拠点コミュ@4


→淡&美穂子


―― それから。

久のロッカーのお陰で俺達は何とか迷宮から撤退する事は出来た。
しかし、全員の疲労と傷は深く、また敗北感も大きい。
結果的には無事に撤退出来たものの、俺達はあわや全滅という所だったのだから。
今まで色々と危ないところはあったが、あそこまで明確に全滅を意識させられた事はなかった。

京太郎「(…これからどうしようか)」

正直なところ俺は今、とても迷っている。
コレ以上、迷宮に挑戦しても皆を不用意に傷つけるだけなのではないか。
どれだけ挑戦しても咲には勝てないんじゃないだろうか。
そんな意識が今、俺の中で強くなって来ていた。
勿論、そんな弱気であってはいけないとそう思う俺もいる。
しかし、現実、俺達は咲にたどり着く事すら出来ず、あわや全滅という状態に陥っていたのだ。
次に迷宮へと挑戦する時はさらなる罠を準備しているであろう事を考えれば、コレ以上の挑戦は無謀な気がする。

京太郎「(…そもそも俺がいなければ、迷宮に挑む理由が…皆にはないんだよな)」

勿論、友人を助けたいという気持ちはあるだろう。
しかし、それが直接的な行動に結びついているのは、恐らく俺が迷宮に挑む理由がある所為だ。
俺に恩義を感じて、或いは思いを寄せて、彼女達は命の危険を犯して俺についてきてくれている。
だから、俺がいなくなれば…彼女達は迷宮に挑む理由もなくなるんだ。

京太郎「(…何とかして咲と交渉して開放して貰えれば…)」

…ハッピーエンドとはいかないかもしれない。
けれど、コレ以上、智葉達が無意味に傷つく事だけは避けられる。
無論、俺は恐らくもう二度と彼女たちの前には戻れないだろう。
きっと咲によって縛られ、彼女だけのモノになるはずだ。
けれど、そうやって咲と交渉するのは決して悪い方法ではない。
俺の大事な人達が無用に傷つくのを避けられるのを考えれば、十分アリな選択だろう。

京太郎「…ふぅ」

…今の俺は弱気になりすぎている。
そんな自覚は俺にもあった。
しかし、現実、この前と同じ展開になった時に突破する方法が思いつかない。
物量にモノを言わせて押し込まれるだけで何も出来なくなるのに…相手は無尽蔵と言っても良いような数を誇っているのだから。
あくまでも少数精鋭の俺達にとってあの物量はどうにもならない。

美穂子「……で…こう…」

淡「お、おぉ…」

京太郎「…ん?」

そんな事を思いながらホテルの中を歩いているとラウンジの方から聞き慣れた声がする。
それに引き寄せられるように顔を出せば、美穂子が何か手を動かし、淡が興味深そうにそれを覗きこんでいた。
美穂子が一体、何をしているのか分からないが淡の奴は珍しくメモなんて取っている。
珍しいと言っても良い淡の真面目な姿に俺は首をかしげながら、ゆっくりと近づいていった。

淡「あ、キョータロー」

京太郎「よう。何をしてる………ってえ?」

美穂子「あら…どうかしました?」

京太郎「…美穂子、その手に持っているのって…」

美穂子が手に持っていたのはピンク色の張り型だった。
チンポを模したそれはシリコン製の肌の上に血管を浮き上がらせたリアルな形をしている。
女性を気持ち良くさせる為のものではなく、オスの形を再現する為のそれは清楚な雰囲気を漂わせる美穂子にはあまりにも不釣り合いだ。
それを扱いていた手つきが随分とやらしいのもあって、ついついムスコがズボンの中で反応してしまいそうになる。

美穂子「ディルドーと言うものですよ」

京太郎「いや、それは分かっているけれど…」

淡「今、べんきょー中なんだよ」エッヘン

京太郎「お勉強?」

美穂子「はい。ご主人様を悦ばしてあげる為のお勉強です」ニコ

…それってつまり…夜のお勉強って奴ですよね!?
と言うか、こんなディルドーまで持ちだしている以上、それしかないよな!!
しかし、意外だな。
淡は結構、プライド高いから、こういう風に人に教わったりするのは苦手な方だと思っていたんだけれど…。

京太郎「美穂子の方から誘ったのか?」

美穂子「いいえ」ニッコリ

淡「え、えぇっと…」モジ

美穂子「…ほら、恥ずかしがらないで頑張って」

淡「う、うん…あ、あの…あのね?」

淡「さ、最近、キョータロー元気ないから…えっと…この淡ちゃん様が直々に励ましてやろーと思って」

京太郎「え?」

美穂子「ふふ。これも淡ちゃんの方から教えて欲しいって言ってきたんですよ」

美穂子「ご主人様も隅におけないですね」クス

京太郎「あー…」

…そっか。
そうやって励まそうとしてくれるくらいに俺は落ち込んでたのか。
まぁ、今も普段、俺に対してベッタリな皆がわざわざ一人にしてくれている訳だもんな。
しかし、プライド高い淡がそれを曲げて、美穂子に教わりに行くくらいだったとは。
…思った以上に心配かけていたみたいだし、これからは気をつけないとな。

京太郎「(まぁ、それはさておき…)」

京太郎「…ありがとうな」

淡「ふ、ふふーん。心の底から有難がりなさいよ」

淡「淡ちゃん様がこんな風に尽くしてあげるなんて滅多にないんだからねっ!」

美穂子「…けど、夜は結構、夢中でご主人様のオチンチン舐めまわしてるわよね」クス

淡「あ、アレは…皆が美味しそうにペロペロしてるから…わ、私も負けてられないなって…」カァァ

淡「そ、それだけだから…別にご奉仕したいとか思っている訳じゃないし…」

淡「お、オチンポ美味しいだけだもん!か、勘違いしないでよね」ウガー

京太郎「お、おう」

…どっちかって言うと、そっちの方が恥ずかしいと思うんだけどなぁ。
しかし、淡にとっては自分が誰かに尽くしたくなっているって言う方が認めたくはないらしい。
相変わらずプライド高いというか、変なところで上下関係にこだわっているというか。
何だかんだで一度も俺に『負けた』と認めた事がないのも、こういう性格だからなんだろうなぁ。

美穂子「…そうだ」

美穂子「折角、ご主人様が来てくださったんだし、ご主人様のモノで実地訓練と言うのはどう?」チラ

淡「あ、それ名案っ」

京太郎「え゛」

…いや、待て。
なんでこの流れでそういう話になるんだ!?
てっきり俺はこのまま美穂子と淡をからかう方向に進むと思っていたんだけれど!?

美穂子「…ね、ご主人様も…どうですか…?」ペロ

あ…美穂子の目、もう欲情してる…。
これさっき淡に俺の弱点教えてながら興奮してたパターンか。
見た目は貞淑ではあるけれど、美穂子は憧や智葉に負けないくらいエロエロだからなぁ…。
きっともうオマンコから愛液が溢れでて、下着も濡らしてしまっているんだろう。

京太郎「(…でも、どうするかなぁ…)」

勿論、このまま二人の餌食になるというのも悪い選択じゃない。
寧ろ、普段ならば率先して二人にご奉仕されにいくだろう。
けれど、今の俺はあんまりそんな気分にはなりにくい。
…まぁ、欲情に濡れた目で流し目を送ってくる美穂子を前にムスコが反応している時点で、まったくそんな気がない訳じゃないんだが…。

京太郎「仕方ない…なぁ」

…こんな流し目一つで欲情しちゃうなんて…
悔しい…でも、勃起したチンポには逆らえない ビクンビクン

淡「ふふ。じゃあ、新しくなったニュー淡ちゃん様の超絶テクであひんあひん言わせてあげるからねっ♥」

美穂子「安心してくださいね、ご主人様♥」

美穂子「私もちゃんと監督として参加させて貰いますから…♪」

淡「も、もう一人でも大丈夫だもん」

美穂子「…私もご主人様のオチンチンにご奉仕したいの♥」

淡「ぅー…そ、それなら…」チラ

美穂子のフォローするような言葉に、しかし、淡は中々頷かなかった。
何処か惜しそうに俺の事をチラリと見ながら、モジモジと身体を揺らしている。
まるで美穂子の介入を俺に拒んで欲しがっているようなその反応。
幾ら鈍感な俺でも今の淡が何を考えているのかすぐに分かる。

美穂子「…ふふ、ホントは独り占めしたかった?」クス

淡「…………」カァァ

淡「…………ぅん」コクン

あーちくしょぉ。
分かってたけど、やっぱ破壊力高過ぎるわ!!
なんだよ、顔真っ赤にして小さく頷くとか!!
思わず抱きしめたくなるだろ!!ってハッ!!

