―― 世の中には得手不得手ってものがあると思う。

どれだけ能力的に優れた人であっても、やっぱり向いている事と向いていない事と言うのはあるのだ。
天は二物どころか三物与えたりする事もあるが、けれど、人間である以上、万能にも全能にもなれない。
だから、人はそれを反復する事によって向いていない事を少しずつ自分に馴染ませていく。

淡「あわぁ…」

京太郎「…だから、ちゃんと報告書書けよ、大星」

淡「や、やってるもん」スネー

そう言って大星さんは頬を膨らませる。
ぷくーとばかりに膨れるその姿はまるで子ども…と言うか子どもそのものだ。
元々、顔立ちが少し幼いのもあって、到底、高校1年生には見えない。
いや、本人が言うには100年生なんだっけ?
…なんか余計に子どもっぽい、と言うか馬鹿っぽくなったな。

京太郎「でも、さっきから手ぇ止まってるぞ?」

淡「う…だ、だってぇ…」

京太郎「……仕方ない。一回、休憩すっか」

淡「ホント!?」

無理に書かせても投げやりになっていくだけだろうしなぁ。
それじゃあ大星さんが【報告書を書く】と言う事に慣れる事が出来ない。
さっき休憩を入れたばっかりだが、もう一回、休憩を入れて気持ちをリフレッシュさせてやろう。
そう思った俺は椅子から立ち上がり、備え付けのキッチンの方へと歩いて行く。

淡「あ、私、クッキーの気分だから」

京太郎「だからってなんだ、だからって」

淡「お菓子はクッキーにして」ニコ

京太郎「断る」

淡「ええええええっ!」

京太郎「そんなにクッキー食べたかったら自分で買いに行って来い」

京太郎「つーか、さっきのでうちのクッキーの在庫切れたし、食べたくなくても買ってこい」

普段は美穂子が補充してくれてるんだが、大星さんがさっきから遠慮なしに喰うからなぁ。
頭を使うのには糖分が必要だ、なんて言うのは分かるけど、流石にちょっと食べ過ぎじゃないだろうか。
そんなに食べると晩飯が入らなくなるぞ、とも思うくらいだ。
お陰でクッキーだけじゃなく、その他の在庫も結構やばくなっている。
基本、うちはそれほどバクバクお菓子を食べる訳じゃないけど、それでも一日にお茶会くらいはする訳だし。
後で美穂子に作ってもらうか、買いに行くかしないとなぁ…。

淡「ぶーぶー。おうぼうだーしょっけんらんよーだー」

京太郎「大星の癖に職権乱用なんて難しい言葉知ってるとか偉いな」

淡「えへへ」テレテレ

淡「…ってあれ?これって褒められてる???」

京太郎「あーうん。褒めてる褒めてる」

淡「そっかー。ふふーん」ドヤァ

大星さんの疑問になげやりに答える俺にドヤ顔している気配が伝わってくる。
冷静に考えれば下に見られているっていうのは丸わかりだと思うんだけど、褒められたってだけで大星さんはドヤ顔出来るらしい。
色々あって歪んだりはしたけれど、やっぱり彼女は根が素直で良い子なんだろう。
まぁ、その分、こうして遊びたくなってしまう訳だけれど。
そんな言い訳めいた言葉を胸に浮かばせながら、俺は幾つかのお菓子を持って、彼女のところに戻った。

京太郎「だけど、こういうのは職権乱用じゃなくて当然の償いって言うんだよ」ガシッ

淡「わわわわわっ!!!」

京太郎「オシオキだ。喰らえ」ワシャワシャ

淡「あわああああっ!?」

その途中、後ろから大星さんの頭を片手で掴む。
そのままワシャワシャと撫でる手に大星さんが悲鳴のような声をあげた。
まぁ、いきなり髪をクシャクシャされているのだし、それも当然だろう。
ましてや大星さんはかなりのロングヘアーだから乱れたら直すのも大変なのである。

淡「何すんの!髪が乱れるじゃん!!」

京太郎「大丈夫だって。どうせ俺と大星さんしかいないし」

淡「あ、あわっ」ドキーン

京太郎「…ん?」

あれ?なんで大星さん、顔真っ赤になってるんだ?
いや、まぁ、男と部屋で二人っきりなんて確かに緊張するだろうけれど。
でも、こうして報告書書くの手伝えってやってきたのは大星さんの方なんだけどなぁ。
その時、二人っきりだけど良いかって了承は取ったけど…やっぱり初心なのかな。
とりあえずこういう話題はあんまりフラない方が良さそうだ。

淡「うー…」モジ

京太郎「あー…その、とりあえずお菓子食えよ、お菓子」

淡「…お菓子で騙されるようなおこちゃまだと思ってるの?」ジィ

京太郎「おこちゃまだろ」

淡「む、むかあー」スッ

怒りを表現するようにそう言いながら大星さんはお菓子に手を伸ばした。
その姿はどう考えてもお菓子で騙されているようにしか見えない。
実際、お菓子の包装をあけていくその手はウキウキと嬉しそうにしてるし。
その顔も少しずつ怒りから笑みに変わっていくのを見れば、騙されているとは到底、思えない。

淡「んふふふー♪」モグモグ

京太郎「上手いか?」

淡「うん。やっぱ美穂子さんのお菓子は最高っ」ニコー

京太郎「まぁ、うん。それには同意するけどさ」

京太郎「もしかしてそれが目当てで来たんじゃないだろうな…?」

淡「うっ」

京太郎「おい」

そこで言葉を詰まらせるのか。
いや、まぁ、確かに美穂子がわざわざ開いた時間に皆のために作ってくれるお菓子は最高の出来だ。
最近はまだ開いている洋菓子店なんかに修行に出ているし、美味しくなる一方である。
けれど、だからってそれを目当てで部屋に来た、となると突っ込まざるを得ない。
俺も最初は報告書の書き方が分からなくて大変だったよなぁ、と同情して招き入れたのだから尚の事。

淡「ち、違うよ。ちゃんと報告書の書き方を教えてもらうと思ってきたよ…?」メソラシ

京太郎「こっち見てから言えよ、大星」

淡「細かいところ気にする男はモテないよっ」

京太郎「大丈夫だ。もう十分すぎるほどモテてる」

淡「うっ…た、確かにそうだった…」

何せ、今の時点でも恋人が四人いる訳だからなぁ。
しかも、全員がそれを認識し、ハーレムを許してくれているのである。
正直、我が世の春、と気軽に言う事すらはばかられるような状況なのだ。

淡「こ、この女の敵…っ!」

京太郎「安心しろ、自覚はある」

淡「ひ、開き直ってる!?」

京太郎「仕方ないだろ、やった事はもう取り消せないんだから」

京太郎「それにウジウジ悩む時期はもうとっくに過ぎてるしな」

京太郎「俺に出来るのは皆を出来るだけ幸せにしてやる事だよ」

きっと俺がここでする最善は、恋人たちの中から一人を選ぶ事なのだろう。
けれど、少し自意識過剰な事を言わせて貰えれば、彼女たちはもう俺抜きでは生きていけないくらいに依存してしまっている。
俺自身、彼女たちがいない生活というのを考えられないくらいだ。
ならば、俺に出来る事は出来もしない最善を目指す事ではなく、次善 ―― 俺の側で彼女たちを幸せにする方法を探す事だろう。
既にその為の覚悟を固めた俺にとって、それは今更、悩むような事ではなかった。

淡「……」

京太郎「どうした?」

淡「あ、いや…その…」

淡「…今は誰もいないし…一つ聞いても良い?」

京太郎「おう、何でもいいぞ」

男らしく、けれど、よくよく考えれば情けないセリフを吐く俺の前で大星さんの手が止まった。
そのままチラリと俺に視線を送る彼女の顔は真剣そうなものだった。
迷宮を歩いていた時と変わらないその表情は、きっと彼女なりに大事な事を聞こうとしているからなのだろう。
ならば、聞く側である俺はそれを全力で受け止めてあげなければいけない。

淡「…あ、あのさ、えっと…その……」モジモジ

京太郎「…ゆっくりでいいぞ。別に急いでいる訳じゃないし」

淡「う、うん…」

俺の言葉に大星さんはひとつ頷き、包装を開けかけた手を再び動かしていく。
ベリリと開けたその包装から彼女はそのままお菓子を運び、表情が和らがせる。
けれど、それも一瞬の事。
すぐに落ち着きのなさそうな表情に戻った彼女は俺へと視線を送り、ゆっくりとその口を開いた。

淡「…なんであんな事するの?」

京太郎「あんな事って?」

淡「え、えっと…だから、その…」モジ

淡「め、迷宮の中で…あ、憧としてた…ような奴…」マッカ

京太郎「…あれ?その辺、説明しなかったっけ?」

淡「ま、魔力を回復させる為に必要だって言うのは聞いたよ?」

淡「で、でも…あ、あそこまでする必要ないと思う…」

淡「人前であ、あんな顔させられちゃって…お、オシッコまで…」

淡「最後には足広げて気絶までしちゃって…服も色んな液でベトベトになってたし…」

京太郎「あー…えーっと…」

…これどう言えば良いんだろうなぁ。
実際はお互いあそこまでやらなきゃ満足出来ないんだけど。
しかし、その辺はまだ魔物になりきっていない大星さんには分からない事なのだろう。
まだ人間の価値観を多く残している彼女にとって、気絶するまで犯し抜かれた憧は酷い事されたようにしか思えないんだ。
そんな彼女に魔物である俺達の認識を伝えても、ちゃんと納得してくれるかどうか。

京太郎「まぁ、その…なんて言うか…そういうもんなんだよ」

淡「そういうモノって…?」

京太郎「えーっと…つまりだな」

京太郎「憧とそういう事してる間に…それが普通になったって言うか…」

京太郎「寧ろ、若干、手加減したと言うか…」

淡「あ、アレで手加減してるの!?」ビックリ

まぁ、この部屋のベッドの上だと憧が気絶してもそのまま責め抜いて、絶頂で叩き起こす事だってしてる訳だからなぁ。
実際、少なくとも射精数回くらいじゃ俺はまだまだ満足出来ないし、それをしようっていう気持ちがない訳じゃなかった。
とは言え、迷宮の中であんまり淫蕩に耽るのも危険だし、何より智葉たちの方も本格的に発情してしまう。
だが、それは流石にリスクが大きすぎる。
そう判断した俺は若干、不完全燃焼の状態で憧とのセックスもとい魔力供給を切り上げたのである。

京太郎「まぁ、何にせよ、大星さんからしたら不愉快だよな、悪い」ペコ

淡「べ、別に不愉快って訳じゃないけど…ただ…その…」

勿論、その件については既に謝罪している。
憧との魔力供給が終わった後、呆然としていた彼女に既に頭を下げているんだ。
けれど、ここで改めてそれを言い出した、と言う事はきっとまだ納得しきれた訳ではないのだろう。
それに対して謝罪し直す俺の前で、大星さんが何とも歯切れの悪い声を返した。

淡「…私にも…するの?」

京太郎「え?」

淡「だ、だから…私にも…憧にしてたみたいに…グチョグチョに…するの…?」カァァ

あー…そう来たかー…。
確かにアレは魔力供給が目的だって説明しているもんな。
自然、迷宮探索に付き合っている自分も、何時かそれをされるのではないかと思って当然だろう。
とは言え、大星さんには俺への好意はなく、異性として好きな相手に無理矢理、抱かれるのではないかと不安に思っているんだ。
そんな彼女に俺はなんと言葉を返せば良いんだろうか。

京太郎「する…かも」

淡「~~っ!」プシュウ

京太郎「あ、いや、その…なんつーか…」

京太郎「…しないって言い切れる自信はちょっとない…だけで」

京太郎「ぜ、絶対にやるって訳じゃないしっ!そ、そもそも俺、合意なしでそういう事やった事はないし!!」

京太郎「だから、その、心配しないで欲しいって言うか…」

あー…もう。
俺、何言ってるんだろ。
でも、ここで「絶対にしない」なんて言い切るのも嘘っぽいし…「する」なんて言い切ったら、絶対に警戒されてしまう。
ここはちょっと情けなくてもどっちつかずの返答が一番なはず…!!

