃ。それに、今日の結果も知りたいし

照「それは…」

咲「それは?」

照「…」

咲「なんでそこで黙るの?」


照「えっと…」

ああ、けどマズいなこれは。頭とお腹が痛くて、思考が全然まとまらない。咲に真実を知られるのだけは避けたいし…

照「その…」

咲「なにさ」

けど、どうやって言い訳しよう。咲は人の気持ちには鋭い子だ。下手なこと言ったらすぐに感づかれちゃうよ。こんな事なら帰る前に言い訳を用意しておくんだった

照「あの…」

咲「言えないような事なの?」

照「いや、そういう訳じゃないんだけど…」

咲「なら早く教えてよ…!!」

ああ、マズい。マズい。咲が苛ついてるよ。ごめんね咲。だけどお姉ちゃんも今結構いっぱいいっぱいなの。早く横になって痛いのを回復させなきゃ…

咲「なんで黙ってるの!!」

ああ、咲がなにか言ってるよ。怒ってる。当然だよ、私が悪いんだから。ごめん咲。ごめんね、咲。駄目なお姉ちゃんでごめんね。本当にごめんね

咲「お姉ちゃん!!」

いじめられるのって、こんなに辛いんだね。痛いんだね。ごめんね、咲。お姉ちゃんが悪かったよ。あの時、咲がいじめられていた時、私は強引にでも咲を助けるべきだったんだ

咲「…お姉ちゃん?」

私が助けてあげるべきだったんだ。あの時、咲がいじめられてるって知った時、その瞬間にでも、いじめっ子の家にでも殴りこんで、取っ組み合いしてでも、咲をいじめから救うべきだったんだ

咲「お姉ちゃん!」

だって、こんなにも、こんなにも、いじめは辛いものだったんだから。痛いものだったんだから。咲の立場を思いやってる風に見せかけて、結局私は自分が可愛いだけだったんだ
最愛の妹を見殺しにして、『京ちゃん』が現れなきゃ、咲は未だにいじめられてて、私は友達と仲良くやってて、それで、それで…

……………そ れ で 私 は

咲「お姉ちゃん!!!」

ドサリ


目が覚めた時、照は自室のベッドに眠っていた
傍には泣きじゃくる咲の姿。…取り敢えず、気付いたことを知らせようと声をかける

照「…咲」

咲「お姉ちゃん!?気付いた!良かった!」

照「…私、は…」

咲「心配したんだよ!?いきなり倒れたから…大丈夫?」

照「ん…あいたたた…」

起き上がろうとして身体に痛みが走る。起き上がるのを断念して、もう一度横になる
…と、そこである事に気付く

照「…寝間着になってる。咲が着替えさせてくれたの?」

咲「…うん。汗が凄かったから」

照「…」

咲「…」


照「…って、言う事は…」

咲「…うん」

照「…」

咲「…」

照「あの、さk…」

咲「…あの、お姉ちゃん、その…み、見ちゃった…んだけど…」

照「…」

咲「…」

照「…」

咲「…お、お腹とか…青くなってて…」

照「…」

咲「す、すり傷とかも、いっぱい有って…」

照「…咲」

咲「そ、その…み、見覚えって言うか、その…経験が有る痣って言うか…」

照「…」

咲「…お姉ちゃん、いじめられてるの?」

照「…」

咲「なんとか言ってよ!」

照「咲」

咲「なんで!?いつから!?あんなに友達がいっぱいいたお姉ちゃんが!なんでいじめられてるの!!?」

照「咲!」

咲「わけわかんないよ!私みたいに友達の居なかった子ならまだわかるとして、お姉ちゃんはクラスの中心だったじゃない!ちょっと前までは友達だっていっぱい連れて来てて!!」

照「咲!」

咲「そういえば、お姉ちゃんが友達連れて来なくなったの、私がいじめられてるのをお姉ちゃんが知ってからだよね!?ずっと気になってたの!もしかして、私がいじめられてたのに関係してるんじゃ…」

照「咲!!!!」

咲「っ!!」ビクッ

照「…関係ないよ。それは」

咲「…嘘」

照「本当」

咲「嘘だよ!!だったらなんで目を伏せたの!?お姉ちゃんの嘘を吐く時の癖…」

照「咲、質問に答えて」

咲「…っ」

照「…お父さんとお母さんには、連絡した?」

咲「…うん。した。二人ともすぐ帰るって」

照「なんて言って?」

咲「えっと…お、お姉ちゃんがいきなり倒れたって…」

照「そう。なら、咲。口裏を合わせるんだよ。私は貧血で倒れたの。いい?いじめの事なんて絶対言っちゃ駄目」

咲「で、でも…」

照「咲だってわかってるでしょ?今、お父さんとお母さんは凄く難しい状態にあるの。二人に余計な心配をかけちゃ駄目」

咲「け、けど、お姉ちゃん、その痣けっこう酷いよ…?私の時なんかと比べ物にならない位酷い怪我。最近たまに帰ってくるのが遅いのって、もしかしていじめにあってたからなんじゃ…」


照「…咲は賢い子だね。そのくらい賢いなら、わかるでしょ?今二人に私がいじめにあってるなんて知られたら、また喧嘩になっちゃう」

咲「けど!!」

照「…最悪、二人が離婚しちゃうかもしれないんだよ!!!!」

咲「…え?」

照「…」

咲「…り、りこ…ん…?」

照「…っ」

咲「り、離婚って…な、なにそれ…なんでお姉ちゃんがそんな事…」

照「…まだ決まったことじゃないけどさ。…二人が、離婚の話ししてるの、この間聞いちゃった」

咲「そ、そんな…」

照「…ねえ、咲。今私がいじめられてるなんて知られちゃったらさ。…私をいじめから遠ざけるとかそんな口実にされて、二人が別居なんて事にも…」

咲「そ、それ…は…」

照「…それは嫌でしょう?」

咲「い、嫌だよ!そんな…そんな事…」

照「じゃあ、やる事は一つしかないんだ」

咲「…」

照「…ね?」

咲「お姉ちゃん、大丈夫なの…?」

照「大丈夫だよ。今までは咲の言ってたように、私は人気者だったんだ。こんないじめ、一過性の物だよ。そうだ。はしかみたいなものだよ」

咲「…」

照「それより、京ちゃんとは、どうだったの?」

咲「へっ!?」

照「ふふ。うちで二人きりだったんでしょ?なんか素敵な事なかったの?」

咲「な、なんにもなかったよ!いきなり何言ってるのお姉ちゃん!」

照「ははは。何だ残念。咲、なら、もう一回連れておいでよ。今度はいじめにあってじゃなくて、普通にすっぽかしてあげるから」

咲「へ?」

照「二人っきりのチャンスはあんまりないかもよ?」

咲「~~~~~~~~!!」ボッ

照「あはは。顔真っ赤だ」

咲「もう!お姉ちゃんのいじわる!もう知らないんだから!!」

照「ごめんごめん。…さ、それじゃあ、咲もそろそろ寝る準備しておいで。お母さんたち帰ってきたら、私から説明はしておくから」

咲「…」

照「咲」

咲「…うん。わかった」

照「いい子だ」

咲「…」

照「心配しないの」

咲「…」

照「…ね?」


咲「…うん。わかった」

照「ん。じゃあ、おやすみ。咲」

咲「…」

咲「…おやすみ。お姉ちゃん」タタタタタ

照「…」

照「…ふう」

照「…」

照「…ごめんね。咲」


こうして、日常は守られた。それは子供たちが家族の離散の危機を防いだ事を意味し、同時に照の受難の日々が続く事も意味する
いじめは続く。受難は続く。万人に悪者をやっつけてくれる都合の良いヒーローが駆けつけてくれるなんてお伽話は無い

