オダイジニー


咲「…」フラフラ

咲「…そんな」フラフラ

咲(に、にんしん7週目…)

咲「にんしん…妊娠…」

咲「…あはは…」


咲「…どうしよう」

咲(お医者の先生からも、連絡先聞かれそうになって)

咲(逃げるみたいに出てきちゃったよ…)

咲「…」

咲「やっぱり、京ちゃんとの子…だよね」

咲「…!」ドキッ

咲(だ、だめ!だめだよ!)

咲(まだ産むなんて決まったわけじゃないし!)

咲(お医者さんも、22週までなら堕ろすのも大丈夫…って…)

咲「…」

咲「…おろ、す…」

咲(…中学生の頃、学校の授業で見たことが有る)

咲(手術の時、逃げるみたいに動く赤ちゃんを…)

咲(き、機械で、砕いて)

咲(掻き出して…そのまま、そのまま…!)

咲「…っ!」じわっ

咲(――い、嫌だっ!絶対に嫌!)

咲(まだ顔も見えないし、男の子か女の子だってわからないし)

咲(動けないし、一人じゃ息をすることも出来ない…!)

咲(で、でも…)

咲(…京ちゃんと、私の、こどもなんだ)

咲(そんな酷い目に合わせるなんて…出来ないよ…)

咲「…」フラフラ

咲(でも)

咲(産んだら、私と周りのみんなはどうなるの?)

咲(お腹をおっきくして大会なんて出られない)

咲(部長の、染谷先輩の、優希ちゃんの原村さんの夢が、私のせいで…)

咲「…」 …ピタ

咲(…私は、麻雀部には居られなくなる。それどころか…学校にだって…)

咲(みんなきっと私を軽蔑する…!お父さんだって、なんて言うか分からない…!)グッ

咲(高校生で妊娠なんて、物語みたいな不良娘だなぁ、あはは…)

咲「…」

咲(勘当、なんてことも…)

咲「…」ぶるっ

咲(それもいやだよ…!もう家族が減るなんて、いやだ…いやだ…!)

咲「…っ」フラフラ

咲(…それに、何より)

咲「…京ちゃん…」

咲(…京ちゃんにだって…きっといっぱい迷惑がかかる)

咲(本当の事が皆にばれたら…ひょっとして私より悪い立場になるかもしれない…!)

咲「…っ…」ブルブル

咲(…ダメだ、それは絶対ダメ…!)

咲(私が原因で京ちゃんの人生がズタズタになるなんて、そんなのだめだよ…絶対嫌だ…!)

咲(…)

咲(それでも…)

咲「…う、うぅ…」じわっ

咲(堕ろすなんて出来ない…っ!)

咲「…う、ううう…」ポロポロ

咲(いらないから、邪魔だから殺すなんて勝手すぎる、出来ない、私には…!)

咲「…ふぐっ、うえ…ううう…うっ」ポロポロ

咲(ちゃんと産んで、抱きあげて…産まれてきてくれて、ありがとうって)

咲「…素直に言ってあげられるなら、良かったのになぁ…っあはは…」ポロポロ


咲(産んでも、産まなくても…)

咲「きょうちゃん…ううっ、京ちゃん…」ポロポロ

咲「私、どうしたらいいのぉ…」ポロポロ



京太郎自宅前

咲「…」うろうろ

咲(きちゃった…)

咲「…う、うう~…」うろうろ

咲(チャイム押さないと…)スッ

咲「…」

咲(拒絶されたらどうしよう…)

咲(京ちゃんに限って…きっとないと思うけど…)

咲(もし…捨てられたり…っ)

咲「…」

咲「…」プルプル


京太郎「咲?」

咲「ひぃうっ!?」ビビクゥ!!

京太郎「な、なんだよその反応…流石に傷つくぞ」

咲「きょ、きょ、きょうちゃん…!」ビクビク

京太郎「…家の前で突っ立ってどうしたんだ?何か用なのか?」

咲「…!…う、うん…」

京太郎「…?」

京太郎「ん…まーいいや。とりあえず家入れよ。今日は親も居ないし」

咲「…うん…」ドクン ドクン

京太郎(ほんとに変な咲だな…)

京太郎(何かあったのか?)ガチャッ



部屋

京太郎「リンゴジュースでいいよな?ほれ」カラン

咲「…ありがと」

京太郎「…」

咲「…」コク コク

咲「…」ぷはっ

京太郎「…」

京太郎「…やっぱかわいいな。咲は」

咲「ぶふぅっ!?」ブシュッ

京太郎「うおぁーッ!?」ビシャァ

京太郎「ちょ、飲みきってなかったのかよ!?」

咲「―い、いきなり何なのぉ!?京ちゃんっ!」あたふた

京太郎(コップ両手持ちってのがツボに来たとは…)

京太郎「あー、いや…何となく思ってみただけ」

咲「う…もう、京ちゃんてば…」テレ

京太郎(…むむ)ドキ

京太郎「…咲何か拭くもの持ってないか?服がシミになっちまう」

咲「あ…ご、ごめんね京ちゃん」

咲「…はい、ハンカチあるから拭いたげる」ゴソ

京太郎「お、ありがとう」


咲(…)フキフキ

京太郎「…」

咲「…」フキフキ

咲(…やっぱり、私は京ちゃんの事が好きだ)

咲(一緒に居ると幸せで、たまにからかわれたりするけど、それでも好きでたまらない)

咲(ずっと隣で過ごさせてくれるなら…私は…)

咲(…)

咲(…京ちゃんも)

咲(京ちゃんも、きっと同じ気持ちで居てくれてるよね…?)