京太郎「…」ギュゥ

淡「き、キョータロー…?」

……いつの間にか淡の事抱きしめてた。
まぁ、それだけならまだ良いんだけど…淡の奴、潤んだ目で俺の事見上げていて…。
瞼も半分、閉じて、今にも俺にキスをねだりそうな状態になっている。
そんな…そんな顔を見せられて…我慢なんて出来る訳ない…!

京太郎「………淡、こっち向いて」

淡「あ…う…ん…♥」スッ

淡「ふ…ちゅぅ…♪」

あー…やっちゃった。
…ダメだって分かってるのにキスしちゃったよ…。
…これもう収まらないよな。
絶対にご奉仕だけじゃすまないって。
最後までやっちゃう…つーか、ヤるパターンだ。
もう手なんて淡の身体撫で回してるし…完全に俺の身体がスイッチ入ってる。

美穂子「ご主人様…私も…♥」

そんな俺に美穂子が身体を擦り寄らせてくる。
まるで自分を忘れないでと自己主張するその身体を俺は片手で抱き寄せた。
そのまま脇から揉みしだくおもちの柔らかさは相変わらず至高と言っても良い。
正直、こうして揉んでいるだけでも射精出来てしまいそうな心地よさだ。

淡「や…あぁ♪私…も、もっとぉ…♥」

けれど、淡にとってはそれが気に入らないらしい。
チュッチュと俺に唇を寄せながら、甘えるようにして舌を突き出してくる。
髪の色が似ている所為か、姉と妹のようにも思える二人からのいやらしいオネダリ。
そんなものを受けてインキュバスの俺が我慢など出来るはずがなかった。
俺はそのまま二人を自室へと連れ込み、ベッドでチンポをしゃぶらせて… ―― 


―― そして他の恋人達が帰ってくるまでの間、二人との甘いセックスを楽しんだのだった。




System
大星淡の好感度が80になりました → <<少しは元気になった?>>

福路美穂子の好感度は既に上限です

代わりに福路美穂子を通じて竹井久の好感度が50になりました → <<私も混ぜて欲しかったなぁ>>

大星淡と福路美穂子の相性が良くなりました



拠点コミュ@3


→穏乃+憧


穏乃「うーん…」

京太郎「どうしたんだ?」

穏乃「いやぁ…なんかさー」

憧「何よ、ハッキリ言いなさいよ」

穏乃「うーん……本当に言っちゃって良い?」

憧「当たり前でしょ」

憧「今更、遠慮なんかされたら逆に気持ち悪いって」

穏乃「…じゃあ、言うけど…」

穏乃「…なんで、憧、須賀くんに抱っこされてるの?」

憧「ふきゅっ」

うららかな昼下がり。
昼の俺を独占する権利を得た憧はさっきからずっと俺の膝の上に座っていた。
それは親友である高鴨さんが訪ねてきてもずっと変わっていない。
スタイルは良いけれど、やわらかなお尻を俺へと押し付けて、さっきから満面の笑みを浮かべていた。

憧「ち、違うわよ。これは抱っこなんかじゃなくて…」

憧「そ、そう!これは罰!罰なの!!」

穏乃「罰?」クビカシゲ

憧「そうよ…コイツったら昨日、私達がいない間に淡と美穂子さんにエッチな事してたんだから…!」

憧「こうやってあたしが座る事でその罰にしてるのよ!!」

憧「ほら、時代劇とかであるでしょ、正座した人の上に重石を載せたりとか!!」

憧「あぁいうのよ!ああいうの!!」

穏乃「…でも、さっきから憧、すっごいニヤニヤしてるよ?」

憧「はぅっ」カァァ

…うん、まぁ、後ろに座っている俺でもハッキリ分かるくらい嬉しそうにしてるんだもんなぁ。
そりゃ真正面に座っている高鴨さんが分からないはずがないか。
でも、それだけだったらきっと彼女もハッキリ言っただろうし…。
多分、今の憧はニヤニヤしてるだけじゃなくって… ――

穏乃「それに顔も赤いし…なんだかモジモジしてるし…」

穏乃「…もしかして憧…」

憧「し、してない!!」

憧「発情なんて全然、してないからぁっ!!」

憧「乳首もブラの中で気持ち良くなっちゃうくらい硬くなったりしてないし!!」

憧「オマンコもドロドロになんてなってないんだからね!!」

穏乃「…別にそこまでは言ってないんだけど」

憧「~~~~っ」マッカ

なんと見事な自爆芸。
最早、ここまで来るとわざとやっているんじゃないかって思うくらいだけど…。
耳まで真っ赤になる辺り、わざとじゃなくてただテンパっただけなんだろうなぁ。
なんで、普段はしっかり者なのに、こうしてちょっと突っ込まれるとダメになっちゃうんだろうか。
夜には恋人たちの中で1、2を争うくらい乱れるんだから、もう吹っ切っちゃっても良いと思うんだけどなぁ・

憧「あ、アンタも何か言いなさいよ!!」

京太郎「え?」

憧「ほ、ほら…今のままだと誤解されちゃうでしょ!!」

…誤解も何も実際、憧の愛液が俺のズボンに染みこむくらいまで発情してるのは事実なんだけどなぁ。
それどころか、憧の腰はさっきから小刻みに動いて自分からオマンコ押し付けてるし。
気づかれていないと思っているのかもしれないけど、俺にはバレバレだ。
下手したら高鴨さんにだってバレているんじゃないだろうか。
そんな状態で俺に出来る事と言ったら… ――

京太郎「高鴨さんも乗ってみるか?」

憧「え?」

京太郎「なーんて…」

穏乃「良いの!?」

京太郎「え?」

…いや、俺としては冗談のつもりだったんだけど…。
まさかここで思いっきり食いつかれるなんて。
しかし、自分から言った手前、なしだなんて言えないし…。

憧「…じとおおお」

…けれど、俺に振り返る憧の目が思いっきりジットリしちゃってるんだよなぁ。
まぁ、アレだけ釘さしたのにも関わらず、俺が誘った形になったから当然なんだけど…。
ど、どうしよう、コレ…。

穏乃「実はさっきからちょっと気になってたんだよね」

穏乃「憧がそんな風になる須賀くんの膝ってどんなものなのかなぁって」スクッ

京太郎「えっと…そ、そんな大したもんじゃないぞ?」

穏乃「またまたぁ」

穏乃「憧がそんなに幸せそうな顔するところなんて、私、見たことないもん」

穏乃「大好物のお菓子食べてる時以上だったよ!」

憧「ふきゅぅ…」

高鴨さんはもう完全にヤル気らしい。
椅子から立ち上がってトテテテと俺の側に近寄って来ている。
そのままキラキラとした目で俺を見上げる彼女にやっぱり冗談でした、とは中々、言えない。
内心、あんな迂闊な事言うんじゃなかったっていう気持ちが沸き上がってくるけれど…どれだけ後悔しても現実は変わらなかった。

穏乃「と言う訳で、憧、ちょっとだけ須賀くん貸してくれない?」

憧「べ、別にコイツはあたしのものって訳じゃないし…」

憧「そ、それに…アンタ、それがどういう事なのか分かってるの?」

穏乃「どういう事って?」キョトン

憧「だ、だから、男の人に…その…お尻を押し付けて…」

穏乃「え?座るだけじゃないの?」

憧「そ、そうだけど…そうなんだけどぉ…」

…ただ、憧としてはやっぱり中々、譲れないよなぁ。
憧は認めまいとしているけれど、俺は憧の恋人な訳で。
そんな相手の膝に親友が乗るとなれば、心中穏やかではいられないのが当然だ。
ましてや、憧は俺が高鴨さんに手を出さないか、ずっと警戒しているのだから尚の事。

穏乃「…つまり憧ってそんな過激な事してたの?」

憧「え゛っ」

穏乃「だって、私が知らないような意味があるんだよね?」

憧「そ、そんなのないわよっ!!