『京ちゃん』は現れない

照はいじめられ続ける

いじめは次第にエスカレートし、照は、次第に精神を病み始める。イライラすることが増え、性格も捻くれ始めて来る

やり場の無い怒りが彼女自身を飲み込み始め、次第に周囲への態度が変わり始める

自分の生まれた土地が憎い。周囲の人間が憎い。今の内に精々喜んでおけ。いつか必ず見返してやる、この田舎者共め…

そんなある日、照は遂に出会うのだ

彼女にとっての救いの神に

ヒーローに

彼女だけの、『京ちゃん』に





それは、ある秋の放課後の出来事だった

この日、照は教室の掃除当番で、いつものように誰とも会話する事無く、黙々と掃除を終わらせてすぐ、そっと消えるように教室を出た

今日は不良達は昼から何処かに遊びに行ったのか姿を見せず、照にとって久しぶりの恐怖を伴わない幸運な数時間を味わえた。無事に一日を終えられた事にほっと一息を吐く

とは言え、既にこの教室には彼女が友人と思える人間は居ない

自分を不良達からのスケープゴートにして青春を謳歌する同年代の人間達を心の底で呪いながら、帰宅の準備を早々に済まし教室を後にする

掃除で遅れた分、早く帰りたい。この腹立たしい同年代共の顔を見ずに住む場所へ。唯一の味方が居る場所へ

一刻も早く、帰りたい

そう考え、近道をしようと大通りの公園を通り抜けようと考えたのが悪かった

「おっ。宮永じゃん」

「本当だ」

照「っ!?」

照は知らなかった。その公園が最近、不良達の溜まり場になっていた事を

「馬鹿な奴だねぇ。うちらがこの辺で遊んでんの、知らなかったんだ」

「いじめて欲しくて来たじゃないの?いじめられ過ぎてドMに目覚めたとか」

「けけけけ!きもっ!」

照「……」スッ

「おい、どこ行くんだよ」

「無視しないでくれますぅ~?宮永さん」

ニヤニヤと不快な笑みを浮かべ、照を四方から囲む4人の不良達。随分と手馴れている。大方こうやって弱そうな獲物を囲ってカツアゲでもしていたのだろう

照「…どいて」

「ああ?」

「何言ってんのコイツ」

イライラが爆発し、勢い余って強い口調が出てしまう。言った瞬間にしまったと思った

「何偉そうな口利いちゃってる訳?」

「学校外だから殴られないとでも思ってんの?」

「調子のんなよ」グイッ

照「あっ…!」

案の定、すぐに実力行使が来た。4人の内一人が、徐ろに照の髪を引っ張ったのだ。慣れた痛みだが、思わず細い悲鳴が出てしまう。…悔しい

「ノコノコいじめられに来やがって。丁度いいや。金よこせよ。恵まれない子供達に愛の募金ってやつ」

照「やだ…!」

「この雑魚が!反抗してるんじゃねぇよ!」グンッ

照「あぐっ!?」

髪の毛を掴んだまま振り回される。プチプチと何本か髪が抜ける音と、激痛が走る

そこが限界だった。今日は久しぶりにいじめられない筈だったのに。早く帰って咲とゆっくりお話する筈だったのに
自分の情けなさに腹が立つと同時に、遅ればせながら目の前の4人に対する怒りが鎌首をもたげてきた

照(なんで私が、こんな底辺みたいな屑共らにいいようにいじめられなきゃいけないんだ…!!)

照「やめてよっ!!」バシッ

「うわっ!?」

「こいつ!!」

照「も、もうやめてよ!!どっか行ってよ!!なんで私をいじめるの!!!他の人でもいいじゃない!!!」


「うるせえ!お前がムカツクからいじめるんだよ!!」

「理由なんかあるか!!」

照「いい加減にしてよ!!!」

何を言っているのかよくわからなかった。口から出るのは、今まで腹の底に溜まっていた黒く卑屈な感情。憎悪。自分でも驚くぐらい醜い言葉が次々に飛び出す

照「ムカツクって言うなら、他のクラスの奴らだってムカツク奴らいっぱい居るでしょ!?私なんてもう貴方達に逆らったりもしてないよ!?他の人をいじめてよ!!」

「はぁ?何言ってんだコイツ」

照「どんなに殴られても、いじめられても!今まで私、貴方達にそんな気に触るほど反抗したことあった!?敵対したことあった!?」

照「お金だってそんなに持ってないし!いじめる意味無いじゃない!!」

照「お金欲しいならもっとお金持ってる子にたかってよ!ストレス解消したいなら、もっとなんの取り柄もないような弱い子いじめてよ!!」

照「私『達』ばっかり狙わないでよ!!」

「うっぜ。何だコイツ」

「顔面行っとく?」

「いいね。やろやろ。最近コイツ殴られてもスカした顔する様になってきたから、生意気だったんだよね。いきなりキレられてマジムカツクし」

照「っ!!」

照(なんで…!どうして…!どうして私達ばっかり、こんな目にあうの!?私ばっかり不幸な目に会うの!?なんで!?どうして!!?)