淡「そ、それって…さ」モジ

京太郎「お、おう…」

淡「私の事…す、好きだからするかもしれないの…?」

淡「そ、それとも…迷宮で生き残るのに必要だからするだけ…?」

京太郎「う…」

つ、突っ込んでくるなぁ。
いや、まぁ、その辺は女の子としては確かに大事な事なんだろうけれども!
だけど…これ、どう応えれば良いんだ…!?
好きだと言えば意識されるかもしれないし…迷宮で生き残る為なんていうのは流石に失礼すぎるし…!!

京太郎「あー…えっと…その…さ」

淡「う、う…ん」モジ

京太郎「…お、大星さん、可愛いしさ」

淡「……ぇ?」

京太郎「だーっ!チクショウ!可愛いんだよ!大星さん!!」

京太郎「生意気なのに変なところで素直だから可愛くてしかたがないんだよ!!」

京太郎「小学生の男が気になる女の子にちょっかいかける心理なんだよっ!分かるか!?」

淡「え、えぇぇ!?」

京太郎「だ、だから、その…そういう事なんだよ」

淡「そ、そういう事って…?」

京太郎「…もう勘弁してくれ」

恋人が四人いるって言っても、別にそういう事に対して百戦錬磨な訳じゃないんだ。
こうやって彼女に対して思っている事を素直に口にするだけでも恥ずかしくって仕方がない。
その上、コレ以上突っ込んでこられたら、顔が赤くなって、大星さんの顔すら余計に見れなくなってしまう。
正直、天井を仰ぎ見て、そのまま両手で顔を隠したいくらいだ。

淡「だ、だって、それだけじゃ分かんないし…」

京太郎「察しろ、馬鹿」

淡「ば、馬鹿じゃないもん!」

京太郎「じゃあ、察してください、お馬鹿様」

淡「ふふーん。…ってあれ?結局、バカ扱いじゃんっ!」

京太郎「そうだぞ、馬鹿」

淡「もぉおおおお!!!」

大星さんが怒ったような声をあげたいけど、そうしたいのはこっちの方だ。
なんで、俺はあんな話題からいきなりこんな羞恥プレイを喰らわなきゃいけないのか。
とは言え、適当にごまかすには大星さんの雰囲気は真剣そのものだったし…そもそもこれから迷宮で一緒にやっていく相手に誤魔化すなんて不誠実だし。
結局、本心を口にするしかなかった俺の気持ちを察して欲しい、ホント、色々な意味で。

淡「…淡っ!」

京太郎「え?」

淡「…いい加減、淡って呼んでよ」プイッ

淡「何時迄も大星さんとか大星とかさ」

淡「他人行儀すぎるの好きじゃないの」

京太郎「あー…」

確かに迷宮でやっていくのに何時迄も大星さん呼ばわりじゃダメだよなぁ。
もう本採用って事で通知もしてた訳だし、そろそろ下の名前で呼んでも良い時期なのかもしれない。
まぁ、正直、ここで大星呼びを貫くのも色々と面白そうだという気持ちがない訳じゃないが、流石にそれはいじりすぎだ。
折角、彼女がこうやって自分のほうから歩み寄ってくれているんだから、その気持ちには応えよう。

京太郎「…淡」

淡「えへへ。キョータロー」ニコー

京太郎「……」

淡「あれ?どうかした?」

京太郎「いや、ちょっとクラリと来た自分に自己嫌悪を感じた」

淡「…え?」キョトン

なんでそこで満面の笑みを浮かべるかなぁ…。
元々、淡が子どもっぽいタイプで感情をストレートに出してくるって分かっている俺でさえ一瞬、クラリと来てしまった。
流石にそれだけで好きになるほどチョロくはないが、けれど、魅力的だとそう思ったのは事実な訳で。
なんだかすっげー負けた気がする…。

京太郎「まぁ、何はともあれ…そろそろ休憩も終わりな」

淡「えーっ」

京太郎「えーじゃねぇよ。もう十分休んだだろ」

淡「ぶーぶー」

京太郎「言い方変えてもダメだっつの」ペシッ

淡「いたっ」

ちょっと強引だけど、この流れを続けるのはちょっとやばい。
いや、別にやばくはないんだけど、何時もの俺達の路線とは少し違うって言うか。
今の路線のまま行くとマジで間違いが起こりそうで怖い。

淡「まったく…キョータローの愛情表現はホント歪んでるよね」ヤレヤレ

淡「そんなんじゃ淡ちゃんの心を射止めるのは100年先になるよ?」

京太郎「いや、別に淡の心を射止めたい訳じゃないし」

淡「え?でも、さっき告白したんじゃ…」

京太郎「あくまで可愛いって言っただけで、好きなんて一言も言ってねぇぞ」

淡「え?あ…う…」カァァ

京太郎「…あれ?もしかして淡…」

淡「う…うぅ…あ、淡って言うなああああ!!」

淡「わ、私のドキドキした乙女心を返せ!」ポカポカ

京太郎「無茶言うな!!」

…それにまぁ、何だかんだ言ってこういう路線の方が俺達には合っている気がする。
お互い馬鹿やってドタバタしてさ。
まぁ…その内容は今までとはちょっと変わった気がするけれど…。
殴りかかってくる淡の手を受けながら、こういうのも悪くないと、そんな風に思ったのだった。



System
前回のボーナスにより上昇幅が二倍になり、大星淡の好感度が60になりました → <<わ、私だけドキドキしてたとかふこーへーじゃん!!>>

好感度が60になった事により、進化条件が全て開示されます
進化条件 → 大星淡が戦闘不能になった後、コミュを行う




―― 淡をからかっているのは本当に楽しい。

…が、楽しすぎて、そっちにかまけすぎる場合が少なからずあるんだよなぁ。
さっきだって適当に淡をからかってたら結局、買い出しに行かせるの忘れてしまった。
今からでも奴の部屋を訪ねて、無理矢理、店に行かせるのも考えたけど、流石にそれはちょっとみみっちい気がするし。
何より、何だかんだ言いながらも不慣れな報告書を書き上げた淡を、コレ以上働かせるのは少しだけだが気が引ける。

―― 美穂子に言えばきっとすぐさま買いに行ってくれるんだろうけどさ。

美穂子は俺に頼られる事が嬉しくてたまらないとそう公言してはばからないタイプなのだから。
実際、奉仕が生きがいだとそう言わんばかりの彼女は俺の言葉に喜んで従ってくれるだろう。
ただ、俺自身がそうやって何もかもを美穂子にやらせるのはどうしても気がひけるというか。
きっと喜ぶと分かっていても、あんまり任せすぎるのはちょっとなぁ、とどうしても思ってしまうのである。

京太郎「(まぁ、それに美穂子もまだ帰ってきていないし)」

多分、色々と買い出しにでも行っているのだろう。
普段ならそろそろ帰ってくる時間になっても皆は未だ部屋に帰ってきていなかった。
そんな恋人たちを待つのも良いが、あんまりダラダラとしすぎるのは好きじゃないし。
久しぶりに買い出しにでも行ってみよう。

京太郎「ん?」

春「……」

そんな俺の目に止まったのは寂しげに佇む春の姿だった。
ロビーの椅子にポツンと座る彼女の表情はあまり宜しくはない。
物憂げなその表情はあまり感情を表に出さない彼女にしては珍しいくらいにはっきりとしている。

京太郎「よう、春。どうかしたのか?」

春「あ…」

余命宣告でも受けたのかと思ってしまうくらいに深刻な春に俺は声をかけながら近づいていく。
そんな俺に反応して顔をあげた彼女はその表情に安堵のようなものが混じらせた。
それが春から俺に対する信頼の証であるのか、はたまた、何か会いたくない人がいるのかは分からない。
けれど、今の反応だけでも春に何かあったのは確実なのだ。
彼女の力になると言った俺に、それを見過ごす事は出来ない。

春「…須賀くん」

京太郎「俺でよければ力になるぞ?」

そう言って返事も待たずに、春の前へと座った。
少し強引ではあるが、彼女の場合は致し方ない。
何せ、春は人を頼るのが苦手であり、不慣れなタイプなのだから。
悩みを人に漏らす事さえしてこなかったであろう彼女に対しては多少、強引にいった方が良い。

春「…良いの?」

京太郎「あぁ。会った時にも言っただろ?」

京太郎「俺は春に頼られたいんだってさ」

京太郎「大変なのはもう顔に出てるし、寧ろ、頼って欲しいってのが本音」

春「…………顔に出てる?」

京太郎「おう。遠くから見て一目で分かるくらいにな」

春「…そう」

そこで春は少しだけ俺から視線を外した。
プイと逃げるようなそれは、申し訳無さそうものになっている。
きっと彼女は俺に要らぬ心配を掛けたとか、そんな風に思っているのだろう。
余裕がない所為か、はっきりと伝わってくる心の動きに俺は先んじて口を開いた。

春「ごめ」

京太郎「謝るのはなしな」

春「…え?」

京太郎「心配掛けたとか迷惑掛けたとか、そういうのを気に病まなくて良いって事」

京太郎「俺だって下心がない訳じゃないしさ」

春「…下心?」

京太郎「あぁ。春ともっと仲良くなって、頼ってもらえるようになりたいっていう下心がさ」

京太郎「そのチャンスと見てホイホイ近づいてきた奴に謝らなくても良いんだって」

京太郎「寧ろ、利用してやるってくらい図太く考えれば良いんだよ」

春「…それはちょっと難しいかも」

まぁ、春はそういう風に男を転がして楽しむようなタイプじゃないしなぁ。
俺だっていきなり春がそんな図太い性格になれるとは思っていない。
でも、流石に今のままの彼女で良いかって言うとちょっとな。
少しは他人に頼る事を覚えなければ、身寄りのない今の春では生きていけない。
流石に極端から極端が過ぎるけど、そうなれるように努力はしていた方が良いだろう。

春「…でも、気を遣ってくれてありがとう」

京太郎「おう。それで良いんだよ、それで」

春「…ん」

俺の言葉に春は小さく頷く。
その顔にさっきまで浮かんでいた表情が薄れていた。
俺の登場によって、彼女のその悩みは無表情という性質の奥に隠れる程度のものになったのだろう。
それだけでも俺が来た意味はあったけれど、でも、それだけじゃ何の解決にもなっていない。

京太郎「で、話は戻るけど、何かあったのか?」

春「…それが…」

俺の言葉に春の表情は再び暗く沈んでいく。
それに少しだけ胸も痛むが、さりとて、このままなあなあにはしてやれない。
何より、彼女自身も俺へとその悩みを打ち明けようとしてくれているのだ。
ここで俺に出来る事は彼女がどんな悩みを口にしても驚かず、的確にアドバイス出来るようシミュレーションしておく事だろう。

京太郎「(やっぱり周りとの認識差が原因なのかな…?)」

昔と比べて、今の日本の社会は別物と言っていいほど様変わりしている。
その中で、人間としての価値観を持ち続ける事がどれだけ辛い事か俺も良く分かっているのだ。
俺はもうそれを踏み越えてしまったどころか、その遥か先に進んでハーレムまで作ってしまったが、それでも彼女と周囲の橋渡しくらいにはなってやれる。
その他、家事や生活についても、これまでのノウハウがあるから対応出来るはずだ。