咲「…終わったよ」スッ

京太郎「ん、悪いな…吹かちまったのは俺なのに、咲にだけ」

咲「い、いいよそんなの」ブンブン

咲(…)グッ

咲「…あのね、京ちゃん」

京太郎「…んー?」

咲「その、大事な話が有るんだけど…聞いてくれるかな」

京太郎「…」

京太郎「なんか、マジで大事な話っぽいな」ゴソゴソ

京太郎「聞くよ。俺なんかでよけりゃ」セイザ

咲「…っ」ゴクリ

咲「京ちゃん、あのね、私ね…」



咲「…デキちゃったみたい」



京太郎「ふんふむ…」


京太郎「…ん?」

京太郎「ちょちょちょっと待ってくれ!」

京太郎「デキ、デキチャッタって…その、あれなのか?やっぱり?」

咲「…」

京太郎「…出来ちゃったのか?子供?」

咲「…うん…」

京太郎「…お、おお…」

京太郎「…そうか、うん、出来ちゃったかぁ…はは」

京太郎「…」

京太郎「――じゃないし!!」

咲「…!」ビクッ

京太郎「いやいや!出来たって咲ぃ!」

京太郎「ゴムだってちゃんとしてたろ!?何でそんなことに!?」

咲「…う、う」

咲(きょ、京ちゃん…?怒ってる…?)サー…

咲「だ、だって、その、あれも100%じゃないって言うし…」

咲「それに…それに京ちゃんだって!」バッ

京太郎「うぉ!?」

咲「つっつつ!付けるからには中で…って聞かなかったからぁ!」カアァ

京太郎「…ぐ、ぐぐ…!」

咲「外でって私あんなに言ったのに!ぜんぜん聞いてくれなかったじゃん…!」カアアァ

京太郎(く…そういやそんなことも…!)ダラダラ

京太郎「わ、わかったよ!ひとまず何でどうしてってのは置いとこう」

咲「…」じとっ

京太郎「そんな目でみんな!…っつーか大事なのはここからだ」

京太郎「その、だな…咲、お前は…」



京太郎「――産みたい、のか?」



咲「…っ」ゴク

京太郎「…」

咲「…」

京太郎「…」シン…

咲「きょう、ちゃん、私は…」

京太郎「…おう」




咲「…産みたいよ。産んで、京ちゃんといっしょに、育ててあげたい」

京太郎「…~っ」グッ

咲「…」ドクン

咲(…い、言っちゃった…)ドクン ドクン

京太郎「…そう、か。そうだよな」

咲「…!」

京太郎「気持ちは、あー…よくわかるよ。俺達の子供だもんな」

咲「きょ、きょうちゃ――!」

ガシッ

咲「――ん?」

京太郎「でもな、咲」

咲「へ…きょ…?」

京太郎「…やっぱ、ダメだ。今の俺たちじゃ、育てられない」


咲「――――」

咲「―…え、え…」

京太郎「…」

咲「…な、何でっ!何でなの!?京ちゃんっ!?」

京太郎「落ちつけよ!咲っ!」

咲「…!」

京太郎「今お前が産んだとして、まず学校はどうするんだよ!」

咲「そ…」

京太郎「日増しにでっかくなってく腹をどうやって隠すんだ!?バれて騒ぎになったら指導じゃすまないぞ!?俺も咲も!」

咲「…っ」

京太郎「周りの人だって掌返してくるかも知れないぜ?お前、まず部活のみんなに何て説明する…!?」

咲「…う、ぅ…」ブルブル

京太郎「私達実は付き合ってて、先日やったらできましたってか!?皆納得するのかよ!?無理だろ!」

京太郎「少なくとも、きっと和なんかは…受け入れてくれない。そんなの、あいつの性倫理の範疇にすらないぜ…」

咲「…っ…っ!」プルプル

京太郎「親御さんだって大激怒だろ…?お宅の大事な娘さん孕ませました!なんつって…!殺されるぞ俺は…!」

咲「…きょうちゃん…きょうちゃ…」プルプル

京太郎「お金の問題だってある…」

京太郎「俺が中退して咲を養うとして、専門学校で訓練したわけでもない様なガキをどこが雇ってくれるんだよ…?」

京太郎「まして、一家を支えられるだけのってなったら…」

咲「そ、そんなのっ!私だってパートに出たりして…!」

京太郎「…!」


京太郎「…咲!」 だきっ 

咲「…っうぇ…!?」ギュッ



京太郎「…咲、咲…なあ、頼むよ。子供が大事ってのは俺も一緒なんだ」

咲「じゃあ…!」

京太郎「でもな、ダメ、駄目なんだ…」

咲「…なん、でぇ、なんでなのぉ…京ちゃん…」ポロポロ

京太郎「…俺はな、今は子供より、お前の方が大切なんだよ…」

咲「っ…!」ポロポロ

京太郎「俺は…見たくない、見たくないんだよ…!生活やら世間体やらに追われて、やつれていく咲なんて…!」

咲「ふ、うぅ…」ポロポロ

京太郎「…俺たちはまだ学生なんだ!頼む、頼むから納得してくれよ、咲!」

咲「ううぇ…やだぁ…やだよう…」ポロポロ

京太郎「お願いだよ、『こんな時期に出来た子供なんて』…!」

咲「――っ!!」ポロポロ


京太郎「…堕ろしてくれっ!」



咲「う、うあああ…うああああん…!!」ポロポロ

咲「っ、ふううえっ…!!きょ、きょうちゃんの、京ちゃんのっ!!ばかあぁー!!うああああん!!」ポロポロ 

京太郎「…さ、さきっ!?」

咲「っひ…なっ、『なんて』って!なんてって…!何でそんなこと言うの…!うあああ…」ポロポロ

咲「…たじ、確かにっ!望んで出来た子じゃ、ないかもじれないけどっ!ううううっ!!」ポロポロ

咲「この、この子は…この子はぁ…!」ポロポロ

咲「私と…京ちゃんのっ…こどもなのに…っ!」ポロポロ

京太郎「…っ!」

京太郎「…咲!俺が言ってるのはそういう事じゃ…!」

咲「なのに、なのに…っ!!」


咲「――どうしてそんな酷いことがっ!!簡単に言えるのさぁっ!」ポロポロ

京太郎(かんた…っ!!)