「おい、宮永」

照「な、なに…?」

「どうしてお前をいじめてるか教えてやろうか」

照「…」

「お前が『お前』だからだよ。特に理由なんて無いの。強いて言うなら、浮いてるからかな?誰からも距離があるから、いじめやすいんだよ」

照「…っ!!」

「ねーねー。後で彼氏に連絡しようか?何人か飢えてるの連れてきて、ハメ撮っちゃおうよ。高く売れるかも」

「おっ。いいねー」

照「ひっ!?」

「さ、そんじゃやりますかー」

照「い、いや…」

照「来ないで…」

照「誰か…」

照「助けて…」

金髪「何してんの?」


照「…えっ?」

「…ああ?なんだこの金髪」

金髪「いや、お姉さんたち何してんのって」

「すっこんでろよチビ。格好付けてナイト気取りか?お姫様よりちいせー奴がなにしてもダッセーし、そんなんしてもモテねーんだよキメーな」

金髪「いや、そんなつもりじゃねーし」

「見てわかんないのかよ、アタシら今、カツアゲやってんだよ。わかったらとっととどっか行けよガキ」

金髪「いや、カツアゲにしてはちょっとバイオレンス感多くねえっすか?」

「ふざけたガキだな。お前からも毟ってやろうか?」

「ナマ言ってんじゃねーぞ?アタシの彼氏はカラギャンやってんだぞ。テメーなんか速攻ボコられるからな」

金髪「…」

「何黙ってんだよ」

金髪「早くどっか行けよ。俺はこの子に用が有るんだよ」

「ああ!?」

金髪「怒るぞ」

「ふざけんなよ。今から彼氏呼ぶわ。ボコって貰うから覚悟しろよ」

金髪「いいのっかなー」

「なんだよ」

金髪「俺は『あの』佐藤さんに可愛がって貰ってるんだぜ」

「!?」

「さ、佐藤さん…!?」

「『あの』佐藤さんって、もしかして『あの』福西組の佐藤さんの事…か?」

「あ、『あの』狂犬で有名な佐藤さんか…」

「や、やべえな…」

金髪「そうそう。その佐藤さんに可愛がって貰ってる俺が、どこの誰だか知らねーがお前らの彼氏?にやられたって言ったらよ。お前、そのカラギャンごと潰されるかもよ」

「くっ…」

金髪「ほら、今ならまだ無かった事にしてやるから。早くどっか行け馬鹿野郎」

「…くそっ!行くぞ!」ダッ

「あ、待ってよ!!」ダッ

照「…」

金髪「…行ったか」

照「…」ポカーン

金髪「…ふう」

照「あの…」

金髪「…佐藤・鈴木・田中はどこにでも居る…」ボソッ

照「…はぁ?」

金髪「ふへぇ…流石にビビったぁ!福田組ってなんだよ。あれか、爽やかヤクザか。マジビビったわー。退いてくんなかったらどうしようかと思ったよ」

金髪「女とは言え、俺より年上だし4人だしなぁ…」ブルブル

照「君…」

金髪「あ、すみませんねお姉さん。本当はもっと格好良い助け方したかったんですけど、4人相手はちょっと…」

照「…どうして私を助けてくれれたの?」


金髪「へ?ん~…なんでって…」

照「…」

金髪「…なんとなく?」

照「…」ズルッ

金髪「…」

金髪「…うん、なんとなくだ。なんとなく…」

京太郎「…なんとなく、お姉さんが知り合いに似てたもんだから……」


それが、照と、『照の京ちゃん』との出会いだった







照「…」

呆気にとられ固まる照に、声をかける京太郎。心配そうな様子の中にも、少しだけ得意気な表情が見え隠れしており、それが幼い感じがして、照は可愛いらしいと思う

京太郎「…ところで、うわ。お姉さん、大丈夫?怪我してない?」

照「…」

京太郎「ああ、ほら。ちょっとそこのベンチに行って座ろうか。消毒液と絆創膏が鞄の中に入ってるから、怪我してたら言ってくれたら使っていいから」

照「…」

京太郎「ほら、な?歩ける?」

照「…うん」コクン

京太郎「そっか。よし、それじゃあ行こう。な?」

照「…」

京太郎「…」

照「…」

京太郎「…どうかした?」

照「…やっぱりあるけない」

京太郎「…そうっすか」

腰が抜けていた

照「…」

京太郎「…参ったな」

照「…」

京太郎「…ほら。手貸すから、ゆっくりで良いから歩こう?な?…ここに居たら、目立ってしょうがない」

照「…うん」

京太郎「ん」スッ

照「…」スッ

京太郎「よし、それじゃあゆっくり歩くよ?」

照「…」コクン

スタ スタ スタ

京太郎「…」

照「…」

照「…初めてだ」ボソッ

京太郎「…ん?なんか言った?」

照「…ううん。なんでもない」

京太郎「…そっか」

照「…うん」

照「…初めて男の子に手、握られちゃったなって」

京太郎「って!なんでもなくねーじゃんか!」ズサッ

照「…ふふ」

京太郎「え、ちょ、お、おれ、その、そんなつもりじゃなくって!その!」ワタワタ

照「冗談だよ。もう一人で歩けるから。…ありがとう」

京太郎「…うう。なんか、いきなり気恥ずかしくなってきちまったじゃんよー…」ブツブツ

照「…ありがとうね」


京太郎「…」

照「…初めて、誰かに助けて貰ったなって…」

京太郎「…そっか」

照「…」

京太郎「…ん。ベンチ、着いた。お姉さん、座る。傷見せる」

照「なんでカタコト?」クスッ

京太郎「…」プイッ

照「…照れてるの?」クスッ

京太郎「むっ。…って、俺、一応恩人ですよね?お姉さんの」

照「はは。ごめんごめん」

京太郎「…ったく。これだから年上は苦手なんだよ…」ブツブツ

照「そういう君は、一年生?」

京太郎「そうっすよ。はい、傷無いか見せて下さい」

照「今日は大丈夫だよ。髪の毛掴まれただけだし」

京太郎「…『今日は』?」

照「あっ…」

京太郎「…」

照「…」

京太郎「…今日だけじゃないのか」

照「…」

京太郎「…いじめられっ子ってやつ?」

照「…」

京太郎「…そっか」

照「…」

京太郎「…あの、俺…」

照「あっ!!」

京太郎「うおっ!?」ビクッ

照「お、おもいだした!今日ははやく家にかえらないといけない用事があったんだった!」

京太郎「棒読み…」

照「というわけで、ごめんね!わたしはこれで帰るから!」

京太郎「あ、ちょっと…」

照「本当にごめん!それじゃあバイバイ!!」ダッ

京太郎「ちょっと!お姉さん!?おーーーーーーーーーーーい!!」

照「~~~~~~~~っ!!」タッタッタッタ

京太郎「…」

照は逃げた

その金髪の少年との会話を打ち切って、逃げてしまった


照「何故そうしちゃったんだろうね」

淡「…」

照「彼が、会って間もない自分の問題に、深くまで踏み込もうとした気配を察したからかな」

照「正直に話しても、どうせいじめられっ子な自分を馬鹿にされるのがオチだと思ったのかも?」

照「ううん。違う。きっと、幻想を抱きたかったから」

照「この世には、私の悩みなんて何の問題でもない風に振る舞って、どんな困難からでもあっさりと私を救ってくれるヒーローが存在するんだって、そんな都合の良い幻想を信じていたかったんだ」

照「いじめから守ってくれて、孤独から救ってくれて、友達を作ってくれて、一緒に笑い合ってくれる。そんなヒーローが居ると信じていたかった」

照「私さえ拒絶しなかったら、そんな救いは有るんだって、私にも『京ちゃん』が出来る可能性はあったんだって、未だに信じていられるからって」

照「今思えば、結局彼の事を信じていなかったんだろうなって思う。どうせ気まぐれで私を助けてくれただけなんだって…その時は、まだ」

照「けど、私はその瞬間、同時に浮かれてもいたんだ。まるで全ての悪い事が、この瞬間に解決されたんだって勘違いしたってくらいに」

照「家に帰った時、私は満面の笑顔だったらしい。妹が、お姉ちゃん、どうしたの?って聞いてきてさ」

照「クスクス笑う妹を不思議に思った私が逆に尋ねたら、お姉ちゃんなんだか嬉しそう!…って、あの子まで嬉しそうに笑ってて」

照「笑顔の理由は教えてあげなかったけどね。まだこの記憶を独り占めしていたかったんだ。思えばこれがまたややこしい事になった原因かもしれないんだけど」

照「…けど、その日は。その日だけは本当に嬉しくて、久しぶりに二人で笑い転げまわったよ」

照「…本当に楽しかった」

照「しかも次の日、珍しい事にいじめっ子達は私を無視したんだ。…そうだな。訂正しよう。私と咲が楽しく過ごせた期間は、もう少し長かった。数日ほどかな。相変わらず友達は居なかったけどね」

照「そうだ。数日ほどいじめは無かった。私はホッとしたよ。あれがきっかけで、遂にいじめが無くなったんじゃないかと」

照「…けど、そうじゃなかった。いじめが再開したのは、彼に出会ってから4日後の事だ」

照「どうやら、いじめっ子達は彼が私の味方であるのかを探っていたらしい。行きがかりに助けられただけの関係だというなら怖くないとばかりに、数日間の分を取り戻すようにいじめられたよ」