京太郎「(あるいは迷宮の中に囚われたままの神代さんたちが心配なのか…)」

彼女にとって神代さん達は友人と呼べるほど身近な存在ではなかった。
けれど、それでも春は心の中で仲良くなれるのを期待していたのだろう。
そんな相手がいまだ良く分からない迷宮の中に囚われているともなれば、心配になって当然だ。
それは俺達の攻略が遅い所為でもあるのだから、心が痛むが、それでも対応出来ない訳じゃない。
今、攻略中の迷宮は高鴨さんのものではあるが、これからも迷宮を攻略していけば、いずれはその心配もなくしてあげる事が出来るはずだ。

京太郎「(よし…バッチリだ。なんでも来い…!)」グッ

とりあえず深刻な悩みは大体、なんとかしてやれる方法がある。
それを確認した俺の前で春がゆっくりと顔をあげていった。
自然、俺へと交わされる視線には覚悟の色が強く浮かんでいる。
どうやら彼女は俺に話す覚悟を決めてくれたらしい。
それに俺も背筋を伸ばし、聞く姿勢を整えて… ――

春「…ないの」

京太郎「何がないんだ?」

春「…黒糖がないの」

京太郎「…こ、黒糖?」

春「…うん」シュン

………あー…うん、そっか、黒糖かー…。
いや、まぁ、確かにそれは大事だよな。
黒糖って美味しいし、確かになかったら困るし。
そりゃ今にも泣きそうなくらい辛い顔をして当然だよなー。

京太郎「(…な訳あるかよ…!!)」

いや、俺にだって分かってるよ!!
春にとってはそれだけ黒糖は大事なものなんだって迷宮でも見たからな!
母親との数少ない絆である黒糖は彼女にとって特別なものなんだって知ってるよ!!
でも、なんでこの流れで黒糖なんだよ!!
思いっきり拍子抜けだったわ!!!

春「…あの、須賀くん…?」

京太郎「あぁ、悪い」

…って脳内で突っ込んでる場合じゃないよな。
俺が勘違いするくらいこの悩みが春にとって重大なのは確かなのだから。
それに折角、力になると言ったのだから、これくらいは解決出来ないと格好が悪すぎる。

京太郎「(でも、黒糖かぁ…)」

霧がこの国を覆ってから物流が滞っている。
流石に生活必需品はどうにかなるが、嗜好品までは厳しいのが現状だ。
実際、お菓子一つとっても工場で生産された大量生産品ではなく、手作りのものへと移行していっている。
そんな今の社会で元々、あまりメジャーではない黒糖を見つけるのは至難の業だろう。

京太郎「んー…」

春「…やっぱり難しい?」

京太郎「…そうだな。少なくともこの近くでは見たことがないし…」

春「…うん。私も探したけど、何処にも置いていなかった…」

京太郎「そうだよなぁ…」

ここは東京で、黒糖の産地は沖縄や鹿児島などの南の方だ。
電車などは動いているから行くのは不可能ではないが、決して短いとそう言える距離ではない。
そんな遠方からわざわざ黒糖を出荷するような農家などいないだろう。
そもそも今の時代、恋人さえいればセックスし続けるだけで生きていけるのだから、サトウキビをちゃんと育てているかさえ怪しい。

京太郎「(…でも、春はこんなになるまで黒糖を欲しがっている訳で)」

諦めろ、と言うのは簡単だ。
けれど、彼女は中々、それが出来ないからこそこうして悩んでいるのだろう。
そんな春に俺が何を言ってあげれば良いのだろうか?

京太郎「通販サイトをチェックしてみたらどうだ?」

春「…通販?」

京太郎「あぁ。もしかしたらまだちゃんとサイトの管理をしているところもあるかもしれないしさ」

勿論、それは可能性だ。
今の世の中、多くの人の関心はセックスを中心としたものに移っているのだから。
頻繁に更新されるサイトは大抵、恋人たちのラブストーリーやエロ話を纏めたものばかりである。
そんなネットの中で未だ黒糖の通販をやっている場所があるかどうかは正直、自信がない。
だが、少なくともこのホテル周辺には黒糖はないのは確実なのだから、別の方向からのアプローチしかないだろう。

京太郎「それに下手に鹿児島まで行って、動いて何の成果も得られない…なんて事になると目も当てられないだろ」

京太郎「だから、とりあえず通販からアプローチして…ダメならまた次のアクションを決めた方が良いと思う」

春「…うん。そうする」コクン

とりあえずろくな事を言えない…なんて情けない事にはならなかったか。
頼ってもらえた気持ちに応えられるような立派な返答ではなかっただろうけれどなぁ…。
でも、流石に春と一緒に鹿児島まで行く…なんて気軽に言える訳ないし。
俺に出来る精一杯なんて、これくらいだろう。

京太郎「まぁ、俺もその辺、回る時にチェックしておくよ」

春「うん…」

俺は完全に迷宮探索以外ではインドア派になってしまっているが、それでも今みたいに買い出しに行く事はある訳だしなぁ。
そのついでに黒糖を探しておく、と言うのもひとつの手だろう。
まぁ、俺が行くような場所なんて既に春が回っているだろうけどさ。
しかし、何かの拍子で流通が復活するかもしれないし、美穂子にも頼んでおこう。

京太郎「そういや黒糖って何個くらい必要なんだ」

春「全部」

京太郎「え?」

春「…幾らあっても困らないからあるだけ確保しておいて欲しい」

京太郎「お、おう…」

…これってもしかして黒糖が母親との絆…とかそういうの関係なしにただ単に春が黒糖の事を好きなだけなんじゃ…。
いや、よそう、俺の勝手な予想で皆を混乱させたくはない。
それにまぁ、例え、理由がどうであれ、春が黒糖を欲しがっているのは事実だし。
もし、見かけたら出来るだけ確保しておいてあげよう。

春「…じゃあ、私、パソコン借りてくるから」

京太郎「あぁ。俺もちょっとお菓子買ってくるよ」

春「うん。今日はありがとう…」

京太郎「どういたしまして」

立ち上がる春の表情は相変わらず平坦なものに戻っていた。
少なくとも、さっきのように暗く沈み込んでいた様子はもう見えない。
きっと自分のやる事がひとつ見つかって、気持ちも紛れたのだろう。
それに安堵を浮かべながら俺もまたゆっくりと立ち上がった。

春「…じゃあ、京太郎、また」

京太郎「あぁ。またな」

そう言って小さく手を振る春に俺も手を振り返した。
それに一つ表情を和らげて彼女はその場を立ち去っていく。
その背中を軽く見送ってから俺もまた春に対して背を向けて、最初の目的である買い出しに戻ったのだった。



System
滝見春の好感度が25になりました → <<通販チェック頑張る…>>





京太郎「という訳で黒糖どうにかならないか?」

美穂子「んー…そうですね」

俺の言葉に美穂子はそっと小首を傾げながら、自分の顎に指先を置く。
そのままうーんと思案する美穂子の表情は真剣そのものである。
きっと俺の質問に彼女は出来るだけ色よい返事をしようと頑張ってくれているのだろう。
それは分かっているのだけれど、その一生懸命さが可愛らしいというか。
そのままベッドに運んでいきたいくらいである。

美穂子「……やっぱり難しいと思います」

京太郎「だよなぁ」

まぁ、そうだよな。
幾ら美穂子でも万能って言う訳ではないのだ。
黒糖の材料となるサトウキビもない状態で黒糖に似たようなものを作るなんて無茶だろう。
寧ろ、それが出来るなんて言われた方がびっくりする。

美穂子「申し訳ありません…折角、頼ってもらったのに…」シュン

京太郎「いや、気にしないでくれよ。元々、ダメ元だったんだからさ」ナデナデ

美穂子「…はい」ニコ

とは言え、美穂子にしてみれば、主人の要望に応えられなかった不手際にしか思えないのだろう。
その小柄な身体を縮こまらせるように申し訳なさそうにしていた。
そんな彼女を励ますように撫でれば、美穂子は嬉しそうに微笑んでくれる。
さっき浮かんでいた陰りのような表情が消え去った彼女に俺は内心、胸をなでおろした。
ダメで元々で聞いただけであって、俺には美穂子を責める意図なんてまったくなかったのだから。
これで押し込まれてしまうと俺の方が申し訳なくなってしまう。

久「どうせだし、ご主人様のチンポに砂糖まぶして、これが黒糖だーってやってみたら?」クス

京太郎「ただの変態じゃねぇかそれ…」

憧「いや、こんなハーレム作るような奴が変態じゃないはずないでしょ」

智葉「しかも、かなりのSだからな」

久「奴隷が二人、メイドが一人いる訳だしね」

京太郎「ぐふ」

い、いや、まぁ、確かにそれを言われると俺に立つ瀬がないんだけどさ。
実際、スイッチ入っている時の俺は結構、意地悪だと思うし。
少なくとも皆の指摘が間違っている訳じゃない。
うん、間違っている訳じゃないんだけど…ここまでフルボッコにされると流石に心に来るというか。
色々あってご主人様やってるけど、俺は決してメンタルが強い訳じゃないんだぞぅ?

美穂子「ふふ。大丈夫ですよ、ご主人様」

美穂子「皆さん、そんなご主人様の事を愛しているんですから」

美穂子「こうしてからかうのも愛情表現の一つですよ」ナデ

京太郎「うぅ…俺を慰めてくれるのは美穂子だけだよ…」ダキッ

美穂子「よしよし」ナデナデ

そんな俺にとって美穂子の慰めは心の糧と言っても良いものだった。
こうして撫でられるだけで胸の中が暖かくなっていくのを感じる。
その上、俺の顔にはむっちりとした大きなおっぱいがぎゅっと押し当てられてるんだからもうね。
否が応でも色々と元気になってしまう。

美穂子「…もう。ご主人様ったら」

美穂子「下の方、大きくなっちゃってますよ?」クス

京太郎「まぁ、そりゃ…美穂子を抱いてるとどうにもさ」

美穂子「じゃあ、夕飯前に少し処理しておきますか?」

京太郎「うーん…」

ここで首を縦に振って、セックスするのは悪くない。
と言うか、これだけ献身的な彼女に処理して貰えるって言う時点で天国のようだと言っても良い。
しかし、ここで始めてしまうと美穂子だけじゃなく他の皆も我慢出来なくなってしまうだろうしなぁ。
結果的に夕飯がズルズルと先延ばしになってしまうのは目に見えていた。

京太郎「いや、我慢するよ」

美穂子「宜しいのですか?」

京太郎「あぁ。折角、美穂子が買い出しに行ってくれたのに、今すぐはちょっとな」

京太郎「今は我慢して美穂子の美味しい料理を楽しませてもらってからにするよ」

美穂子「ご主人様…♥」パァ

きっと俺に褒められたのが嬉しかったのだろう。
俺の言葉に美穂子は嬉しそうに顔を輝かせた。
キラキラと言う表現が良く似合うその表情に俺もまた嬉しくなってしまう。
…うん、まぁ、嬉しくなりすぎて、ついつい、手が美穂子のお尻にいきそうになった訳だけれど。
こうして格好つけた以上、我慢しよう、我慢。

美穂子「では、精のつく料理を一杯、準備しなければいけませんね…♪」

京太郎「そんなに頑張らなくても良いんだぞ?」

美穂子「いいえ。ここは頑張らなきゃいけない日です」グッ

美穂子「だって、今日は記念日ですから」

京太郎「…記念日?」

記念日と美穂子は言うけど…今日って何かあったっけか?
そもそも俺と美穂子が再会してからまだ一年も経っていないのだ。
魔物になってからはセックスの比重が大きくなり、探索のスパンが長くなっているが、まだ半年ちょっとが過ぎたくらいである。
唯一、可能性があるとすれば美穂子と初めて会った日だけど…それはまだもうちょっと先だし
記念日と言えるような何かはまだ俺達にはないと思う。

美穂子「はい。ご主人様が私の料理を褒めてくれた記念日です」ニコ

京太郎「…いや、俺、前も褒めてなかったっけ?」

美穂子「勿論、前も記念日ですよ?」

美穂子「でも、記念日がひとつでなければいけないという決まりはありません」

美穂子「私にとってご主人様と一緒にいる日は何時だって記念日なんですよ」ニッコリ

ニコリと嬉しそうに笑う美穂子の顔には一点の曇もなかった。
恐らくその言葉は彼女にとって本心なのだろう。
心から毎日が記念日だとそう言い切る彼女の姿は正直、気恥ずかしい。
こうして色んな女性と身体を重ねるようになっても…いや、なってしまったからこそ。
倦怠期どころかより強く俺の事を想ってくれている彼女を直視出来ないのだ。

智葉「…たまに美穂子の愛が重すぎると思うのだが…」

憧「いや、それ智葉さんが言える事じゃないでしょ」

久「憧ちゃんも中々のモンだと思うわよ?」

憧「あ、あたしは別に重くなんてないし…と言うか、久さんにだけは言われたくない…っ!

