京太郎「(…しかし、前回の戦いではタイプ相性の重要さを改めて感じた)」

京太郎「(幾ら智葉が強くても、やはり不得意な相手にはどうにもならない)」

京太郎「(憧や美穂子だって弱点を突かれたら仕事が出来る確率がグッと減る)」

京太郎「(だから、やっぱりここは…!)」

京太郎「お願いします、臼沢さん!」

京太郎「また俺の特訓に付き合って下さいっ!」

塞「良いよー」

さっすがー臼沢さんは話が分かるー!
正直、また仕事中だから断られるもんだと思ってたぜ…。
つか、軽く請け負ってくれてるけど本当に良いんだろうか。

塞「まァ所詮、受付の仕事なんてあってないようなもんだしね」

塞「部屋もぼ満室で、チェックアウトのお客様なんてまず出ないし」

塞「今日は珍しく仕事したけど、一週間に一回あるかないかくらいだよ、実際」

京太郎「何かあったんですか?」

塞「あァ、私達と同時期に救出された子たちがこっちに来たんだよ」

塞「色々と便利な能力を持ってるから後で訪ねてみれば良いんじゃないかな」

塞「まぁ、今は引っ越しの準備とか色々で忙しいから会えないだろうけどね」

へぇ…まだ智葉さん達以外にも救出された子達がいたのか。
まったく話に出てこなかったからてっきり三人だけだと思ってた。
接点があんまりなかったのか、或いは突然、何もないところいきなり設定が生えてきたのか。
…うん、間違いなく前者だな。

塞「ほーら、何、よそ見してるのさ?」

塞「せっかくの特訓なんだからこっち集中してくれないとダメだよー?」

京太郎「っと、すみません」

塞「ふふ。まァ、私は須賀くんが望むなら別にねっとりじっくりやっても良いんだけどね」ニンマリ

京太郎「魅力的なお誘いですが、遠慮しときます」

塞「あら、つれない」

俺も智葉や美穂子がいなかったら一も二もなくその提案に飛びついてただろうけどなぁ。
でも、流石に部長の件で少なからず二人を傷つけている現状、他の女性とあんまり二人っきりになりすぎるのは不誠実だろう。
一応、二人には臼沢さんとの特訓のことは伝えてあるが、それでも長々と続けば不安にさせてしまうだろうし。
正直、臼沢さんの腰と同じくらい飛びつきたい提案なのは確かだが、ここは断っておこう。

塞「じゃ、その分こっちを頑張らないとね」

京太郎「うす」

それにまぁこうして特訓するのに臼沢さんの時間も取ってるんだ。
幾らあまり仕事がないとは言っても、長々と時間をとり過ぎるのはアレだろう。
どうせもうちょっとでオカルトも習得出来るんだ。
臼沢さんの為にも、二人の為にもパッパと習得してしまおう。

京太郎「…ふぅ」

…なんかちょっと今日は振るわなかった感じか。
狙いのものは習得できたんだけど、もっと先もあったような気がするんだよなぁ。
でも、最初の段階でちょっと躓いちゃった所為でそこに踏み込む余裕がなかった。

塞「お疲れー。そして習得おめでとうね」

京太郎「ありがとうございます。…まぁ、ちょっと不満ではありますけど…」

塞「何?私の教えたオカルトってそんなに使えなさそう?」

京太郎「い、いや、そんな事ないですよ」

京太郎「寧ろ、迷宮探索には必須って感じです」

このオカルトを応用すれば相手の持っているこうかばつぐん技が分かる。
タイプ相性が重要な迷宮探索において、それが生み出すアドバンテージはかなりのものだ。
下手に智葉たちを傷つける必要がなくなるのだから、俺としては喉から手が出るほど欲しかったのである。

京太郎「ただ…もうちょっとやれたような気がして…」

塞「高望みしすぎはダメだぞー青少年」ポンポン

京太郎「う…」

そんな俺の頭を優しく叩く臼沢さんに俺は小さく声をあげた。
羞恥心を込めたそれに、けれど、彼女はニコニコと笑うだけでその手を止めない。
俺が恥ずかしがっているのが分かっているだろうに…ポンポンと優しく触れてくるんだ。
あまりにも優しすぎて止めてくれとは中々言えない俺に臼沢さんはさらに笑みを深くしながら、ゆっくりと手を離した。

塞「まァ、確かに須賀くんだったらもっとやれた気がするけどね」

塞「でも、こういうのは先ばっか見ても足元がお留守になるだけだよ」

塞「とりあえず一つ出来る事は増えたんだから、まずはそれを喜ぼう」

塞「ね?」

京太郎「…うす」

ホント、敵わないなぁ、この人には。
まぁ、俺にとって師匠と言っても良い存在なんだからある種、当然なんだけどさ。
ただ、こうして話していると凄い年上感があるというかなんというか。
一応、経験的には俺のほうが上なはずなんだけど、そんなことをまったく感じないくらいだ。

塞「よし!じゃあ、須賀くんの為に盛大なお祝いしなきゃね!」

京太郎「え?良いんですか?」

塞「うん。折角だし、赤飯炊いちゃおう」

京太郎「ず、ずいぶん盛大ですね」

塞「それだけ私も嬉しいって事よ」クスッ

京太郎「臼沢さん…」

塞「あ、後、ケーキとかも頼まなくちゃ」ポン

塞「とりあえず媚薬入りのホールケーキ一個あれば足りるよね?」

京太郎「何故それをこの流れでチョイスするんですか…!」

なんだその、ごくごく当然の事を確認するような流れは。
媚薬入りケーキなんて、とりあえずで頼むような代物じゃないだろう。
臼沢さんなりに祝おうとしてくれているのは嬉しいが、そのチョイスは絶対に間違っている。


塞「え?どうせ夜はお祝いって言いながら智葉や美穂子とぐっちょぐっちょんになっちゃうんでしょ?」

京太郎「な、なりませんよ…」

い、いや、俺もそんな気がするけれど、特に美穂子辺りが嬉々としてお祝い(性的な意味で)してくれそうだと思うけど!
今のところ俺の中にそういう予定はまったくないし、期待もしていない。
…………多分。

塞「ふふ。でも、媚薬使ってするセックスって病みつきになっちゃうくらいイイらしいよー?」

塞「男としては一回くらい興味あるんじゃない?」

京太郎「う…な、ないとは言いませんけど…」

京太郎「て、てか、臼沢さんってそういうのどこで仕入れてくるんですか…」

塞「そ、そういう事聞いちゃう…?」カァ

そこで照れるのかよ。
いや、確かに普通の女性にとっては踏み込んだ質問だけどさ。
でも、さっきからガンガンエロ話振ってきてる臼沢さんがそこで照れられるとこっちもペースが狂うというか何というか…!

