―― その建物はかつて俺にとって栄光の場所と言っても良いものだった。

多くの雀士たちが真剣にぶつかり、しのぎを削りあったインターハイ会場。
かつての俺が仲間たちと一緒に真剣に目指していたその場所は今、シィンと静まり返っている。
いっそ怖くなりそうなその静けさに俺は思わず生唾を飲み込む。
その静かな建物は最早、この世の常識では測れないような空間になっているのだ。
異次元と言っても良いその場所に今から足を踏み入れなければいけないのだから、やはりどうしても緊張してしまう。

智葉「…須賀」

京太郎「あ、はい」

智葉「入る前にこれを渡しておく」スッ

京太郎「これは…」

辻垣内さんから手渡されたそれはタブレットPCを半分にしたような謎の機械だった。
一体、何に使うのか分からないが周囲にボタンらしいものは殆ど見当たらない。
恐らくスマートフォンのように画面を操作するタイプの機械なのだろう。

智葉「それはCOMPと言うらしい」

京太郎「COMP…ですか?」

智葉「あぁ。まぁ、正式名称は私も分からないが早い話、色々な情報が見れる装置だ」

智葉「今はまだ情報の集積が少ない故に見れるものは少ないが…とりあえず起動してみろ」

京太郎「分かりました」ポチッ

フィフィフィン

京太郎「お、おぉ…」

起動スイッチらしきものを押した途端、なんか画面に魔法陣めいたものが浮かび上がってぐるぐるしてる。
この起動画面を作った製作者はよっぽどの変態か、厨二病かのどっちかだと思う。
少なくとも普通の神経じゃこんな起動画面を設定したりはしないだろう。

智葉「それは今、私と生体情報とリンクしてある」

智葉「画面に私のアイコンが浮かび上がっているのが分かるか?」

京太郎「あぁ、これですね」ポチッ



名前  辻垣内智葉
Lv   1
種族  ???
タイプ あく/はがね
特性1 せいしんりょく(相手の攻撃で怯まない)

HP45
MP5
こうげき85
ぼうぎょ70
とくこう40
とくぼう40
すばやさ70

技1 ひっかく 消費0 ノーマル 物理 威力40/命中100 敵一体を爪で攻撃する
技1 にらみつける 消費1 命中100 相手一体の防御力を一段階下げる



京太郎「…なんか色々出てきたんですが…」

智葉「あぁ、まず順を追って説明しよう」


智葉「名前レベルなどは特に必要ないな」

智葉「早い話、テレビゲームのそれと同じだ」

智葉「実際はかなり細かい数値で管理されているらしいのだが、私達には特に関係ない」

京太郎「アッハイ」

智葉「タイプは主な分類分けだ」

智葉「何に強くて何に弱いかはここで決まる」

智葉「私はあく/はがねの複合タイプ」

智葉「じめん、ほのおには弱く、かくとうにはさらに弱いが」

智葉「それ以外は半減か無効で耐性面はそれなりに優秀だ」

智葉「攻撃防御素早さも悪くはないし、苦手な相手でなければ恐らく不覚をとる事はないだろう」

智葉「次にHPだが…これもテレビゲームのそれと同じものだと思っていい」

智葉「ただ、その数値設定は私が限界まで動けるギリギリの数値になっている」

智葉「出来ればそれが尽きる前に何かしらの手段を講じて欲しい」

京太郎「分かりました」

智葉「最後にMPだが…これは私が無理なく使える内臓魔力の数値だな」

京太郎「内臓魔力…ですか?」

智葉「あぁ。活動に支障のないレベルで使える余剰魔力と言ってもいいかもな」

智葉「こうやって動いていおる分には問題ないが、強力な攻撃をしようとするとどうしても魔力を使ってしまう」

智葉「それが尽きるとMPを消費する技が使えなくなってしまう」

智葉「MPは基本、迷宮から出るか、迷宮で休憩を取るスペースを見つけなければ回復出来ない」

智葉「管理には気をつけてくれ」

京太郎「…管理?」

智葉「こちらの話だ。気にするな」

智葉「その下のステータスは…まぁ、特に気にしなくてもいい」

智葉「一体、私が何を得意としているかをデータとして表示しているだけだからな」

智葉「故にHPとMPは経験を積んで強くなれば増えていくが…その下の攻撃などは増えたりしない」

智葉「表示されていないだけで強くなってはいるから安心はしてくれ」

京太郎「ふんふむ…」

智葉「以上で大まかな説明は終わりだ。何か質問はあるか?」

京太郎「えっと…じゃあ、一つ」スッ

智葉「なんだ?」

京太郎「種族のところが???ってなってるんですけど…これってバグですか?」

智葉「そ、それは…い、意図的に消してあるんだ」カァ

京太郎「え?」

智葉「…わ、私みたいに種族特徴が表に出ていないタイプにとって種族を知られるのはとても恥ずかしい事なんだ…!」

智葉「い、幾ら君がパートナーだとしても…さ、流石にそこまで晒すのは恥ずかしいし…」モジ

京太郎「あ、え、えっと…すみません。俺、そんなものとは知らなくて…」

智葉「…う、うん。分かってる。だから…君も気にしないでくれ」

智葉「それで…他には?」

京太郎「えっと…特にないです」

智葉「分かった。まぁこれから実際にやっていくうちに疑問も増えていくだろう」

智葉「気になったら何時でも質問してくれ」

智葉「さて…後はこれだな」スッ

京太郎「これは…きずぐすりですか?」

智葉「あぁ。君が寝ている間に美穂子が届けてくれた」

智葉「今朝、納品されたばかりの商品らしい」

京太郎「…今朝?」

智葉「このきずぐすりはただのスプレーに見えてかなりの高性能品だ」

智葉「一瞬で人の傷を癒やすのだから当然だがな」

智葉「コストそのものはあまり高くないが、精製するのに時間と手間が掛かるらしい」

智葉「故に未だ大量生産の目処が立っておらず、この東京迷宮周辺でも卸しているのは一握り」

智葉「…そんな貴重なアイテムを無償で譲ってくれているんだ」

智葉「頑張らないとな」

京太郎「…はい!」

智葉「さて…それじゃそろそろ…」スチャ

京太郎「…え?」

智葉「どうかしたのか?」キュッキュ

京太郎「…いや、辻垣内さんそれ…」

智葉「…?あぁ、メガネと髪の事か」

智葉「こうやってメガネを掛けた方が気持ちも引き締まる気がしてな」

智葉「何時も勝負どころではこうやってメガネを掛けるようにしてる」

智葉「まぁ、伊達だから例えレンズが割れても活動に支障はない」

智葉「心配するな」

京太郎「いや…それは心配していないですけど…」

京太郎「(…なんていうかメガネを掛けるとさらに外見が替わるというか)」

京太郎「(さっきまでが曲がりなしにもお嬢様って感じだったのに、今は完全に委員長って感じだ)」

京太郎「(何時もよりも凛々しさも三割マシで…今の彼女には本当に隙がない)」

京太郎「(こんな事を思うのは失礼かもしれないけれど…正直、彼女が味方で良かったと…ちょっと思う)」


京太郎「…あ…れ?」

扉を開けた瞬間、俺の周囲は一気に様変わりしていた。
そこはかつて見た多くの雀士がひしめいていたロビーではなく、何処か古びた建物の中。
見慣れないその場所を見渡せば、扉の前に1-Bという札が出ている事に気づく。