久「え?なんで…?」

憧「だって、久さん、貢ぐ系女子だし…」

久「そ、そんな事言ったら皆だってご主人様の為に身体張ってるわけじゃない?」

智葉「確かにそうかもしれないが…でも、これは適材適所と言う奴だからなぁ…」

憧「自分じゃあんまり戦えないのに迷宮でお金稼いで来るなんて普通は出来ないと思う」

久「う…い、いや、でもね。ほ、ほら…アレよアレ」

憧「アレ?」

久「…私達をこんなに重い女にしたのはご主人様じゃない?」

智葉「あぁ、それは確かに」チラッ

憧「うん。それには異論はないわ」チララッ

久「悪い男よね、本当に」チラララッ

京太郎「う…」

な、なんだ、その目は…。
まるで重い女にした責任を取れ、と言わんばかりにこっちを見ている気がするんだけど…。
いや、まぁ、確かに原因が俺にあるのは確かだけど…ここで責任を取ろうとすると絶対にスキンシップじゃ済まないって言うか。
さっきから俺と抱き合っている美穂子を羨ましそうに見ているその目が少しずつ潤み始めているし…。
絶対に恋人同士の可愛らしい触れ合いで済ますつもりはないよな!?

京太郎「じゃ、じゃあ、ちょっと美穂子と一緒にデザートの一品でも作ってくるよ」

久「えー」

智葉「…そんな事よりも私達の側にいないか?」

憧「ち、ちょっとくらいなら変態なアンタにサービスしてあげても良いのよ?」

京太郎「それはほら、また後でな」

美穂子に対して、あんな風に格好つけた以上、ここで折れる訳にはいかない。
正直、凄い心惹かれるが…ここで誘惑に負けてしまうのはあまりにも格好が悪すぎるのだから。
智葉達には悪いが、せめて夕食後まで我慢してもらう事にしよう。

京太郎「じゃ、美穂子、行こうぜ」

美穂子「あ…っ♪」

智葉達から逃げるように俺は美穂子の身体を離して、その手を取った。
少しばかり強引なそれに美穂子が嬉しそうな声をあげるのが聞こえる。
きっとそれは智葉達ではなく、自分を選んでくれたと言う喜びからのものなのだろう。
手をとった瞬間の美穂子はメスではなく女としての歓喜に満たされていたのだか

―― バタン

京太郎「さて…と」

そんな美穂子と共に自室から出たものの、これからどうしようか。
正直、勢い任せでデザートを作るなんて言ってしまったけれど、材料があるのかどうかさえ分からない。
安さよりも美味しさを追求する美穂子は基本的に余分な材料をあまり買ってこないタイプだし。
下手をすればもう一回、買い出しに行く事になるかもしれない。

美穂子「あ、あの…ご主人様…?」オズオズ

京太郎「あぁ、ごめんな。勝手にデザート作るとか話進めちゃって」

美穂子「い、いえ、それは全然、構いません」

美穂子「むしろ、ご主人様の作ってくださるデザートがとても楽しみです」ニコ

京太郎「そっか。良かった」

まぁ、流石に美穂子の作るデザートには及ばないけどな。
ただ、その辺りの事を口にしても、美穂子が困るだけだろう。
それに彼女が食べたいのは『愛するご主人様の作ったデザート』であり『自分以上に美味しいデザート』ではないのだから。
俺がするべきはここで失望されない為の前振りをする事ではなく、美穂子の期待に応えられるようなデザートをどう準備するかを考える事だ。

美穂子「…でも、智葉さんや憧さんたちに誘ってもらっていたのに…私なんかを選んで本当に良かったのですか?」

…そこで智葉と憧の名前が出るのはきっと二人に対する劣等感があるからなのだろう。
以前も少し漏らしていたように美穂子は先に進化した二人に対して強い羨望を感じている。
それはこの前の会話で少しマシにはなったと思っていたけれど、やはり完全に消えた訳ではないのだろう。
その言葉ひとつにも自分は二人に対して劣っているのだと、そう思っているのが伝わってくる。

京太郎「…悪い訳なんかあるかよ」

京太郎「俺は皆のご主人様なんだぞ?」

京太郎「自分のやりたいようにやって何が悪いんだ」ギュッ

美穂子「…あ…」

そんな美穂子の劣等感をどうにかする事は出来ない。
智葉も憧も進化出来て未だ美穂子だけそれに至れていないというのは事実なのだから。
それが覆るまではきっと美穂子は何度となく二人と自分を比べる事だろう。
俺は彼女のご主人様ではあるが、その心を自由にする権利までは持っていない。
俺に出来るのはこうして美穂子が本心を漏らした時、そんな事はないよ、と言ってやる事だけだ。

京太郎「それとも美穂子は俺と一緒は嫌か?」

美穂子「い、いえ、私もご主人様と一緒にいたいです」フルフル

京太郎「じゃあ、そんな事気にしなくても良いんだよ」

京太郎「俺も美穂子と一緒にいたくて、美穂子も俺と一緒にいたい」

京太郎「それだけのシンプルな理由だけで十分だろ?」

美穂子「…は…ぃ」カァ

俺の言葉に美穂子は赤くなって俯く。
まるでゆでダコのようになった彼女は、モジモジとその身体を揺らした。
繋いだままの手からも彼女の体温が一気に跳ね上がった事が伝わってくる。
熱いと暖かいの中間くらいになったその手を、けれど、俺は離さない。

京太郎「…じゃ、あいつらが拗ねたりしない内に厨房行こうか」

美穂子「はい…♪」

代わりに一歩前に出た俺に美穂子は逆らわなかった。
先導する俺の一歩後ろにしっかりとついてくる。
それは俺と美穂子の歩幅が合わないから、ではない。
もう何度も共に迷宮を探索している俺達はお互いの歩幅を把握しているのだから。
それでも、美穂子の位置が変わらないのは、彼女がそこを自分の定位置だと考えているからなのだろう。
自身を俺の恋人ではなくメイドとして捉えている美穂子にとって、きっとそこが一番、落ち着く場所なのだ。

京太郎「(まぁ、美穂子にとってはこっちの方が落ち着くのかもしれないけどさ)」

俺がそう思うのはホテルの厨房内で働く美穂子の姿があまりにもテキパキとしているからだ。
常に無駄な動作なく動き続けている彼女の手によって、ドンドン料理が出来上がっていく。
勿論、ここにあるコンロひとつとっても家庭用のものとは量も火力も違うと言うのも無関係ではないのだろう。
けれど、それ以上に大きいのは、きっと美穂子がプロ顔負けの速度で厨房を動き回っているからだ。

京太郎「(俺だって割りとやれる方だと思っているけれど…)」

こうして横に立つと改めて分かる。
俺と美穂子ではレベルが明らかに違うと。
その段通り一つ見ても、美穂子は決して一分一秒を無駄にはしていない。
常に最適の動きを繰り返し、余分な時間と言うのがまったくないのだ。
その味加減一つとってもミス一つない彼女の料理には味でも速度でも追いつける気がしない。

美穂子「…どうかしました?」

京太郎「いや、美穂子は凄いなって思ってさ」

美穂子「ふふ。ありがとうございます」ニコ

そう言って俺に微笑む美穂子はもう殆どの料理を作り終えてしまったらしい。
まだ鍋がひとつコトコトと揺れているが、それも今は仕上げに掛かっている状態だ。
既に厨房の中には美味しそうな匂いが一杯に広がり、食欲がさっきからヒシヒシと刺激されている。
正直、この匂いだけでも口の中でよだれが出そうなくらいだ。

美穂子「こちらは粗方、片付きましたし、手伝いましょうか?」

京太郎「あぁ。じゃあ、ちょっと材料の下準備だけお願いしても良いか?」

美穂子「えぇ。勿論です」

俺よりも遥かに量が多い仕事を仕上げてきた美穂子に頼るのは少し気が引ける。
けれど、このまま俺が一人でやり続けても、無駄な時間が掛かってしまうだけだ。
部屋には色んな意味で飢えているであろう智葉たちが待っているのだから、手を借りるのを躊躇ってはいられない。
下手に時間をかければあっちの方から強襲してくる事も考えられるだけに、さっさとデザートを完成させるべきだ。

京太郎「(…でも)」

美穂子「……」トントントントン

京太郎「…良いなぁ」

美穂子「え?」

京太郎「あ、いや…」

ついつい漏らしてしまった言葉に美穂子が俺へと視線を向ける。
驚きに、微かな期待が混ざったその瞳はジィと俺を見つめていた。
まるでそこから先の言葉を待っているような美穂子に、俺はつい言葉を詰まらせてしまう。
しかし、その間にも美穂子の瞳の中に浮かぶ期待の色はドンドンと大きくなっていくんだ。
それに逃げられない事を悟った俺は諦めて口を開き… ――

京太郎「一緒に料理するのは楽しいなって思ってさ」

美穂子「…ふふ。そうですね」ニコ

美穂子「私もご主人様と一緒に料理するのは楽しいです」

京太郎「そっか。それなら良かった」

美穂子もそう思っててくれたのか。
うん、それなら安心した。
…けれど、ちょっと物足りなさそうに見えるのは気のせいだろうか?
勿論、今の肯定が嘘って訳じゃないんだろうけれど…もしかしたら美穂子が期待していた言葉ではなかったのかもしれない。

京太郎「…なら、これからたまに一緒に料理させてもらえないか?」

美穂子「え?」

京太郎「美穂子の仕事を邪魔するつもりはないけど…こういう時くらいしか二人っきりになれないしさ」

京太郎「美穂子さえ良ければ、たまにで良いからこうして一緒に料理したいんだけど…」

勿論、俺と美穂子では手際から何からまったく違う。
俺が美穂子の手伝いをしようとしても邪魔にしかならないはずだ。
けれど、彼女の手伝いは出来なくても、美穂子に俺の手伝いをしてもらう事は出来る。
今のように肩を並べて一緒のものを作る楽しさと言うのは、中々、得難いものだし。
美穂子さえ良ければ、またこうして付き合って欲しいと思う。

京太郎「勿論、美穂子の仕事を奪おうとかそういうのを考えている訳じゃない」

京太郎「むしろ、今みたいに俺の料理の手伝いをして欲しいんだ」

京太郎「頼めるか?」

美穂子「…もう。そんな風に言われたら断れないじゃないですか」クス

京太郎「それだけ俺にとって今が楽しいって事なんだよ」

美穂子「だから、私が断れないような言い回しを許せ、と?」

京太郎「美穂子なら許してくれるだろうと思ってるからな」

美穂子「えぇ。許します」

美穂子「許してしまいますとも」

美穂子「愛しい人が私と一緒に居て、嬉しいとそう言ってくれているのですから」

美穂子「それだけでも嬉しさで胸の中がいっぱいになってしまいそうです」ニコ

そう言って小さく笑う美穂子の頬は赤くなっていた。
それは羞恥によるものではなく、抑えきれない歓喜によるものなのだろう。
本当に美穂子の世界水準を大きく超えた豊満なバストに感情は収まりきっていないのだ。
そんな彼女を抱きしめたくて仕方がないけど…でも、今はデザートを作っている真っ最中だし。
代わりに… ――

京太郎「…じゃあ、手始めに皆が驚くような美味しいデザートを作ってやるか」

美穂子「はい。私も全力でサポートさせていただきます」

―― 皆が、特に美穂子が喜ぶような素敵なデザートを作ってあげよう、そう意識を切り替えながら、俺は彼女と共に厨房の中を動きまわったのだった。





System
福路美穂子の好感度が95になりました → <<本当にご主人様は私を喜ばせるのがお上手なんですから…♥>>

おや…福路美穂子の様子が…?