塞「ま、まぁ、色々と情報網があるのよ」

京太郎「…つまりただの耳年増だと?」

塞「し、仕方ないじゃない、そういう相手いないんだし…」プイッ

京太郎「じゃあ、そういう情報仕入れるよりも先に相手見つける方が良いんじゃないですかね…?」

塞「うぐぅ…」グサッ

あ、どうやら今の発言はちょっとまずいかったらしい。
俺の言葉に胸を抑えた臼沢さんが机に突っ伏してしまった。
微かにその目尻が潤んでいる辺り、結構、ガチで気にしている事だったのかもな…。
ちょっと…いや、かなり悪いことをしてしまったかもしれない…。

京太郎「ま、まぁ、ほら、そういうのは時期って言うのもありますしね!」

京太郎「臼沢さんに相応しい相手って言うのも何時か現れますよ!」

京太郎「そ、それより臼沢さんの好みの相手とかっていないんですか!?」

京太郎「俺、知っていたら紹介しますよ!」

塞「好みの相手…かぁ」

塞「…………王様」ポソッ

京太郎「え?」

王様?
それってもしかして王族とかそういうやんごとない身分の方が良いって事ですか?
今の時代に玉の輿狙いですか!?
いや、まぁ、俺だって塞さんになら乗って欲しいけど!顔面騎乗バッチコイだけど!!
流石に一介の男子高校生に王族を紹介しろというのは中々に無理ゲーだと思う。

塞「…なんでもない」フゥ

塞「まァ…私だって普通の女の子だから誠実で優しい男の人とかがやっぱり一番の理想かな」

塞「浮気はしても良いけど、私の事を不安にさせないくらいしっかり愛してくれるとか憧れるね」

京太郎「…それって誠実って言うんですかね?」

塞「少なくとも女の子にとっては偽りがなく真面目ではあるでしょ」

塞「それに口で言うほどこれって簡単な事じゃないしね」

塞「普段から信頼関係をしっかり築けてなかったらまず無理だし…」

塞「それがあってもマメなフォローや気遣いがなければ、そういう風にはなれないだろうしさ」

京太郎「信頼関係…か」

…俺と智葉にはそういうのが欠けているのかなぁ。
いや、そもそも俺自身、あまり彼女に対してマメなフォローとか気遣いがちゃんと出来ていないのかもしれない。
何にせよ、智葉をアレだけ不安にさせてしまうのは、俺に色々なものが足りていないからなのだろう。

塞「ま、結局のところ男の甲斐性だよね」

塞「お金とかそんなんじゃなくてこの人なら全部捧げられるってそう思えるような人であれば浮気とか気にならないでしょ」

京太郎「…すげぇ難しそうですね」

塞「そ。だから、私の理想は結構、高いの」

塞「須賀くんじゃまだまだ無理かなー?」クス

京太郎「そりゃ残念ですね」

…でも、臼沢さんの理想にはなれなくても、彼女の言葉を活かす事は出来る。
いや…ただでさえ不誠実な真似をしている以上、それを活かさなきゃいけないんだ。
勿論、その道のりはきっと口でいうほど簡単じゃないだろうけど…それでも俺は智葉や美穂子の恋人にはなんだから。
二人が俺に全部捧げられるような甲斐性のある男にならなきゃいけない。

塞「もう。少しは本気で残念がりなさいよー」

京太郎「いやーざんねんだなー」

塞「超棒読みじゃない…まァ良いけど」

塞「それよりさ、人に聞いてばっかりじゃ不公平だと思わない?」キラーン

あ、これダメな奴だ。
目がすっげえぇキラキラしてる。
まるで悪戯を思いついた子どものようなその臼沢さんはまずい。
急いで逃げなければ面白がって色んな事をされてしまう…!

京太郎「あ、すみません。俺、ちょっと用事を思い出したんで」

塞「ふふふ。ちょっと待ちなさいよ」ガシッ

京太郎「ぬぉあ!」

塞「ねーねー。智葉と美穂子、どっちが本命なの?」

塞「そろそろ教えなさいよ」プニプニ

京太郎「うぐぐ…!」

くそぅ…逃げられなかったか…!
俺の手をガッチリ捕まえているその手に逃す意図はまったくない。
どうやらさっきの仕返しに根掘り葉掘り聞くつもりのようだ。

京太郎「どっちも本命ですよ」

塞「えー…そういう逃げるような答えは良くないと思うなぁ」

塞「誰にも言わないから私だけに教えなさいよー」

うぐぐ…しかも、まったく信じてくれないし…!
これは解放されるまで結構、長く掛かるかもなぁ…。
こんな風にシラフでも絡み酒みたいな真似をするところさえなければ本当に良い人なんだけど…。
…まぁ、何はともあれ… ――

京太郎「(どうやったらこの話題を上手く逸らす事が出来るかを考えなきゃな……)」



System
臼沢塞の好感度が25になりました → <<結局、逃げられちゃった…>>

須賀京太郎はきけんよちを覚えた
Lきけんよち 相手がパートナーにこうかがばつぐんの技を持っている事を察知する 相手の出現時のみ効果がある



―― それから臼沢さんには根掘り葉掘り聞かれてしまった。

どっちが本命かに始まって、智葉はどんな体位が好きだとか美穂子はどんなプレイが好きだとか…。
答えられるものには答えたが、それでも中々、彼女は満足してくれなかった。
…つーか、あんだけ友人のエロプレイの事聞いて臼沢さんはどうするつもりなんだろうか。
そうやって耳年増のレベルをあげても、恋人は出来ないと思うんだが…。

菫「あぁ、須賀くん」

京太郎「お、弘世さん」

そんな事を考えながら部屋に戻ろうと廊下を歩いている途中、弘世さんに出会った。
その手に色々な買い物袋を下げている辺り、買い物帰りなのかもしれない。
見てる限り、中に入っているのは服が殆どだし…きっと大星さんの分の着替えとかを買った帰りなんだろうな。

菫「丁度、良かった。少し話があるんだが良いか?」

京太郎「えぇ。構いませんよ」

智葉たちが部屋で俺の帰りを待っているだろうが、別に二人に早く会わなきゃいけない用事があるって訳じゃない。
臼沢さんとの特訓…と言うかその後の雑談で結構、時間が経ってるから早めに戻りたいが、それは弘世さんの誘いを断る理由にはならない。
こうして折角誘ってくれているんだからホイホイとついていくべきだろう。

菫「良かった。それじゃあ私の部屋に来てくれるか?」

京太郎「…良いんですか?」

菫「今更、君に隠すところなんてないさ。もう既に一番恥ずかしいところまで見られてるんだから」クスッ

京太郎「い、いやぁ…その…例の件は本当に申し訳なかったです…」

菫「…ん?どうして謝る必要があるんだ?」

京太郎「いや…だって…」

何せ俺は弘世さんの素っ裸を見てしまった訳だからなぁ。
その小ぶりなおもちからプリンとしたお尻まで全部。
流石に具とかは見えなかったが、年頃の女性としては恥ずかしいだろう。

菫「別にそうやって気に病む必要はないさ」

菫「私のそういったところを見たのが須賀くんで良かったと今は安心してるよ」

京太郎「え?」

菫「少なくとも、またあんな機会があるんだとしたら、いや…あってほしくはないが…」

菫「でも、もしあった場合、私の恥部を見るのは出来れば君であってほしいなと思ってる」

京太郎「そ、それって…」

こ、今度はアソコまで見せてくれるって事ですか!?
や、やべぇ…ちょっと興奮してきたかも…。
まさか真面目そうな弘世さんからこんな形でアプローチがあるだなんて…!
だ、だが、落ち着け、クールだ、クールになるんだ。
なあに、ちょっと黒髪ロングでスラリとしたスレンダー長身美少女に露出プレイに誘われただけじゃないか。
…………ってどう考えてもだけじゃねぇよチクショウ!