京太郎「…俺が!簡単な気持ちで!こんな事言ってる訳ないだろ!?」

咲「ひ、っぐ…!!」ポロポロ

京太郎「何で!?こっちの台詞だよ!何で、何で分かってくれないんだよ!俺が一番大事にしてるのは――!」

咲「…っうう!わかってる!!でも、でもぉ!納得なんてできないよ…!!わた、ひっぐ、わたじは…!」ポロポロ

京太郎「…っ!言いたいことわかってるんなら納得してくれよッ!」

咲「いや、やだ、やだよっ!うううあっ!!」ポロポロ

京太郎(く…そ…っ!)

京太郎「俺はな!まだお前の傷が浅い内に――!」



咲「生きて産まれるのがそんなに悪いことなのっ!?私はただ…!この子に…!!」ポロポロ


京太郎「――『それ』が!まだ間に合う内に堕ろしてくれって言ってるんだよっ!」



咲「…ふ、ぇ――」ポロ…

京太郎「――!」


咲「――、~~~っ!!」ふるふる


京太郎(しまっ、た…!)

咲「そ、れ…『それ』ってぇ…」ポロポロ

咲「…ああああ…!!京ちゃん…っ…きょうちゃぁあん…!!」ポロポロ

京太郎「ち、がう…咲…」


咲「ひ、あああっ…っ!!きょう、ちゃんのぉっ!!うえええっ…!!」ポロポロ


咲「――京ちゃんのっ!!ばかあああぁーっ!!!うああああっ!!」ポロポロ

ダッ


京太郎「っ、…待っ…」


ガチャッ バタンッ…


京太郎「…待って、くれ…」


京太郎「…咲…」ヘナ



トボトボ…

咲「…」



京太郎『――『それ』が!まだ間に合う内に堕ろしてくれって言ってるんだよっ!』



咲(…もう、京ちゃんにとって)

咲(…この子も…私も…)

咲(迷惑でしかないのかな…)


トボトボ…


咲「…っ、…!」ポロポロ



咲自宅

ガチャッ

咲「…」フラフラ


親父「…帰ってきたな~?」


咲「…」スタ スタ

親父「一体こんな時間までどこ行ってたんだ?」

咲「!…う、お父さん…」

親父「…『う』ってお前ね…」

親父「…ただいまもなかったな、帰って来た時の挨拶くらいはちゃんとしろって言ってたろ?」

咲「…ごめんなさい」

親父「はぁ…」ガシガシ

咲(…っ)

親父「咲が…高校生になってまでこんな事ぁ言いたかないんだけどな…」

咲「…」

親父「遅くまで遊ぶなら連絡くらいしてくれな?携帯持ってなくても出先でそんくらい借りれるだろ?」

咲「…」グッ

咲「私、遊んで、なんか…」ふるふる

親父「言うな言うなって…」カチッ シュボッ…

親父「ふぅ~…お前ぐらいの年頃は色々と遊びたくなるもんな?門限次から伸ばしてやろうか?」プハ~

咲「…!」ブルブル

親父「…」

親父「…まあ、でもなぁ、何事にも限度ってもんはあるしだ」

咲「…?」

親父「…ん~…」もぞ…

親父「…カーサンも照も出てっちまって、今はお前だけが身近な身内になっちまった」

咲「…」

親父「…これでも、俺はお前の事を、娘として愛してるんだ」

咲「…!」

咲「と、とうさ…!」

親父「この際だから言うけどな…んん…咲、俺はなあ」



親父「…この上、お前までグれてどうにかなっちまったらと思うと、もう俺は悲しくて溜まらん」ボソ



咲「――――」

親父「…~!!」すぅ~ ぷはっ!

親父「…な、なんてェ!いやいつもの俺らしくもないな!はは!」テレテレ

親父「余計な事言って済まねえな、咲、変な話して悪かっ…」


親父「…咲?」


咲「……ぅ」ポロポロ


親父「お、おい、泣いてんのか?」

咲「…う、うぅっ、…うあっ、うええっ…」ポロポロ

親父「どうしたんだ一体!?何か急に具合でも…!?」オロオロ

咲「…ごめんなさい、ごめんなさい…っ!」ポロポロ

親父「??…なんで謝っ…」

咲「…!」だっ

親父「咲、おいっ!」


ドタドタ…  バタン


親父「…」ぽつん

親父「…失言とかなかったよなあ…?」


親父「…謝るほど気持ちの悪い台詞だったのか…」シュン


咲自室

ボフッ

咲「…う…うう…」ポロポロ

咲(何をやってるんだろう、私は…?)

咲(京ちゃんに迷惑をかけて、わがままを言うだけ言って飛び出して…!)

咲(…全部京ちゃんの言うとおりだ…!産む前からこんなので、上手くいくわけないよ…!)

咲(迷惑なんだ、みんな、皆…)

咲「おとう、さん…」ポロポロ


咲「諦めなきゃ、いけないのかなぁ…」ポロポロ


京太郎自宅

京太郎「…」ボー

京太郎(…説得するつもりだったんだ)

京太郎(将来、咲が傷ついて、壊れてしまわないようにって…)

京太郎(…傷ついて…)

京太郎「…くそっ…!」ゴン

京太郎(何が咲の為だ…!じゃあどうしてこんなことになってんだよ…!?)

京太郎(感情に任せて怒鳴って、よりによってあんな、…!)

京太郎「畜生…!」ゴンッ 

京太郎(ずっと泣いてただろ、咲は!分からないわけないだろ!?何で冷静になれなかったんだ…!この…っ!!)