京太郎「…学校?」

智葉「…そのようだな」

智葉さんも俺と同じ印象を抱いたのだろう。
俺の言葉に短く頷きながら、辺りを隙なく見渡している。
片手に持ったドスを何時でも抜けるようにしながらのそれは思った以上に様になっていた。

京太郎「一体、これは…」

智葉「今までの調査結果を見る限り…迷宮はその源となった魔物の心理状況に強く依存するらしい」

京太郎「じゃあ…これは…この迷宮の主の…」

智葉「あぁ、恐らく何かしら思い入れのある光景なのだろう」

京太郎「思い入れ…か」

確かに…この周りから感じるイメージは悪いものじゃなかった。
きっとこの迷宮の主はこの場所がとて好きだったのだろう。
そんな場所を…まったく彼女のことを知らない俺達が踏み荒らすのは気が引ける。
けど…ここを進まなきゃ…咲の元にはたどり着けないんだ。

京太郎「…行きましょう」

智葉「あぁ」


京太郎「…なんでしょう、コレ」

俺の目の前には今、白く輝く球体が浮かびがっていた。
バスケットボールと同じくらいのそれは人気のない廊下にポツンと生えている。
特に危なさそうなものは感じないけれど…これは一体なんなんだろうか?

智葉「これは…スフィアだな」

京太郎「スフィア?」

智葉「迷宮内に渦巻く魔力が指向性を持って物質となったもの…らしい」

智葉「私も調査隊が提出した報告書を読んだ程度だから詳しい事は分からないが…」スッ

京太郎「あっ…辻垣内さん!?」

スフィア「クパァ」

京太郎「え?」

智葉「こうして触れれば中身を取り出す事が出来るらしい」

智葉「中身はかなり環境に左右されるらしいが、時には貴重な品もあるらしいな」

智葉「さて…この場合は…」



直下コンマ
00~30 どくけし
31~60 きずぐすり
61~90 おいしいみず
91~99 装備アイテム

System

おいしいみずを手に入れた


京太郎「…水ですね」

智葉「水だな」

京太郎「…なんか特別な効果でもあるんでしょうか?」

智葉「さぁ…分からん。迷宮内部で生成されたアイテムだからな…」

智葉「何はともあれ、これも成果の一つなのは間違いないんだ」

智葉「後々使えるかもしれないし持って行こう」

京太郎「そうですね」


智葉「…須賀、止まれ」

京太郎「…え?」

智葉「…この先に敵がいる」

京太郎「っ…!」

短く告げられた辻垣内さんの言葉に俺の身体は強張った。
迷宮内の敵と言えば、内閣調査室の人たちが語っていた化け物しかない。
勿論…俺は今までそれと出会う覚悟はしてきた。
でも、やはりそれが目の前にいると聞くと…どうしても背筋に冷たいものが走ってしまう。

智葉「…大丈夫だ。安心しろ」

智葉「君は必ず私が護ってやる」スラァァ

京太郎「辻垣内さん…」

そんな俺の前で辻垣内さんがドスを抜いた。
瞬間、俺の目にさらされるその輝きは眩しいくらいにギラついている。
人を傷つけるものだけが放つその独特の煌きを手にした彼女に…俺はなんと言えば良いのか。
分からないまま、彼女が一歩足を踏み出して… ――

智葉「…さぁ来い化け物ども…!私が相手になってやる…!」

ゴブリン「ゴブ?」

智葉「…あれ?」

京太郎「ど、どうかしたんですか?」

智葉「あ、アレ…」スッ

京太郎「…ん?」

辻垣内さんが指さした先にいたのは化け物とは似ても似つかない子どもだった。
身長はおおよそ130cmほど。
頭には牛のような角が生えており、耳がちょこんと突き出している。
それらがコスプレではないのはその手に持った大きな棍棒が証明していた。

智葉「…アレが恐ろしい化け物?」

京太郎「いや…まぁ、恐ろしくはあると思いますけど…」

俺はネットでアレと同じ姿をした女の子を見た事がある。
確かアレはゴブリンという種族だったか。
魔物の中での純粋な能力で言えばほぼ最弱に近かったはずだ。
けれど、彼女らはしばしば群れで行動し、オスを連れ去っていくと聞く。
幾ら智葉さんが強くても油断は出来ない。

ゴブリン「ゴブー!」

智葉「くっ…!」

京太郎「智葉さん!」

智葉「大丈夫だ!そこで見ていろ!!」

俺達に気づいたゴブリンがその手に持った棍棒を持ち上げて智葉さんへと迫る。
その歩みは決して俊敏ではないものの、あんな大きな棍棒で殴られたらタダでは済まない。
だからこそ警戒を呼びかけた俺の声に帰ってきたのは焦り混じりのものだった。

―― 数分後、辻垣内さんは未だ防戦一方だった。

勿論、それは相手が強敵だからだけではない。
これまでの辻垣内さんはゴブリンからの攻撃を全て避けきっていた。
おおぶりで単純なその一撃は隙が大きく、彼女であれば幾らでも攻撃出来るだろう。
だが、それでも辻垣内さんは攻撃しない。
それはきっと… ――

智葉「…くそ…!こんなの聞いてないぞ…!」

辻垣内さんは相手が化け物だと思っていた。
だからこそ、戦う覚悟を決め、俺の前に立ってくれていたのである。
だけど、実際、彼女が戦うべきあいては人間に似た【魔物】の少女。
そんな相手に刃を突き立てなきゃいけないともなれば、殺人という言葉が脳裏をよぎってもおかしくはない。

京太郎「(…辻垣内さん…!)」

その言葉が恐らく辻垣内さんの動きを精彩の欠いたものにしている。
実際、この数分の戦闘で彼女は息をあげ始めていた。
それは死と隣合わせの戦いが辻垣内さんの精神を摩耗させているってだけではないのだろう。
彼女の中に生まれた迷いが、少しずつ彼女の身体から余力をかすめ取っていっているんだ。