京太郎「い、いや、でも、そういうのは良くないと思うんですよ!」

菫「…え…そ、そうか…?」

京太郎「そ、そういうところを見せるのはやっぱり恋人じゃないと…!」

菫「…それは…そうかもしれないが…」シュン

菫「でも、君は私の事をいつだって助けてくれるってそう約束してくれたんだろう?」ジィ

京太郎「う…そ、それは…」

確かに俺は弘世さんとそう約束した。
いつだって彼女の味方であるとそう誓ったのである。
その気持ちは今も間違いなく変わっていない。
だけど…だけど、だからって露出プレイに付き合うのはちょっと保証外といいますが!
俺だって男なんだからそういう事に付き合わされると辛抱堪らん訳ですよ!

京太郎「で、でも、裸を見せるのはやっぱまずいと思うんですよ!」

菫「…え?」

京太郎「ほ、他のことなら付き合いますが…お、俺、弘世さんの裸とか見たら絶対我慢出来ないですし!」

京太郎「絶対、弘世さんに飛びついて胸揉んだり色々しちゃって…間違いなく襲っちゃいますから!」

京太郎「だ、だから、や、止めましょうよ、ねっ!」

菫「ば…ば…っ!」カァァ

よし、弘世さんの顔が赤くなっている…!
どうやら今更ながらに羞恥心を思い出してくれたらしい。
このまま押し切れば、何とかなし崩し的に露出プレイをお流れにする事が出来るだろう。


京太郎「お、俺はほら結構…つかかなり性欲強い方なんで!」

京太郎「一回スイッチ入ると全然止まらなくて、射精しながら腰振ったりしますし!」

菫「ふぇ…っ」マッカ

京太郎「一回や二回射精した程度じゃ寧ろ興奮してもっともっとって求めちゃうんですよ!」

京太郎「最近は智葉や美穂子の方が先に気を失う事も多いくらい性欲魔神です!」

京太郎「だ、だから、そんな奴に襲われる危険性があるような事はするべきじゃ…」

菫「ば、ばか!私が言っているのはそういう事じゃない!」プシュウ

京太郎「…え?」

菫「わ、私がもう一度、迷宮に囚われた時の話をしているんだ!!」

京太郎「…あ」

…あ、あー…なるほど。
そっちかー…そっちだったかー。
うん、俺もね、途中でちょっとおかしいな?とは思ったんだよ?
弘世さんが露出プレイのお誘いするなんて変だな―って違和感くらいはあったんですよ?
でもさ、やっぱり美少女がそういうお誘いしてくれてるってなると冷静になるなんて難しい訳で。
何が言いたいかと言うと…まぁ、つまり…… ――

京太郎「すみませんでしたああああああああああ!!!!」

…ここは土下座するしかないよなぁ…。

菫「はぁ…も、もう…まったく…まったく君は…」

菫「何が悲しくて友人の性活や性癖を聞かされなきゃいけないんだ…」ブツブツ

京太郎「いや…ホントごめんなさい」

だが、俺の土下座程度で弘世さんの機嫌は治らないらしい。
彼女の荷物を部屋へと運び、お茶を出してもらっても尚、弘世さんは不満げにブツブツと呟いていた。
その顔に隠し切れない紅潮が浮かんでいるのはやっぱり未ださっきの羞恥を引きずっているからなのだろう。

菫「…まぁ、良いけどな。少し安心もしたし」

京太郎「え?」

菫「…君が私との約束を忘れるような男じゃない事を…だ」

菫「…言っておくがちょっと怖かったんだぞ」

菫「君に見捨てられたんじゃないかと思って…本当は泣きそうになってたんだからな」

京太郎「…すみません…」

うん、これもう一回土下座した方が良いんじゃないですかね?
つーか、もう五体投地レベルじゃねぇかな!?
あぁ…くっそ、俺、何をやってるんだよ、マジで。
俺との約束が逆に弘世さんを傷つけるなんて最悪だろう…。

菫「…もうその話は止めにしよう」

菫「他にも色々と話したい事があるしな」

京太郎「で、ですね」

菫「…と言っても…何から話したものか…」

そこで弘世さんは逡巡するような表情を浮かべながらカップを持ち上げた。
その顔にはさっきのような羞恥や拗ねるようなものはあまり見えない。
実際は微かに残ってはいるものの、それを積極的に表に出そうとはしていなかった。
彼女もさっきの話をもう忘れようとしてくれているのだろう。

菫「…そうだな。少し主題とはズレるが私達チーム虎姫の話を聞いてくれるか?」

京太郎「虎姫の…ですか?」

チーム虎姫。
それは歴代最強とまで言われた白糸台のチームの事だ。
先鋒の照さんを始め、大将の大星さんまで攻撃型の雀士で揃えられた前のめりなチーム。
清澄と戦い、惜しくも優勝こそ逃したものの、その圧倒的な火力は本当に恐ろしかった。
一歩間違っていれば優勝していたのは間違いなくチーム虎姫の方だっただろう。


菫「…そもそもチーム虎姫はインターハイ制覇の為に作られたチームじゃない」

京太郎「え?」

菫「虎姫は淡の為のチームだった」

菫「淡は…君も知っての通り、価値観が少しばかり歪んでいる」

菫「実力は確かだが、相手を自分よりも強いか弱いかでだけしか判断しない」

菫「勿論、認めるところがあれば認めるが、それだけだ」

菫「自分よりも弱いと判断した相手には高圧的に接する」

菫「そんなアイツに顧問も手を焼いていてな」

菫「淡が唯一なついている照に相談したんだ」

京太郎「…それで出来たのが…」

菫「あぁ、そうだ」

菫「チーム虎姫。淡が認めざるを得ないような超火力で相手を圧倒するチーム」

菫「淡が少しでも協調性をもてるようにと…照が作ったのがチーム虎姫だ」

…なんて言うか…すげぇな。
協調性のない大星さんがそれを少しでももてるようにチームまで作ってしまうなんて。
それだけ大星さんが期待されていたのか、或いはそれだけ照さんが人望を集める人だったのか。
弘世さんの何処か嬉しそうな口ぶりから察するに、もしかしたら両方なのかもしれない。