穏乃「え?でも…」

憧「こんなのふつーよ、ふつー!」

穏乃「じゃあ、座って良いの?」

憧「えぇ。どうぞ!」スクッ

憧「座りたいなら存分に座れば良いじゃない!」

…そして最後の頼みの綱である憧も暴走してしまった。
まぁ、最初から憧が拒みきれるとは思っていなかったけれど…しかし、こんなにもあっさりどかされるなんて。
案外、高鴨さんってばしたたかなタイプなんだろうか?
……いや、そりゃないな。
今も「本当に良いのかな?」って顔で憧や俺の事チラチラ見てるし。
どちらかと言うと、あそこで意地を張って、普通だなんて言ってしまう憧が面倒くさすぎるだけか。

穏乃「じゃあ、あの…失礼しまーす」スッ

京太郎「お、おう」

そうしている間に高鴨さんの中で好奇心が勝ったんだろう。
ちょっと憧に悪いような顔を見せながらも高鴨さんはゆっくりと俺に対して腰を下ろしてきた。
相変わらず、何も履いていないように見える健康的なお尻が近づいてくる光景は少しドキドキする。
けれど、ここで勃起する訳にはいかないと俺は欲望を強く戒めた瞬間、彼女の小ぶりなお尻が俺へと触れた。

穏乃「…あれ?」ヌチャ

京太郎「どうかした?」

穏乃「…何か濡れてる?」

憧「き、きききききき気のせいでしょ!?」

穏乃「でも、これ絶対ネチャネチャしてるよ」

憧「気のせい!!いいわね!!」

穏乃「う、うん」

…まぁ、そりゃ高鴨さんとしては俺の膝が濡れているのが気になるよなぁ。
その太ももが殆ど露出している状態だから、ほぼ直に触れている訳だし。
ちょっと悪い気もするが、しかし、それは憧の愛液ですだなんて流石に言えないし…。
ここは憧の言う通り、なかった事にして貰うのが一番なのかもしれない。

京太郎「それより…どんな感じだ?」

穏乃「うーん…」

穏乃「…大きくて、硬くて、熱い?」

憧「ふきゅっ」カァァ

京太郎「まぁ、コレでも男だからなぁ」

…憧、落ち着け。
高鴨さんが言っているのはあくまでも座り心地だ。
何も俺のムスコを触っての感想じゃないから、そこで真っ赤になるのは間違ってるぞ。

憧「ほ、ほら、すわり心地も悪いでしょ?」

憧「だから、早く元の席に…」

穏乃「え?悪くないよ」

憧「…ふぇ?」

穏乃「確かに硬いけど…でも、椅子ほどじゃないし」

穏乃「大きいのはなんだか安心して、熱いのは居心地が良い感じだし…」

穏乃「…寧ろ、すわり心地…良いかも」ニコ

京太郎「ぅ」

正直、高鴨さんにそんな事言われるとは思ってなかった。
智葉や淡には結構、褒めて貰えるけれど、アレは恋人だからだしなぁ。
あくまでも恋人の親友という少し回りくどい関係な彼女からそういう言葉が飛び出るほど自分が素晴らしい身体をしているとは思っていなかったし…。
ちょっと不意打ちでドキリとしてしまった。

穏乃「憧はずっとこんな気持ちだったんだ…良いなぁ」

憧「よ、良くなんかないわよ!!」

穏乃「…そうなの?」

憧「と、とーぜんよ!さっき私が罰だって言ってたでしょ!!」

憧「あたしはやりたくてやってた訳じゃないんだからね!!」

穏乃「そっか」

穏乃「じゃあ、私が代わってあげる」

憧「え?」

穏乃「だって、憧はやりたくないけど私はこれやりたいし…」

憧「ふぇぇぇ!?」

いや、まぁ、そうなるよな。
高鴨さんにとっては俺の座り心地が良いみたいだし。
遠慮してた相手がやりたくないって言ったら、そりゃあこのまま続行で、となるのが普通だろう。
とは言え、俺自身、このまま続行というのは中々、距離感が測れなくて、若干、気まずい感があるんだけど…。

穏乃「えっと…それで罰ってどうすれば良いの?」キョトン

憧「え、えっと…それは…」カァァ

穏乃「さっきの憧みたいに須賀くんにギュッてされなきゃダメ?」

憧「あ、アレは…その…」

穏乃「…うーん…須賀くんは私の事、ギュってしたい?」

京太郎「えっ!?」

そ、そこで俺に対して話を振るのか…!?
いや、まぁ、本音を言えば、胸の中にすっぽり収まり過ぎる高鴨さんを抱きしめたくないと言えば嘘になるけれどさ!!
こっちに対して甘えるみたいにもたれかかる高鴨さんを見てると、押さえつけている欲望も強くなっていくのがわかるし…。
でも、これが憧ならばまだしも相手は恋人でも何でもない高鴨さんな訳で…ましてや憧が俺の事を睨みつけている訳で…。
ここでしたいだなんて口が避けても言えないよな。

京太郎「え、えぇっと…流石にそれは悪いかなって…」

穏乃「じゃあ、やっぱりしないとダメなんだ」

憧「な、なんで…!?」

穏乃「だって、これは須賀くんに対する罰なんだから、したい事されちゃったら罰にならないでしょ?」

憧「あ…うぅぅ…」

…ダメだ、完全に場の主導権を高鴨さんに取られてしまっている。
いや、勿論、彼女は決してそういう事をしようとしてしているんじゃないんだけれども!!
間違いなく彼女はそれがどういう事を意味するのか分かっていない。
そんな天然な彼女だからこそ、俺も憧も中々、異論を挟みづらく、ついつい高鴨さんのペースで話が進んでいって…。

穏乃「ん…っ♪」スリスリ

京太郎「…ど、どう…かな?」ギュゥ

穏乃「うん…さっきよりもポカポカで安心する…♪」

京太郎「そ、そっか。それなら良かった」

…で、俺は一体、何をやってるんだろうな?
恋人の親友を膝の上に載せて、思いっきり抱きしめて…。
しかも、その様を恋人に見られているというオマケつきである。
流石にこれは恥ずかしいを通り越して、気まずい感ではあるんだけれど…。

憧「う…うぅぅ…」プルプル

…ただ、憧が口を挟んでくれない限り、どうにもならないんだよなぁ。
ここで俺がアレは全部、憧の口からでまかせでした!なんて言ったら彼女の面目が丸つぶれだ。
もう既にメンツも何もないような状態ではあるけれど、流石にコレ以上の追い打ちはしてやれない。
だから、できれば憧からさっきのは嘘だったとそう言ってくれるのが一番なんだけれど…。

憧「…だ」

穏乃「ん?」

憧「や…だぁ…」

憧「そこは…あたしのだもん!」

穏乃「…憧は嫌じゃなかったの?」

憧「い……嫌…だけど」

穏乃「じゃあ、ダメ」スリスリ

憧「し、しず…!!」

穏乃「…嫌なら渡さないよ?」

お、おう…。
まさか高鴨さんがここで思いっきり突き放すなんて。
…普段の彼女ならば、仕方ないなぁって言ってどきそうなイメージがあるんだけど…。
もしかして前回の事、結構、根に持ってる…のか?