京太郎「(考えろ…俺に出来る事…!)」

そんな彼女に対して、きずぐすりは何の効果もない。
未だ辻垣内さんは一撃も受けていないままなのだから。
そもそもあんな攻撃を受けた後、こんなスプレーを吹きかけたところで何か意味があるとは思えない。
結局…俺は何も出来ない。
俺に出来る事はただ消耗していく辻垣内さんを見ているだけで… ――

京太郎「(…違うだろ…!俺は…格好良いところ魅せるって言ったんだろうが…!)」

そう諦めたくなる心を昨日の俺が叱咤する。
俺は彼女に対して格好つけさせて欲しいとそう言ったのだ。
そんな俺が…まだ辻垣内さんが諦めていない状態で諦める訳にはいかない。
ない頭を振り絞ってでも…この状態を何とかする方法を考えるべきなんだ。

京太郎「(結局のところ…辻垣内さんは攻撃するのを躊躇っているのは…)」

殺人に対する禁忌。
それはほぼ間違いない。
けれど、それを俺はどうやって取り除いてあげられれば良いのだろうか。
彼女が背負い込んでいる重荷をどうやって俺が背負ってあげれば良いのだろうか。

京太郎「……」

俺の手の中には今、辻垣内さんから手渡されたCOMPがある。
そこに映しだされている表示は未だ変わっていない。
名前、レベル、種族、タイプ、ステータス…そして技。

京太郎「(もしかしたら…いや…でも、そんな事…)」

智葉「く…!」

京太郎「っ!」

そう躊躇う俺の前で辻垣内さんがバランスを崩す。
幾度となく繰り返された回避の果てに生まれた隙。
何時もの彼女であれば絶対に作り出さないであろうそれをゴブリンは見逃さなかった。
その手に持った巨大な棍棒を振り上げて、そのまま容赦なく振り落とし… ――

京太郎「…智葉!ひっかく!!」

智葉「っ!」

ゴブリン「ゴブー!?」

俺の言葉に反応し、辻垣内さんの身体が跳ねる。
そのまま閃いたドスは目の前のゴブリンの肌を切り裂いた。
それに悲鳴のような声をあげながら一歩二歩と後退するゴブリン。
その間に本格的に態勢を整えた彼女に俺は安堵の溜息を漏らした。

智葉「…須賀…君は…」

京太郎「今のは俺の命令です。辻垣内さんは何も悪くありません」

京太郎「だから…辻垣内さんは俺の命令に従って下さい」

京太郎「その罪も咎も…全部、俺が引き受けますから」

それが…今の俺に出来る事。
戦う彼女の為に…少しでも重荷を引き受けてあげる為の結論。
勿論、実際に手を下すのが辻垣内さんである以上、それはただの詭弁でしか無い。
それでも…その詭弁が彼女の気持ちを少しでも晴らしてくれるのならば。
俺は幾らでも詭弁を弄してやろう。

智葉「…馬鹿が。違うだろう」

智葉「…その罪を受けるのは…須賀じゃない。私達だ」

京太郎「辻垣内さん…」

…けれど、俺が思っていた以上に辻垣内さんは強い人だったらしい。
俺の言葉に帰ってくる声は覚悟を固めたものだった。
構えるドスの切っ先も、もう揺れてはいない。
まっすぐと敵を見据えるその姿は何時も通りの頼もしいものだ。

智葉「…行くぞ。指示は任せた…!」

京太郎「はい…っ!」


【パートナー】
名前  辻垣内智葉
Lv   1
種族  ???
タイプ あく/はがね
特性1 せいしんりょく(相手の攻撃で怯まない)

HP45
MP5
こうげき85
ぼうぎょ70
とくこう40
とくぼう40
すばやさ70

ひっかく 消費0 ノーマル 物理 威力40/命中100 敵一体を爪で攻撃する
にらみつける 消費1 命中100 相手一体の防御力を一段階下げる

【敵】
名前 ゴブリン?
LV  2
種族 ゴブリン


辻垣内智葉のひっかく!


ゴブリン?に12のダメージ


ゴブリン?を倒した


智葉「…ふぅ」

気持ちを立てなおしてからの智葉さんは強かった。
あれだけ苦戦した相手をまったくよせつけず一撃で倒してしまったんだから。
まさに一閃と言っても良いその一撃はさすがという他ない。

京太郎「…辻垣内さん」

智葉「……智葉だ」

京太郎「いや…でも…」

相手は俺よりも年上な上に俺を護ってくれてる人なのだ。
長年、付き合いがあるならばまだしも、昨日出会ったばかりの人を呼び捨てに出来ない。
何より…俺の目の前でドスを振るっていた彼女を見ると呼び捨てなんて恐れ多い気分になるというか。

智葉「さっきそう呼んでくれただろう?」

京太郎「す、すみません。あの時は咄嗟に…」

智葉「構わないさ。命令するのに一々、辻垣内さんだの言っていたら間に合わないだろうし」

智葉「それに私達はパートナーで…そして共犯者なんだからな」チラッ

京太郎「あ…」

辻垣内さん…いや、智葉さんが目を向けるのは廊下に倒れたゴブリンだ。
彼女の一撃を受け、床へと倒れたその身体はぴくりとも動かない。
例え死んでいなくとも、その身体に後遺症が残るのは確実だろう。

京太郎「…ごめん」

謝っても仕方のない事だと俺も分かっている。
でも、自分の胸の内を整理するには…どうしても謝るしかなかった。
俺たちだって…別に好きでこんな事をした訳じゃない。
言い訳かもしれないが…このゴブリンが襲いかかってこなければ俺たちだって… ――

智葉「京太郎!」

京太郎「…え?」

智葉さんの声に視線を向ければ、廊下に倒れたゴブリンが消えていくところだった。
サラサラと風にさらされた砂の城のように身体が細かく剥がれていくそれに俺の思考はついていかない。
一体、このゴブリンは何者で、そして俺の目の前で何が起こっているのか。
答えの出ないその問題に俺が四苦八苦している間もその崩壊は進んでいく。

京太郎「ぁ…」

数秒もした頃にはその姿は跡形もなくなっていた。
まるで最初からそこには何もいなかったように血痕の一つも残っていない。
再び廊下の中に戻ってきた静寂。
けれど…今の俺にはそれが薄ら寒く感じられる