照「この頃から、痣になる暴力が増えだした」

照「私は耐えたよ。もしかしたらあの時彼と話をしていたらいじめから開放されたんじゃないかって、何度も自分を呪った。けど、その度に自分に言い聞かせた」

照「いじめっ子達の彼氏が本当にカラーギャングなら、彼を巻き込むわけにはいかなかっただろ?って。私がいじめられて済むなら、それで良かっただろ?って」

照「ふふ。自分を誤魔化す言い訳ばかり上手くなっていたよ」

淡「…」

菫「…」

照「…そして、それから更に事が起こったのは、数日後の放課後だ。私は一時期のように授業が終わると同時に教室から一目散に逃げ出すのが日課だった」

照「この頃のアイツらは蛇みたいだったよ。今までは学校の外まで逃げ切れば私の勝ちだったけど、学校の外まで追いかけてくるようになったんだ」

照「勝率は…5分5分ってところかな。アイツらは明らかに楽しんでいた。鬼ごっこのつもりだったんじゃないかな。捕まったら適当な所に引き釣りこまれてボッコボコ」

照「この日は駅までの途中で捕まって、前回の時の公園に引きずり込まれたんだ」

照「…殴られながら彼がまた助けに来てくれないかって、うっすら思ったけどね。そうそう都合は良くなかったよ」

照「随分盛り上がっちゃったらしくて、ボロ雑巾みたいにされて。アイツらの気が済んで立ち去った後、私はもう立ち上がる気力も無かった」

照「このまま夜までここで寝てたら、危険だってのは気付いてたんだけどね。もうどうにでもなれって思って、そのまま意識を落としちゃった」

照「…目を覚ました時、私は真っ暗な公園のベンチで横になっていた。傍にはあの時の少年が座ってた。…その時の気持ちは…なんていうか、言葉では言い表せない感じだったな」

照「…複雑だったけど、いじめっ子達に対する感謝の言葉すら、脳裏を過ぎったよ」


全身に鈍い痛みを感じ、照は意識を覚醒させる。傍に誰かの気配を感じるが、嫌な感じはしない。むしろ、優しい気配に守られているようで、安心する

照「…ん」

京太郎「…あ」

照「いたた…あ、あれ?私…」

辺りを見回すと、ここはさっきの公園のようだ。但し、自分がいじめられていた場所とは少し離れている
横になっているのに視線が高い事と、背中の硬い感触で、自分がベンチの上で横になっていることに気付いた

京太郎「お姉さん、大丈夫?」

照「君は…」

隣の気配の正体にも気付く。…この間の彼だ。ゆっくりと身を起こし、彼の顔を見る。今にも泣きそうな、心配そうな顔だ

京太郎「そうですよ。この間の奴です。お姉さん、またアイツらにやられたんですか?」

照「ぐ…」ズキッ

そうだった。私はまたアイツらにやられたんだ。さっきまでの殴る蹴るの暴行を思い出し、身体が痛みを思い出す
その様子に、心配そうだった彼の表情が険しさを増す。怒気を孕んだ彼の形相に、思わず照の身が縮こまる

京太郎「ひっでぇ怪我だ…。この間の比じゃねぇ。幾らなんでもやり過ぎだろうが…!!」

照「…」

京太郎「なあ、今までずっとこんないじめされてたのか!?」

照「…うん」

京太郎「なんで黙ってるんだよ!」

照「…」

京太郎「先生だったり!友達だったり!相談してみろよ!!」

照「…嫌だ」

京太郎「はぁああ!?」

照「…みんな、信用出来ないもの」

京太郎「何ふざけたこと言ってんだよ」

京太郎「黙ってたらやられっぱないに決まってるだろうが!!なんで誰にも頼らないでほっといてんだよ!こんなボロボロにされといて、いい加減洒落で済まねーだろうが!!」

照「嫌だ…!いじめっ子も嫌いだけど、あんな奴らも信用出来ない!!」

京太郎「どうしてだよ!!」

照「どうしてもだよ!!!」

京太郎「…」


彼の激しい口調には情緒不安定になった照の神経を逆なでし、応える照の口調も荒くなる。溜まりに溜まったイライラが、遂に発散場所を求めて噴出する
かつての友達連中にも、先生にもぶつけられなかった怒り。いじめっ子には怖くて口をつむぎ、不仲の両親には遠慮して、咲には隠すしかなかった泣き言を、行きずりの少年にぶつける

…自分でもわかっていた。これはただの八つ当たりだ。彼は何も悪くないのに。むしろ助けてくれた側なのに。手を差し伸べようとすらしてくれたのに

照「今まで、何回だって相談した!妹の時に何度もしたよ!!けど、先生たちはずっと黙ったまんまだった!助けてくれなかった!!」

照「私の友達だってそう!今までずっと仲良くしてたのに、私がいじめられてるの知ってて、それでも黙ったまんま!いじめられてるの見ても、見て見ぬ振り!!」

照「そんな人達の事、どうやって信じればいいの!?」

京太郎「…」

照「逃げても逃げても追ってくるいじめっ子達、それを見て目を逸らす友達だった人!先生達は妹がいじめられてた時、私が掛けあってもなんにもしてくれなかった!」

照「どうせみんな私達の事なんてどうでもいいんだ!自分の事が可愛くて、怖い人には逆らえなくて、面倒な事には関わりたくない!人間なんてそんなもんなんだ!他人なんて信じられるもんか!」

照「君だってあの時、最初からアイツらがカラーギャングの関係者だって知ってたら、助けてくれた!?」

照「本当は女の子ばっかりだったから、自分でもなんとかなるって、そんな程度の軽い気持ちで助けただけじゃないの!?」

照「さっき、今までの比じゃない怪我って言ったよね!?そうだよ!君がつまんない正義感で下手に手助けしてくれたばっかりに!こんなにもいじめがエスカレートしたんだよ!?」