京太郎「と言う訳で師匠!久しぶりに稽古つけてください!!」

塞「…えー」

そう言って頭を下げた俺にロビーの臼沢さんは嫌そうな声を返した。
心底、やる気がなさそうなそれに俺は内心、嫌な汗が浮かぶのを感じる。
それはきっと彼女がそうやってやる気なさそうにしている理由が俺も分かっているからなのだろう。

京太郎「えっと…その…師匠?」

塞「ふーん。須賀くんにとって私は師匠なんだ?」

京太郎「そ、そうですよ。何を言ってるんですか」

京太郎「メッチャクチャ尊敬しまくってるお師匠様ですって!」

塞「…その割にはココ最近、まああああああああったく修行しに来なかった訳だけどね??」フゥ

京太郎「うぐ」

…そう。
俺はオカルトを手に入れてからまったく塞さんとの能力開発をしていなかったのだ。
期間にしておおよそ数ヶ月、まったくほったらかしだったのである。
勿論、それ以外では顔を合わせたりしていたし、話もしていたが、こうして能力開発をしてほしいと頼んだりはしなかった。
それに対して臼沢さんが拗ねるのも当然の事だろう。

塞「オカルト手に入れたら適当にポイとか流石の私もちょっと傷つくよ?」

京太郎「ご、ごめんなさい」ペコ

塞「…まぁ、色々と忙しかったり理由があったのは分かるけどさー?」

塞「これはケジメ案件だと思わない?」チラッ

京太郎「う…」

正直、臼沢さんの思い通りになるのはあんまり良い気分じゃない。
少しでも借りを作ろうものなら、この人は根掘り葉掘り聞いてくるタイプだからなぁ。
ただでさえ、耳年増っぷりを遺憾なく発揮する彼女から逃げるのは大変なのに、借りを作るなんて冗談じゃない。

京太郎「(…でも、皆強くなっているのに、俺だけ足踏みしてられないよな…)」

智葉も憧も強くなっている。
大星さんもそろそろ実戦に出しても良いレベルになってきているだろう。
そんな状況で俺だけが足踏みしてはいられない。
前回の探索であの翼竜に良いようにしてやられてしまったのは、俺のレベルが皆に追い付いていない所為だ。
俺がもっと色んなオカルトを使う事が出来れば、あそこまで苦戦する事はなかっただろう。
だから… ――


京太郎「か、肩とか揉みましょうか?」

塞「それセクハラだから、ケジメ案件その2ね」

京太郎「うあー」

塞「ふふ。これで余計に色々、聞けせてもらわなきゃいけなくなったね」

くそぅ…完全に手球に取られてる…!
いや、元々、これで誤魔化せると本気で思っていた訳じゃないけれど…!
でも、少しくらいは追求も緩むとそう思ってんだけどなぁ…。
やっぱりこういう面で俺は臼沢さんに頭が上がらないらしい。

京太郎「あーもう分かりましたよ。なんでも聞いてください」

塞「あら、素直」

京太郎「まぁ、悪いのは俺ですしね」

さっきのセクハラはともかく、長い間、臼沢さんに頼ってこなかったのは俺なのである。
そんな奴が何もなしにいきなりまた能力開発を手伝ってください、なんて言って、手伝ってもらえる訳がない。
土産話の一つもなければ、臼沢さんだって良い気がしないだろう。
それにまぁ…最早、俺の恋人は四人になってしまった訳で。
いい加減、その辺を開き直っても良い頃だと少しばかり思うし。

塞「なーんか面白くないなぁ」

京太郎「いや、面白くないって…」

塞「だって、そういうの恥ずかしがる須賀くんをからかうのも楽しみの内だったのにさ」

塞「須賀くんだけ大人になったみたいでちょっとばかり面白くないかなって」

京太郎「まぁ、臼沢さんより色々と経験豊富なつもりですけど」

塞「わ、私だって、素敵な王様がいれば須賀くんなんかに負けたりしないんだからね!」

まぁ、実際、塞さんは体つきとか色々とエロい人だからなぁ。
相手さえいれば、そりゃあ俺よりも色んな経験を積んでもおかしくはない。
ただ、それはあくまでも仮定の話で、今は俺の方が経験豊富なのは確かなのだ。
寂しそうに言う臼沢さんには悪いが、ここは勝ち誇らせてもらおう。

塞「…でも、言うようになったじゃない」

京太郎「これでも男ですからね」

京太郎「本当に色々ありましたし、少しは変わりもしますって」

塞「…へぇ」

俺の言葉に臼沢さんは感心したように俺の顔を見る。
日頃、見てきてはいるものの、やっぱり改めて見ると違うんだろうか?
…ただ、それだけジロジロ見られるとやっぱり恥ずかしいというか何というか。
毎日、美穂子がケアしてくれているから大丈夫だと思うけど…なんか自分の顔に変なところがあるのではないかと思ってしまう。

塞「あぁ、うん。やっぱり何時もの須賀くんの間抜け面だね」

京太郎「臼沢さん?」

塞「あはは。ごめんごめん」

塞「ちょっと格好良くなったかな?って思ったけど気のせいだったみたい」

京太郎「余計、傷つくんですが!?」

塞「じゃあ、ここで須賀くん格好良いー素敵ー!って言ったらどうする?」

京太郎「とりあえず体温計を渡します」

塞「でしょ?じゃあ、これで良いじゃない」

京太郎「そ、それはそうですが…」

なーんか釈然としないんだよなぁ。
いや、別に臼沢さんに改めて褒めて欲しいって訳じゃないんだけどさ。
ただ、こう…軽く持ち上げられたところで落とされた所為かダメージがでかいというか…!
もうちょっと手心と言うものを加えて欲しいと心から思う。

塞「ま、じゃあ、後で根掘り葉掘り、須賀くんの性活を聞く為にも師匠として頑張りますか」

京太郎「…お願いします」

まぁ、そんな容赦の無い臼沢さんではあるが、能力開発に関しては信頼出来る人だ。
ほぼ素人に近い俺が微弱ながらもオカルトを使えるようになったのは間違いなく臼沢さんのお陰だし。
そんな彼女の指示にちゃんとついていけば、俺のオカルトはさらに強化されるだろう。
そうすれば智葉達にだって楽をさせてやれるはずだ。
臼沢さんもこうして頑張るって言ってくれている訳だし、こっちも気合いれないとな。

塞「うーん…それなり?」

京太郎「まぁ、それなりですねー…」

結果はまぁ、それなりとしか言う事が出来ないようなものだった。
良くもなく悪くもない微妙なライン。
勿論、能力開発が進んでいる事を喜ぶべきなんだろうけど、あんまり手放しで賞賛出来るようなものではないというか。
こうカタログスペックをカタログスペックを通り発揮しただけのような『普通』感がある。

京太郎「(…でも、これが形になれば大分、マシになるな)」

どうやら俺のオカルトは『予知』と言う形で強く効果を発揮するらしい。
前回、得たオカルトは危険を回避する為の『予知』だった。
けれど、今回のそれは違う。
相手の動きを予測し、攻撃をより的確なタイミングで打つ事が出来る…いわば攻撃型の『予知』だ。




次の京太郎の特性
Lしょうりのほし パートナーの命中率が10%上昇する(残り2)


京太郎「(効果は決して大きい訳じゃないけれど…)」

しかし、ここぞと言う時に使う決め技を外す事はこれでグッと少なくなるはずだ。
それがなくなるだけでも智葉達は大分、楽をさせてやれるだろう。
まぁ、まだまだ習得出来ていない状態だから、捕らぬ狸のなんとやら、という状態だけれど。
しかし、こうして目指すものが見えてきたというだけでも大分、違ってくる。

塞「さーて…じゃあ、頑張った私にそろそろご褒美が欲しいんだけどなー?」チラッ

京太郎「駅前の喫茶店からケーキを買ってくるんじゃダメですか?」

塞「それで媚薬ケーキ食べさせられたりしたら堪らないし…」

京太郎「臼沢さんに食べさせるくらいなら智葉たちに渡しますって」

塞「あ、やっぱ癖になってるんだ?」ニヤニヤ

京太郎「あー…まぁ、その…なんて言うか…そうですかね」カァ

塞「ね、どんな感じ?」ガタッ

塞「やっぱりエッチしたくて堪らなくなるの?」

塞「ケダモノ?ケダモノなの?ビーストモードなの!?」

京太郎「うん、とりあえず落ち着きましょうか」

そこまで食い付かれると中々、話しづらいと言うか…!
俺も決して話すつもりがない訳じゃないんだが、そう鼻息荒く詰め寄ってこられると流石にちょっとびっくりする。
つか、ケダモノはまだ分かるけど、ビーストモードって一体、なんだ。

塞「仕方ないじゃん。私はあれ食べる訳にはいかないし」

塞「すっごく美味しいって聞くから興味はあるんだけど…それをフォローしてくれる相手もいないしさー」

京太郎「もう王様とか諦めたらどうですか?」

塞「うーん…それはここ最近、ちょっと思ってる」

流石に王様と言う滅多にいないような理想のタイプを追い求めていたらいつまで経っても相手なんて見つからない。
そもそも日本には王様はおらず、いたとしても皇族だけなのだから。
今のこの国は外国から隔絶されている状態だし、王族がお忍びでやってきて、そこでロマンス、なんて展開はない。
それよりも諦めてフリーの相手を探した方が手っ取り早いだろう。
…まぁ、それすらも魔物が溢れかえっている今の状況では難しいのだけれども。

塞「と言うか王様を見つけるのは無理だから、私が王様にすれば良いんじゃないかなって」

京太郎「王様にする?」

塞「うん」

けど、臼沢さんは完全に諦めた訳じゃないらしい。
王様と出会う事を諦めてはいるみたいだが、未だ王様に固執し続けている。
一体、それがどうしてなのかは俺には分からない。
王様を見つけるのではなく、相手を王様にするって…玉の輿狙いって訳じゃないだろうし。
そもそも戦争どころか日常生活すら危うい今のこの国で王様になどなれるのだろうか?