京太郎「下衆野郎っ!!」ゴンッ!

京太郎(あの場で咲が必要としてたのは…きっとあんな保身じみた台詞じゃなかった!)

京太郎「くそ…くそおっ…!」ゴンッ ゴッ

京太郎(受け入れるのに時間が有ったってよかった!!なに急いて何もかも台無しにしてんだッ!!このバカ野郎…!!)

京太郎「くそ…くそっ、クソ…」ゴン…

京太郎(誤解されたって仕方ないだろ…男だろ…っ!?こんな…!)

京太郎「…っ」ぐぐ…

京太郎(さ、き…)

京太郎「ふ…」じわ

京太郎(俺は、俺はぁ…あの時…)

京太郎「…っ」コツン…



咲『――京ちゃんのっ!!ばかあああぁーっ!!!』



京太郎(出ていく咲を、追いかけることすらしなかった)


京太郎「…」ズズッ…

京太郎「…情けない…なぁ、はは…」ぽろ



京太郎「…情けない…!なんて、情けない…っ!」ボロボロ



翌日学校

京太郎(…咲は、学校にも来ていなかった)

京太郎(当然だよな…)

京太郎(むしろ普通に登校してきてる俺のがおかしいと言うか…)


優希「――しゃぁ!!リーチだじぇー!」

和「…」トン

まこ「今日は一段と早いのぉ…」

久「優希ー、あんたこそっとタコス食べてきてたりしないでしょうね~?」



京太郎「足は自然と麻雀部…」

京太郎「…来てるわけないのにな…」ハァ

優希「ふーん!これが優希ちゃんの真の実力ってやつだじぇ!」ドヤ

まこ「くっ…!調子に乗って…!」トン

優希「それだっ!6000!」ばらっ

まこ「げーっ!!」



京太郎(今行っても、また同じような事になって咲を…)

京太郎「…」モンモン

京太郎(そっとして置くのがいい?傷を深めるだけ?そもそも、来てないってことは俺と顔を会わせたくないってことだろ?)

京太郎「…」ソワソワ

京太郎(駄目だ!だめだだめ!)

京太郎(怖がってんじゃない、須賀京太郎…)ブツブツ

京太郎(反省なら昨日十分した筈だ、拒絶されてもへこたれるな、きっと、今度は…)

京太郎「今度こそ、絶対…」ブツブツ


久「須賀君?」

京太郎「――おぁっはい!!??」ビク!

久「何さっきからブツブツ言ってんの?奇怪極まりないわよ?」

京太郎「…いや、ちょっと考え事で…」

久「…?左様で」

久「まーいいわ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

久「咲って今日学校休んでるのよねー?」

京太郎「…」ドキッ

久「須賀君、何か知らない?病気とかならちょろっと差し入れが…」

京太郎「…~!」ソワソワ

京太郎「ぶ、部長っ!!」バッ!

久「は、はい!?」タジッ


ガタン!

京太郎「――ちょっと今日は俺っ!気分悪いんで!早退します!」ダッ

久「は…?ちょっと須賀く…!」

ガチャ バタン!


まこ「? 何事じゃ?」

久「…反抗期なのかしら…」ボソ


優希「何だかわかんないけど部長はさっさと早く卓に戻るじぇ!犬なんてほっといて!」バンバン

優希「早く続きを打たないと勢い途絶えそうで―」

久「…や、半分はそれが目的だったりして?」

優希「なぬぅ!?」ガーン


和「…」


咲自宅前

ピンポーン…

京太郎「…」

京太郎「流石に…簡単には出てくれないな…」

京太郎(…親父さんも居ないのか)

京太郎(一人で、部屋の中で…)

京太郎「…っ」

京太郎「頼む…出て来てくれよ咲…!」

ピンポーン…


ピンポーン…

咲「…」

咲「…ごめんよ、京ちゃん…」

咲「私、今は…」

咲「今は…」

ピンポーン…

咲「…」

咲「何も考えたくないよ…」


ピンポーン…

京太郎(…そろそろ、咲の親父さんも帰ってくる時間帯だよな…)

京太郎「…」グッ

京太郎「…咲ー!聞こえるかー!!」

京太郎「会って話がしたいんだっ!出てきてくれー!!」

シーン…

京太郎「…」

京太郎「…明日も!絶対また来るからな!」



京太郎(…ドア一枚で遠くなるもんだな)

京太郎(まるっきり変質者じゃんか…)

京太郎(…)

京太郎(彼氏、か…)

京太郎(…会ってもくれねーのにな…はは…)トボトボ

京太郎「…」トボトボ…


咲「…」ソロリ

咲「はぁ、はぁ…っう…!」

咲(京ちゃん、行っちゃった…)

咲「はぁ…っ!う、ぷっ…うえ!」くらっ

咲「…!」ダッ



ジャー…

咲「はぁ、は…」

咲「つわり、ぜんぜん、収まんないじゃん…」ヘナ

咲「…ふっ、うーっ…」

咲「…っぷ、う…!」ガバッ



学校


京太郎「…」ハァ…

京太郎(とうとう一週間…)

京太郎(咲は学校にも麻雀部にも姿を見せず…)

京太郎「…」ガララ

京太郎「…こんちはっす」ピシャン


まこ「…おー、今日も遅かったの」

優希「…む、京太郎…」トン


京太郎(やっぱりというか、咲はいないな…)

京太郎(…あいつが来ないことで、部の雰囲気も下り坂を辿り続けている)