照「君のせいだ!!君のせいで私はこんなにいじめられてるんだ!!」

照「どうせ下手に希望を抱かせるくらいなら、気まぐれに助けないでくれれば良かったよ!中途半端に助けないでよ!!いい迷惑だよっ!!」

京太郎「…」

照「…はぁ…はぁ…っ!!」

京太郎「…」

照「…なんとか言ってみなよ!」

京太郎「…わかったよ」

照「…?」

京太郎「…アンタ、ガキだな」

照「…ガ、キ…?」

京太郎「うん。ガキ」

照「は?何言ってるの?君。君こそまだ1年生でしょ?私3年生だよ?そっちがガキじゃない。それにチビだし」

京太郎「身長は確かにまだアンタよりは低いけど…っていやいや。何だよその言い草。それにまるで俺が悪いみたいな」

照「だって、本当にあの後いじめが酷くなったし…」

京太郎「それに、この間だってなんか言い訳していきなり逃げたのそっちだ」

照「…うぐ」

京太郎「ありがとうも言わないで、さ。助けてもらってアレはないだろ」

照「…」

京太郎「ガキー」

照「うるさいチビ」

京太郎「…恩知らず」

照「恩着せがましいよ」

京太郎「ひねくれ者」

照「マセガキ」

京太郎「…はぁ」

照「…」

京太郎「…あ゙ーーーーー…」

照「…」

京太郎「…アンタ、名前は?」


照「…」

京太郎「…おーなーまーえー。なんて言うんですかー」

照「…先にそっちが名乗るのが礼儀だよ。子供はそんな事もわからないの?」

京太郎「子供だからわかりませーん。それに、子供だからいーやーでーすー」

照「…」

京太郎「…」

照「じゃあ私も名乗らない」プイッ

京太郎「あ、そ」プイッ

照「…」

京太郎「…」

照「…」

京太郎「…」

照「…照だよ」ボソッ

京太郎「…ん?」

照「…なんでもない」

京太郎「あっそ」

照「ん」

京太郎「…」

照「…」

京太郎「…」

照「…」

京太郎「…そっか」

照「ん?」

京太郎「照って名前なのか」

照「…っ!」

京太郎「なるほどねー。照ってのかー。ふーん。で、名字は?」

照「て、『照』!?」

京太郎「ん?どうした?照」

照「こ、コラ!君!」

京太郎「んー?」

照「な、なに!?その呼び方!」

京太郎「ん?何って、何が?」

照「わ、私は年上だよ!?呼び捨てにしないでよ!ちゃんと敬意を払って!」

京太郎「つっても、いじめられっ子相手に敬意払えって言われてもなー」ツーン

照「この…!」イライラ

京太郎「ま、どうしてもって言うなら?わかったよ。それじゃあこう呼ぶことにするわ。てーる『ちゃん』」

照「はぁああああ!?」


京太郎「ん?どうした?照ちゃん」

照「ちゃん!?ちゃんって何!?もうっ!もうっ!もうっ!!」

京太郎「うん。ぴったりだわ。照ちゃんって。ガキっぽいし」

照「むぅうううううううう!!」

京太郎「あはは。むくれてやんの。可愛いぞ?照ちーゃん」

照「か、かわ…」

京太郎「照ちゃん可愛い」

照「あああああああああああああ!」

京太郎「照ちゃん可愛い」

照「こらっ!馬鹿にして!」

京太郎「照ちゃん可愛い」

照「ああっ!こら!こら!こら!!君っ!もう!こらっ!」

京太郎「あはははは。おもしれーなー照ちゃんって」

照「ああもおおおおおおおおお!馬鹿ぁあああああああ!!」

京太郎「で、照ちゃんの名字はなんてーの?」

照「だ、誰が教えるもんか!」

京太郎「あ?なんでだよ照ちゃん」

照「ま、まだ照ちゃんって…!…じゃなくって!君の方こそ名前教えてくれてないじゃない!」

京太郎「だーかーら。名字教えてくれたら俺の方も教えてやるよ照ちゃん」

照「んもー!またぁあああ!」

京太郎「あはははは!」

照「うううう…」

京太郎「…で、名字」

照「…教えません」プイッ

京太郎「えー?なんでだよ」

照「どうしてもです」プイーーッ

京太郎「だったら、俺も名前おしえませーん」

照「…」

京太郎「…」

照「いじわる」

京太郎「いじわるです。ガキなので」

照「…本当にガキだ」

京太郎「名字は?」

照「教えるもんか」

京太郎「ガキー」

照「クソガキ」

京太郎「貧乳」

照「うるさい馬鹿」

京太郎「馬鹿です。ガキなので」

照「…」


照「…じゃあ、君の事なんて呼べばいいの?」

京太郎「んー?そうだなー。それじゃあ、ア・ナ・タ(はーと)とか」

照「発想がおっさん臭いよ」

京太郎「…」

照「…ふんっ」

京太郎「…じゃあ、通称きょ「本名じゃないなら、やっぱり言わないでいい」」

京太郎「…ん?」

照「…君がちゃんとした自分のフルネーム言うまで、『君』って呼ぶから」

京太郎「…」

照「わかった?『君』」

京太郎「…強情すなぁ」

照「そっちこそ。自分の本名言うだけだよ?」

京太郎「照ちゃんが名字言ったら教えるけど」

照「やだ」

京太郎「年上の余裕見せてもいいんじゃない?」

照「年長者に敬意を払ってよ」

京太郎「だかーらー…って…」

照「…?」

京太郎「…照ちゃん」

照「…なに?」

京太郎「…へへ。やっと笑顔になったな」

照「…え?」

京太郎「顔、笑ってる」

照「…」ペタペタ

照「…」

京太郎「…俺さ。照ちゃんよりチビだし、ガキだし、大したこと出来るかはわかんないけどさ」

京太郎「けど、あの時からいじめが酷くなったていうなら、確かに俺にも責任あるだろうしさ」

京太郎「それに折角友達になれたんだし、それなら俺は照ちゃんの事助けたいよ。なんか手を貸せることあったら、なんだって言ってくれよ」

京太郎「…力になりたいんだ」

照「…」

京太郎「…照ちゃん?」

照「…とも…だち…?」

京太郎「ああ。…友達だよな?」

照「友達…」

照「…友達」

照「…友達?」

京太郎「え。もしかして嫌っすか」

照「…」

照「…ううん。嬉しい」

京太郎「…ほっ」


京太郎「それじゃあ、明日っから放課後は一緒に遊ぼうぜ?この公園でさ」

照「え…け、けど、この公園は…」

京太郎「アイツらの溜まり場だってか?だからいいんじゃん。この間は俺にビビって撤退したんだし、俺らがきまぐれで助けた関係じゃなくて仲良しだって知ったら、きっとアイツらも手出さなくなるって」

照「そう…かな」

京太郎「そうそう!」

照「けど…怖いよ?」

京太郎「怖いけど」

照「アイツ等女の子だけど、沢山居るよ?喧嘩になったら君一人で勝てる?」

京太郎「いざとなったら照ちゃん手伝ってよ」

照「えー…」

京太郎「『えー』じゃ無しに!いじめっ子との喧嘩は、相手にめんどくさい奴って思わせたら勝ちなんだから」

照「けど、殴られたら痛いよ?」

京太郎「今と何違うんだよ」

照「…」

京太郎「…」

照「…ああ」ポン

京太郎「…」

照「確かに」

京太郎「…照ちゃんって、見た目と違って天然なんだな」

照「…?」

京太郎「…まあいいや」

照「はあ」

京太郎「あとは、あいつ等のバックにカラーギャング?が居るんだって?」

照「…うん。そいつ等が来たらどうする?」

京太郎「…まあ、そいつ等が来たら任せろよ」

照「…大丈夫?」

京太郎「…ん。まあ、一応考えはある」

照「おおー」

京太郎「…」

照「…ねえ」

京太郎「…ん?」

照「…頼っても、いい?」

京太郎「…」

照「……いい?」

京太郎「ああ。任せろって!」

照「…うん。じゃあ」

照「頼っちゃう」


翌日の放課後、照は必死に走って公園まで辿り着く。そこには、タバコを吸って缶ビールの缶を足元に転がした彼の姿。少し幻滅する
それでも兎に角いじめっ子から逃れたい一心で彼に話しかける。居心地の悪い気分でつまらない雑談を続けていると、しばらくして後をつけていた筈のいじめっ子達の気配が消えた
頃合いを見て、京太郎が呟く

京太郎「…連中、行ったっぽい?」

照「…うん」

京太郎「ま、ざっとこんなもんってな」

照「…けど、びっくりした。君、タバコ吸うんだ。それに、お酒も…」

京太郎「ん?あー。これ?ははは。これはさ」

照「…」

京太郎「本当は吸わないんだけど、さ。ダチに貰ってきたんだ。まっずいわコレ。あと、空き缶はそこのゴミ箱から漁ったやつね」

照「…」

京太郎「ふふん。どーよ?対いじめっ子への威嚇用ってやつ?不良っぽさの演出とも言うかな」

照「…ぷっ」

京太郎「ふふ。どうだい?悪っぽいだろう。くくくく…」

照「あはははは!」

京太郎「あははははは!」

照「あはははは!バカみたい!」

京太郎「へ?」

照「だ、だって!不良っぽく見せるための小道具にタバコとお酒って!」

京太郎「あれ…へ、変だった?」

照「変って言うか…発想が子供っぽいよ!」

京太郎「…」

照「あはははは!可愛いなぁ、君は!子供っぽくて!あはははは!」

京太郎「…くすん」

照「あははははははは!」


再びいじめっ子から開放された照。けれど、照は連日、放課後になる度に急いで教室を飛び出す
原因はいじめっ子では無く、友達。クラスに馴染む気はもう無かった。彼女にとって唯一の友達に会うために今日も照は教室を飛び出す。そして益々クラスから浮く