京太郎「一体…何なんだよ…」

勿論、俺だってこの迷宮が常識の通用する場所ではない事くらい知っていた。
けれど、目の前でそんな風に人が消えていくのを見て、平静でいられるはずがない。
いきなり襲いかかってこられた事と言い、目の前で崩れるように消えた事と言い…一体、何が起こっているのか。
正直、智葉さんと一緒じゃなきゃ気が狂ってしまいそうだ。

智葉「…分からん。だが…アレは恐らく生きているものではなかったのだろう」

京太郎「…え?」

智葉「切った時の感触があまりにも空虚だった。まるであの形の巨木がそのまま動いているような錯覚さえ覚えるくらいに」

智葉「それに…この感覚…これは…」グッ

京太郎「…智葉さん?」

智葉「…京太郎、私のデータを見せてくれ」

京太郎「データ…ですか?」

智葉「あぁ、頼む」

京太郎「えっと…」ポチポチ

京太郎「出ました…って…あれ?」



【パートナー】
名前  辻垣内智葉
Lv   3
種族  ???
タイプ あく/はがね
特性1 せいしんりょく(相手の攻撃で怯まない)

HP55
MP7
こうげき85
ぼうぎょ70
とくこう40
とくぼう40
すばやさ70

ひっかく 消費0 ノーマル 物理 威力40/命中100 敵一体を爪で攻撃する
にらみつける 消費1 命中100 相手一体の防御力を一段階下げる
おいうち 消費1 あく 物理 威力40/命中100 敵が交代する時、交代前の相手に二倍のダメージを与える。



京太郎「…レベルアップしてる?」

智葉「恐らくさっきの戦いの影響だろう」

智葉「どういう理屈かは分からないが…さっきのゴブリンが消えると同時に力が湧いて出てきた」

智葉「もしかしたら…あのゴブリンはさっきのスフィアと同じく、魔力が物質化したものなのかもしれない」

智葉「そして倒した私の中へと入り込み、力になった…と、そんなところか」

京太郎「だ、大丈夫なんですか、それ…?」

智葉「恐らく大丈夫だろう」

智葉「危険なものならば、恐らく事前に報告があがっているはずだ」

智葉「…それに…」チラッ

智葉「…どんな形であれ、私が生きているものを殺めたのは事実だ」

智葉「その残滓が私の中に入りたいというのであれば…拒む理由はない」

京太郎「智葉さん…」

智葉「…先を急ごう。まだ私達は迷宮を入り口を潜ったばかりなのだから」

京太郎「……はい」


という訳でようやく戦闘のチュートリアル終了です
新技も覚えましたがひっかくとは違って消費があるので使いどころは考えなければ厳しいかもしれません
尚、雑魚戦は必ずレベルがあがります
雑魚戦の消耗とレベルアップの天秤を掛けて、バランス良く進んで下さい


京太郎「(一応…勝てた事は勝てた)」

京太郎「(けれど…智葉さんの気持ちの問題はまだ解決していない)」

京太郎「(勿論、先を急ぐのも必要だけど…ここは…)」

京太郎「…智葉さん」

智葉「ん?どうした?」

京太郎「ちょっと休憩しましょう」

智葉「いや、まだ入り口も入り口だし魔力も消費していない」

智葉「まだ休む必要は…」

京太郎「それでも…俺が休みたいんです」

京太郎「付き合ってくれませんか?」

智葉「…まったく君って奴は…」フゥ

智葉「…良いだろう。少しだけだぞ」

京太郎「ありがとうございます」


智葉「…ん。ここならば良いだろう」

智葉「辺りに敵の気配もないし、扉には鍵も掛かる」

智葉「ここならば多少、休憩しても問題はないだろう」

京太郎「はは。智葉さんは本当に心配性なんですから」

智葉「この迷宮は何が起こるか分からないんだ」

智葉「心配しすぎるに越した事はない」

京太郎「でも、そんな風に肩に力を入れてちゃまたさっきの二の舞いですよ」

京太郎「…はい、これ」スッ

智葉「…え?」

京太郎「ハーブティです。出発前、臼沢さんに持たされました」

京太郎「心を落ち着かせる効果があるんだそうです。どうぞ」

智葉「……ありがとう」スッ


智葉「…私はダメだな」ストン

京太郎「何がです?」ストン

智葉「君に心配ばっかり掛けている…」

京太郎「…良いんですよ。その分、俺は智葉さんを頼ってるんですから」

京太郎「お互いwin-winって事で納得しましょう」

京太郎「つーか、その辺りで手打ちにしてくれないと俺の方が逆に困っちゃったりしますよ」

京太郎「今でさえこっちが出来ている事少なくて凹んでるって言うのに」

智葉「…そんな事はないよ」

智葉「君は私の事をとても気遣ってくれている」

智葉「私は君のやさしさにちゃんと気づいているから」ニコッ

京太郎「う…」

智葉「…ん?どうした、ハーブティ熱かったのか?」

京太郎「い、いや…何でもないです…」



敵だ!!!


ゴブリンLv3(ノーマル)が現れた!!

【パートナー】
名前  辻垣内智葉
Lv   3
種族  ???
タイプ あく/はがね
特性1 せいしんりょく(相手の攻撃で怯まない)

HP55
MP7
こうげき85
ぼうぎょ70
とくこう40
とくぼう40
すばやさ70

ひっかく 消費0 ノーマル 物理 威力40/命中100 敵一体を爪で攻撃する
にらみつける 消費1 命中100 相手一体の防御力を一段階下げる
おいうち 消費1 あく 物理 威力40/命中100 敵が交代する時、交代前の相手に二倍のダメージを与える。


辻垣内智葉のひっかく!

ゴブリン?に12のダメージ

ゴブリン?のたたきつける!(命中75)←直下のコンマが75以上なら外れます

辻垣内智葉は当たらなかった!


【リザルト】
ゴブリン 0
辻垣内智葉12

辻垣内智葉の勝利!!!

辻垣内智葉はレベルがあがった!!!