京太郎「…あの、部長」

久「…あらら、本日も早退?ここんところ毎日ね~?」

優希「…」ソワソワ

京太郎「すいません…」

久「あ、やー…責めてる訳じゃないのよ?ただ…」

京太郎「…」

京太郎「咲、ですか」

久「…無関係じゃないんでしょう?」

京太郎「…はい」

久「でも、教えてはくれないのよね」

京太郎「…っ」


久「…っと、リーチ」トン

久「同じ卓を囲んだ部員同士、けっこー信頼関係はできてきたかなって思ってたんだけど」

久「私の思い違い―」

京太郎「――そ、そんなことないっす!」ダンッ

まこ「…」トン

京太郎「…ただ…」

京太郎(ただ、この問題は…できたら咲の…)


京太郎「…」

久「…」

久「…なんてね、ごめんなさい。意地悪言っちゃって」

京太郎「…?」

久「須賀君も咲も、そんなに薄情な人だなんて思ってないわよ」テヘペロ

京太郎「は、はあ…」

久「…行っていいわよ。ほら、出来たらちゃっちゃと解決してよね」

久「いい加減この面子で打つのも飽きてきちゃったし」

久「ま、どーにもならなくなったらこっちを頼っちゃってもいいのよー?」

京太郎(部長…)ジン…

京太郎「…ありがとうございます」ペコ

久「んー」フリフリ

京太郎「…じゃ、お先に―」スッ



トン

和「…待って下さい」



京太郎「…和?」ピタ

久「…お?」

和「…皆、おかしいです」ボソ

久「和…?」

和「これで、一週間…」

和「一週間も…学校にすら来てないんですよ…?宮永さんは…!」グッ

和「…みんな、心配じゃないんですか!?」

和「もう我慢できないですっ!ただの風邪なんかじゃないことくらい分かるでしょう!?」

優希「の…のどちゃん落ち着いて…」オロオロ


和「――落ち着いてますッ!!!」

優希「ひ、ひぃい…」

和「…須賀君っ!!」ズイッ

京太郎「の、和…」タジ

和「部長や優希に諭されて黙っていたけど、流石に!これ以上は耐えられないです…っ!」

和「隠し事があるんでしょう!?全部吐いていってもらいます!!」ズイズイ

京太郎「う、ぐ…!」

まこ「和、和!ちいとも落ちついとらんじゃろが!いったん…!」

和「…!」ギリ


和「…須賀君がここ数日…宮永さんの玄関前で、ずーっとチャイムを鳴らし続けてたの、私知ってます…!」

京太郎「…!」

久「…」

和「一回だけ、お見舞いのつもりで行ったんです、宮永さんの家まで…」

和「そしたら、そこに須賀君が居て、まさかと思ったら…次の日も、その次の日も…!!」ブルブル

和「…ストーカー染みてるって軽蔑されたって構いません」

和「宮永さんは私の友達です、親友です…!」

京太郎「…っ」

和「ずっと家に一人で閉じこもってるんですよね…?一体どんな辛いこと…苦しいことが有ったら…そんな…」

和「…そんな…っ!」じわっ

京太郎「…和…」

和「…お願いです、教えて…教えてください…!」

和「須賀君じゃなくて、私だから助けになれることも、少ないかもしれないけど…きっとあるとおもうんです」

和「お願い…だから…っ!」ポロポロ


京太郎(…)グッ



京太郎「…だめ、だ」



和「―――っ!!」ポロポロ

和「なん、でぇ…!ふ、ううう~っ…!」ポロポロ

京太郎(…)フラ


京太郎(…教えて上げられたなら、どんなに楽だろうな)

京太郎(でも、俺には…そんな話を聞かされたとしても…!)

京太郎(わからない…わからないんだよ…!)

京太郎(和と咲がどんな関係で、どんな秘密があるとか、どんなタブーがあるかとか…!)

京太郎(これを伝えて和がどんな反応に出るかも分からない!)

京太郎(最悪、咲に近しい立場の和が周りに喋ったりしたら最後だろ…!?)くらくら

京太郎(伝えるのは全部咲じゃなきゃいけない!特に和!お前にはそうなんだ…!)くらくら


京太郎(俺の口からなんて、そんな無責任な博打…!ここで打てるわけないんだよ…!)ぐるぐる

京太郎「…わかって、くれよ…咲の…ためなんだよ…」くらくら


和「…!」ポロポロ

和「…っ、うう、ううっ…!」ポロポロ

久「…もういいでしょう?和」

和「…ぶ、ちょ…」ポロポロ

久「咲だって、相手が和だからこそ踏みこまれたくない部分もあるのかもしれないでしょ?」

久「…それを伝える相手が、今回は京太郎だったってことなのよ。たぶんね?」


京太郎(当たらず、遠からず…)

和「…う、う…!」 ポロポロ

和「ゆ、優希!ゆうきっ!」バッ

優希「…の、のどちゃん…」オロオロ

和「…!」

和「染谷、せんぱい…っ!」サッ

まこ「…和」

和「~~!!」


京太郎「…和っ…!」


和「…っ」

和「…」

和「…いや、です」ボソ

久「…?」

和「そんな、そんな…私なんかより…ぜんぜん、須賀君の方が…」ブルブル

和「宮永さんを理解してる…みたいじゃないですか…!私は、私が宮永さんの親友で、そんなの、違う、おかしい…違うっ…!」ブルブル

和「…そんなの、嫌だっ…!」ブルブル


優希「…のどちゃん」


京太郎(…理解…)

京太郎「…違う、和…俺は、あいつのことは、何一つ…」

京太郎(分かってなかったから…こんな…)


和「…!」ギリリ

和「うう、うああっ…!!」ダッ


久「! 和っ!」


ガチャッ …バタンッ

京太郎「…」

まこ「い…いってしもうた」


タッ タッ タッ 

和「…は、はぁ…はぁっ…!」

和「…っふ…!はぁ…!」

和(みんな、みんな間違ってる、黙ってただ見ているだけで友達なんて、そんなの間違ってます…!)

タッ タッ タッ 

和「はぁっ!はぁっ…!すが、くん…っ!」

和(あなたは本当に宮永さんの事を思ってる?)