けど、どうでも良かった。楽しい日々は続く。胸には、未だに名前を教えてくれない意地悪な少年への確かな友情と、微かな恋心

絶対に私が名字を教える前に、向こうに名乗らせてやる。そんな子供っぽい感情を示す事が出来る相手は、今の照には彼しか居なかった

何をするでもなく、二人公園で会話を続ける日々

いじめの事も、クラスからの孤立も、両親の不仲も忘れて、夕方まで一緒に笑い合う

歯車が狂った事に照は気付かない

いつ狂い始めたのかも分からない

いや、もうとっくに狂っていたのだろう。ずっとずっと前に

けど、それが明らかになったのは、それからしばらくして

季節は巡り、秋

その頃、照は進学する高校に迷っていた



10月27日

京太郎「へっくし!…ふー。寒いなー。今日は」

照「そうだね。もうすっかり秋だ。そしてもうすぐしたら冬」

京太郎「げっ。思い出させるなよ。雪積もったら嫌だなぁ」

照「地面が凍ったら嫌だね。私、毎年転んじゃうんだ」

京太郎「あー。俺も俺も。去年なんて、折角一度も転ばずに雪解け迎えれそうだってのに、何にもないトコで後ろからダチに突き飛ばされて完全試合達成ならずだったんだぜ」

照「ふふ。それは残念」

京太郎「それにしても…冬が終わったら、俺も2年生かー。そして照ちゃんは進学だ」

照「え?」

京太郎「どこに行くの?」

照「そ、それは…」

京太郎「うん」

照「…」

照(…なんて答えよう。未だに迷ってるんだよね。風越女子に進学して麻雀部をやってみたい気もするし、近い清澄でもいいかなと思ってるし…あとは…)

照「えっと…」

京太郎「…もしかしてまだ迷ってる?」

照「…うん」

京太郎「早く決めちゃえよ」

照「わかってるけど…」

京太郎「…照ちゃんが進学したら、流石にもうこうして会うのは難しくなるのかな」

照「…」

京太郎「…それまでに名字教えてくれていいんだぜ?」

照「き、君こそ、随分と強情だな!そろそろ名前教えてよ」

京太郎「えー?だから言ってるだろ?照ちゃんが名字教えてくれたらって」

照「私の台詞だよ!」

京太郎「ちぇー」

照「…もうっ!」

京太郎「…へへ。ま、そうだなぁ。そしたら、照ちゃんの進学校名でもいいかな」

照「…え?」

京太郎「照ちゃんが進む高校決めて、それ教えてくれたら俺の名前教えてあげる」

照「…」

京太郎「もし照ちゃんが遠くの高校に行く事になって何処に進むかわからなかったら、このままじゃ連絡の取りようも無くなっちゃうだろ?」

照「…うん」

京太郎「だから、さ。流石に進学と同時にハイサヨナラじゃ、寂しいしさ」

照「…」

京太郎「…へ、偏差値近かったら、同じ高校目指すかも…」ボソッ

照「…え?」

京太郎「…」プイッ

照「ねえ、君、今なんて…」

京太郎「な、なんでもねー!」


照「…そっか」

京太郎「そ、そう!」

照「…じゃあ、さ。受験受かったら教えてあげるよ」

京太郎「っ!」

照「けど、受かってからだからね。言っておいてそこ落ちたら格好わるいし」

京太郎「わ、分かった!絶対だぞ!」

照「…うん」

京太郎「頑張れよ!応援してるからな、照ちゃん!」

照「うん。ありがとう。それじゃあ、今日はちょっと大事な用事有るから、私はもう帰るね」

京太郎「あ…そういえば今日はなんかあるって言ってたっけ。駅まで送ってこうか?」

照「大丈夫だよ。最近はいじめっ子達も大人しいし」

京太郎「…本当に?」

照「うん。ありがとう。それに、買い物もしたいし」

京太郎「んー。まあ、照ちゃんがそう言うなら…」

照「それじゃあ、私は帰るね。バイバイ」

京太郎「ん。じゃーなー」


照「…さて、と」

照「…」

照「…あは」

照「…偏差値が近かったら、私と同じ高校を目指すかもっ…か。あはは」

照「…うん。決めた」

照「進学校は、清澄にしよう」

照「風越と違って共学だし、近いし、学力はそこそこ。麻雀部は無いけれど、そんなのどうだっていい」

照「2年したら、もしかしたら、あの子と一緒の高校に通えるんだ」

照「こんなに楽しみな事は無いよ」

照「ああ、楽しみだな。あの子と同じ校舎に通えるんだよ?あの子の先輩になれるんだよ?」

照「素敵だな…とても素敵だ」

照「…おっといけない。早くお店に予約していた玩具を取りに行かないと」

照「今日は咲の誕生日だもんね」

照「最近あんまり元気が無かったよな。最近あんまり話を聞いてあげてなかったけど、京ちゃんと喧嘩でもしたのかな?」

照「最近は私も放課後帰るのが遅くて、いっぱい構ってあげられてないから。今日こそは盛大に祝ってあげなくちゃ…」

照「早く玩具を受け取って、急いで帰って、パーティーの準備を手伝わなきゃ」

照「今日は早めに帰ってくるように伝えておいてあるし、急いで準備しなきゃ」

照「ふふふふふ…」


京太郎「…行っちゃった、か」

京太郎「…はぁ。俺ってば情けない」

京太郎「さっさと名前くらい教えればいいのに」

京太郎「そしたら照ちゃんももっと打ち解けて心許してくれるだろうになぁ…」

京太郎「そ、そんでもって…こ、告白も…」

京太郎「…しっかし、今更切欠も無しにこっちから名前告げるのもアレだったてのはわかるけど、なんだよ進学校決まったら教えるって」

京太郎「つまりそれまで名前伝えれないって事じゃん」

京太郎「名前も知られてないのに告るわけにいかないし…」

京太郎「…先延ばしかよカッコ悪い。臆病もんだわ俺…はぁ」

京太郎「…帰ろう」

京太郎「おお、そういえば、こんな早くに帰るの久しぶりかも。最近は放課後照ちゃんとダベってばっかだったしなー」

京太郎「…ダチとの付き合いも蔑ろにしちゃいかんよな。うん。アイツら、俺が年上の女の人と会ってるって知ってから俺に冷たいんだよなー」

京太郎「…しゃーない。咲に説得と橋渡し頼むか。アイツら、咲の言う事はちゃんと聞くし」

京太郎「…そう言えば、咲とも最近、放課後遊んで無かったなー」

京太郎「…って」

京太郎「…」

京太郎「…」

京太郎「…コンニチワ」

「コンニチワ」

「おい、なんだ?このガキ。お前、知ってんのか?」

「結構前に話した事あったんだけど、覚えてない?私らのイジメ対象庇った生意気なガキの話」

「ああ。コイツが」

「もーアイツなんかどーでも良かったんだけどさ。偶然会っちゃったんなら仕方ないよね」

「なになに?どうすんの?コイツ」

「折角だしやっちゃってよ。喧嘩、得意なんでしょ?」

「一捻りだな」

「そういえば、佐藤さんの件、嘘だったんでしょ?ムカつくし、またいじめ再開しようかな」

京太郎「あ、ヤバいこれ…」

京太郎「…」

京太郎(…はぁ。仕方ない。奥の手、使いますか)

京太郎(これだけは使いたくなかったんだけどなー…)