菫「だから…まぁそれだけ面倒な奴なんだ、淡は」クスッ

京太郎「…嫌じゃなかったんですか?」

菫「そうだな…。まぁ、一度、凹ませてやろうとそう思ったことはやっぱり幾度となくあるが」

やっぱりあるのか。
まぁ…そりゃそうだよなぁ。
幾ら弘世さんが面倒見が良いとは言っても、あんだけ色々言われて平然と流せるはずがない。
超名門校の部長ともなれば実力にも自負はあるだろうし、きっと悔しかっただろう。

菫「…だけど、あいつは麻雀にはとても真摯だった…いや、真摯すぎた…と言うべきかな」

菫「授業を頻繁に抜けだしていたのも麻雀の練習をする為だったし…練習は誰よりもまじめに打ち込んでいた」

菫「それこそ…鬼気迫るくらいな勢いでな」

菫「…そんな姿を見て嫌う事なんて出来ないさ」

菫「痛々しいくらい周りから孤立して、麻雀に打ち込む奴なんて…放っておけないだろう?」

京太郎「弘世さん…」

だが、彼女はそれ以上に面倒見が良かったんだろうな。
それこそ大星さんの為に何もかもを背負い込んでしまうくらいに。
そして弘世さん自身、それを決して嫌だとは思っていなかった。
彼女が最後に漏らした恨み言には大星さんに向けたものはなかったのだから。
だからこそ、その心が壊れてしまいそうになるまで弘世さんはそれを背負い込み続けてしまったんだ。


菫「…だから…そんなアイツを助けだしてくれて君には本当に感謝している」

菫「…そして…一つ頼み事があるんだ」

京太郎「なんでしょう?」

菫「…淡の事を気にかけてやってくれるか?」

菫「アイツは君も分かっている通り、面倒な奴だ」

菫「素直じゃないし、人のことを見下すし、口は悪いし、お菓子を食べる時はボロボロこぼすし、お菓子を食べる前に手を洗わないし…」

オカンか。

菫「でも…本当は優しい奴なんだ」

菫「私にも何度か不器用な優しさを掛けてくれた事があった」

菫「落ち込む亦野を自分なりに励まそうとしていた事もあった」

菫「尭深が珍しく失敗したお茶を文句も言わず飲んでいた事もあった」

菫「…アイツはきっと周りが思っているほど…そして自分で思っているほど悪い奴じゃない」

菫「それは…君も少しは理解してくれているんじゃないだろうか」

京太郎「…えぇ」

確かに大星さんは色々と欠点が目立つ人だ。
それは俺よりも良く知っている弘世さんがそういうのだからやっぱり確実なのだろう。
だが、それでも…大星さんは決してそれだけじゃない。
面倒ではあるが、それでも彼女なりに優しい気持ちは持っている。
それは俺のあの迷宮で幾度となく見ていたし、大星さん自身の口からも聞いていた。

菫「…ありがとう」フゥ

菫「…だからこそ、私はそんな君に淡の支えになってやって欲しい」

京太郎「弘世さんは…?」

菫「私はアイツにとって中々、顔を合わせづらいみたいでな」

菫「意識が戻ったと聞いてさっきも会いに行ったが…結局、扉を開けてはくれなかった」

そう言って弘世さんは寂しそうに笑った。
何処か自嘲気味なそれはきっと大星さんの気持ちを勘違いしているのだろう。
最後のインターハイの年、三連覇を逃した事を弘世さんもまた悔やんでいるんだ。
大星さんが自分に会ってくれないのは自分が不甲斐なかった所為だとそう思っているのかもしれない。

菫「そこの服もあいつの着替えに、と思って準備していたんだがな」

京太郎「オカンか」

菫「え?」

京太郎「あ、いや、すみません。なんでもないです」

思わずツッコミを入れてしまった。
まぁ、それはさておき…今までの事で弘世さんはとても大星さんの事を心配していたって事は伝わってきている。
こうして俺の事を部屋へと呼んだのも自分のかわりに大星さんを頼む為なのだろう。
そんな彼女に俺は一体、何を言えばいいのだろうか。


京太郎「じゃあ、一緒にしましょう」

菫「…え?」

京太郎「大星さんの世話ですよ」

菫「いや…だが…」

京太郎「大丈夫です。大星さんは別に弘世さんの事を嫌ったりしていませんから」

京太郎「寧ろ、彼女の方が弘世さんに合わせる顔がないってそう思っているはずですよ」

菫「…本当か?」

京太郎「えぇ。俺は迷宮ではっきりとそう聞きましたから」

人の心をそのまま顕にするようなあの迷宮は正直、あまり好きではない。
だが、そこで感じたこと、聞いたことは、決して嘘ではないと信じる事が出来る。
あの時、大星さんが漏らした言葉もまた嘘じゃない。
涙を浮かべて彼女が言った言葉が嘘なはずないんだ。

京太郎「今は中々、顔を合わせづらいかもしれません」

京太郎「ですが、何時かはきっと大星さんの方から謝ってくれるはずですよ」

菫「…謝る?淡が?」

京太郎「えぇ。きっと」

きっと大星さんはあの迷宮の中で変わる事が出来た。
少しだけ過去を振りきって、前へと進む事が出来たんだから。
きっと彼女は弘世さんにも謝る事が出来るだろう。

京太郎「じゃあ、一緒にしましょう」

菫「…え?」

京太郎「大星さんの世話ですよ」

菫「いや…だが…」

京太郎「大丈夫です。大星さんは別に弘世さんの事を嫌ったりしていませんから」

京太郎「寧ろ、彼女の方が弘世さんに合わせる顔がないってそう思っているはずですよ」

菫「…本当か?」

京太郎「えぇ。俺は迷宮ではっきりとそう聞きましたから」

人の心をそのまま顕にするようなあの迷宮は正直、あまり好きではない。
だが、そこで感じたこと、聞いたことは、決して嘘ではないと信じる事が出来る。
あの時、大星さんが漏らした言葉もまた嘘じゃない。
涙を浮かべて彼女が言った言葉が嘘なはずないんだ。

京太郎「今は中々、顔を合わせづらいかもしれません」

京太郎「ですが、何時かはきっと大星さんの方から謝ってくれるはずですよ」

菫「…謝る?淡が?」

京太郎「えぇ。きっと」

きっと大星さんはあの迷宮の中で変わる事が出来た。
少しだけ過去を振りきって、前へと進む事が出来たんだから。
きっと彼女は弘世さんにも謝る事が出来るだろう。

京太郎「それにまぁ俺一人で大星さんの面倒見るのはキツイっす」

京太郎「やっぱりこういうのは大星エキスパートである弘世さんの助けがないと」

菫「…なんだその大星エキスパートって言うのは」クスッ

京太郎「長年、ツンデレ娘の面倒を見てきたオカンへ送られる称号です」

菫「お、オカンって…わ、私はまだそういう年じゃないぞっ」カァァ

それは分かっているんだが、溢れ出るオカンオーラがそれを感じさせないというか。
ぶっちゃけ、弘世さんは今のままでも良いオカンになれると思う。
尚、母親とオカンは別物なので、そこのところは間違えないように。