憧「う…………い、嫌…じゃない…」

穏乃「…それだけ?」

憧「好き!本当は好きなの!!」

憧「京太郎にギューってされるの大好きなの!」

憧「だから返して!!」

憧「そこはあたしの場所なんだから返してよぉっ!!」ジワ

そう言ってプルプルと全身を震わせる憧はもう泣きそうな顔になってた。
俺の恋人は憧以外にもいるとは言っても、流石に親友に自分の居場所を奪われるのは応えるのだろう。
見た事もないような辛そうな顔で本音を漏らすその姿は正直、見ているだけでも痛々しい。
膝の上に高鴨さんが載っていなかったらきっと、俺は今すぐ彼女のことを抱きしめにいっただろう。


穏乃「…ようやく言ったね」

穏乃「まったく…意地っ張りなんだから」

憧「う、うるちゃいっ!!」カァァ

憧「それより…京太郎、返してよ!!」

穏乃「うん、最初からそのつもりだったからそれは良いんだけど…」

京太郎「…けど?」

穏乃「…思った以上に良くってちょっと惜しくなって来ちゃった」

穏乃「…ね、半分だけ貸してくれない?」

憧「そ、そんなのダメに決まってるでしょ!!」

穏乃「じゃあ、どかない」プイッ

憧「うぐ…こ、この…調子に乗って…!」

穏乃「そもそも憧が意地張らなかったらこんな事にはならなかったんだよ?」

憧「そ、それは…」

穏乃「だから、私にも半分貰える権利はあると思う」

憧「う…うぅぅ…」

そこで助けを求めるように憧が俺の方を見てくる。
何だかんだ言って、憧も高鴨さんの論理を認めてしまっている部分はあるのだろう。
だからこそ、ここで強く出られず、こうして俺から断って欲しいとそう目で訴えてくる。
そんな憧に俺は… ――

京太郎「…悪い、高鴨さん」ヒョイ

穏乃「え?」

京太郎「今日のここは憧のモノだからさ」

憧「き、京太郎…」

京太郎「…おいで、憧」

憧「うんっ」ダキッ

京太郎「うぉ!?」

ま、まさか身体一杯で飛び込んでくるとは思わなかった…。
一体、どれだけ俺に飢えてたんだか。
しかし、まぁ…そんなにもとめてくれるのはやっぱり嬉しいよな。
…ただ、流石にそのまま俺の胸板に顔をうずめてスリスリするのは止めて欲しい。
そこまでされると俺の方が我慢出来なくなりそうだからなぁ…。

穏乃「うーん…やっぱり憧には勝てないなぁ…」

穏乃「ちょっとだけ羨ましいかも」

京太郎「…ごめんな、高鴨さん」

穏乃「んーん。大丈夫」

穏乃「須賀くんが憧の事ちゃんと大事にしてくれてるみたいで安心したし」

穏乃「こっちこそワガママ言ってごめんね」

…もしかしたらさっきのは俺も試されていた…とかか?
いや、流石にそれはないか。
唇を尖らせて憧を見る彼女の目は本気で羨ましそうなものだったし。
しかし、あそこで迷っていたら、やっぱり優柔不断だと幻滅されていたかもしれない。
そう思うと、やっぱりあそこで憧に応えて正解だったとそう思う。

穏乃「それじゃあワガママのお詫びに…はい、コレ」スッ

京太郎「え?」

高鴨さんから差し出されたのは見慣れたデータチップだった。
既に俺の持つCOMPの中に五枚差し込まれているそれと同じ形のそれはきっと彼女自身のものだろう。
けれど、それは簡単に受け取って良いものではない。
それはただの個人情報の塊であるという以上に、地獄への片道キップも同然なのだから。

穏乃「…この前、憧が倒れてた時に色々考えてたんだ」

穏乃「私が憧に出来る事…そして私が須賀くんに出来る事」

穏乃「でも、私、馬鹿だからあんまり良い考え浮かばなくって」テヘ

穏乃「憧だったらまた違うかもしれないけど…私はこれが一番だと思ったから」

穏乃「だから…私も須賀くんのお手伝いさせてください」ペコリ

京太郎「…高鴨さん」

…けれど、そうやって頭を下げる彼女を無碍に出来ない。
多分、彼女はこうして結論を出すまでの間に沢山、悩んだはずなのだから。
少なくとも憧が目の前で意識不明の重体になっているのを見た彼女が生半可な覚悟でこんな事を言えるはずがない。
それは俺自身にも十分、伝わってきている。

京太郎「(…でも、俺は…)」

正直に言えば、俺はこれから先、迷宮に挑むのを迷っている。
いや、より正確に言えば、次に迷宮に潜る時、憧たちを連れて行って良いか考えあぐねているのだ。
そんな状態で高鴨さんの気持ちを受け取ってしまって本当に良いのだろうか?

憧「…とりあえず見るだけ見てやったら?」

京太郎「憧…」

憧「こうなったしずは頑固よ?」

憧「ダメだってだけじゃ絶対に引かないからデータだけでも見てあげて」

京太郎「…憧はそれで良いのか?」

高鴨さんは憧にとっては親友だ。
そして彼女は迷宮がどれだけ危険な場所か知っている。
そんな場所に親友が進む手助けのような真似をして本当に良いのだろうか?
そう思って聞いた言葉に、憧は俺の胸板からそっと顔を離した。

憧「どっちみちここでダメだって言ってもしずはそれじゃ納得しないしね」

憧「下手にここで突っぱねても後で絶対、追いかけて来るわよ?」

憧「それがどれだけ危険かは前に分かってるでしょ?」

京太郎「う…」

…そうだよな。
以前、それで淡があわや死ぬところだったんだから。
確かにここで問答して、あの時の二の舞いになるのは危険だし…。
とりあえずデータだけでも見せて貰おうか。




名前  高鴨穏乃
Lv   58
種族  デミワーム
タイプ かくとう/ドラゴン
特性1 ノーガード(自分と相手の攻撃が必ず命中する)

HP402/402
MP47/47

こうげき110
ぼうぎょ90
とくこう20
とくぼう80
すばやさ110

技1 ドラゴンクロー 消費5 物理 ドラゴン 威力80/命中100
技2 ばくれつパンチ 消費8 物理 かくとう 威力100/命中50 相手を混乱させる(100%)
技3 あなをほる 消費5 物理 じめん 威力80命中100 1ターン目で地面に潜り2ターン目で攻撃する 潜っている間は殆どの攻撃を受けない
技4 りゅうのまい 消費4 変化 ドラゴン 自分のこうげき、すばやさを1段階ずつ上げる



京太郎「(…凄いな)」

まず目を引くのは圧倒的なステータスの高さだ。
まだ進化もしていないのに攻撃も素早さもかなりの数値になっている。
レベルこそ物足りないが、育てば間違いなく今の時点で一線級で活躍してくれるだろう。
この辺りは流石、第五層のボスだった事はあると言ったところか。

京太郎「(…ついでにタイプもそこそこ強い)」

ドラゴンタイプはオーソドックスなほのお・みず・でんき・くさに対して強い。
これから挑む迷宮にはそれらを得てとする相手がいるだけにかなり有利に立ち回れるだろう。
特性と相まって相手を100%混乱させるばくれつパンチが強く、苦戦させられた以上の活躍が期待出来そうだ。
その分、MPが低いので乱発は出来ないけれども、いざという時の切り札にはなる。
そんな彼女に俺はどう応えるべきだろうか?



↓2
1…ダメだ(加入しません)
2応えない(加入します)



京太郎「(…正直、高鴨さんの戦力は魅力的だ)」

今はまだレベルが足りていない分、前線で活躍するのは難しいかもしれない。
しかし、それさえ足りていれば智葉や憧と肩を並べられるだけのポテンシャルは十分秘めている。
これから咲との決戦という状態だからこそ、彼女の能力はとても魅力的だ。

京太郎「(…だからこそ、ここで応えて良いのか俺には判断がつかない)」

これがまったく求めている能力とは別物であれば、ダメだと即答する事が出来ただろう。
けれど、高鴨さんがあまりにも優秀であるだけに、俺の中でどうしても引っかかるものが出てきてしまうのだ。
咲に対してこれからどうするかも決めていないのに、ここで気安く返事をしてしまって良いのだろうか。
そんな疑問が俺の口を重くし、中々、返事を返す事が出来なかった。

穏乃「…えっと…」

憧「……ごめんね、ちょっと京太郎、調子悪いみたい」

穏乃「…そう…なの?」

憧「うん…だから、また返事はまた今度にしておいて貰えない?」

憧「今日のところは休ませてあげておいて欲しいの」

穏乃「…うん。分かった」

そんな情けない俺に憧からのフォローが入る。
勿論、高鴨さん自身、そのフォローを信じている訳ではないのだろう。
けれど、俺が迷っている事を察した彼女は椅子から立ち上がり、そのまま憧を連れ立って入り口へと歩いて行った。
そんな彼女を見送る為に俺もまた入り口へと行きながらも、俺は何も言えなくて――

穏乃「…須賀くん、元気だしてね」

穏乃「私…返事は何時でも良いから」

京太郎「…あぁ、ありがとう」


―― 俺の事を気遣ってかそう言ってくれる高鴨さんに俺は力なくそう返す事しか出来なかった。




System
高鴨穏乃の好感度が40になりました

PTインボーナスによりさらに10あがり、50になりました → <<須賀くんの膝、気持ち良かったなぁ…>>

好感度が50になった事で高鴨穏乃の進化条件が一部、開示されます

高鴨穏乃が戦闘で●回勝利した後にコミュを行う


新子憧の好感度は既に上限です

本来上昇する数値の一部を相性の良いキャラへと受け渡す事が出来ます

新子憧と相性が良いのは大星淡と高鴨穏乃です

どちらにしますか?



