気がつけば、普通の恋愛なんてして来なかった。

大星淡と出会ったのは大学入学して間もなくだった。

白糸台のエースとして華々しく推薦入学した淡は大学の女子麻雀部でもやはりエースだった。
対して、俺は高校での思い出を引きずって麻雀愛好会に籍を置いているだけ…………本来なら接点など無かった。
ただ、麻雀をやる女子というのは何故かモテないらしく、男子のみで構成されている麻雀愛好会と度々交流会……打つこともあったが殆ど合コン……が行われていた。

初対面から、何故か淡とは馬があった。

淡「へー、じゃあキョータローは高校から麻雀を始めたんだ」
京太郎「そっ、まあ3年やって県大決勝敗退が精々だったんだけどな」
淡「ふーん」
京太郎「興味無さそうだな、オイ」
淡「だってさ、この淡ちゃんと比べたらそんなの月とニッポンじゃん」
京太郎「スッポンな」
淡「え?」
京太郎「月とニッポンじゃなくて月とスッポン」
淡「まあ、そうとも言うよね!」
京太郎「そうとしか言わねぇよ」

それでまあ、何度か話している内に咲や照さんという共通の知人がいることが解ったり。
それが無くても淡とは仲良くなってただろうし実際既に親しかったわけだが、色んな要素が絡んで良い方向に転がってた。

淡「実家から通ってんだけどさ、ケッコー遠いんだよねぇ~」
京太郎「実家ってどこさ?」
淡「南日ケ窪町」
京太郎「あー、麻布だっけ?」
淡「そっそ、電車乗り換えなきゃ行けないし不便なんだよね」
京太郎「ご苦労なこって」
淡「キョータローはいーよねー、大学の近くにアパート借りてるからさ」
京太郎「とは言え、バイトして家賃やら食費やら光熱費払わないといけないから生活カッツカツだけどな」
淡「んー……あっ、そうだ!」
京太郎「どした?」
淡「私がキョータローのアパートに越せば良いんだよ!」
京太郎「シェアハウスってやつかー」

今から考えれば、異性の暮らしてる部屋に転がり込んでくるとか正気の沙汰とは思えないんだが、何故か友人と冗談混じりで話してる程度の感覚しかなくて…………

1ヶ月後には本当に引っ越してきた。






淡「メリークリスマース!」
京太郎「キリスト様の誕生日には10日くらい早くないか?」

朝8時、狭いリビングに顔を出すと淡がまた馬鹿をやっていた。
大学の間近に部屋があるため俺達はこんな時間に起きても何の支障も無かった。
簡単に二人分の朝食を作り、食卓に並べた。

淡「ねえねえキョータロー、今日はどっかに遊びに行かない?」
京太郎「えー、だって今日は平日だぜ?」
淡「別に1日くらいサボったってどうってことないじゃん!」
京太郎「んー……」

頭の中で、代返の利く講義と融通の利かない講義での単位を瞬時に計算し、今年度はどの教科も3回くらいまでなら休まることが判明した。

京太郎「誰か代返頼めるヤツっているか?」
淡「ラインで心当たりに掛け合ったみる」
京太郎「おっけ、じゃあ今日は大丈夫かな」
淡「やったー!」

子供みたいにはしゃぐ淡を微笑ましく眺めながら、メッセージを流した。



京太郎「流石にクリスマス一色だなー」
淡「あながち間違いでも無かったでしょ?」
京太郎「朝のアレか」

ショッピングモールにまで足を運べば『Merry X'mas』なんて格好付けたポップがアチコチに躍っていた。

京太郎「あくまでコレは予告だろ」
淡「えー、別に良くない?」
京太郎「お前さ、誕生日を事前に祝われたらどうよ、なんか微妙だろ?」
淡「…………そーだね」

半分納得、半分不満といった表情を浮かべる。
…………誕生日の単語を出すのはまずかっただろうか?