菫「…だが、少しだけ安心した」

京太郎「え?」

菫「…君にそう言ってもらえると…なんだろうな」

菫「胸の中に言葉が染みわたる」スッ

菫「あぁ、そうなんだなって…受け入れる事が出来るんだ」

菫「少なくとも…さっきまで大星に拒絶された事がショックだったのに…」

菫「今の私にはそれがなくなっている」

菫「君の言葉を完全に信じているんだ」

京太郎「…弘世さん」

…微かに胸を抑えて言葉を漏らす彼女の表情は穏やかなものだった。
俺の言葉が染みわたると、そう言った言葉が嘘とは思えないほど安らいだもの。
女性らしい柔らかさを感じさせるその笑みに俺は少しだけドキッとしてしまった。
聞いているだけでも恥ずかしい彼女のセリフも相まって、頬が微かに紅潮するのを感じる。

菫「…だから、私はそんな君に…これを預けたい」スッ

京太郎「これは…」

菫「君の持つCOMPと私の生体データとリンクさせる為のチップだ」

京太郎「…弘世さん?」

菫「私を君の迷宮探索に連れて行ってくれないか?」

京太郎「っ!」

次いで告げられた弘世さんの言葉に俺の表情が強張る。
確かにこれから次の迷宮へと進むという段階で新しい戦力は欲しい。
これから先も戦闘が激化の一途を辿る事を考えれば、アレほど苦戦した弘世さんの力は魅力的だろう。
だが…それは彼女がまた命の危機に瀕することを意味するのだ。

菫「先に言っておくが別に考えなしにこんな事を言っている訳じゃない」

菫「本当は…淡を助けに行く時に言おうと思っていた」

菫「だけど…どうしても私は勇気が出なくて…君たちを見送る事しか出来なかったんだ」

菫「それから二日間…私はずっと後悔したよ」

菫「あの時、どうして言わなかったのかって…私も淡を助けに行くのに手を貸すッて言わなかったんだって」

菫「君たちをベンチで待っている間…ずっとそう思っていた」

京太郎「でも…弘世さんに何かあったら大星さんが…」

菫「そうかもしれない」

菫「だけど…私はそれ以上に私の事をこれだけ助けてくれた君の手助けになりたいんだ」

菫「私を救い出し…淡の事も助けて…こうして今も私の事を励ましてくれる君の力に」

京太郎「…弘世さん」

俺を射抜く彼女の視線はとても力強いものだった。
状況こそ似通ってはいるが、美穂子や憧のような逃避の為の提案ではない。
彼女は心から俺の助けになろうとして仲間入りを提案してくれている。
そんな彼女に…俺は… ――


京太郎「…まずデータを見せてもらって良いですか?」

菫「あぁ。構わないぞ」

名前 弘世菫
Lv 16
種族 デミケンタウロス
タイプ くさ/かくとう
特性1 いかく(自身の登場時、相手のこうげきを下げる)

HP120/120
MP20/20

こうげき70
ぼうぎょ40
とくこう60
とくぼう50
すばやさ90

技1 にどげり 消費3 かくとう 威力30/命中100 二本の足で相手を蹴飛ばして攻撃する 連続攻撃
技2 やどりぎのタネ 消費4 植えつけた相手のHPをターン終了毎に1/8吸い取り自分のHPを回復する
技3 でんこうせっか 消費1 威力40/命中100 目にも留まらぬ速さで相手に突っ込む 必ず先制攻撃できる
技4 ふみつけ 消費2 威力60/命中100 大きな足で相手を踏みつけて攻撃する 相手を怯ませる事がある(30%)


京太郎(…ふむ)」

くさタイプは憧と被っている。
だが、迷宮探索において格闘という新しいタイプは魅力的だ。
ましてや弘世さんの場合、強力な絡め手であるやどりぎのタネと先制技のでんこうせっかを持っている。
高いすばやさを誇る彼女が放つふみつけも決まれば強力だろう。

京太郎「(…どうする?)」

第二層であれだけ苦戦しただけあって弘世さんは強い。
レベルが一段劣っているが、それだって学習装置を使えばすぐに引っ張り上げる事が出来るだろう。
仲間になれば間違いなく強力な戦力になってくれる。
そんな彼女に俺は…… ――


京太郎「…すみません。やっぱり…」

菫「…私では君のメガネに適わなかったか…」シュン

京太郎「いえ、そんな事はありません」

京太郎「寧ろ、仲間になってくれたらとても心強いと思います」

京太郎「ただ…」

菫「…ただ?」

京太郎「俺はやっぱり弘世さんは大星さんの側に居てあげて欲しいです」

俺の事なんて忘れているであろう大星さんにとって頼れるのは弘世さんだけだ。
今はまだ顔を会わせる事は出来ないが、いずれきっと弘世さんが彼女の心の支えになる。
そんな大星さんから弘世さんを奪い、あまつさえ命の危険もあるような場所に連れて行くのはやっぱり出来ない。
元々、弘世さんを護るとそう誓って迷宮から連れだしたのもあるし、やはり彼女の提案を受け入れるのには強い抵抗があるのだ。

菫「…そう…か…」

京太郎「すみません…俺…」

菫「いや…君は何も悪くない」

菫「君の判断は決して間違ったものではないのだから」

京太郎「…はい」

弘世さんはそう言いながらも、その顔から落ち込んでいるような色は消えなかった。
彼女自身、強い覚悟を持って提案したものを俺は蹴ってしまったのだから当然だろう。
きっと弘世さんのことを少なからず傷つけてしまった。
そうは思いながらも俺はさっきの言葉を撤回する事は出来ない。
俺にとってさっきのそれが最良の答えであったという思考は未だ変わっていないのだから。

菫「…だが、一つだけ約束してくれるか?」

京太郎「なんでしょう?」

菫「…必ず帰ってくると」

菫「私に誓ったあの言葉を…決して違えないと」

京太郎「…勿論です」

元々、迷宮探索は俺一人で出来るものじゃない。
俺の判断に従い、そして俺を護ってくれる心強い仲間が三人もいるのだ。
そんな彼女達を無事に戻す為にも、俺は必ず帰ってくる。
弘世さんとの約束はその決意を硬くするものだった。

菫「…言っておくが、私は約束を破った時には怖いぞ」

菫「君がなんと言おうと必ず君を探しに行くからな」

菫「…だから、大星と私の為を思うなら…絶対に帰ってきてくれよ」

京太郎「えぇ。必ず弘世さんのところへ帰ってきます」

京太郎「何があろうと必ず」

菫「…うん」

その瞬間、弘世さんが浮かべる笑みは寂しそうなものだった。
俺の選択を受け入れ、約束を交わしても尚、彼女は立ち直っては居ない。
そんな彼女を見ているのは辛いが…これも俺が選んだ結果なのだ。
弘世さんがせめて表面だけでも立ち直るまで付き合うのが俺の責任だろう。