塞「でも、その為には色々と障害も多くってさー…」

京太郎「障害ですか?」

塞「うーん。ほら、私って普通じゃないから」

京太郎「あー…」

そうだよな。
こうして普通にしているけれど、臼沢さんは色々と微妙な立場にいるんだから。
もうその身体には魔力が染みこんではいるものの、完全に魔物になった訳ではない。
さりとて、人間にはもう戻る事が出来ず、どっちつかずのまま。
そんな『どちらでもない』状況がずっと続いている臼沢さんはやっぱり色々と悩む事があるのだろう。

京太郎「俺でよければ色々と相談に乗りますよ」

塞「須賀くん…」

京太郎「俺は色々と臼沢さんに世話してもらってますしね」

今日の特訓もそうだが、それ以外にも俺は、いや、俺達は彼女に助けてもらっている。
俺達が今、暮らしているあの部屋だって、彼女の協力がなければ、アレだけ広々としたものにはならなかった。
帰ってきた時に「おかえりなさい」といの一番で出迎えてくれるのは臼沢さんだし、24時間毎日疲れを癒せるように大浴場だって開けっ放しにしてくれている。
そんな彼女に悩みがあるのだと聞いて放っておく事なんて出来ない。
こうして恩返し出来る機会がやってきたのだから、それを出来るだけ形にしたいと、そう思うのだ。


塞「…言っとくけど、その程度じゃ私は堕ちないからね?」

京太郎「いや、堕とすつもりもないですから」

塞「むぅ。少しは残念がったらどうなの?」

京太郎「ここで残念がったら絶対、智葉たちに言いつけるでしょう…?」

塞「失礼な。言いつけたりしないよ」

塞「ただ、ちょっとそれを取引材料に使わせてもらうだけだから」

京太郎「尚更、質が悪いんですが」

まぁ、臼沢さんだって本気で言っている訳じゃないんだろうな。
今も彼女は笑っているけれど、それは何時も浮かべている悪戯っぽいものじゃない。
何処か照れくさそうな、嬉しそうな、可愛らしい笑みだった。
何時もそういう顔をしてれば、きっと男の方が放っておかないだろうになぁ。
そんな風に思ったのは胸の内に秘めておく。

塞「でも…相談…かぁ」

京太郎「まぁ、何かあれば、ですけどね」

京太郎「無理に、とは聞き出したりしませんし」

塞「うーん…」

俺の言葉に臼沢さんは小さく唸った。
そのまま小さく首を傾げる彼女の顔には逡巡の色が浮かんでいる。
俺に話しているのか、話していいのか悪いのか、きっとそう悩んでいるのだろう。
少なくともまったく論外、と言う訳ではないらしい。
それに一つ安堵する俺の前で、臼沢さんがゆっくりと口を開いた。

塞「じゃあ…その、一つ聞きたいんだけどさ」

京太郎「はい」

塞「もし…その…もしもの話なんだけどさ」

塞「自分と同じように考えて、同じように感じて、同じように動く何かが沢山いるのってさ…どう?」

京太郎「え?」

…何なんだろう、その『もしもの話』は。
勿論、この場で彼女が漏らす『もしもの話』は決して臼沢さんにとって『もしも』ではない事くらい俺にだって分かっている。
それは彼女にとって悩み事になるくらいに身近な話なのだ。
最悪でも、そうなるかもしれない、と言う予想がなければ、そんな話は出てこない。
…でも、そんな事あり得るのだろうか?

塞「…」ジィ

…って、事の真偽を考えている場合じゃないよな。
今の俺にとって重要なのはあり得るかあり得ないかじゃない。
真剣な眼差しで俺を見る臼沢さんにどうやって返すかだ。
正直、彼女の「どう?」は受け取り方が色々ありすぎて何を返せば良いのか分からないけど…でも、ここは… ――

京太郎「便利そう…ですかね」

塞「便利?」

京太郎「はい。だって、それは自分が沢山いるって事ですし」

京太郎「自分一人じゃ出来ない事だって、その何かが沢山いれば出来るんです」

京太郎「それは凄いメリットだと俺は思いますよ」

塞「…そっか」

相変わらず俺にはその問の意味が良く分からない。
けれど、彼女にとって身近な悩みであるそれは決してデメリットという訳じゃないだろう。
誰もが一度は夢見るであろう『自分がもう一人いたら』を実現出来るのだから。
出来る事の幅だって大きく広がるし、決して大変なだけじゃない。

塞「…うん。そうだね。私もそう思う」

塞「…ううん。思ってた」

塞「でも、今は…」

京太郎「臼沢さん…?」

小さく言葉を漏らす彼女からの返事はなかった。
軽くうつむき加減になった臼沢さんが、一体、何を言おうとしていたのかは俺には分からない。
けれど、そう思ってたって言う事は…もしかして、彼女は… ――

塞「…………ふふ」

京太郎「え?」

塞「なーに、深刻そうな顔してるの?」

塞「ちょっとからかっただけよ?」

塞「大体、そんな話ある訳ないでしょう?」

京太郎「…まったく」

俺に笑う彼女の表情は明るかった。
まるでネタばらしをする悪戯っ子のようなそれを俺は信じる事が出来ない。
だって、さっきの彼女の表情はとても真剣なものだったのだから。
俺を試すような、信じたいと思っているようなその目を見て、嘘だったとそう思えるはずがない。

京太郎「ホント、冗談が過ぎますよ、マジだと思ったじゃないですか」

塞「ごめんごめん。須賀くんがそんなに良い子だとは思わなくってさ」

塞「次からはもうちょっと分かりやすいネタでだましに行くから安心して」

京太郎「いや、騙さないでくださいよ」

…けれど、彼女はそれを俺に明かしてくれるつもりはないらしい。
こうして明るく振る舞って、話題を変えようとしている。
それはきっと俺が彼女の求めていた言葉を返してあげられなかったからだろう。
それに胸が痛むが…さりとて、ここで踏み込むような資格は俺にはない。
俺に出来るのは空元気を見せる臼沢さんに乗かって、この空気を変える事だけ。
だからこそ、俺は… ――

塞「そうやって騙されてくれる須賀くんが好きだよ?」

京太郎「俺はもうちょっと真面目な師匠が好きですかね」

―― そのまま臼沢さんと下らない話を続けたのだった。



System
臼沢塞の好感度が30になりました → <<…ダマされてくれてありがとうね>>

須賀京太郎のオカルト習得度が2になりました






京太郎「うーん…」

臼沢さんと分かれてから、そのまますぐさま部屋に戻る気にはなれなかった。
彼女の求めている答えは返せなかったものの、それでも俺は臼沢さんの悩みの片鱗に触れる事が出来たのだから。
もし、また同じように彼女から相談を持ちかけられた時、一体、どう返事をすれば良いのか。
それを考える為にも俺は一人でいたかったのである。

京太郎「(…でもなぁ)」

手がかりと言えば、『自分と同じように考えて、同じように感じて、同じように動く何か』。
クローンとは比べ物にならないほど同一性の高いその表現に俺はCOMPから政府の研究資料へとアクセスした。
けれど、そのヒントにつながるような情報は出てこない。
今、分かっている範囲でのデータベースなども見たが、あまりにも莫大過ぎて目を通しきれなかった。

京太郎「ふぅ」

そんなCOMPから目を離しながら、俺はラウンジの椅子に背を預けた。
瞬間、目元が熱くなるのはやっぱり疲労が溜まっている所為なのだろう。
COMPの充電もそろそろ危ないし、一旦、部屋に戻るべきなのかもしれない。
そう思った俺は臼沢さんに淹れてもらった紅茶に手を伸ばし、それを一気に嚥下した。

哩「あれ?須賀君やなかと?」

京太郎「あ」

そんな俺に声を掛けてきたのは白水さんだった。
勿論、その横には腕を組むようにして鶴田さんもいる。
軽く白水さんに身体を預ける彼女の顔はとても幸せそうで、相変わらず恋人同士のようにしか見えない。
そんな二人が軽く手を預けて近寄ってくる姿に俺もまた手を上げて応えた。

哩「どうしたと?ここにいるなんて珍しかね」

京太郎「はは。ちょっと一人で考え事したくて」

姫子「考え事?」

京太郎「えぇ。まぁ、謎解きみたいなもんですかね」

まぁ、その謎は結局、解く事が出来なかった訳だけれど。
その辺はまた今度にするのが良いだろう。
流石にそろそろ部屋に戻らないと憧や久辺りが拗ねかねないし。
ただ拗ねるだけならば良いんだけどあの二人の場合、すっげぇ甘えん坊になるからなぁ。
何時も以上にスキンシップを求める二人を相手にして我慢できる気がしない。
っと、まぁそれはともかく。


京太郎「お二人はどうしてここに?」

姫子「私らはちょっと遅目の昼食ばい」

哩「昨日は姫子ば中々離ぁーてくれんかったけんね」

姫子「も、もう…部長もノリノリやった癖に」ポッ

京太郎「あ、あはは」

相変わらずのバカップルっぷりにどう反応すれば良いのか分からない。
基本、俺が親しい相手って独り身か、あるいは自分の恋人かのどっちかだからなぁ…。
こうやってすきあらば惚気けてくるようなタイプを相手にした事がないから、こうなんとも言えない笑みを浮かべるしかないというか。
決して惚気を聞くのは嫌いじゃないんだが…二人の場合、そこに性的な話が混ざるからどうにも反応しづらいんだよなぁ…。

姫子「ばってん、謎解きってどんなんばい?」

哩「ここで会ったんも何かの縁やけん、よければ一緒に考えんと?」

京太郎「あー…」

多分、二人は好意で言ってくれているんだろう。
そう提案してくれる二人の表情には悪いものはなかった。
けれど、これは臼沢さんのプライバートに関わるかもしれない問題だからなぁ…。
個人的には藁にもすがりたい気分だから話してしまいたいけれど…ここで二人に言ってしまって良いものなのか。

哩「…ふむ。そうぎ、私らが一つずつ須賀くんの考えちょる事当てるっていうのはどがんと?」

京太郎「え?」

そう逡巡を浮かべる俺の前で白水さんがそう提案する。
いきなりのそれに俺が驚きの声を返せば、彼女達は既に頬に手を当てて考えこむような仕草に入っていた。
元々、二人とも飛び抜けた美少女だという事もあって、そんな仕草も可愛らしい。
…まぁ、そんな二人に肩透かし感を味合わせるのも可哀想か。
どうせ当たらないだろうし、ここは適当に頷いておこう。

京太郎「構わないですよ」

姫子「そいぎ…須賀くんが悩んどるのは…ズバリ女の人の事ばい」

京太郎「…当たってます」

哩「そいも須賀くんにとってあまり身近とは言えん女性の事じゃなかと?」

京太郎「…それも当たりです」

…って思ったけど、なんだコレ。
二人からの答えがまったく外れない。
最初の一問はまだ鉄板として、身近な女性じゃないって言うのは中々、出てこないと思うんだけどなぁ。
それでもここまでしっかりと言い当てられるのは占いとか良くある話術なのだろうか?