咲「…」テクテク

咲「…今日は誕生日、か」

咲「…はぁ」

咲「結局、京ちゃんは今日も放課後すぐにどっかに行っちゃった」

咲「ここしばらく、ずっとだよ。確かに友達は他にもいっぱい出来たけど…私は、京ちゃんと1番遊びたい…」

咲「…寂しいなぁ。誕生日だっていうのに、寂しいよ…」

咲「…京ちゃん」

咲「…」

咲「…ん?なんだろう、救急車…?」

咲「公園のほうだ。何かあったのかな?ちょっと見に行ってみよう」





宮永家

照「…咲、遅いな。まったく。どこほっつき歩いてるんだか」

照「…でもまあ、昔は考えられなかったことだよね。友達と放課後遊ぶようになったって事だし、京ちゃんには、感謝しなきゃだ」

照「でも、今日くらいは早く帰ってきて欲しいだけどな。咲の誕生日だし」

照「…あ。でも、もしかしたら京ちゃんにお祝いしてもらってるのかも?それなら遅くなるのもしかたないのかも」

ジリリリリ

照「…ん?電話だ」

照「はい、宮永ですが」

照「ああ、咲か。どうしたの?え?今病院?」

照「ちょっと、落ち着いて話して。何があったの?うん、うん」

照「え?京ちゃんが喧嘩で怪我した?」

照「…だから落ち着いて、咲。大丈夫。大丈夫だから。うん。今お姉ちゃんも行くね。うん。それじゃあ待ってて。すぐ行くから。うん」

照「大丈夫だよ、咲。泣かないで。お姉ちゃんがついてるから」

照「うん。うん。それじゃあ、今から行くから、待ってて」

照「…」プツッ

照「…」

照「…咲、待っててね。すぐ行くからっ!」




病室

咲「ヒック!…ヒッ!ヒック!!」

京太郎「…」

咲「うえええ…えええええ…えええええ…」

京太郎「…」

咲「京ちゃん…京ちゃん…京ちゃああああん…うえええええええ…」

京太郎「…ん」

咲「!!」

京太郎「…あれ、俺…」パチッ

咲「京ちゃん!!」

京太郎「…あ?…ここ…どこ…」

咲「京ちゃん!ここ、病院だよ!京ちゃん、悪い人に殴られて…」

京太郎「あー…頭痛てえ…くっそ」ボー…

咲「京ちゃん!京ちゃん!!」

京太郎「…あれ。照ちゃん」

咲「…」

咲「…え?」

京太郎「…?なんで俺の名前…?言ったっけか?」

咲「え?」

京太郎「…あはは。そんな泣くなよ照ちゃん。ひっで~顔してるぜ…いたたた」

咲「…京…ちゃん?」

京太郎「悪い、嘘。まだ目がまともに動いてないわ。頭打ったからかな。グラグラしてるんだ。気持ち悪い」

咲「京ちゃん…」

京太郎「ぐう…悪い、ちょっと目閉じるな。本格的に気持ち悪い。ああ、そうです。俺、京ちゃん…ははは。なんだか、アイツに言われてるみたいで変な感じだなぁ」

咲「ねえ…京ちゃん?何のこと?それに照ちゃんって…」

京太郎「…ほら、前にも話した事あんじゃん。俺の幼馴染の子でさ。ドン臭い奴がいるんだーって。宮永咲って言うんだけど、照ちゃんにそっくりでさ」

京太郎「…初めて会った時も、最初一瞬アイツがいじめられてるのかって思っちまったくらいなんだぜ。まあ、アイツはチンチクリンだけど。…はは。これナイショな」

咲「…京ちゃん」

京太郎「…ああ、ごめんごめん。会った事も無い奴の事言われてもどうしようもねーよな」

咲「…」

京太郎「あ~…しっかし、どっかのタイミングで名前言っちゃったっけなー。くっそぉ。ごめんなさい。覚えてねーや…」

咲「…」

京太郎「くっそ。畜生。格好悪いなぁ。なんかモヤモヤするし、改めて自己紹介させてくれないか?照ちゃん」

京太郎「…俺、須賀京太郎って言います…ヨロ…シ…ク…」

咲「…」

京太郎「……ごめん。ちょっと眠いから、寝るわ」

咲「…」

京太郎「…すう…すう…」

咲「…」

咲「…」



咲「…」

咲「…」

咲「…」

咲「…」

ガチャッ

照「…咲?病院の人にこの部屋だって聞いたんだけど…」

照「…って」

照「この子は…!!」

咲「…」

照「…咲?」

咲「…やっぱり」

咲「…知ってるんだ」

照「…咲」

咲「…ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃん、この子の事、知ってるんだ」

照「…」

咲「ねえ、お姉ちゃん。答えてよ。知ってるんでしょう?」

照「…」

咲「当然だよね。だって、さっきこの子、私の顔見て、『照ちゃん』って言ってたもん」

照「…っ!」

咲「ねえ、お姉ちゃん。ねえ。ねえ、答えてよ。なんでさっきから黙ってるの?ねえ」

咲「ねえ、知ってるんでしょう?お姉ちゃん、『京ちゃん』の事」

照「…この子が」

照「…『京ちゃん』だったのか」

咲「っ!!ふざけないでよ!!!」

照「咲」

咲「なにそれ!?なんなのそれ!!?ふざけてるの!?馬鹿にしてるの!!?ねえ!!」

照「咲、落ち着いて」

咲「落ち着け!?落ち着けって何さ!!この状況でどうして落ち着いていられるの!!!」

照「咲、京ちゃんが起きちゃう」

咲「うるさいっっっっ!!!!!」

照「…」

咲「ねえお姉ちゃん!お姉ちゃん!!なんで私がこんなに怒ってると思う!?ねえ!?お姉ちゃん!!」

照「…」


咲「お姉ちゃんが私にナイショで京ちゃんに会ってたからだと思う!?最近お姉ちゃんが私にあまり構ってくれてなくなってた原因がそれだったからだと思う!?京ちゃんと知り合ってたのを私に黙ってたからだと思う!?」

咲「違うよ!!全部違う!!そんな事よりも、もっと酷いよ!!そんな事全部どうだって良くなるくらい酷い!!!」

咲「京ちゃんがなんで怪我したと思う!?私聞いちゃったよ!最初に救急車を呼んでくれた人が、一部始終見てたって!!」

咲「京ちゃん、不良の人に散々に暴行受けてたって!!殴られながら、蹴られながら!!必死に土下座してたって!!なんでだと思う!?原因はお姉ちゃんだよ!!」

咲「お姉ちゃん、前にいじめてた人の彼氏がカラーギャングだって、話してくれたことあったよね!?その人だよ!!きっとその人に、復讐されたんだ!!」

咲「京ちゃん、言ってたらしいよ!!いくら殴ってくれてもいいから、これで手打ちにしてくれって!!この通りです、この通りですって!!頭地面に叩きつけながら必死に叫んでたって!!!」

咲「何もかも全部お姉ちゃんのせいじゃない!!!」


照「そ…そんな…」

咲「お姉ちゃんのせいだよ!!!お姉ちゃんのせいで京ちゃんがこんな目に合ったんだ!!!」

咲「いじめられてるからって!!京ちゃんに助けを求めたから!!!」

咲「お姉ちゃんなんかが…お姉ちゃんなんかが京ちゃんに近づくからいけなかったんだ!!!」

照「…」

咲「出てって!!!」

照「……さい」

咲「出てってよ!!!」

照「……さ…」

咲「今すぐここから出てけ!!!!」

照「五月蝿い!!!!!」

パンッ

咲「……」

照「さっきから黙ってたら…なにさ…!!」

照「咲は、私の気持ちなんか知らないんだ」

咲「…」

照「すぐに京ちゃんに会えて、仲良くなって。すぐにいじめも無くなって。友達だって出来て、学校で嫌なこと有ったって帰ったら私に泣きつけばいいんだ」

咲「…」

照「咲ばっかりズルい!私には京ちゃんと一緒に居る権利すら無いって言うの!?一生いじめられてろっていうの!!?そんなの不公平だ!!!」

咲「っ!!よく言うよ!私にずっと黙って京ちゃんと密会してたくせに!しかも自分の素性も隠して!?私の姉だって事も説明しなかったの!?」

照「だから、私はこの子のことを京ちゃんだって知らなかった!!」

咲「信じられるわけ無いじゃない!!!」

照「っ!!」

咲「ねえ…」

咲「…それとも、私のお姉ちゃんだって、知られるのが嫌だったの…?」

照「…」

照「…ああ。そうだよ」

咲「…」

照「お前なんかの姉じゃなければ良かった…」

照「お前なんか、妹じゃない!!!」

咲「~~~~~っ!!!」

咲「っ!!帰る!!!」ダッ

照「あ…」

バタンッ!!!