【パートナー】
名前  辻垣内智葉
Lv   4
種族  ???
タイプ あく/はがね
特性1 せいしんりょく(相手の攻撃で怯まない)

HP60/60
MP8/8
こうげき85
ぼうぎょ70
とくこう40
とくぼう40
すばやさ70

ひっかく 消費0 ノーマル 物理 威力40/命中100 敵一体を爪で攻撃する
にらみつける 消費1 命中100 相手一体の防御力を一段階下げる
おいうち 消費1 あく 物理 威力40/命中100 敵が交代する時、交代前の相手に二倍のダメージを与える。



<<EVENT>>

京太郎「(…結構やれてるんじゃないか?)」

二回目の戦闘は危なげのないものだと言っても良かった。
流石に一撃では倒しきれなかったものの、智葉さんはその後も相手を一方的に翻弄し続けていたんだから。
あの程度の相手であれば大きなダメージを喰らう事はまずないだろう。

京太郎「(…まぁ油断は禁物だけどさ)」

あのレベルの相手がこれからも続くとは限らないんだ。
智葉さんの魔力や体力だって限りがある以上、周囲を警戒するに越した事はない。
まぁ、俺が幾ら警戒したところであまり意味はない訳だけど。
大抵、俺が気づくよりも先に智葉さんの方が敵の気配に気づいちゃうからなぁ。
ホント有能だし頼もしいんだけど…こっちの数少ない仕事すらポンポン取っていく辺り本当に容赦がないと思 ――

「…ちゃん」

京太郎「…え?」

智葉「どうかしたのか?」

京太郎「あ…いえ…」

智葉さんが反応していないって事は空耳…なのか?
いや…でも、今の声は咲のものだったと思う。
掠れて半分も聞こえなかったけれど…俺が咲の声を聞き間違えるはずがない。


「京ちゃん」

京太郎「っ!咲!!」

智葉「き、京太郎!?」

間違いない…!
今のは咲の声だ…!
一体、何処だ…!?何処から聞こえた…?

「京ちゃん」

京太郎「何処だ…?何処なんだ、咲…?」

智葉「ま、待て。京太郎、君は何を言ってるんだ?」

京太郎「すみません…!後で説明しますから…今は…!」

やっぱり智葉さんにはこの声は聞こえていないようだ。
でも…これだけはっきり聞こえるのに空耳だとか幻聴なんて考えられない。
一体、どういう方法かは分からないが、この声は間違いなく俺に対して向けられているんだ。
ならば、俺がそれに答えない訳にもいかない。

「京ちゃん」

京太郎「ここだ!俺はここにいるぞ!」

京太郎「お前を迎えに来たんだ、咲!」

京太郎「一緒に…一緒に帰ろう」

「京ちゃん」

京太郎「咲…っ!」

「京ちゃん……」



「捕まえた…♥」ギュッ



京太郎「っ!」

智葉「っ!!?」

―― 俺も智葉さんも…反応出来なかった。

いきなり俺の後ろから回された腕。
それと同時に聞こえてきた囁きは俺の耳孔を擽る。
何処かねっとりと舐るようなその声の響きは…俺が聞いたことのないくらい女の…いや、メスのものだった。

咲「あはぁ…♪本物の…京ちゃんだぁ…♥」

咲「京ちゃん…京ちゃん…京ちゃぁん…♥♥」スリスリ

けれど、咲はそうやって後ろから抱きつくだけじゃ物足りないらしい。
その身体をスリスリとすり寄せ、甘えた声をあげる。
まだ小さい子犬が愛しい主人に甘えるような仕草。
でも…その仕草の一方でクチュクチュと粘ついた音が聞こえてくるんだ。

咲「ふぁ…ぁ♪本物の京ちゃんでするオナニーすっごいぃ…♥♥」

咲「想像と…全ッ然…違うぅ♪♪」

咲「オマンコじゅんじゅんしちゃって…すぐにイッちゃいそぉ…♥♥」

京太郎「…さ…き…?」

―― …この期に及んで俺は信じていたのだろう。

俺の幼馴染ならば、きっとマトモでいてくれるって。
あれだけの激戦を勝ち抜いてきた咲なら魔物化になんて負けないって。
あの日の出来事はきっと嘘なんだって。
そんな馬鹿げた妄想を…俺は未だに捨てきれなかったんだ。

咲「あぁ…っ♪でも…オナニーなんかじゃ…もう我慢出来ない…ぃ♥♥」

咲「本物の京ちゃんがいるのに…オナニーなんか勿体ないよぉ…♪♪」

咲「しよぉ…♥♥京ちゃん…セックスしよぉっ♥♥」

咲「京ちゃんもそのつもりで来てくれたんだよねぇ…?」

咲「私の…京ちゃんの為にずぅぅぅっととっといた処女マンコグチュグチュにする為に…」

咲「この大きなオチンポ…童貞のまま残しておいてくれたんでしょ…♥♥」クリッ

京太郎「うあ…ぁ…」

瞬間、咲が俺のムスコをそっと押さえる。
微かに撫でるようなそれは幼馴染の痴態に興奮した俺にとっては愛撫も同然だ。
ここ数日、悩み事や不安などもあって、ろくにヌけていなかったのも今から考えれば失敗だろう。
咲の手で撫でられるだけでこんな情けない声をあげてしまったのだから。

咲「ふふ…京ちゃん可愛い…っ♥」

智葉「…彼から離れろ、宮永咲」スッ

咲「…貴女、誰?」

智葉「彼のパートナー兼共犯者だ」

そんなみっともない俺を助ける為に智葉さんが咲へとドスを向ける。
けれど、咲はそんな彼女に対してまったく動じていなかった。
まるでそのドスが玩具か何かのようにクスクスと笑っている。

咲「…それで…そのパートナーさんはどうするつもり?」

智葉「決まってる。ここで君を排除し、彼を取り戻す」

咲「…京ちゃんは貴女のものじゃないよ?」

智葉「無論だ。だが…君のものでもない」

咲「…うん。今は…ね♥」

―― ペロリと舌なめずりをする音が耳元で聞こえた。

咲「でもね。京ちゃんはすぐ私のものになってくれるよ」

咲「だって、京ちゃんは男の子なんだもん」

咲「気持ちの良い事には…絶対に逆らえないんだよ…♥」クチュクチュ

京太郎「さ…き…っ」

咲「すぐに私の事が欲しくて欲しくて堪らなくなっちゃう…&hearts♥」

咲「私がね…そうしてあげるんだよ…♪♪」

咲「京ちゃんが…私抜きで生きていけないような恥ずかしい男の子にしてあげるの…♥♥♥」

―― その言葉に最早、理性はなかった。

俺の幼馴染はあの日…やはり完全に『汚染』されてしまったのだろう。
俺が拒絶したあの瞬間…きっと俺の知っている宮永咲は死んでしまったのだ。
ここにいるのはそれと同じ声と記憶と容姿を持つ…淫らな魔物。
あの日…俺が恐ろしくてたまらなかった…男を食い物にする化け物なのだ。

智葉「…残念だがそうはならない」スッ

咲「…私をやる気なの?」

智葉「当然だ。パートナーを見捨てる理由などない」

咲「…そっか。それじゃあ…」スイッ

智葉「っ!!!!!!」

瞬間、俺の視界を横薙ぎに黒いものが横切った。
例えるならばそれは影で出来た大蛇。
のっぺりとしたそれはまるで突然何もない空間から生まれたように振るわれる。
さっきのゴブリンの一撃がまるでお遊びのように思える凶悪さを伴ったそれは智葉さんへと迫り… ――