System

新子憧を通じて大星淡の好感度が85になりました → <<<全然、元気になってないじゃん…ぜーたくものめ…!>>




拠点コミュ@2


→春


―― 私にとって誰かの役に立つと言うのはとても重要な事だった。

…母さまが私に望んだのはそういう『良い子』だったから。
誰にも迷惑を掛けない子だったから。
だから、私はこれまで自分を抑えてきた。
それ以外に生き方を知らなかったから。
そうすればきっと母様も私の事を迎えに来てくれるって思っていたから。

―― でも、現実はそうじゃなくて。

母様は私を迎えに来るどころか手紙の一つだってくれなかった。
それどころか、『良い子』であったはずの私の周りには友達と呼べるような誰かもいない。
その寂しさに一人布団の中で泣いた記憶は…恥ずかしいけれど、結構ある。
でも、どれだけ一人で泣いても母様も、そして友達も私の側にはいないまま。

―― だから…一度だけ母様に手紙を出した事がある。

小間使いのような立場とは言ってもお小遣いくらいは貰える。
それで私が初めて買ったのは出来るだけ綺麗な便箋と、切手。
自分の近況を書いたその便箋は…しかし、数日後、戻ってきた。
既に届け先の住所には母様はいないのだという事実と共に。

―― …多分、そこから私は意固地になったんだと思う。

精一杯のワガママを込めて出したその手紙は誰にも届かなかった。
また会いたいという気持ちを出来るだけオブラードに包んで差し伸ばした手は…ただ虚空を掴んだだけ。
私にはもうここしか居場所がない。
本当に母様に捨てられてしまったのだと…そう突きつける事実に…私はより『良い子』になろうとした。
そうすればきっと母様も私の事を迎えに来てくれるんだって…それだけが私の心の支えになった。

―― そんな私がクラスで孤立するのも当然だったんだろう。

私は自分が『良い子』であるが為に、周りを利用しているだけだったんだから。
私は相手を見ていない。
ただ、相手が求めている事を機械的に返すだけ。
自分の中の強迫観念めいた感情を満たす為に動く私は気味悪がられても仕方がない。
陰口を叩かれるのが…当たり前だ。
でも…そうと分かっていても…私は自分の生き方を変えられなくて…。
ずっと…ずっとそうやって…一人で生きていくんだとそう思っていた。

―― でも…今は…。

…昔ほど『良い子』である事に執着しなくなった。
それはきっと『彼』が私に対して手を差し伸べてくれたからだろう。
私の助けになりたいと…そう言ってくれた…たった一人の人。
そんな彼のお陰で…私は少しずつ生き方を変えられるようになった。
一人では…なくなった。

春「…あ」

そんな彼 ―― 須賀くんが一人、ラウンジで座っているのが見えた。
けれど、その顔は何時もとは違い、暗く落ち込んでいる。
まるで悩んでいるようなその姿に、買い物帰りの私は惹かれるように近づいていった。

春「…須賀くん」

京太郎「あ…春か…」

京太郎「買い物帰りか?おかえり」ニコ

春「…うん、ただいま」

そう私へと笑う彼の顔はとても暖かなものだった。
自分が落ち込んでいるのを感じさせまいとしているその笑みに、私の胸は小さく締め付けられる。
勿論、それは彼の優しさだ。
須賀くんは…私に心配掛けさせまいとしてくれているからこそ、そうやって優しい笑みをくれる。

春「(…でも、これは辻垣内さん達だったら?)」

…多分、彼はそんな風に笑みを見せない。
きっと弱い部分を垣間見せ、頼ってくれると、そう思う。
少なくとも私が見てきた彼ら、或いは彼女らの絆はそれくらい強かった。

春「(…でも、私は…)」

まだ私は仲間になって日が浅い。
迷宮に一緒に探索したのも一回だけ。
それも途中で飛び出してきた怪物に倒れて終わっただけである。
ろくに活躍など出来ていない私に、長年連れそった夫婦のような信頼を向けろと言う方が難しいだろう。

春「(……相談して欲しい)」

そんな気持ちが胸の奥から浮かんでくる。
けれど、私がそんな事を言ってしまって本当に良いんだろうか?
信頼と言うのは欲しいと言って貰えるものじゃない。
自分の行動で勝ち取るもの。
幾ら京太郎が私に対して甘いとは言っても、そんな恥ずかしい事は言えない。

春「…京太郎はここで何を?」

京太郎「あー…まぁ…ちょっと部屋には居づらくて…さ」

春「…そう」

だからこそ、当たり障りのない事を聞いた私に気まずそうな返事が帰ってくる。
基本的に京太郎の部屋は彼のハーレムと言っても過言ではない。
京太郎と同棲している人たちは皆、彼の事が大好きだ。
そんな場所で居心地が悪いというのは、悩み事というのはよっぽど大変ならしい。

春「(…そんな京太郎に私が出来る事…)」

…分からなかった。
そもそも…悩み事の相談なんてした事もないし、された事もない。
そんな私がこんなにも落ち込んでいる彼に出来る事なんてそうそう簡単に思いつくはずがなかった。
でも、今の京太郎はどうしても放っておけなくて…だから… ――

春「…じゃあ、私の部屋、来る?」

京太郎「え?」

春「…暇つぶし、ついでに」

……部屋に家族以外の男性を招く。
それが一体、どういう風に受け取られるかくらい私にだって分かっていた。
けれど、私は京太郎の事を放っておけないし…何より…彼だったら…別に良い。
私に手を差し伸べてくれて…生き方を少しずつだけど変えてくれて…。
私の拙いワガママを聞いてくれる彼なら…例え、犯されたって後悔はない。

―― 京ちゃん京ちゃん京ちゃん京ちゃん京ちゃん

春「(…多分、これも無関係じゃないと思うけれど)」

こうして京太郎と一緒にいると胸の内から沸き上がってくる強い衝動と甘い声。
自分以外の誰かが私の中に住んでいるようなその感覚にも慣れてしまっていた。
それはきっと私自身がこの『誰か』と同じ気持ちを共有しはじめているからなんだろう。
一緒に迷宮へと連れて行って欲しいとワガママを言った時にはまだ区別がつかなかったけれど… ――

春「(…私は多分、京太郎の事が好き)」

それは京太郎を京ちゃんと呼ぶこの『誰か』の感情を自分のモノと勘違いしたからなんかじゃない。
私は私の意思で…京太郎を…好きになっている。
いや…多分、もっと深く…愛して…そして依存しているんだと思う。
彼とこうして一緒に過ごせるようになる前の生活なんて私にはもう考えたくないくらいだったから。

春「(…だから…できれば私も京太郎と恋人になりたい)」

彼のハーレムに入れてほしい。
その資格は…自意識過剰ながらあると思う。
京太郎はあんなに綺麗で可愛い恋人ばっかりなのに、私の胸をチラチラ見るから。
ただの仲間としてではなく一人の女として意識して貰っているのは分かる。
けれど、そこから彼に踏み込んできてもらうのは多分、望み薄だ。
京太郎はスケベではあるけれど、それと同じくらい辻垣内さん達のことを大事に思っている。
決して誠実ではないけれど、自分から他の誰かに手を出したりはしないだろう。

春「(…だから、アピールしなきゃ)」

私が役に立つんだって。
京太郎の事が好きなんだって。
側において欲しいんだって。
……でも、それは私にとってとても苦手な分野。
自分から何かをアピールする事なく…ずっと受け身で育ってきたから。
そういう事は殆どした事がない…。