京太郎「…でも、なんだか今のやり取りって単身赴任の夫を見送る新婚みたいですよね?」

菫「ふぇ…!?」カァァ

京太郎「いやー可愛かったです、さっきの弘世さん」

菫「ば、バカ!いきなり何を言っているんだ、君は!!」マッカ

そんな俺のからかいに弘世さんは真っ赤になって反応してくれる。
普段は真面目でキリッとした彼女のその可愛らしい反応に俺は笑みを浮かべた。
それはまだぎこちないものかもしれないが、きっとそう遠くない内に本心からのものになるだろう。
少なくともこうしてこうして彼女とする下らない話が、少しだけ出来てしまった俺と弘世さんの間の溝を埋めていっている。
そんな実感と共に俺は弘世さんをからかい続け… ――

菫「…もう。バカ…」ムスー

京太郎「ご、ごめんなさい…」


―― 結局、彼女が頬をふくらませるまで調子に乗り続けてしまったのだった。



System
弘世菫の好感度が30になりました → <<信じているぞ、君の事を>>
おや…?弘世菫の様子が…


―― まぁ、そうやって拗ねさせてしまった以上、そのままでは帰れない訳で。

俺は今、大星さんの病室代わりになっている部屋の前に立っていた。
手に持っているのは弘世さんが購入していた大量の服。
拗ねる彼女に淡に持っていけと押し付けられたその荷物を俺はゆっくりと床へと置いた。
そのまま備え付けられたインターホンを押して、待つ事数秒。

淡「…はい」

インターホンを取った大星さんの声は暗いものだった。
あの迷宮の中で聞いたものと大差ないその声に俺の胸も痛む。
きっと目が覚めてからまだ間もない大星さんは自分が怪物に変わっている事実に苦しんでいるのだろう。
夢の中から現実へと引きずり出し、その事実を突きつけている側の俺としては何度経験しても胸が苦しくなるんだ。

京太郎「えっと…大星さん…ですよね」

京太郎「一応、初めまして」

京太郎「俺、須賀京太郎です。大星さんを助けた…」

淡「私を…」

京太郎「目を覚ましたって聞いて様子がどんなものか気になって」

京太郎「差し入れもあるし、ちょっとだけ話しませんか?」

淡「…………」ガチャン

俺の言葉に応える事もなく、大星さんはインターホンを切った。
扉を開けるつもりなのか、それともそのままだんまりを決め込むつもりなのか。
その判断がつきかねる俺の前でカチャリと鍵が回る音がし、そのまま扉が開いて…… ――

淡「……」

京太郎「……」

菫「……」

淡「……え?え?」

菫「や、やぁ…」

京太郎「あ、お邪魔しますねー」ガッ

淡「えっ!?ちょ、アンタ何やってんの!?」

はっはっは。
開いた扉を無理矢理閉められないように足を差し込んでるんだよ!
そうじゃないと今の大星さんそのまま扉を閉めて逃げ出しそうだからな。
折角、弘世さんを説得して連れてきたっていうのに締め出されちゃ元も子もない。

京太郎「はいはい。弘世さんも折角、大星さんが出迎えてくれたんですからそんな入り口でボーっとしてないで早く入りましょうよ」

淡「出迎えてない!全然、出迎えてないから!!」

京太郎「って言いながら、ちゃんと開けてくれたじゃないですかー」

淡「そ、それはアンタ一人だと思ったから…!!」

淡「っていうか何やってんのマジで!警察呼ぶわよ!!!」

京太郎「もう警察なんてまったく機能してないですし…」

淡「もうやだこの世界ぃ!!」ウワーン

ぶっちゃけ俺も東京に来るまではそう思ってた。
何せ、社会に必要な機能の殆どが麻痺しまくってる訳だからなぁ。
例え、こうして変質者に襲われてもそれを取り締まってくれる奴なんかいない。
まぁ、そんな世界になっても決して悪いものばっかりって訳じゃないんだ。

京太郎「あ、お茶淹れますねー」トテテ

淡「何、人の部屋の中で勝手にお茶入れようとしてんの!?」

京太郎「じゃあ、大星さん、お茶淹れられます?」

淡「そ、それは…出来ないけど…」

京太郎「じゃあ、やっぱ俺が淹れた方が良いじゃないですか」

淡「うん。じゃあ、お願い…って、違う!」

淡「お茶なんて淹れなくても良いからとっとと帰ってよ!」

京太郎「あ、これ差し入れの服です」サッ

淡「あ、ありがとう」

淡「…あ、結構、センスの良いものあるじゃない」

京太郎「きっと大星さんに似合いますよ」

淡「そ、そうかな…?ちょっと試着して良い?」

京太郎「どうぞどうぞ」

淡「えへへ」トテテ

淡「…………」ピタッ

淡「じゃなああああああああい!!」ダンッ

淡「そういうの良いからとっとと出てけって言ってるの!」

見事なノリツッコミである。
いや、本人的にはきっと狙ってやったものじゃないんだろうけど。
色んな意味でチョロいと言うか、ちょっとアホと言うか。
憧と同じく意地っ張りなようで、ノリが全然違う。
これはちょっとおもしろいかもしれない。


菫「…」テレテレ

淡「菫先輩も、なんで照れてるんですか!」

菫「い、いや…それは…」

京太郎「それは弘世さんが大星さんの為に買ったものだからですよ」

淡「…え?」

京太郎「大星さんが迷宮から助けだされたって聞いて…少ないお金を握りしめ、自分はボロの服を着ながらも、貴女にだけは恥ずかしい思いをさせたくはないと…!」

淡「す、菫先輩…」ジィン

菫「そ、そこまでお金に困っている訳じゃない…!」

菫「だ、大体、大星だって救出された際に生活費の援助がある事くらい聞いただろう!?」

菫「それをちょっと使っただけで別に恩に着せるほどのものじゃないさ」

京太郎「でも、これだけの量ともなれば結構な金額になりますよね?」

菫「それは…」

魔法という今まで現代社会が傷つきあげてきた常識とは何だったのかな不思議パワーが出来たお陰で日本ではエネルギー問題が解決した。
だが、それとは逆にセックスだけで生きる事が出来るようになった人々は労働というものを殆どしなくなったのである。
それでも一部の真面目な青年美女たちが頑張ってはいるが、それでも以前ほどの供給量を維持出来てはいない。
需要も大きく減り、コストも大幅に削減されたお陰で価格が大きく変動してはいないが、それでもこれだけの量ともなれば彼女の負担も大きいだろう。