智葉「…ぁ」ペタン

咲「…ふふ」

当たる直前にギリギリ止まった。
…だが、それでも生まれた恐怖は消えない。
文字通り死の瀬戸際に立っていた智葉さんは腰が抜けたようにその場に座りこんだ。
さっきまでの頼りがいのある姿とは打って変わった可愛らしい姿。
けれど…俺はそれを喜ぶ気にはなれなかった。

咲「分かった?」

咲「貴女が誰かは分からないけど…私と京ちゃんの間に入ってきて良い訳じゃないんだよ?」

咲「今は京ちゃんが見てるから酷い事しないけど…私が本気になったら貴女を倒すなんて簡単ななんだから」

咲「命が惜しければ今すぐ京ちゃんを置いて帰って」

智葉「あ…ぅ…」

京太郎「智葉さん…」

……今ので分かった。
智葉さんと咲との間には…どうしようもない実力差がある。
もしかしたら…これからずっとこの迷宮で戦い続けていれば追いつけたかもしれない。
でも…今の彼女ではどうあっても無理だ。
下手に歯向かってしまえば…殺されてしまうかもしれない。

京太郎「智葉さん…逃げて下さい」

智葉「京太郎!」

京太郎「今の貴女じゃ…咲には勝てません」

京太郎「俺の事はどうでも良いですから…」

智葉「っ!どうでも良いはず…あるか…!」フルフル

張り裂けるようなその声は俺の目尻を熱くする。
きっと智葉さんは…立ち上がるだろう。
でも、立ち上がっちゃ…いけないんだ。
次立ち上がったら…今度こそ本当に咲に殺されてしまう可能性があるんだから。
彼女の気持ちは嬉しいけれど・・それを受け入れる訳にはいかないんだ。

京太郎「智葉さん…!お願いですから…!」

智葉「私と君はパートナーだ!」

智葉「まだ過ごした時間は少なくても…少なくない苦難を一緒に乗り越えてきた相手だ!」

智葉「そんな相手を…どうでも良いと…見捨てるなんて言うくらいなら…!」

智葉「私は…ここで死んだほうがマシだ…!!!」スッ

京太郎「智葉…さん…」

咲「…へぇ」

俺の言葉も聞かず、再び立ち上がった智葉さんの刃が咲へと向けられる。
でも、そうやって向けた刃は微かに震え、落ち着かないものになっていた。
恐らく彼女は完全に恐怖を克服した訳じゃないんだろう。
それでも…こうやって俺を助ける為に勝てない相手へと剣を向けてくれている。
それが嬉しくて…そしてそれ以上に自分が情けなかった。


智葉「…もう一度、言う。彼を離せ」

咲「…良いよ」スッ

京太郎「…え?」

智葉「……え?」

そこであっさりと咲は俺を捕まえていた腕を解いてみせた。
さっきまでの執着っぷりは一体なんだったのかといいたくなるほどのあっけなさに俺だけじゃなく智葉さんまで呆然としている。

咲「…京ちゃんは私の事を迎えに来てくれたんでしょ?」

咲「だったら最下層まで来るよね?」

京太郎「そりゃ…まぁ、行くつもりだけど…」

咲「ふふ…幾多の困難を乗り越えて私のところに来てくれる京ちゃん…♥♥」

咲「そんな京ちゃんを慈しむように交わるなんて…ロマンチックだよね…♪♪」

京太郎「お、おう…」

…その辺、ロマンチストっぷりはそれほど変わってないんだな。
いや、昔に比べればロマンチストの方向性が魔物らしいものに変わっているけれどさ。
そもそも、バッドエンド確定のその展開にロマンチックさなんて果たしてあるんだろうか。

咲「…それに…」チラッ

智葉「…なんだ?」

咲「京ちゃんもすぐに分かるよ。そこにいる人だって…私とそう変わらないんだって事」

咲「京ちゃんを迎えに来るのは…それからでも遅くはないと思うし」

京太郎「…智葉さんは咲みたいな奴とは違う」

智葉「…京太郎」

京太郎「お前のようには…絶対になるものか」

咲「ふふ…信頼してるんだ…♥」

咲「でも、だからこそ…裏切られた時の失望が大きくなる…」

咲「…私…とっても楽しみだよ?」

咲「その時…京ちゃんが私にどんな顔を見せてくれるのか…」

咲「どんな風に壊れて…私だけの京ちゃんになってくれるのか…とっても楽しみぃ…♥♥」

京太郎「咲…!」

咲「何時でも会いたくなかったら私の名前を呼んでね…♥♥」

咲「私…待ってるから…♪いつでも京ちゃんの為にオマンコぐちゅぐちゅにして…待ってるからね…♥♥」フッ

…消えた…か。
現れた時と同じく…ホント唐突な奴だな。
でも、まぁ…何とか引いてくれてよかった。
ぶっちゃけ、あのままガチの勝負をしてたら絶対に勝てなかったと思うし…。

智葉「…京太郎」

京太郎「…すみません。俺の所為であんな厄介事に巻き込んで…」

智葉「いや…構わない。それも覚悟の上だ。ただ…」

京太郎「ただ?」

智葉「…………いや、なんでもない」

智葉「…それより私の方こそすまなかった」

智葉「君を護るのが私の役目なのに…何も出来ずに…」

京太郎「いや、アレはしょうがないですよ。 ぶっちゃけいきなりラスボスが現れたようなもんですし」

智葉「それでも…私は…」

京太郎「…それに諦めるつもりはないんでしょう?」

智葉「…あぁ」

智葉「…やられた分はやり返さなければな」グッ

京太郎「…えぇ」

智葉さんの目にはまだ闘志は死んでいない。
アレだけ恐ろしい目にあったというのに彼女は未だ戦う覚悟を強く持ってくれている。
さっき死に物狂いで俺のことを護ろうとしてくれただけでも有り難いのに…まだ戦う気力があるだけでも俺にとっては有り難い。

智葉「…強くなるぞ、京太郎」

京太郎「…はい。勿論です」



敵が現れた!!!!


ゴブリンLv3(ノーマル)だ!!!!

【パートナー】
名前  辻垣内智葉
Lv   4
種族  ???
タイプ あく/はがね
特性1 せいしんりょく(相手の攻撃で怯まない)

HP60/60
MP8/8
こうげき85
ぼうぎょ70
とくこう40
とくぼう40
すばやさ70

ひっかく 消費0 ノーマル 物理 威力40/命中100 敵一体を爪で攻撃する
にらみつける 消費1 命中100 相手一体の防御力を一段階下げる
おいうち 消費1 あく 物理 威力40/命中100 敵が交代する時、交代前の相手に二倍のダメージを与える。


辻垣内智葉のひっかく!!!!!