和(…仲のいい友達を、幼馴染を取られたくないって、私達を宮永さんから遠ざけているだけじゃないの!?)

和(あなた一人で解決することは、麻雀部の皆を…私を切ってまで重要な事なの!?独占欲ではないの!?)

和(だとしたら…)


和「…くぅっ…!」

和(私は…あなたを許せません…!)ギッ

和「…そうだ…そうなんだ…!」ブツブツ

和(…現に宮永さんは、あなたに顔も見せていない…!)

タッ タッ タッ

和(…いま、いま行きますから)

和(私だって力になれます)

タッ タッ タッ

和「…はぁっ…はぁっ…!」

和(穏乃…憧…)

和(…優希…!)

和「…はぁ…!はぁ…はぁ…」

タッ タッ  …ピタ

和「はぁ…!は…!私は…っ!」ハァ…

和「やってみせます…ぜったい…!」グッ


和「…見ていてくださいっ!」タッ

タッ タッ タッ…



咲自宅

咲「…」

咲「…」

咲(…なんにち)

咲(もう何日、こうしているんだろう…)

咲「…」 クシャッ

咲(きょうちゃんは、毎日来てくれて…玄関でずっと粘って、帰って行く)

咲「…」

咲(私が、ドアを開けないから、帰って行く…)

咲「……っ」

咲「…」ギュ

咲(こうやって、何もしないで…おふとんの上で体育座りなんてしてたって、何も前に進まない)

咲(…)

咲(…怖い)

咲(…お父さんを誤魔化すのも限界だ)

咲(もう、不安で夜も眠れない)

咲(…きっと私…鏡が有ったら…酷い顔してるんだろうなあ)

咲「…」

咲(きょう、ちゃん…)

咲「…」ギュウウ…

咲「…」

咲(…お腹すいたな…)

咲「何か酸っぱいもの…」

咲「…」

咲「…」じわ

咲「…あれ?」ポロポロ

咲「…また、だよ…っ」ポロポロ

咲(…一昨日から、自分でも知らないうちに涙を流している時が有る)

咲(泣き始めは悲しくもないのに涙が出るのが不思議なだけで…)

咲「…ふ…ぅ…」ポロポロ

咲(…でも、泣いてるあいだに…だんだん、悲しく、なって…)

咲(悲しく、なって…なんでなんだろ…なんで…)

咲「ふっ、ううっ…ああ…」ポロポロ


咲(…こんなに、泣きたくなるの?)

咲「うああーん…ひぐ…うあああ…」ポロポロ

咲「…うあああん…うあああ…」ポロポロ

咲(――日に何回かこういうことがあった。頻度は段々増してきている)

咲(――何もかもに見限られて、捨てられて、底のない穴を延々と墜落していくような喪失感)

咲「っひ、ひいっ…うああああっ…!」ポロポロ

咲(――どんな隅っこで、頭を抱えて、縮こまって震えても、それは私を見つけ出して、暗くて狭い所に引き摺りこもうとする)

咲「ひあああっ!うわああっ…!!ひ、ひいいっ!」ポロポロ

咲(――特別大きな発作だった。底冷えするような恐怖に炙りだされ、壁に移った私の影は、)

咲「ひううっ!!京ちゃんッ!!!おとうざんっ!!ああああっ…和ちゃんお姉ちゃんおがあざんっ!!」ポロポロ




咲「あああっ!!誰か!!誰かあ誰かだれあああっ!!」ガタガタ

咲(確かに、狂っていたんだ)



咲「――誰かぁあああっ!わた、わたしをっ!私を助けてええええええーッ!!」ポロポロ

ピンポーン…


咲「…っ…うあっ、あああ…!」ポロポロ

咲「…は、うううっ、はぁっ…は…!」ポロポロ

ピンポーン…

咲「…あ、うっ!」グシグシ

咲「…」フラッ


咲「京、ちゃん…」ズリッ

咲「…京ちゃん…助けてぇ…京ちゃん…きょうちゃん…」ズリズリ

ピンポーン…

和「…」

ピンポーン…

和(宮永さん、宮永さん…!)

和(出てきて…!お願いです…!)



…ガチャッ 


和「! み…!」


咲「…」フラッ

咲(…京…)


和「―宮永、さん?」


咲(…ちゃん…?)

和「みやながさっ…!ど、どうしたんですかっ?その顔…!?」

和(ここからでも分かるくらい顔色が悪い、隈もすごい…!それにやつれて…!)


咲「…」フラ

咲(きょうちゃん、じゃ、ない、けど…この声、聞いたことがあるなあ)

咲(あったかくて、やわらかい…)

咲(これは…)


咲「のどか、ちゃん…」フラフラ

和「…!」

咲「…あ」フラッ

和「あ、あぶないっ!」ぽすっ

咲「…ふぁ…」

和「具合でも悪いんですか?いきなりふらつくなんて…」オロオロ

咲(…)

咲(…きょう、ちゃん?わからない…でも…)

咲(あったかい…)ポロポロ


和「み、や…」

和(泣いてる…!?)