照「…」

照「…あ」

照「…ああ」

照「…ああああ」

照「ああああああああ!!」

照「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」





数時間後
照は、まだ病室に居た
先ほどの姉妹喧嘩の騒ぎを聞きつけて遅れ馳せながらにやってきた看護婦に叱られて、追い打ちのように意気を消沈させた照は、項垂れたまま備え付けの椅子に座り続ける

途中、京太郎の両親がやってきた。眠っている息子の顔を見て、ほっと一息吐く彼の両親に、申し訳ない気持ちでいっぱいになり、涙が零れた

挨拶もそこそこに、医者と話をしに行くので出来れば様子を見ていて欲しいと頼まれた照は、また所在無さげに椅子の上で京太郎の顔を見る

布団の上からでもわかるのは、包帯でぐるぐる巻きにした額だけだ

他にどんな怪我があるのだろう、後遺症は残らないだろうか、と心配でまた涙が溢れる

両親が戻って来た

肋が数本折れていたらしい。他にも打撲、内出血などは無数にあるが、後遺症になりそうな怪我は無し。ただし何週間かは入院することになるらしい

説明を受けて、次に照が咲から聞いた事情を話した。彼らは黙って聞いていた。途中何度も嗚咽が止まらなくなり、辿々しくもなんとか説明を終えた頃、今度は京太郎が目を覚ました

京太郎本人から、照の話とは全く違う、彼が絡まれた喧嘩に乗ったという話を聞いた彼の家族は、子供達に何も言及する事無く、今は入院に必要な道具を取りに家に戻っている

照は、動けない

固まったまま椅子に座り、じっと俯いたまま、何も話せない

照は泣いていた

声もなく、泣いていた

しばしの逡巡の後、京太郎は意を決したように、照に話しかける


京太郎「…なあ、照ちゃん」

照「…」

京太郎「…照ちゃん」

照「…」

京太郎「…泣かないで。照ちゃん」

照「…無理、だよ…」

京太郎「…」

照「…全部、聞いたよ。なんで、逃げなかったの?なんで、そこまでしてくれたの?なんで、お父さんたちに、嘘の原因、教えたの?」

照「…なんで。なんで、なんで私を助けてくれるの?そこまでして」

照「なんで私なんかのために。なんで私なんかのために。なんで、どうして…」

照「なんで…なんで…なんで…?なんで?なんでそんなに優しいの?」

京太郎「…俺もさ。実は、昔いじめられっ子だったんだ」

照「…え」

京太郎「…ずっと前な。小学校低学年とかそんくらい。ちょっと体弱くってさ。まあ、照ちゃんみたいにひでーもんじゃなかったけどね」

照「…」

京太郎「…で、その後急に身体丈夫になって。割とヤンチャな友達も増えて…はは。その後、どうなったと思う?」

照「…わかんない」

京太郎「…いじめっ子になった」

照「…」

京太郎「…嘘だと思う?」

照「…」

京太郎「そう。マジ話ね、これ。…話すの、照ちゃんが初めてなんだぜ?」

照「…そう」

京太郎「何考えてたんだかね。あの頃は」

照「…」

京太郎「…ああ。本当、何考えてるんだかなぁ俺。こんな話して、照ちゃんに嫌われそうだって思っちゃった。当たり前だ。いじめから助けてようとした友達は、実はいじめっ子でしたってか。ああ、俺の馬鹿」

照「…」

京太郎「…ごめんな。けど、なんかどうしても話したくなっちまって」

照「…」

京太郎「…懺悔でもしてるつもりなのか俺は」

京太郎「…ああ。本当、馬鹿…」

京太郎「…馬鹿…馬鹿…馬鹿野郎…」

照「…本当だよ」

京太郎「…だよなー…」

照「うん」

京太郎「…」

照「…そんなので、私は『京ちゃん』を嫌いにならないよ」

京太郎「…」

照「…そりゃあ、びっくりしたけどね」

京太郎「…」


京太郎「…いじめられて、いじめて、いじめて、いじめて…で、ある日いきなり気付いたんだよな。『あ、俺コイツの事別にいじめたくていじめてるわけじゃねーわ』って」

京太郎「…ノリでやってたんだよ。いじめられてる間は一体どんな深い理由があって!とか、色々原因考えたりもしたけど、やる立場になって分かった。…いや、全員が全員ってわけじゃないのかもしれないけど、さ」

京太郎「…気付いて、駄目になった。もうそいつの事いじめられなくなった」

京太郎「同時に、今までいじめてきた奴らの事を振り返って怖くなった。俺はコイツらに一体どれだけの嫌な想いをさせて来たんだろうって」

京太郎「…その後は、いじめは止めろ!!って立ち上がれれば最善だったんだろうけどな。すぐには無理。いじめるふりして庇うとか、蹴散らすふりして本当にいじめられるの回避させる、とかその程度しか出来なかった」

京太郎「…ダチもみんな俺と大して変わんなかったよ。中学上がって、ちょっと大人になったら、いじめグループは自然消滅。リア充グループもどきの誕生だ」

京太郎「…糞だったよ。いじめ過ぎて壊れそうになって、転校しちまった子も居た」

京太郎「…本当、いじめ、格好悪い、だ」

照「…それで、助けてくれたの?」

京太郎「…」

照「…今までいじめてた人達の分、いじめを無くそうって。いじめられっ子を助けようって」

京太郎「…どうなんだろうね。それでも結局、俺は今までいじめてきた奴らにとっては、ずっといじめっ子だ」

照「…」

京太郎「許してくれなんていえねーよ。俺だって昔俺をいじめてた奴らは、未だに許せない」

照「…」

京太郎「自分勝手だろ?」

照「…」

京太郎「…幻滅した?」

照「…それでも」

照「…私にとって、京ちゃんは、ヒーローだった」

京太郎「…」

照「…私が会った京ちゃんは、いじめられっ子でもいじめっ子でも無くて、私を助けてくれるヒーローだったから」

京太郎「…」

照「だから、もし京ちゃんが今までの事を悪かったと思って、私の私を助けてくれた事を誇りに思えるのなら」

照「…京ちゃんは、今までにいじめて来た子達に恨まれながら、私みたいに困ってる人達を助けていけばいいんじゃないかな」

京太郎「…」

照「そうしてる内に、もしかしたら、君にいじめられて来た子達の中でも、今の君を知って許してくれる、なんて事があるかもしれない」

京太郎「…俺」

照「…期待しちゃ駄目だよ。私はあのいじめっ子達が今後改心したって、簡単に許してあげれる自信は無いから」

京太郎「…ああ」

照「…でも、君が望むなら」

照「私は、君と一緒に、その子達に謝ってあげる」

京太郎「…照…ちゃん…」

照「…薬、効いてきたのかな?眠そうだよ」

京太郎「…る…ちゃ…」

照「今日はもう、おやすみ。…また来るから」

京太郎「まっ……て…俺…たえ…い…と……」

照「…ばいばい」

京太郎「…る…ゃ…」

バタン