菫「…これはお詫びの意味もあるからな」

淡「…え?」

菫「私が不甲斐ないせいで淡…お前の実力を引き出してやれなかった」

菫「そして…その後も色々と周りに言われるようになった時も…庇ってやれなかった」

菫「…本当に…すまなかった」

淡「あ…」

そう言って弘世さんはゆっくりと頭を下げた。
見事に直角を示すその腰は、それだけ大星さんに負い目があった証だろう。
責め立てられて辛かったのは大星さんだけじゃなかったのに、彼女はあの時に庇えなかった事を悔やんでいるんだ。
…本当に自分に厳しい人だな、弘世さんは。

淡「わ、わ…私……」

京太郎「…大星さんも弘世さんに言う事があるんじゃないですか?」

淡「…え…?」

京太郎「色々、思ってる事あるんでしょう?」

淡「う…」

そんな弘世さんから大星さんが目を逸らした。
まるで自分の弱さそのものから目を背けようとするような彼女に俺は言葉を投げかける。
彼女の心に問いかけるようなそれに、大星さんは表情を強張らせた。
それはきっと俺の言葉が図星だったからなのだろう。

淡「あ、アンタに私の何が分かるのよ…!」

京太郎「まぁ、昨日今日会ったばかりの人間ですし、まだ分からない事も多いですが」

淡「だったら…!」

京太郎「でも、俺は大星さんが本当は優しい人だって事知ってます」

淡「ぇ…っ?」カァ

京太郎「麻雀の事が大好きで、子どもっぽいところがあって、意地っ張りで、寂しがり屋で、トラブルメーカーで、傲慢で…」

京太郎「そして弱い人だって事も俺は知ってます」

淡「私は弱くなんか…!」

京太郎「でも、強くもないでしょう?」

淡「そ…れは…」

言いよどむ大星さんは自分の弱さを誰よりも知っている。
インターハイ団体戦決勝で敗北した時に彼女はそれを嫌というほど自覚したのだから。
彼女からすればほんの一週間前のその記憶は軽々しく否定出来るものじゃない。

京太郎「…もう良いじゃないですか」

京太郎「強いとか弱いとかそんな風に他人を区切って判断するような生き方なんて」

京太郎「そうやって片意地張って一人で生きていくんだって言い聞かせるような生き方なんて」

京太郎「もう嫌だって大星さん自身が思っているんでしょう?」

淡「……」

大星さんは寂しがり屋である。
その本心では何時だって自分の事を受け入れてくれる人を求めていた。
だけど…そんな生き方はもう嫌だって彼女自身がそう言ったのである。
なら…きっともう大星さんの中で答えは出ているはずだ。
あの迷宮の中での出来事は記憶には残らないまでも…人の心を変えるくらいの力はあるんだから。

淡「…私は…私…は…」

京太郎「……」

菫「……」

けれど、これまで生きてきた人生が大星さんの言葉を阻んでいるのだろう。
彼女は何かを言いたそうな顔をしながらも、その唇から意味のある言葉が漏れでてこない。
後少し…後、もうちょっと彼女の背中を押すだけの何かが足りていないんだ。

京太郎「(…なら、俺がそれにならないとな)」

弘世さんはまだ大星さんに対して遠慮がある。
彼女の負い目がその心に踏み込むことを躊躇させているんだ。
ならば、ここで彼女の背中を押せるのは俺しかいない。
この状況をつくりだした無神経で変質者の俺しか…彼女の力になるとそう誓った俺しか…この状況を打破出来ないんだ。
だから…… ――

京太郎「よし。じゃあ、麻雀だな!」

淡「は?」

菫「え?」

京太郎「今、ここに雀士が三人いる…そりゃあ麻雀でしょう」

淡「…え?この流れで?」

菫「私もちょっと理解出来ないんだが…」

京太郎「俺の幼なじみは言いました」

京太郎「麻雀は嘘をつかないと」

まぁ、それが本当なのかは俺には分からない。
俺はその領域に到達できる前に麻雀を止めてしまったんだから。
だが、インターハイに出場し、名門白糸台の部長を務めた弘世さんや宮永照の後継と呼ばれた大星さんなら伝わるはず。
ううん、分からないけど、きっとそう。

京太郎「それにまぁ、勿体無いじゃないですか」

菫「勿体無い?」

京太郎「えぇ。ここにはインターハイクラスの雀士がゴロゴロいるのに麻雀やってないんですよ」

京太郎「今は非常時だからってそれって勿体無くないですか?」

菫「それは…」

京太郎「弘世さんは興味ありません?辻垣内さんとかとの麻雀」

菫「そりゃ…興味はないと言えば嘘になるが…」

京太郎「じゃあ、決まりですね」

淡「わ、私の意思は!?」

京太郎「あ?強制参加に決まってるだろ」

淡「横暴!?ってか、敬語はどこ言ったのよ!?」

京太郎「なんか飽きた」

淡「飽きたって何!?」

まぁ、飽きたって言うよりはこれくらい強引な方が大星さんには丁度、良いって事なんだけどさ。
下手になあなあで済ませようとすれば、彼女は間違いなくあと一歩を踏み出せないだろうし。
それは彼女にとっても、そして弘世さんにとっても良くない。
このまま大星さんが本心を口にしないまま終われば、弘世さんも再び自分を責めるだろうから。


京太郎「とにかく麻雀だ!マージャン大会をするぞ!」

淡「えぇ…」

京太郎「ちなみに豪華賞品があるぞ」

淡「…賞品?」ピクッ

京太郎「あぁ!俺という豪華な賞品がな!!」

淡「…一気に参加する気がなくなったんだけど…」

京太郎「じゃあ、元はあったって事だよな?」

淡「そ、それは…」

京太郎「それとも白糸台の大将が挑まれた勝負に逃げるのかよ?」ニヤニヤ

淡「~~~!そ、そんな訳ないでしょ!」

淡「辻垣内が何よ!?私が全部蹴散らして優勝してやるんだから!」

京太郎「なんだ、そんなに俺の事が欲しいのか」テレテレ

淡「要・ら・な・い!!!!!」

京太郎「はは。照れちゃって可愛い奴だなー」

淡「照れてなんかないし!この最低男!自意識過剰!!」

はっはっは、意図的にこういうウザキャラ演じてるんだからまったく痛くも痒くもないわ。
まぁ、大星さんがやる気になってくれたようでよかった。
後は皆の予定だけど…まぁ、その辺は大丈夫だろう。
基本的に迷宮探索していない時は皆、暇してるしな。
例外は臼沢さんだけど…あの人がこういうネタに食いつかないはずがないし。

京太郎「って訳で弘世さん…ってあれ?」

菫「…須賀君が景品になるのか…」ブツブツ

菫「これは本気で行かないと…」

菫「やはり最初に落とすべきは辻垣内…だが、福路も曲者だ…」

菫「そもそも一人で突出すると臼沢の餌食になりかねない…ここは中盤まで抑えるべきか…」ブツブツ

京太郎「…あの、弘世さん?」

菫「ハッ…い、いや、何でもないぞ!?」

…いや、なんでもないって割には結構、ガチだったような気が…。
それだけ弘世さんって負けず嫌いだったのかなぁ。
流石に景品が俺だって言ってるのに、そこまで本気になる理由はない訳だし。
そもそもそれが冗談だって事くらい分かっているだろうしなぁ。