哩「ふふ。じゃあ、その人はこのホテルの中にいる人たいね」

姫子「そいも客室にいる人やないけん」

哩「…ズバリ、臼沢さんの事やなかと?」

京太郎「…正解っす」

って思ってる間に当てられてしまった。
たったこれだけの情報でそこまでたどり着けるものなんだろうか。
いや…たどり着けるんだろうな。
そうじゃなきゃ、こうしてハッキリと言い当てる事なんて出来ないだろうし。
その原理は良く分からないけれど、ともかく二人が凄いという事だけは良く分かった。

姫子「やった!流石は部長!」ダキッ

哩「ふふ。こいも姫子のお陰ばい」ナデナデ

姫子「えへへ♪そがん事なかですっ」

姫子「部長のリードば良かったお陰です!」スリスリ

京太郎「……」

まぁ、その凄い二人は目の前でイチャイチャしている訳だけれど。
色々と聞きたい事はあるが、流石に今の二人に水差するのは可愛そうだし黙っていよう。
…でも、もしかしたら俺が智葉たちといちゃついている時もこんな風に見えているのかもなぁ。
…これからはちょっと気をつけよう、うん。

京太郎「…でも、俺ってそんなに分かりやすかったですかね?」

哩「…ん?」

姫子「あ」

数分後、いちゃつく二人に我慢できずそう口に出した俺に二人はようやく視線を向けた。
微かに驚き混じりのそれは…まぁ、俺の事忘れてたんだろうなぁ。
と言うか下手したらここが何処かすら二人は忘れていたんじゃないだろうか。
流石にペッティングまではしていなかったが、お互いの頬にキスしたりはしていたし。
あのまま放っておいたら本当に一戦初めていたんじゃないだろうかってくらいのイチャつきっぷりだった。

哩「まぁ、種明かしばすると最初から大体あたりはついとったばい」

京太郎「え?」

姫子「須賀くんに臼沢さんの匂いばついとったけんね」

京太郎「え…マジっすか?」

やっべ、そんなに臼沢さんの匂いがするのか…?
特に特訓とかで密着していた訳じゃないけど…でも、長時間一緒にいたのは確かだし…。
その間に匂いとか移ってしまったんだろうか…?
もしそうなら帰る前に一回風呂入っておいた方が良いかなぁ…。
流石に他の女の匂いをさせたまま帰るのはまずいだろうし。

哩「あ、普通ならそがん気にするほどの事やなかけん、安心して良かよ」

姫子「私らは種族上、匂いとかに敏感やけん」

哩「きっと他の子やったら、ん?って思うくらいでそこまでしっかり染み付いてる訳じゃなかたい」

姫子「ばってん、そいが一番、はっきりと感じきゅーって事はさっきまで臼沢さんと一緒にいたって推測できゅーけん」

哩「須賀くんは人の悩みば聞いてほっとけるタイプじゃなかって聞いとるけん」

哩「こうして一人で悩んどるのも直近で会った誰かの為だろーて考えたばい」

京太郎「なるほど…」

そうやって理論の道筋を聞かされると、なるほどと思わされる。
まぁ、実際は口で言うほど簡単なものじゃなかったんだけれどな。
そもそも俺と白水さん達はあんまり面識がない訳で。
最後の詰めである俺の性格にもあまり強い根拠がある訳ではなかったのだろう。
それでも一見、自信に満ちあふれているように言い当ててくる辺り、中々にクセモノというか何というか。
見た目以上に度胸のある二人組だとそう思った。

哩「まぁ、ちょっとズルばしたばってんが…当たりは当たりたい」

姫子「ご褒美ば期待しても良かと?」クス

京太郎「あー…仕方ないですね」

種族の特性を使ったとは言え、彼女たちが見事に当てたのは確かなのだ。
それに対して報いない、と言うのもあまり良くはないだろう。
流石に彼女の悩みを誰かれ構わず漏らすのは気が引けるが、遅めの昼食を取りに来た二人にケーキを奢るくらいなら問題はない。

姫子「よし!そいぎ、確保ーっ!」ダキッ

京太郎「うぇ!?」ビクッ

哩「ふふ。須賀君には私と姫子の愛の巣に来てもらうばい」

しかし、俺の腕を鶴田さんが強引に抱き上げる。
それに驚きの声をあげた俺に白水さんが説明をくれた。
けれど、いきなり鶴田さんによって立たされた俺は、白水さんの言葉にすぐさま納得も理解も出来ない。
一体、ご褒美という話からどうして二人の部屋に連行される事になるのだろうか。

哩「ん?須賀くんは嫌と?」

姫子「こがん美少女二人の部屋に招待されるのに贅沢者たい」

京太郎「いや…別に嫌って訳じゃないんですが…」

哩「じゃあ、問題なかたいね」

姫子「それじゃしゅっぱつしんこーたいっ」

京太郎「えぇぇ…」

けれど、二人の中でそれはもう決まってしまった事らしい。
いつの間にかその両脇をレズップルに囲まれた俺はズルズルと連行されていく。
まったく疑問を挟む余地などないと言わんばかりのそれに俺は一体、どうすれば良いのか。
分からないまま、俺は彼女たちの部屋まで連れて行かれて… ――

哩「はい。どうぞ」スッ

京太郎「…あ、ありがとうございます」

二人の部屋は俺達のものとまったく違っていた。
部屋の中には色々と機械が並び、良く分からない動きを繰り返している。
その上、部屋の中には甘い香りが充満して、なんだか頭がクラクラするというか。
リラックス出来るんだけど、それ以上に身体が熱くなってくる感じで… ――

京太郎「…ってか、二人は食事は良いんですか?」

哩「んーまぁ、別にお腹空いちょった訳じゃなかけんね」

姫子「やる事もなかったけん、食事でも取ろうかって思うとっただけやけん」

京太郎「…それなら良いんですが…」

…でも、二人には俺のように匂いにあてられているような感じはない。
さっきラウンジで出会った時と同じようにごく自然体だ。
それは二人にとって、この匂いが特に意識するものではない身近なものだからなのだろう。
もしかしたらこれは二人の体臭なのかもしれない。

京太郎「(…やべ。そう思ったら下半身にキた…)」

ズキンと走る疼きは決して強いものではなかった。
けれど、俺は魔物の恋人が四人いる状態で欲情をコントロールする術もある程度ではあるが心得ているのである。
こんな簡単に下半身が疼くような事は検査の為に智葉たちを引き離された時くらいだ。
しかし、俺は昨日だって、皆と満足するまでセックスしたはずなんだけれど…一体、どういう事なのだろうか。

姫子「ねね。須賀くん」ソッ

京太郎「う…な、何ですか?」

そんな俺の隣に座った鶴田さんがゆっくりと椅子を寄せながら。こっちへ寄りかかってくる。
すっとしなだれかかるようなその身体は決しておもちが大きいとは言えない。
けれど、その形の良いウェストを俺に魅せつけるようにしてしなだれかかるその姿勢はとても色っぽく見えた。
今の自分が明らかに冷静ではないとはっきり分かる俺にとって、今の彼女は性的過ぎる。
触れる部分からも女の子の柔らかさがはっきり伝わってくるのもあって、内心、ドキドキしてしまう。

姫子「須賀くんば、普段、何しちょるの?」

京太郎「な、何してるって…」

姫子「ほら、どういう風に辻垣内さんとかアヘらしちょるのかなーって」

京太郎「…え?」

……え?
…いや、今のは聞き間違いだよな。
何か理性の効きが何時もより悪い俺の頭がきっと鶴田さんの言葉を聞き間違えただけだ。
そもそもこうやってしなだれかかりながら、そんな事聞いてくるなんて…まるで誘惑されているみたいじゃないか。

哩「こーら、姫子。まだ早かよ?」

姫子「えへへ。ごめんなさい、ちょっと待ちきれなくて」

哩「まぁ、気持ちは分かるばい。私も同じやけんね」

…二人は一体、何を話しているんだろう?
分からない、分からないけど…何か危険な気がする。
まるであの迷宮で咲と再会した時のような…そんな予感。
ともかく…この話を続けさせてはダメだ。
何か別の話を振らないとまずい。

京太郎「そう言えばさっき俺の事を聞いたって…」

哩「あぁ、辻垣内さんや福路さん、臼沢さんは私たちと同時期に救出された人たちばい」

哩「一緒にいた期間は短かったばってんが、そいでも顔ば合わした時に話す程度には仲が良か」

姫子「そいけん、こっちに来てから色々と惚気けられたりしたけんね」

京太郎「あぁ、なるほど…」

哩「まぁ、実際、会って確かに中々、良さそうな人やと思ったばい」

姫子「顔も部長ん好みに近か」

哩「こ、こらっ」カァァ

姫子「えへへ。そいに一番、大事なのは…私と部長ん性癖とも相性良かけんね」クス

京太郎「性…癖…?」

…何の事なんだろう?
二人は何を言っているんだろうか。
さっきから急に眠たくなってきて…殆ど頭に入ってきていない。
なのに、身体だけは熱くて…しっかり目が覚めてて…俺の身体に、何が起こっているんだ…?

姫子「そろそろ良かですか?」

哩「ん。大丈夫たい」

京太郎「…ぅ」クラ

…ダメだ。
椅子に座っている事すらマトモに出来そうもない。
身体がもう殆ど動かなくて…椅子から堕ち…。

哩「よっと」ガシッ

姫子「ふふ、良か顔…♥」

哩「ゾクゾクするばい…♥」

京太郎「あ…ぁ…」

姫子「大丈夫たい。何も痛い事せんけんね」

哩「ただ、ちょっと色々聞かせて欲しいだけばい」

姫子「私と部長の相手に相応しか男か…しっかり検査したいだけやけん」

哩「ちゃんと答えてくれると?」

…二人が何を言っているのか分からない。
けれど、なんとなく二人には従わなきゃいけない気がする…。
あぁ…いや…違う。
従わなきゃいけないんじゃない…。
従うのが…当然なんだ。
二人が言う事は全て聞くのが当たり前で…だから… ――

京太郎「は…い…」

哩「ん。良か子やね」ナデナデ

姫子「…ばってん、ちょっと拍子抜けたい」

姫子「もうちょっと抵抗するくらい男気あると思っちょったのに…」

哩「姫子ば期待外れたい?」

姫子「私と部長んご主人様になる人やけん、並の男はちょっと…」

…良く分からないが、鶴田さんには失望されてしまったらしい。
なんだかちょっと理不尽な気もするが…俺の頭はもうまったく回らなかった。
俺の中にあるのはもう莫大な眠気と、痛いほど勃起したムスコの感覚だけ。
それ以外はもう胡乱な感覚に塗りつぶされ、重く沈み込んでいっている。

哩「その辺、判断するのは全部聞いてからで良かよ」

姫子「はーい」

哩「…そいぎ…改めて須賀くんの事聞かせてもらうばい」

それから始まった質問に俺は素直に一つずつ答えた。
隠す事などなにもない。
だって、二人にそうやって話すのが当然なのだから。
二人に隠し事をする方がおかしいのである。
だから、俺は自分の悩みも、普段の性活も、恋人たちに対してどう思っているのかも…何もかも赤裸々に告白して… ――

京太郎「…ん…?」

気づいた時には俺はベッドに寝ていた。
けれど、どうして自分がこうして寝ているのか分からない。
そもそもここは一体、何処なんだろう…?
何時もの自分たちの部屋と似ている天井だけど…でも、匂いが全然、違って… ――

哩「須賀くん、起きたと?」

京太郎「…あ」

聞こえてきた声にゆっくりと身体を起こせば、そこには白水さんと鶴田さんがいた。
って事はここは二人の部屋なんだろうか?
…でも、なんで俺、二人の部屋にいるんだ?
そもそも俺はさっきまでラウンジにいたはずなんだけど…。

姫子「覚えちょらん?須賀君、オカルト開発の途中で気ば失ったんよ」

京太郎「……あぁ」

…そうだ、思い出した。
うん、確かに俺は二人に能力の開発を頼んだんだよな。
それでその途中から気を失って……あれ?
そもそもなんで俺は二人に能力を開発してくれって頼んだんだろう…?
一体、どういう流れで頼むことになったのかまったく思い出せないんだけど…。

京太郎「(…うん。ちゃんと習得出来てる)」

その上、新しいオカルトのヒントまで頭の中にはあった。
臼沢さんとの特訓でもここまで進む事はめったになかったって事を考えると、やっぱり何かしら特訓していたんだろう。
その内容は思い出せないけれど…多分、そのはずだ。
二人もそう言っているし間違いはない。

京太郎「って時間は…!?」バッ

こんなにオカルトが進んでいるんだから時間だってかなり経過しているはずだ。
そう思って見た時計にはもう夕飯前の時刻が表示されている。
きっと今頃は恋人達が俺の帰りを待っている事だろう。

哩「あぁ、もう結構な時間やねん」

姫子「そろそろ帰った方が良かかもしれんね」

京太郎「すみません…!」

わざわざオカルトの特訓に付き合ってもらったのに、気を失ってベッドで休ませてもらった挙句、ろくにお礼も出来ないまま帰るなんて。
正直、自分でもちょっと情けないとそう思うくらいだ。
しかし、ここでもたもたしていたら、憧や久だけじゃなく美穂子まで拗ねかねない。
俺の恋人の中で実は一番、恐ろしい彼女がすねたところなんて想像もしたくないくらいだ。
色々と言いたい事はあるが、彼女が用意してくれたご飯が冷める前に帰っておかないと…!!

