清澄高校観察レポート
張り込み活動 一週間目
今日も清澄の皆さんは麻雀を打っている。

部を引退したゆみ先輩から残る私達に出してくれた最初の指針は、相手校の観察だったっす。
試合だけでなく普段の練習から相手の打ち筋を見ることにより、自分達の練習の参考にも次のインハイのためにもなる。
勿論他の対戦校もチェックするべきではあるが、県内で最も注意するべきは決勝に残った高校だ。
そう言ったゆみ先輩に従い、私達は担当を分けて張り込みをすることにしたっす。
許可?勿論取ってないっす。
敵情視察が知られたら普段の練習なんて見れないっすからね。
勿論気付かれてもいないっす。
ただ一つある卓の全容が見れるような角度で長距離から望遠鏡で見てるのに、気付くのなんてなんかの達人くらいっす。

だがしかし、案の定大した情報は掴めずにいたっす。
当然っすよね。なにせあの人達は夏の大会で完成していたも同然。あとはひたすら反復練習で技術を磨き上げるくらいしかやることなんてないっす。
今日も今日とて新部長さんとタコスさんとリンシャンさんとおっぱいさんで卓を囲む日々。
ちょいちょい元部長でゆみ先輩と仲良くしてたおさげさん(生徒会長だと聞いているけど、とてもそんな風には見えないっす)が遊びに来て、傍でなんか言ってるくらいで何の変化も無し。
あんな暇人が暇している所を見張る私は、一体何人なんっすかね。
時間だけが無駄に流れていく。


          • 私はなんでこんなことをやっているんだろう。


そんなことを思い始めたっす。
みんなで話し合って一か月という期間を定めたというのに、一週間で自分に疑問を抱くなんて。駄目なやつっす、私。
ゆみ先輩は正しいとは思う。
敵を知れば百戦危うからず。そんな格言通り、敵を知ることは必要だと思うっす。
でも、私は元々地味で存在感の無い女の子で、それが更に地味なことを続けて、どんどん消えていくかのようっす。
結果が出せる日までは誰からも見られず、誰からも評価されず。
そもそも結果が出るかどうかさえ分からない日々。
こんなんじゃ、いつか本当に消える日が来るのもそう遠くはないかもしれないっすね。

なんて。
マイナス方向へ振り切れていく考えを持ちながら、公園のベンチの真ん中であんぱんを齧っていた時だったっす。


京太郎「ふぃー、疲れた」ドサッ


背中に大きな荷物を抱えた人が一人分空けてベンチに座ったのは。

桃子(......この人、確か清澄の)

名前は...なんだったっすかね。一応調べてはいたんすけど。
この人は、あの部室の中で四人の邪魔しないように掃除をしたりネト麻をしたりたまに買い出しに行ったりしていた筈。
で、今は買い出しの帰りってところっすか。

桃子(こんな長いベンチで真ん中に座ろうとせず、端でくつろいでるってことは.....私のことが見えてるっすか?)

地味なことをしている同士、何かシンパシーでもあったのかも。
そうだとしたら飛び上がって喜びたいけど、生憎そんな気分にはなれないっす。
今の私はグリーングリーンならぬブルーブルー。
折角ちゃんと見てくれる人が現れても、いつの間にか愚痴を零すだけっす。

桃子「あなたは...」

京太郎「ん?」

返事が聞こえた。
どうやら本当に見えているらしいっす。

桃子「あなたは、辛くないっすか?」

京太郎「......突然何?」

桃子「地味なことを続けること」

京太郎「.........」

桃子「私は辛いっす。
やっぱり見てほしいっす。やっぱり評価してほしいっす。
結果が出るかもわからない流れ作業。そんなことを続けるのは辛いっす。
必要なのに、私はそれを続けていられないっす......」

京太郎「...初対面にこんなこと言うのもなんだけど」

彼は言った。

京太郎「アンタのそれは、流れ作業なんかじゃねぇよ。
だってそれ、必要なことなんだろ?」

京太郎「見てもらえないかもしれない。評価されないかもしれない。結果が出るかもわからないかもしれない。
いいことなんかなんにも無いかもしんないけど、誰かがやんなくちゃ。
いらなくなんか決してない。誰一人欠けたらいけないものなんだって。
辛いけど続けていられる自分は、続けただけ強くなれてるんだって」

桃子「..........」

京太郎「...いつもそう言い聞かせて自分を励ましてんだけど、何言ってんだかな」

彼は笑った。
本当に素敵に、笑っていた。

京太郎「何やってるかは知らないけど、頑張れよ。じゃ」

彼は去っていった。
一人取り残されて、それでも私は言った。


桃子「頑張るっす」


そうだ。
確か、須賀京太郎。
          • 呼びづらいから、京さんでいいっすかね。



清澄高校観察レポート 十日目
今日も今日とて清澄の皆さんは変わりはない。
そして京さんのカッコよさも変わりはない。
あれ以来、京さんの姿を目で追ってしまう自分がいる。
あんなに嫌だった張り込みをやめられなくなっている。そんな自分がいるっす。

十二日目
今日も清澄と京さんの逞しさに変わりはない。
ああ京さん。やっぱり目が離せないっす。
あの日から私はあなただけのステルスになってしまったようっす。

十五日目
今日も京さんの優しさに変わりはない。
ああ京さん。消えてしまいたい。あなたの瞳以外から私は消えてしまいたい。

二十日目
ああ京さん。あなたはどこから来たの。そしてどこへ向かうの。

二十五日目
ああ京さん。あなたはどうして京さんなの。

三十日目
あ、共産党だ。



三十一日目
京さん京さん京さん京さん京さん京さん京さん京さん京さん京さん京さん
京さん京さん京さん京さん京さん京さん京さん京さん京さん京さん京さん




智美・ゆみ・佳織・睦月「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」パァン!!


三十二日目。
桃子から届いたレポートを叩きつける部員の姿があった。


投げっぱにカン