和(なんなんですか…これっ…!やっぱりただ事じゃない…!)ゾッ

和「…とりあえず、お家の中へ…お邪魔しますけど構いませんよね?」


咲「…ん…うぅっ…」ポロポロ

コトッ

和「台所、勝手に使っちゃってごめんなさい」

和「あの、レモンティーです。良かったら…」


咲「…ありがとう」コク…

咲(…)ボー


和「…」

和「…宮永さん、一週間も休んでましたね」


咲「…」


和「須賀君が、毎日ここに通っていたのは知ってます」

咲「…」ピク

和(…)

和「私らしくもない、ただの推測ですけど…きっと関係のあることですよね」

和「何があったのか…聞かせて下さい」

咲「…」


『私達実は付き合ってて、先日やったらできましたってか!?』

和「…言いづらい事ならごめんなさい」


『皆納得するのかよ!?無理だろ!』

和「それでも、私は知りたいんです!宮永さんが…!親友が、見えないところで傷ついているなんて、私は耐えられません!」


『少なくとも、きっと和なんかは…』

和「おせっかいでも構わないんですっ!話してくれないと、力になれるかどうかもわからない!」

和「話してくれるだけでもいいんです!」



『受け入れてくれない!』


和「お願いしますっ!」バッ


咲「…!」

和「…っ」


咲「……」

咲(京ちゃん、ごめん)

咲(きっと大丈夫だから…)

咲(…それに)


咲「…わかったよ」

和「…!」バッ


咲「話すよ。…原村さん、きっとびっくりすると思うけど」


咲(黙っているのは、苦しいよ)

咲「…できたら、私と京ちゃんを…嫌いにならないで…?」グッ…


和「―――」クラッ


咲「…」


和「みやなが、さんが…宮永さんが…」

和「にっ…妊娠してて…?」

和「相手は…須賀君…」

咲「…」

和「うそ、じゃ…ないんですね…」

咲「…うん」

和(…~っ!)クラクラ

和(…ま、前々から、雰囲気がおかしいとは思っていたけど…)

和(…まさか、宮永さんと須賀君が付き合っていて…!)

和(あまつさえ、こども…ってことは…)

和(…)

和(やっぱり…)

和「…!」ブンブン

和(違う!今の問題はそういう事じゃない!)


和「…」ゴク

和「…正直、驚きました」

和「…ちょっと…整理したい事もあります…」コツン…

咲「…そっ、か」

和「…」

和「…産むんですか?」


咲「…!」ドキ

咲「…わ、私は…」

和「…」

咲「…私は、産みたい」

和「…なら…!」


咲「でも、京ちゃんは、駄目だって」

和「―――」

咲「産んで、皆が幸せになれるわけじゃないって…」


咲(…それは、きっと京ちゃんが正しい)

咲(…わがままなのは…)ギュ


和「――…」ゾッ…

和「は…」

和(…な、ん…?)

和(須賀君…須賀君…?)ぐるぐる

和(無責任に、宮永さんを…妊娠させて…?)

和(あげく、不注意にっ…!こどもができたら…あっさり堕ろせと…!?)

和(宮永さんの気持ちも酌まずに…!!?)ざわっ


和「……!!」ググ…

咲「…?原村さん?」


和(私達を宮永さんに近づけなかったのは?)

和(私達にこのことをばらしたくなかったから?二人の問題で片付けようとしていたから?)

和(宮永さんに門前で『拒絶』されていたのは?)

和(あなたは…!あなたが…っ!!)

和(思いやりも慈悲もなく…中絶を要求したからではないんですか…っ!?)ギリッ

和(――良い人だと、思ってたのに…)


和「…ふ…!」フラッ

咲「はっ原村さんっ!?」ガタ

和「大丈夫、です…少し、ショックな事が続いただけ…」


和(…だとすれば…須賀君…!須賀京太郎…っ!!)ブルブル

和(私は、あなたを許せません…!ぜったい、ぜったい、絶対に許さない…っ!!)ブルブル

和(…卑怯者!鬼畜生!たらし!人でなし!オカルト!)ブルブル

和(いつもは…考えるのもおぞましい様な罵詈雑言が!湯水のように湧いてくるのを感じます…っ!!)ブルブル


和「…!」じっ

咲「…??」

和(こんな、こんな優しい宮永さんに…っ!!)ワナワナ

和(よくも、よくもこんな…!)じわっ

和「…っう…!」ポロ

咲「…!?原村さん泣いて…?」オロオロ

和「なんでも、無いんです…っ」ゴシッ

和「少し…抑えきれなかった分が溢れてしまっただけですから…」スッ

咲「…え?…?」

和「…宮永さん!」

咲「へ…うわっ」ドタ


和「――産むんです!産んでしまえばいいんですっ!」ギュッ…


咲「え、えぇ…!?」

和「負けちゃダメですっ!絶対に!このまま終わらせたりなんかしちゃダメですっ!」ギュウ

咲「ん、う…」モゾ

咲(負ける?何にだろ…社会?)

咲(…でも)

咲「…でも、みんなに、原村さんにだっていっぱい迷惑かけちゃうから…麻雀部だって…」

咲(それに、お父さん…京ちゃん…)


和「咲さんが…っ!悪くないことくらい!みんな分かってくれます!」ギュウ

和「私だって…!蚊帳の外かもしれません!でも、助けることくらいします!」

和「自分の時間もおこずかいも…全部はたきますから…!」ふるふる


咲(和、ちゃん…)

咲(…)

咲「…まだ、いろいろごちゃごちゃで…良くわかんないことばっかりだけど」

咲「ありがとう、原村さん。ちょっと元気がでたよ」にこ

和「…宮永さん…」

咲(…やっぱり、京ちゃんと会おう)

咲(京ちゃんはとっく受け入れようとしてくれてる…私が、土壇場でごねてただけだ)


和(…良かった、宮永さんが笑ってくれた)

和(私が、役に立てた…?)

咲「…私、明日は学校に行ってみるよ」

和「…!そ、そうですか」

和「良かった…!」ギュウ

咲「あはは…」サスッ


咲(…そうだ。学校に行って、京ちゃんと話さないと)

咲(話して決めるんだ…!私達の将来について…!)


和(…学校、学校…嬉しいです、また宮永さんが来てくれるのは)

和(でも、学校には…須賀君がいる…!)

和(宮永さんを、彼はきっとまた傷付ける…!)


咲(――会う!会って話すんだ!)

和(――会わせるわけにはいかない!私が友達を守るんだ!)