ゴブリンに13のダメージ!!!


ゴブリンの叩きつける!!(命中75)


辻垣内智葉は回避した!!!!


【リザルト】
ゴブリン0
辻垣内智葉12


辻垣内智葉の勝利!!!!

辻垣内智葉はレベルアップした


【パートナー】
名前  辻垣内智葉
Lv   5
種族  ???
タイプ あく/はがね
特性1 せいしんりょく(相手の攻撃で怯まない)

HP65/65
MP9/9
こうげき85
ぼうぎょ70
とくこう40
とくぼう40
すばやさ70

ひっかく 消費0 ノーマル 物理 威力40/命中100 敵一体を爪で攻撃する
にらみつける 消費1 命中100 相手一体の防御力を一段階下げる
おいうち 消費1 あく 物理 威力40/命中100 敵が交代する時、交代前の相手に二倍のダメージを与える。



<<EVENT>>

智葉「…京太郎」

京太郎「…はい」

智葉さんが警戒を促す言葉に俺は素直に頷いた。
俺よりも感知能力に長けている彼女は恐らくこの先にいる気配に気づいたのだろう。
俺にはまだ分からないが、さりとて、彼女が気配を感じ取るその能力を今更、疑うはずがない。
さっきの咲は例外にしても今までそれが一度も外れた事がないのだから。

智葉「…今回も私が先に様子を見る。もしやり過ごせそうだったら合図を出すから…」

京太郎「…了解です」

何より、智葉さんは無意味な戦闘を好んでいない。
さっき咲に打ちのめされ、今すぐにでも強くなりたいと思っているだろうに。
相変わらず冷静で頼りがいのあるその姿に俺は最早、全幅の信頼を置いていた。

智葉「……ん?」

京太郎「…どうしました?」

智葉「あ、いや…その…」

京太郎「???」

だからこそ、俺はそんな風に言葉を濁した彼女に首を傾げた。
今まで智葉さんがそんな言葉を俺に返してきたのは最初にゴブリンと遭遇した時だけである。
それ以外の彼女はその場その場で冷静で的確な判断し、俺の危機を幾度と無く救ってくれている。
そんな智葉さんの珍しい姿に俺はただならぬものを感じた。


京太郎「(もしかして…また咲の奴が…?)」

今の咲はもう昔のように考え深い奴とは思えない。
寧ろ、その場その場で考えを変える気分屋のような気質を感じた。
もしかしたら俺を待っているのに飽きてまた迎えにきたのかもしれない。

京太郎「(それなら…俺が前に出ないと…)」

さっきの戦闘で智葉さんはまた強くなれた。
けれど、それは微々たるものでまだまだ咲との差を埋めるものじゃないのである。
そんな状態でまた咲と出会ったら今度こそ智葉さんが殺されてしまうかもしれない。
それだけは…それだけは絶対に避けなければ……って…あれ?

「和ー!早く行こうよー!」

「ま、待って…はぁ…くださ…はぁ」

「おっそーい!」

「ふ、二人が…早すぎる…んです…」

京太郎「……和?」

それは俺の知っている和ではなかった。
身長もずっと低いし、その背中にはランドセルを背負っている。
唯一、俺が知っている和と大差ないのはそのおもち…ってまぁ、それはさておき。
でも、なんで和がこんなところにいるんだ…?

京太郎「(それに…あの子は…)」

和の先を走っているあのポニーテールの子は俺も知っている。
俺達にとってもこの国にとっても最後となったインターハイで阿知賀の大将を務めていた高鴨さん。
和経由で幾つか話もした事のある彼女の姿は俺の知っている俺の記憶の中の彼女と大差なかった。
時系列がごちゃごちゃになっているのか、或いはこの記憶の当時から高鴨さんが変わっていないのか。
…その背中にランドセルを背負う姿が良く似合っているのを見るに後者な気がする。

京太郎「(…もう一人は俺の知らない子…だけど)」

何処かタコス娘に似ている気がする。
髪の色や服のセンスこそ違うが、顔立ちや雰囲気はそっくりだ。
もしかして小学生時代の優希なのか?
でも…それじゃあ一体…。

京太郎「(…これは誰が作った迷宮なんだ?)」

智葉さんが言うにはこの迷宮は作成者の心理状態を反映したものになるらしい。
ならば、こうして走っている三人は決してこの迷宮の主に無関係ではないのだろう。
だが、あの三人に共通点などないはずなんだ。
少なくとも和が優希と会ったのは中学に入ってからだし…高鴨さんはずっと阿知賀にいたんだから。

智葉「京太郎!」

京太郎「…えって、うぉ!!!」

そんな物思いに耽っていた所為だろう。
いつの間にか俺へと接近していた高鴨さん(ランドセル装備)に俺はまったく気づけなかった。
智葉さんの声に身体は跳ねるものの、最早、それは避けれない距離まで近づいている。
衝突する…!
そう思って衝撃を身構える俺を…高鴨さんは幽霊のようにすり抜けていった。

京太郎「……え?」

まるで質量だけが抜け落ちたような感覚と共に高鴨さんは俺を貫いていく。
それに呆然として振り返った瞬間、ピンク髪の女の子が俺にぶつかり、同じようにすり抜けていった。
相変わらずまるでキツネに摘まされたような感覚。
でも…今回はただそれだけじゃなかった。

―― ずっとずっとこの時間が続けば良いのに

京太郎「……」

それはこの時間が永遠に続かない事を知っているが故の言葉だった。
何時かはこの時間が崩れ去り、修復出来なくなってしまう事を理解しているからこその。
…それはきっと…今の彼女がこの迷宮の主だからなのだろう。
彼女にとって一番幸せな時間を…きっとこの迷宮は再現しているんだ。


智葉「大丈夫か、京太郎」

京太郎「えぇ。大丈夫です。ただ…」

智葉「…ただ?」

京太郎「…もし、この迷宮がその人にとって心の拠り所だとして…」

京太郎「俺達は…それを壊して良いんでしょうか?」

智葉「…京太郎…」

…分かってる。
こんな感傷めいた言葉を口にしてもどうにもならないって事くらい。
俺も智葉さんも、この迷宮攻略の為にこの場にいるんだから。
俺達の目的を満たす為には、この迷宮の主を倒し、迷宮を突破しなければいけない。
でも…それはあの少女の願いと踏みにじる事でもあって… ――