京太郎「必ず後日、お礼に伺いますんで!」

哩「うん。待っちょるね」ニコ

姫子「必ずたい。忘れちゃいけんよ?」クス

京太郎「はいっ」

そんな俺に二人は小さく笑いながら釘を刺す。
一見、冗談めいているそんな二人に、俺は大きく頷いた。
二人にここまで言わせたのだから絶対に、絶対に絶対に忘れてはいけない。
また後日、余裕のある時に…この部屋に来なきゃいけないんだ。

哩「あ、須賀くん」

京太郎「え?」

哩「謎解きんヒント教えてあぎゅー」

哩「ケプリって種族の事調べて見れば少しは分かると思うたい」

京太郎「…ケプリ?」

そんな俺を部屋の入口まで見送ってくれた白水さんが不思議な言葉をくれる。
謎解きのヒントと言いながらのそれが俺にはまったく分からなかった。
迷宮に潜るようになって色々と勉強するようになったが、それでも魔物の事について俺が知らない事は多い。
ケプリと言うその種族の事も俺はまったく分からず、振り返りながら首を傾げるしかなかった。

哩「そいぎ、またね」

姫子「またね」パタン

京太郎「あ」

けれど、それ以上のヒントをくれるつもりはないらしい。
鶴田さんはにこやかな笑顔を向けながら、俺に対して扉を閉めた。
それに小さく声が出るけれど、もう扉が開く様子はない。
きっと二人も二人の時間に入っただろうし…あんまりお邪魔をするのもダメだな。

京太郎「(それに…時間の余裕がある訳じゃないし…!)」

何時もであればそろそろ夕飯を始めるか始めないかって時間だ。
流石にコレ以上遅れてしまったら、美穂子を拗ねさせてしまうだろう。
それを防ぐ為にも今は全力で部屋に戻らなければいけない。
そう自分に言い聞かせながら俺は床を蹴って… ――


―― そして帰宅した瞬間から、俺は『他の女がする』と恋人達から詰め寄られ、夕飯前に全員から搾り取られる事になったのだった。



System
新道寺ペアの好感度が15になりました → <<たくましくて大きかったばい…♥>><<あがん本当に入ると…?>>

須賀京太郎が新しいオカルト しょうりのほしを覚えました
Lしょうりのほし パートナーの全ての技の命中を10%上昇させる

次のオカルトの習得度が1になりました



迷宮前準備のコーナー

<<所持アイテム>>
きずぐすり 3/9   一体のHPを20回復する   売価150円
いいきずぐすり 4/6 一体のHPを50回復する  売価350円
すごいきずぐすり 4/4 一体のHPを200回復する 売価600円
まんたんのくすり 1/2 一体のHPを最大まで回復する 売価1250円
どくけし 7/9  一体のどく・もうどくを治療する  売価50円
まひなおし 3/9 一体のまひを治療する 売価50円
やけどなおし 1/9 一体のやけどを治療する 売価50円
ミックスオレ 1/5 一体のHPを80回復する※戦闘中使用不可 売価175円

※ミックスオレ、まんたんのくすりを売却した場合、次回から購入可能


<<販売アイテム>>
きずぐすり@3  300円    一体のHPを20回復する  現在3/9
いいきずぐすり@2 700円  一体のHPを50回復する   現在4/6
すごいきずぐすり@2 1200円 一体のHPを200回復する  現在4/4
どくけし@3    100円    一体のどく・もうどくを治療する現在7/9
やけどなおし@3 100円   一体のやけどを治療する 現在1/9
まひなおし@3 100円     一体のまひを治療する  現在3/9
おいしいみず@2  100円  一体のHPを50回復する※戦闘中使用不可 現在0/5
オッカの実@1 20円 効果抜群のほのお技を一度だけ半減する
ウタンの実@1 20円 効果抜群のエスパー技を一度だけ半減する
ヨプの実@1 20円 効果抜群のかくとう技を一度だけ半減する

媚薬ケーキ@1 5000円 魔力供給出来るようになったパートナー一人の好感度を10上昇させる
媚薬クッキー@1 3000円 魔力供給出来るようになったパートナー一人の好感度を5上昇させる


<<開発可能アイテム>>
がくしゅうそうちver3 → ver4 がくしゅうそうちの対象に選べるパートナーが増えます(要20000円)
半減実 → 別属性を半減する実を開発し、販売可能にする事が出来ます(要5000円)
良い釣り竿 → 凄い釣り竿 釣りマスの時のコンマ判定を末尾から末尾×2倍に変える(要20000円)


現在の所持金54090円



System
ミックスオレとまんたんのくすりを売却しました(+1425円)

がくしゅうそうちをVer4にアップグレードしました(20000円)
良い釣り竿を凄い釣り竿にアップグレードしました(20000円)
ヨプの実を購入しました(20円)


現在の所持金は15495円です



中ボス戦を経て、パートナー達がレベルアップ

名前  辻垣内智葉
Lv   56
種族 メガデュラハン
タイプ あく/はがね
特性1 せいしんりょく(相手の攻撃で怯まない)
特性2 めいこうのやいば(武器を使った攻撃の威力が1.2倍になる)
特性3 きしのきょうじ(HPが半分以上ある時、戦闘不能になるダメージを受けても一度だけHP1で残る。HPが半分以下の時、受けるダメージを半減する)

装備 オッカの実(こうかばつぐんのほのお技を受けた時、一度だけ半減する)

HP370/370
MP60/60
こうげき120
ぼうぎょ110
とくこう55
とくぼう90
すばやさ80

技1 ストーンエッジ 消費6 いわ 物理 威力100/命中80 尖った岩を相手に突き刺して攻撃する 急所に当たりやすい(30%)
技2 つじぎり 消費4 あく 威力70/命中100 一瞬の隙を突いて相手を切り払う。急所に当たりやすい(30%)
技3 ごくどういっせん 消費20 あく/はがね 物理 威力120/命中90 辻垣内智葉の必殺技。目にも留まらぬ一撃で相手の全てを奪い去る。相手の能力が+だった場合、それを無効にし、無効にした数だけ自身の同じ能力を+する。
技4 シザークロス 消費3 むし 物理 威力80/命中100 カマや ツメを ハサミのように 交差させながら 相手を 切り裂く



名前  福路美穂子
Lv   57
種族  キキーモラ
タイプ ノーマル/ひこう
特性1 いやしのこころ(ターン終了時、控えにいる仲間の状態異常を三割の確率で回復する)
特性2 ほうしのこころ(交代時、自身の能力が+へと変動していた場合、その半分を交代先の味方に与える 瀕死時無効 バトンと重複可

HP434/434
MP61/61

こうげき20
ぼうぎょ120
とくこう20
とくぼう120
すばやさ60

技1 ひかりのかべ 消費5 エスパー 味方の場に特殊ダメージを半減する壁を張る(最終ダメージを半減する)交代しても5ターンは効果が続く
技2 コスモパワー 消費3 エスパー 自分のぼうぎょととくぼうを一段階あげる
技3 バトンタッチ 消費4 ノーマル 他の味方のポケモンと交代し、かかっていた補助効果を引き継ぐ
技4 リフレクター 消費5 エスパー 味方の場に物理ダメージを半減する壁を張る(最終ダメージを半減する)交代しても5ターンは効果が続く



名前 新子憧
Lv49 
種族 メガエルフ
タイプ くさ/エスパー
特性1 かちき(ステータス低下を受けた時、とくこうが二段階あがる)
特性2 たいまのちから(とくこう依存による攻撃を受けた時、最終ダメージを半減する)
特性3 しんまのいのり(エスパー/フェアリータイプのわざの威力を1.3倍にし、あく/ゴーストの威力を半減させる)

装備:オッカの実(効果抜群のほのお技を受けた時、一度だけ威力を半減する)

HP 260/260
MP 91/91 

こうげき55
ぼうぎょ60
とくこう130
とくぼう110
すばやさ110

技1 エナジーボール 消費5 くさ  特殊 威力90/命中100 自然から集めた命の力を発射する 相手のとくぼうを下げる事がある(10%)
技2 サイコショック 消費5 エスパー 威力80/命中100 不思議な念波を実体化して相手を攻撃する 相手のぼうぎょでダメージ計算
技3 いばらのや 消費20 くさ/エスパー 特殊 威力120/命中90 新子憧の必殺技。いばらで出来た矢を放つ。最大HPの1/16の継続ダメージ。交代不可(3ターン)
技4 ムーンフォース 消費6 フェアリー 威力95/命中100 月のパワーを借りて相手を攻撃する。30%の確率で相手のとくこうを1段階下げる。



名前 大星淡
Lv35
種族 デミメデューサ
タイプ いわ/どく
特性1 あまのじゃく(能力の変化が逆転する)

HP 230/230
MP 39/39

こうげき90
ぼうぎょ100
とくこう40
とくぼう60
すばやさ40

技1 へびにらみ 消費7 ノーマル 変化 命中100 強く相手を睨みつけて、麻痺にする 
技2 かなしばり 消費3 ノーマル 変化 命中100 相手の動きを止めて、最後に使った技を4ターン使用不能にする
技3 がんせきふうじ 消費5 岩 物理 威力65/命中95 岩石を投げつけて攻撃する。相手の素早さを一段階下げる(100%)
技4 どくどくのキバ 消費5 どく 物理 威力50/命中100 毒の力を込めたキバで噛み付き、相手を猛毒にする(50%)


福路美穂子はコットンガードを覚えたい…
 Lコットンガード 消費5 くさ 自分のぼうぎょが3段階あがる


しかし技がいっぱいだ


どれを忘れますか?


福路美穂子はコットンガードを覚えずに終わった


大星淡は新しくじならしを覚えたい…
Lじならし 消費4 じめん 物理 威力60/命中100 1相手のすばやさを1段階下げる(100%)


しかし技がいっぱいだ


何を忘れますか?


1…2…ポカン


大星淡はかなしばりを忘れた


そして…


新しくじならしを覚えた


<<大事なもの>>
幸せタマゴ パートナーに装備させるとレベルアップが二倍になる (要20枚)

現在のハートのウロコは27枚あります


辻垣内智葉はせいなるつるぎを覚えたい…
 Lせいなるつるぎ 消費5 かくとう 威力90/命中100 相手のバフに関係なく、ダメージを与える


しかし、技がいっぱいだ


どれを忘れますか?



1…2…ポカン


辻垣内智葉はシザークロスを忘れた


そして…


新しくせいなるつるぎを覚えた


尚、羞恥心は大事なものなので捨てられません