京太郎自宅

京太郎「…」

京太郎(あの後、部長達に断って、出て行った和を遅れて追って…)

京太郎(…咲の家の前で、チャイムを押してるところに行きついた)

京太郎(思わず隠れて、様子を見てたが…)


京太郎「咲のやつ…普通に出てきたな…」

京太郎「…っ」ゴロン


京太郎(…遠目に見てもやつれてた)

京太郎(…)グッ

京太郎(…やっぱり俺じゃ駄目なのか?和だからなのか?)

京太郎(全部和の言うとおり…思いあがりだったのか…?俺は、俺は…)


京太郎「本気で…嫌われちまったのか…?」ゾッ

京太郎「くそっ…教えてくれよ…っ!咲…!」


翌日 咲自宅 鏡の前

咲「…」じっ

咲「…」ギュッギュ

咲「…」

咲「…」ペシペシ

咲「…ん」くるっ


咲(…よし、いつも通りだよね)

咲(少なくとも昨日よりはマシなはず)


咲「…!」パチン

咲「よし!」


トタトタ

親父「…おっ」

咲「あ」

咲「お、お父さん…」


親父「…」

親父「…制服、きてるな。学校に行くのか」

咲「…うん」

親父「もう大丈夫なのか?無理はしてないな?」

咲「う、うん」

親父「…そ、そうか…」カチッ

咲(…)

親父「…はぁ~」ガシガシ

親父「…一週間も学校に行かない、顔も碌に見せない…とんだ親不孝になっちまったよ、お前」

咲「う…」


親父「…」

親父「…でもなあ」

咲「…?」

親父「やっぱそういうのもひっくるめて認めないと、家族なんてやってらんないのかもな…」プハー…

咲「お父さん?」

親父「ちょっと前、お前に…あれだ、グれたらどうのこうのって言ったろ?」

咲「ん…」

親父「…すまんな。変なプレッシャー押し付けちまったよな」

親父「咲は昔っから良い娘だったよ。今更だったよな」

咲「うぇ…ううん、そんなこと」アセッ

咲「…そんなこと…ないよ…」

咲(…本当だ。もう私は『良い子』なんかじゃ…)

親父「子離れできない親が、子供の成長に着いていけずにとっさに焦って吐いちまった一言だよ」

親父「忘れてくれ!今すぐに」

咲「えぇ…」

親父「…」ボリボリ

親父「まだ、何か悩んでんだろ…?」

咲「!」ドキ

親父「…お前がそうやって一人で抱え込む癖持ってんの、忘れてたわ」

咲「…」

親父「…」スーッ… フゥ…

親父「言えない様な事なんだな」

咲「…ごめんなさい」

親父「…や、いいんだ…」

親父「…この際だ。誓うよ」

親父「終わった事なら、もういい。これからだって…お前が俺の娘である分には…」

親父「父として、俺は何があっても咲の味方だぞ」

咲「…!」

親父「だからそんな気負うな!わはは!」バンッ

咲「うわっ」フラ


ガチャッ

親父「ほらもう遅い!行ってこい!久々の学校だろ!」ズイッ

咲「ちょ、ちょっと!お父さん押さないで!」

タッ…

咲「…」

咲「あの、お父さん」

親父「んー?何だ?」

咲「…ありがとう。行ってきます」ペコ

親父「…」

親父「ああ、行ってらっしゃい」


…バタン


親父「…」スゥ…

親父「…母さん!俺久々にお父さんしちまったよぉ」

親父「…なーんて…照、元気にやってるかな…」フゥ~…


スタ スタ

咲「…」

咲(…家族、か)

咲「…」サスッ


ザ―…ッ

咲「…うわっ」バッ

咲「痛ぁ…目に砂が…」ゴシゴシ

咲(…お腹庇っちゃったよ…ただの風なのに)

咲「もー、ばかだなぁ…私」ゴシッ


タッ タッ 

和「宮永さーん!」

咲「!…あ、原村さん!」

咲「おはよう」

和「…はぁ、はぁ…おはようございます…」


和「…はぁ…」

和「本当に…はぁ…学校、来てくれたんですね」

咲「…うん、原村さんのお陰だよ」にこっ


和「…!」

和「い、行きましょう!ゆっくりしてたら遅れてしまうかも…」

咲「そうだね」

和「…」

和(それに、何時『あの人』とはち合わせるとも分かりませんから)グッ


咲「あ、ごめん…走るのは…」

和「あっ…すっすいませんっ!」


学校

咲「…すー」

咲「はー…」


咲「…!」がらっ

ガヤガヤ…

咲「…」

咲「…」キョロキョロ

咲(京ちゃん…居ない?)

咲(…どうしたんだろ)


和「…」じっ



放課後

咲「…」

咲(結局、京ちゃんは学校には来なかった)

咲「…」ウズ

咲(家に居るのかな…)

咲(すぐに向かいたいのは山々だけど…)


和「…ほら、早く行きましょう」

咲「う、うん」テクテク


咲(原村さんに手を引かれ、私は今部室に向かっている)


テクテク

和「…皆心配してました。宮永さんのこと」

咲「…うん。ごめんね」

和「私じゃなくて部活のみんなに言ってあげて下さい」

咲「は、はい…」ビク

和「…」クス

和「…ごめんなさい。ちょっと安心しました」

咲「?」

テクテク



麻雀部

ガララ…

優希「あ、のどちゃ…」

優希「…!?」


咲「…えっと、あの」

咲「お久しぶり、です」


優希「―ささ!咲ちゃんっ!」ガタッ

まこ「なんじゃと!」ズイッ

久「…おぉっと、やっとご登場ね~」

咲「…あ、あはは」


優希「…ふ、うぐうぅ~!」ポロッ

優希「さ、さきちゃああんっ!!」ガシッ

咲「うわっ!?」