智葉「私は…それが正しい事だと信じている」

京太郎「…智葉さん」

智葉「偽りが何も生まないなどとは言わない」

智葉「それが一時の慰めに…そして心の拠り所になる事もあるだろう」

智葉「だが、それは決して何の解決にもならないんだ」

智葉「何時か人は必ず幻想ではなく現実へと変える時が来る」

智葉「その時…この幻想は支えになるどころか、足を引っ張る枷になるだろう」

智葉「ただ幸せな時間が続くだけの幻想なんて猛毒も同じだ」

智葉「それに溺れば溺れるほど一人では立てなくなってしまう」

智葉「だから…私達が断ち切らなければいけない」

智葉「彼女が再び現実に向き直れるように」

智葉「彼女がまた自分一人で立てるように」

智葉「それが出来るのは…私達だけだ」

京太郎「……分かってます。でも…」

智葉「…それでも気になるなら君が支えになってやれば良い」

京太郎「…俺が?」

智葉「あぁ。そうだ。こんな幻想よりも健全に、強く、立派に」

智葉「彼女の事を支えてやれば、それで済む話だろい」

京太郎「…はは。そうですね」

智葉さんがこともなさ気に言うそれがどれだけ大変な事か俺にも分かっていた。
きっとそれは口にするよりも遥かな困難と苦労が待ち受けている事だろう。
しかし、その言葉は俺に理性と感情の折り合いをつけさせてくれた。
どれだけ遠い理想のようなものでも…何もかもを解決する方法があるのなら俺はそれを目指したいと思う。

京太郎「…すみません。変な事言って」

京太郎「…行きましょう、この迷宮を終わらせに」

智葉「あぁ、私達で終わらせよう」

智葉「この幻想も…迷宮も全て」

智葉「私達なら…きっとそれが出来るさ」



敵が現れた!!!!!


ゴブリンLv5(ノーマル)だ!!!!!

【パートナー】
名前  辻垣内智葉
Lv   5
種族  ???
タイプ あく/はがね
特性1 せいしんりょく(相手の攻撃で怯まない)

HP65/65
MP9/9
こうげき85
ぼうぎょ70
とくこう40
とくぼう40
すばやさ70

ひっかく 消費0 ノーマル 物理 威力40/命中100 敵一体を爪で攻撃する
にらみつける 消費1 命中100 相手一体の防御力を一段階下げる
おいうち 消費1 あく 物理 威力40/命中100 敵が交代する時、交代前の相手に二倍のダメージを与える。

<<アイテム>>
きずぐすり×2   一体のHPを20回復する
おいしいみず    一体のHPを50回復する


辻垣内智葉のひっかく!


ゴブリンに13のダメージ!!


ゴブリンのたたきつける!(命中75)


辻垣内智葉に3のダメージ!!


【リザルト】

ゴブリン3
辻垣内智葉13


辻垣内智葉の勝利です!!

辻垣内智葉はレベルアップ!!!

【パートナー】
名前  辻垣内智葉
Lv   5
種族  ???
タイプ あく/はがね
特性1 せいしんりょく(相手の攻撃で怯まない)

HP67/70
MP10/10
こうげき85
ぼうぎょ70
とくこう40
とくぼう40
すばやさ70

ひっかく 消費0 ノーマル 物理 威力40/命中100 敵一体を爪で攻撃する
にらみつける 消費1 命中100 相手一体の防御力を一段階下げる
おいうち 消費1 あく 物理 威力40/命中100 敵が交代する時、交代前の相手に二倍のダメージを与える。
れんぞくぎり 消費2 むし 物理 威力40/命中100 連続で使用すると威力が倍増する(最大160まで)



智葉「っ!」

京太郎「智葉さん!」

智葉「…大丈夫。かすり傷程度だ」

京太郎「ですが…」

智葉「この程度では活動に支障はない」

智葉「きずぐすりはまだまだ温存しておいてくれ」

…智葉さんはそう言うけれど、目の前で女の子が腕から血を流しているとどうにもな。
実際、かすった程度なのは俺も見ていたから分かるけど…でも、そのままになんてしておけない。
きずぐすりを使わないなら使わないで…せめてそれ以外の方法で治療させて欲しい。

京太郎「でも…せめて手当はさせてください」

智葉「だが…そんな事をしている時間が」

京太郎「お願いします」

智葉「…分かった」

…ふぅ。どうやら折れてくれたみたいだ。
とりあえずは一安心って…安心してる場合じゃないか。
今は周りに敵もいないみたいだし、ささっと止血だけ済ませてしまおう。


智葉「…君は…不思議な奴だな」

京太郎「そうですか?あ、ちょっと染みますよ」

智葉「問題ない。…私だって君の報告書には目を通している」

智葉「魔物が…私達が怖いんだろう?」

京太郎「…それは…」

…確かに俺は魔物が怖い。
流石にトラウマってほどじゃないが、近くに来られたら怯えるくらいには。
こうして智葉さんと普通に話せているのも彼女の外見が魔物らしいものではないという事もあるのだろう。
その性格も魔物からは程遠い理知的なものだし、正直、彼女が魔物だという認識は薄い。
そうでなければここまで智葉さんとの信頼関係を築く事が出来なかっただろう。

智葉「…それなのに君はその魔物の為にこうして治療し…その魔物の為に悩んでいた」

智葉「…どうしてだ?」

京太郎「…んなもん決まってますよ」

智葉「…え?」

京太郎「それは俺が男だからです」

例え魔物でも目の前に困っている人がいたら、傷ついている人が助けるのが当然だ。
ましてや、それが見目麗しい女の子なのだから助けない理由がない。
何より…俺はそこでグダグダと理由つけて手を伸ばさなかった事を未だに後悔しているのだから。
あの日、咲にしてしまったような事を…俺はもう二度と誰かにしたくない。

京太郎「結局のところ、俺も結構、現金な奴なんですよ」

智葉「…そうか」フフッ

智葉「ありがとう。もう良い」スクッ

そう言って立ち上がった智葉さんの腕には何とか不格好な形で包帯が巻かれていた。
保健の授業なんて受けたのもう何年も前の話だったからなぁ。
何とかうろ覚えの知識を引き出しながらやった結果がアレだよ!!!
…次からはちゃんと包帯を負けるように手当の仕方とか覚えておこう。

智葉「…これからは激戦になるだろう」

智葉「私が傷を負う事も増えてくるはずだ」

智葉「…その時はよろしく頼む」

京太郎「勿論です」




System
戦闘中、京太郎はパートナーに対してアイテム使用する事が出来ます
ただし、アイテムを使用した際、パートナーは行動出来ません
ここぞという時にお使い下さい