………

……


京太郎「(まぁ…何はともあれ…麻雀大会が始まった訳だけど…)」

淡「…!」ゴゴゴゴ

智葉「…」ゴゴゴゴゴゴ

美穂子「…」ニコニコ

塞「…」ドドドド

…うん、あの面子に入りたくねぇわ。
白糸台の大将に、去年の個人戦三位、魔境長野の個人戦一位と永水の薄墨選手を完封した臼沢さん。
どれもこれも俺とは天と地ほども離れてるレベルの雀士ばっかりだ。
実際、俺も早々に飛ばされてドロップアウトしちゃった訳だしなぁ。

菫「…須賀」

京太郎「あぁ、弘世さん」

菫「ここいいか?」

京太郎「えぇ。どうぞ」

そう言って弘世さんは俺の隣に座ってくる。
ストンと力なく腰を下ろすその様は、きっとさっき智葉に役満受けて一気に飛んでしまった事を悔やんでいるのだろう。
とは言え、配牌の時点で役満完成まで一向聴だった彼女のそれにあたったのは半ば事故のようなものである。
もし、弘世さんが振り込んでいなかったとしても、きっと別の誰かがそれにあたっていただろう。

菫「…まずはありがとうな」

菫「君のお陰で大星の顔は大分、明るくなった」

京太郎「まぁ、大星さんがなんだかんだ言って麻雀大好きなのは目に見えてましたから」

小学生時代、周りにボロボロに言われてでも止めなかった麻雀。
人への対応を決める時にさえ持ち出されたそれは彼女にとって決して揺らぐ事のない芯だ。
勿論、最初は若干、怯えもしていたが、今はギリギリの真剣勝負を心から楽しんでいる。
自分の全力をぶつけられる相手に、彼女は喜んでいるんだ。

京太郎「それに…」

淡「よし…ローン!」パラララ

塞「うあー…やっぱそっち塞いどくべきだったかァ…」

智葉「いや、今のは事故のようなものだろう」

美穂子「リーチしてから和了るまでの情報量が少なすぎるものね」

淡「ふふーん。これでまた単独一位!」

智葉「おっと、だが、それもここまでだぞ?」

美穂子「えぇ。ご主人様が景品ともなれば私達も負けられないから」

淡「ふふ…じゃあ、二人まとめて返り討ちにしてあげる!」

京太郎「ああやって麻雀を通してならきっと大星さんも友達を作れると思うんですよ」

思い出すのはずっと俺の隣にいた幼なじみの文学少女の事。
アイツも大星さんとはまた方向性の違うコミュ障だった。
そりゃもう俺以外の奴とろくに会話のキャッチボールなんて出来ないくらいに。
だが、そんな咲も麻雀を通じて、和や優希、そして天江さん達と友達になっていったんだ。
なら…大星さんだって同じ事が出来ない訳がない。

京太郎「まぁ、大星さんを立ち直らせるのを優先した所為で弘世さんにはちょっと申し訳ない事をしたかもしれませんが…」

菫「いや、十分だ」

菫「…淡の気持ちは分からなかったが…でも、あんな風に笑うアイツの顔は久しぶりに見る」

菫「勝ち負け関係なく、麻雀そのものを楽しんでいる顔」

菫「…もう淡はそんな顔なんて出来ないと思っていた」

京太郎「弘世さん…」

菫「だから、私は君に感謝しているよ」

菫「淡を立ち直らせてくれてありがとう」

京太郎「…いや、俺は何もしていませんよ」

俺がやったのは精々、場を整えるだけだ。
こうして大星さんが立ち直れたのは、彼女の本気を受け止められる人たちがいたから、そして何より、大星さんの事を心配する弘世さんがいたからだろう。
俺がやった事よりも、きっと俺以外の誰かが果たした役割の方が、きっとずっとはるかに大きい。

菫「それでも私では…いや、他の誰かでは大星のあんな笑顔を引き出す事は出来なかっただろう」

菫「君は自分のやった事をもっと誇っても良いと思うぞ」

京太郎「誇ったら弘世さんに褒めてもらえますかね?」

菫「…バカ。誇らずとも幾らでも褒めてやるさ」ナデナデ

菫「君の優しさに私は何時も…そして何度も助けられてるよ」

菫「…本当にありがとうな」

京太郎「う…」

冗談のつもりが、まさか本当に褒めてもらえるとは。
正直、予想外過ぎてちょっと胸の奥がこそばゆい。
勿論、嫌な感じじゃないんだけど、頬が妙に熱くなる感じというか。
あー…くそ、こういうのは俺のキャラじゃないよな…!


京太郎「よーし。じゃあ、最下位になった人が今度は弘世さんと交代な!」

淡「えーなにそれー!!」

京太郎「うるせー!主催者権限だよ!主催者権限!!」

淡「なんて横暴な…!」

京太郎「でも、これで終わりなんて惜しいだろ?」

淡「う…そ、それはそうだけど…」

京太郎「だったら、思いっきりやろうぜ」

京太郎「次もまたやりたいってそう心から思えるくらいにさ」

淡「…良いの?」

京太郎「良いも悪いもねぇって」

京太郎「そもそも最初っからこっちはそのつもりなんだからさ」

皆にも一応、そのつもりで話を通しているし、了承もして貰っている。
智葉も美穂子も憧も臼沢さんも…皆、大星さんを立ち直らせる為に多くの時間を割いてくれているんだ。
きっとこの程度で終わりだなんて、この場にいる皆が思っちゃいない。

京太郎「ま、そっちがもうごめんなさい、弘世さんに素直になりますって言うなら勘弁してやっても良いけどさ」

淡「い、言う訳ないでしょ、そんなの!」カァ

京太郎「じゃあ、続行だな」

まぁ、流石にそれだけ大星さんのことを凹ませる事が出来るとは思っていない。
インターハイ団体戦決勝で負けたとは言え、大星さんの実力は化け物と言っても良いレベルなのだから。
この中で真っ向から打ち合えるのは智葉と美穂子くらいなものだろう。
二人は俺の冗談を真に受けて結構本気で打っているが、けれど、今の麻雀が楽しくて仕方がない状態の大星さんをギブアップさせられるほどじゃない。
だからこそ…きっとこの楽しい時間はまだまだ続く。


―― そんな俺の予感をはるかに超えて、かつてのインターハイにて夢を追いかけていた雀士達によるマージャン大会は徹夜のものとなったのだった。



System
大星淡の好感度が15になりました → <<無神経な変質者ヤロー>>

弘世菫の好感度が5あがりました
同行者ボーナスによりさらに5あがり、好感度が40になりました → <<褒めて欲しいなら幾らでも褒めてやるぞ?>>

尚、新子憧はちゃんとマージャン大会に呼ばれていたようです