春「(…でも、やらなきゃダメ)」

…この前の戦いで思った。
私は足手まといだって。
そしてそれ以上に何時死んでもおかしくないんだって。
本当に命の危険がある場所なんだって…思い知った。
…次の探索で私の命があるかどうかは分からない。
だから…後悔しないように…ここで精一杯、彼にアピールしなきゃ。

春「どうぞ」

京太郎「あ、あぁ…お邪魔します」

そんな事を考えている間に京太郎と一緒に部屋へと帰ってきた。
唐突な訪問になるけれど…でも、基本的に掃除もちゃんとしているから大丈夫。
私物も黒糖を除けば服くらいなものだから、散らかってはいない。

京太郎「…で、春」

春「何?」

京太郎「この部屋の隅に積まれているダンボールの山は一体…」

春「黒糖」

京太郎「…え?」

…あれ?
何か私、間違った事言っちゃった…?
…それは黒糖のダンボールだって事に間違いはないはずなんだけれど…。
…あ、もしかして空箱を詰んでいると思ってる…?
流石にそんな風に誤解されるのは恥ずかしい…。
ちゃんと誤解を解かないと…。

春「…ちゃんと中身は入ってる」

京太郎「こ、壁埋め尽くすくらい並んでいるこれ…全部にか?」

春「勿論」

春「ちなみにちゃんと管理も出来てる」

春「右端から製造年月日に並べて、製造所が別の分はダンボールにラベルを張ってある」

春「毎日、整理整頓もしてるから問題ない」

京太郎「そ、そうか…」

…よし。
ちゃんと女子力アピールも出来た。
…でも、京太郎は何か気圧されているような…?
…気のせい…???

京太郎「でも、これだけの黒糖あって食べきれるのか?」

春「寧ろ、足りないくらい」

京太郎「…え?」

春「それくらいなら一週間でなくなる」

京太郎「い、一週間…」

春「ちなみに在庫管理や整理もエクセルでやって、減ってきたら自動で発注掛けるようにプログラムを組んである」

京太郎「わざわざプログラムまで…」

春「…折角、黒糖が買えるようになったのに、なくなったりしたら大変だから」

春「本を買ってきて3日で覚えた」

京太郎「み、3日…?」

春「うん。…京太郎も何か管理して欲しいのがあったら私がプログラム組んだりするけれど…」

京太郎「い、いや…流石にここまで情熱傾けるものはないから良いかな…」

春「…そう」

…これを期に京太郎の私生活に入り込めれば…と思ったけれど…。
やっぱりそう簡単にはいかない…。
そもそも京太郎のそういう私生活の部分を支えているのは福路さんだし…。
まずは彼女の方にアピールするのが良かったのかもしれない。

春「…それより京太郎、お茶飲む?」

京太郎「あー…そうだな」

京太郎「折角だし貰おうか」

春「…うん、ちょっとまって」

…とは言え、福路さんの壁は厚い。
私も何度かごちそうになったけれど…お茶も料理も彼女には敵いそうにもなかった。
元々の技量だけでもかけ離れているのに、その上、相手は経験から京太郎の胃袋をがっちり掴んでいる。
正直、そんな相手に真正面から太刀打ちしようとするのは下策。
ここは私にしかないものでアピールするべき。

京太郎「…ちなみにそのお茶って…」

春「この前の黒糖のお茶」

京太郎「あ、やっぱりか」

春「ダメだった?」

京太郎「いや、アレは俺も好きだから大丈夫」

春「…そう」

…ちょっと嬉しい。
私も…このお茶の事がとても好きだから。
好きな人と…好きなものを共有出来るのって…とても胸が暖かくなる。
…京太郎も今、私と同じ気持ちだったら良いのに。

春「はい、どうぞ」

京太郎「おう、ありがとうな」

そう言って京太郎はお茶を受け取ってくれる。
そのままフーフーと息を吹きかけるのはそれが淹れたてだからだろう。
できれば温かい内に飲んで欲しいけれど、こればっかりは仕方がない。
それにそうやって息を吹きかける京太郎もちょっと可愛いから…嫌じゃなくて…あ、そうだ。

春「…京太郎、貸して」

京太郎「え?」

春「私がフーフーしてあげる」

京太郎「い、いや…それくらい出来るって」カァ

…女子力アピールのいい機会だと思ったけれど断られてしまった。
でも、恥ずかしがる京太郎も可愛くて良い。
フーフーするのも可愛いけれど…それは後でも見れるし…。
恥ずかしがる京太郎は今しか見れないんだから…ここはもうちょっとおしてみるべき…?

春「…私が京太郎にふーふーしてあげたい」

春「…それじゃダメ?」

京太郎「う…いや…ダメって言う訳じゃないけど…」カァ

春「…じゃあ、させて」

京太郎「…はい」スッ

…あれ?
てっきり恥ずかしがって渡してくれないと思ったのに…。
…結構、あっさり手渡されてしまった。
ちょっと予想外…でも、折角、こうして渡してくれたんだし…頑張って冷ましてあげよう。

春「ふーふー」

京太郎「も、もう良いって」

春「…ダメ。京太郎が火傷しちゃう」

京太郎「そこまで猫舌じゃないって」

春「…それでももうちょっと冷まさなきゃダメ」

…うん。
別にこうして好きな人のお茶を冷ましてあげるという事に喜んでいるからじゃない。
確かに京太郎は基本的に福路さんに何でも頼んで、私がお世話をする余地なんて殆どないけれど。
それでも、私がこうして熱心に冷ましているのは京太郎の為。
…私がこうしてふーふーするのを楽しんでいることとはまったくの無関係。

春「(…でも、流石にそろそろ冷めすぎかもしれない…)」

最初はアツアツの熱湯だったお茶も時間経過と共に冷めていく。
それを手の中で感じる私の胸に残念さが沸き上がってきたのは意図的に無視した。
あくまでもこれは京太郎の為であり、私のワガママではない。
…少しずつ変わってきてはいるけれど、私はまだそういう建前がなければ自分から何も出来ない女のままだから。

春「…はい」スッ

京太郎「あぁ、ありがとうな」

そう言って差し出した私の手から京太郎は湯のみを受け取る。
そのままコクリと嚥下していく様を私はなんとなくジっと見つめていた。
内心、沸き上がってくるのは期待の感情。
私が淹れて、私が冷ましたお茶を彼は一体、なんと言ってくれるのか。
それが気になって、私は京太郎から目が離せなくなっていた。

京太郎「…うん、美味しい」

春「…そう」

そんな私の期待に京太郎は応えてくれる。
福路さんの淹れたものではなく、私の淹れた…いや、お世話したお茶を美味しいと言ってくれた。
それに微かに表情筋が浮き上がり、顔が綻ぶのを感じる。
…子供の頃は表情がなくて気味が悪いとそう呼ばれていた私が自覚出来るほどのえみを浮かべるのは珍しい。
…やっぱりそれも私が他の人に負けないくらい彼の事を愛してしまっているからなのだろう。

春「…美味しかったらもっと淹れてあげる」

京太郎「あぁ、これがなくなったらまた頼むよ」

春「うん」

京太郎の言葉に頷きながら私もお茶を飲む。
自分の分は覚ましてなかったからまだちょっと熱いけど、私はこれくらいの方が好き。
あんまり覚ましすぎると味はともかく、匂いが散って、最初に口に含んだ時の感動がなくなるから。
黒糖の匂いが微かにただよい、口の中でも黒糖の味が楽しめるこれくらいが一番好み。

…ただ、ちょっと熱いからちょっとずつしか飲めないけれど。

春「…あつ」

京太郎「はは」

春「…む」

それでも口から漏れてしまった言葉に京太郎が微かに笑うのが聞こえた。
別にそうやって笑われるのは、普段、それほど気にしない。
そんな風に気にするくらいに私は周りの人たちに別段、強い関心を持ってこなかったから。
けれど…その中で唯一、例外だと言っても良い彼に笑われるとちょっとおもしろくない。
怒るってほどじゃないけれど…なんとなく頬の辺りが膨らんでしまう感じがする。

春「…京太郎の所為」

春「京太郎の分を冷ましてたから私、火傷してしまった」

春「責任とってほしい」

京太郎「責任って…」

京太郎「いや、まぁ、俺に出来る事なら何でもするって約束したから良いけどさ」

…そんな感情任せに八つ当たりした私の言葉を京太郎は受け止めてくれる。
しかも、何でも良いとそんな懐の大きさまで魅せつけてくれて。
正直なところ、普通に謝罪されてそこで終わりになると思っていただけにちょっと戸惑ってしまう。
そもそもそんな風に誰かにお詫びを求めたり、責任を追求した経験どころか、しようと思った事すらない。