京太郎「それで、今日の予定は如何でしょうか、お姫様?」
淡「んっとね、買い物と……映画観たい、スターウォーズ!」
京太郎「…………まだ公開してないぞ」
淡「嘘っ!?」

スターウォーズの公開日は12月18日で御座います。

京太郎「まあ、適当に今やってる映画でも観ようぜ」
淡「むぅー…………」
京太郎「唸っても無理なモノは無理だよ」


今日1日は淡の為に捧げたようなものだった。
買い物にしたって、早いんじゃないかと思うが春物を見て淡がそれを試着して、結局強請られて買ってやった。……それが五件くらい繰り返されてたりして。
まあ……淡とシェアハウスをして金銭的に大分余裕があるから別に良いんだけどな。
それに今日は…………

淡「キョータローは何食べるー?」
京太郎「ん!ああっ……」

少し考え事をしているウチにメニューが上の空になっていたようだ。
ショッピングモールの外にあるちょっとお高めそうなレストランに入り、今日の晩はそこにと決まった。

京太郎「じゃあ、このオマール海老のナンチャラってヤツで」
淡「キョータローって大体エビ系頼むよね」
京太郎「そう言うお前はガッツリとボリューミーな肉を頼むよな」
淡「だってお肉食べるならいっぱいあった方が良いじゃん!」
京太郎「まー、確かにな」
淡「私はラムステーキにしよっと!」

そんな高級そうな店に入っても話すことは助手の誰がどうとか、誰と誰が付き合ってるだの世間話だった。

こんな俺達の関係とは何なのだろうか……時折、疑問というか不安に思う。
端から見ればカップルに見えるそうだが……「付き合おう」の一言も無く同棲が始まってしまった俺達は明確にそれを意識する事が無い。
気がつけば一緒に同棲していた。
恋人でない、としたら何なのだろうか?

淡「どしたの、キョータロー?」
京太郎「…………」

赤裸々な話をすれば、淡と結構長く同棲してるクセに夜の営みをした事はないし、キスさえしたことが無い。
もしや、淡はただ単に友達としてしか俺を見ていないのではないか…………
そう考えたら、胸が潰れるような苦しさを覚える。

京太郎「今日は……淡の単位だったよな?」
淡「あっ!そうだよ、忘れられてたのかと想ってた!」

だから、それを何時か確かめたいと思っていた。

京太郎「ほい、プレゼント」
淡「ワーイ!ありがとー!」

淡の誕生日を選んだのは、きっかけが欲しかったから。
良い結果でも悪い結果でも思い出になればいいなって。
…………女々しい考えかもしれないが

淡「んー、ペンダント?」
京太郎「ああ」

プレゼントに選んだのは星をあしらったシルバーのネックレス。
トップの六芒星の真ん中にはターコイズの丸い石が填められている。
ターコイズは12月の誕生石。
何でも、不信や罪悪感などといったマイナスの感情を浄化してくれる効果があるとか…………

京太郎「あのさ、淡……改めて言うのも恥ずかしいんだけどさ」
淡「わぁー!キレー!ん、なぁーに?」
京太郎「付き合ってくれないか?
その……恋人として…………」

京太郎「…………」

言ってしまった。
これで『キョータローったら自意識過剰すぎだよ!』とか言われたら立ち直れない自信がある。
俺は固唾を飲んで淡を見つめた。

淡「へっ…………?」
京太郎「え」

対して、淡は面食らった顔で返してきた。
え、何?
眼中に無かったってこと?

淡「私達、付き合ってなかったの?」
京太郎「………………はああああっ?!」

今度は俺が面食らう番だった。

京太郎「えっ、だって、ハッキリと付き合うとかそう言う話してなかったし……!」
淡「そうだっけ?」
京太郎「そうだよ!」
淡「んー……でも、別にいいじゃん」

机越しに、身を乗り出して淡は一言。

淡「私はキョータローのこと大好きだし、キョータローだってそんな事言ってくれたって事は私のこと好きでいてくれてるんでしょ?
だったら…………別に言葉とかどうでも良くない?」
京太郎「ははっ…………!」

思わず笑みが零れてしまう。
今まで不安に駆られて悩んでいたのが馬鹿みたいだ。
淡には叶わない……そう心にしみた。

淡「じゃあ私からも改めて……これからもよろしくね、キョータロー!」


プレゼントしたネックレスを早速身に着けながら、そんな事を言われてしまった。


カンッ!