春「(…何が適切…?)」

…こういう時、人付き合いの経験がまったくないのが困る。
私の感情はさておき、彼が私の事を友人と思ってくれているのは確実だ。
これだけ世話を焼いてくれて、部屋にだってあがってくれる彼の気持ちくらい私でも分かる。
けれど、そんな風に友人と呼べるような相手なんて私の人生では一人としていなかった。
友人を相手にこういう時どういう対処を求めるのが一番かというノウハウが私の中にはまったくなかったのである。

京太郎「本当に何でも良いんだぞ?」

京太郎「さっきも言ったように、俺は春のしたい事を全部叶えてやるつもりだからさ」

春「……じゃあ、冷まして」

京太郎「ん?飲み物を?」

春「ううん、舌を」

京太郎「えっ…」

…あれ?間違った?
口を火傷したという状況から発生する賠償責任と、彼との関係を進めたいという気持ちの両方を満たす良い案だと思ったんだけれど。
…でも、彼の反応を見るとちょっと普通じゃない要求だったらしい。
やっぱり急ぎすぎた…?

京太郎「さ、冷ますって…どうやって?」

春「…キスで」

京太郎「い、いや、流石にそれはまずくないか?」

春「…大丈夫。外国では挨拶みたいなもの」

京太郎「流石にそんなディープな挨拶はしねぇよ」

春「…むぅ」

…とは言え、一生懸命考えたのをそんな風に無下にされるとやっぱり面白くない。
京太郎にとっては論外かもしれないけれど、私としてはそれなりに勇気を振り絞ったんだから。
…そもそも京太郎が何でもするなんて言わなかったら私だって、こんな事言わなかったのに…。
それを一蹴するなんてちょっと男らしくないと思う。

春「…何でも良いって言ったのに」ポソ

京太郎「うぐ」

春「…シたいこと叶えてくれるって言ったのに…」ポソリ

京太郎「う…うぅ…」

…そこを責めるだけで京太郎は苦しそうな顔をする。
今にも裁判で逆転されそうな検事を彷彿とさせるその表情に心の中の溜飲も下がった。
発端は私の失敗だったのだし、そろそろ京太郎を責めるのは辞めてあげよう。
…そもそも私は京太郎に女子力アピールしたいのだし、こんな風にいじけている暇はない。

春「でも、仕方な…」

京太郎「分かった」

春「…え?」

京太郎「…そこまで言うなら、しっかり冷ましてやろうじゃないか」

…………え?
京太郎…本気?
そりゃ私は嬉しいけれど…でも、本当に良いの…?

京太郎「…でも、恥ずかしいから目を閉じてくれないか?」

春「…うん」

…あぁ、でも…本気なんだ。
京太郎、わざわざ私の隣までやってきて…目を閉じろって言ってる…。
本当に…私にキスしてくれる…の?
…嬉しい…本当に…嬉しい…っ♥

京太郎「じゃあ…そのままちょっと舌を出して…」

春「…ひゅん…」

…でも、恥ずかしながら私にキスの経験なんてない。
作法やセオリーを何一つとして知らない私には京太郎の言葉に従うしかなかった。
…これがクラスメイトが良く呼んでた女の子向けの雑誌とか読んでいたらまた違ったのかもしれないけれど。
自分には恋愛なんて無縁だと決めつけないで少しは呼んでおけばよかったと今更ながらに少し後悔した。

京太郎「ほら、行くぞ」サラサラ

春「ん…ぅ♪」

…あぁ…♪今、甘いのが舌にふわって掛かって…♥
これ…黒糖の味…。
きっとさっき飲んだ分が京太郎の舌に残っているんだと思う…♪
…良かった、私もさっきキスする前にお茶を飲んでおいて…。
京太郎でもこんなに黒糖の味がしっかりするんなら…私も同じくらい黒糖の味になっているはず…。
少なくとも…変な味には…なってないと思う…。

春「(…あれ?)」

……でも、これ、何か粉っぽいような…?
黒糖の味がするって言うか…黒糖そのもの…?
いや…まさか、そんなことはないはず。
私はちゃんと京太郎とキスしてる…してるはず。
でも、ちょっと不安だから…少しだけ目を開けて… ――

春「…」スッ

京太郎「あ、まだ目をあけちゃダメだぞ」

春「………・・…京太郎、何してるの?」

京太郎「何って…春の口の中を冷まそうとしてる」

…うん、それは私にも分かってる。
さっき京太郎が宣言した事を忘れるくらい私も馬鹿じゃない。
けれど、彼の顔は私が期待したようにすぐ目の前にはなかった。
京太郎は今、私から少し離れた位置で、お茶に入れる用の黒糖をスプーンで掬っている真っ最中だったのだから。

春「…なんで黒糖?」

京太郎「知らないのか?口の中を火傷した時には砂糖が効くんだぞ」

…京太郎の言う通り、確かに口の中のヒリヒリとした感覚はもう大分、薄れていた。
私の知らなかった黒糖の効果に驚きがまったくないと言えば嘘になる。
正直、彼の豆知識に感嘆している私がいるのも事実。
だけど… ――

春「…私が聞きたいのはそれじゃない」

京太郎「あー…いや、だってさ…」

春「…さっきするって言ったのに」

京太郎「さ、冷ますって言っただけだから」

春「…屁理屈」

京太郎「う…」

…確かに思い返すと彼はキスするなんて言っていない。
あくまでも私の舌を冷ますとそう言っただけ。
だけど、私はそれに期待していたし…そして彼もそうやって私に期待させるようにわざと目を瞑らせたりした。
そうやって私の事を癒やそうとしてくれたのは嬉しいけれど…さりとてその非道は決して忘れられるものじゃない。

春「これは今度こそお詫びとしてキスしてもらわなきゃいけない」

京太郎「か、勘弁してくれよ…」

春「…京太郎は私とじゃキス出来ない?」

京太郎「で、出来ないって言うか…俺、他に恋人がいるしさ…」

……そんな事私だって分かってる。
彼が既に両手に花どころの状態ではない事なんて…迷宮に潜る前から知っていた。
だけど、それでも…私は今、彼にキスして欲しかった。
私の気持ちを汲み取って、むさぼるようなキスで…初めてを奪って欲しかったのに。

春「(…ここで好きだって言えば…して貰える…?)」

…かもしれない。
だけど、流石にここでハッキリと好きだと言えるほどの強情さは私にはなかった。
だって、彼は今、間違いなく悩み事を抱えているのだから。
そんな状況で私も彼が好きだと気持ちをぶつけては、京太郎の悩み事を増やしてしまうだけ。
その気持ちが解決するまではハッキリと好きだとは言わず、自分の事を売り込むのを専念した方が良い。

春「…じゃあ、京太郎にとって…私は魅力的?」

京太郎「まぁ…そうだな。魅力的だよ」

春「…もっと正直に」

京太郎「う…可愛いって思ってる」

春「もっと」

京太郎「む、胸とか大きくて良いなぁって…」

春「…もっと言って」

京太郎「さっきだってちょっと役得だって思いましたぁっ!!」

春「…」カァ

しかし、そう分かっていても、溜飲の下がりきらない私の言葉に京太郎は正直な言葉をくれる。
本来ならば胸の内に秘めて決して表には出さないであろうそれに私の顔が微かに朱色を差した。
何だかんだ言って私の事を意識してくれている彼に心臓がトクンと甘く脈打つのが分かる。
彼に出会うまでまったく知らなかった自分のその反応に、少しだけ彼のことを許しても良いような気がしてきた。

春「…そういえばさっきの知識は一体、何処から…?」

京太郎「あぁ、昔、火傷した時に久に教えてもらったんだよ」

春「……」ピクッ

…そんな気持ちが一瞬で吹き飛ぶのは彼の口から私以外の女の人の名前が出てきたからだろう。
竹井久。
あのインターハイで私と戦った清澄の部長であり、私達の中で一番、彼との付き合いが長い人。
京太郎の恋人である人たちの中でも、他とは少し違う立ち位置の彼女に、私は決して悪い印象を抱いてはいない。
寧ろ、私の大好きな黒糖を褒めてくれた珍しい人だとそう記憶している。

春「(…でも、それとこれとは話が別)」

彼にとってはこれはただの友人との会話なのかもしれない。
けれど、私にとって今の時間は、『大好きで仕方がない人との二人っきりでの語らい』なのだ。
その最中に自分以外の女の人に入り込まれるのを歓迎出来るはずがない。
例え彼女が嫌いでなくても、そして彼にとって彼女が恋人であったとしても。
今この瞬間だけでも自分だけを見て欲しい私にとって、それは再び不機嫌になるには十分過ぎるものだった。

春「…」スクッ

京太郎「あれ?春?」

春「………」ススス ストン

無言でテーブルを挟んで向かい合う形から京太郎の隣に座り直した私に京太郎が疑問の声を向ける。
けれど、今の私にはそれに応えてあげられれるほどの優しさはなかった。
あるのはただデリカシーのない京太郎への拗ねるような気持ちだけ。

春「…して」

京太郎「え?」

春「もっとさっきのして」ゴゴ

京太郎「え、えっと…普通に黒糖食べていれば…」

春「…京太郎にして欲しい」

春「…良いよね?」

京太郎「…はい」

多分、京太郎にも私に悪い事をしたという気持ちはあるのだろう。
静かに問い詰めるような私の声に彼は否定を挟まなかった。
逆に小さく肩を落として諦めるような反応を見せた京太郎はそのままスプーンを手に取る。

春「ダメ」

京太郎「え?」

春「…京太郎の手で直接塗りこんで」

京太郎「い、いや…塗りこむって…」

春「…スプーンで載せるよりはそっちの方が確実」

京太郎「それはそうかもしれないけど…」

春「…してくれるよね?」

京太郎「あー………分かった」

春「…ん」

よし、押し切った。
流石にちょっと自分でもムリがある論理だと思っていたけれど…。
今回ばかりは京太郎がヘタレで助かった。
…まぁ、それ以上に京太郎がヘタレで困っている事が多いからプラマイ0には程遠い訳だけれど。

京太郎「じゃあ、行くぞ」サラサラ

春「うん…ひて」スッ

…そのまま京太郎の手で私の舌に黒糖が塗られていく。
サラサラとした細かい粒を硬くて骨ばった指に刷り込まれるのは普通に食べるのとはちょっと違う。
正確に言えば、これは食べているのではなく治療の為。
もっと言えば…京太郎の仕返しする為なのだから違って当然なのだけれど。

春「(…でも、違うのはそれだけじゃない)」

こうして私の舌に黒糖を塗りこんでいるのが大好きな人のものだからだろう。
不格好にならない程度に突き出した私の舌には黒糖以外の味も伝わってきていた。
少ししょっぱいそれは、黒糖の甘さをより引き立て、私の味覚を強く刺激する。
まるでスイカに塩を掛けたら甘くなるような感覚に私は驚きを感じながらもズブズブとのめり込んでいった。

春「は…ちゅぅ…♥」

京太郎「ぅ…」

そんな私の舌はいつの間にか小さく動くようになっていた。
チュルチュルと舌で彼の指をしゃぶるようなそれに目の前の京太郎から小さく声があがる。
くすぐったそうな、それでいて、心地よさそうなその声は私の胸をキュンと疼かせた。
彼に対しての仕返しがしたかった私がそれを見逃すはずがなく、より彼を辱めようと舌を指に密着させる。

春「(あぁ…♪これ…美味しい…♥)」

既に京太郎の舌に黒糖の味は殆ど残っていない。
けれど、彼の身体に残ったかすかな塩気だけでも私の身体は喜んでいた。
まるで京太郎の一部を舐めているというだけでも幸せだと言うように身体の芯が熱くなってくる。
太陽の日差しから受けるポカポカとしたものよりも、より心地よく、そして暖かな感覚。
それが興奮だと自覚した頃には私はもう物足りなくなり始めていた。

京太郎「は…春…?」

春「ふぁ…ぁ♪もっとぉ…♥」

京太郎「え…?」

春「もっと…黒糖欲しい…♪」

京太郎「あ…う、うん…」

勿論、京太郎の指だけでも十分、美味しい。
けれど、私を夢中にしていたのはその塩味だけではないのだ。
黒糖の甘さと重なったあの瞬間の味こそが、私を虜にしていたもの。
それが欲しいと訴える私に彼も応え、再び指に黒糖を載せてくれる。

春「…はむっ♪」

京太郎「ぅあ…」

そんな京太郎の指に私は瞬時に食いついてしまう。
まるで我慢出来ない子どものようなはしたない自分を、けれど、理性は止める事は出来なかった。
寧ろ、これがもっと欲しいのだと訴えるように舌が這いまわり、口全体が京太郎の指へとしゃぶりつく。
最早、舐めるとも言えないその行為に、私の中の興奮は少しずつ色を変え、ジリジリと炙るような熱へと変わっていった。

春「ん…っ♪んんっ♥」

春「はみゅ…♪ちゅるぅ…♪♪」

その熱を発散しようとするように私の口はより熱心に京太郎の指へとしゃぶりつく。
頬の粘膜で根本をしゃぶり、指の根本までズリズリと舌で舐め洗った。
勿論、ツメの部分だって忘れてはいない。
先端の敏感な部分は私の舌が這い回る度に逃げるように動くが、私がそれを逃すはずがなかった。
唇をすぼめるようにして指を閉じ込めながら、彼の人差し指全てを味わい続ける。

春「ぷぁあ…♥」

彼の指をようやく離した時にはもう彼の指はグチョグチョになっていた。
その関節部分からドロリと透明な液体が垂れるほどネットリとした光景に私の頬は緩んでしまう。
何せ、そうやって彼の指を穢しているのは他でもない私の体液なのだから。
辻垣内さんでも福路さんでも竹井さんでもない。
滝見春が…こうして彼の身体に自分の残滓を残したのだ。

春「(…これ…良い…かも…♪)」

ただ彼の指を黒糖と一緒に舐めるだけでも幸せだった。
けれど、その幸せは、どうやら一挙両得のようなものだったらしい。
こうして彼の指がグチョグチョになっている光景を見ると背筋がゾクゾクするのが分かる。
微かに危ない響きを伴った寒気のような快感。
それをダメだと拒絶出来るほどの理性はもう私の中には残っていなかった。

春「はぅ…♪ふぁ…♥」ポォ

京太郎「えっと…は、春?」

春「……ん…♥」スッ

京太郎「ぅ…」

そのまま勢いにまかせて私は京太郎へと身体を傾ける。
スッと堕ちるような私を、彼はしっかりと抱きとめてくれた。
力強くも温かいその感覚に私の幸福感はさらに強くなっていく。

春「(…これも…素敵…♥)」

京太郎の熱い胸板を間近に見ながら、彼に抱きとめてもらいながら、彼の優しい体臭を感じながら、彼の鼓動を聞きながら。
そんな風に五感の殆どで愛しい人を感じる幸福感は素晴らしいと言う他なかった。
この上、味覚まで満たされてしまったら、どうなってしまうんだろうと…そんな事を思ってしまうくらいに。
勿論、そんな幸せなんて今まで一度も味わった事がない私にはその幸福感を拒めるはずがない。
新しい自分と感覚を発見した喜びと共に彼の胸板に顔を埋め、自分の全てを京太郎で埋め尽くそうとしていた。

春「ん…ぅ…♪」スリスリ

京太郎「あー…」

そんな私を京太郎は拒まない。
何処か気まずそうな声をあげながらも、私が落ちないようにしっかりと抱きとめ続けてくれる。
恋人がいる身の上にも関わらず、止めろと彼が言わないのは以前した約束の為か。
それとも私の事を好ましく思ってくれているのか。
…後者であればこの幸せはもっと強くなるのだけれど。

春「(……どう…なんだろう?)」

…聞いてみたい気もするし、聞いたらダメな気もする。
自分の望む答えが返ってくるような気もするし、完全にフラれてしまいそうな気もする。
この幸せがもっと強くなるような気もするし、水を差されてしまうような気もする。
…結局のところ、今の私はそれを尋ねる事を迷っていて…それで… ――