健夜「ぅー…」モゾモゾ

眠い。目がしょぼしょぼする…
夜中につい甘いもの食べちゃったからって眠くなるまで牌譜見てたのはまずかったかなぁ…
今日は休みだから良いんだけども。

健夜「休みでも早く起きちゃうあたり大人になったってことなのかなぁ…」

まぁ違うよね。ただ単に物心ついた頃から続いた習慣だから染み付いてるだけだよね。
二十…何年だろう。大体三歳ぐらいからだと考えると二十五年?
…この換算でもアラサー突入かあ

健夜「…」ズモモモモ

おっとやばい。負のオーラが溢れ出してきた。
きっとあれだね。お腹空いてるからこんな気分なんだね。
そうと決まればおかーさんに朝ご飯お願いしないと…
一人でご飯も作れないから独身なんだって?うるさい。
とにかくご飯だ。ご飯を食べよう。
私はお腹が空いているだけなんだ。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇

健夜「おかーさん、おかーさーん?今日の朝ご飯なーにー?」スタスタ

個人的には洋食も好きだけどやっぱり朝ご飯は和食派だ。
ほかほかの白ご飯にお味噌汁、焼き魚に卵焼きの豪華布陣。
お漬け物が添えられているとなお良し。
お味噌汁でスイッチを入れて卵焼きを一齧り。
ちょっと甘めに効いた出汁を味わいつつご飯を放り込む。
ひとしきり堪能した後はお漬け物で口の中をリセットしつつ焼き魚に移行。
鮭がベストだけど鯖もいいよね…今の季節なら秋刀魚だってアリだ。
大根おろしにちょっと醤油を垂らして魚の身と一緒につまみ上げ、ご飯でワンバウンドしてからぱくり。そしてちょっとてっぺんが色づいたご飯も…
うーん…たまらない。これぞ日本。これぞ和食。
実際には家計の兼ね合わせやおかーさん独自の理論があるからここまでとは言わないけど似た感じの朝ご飯だといいなぁ…
…うん、ベーコンエッグまでは許す!
作らないヤツがどの口で言ってるんだって?ごめんなさい。

健夜「おかーさーん?」ヒョコッ

京太郎「すみませんね、もう少しで出来ますから座って待っててもらえますか?」

健夜「はぁーい」トテトテ

この年になって素直に言う事を聞くのもどうかと思われるが仕方がないのだ。ご飯が美味しいもの。
私は美味い飯と質の良い寝床と娯楽があれば文句も言わず働き続けられると定評のある日本人ですよ?
中でも最も慣れ親しんだお袋の味を朝から堪能出来るんですよ?
ここで言うことを聞かない人がいるだろうか、いやいない。

健夜「それにしても今日のおかーさんは男っぽい声だったなぁ…いつもより大きかった気もするし…なんでだろ?」

まぁいい。とりあえずご飯だご飯。
お腹がご飯を欲しがっているんだ。

京太郎「はい、お待たせしました」コトッ

健夜「わぁ…!」

なんと、私が食べたいなぁと思っていたもの全て、一つも欠けること無く出てきたのである。
しかも味が混ざったり薄まらないように大根おろしは深めの小皿に盛られている。
この些細な気遣いが嬉しいんだよねぇ…
もうお腹の虫が小躍りしちゃって困るね。早くたーべよっと。

健夜「いただきます!」

京太郎「どうぞ、召し上がれ」


◇  ◇  ◇  ◇  ◇

健夜「ご馳走さまでしたー」

京太郎「お粗末様です。お茶どうぞ」

健夜「ありがと。…わっ、あつっ…ふー、ふー…」


ずびびび。あ゛ー…和食の後は緑茶だねえ…
和に始まって和に終わる。なんとも言えない。
食後のこののーんびりとした空気、何時ぶりだろうか。
仕事がないときは毎日がそうだけどね。
あ、あとこーこちゃんが来ない日もか。
…あれ?やっぱり久しぶりかも?
尊い休日だなあ。ずびびび。
はふー……………


健夜「…」チラッ

京太郎「~♪」ジャー カチャカチャ


そろそろ触れないと駄目かな?まぁ駄目だよね。
よし。よし。よーーーーし。


健夜「ねぇ」

京太郎「はいー?」ジャー カチャカチャ

健夜「君、だれ?」

京太郎「えっ、いまさら?」


ぬぅ。しょうがないじゃない、お腹が空いてたんだから。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇


健夜「へぇ~、君があの…」

私の親戚で。長野住まいで。家より外で遊び回る派で。
現役高校生で。地毛が金髪で。割りとお金持ちの。
須賀京太郎さんじゅうごさい。


健夜「そういえばこの家の中を元気に走り回ってる金髪の子がいたことあったねえ…」

十年ほど前に。そのころは私も高校生でね…

京太郎「どうもその節はご迷惑をお掛けしまして…」ペッコリン

健夜「いやいや、こっちもまともに相手もできてなかったし…」

お互い様…って訳でもないね。


健夜「そういえばいつからか急に来なくなったよね?あれって何かあったの?」


そうそう。子供の頃はよく来てたけど何時からかぱったり来なくなっちゃって。
最初の方は何で来なかったんだろって思ってたけどそのうち気にならなくなったんだっけ?


京太郎「あー、その辺は俺もよくわからないんですけど覚えてる限りでは半年とか荒んだとか全国とかプロ入りとか断片的な言葉が…」


あっ。
あーあーあーあー…あの頃か。
何となく麻雀初めて、勝ち続けちゃって、最初のほうは普通だったけどそのうちおかしくなって、
周りの見る目が変わって、私も楽しくなくなって、それでも勝ち続けて、
その時に赤土さんと出会って、つい本気を出しちゃって、やらかしちゃって、
そのまま熊倉先生に出会うまで荒んでた頃か。
それはおかーさん達も避けるね。私だって避ける。


健夜「ご、ごめんね?」

京太郎「へ?何で健夜さんが謝るんです?」

健夜「あ、や、まぁ、何となく?」


私が原因だからです。はい。
とりあえずこの話は止めよう。ハイハイ、止め止め!

健夜「そ、それで今度は急に来たみたいだけどそれまたどうして?」

京太郎「あー、それなんですけど…実は高校に入ってから麻雀を始めまして」

健夜「へー」

京太郎「特に興味はなかったんですけどいざやってみると意外に楽しくてですね」

健夜「ふんふん」

京太郎「でも部の仲間に全く勝てなくて思い悩んじゃって。そしたら親父が『健夜ちゃん確かプロやってなかったっけ?』って言ったんですよ」

健夜「はぁ…」

京太郎「それで、もしよろしければ教えてもらおうかと」

健夜「へー…えっ?」

京太郎「どうでしょ?」

健夜「や、ちょっと待って待って」


うーん、突っ込みどころが…
えーと、教えるのはいいよね。いつもやってたことではあるし。
後の問題は…さっき断片的に知ってたみたいだけど…
この子、私の噂とか聞いてるんだろうか?
その上でお願いしに?


健夜「えっと、京太郎くんは私の噂とか…」

京太郎「えっ、そんなレベルですげーんすか!?」

健夜「えっ?知らないの?」


京太郎「やー、いくらそれが好きだからって別に目指してるわけでもないプロを調べるとかってのはあんまり…」ポリポリ

わお。確かに正論。

京太郎「あっ、でもはやりんは知ってます!」

胸かっ!!やっぱり胸なのかっ!!!

健夜「うーん…」


一応、私の噂だけ伝えとこうかな…ちょっと誇張して。
普通の人の気持ちが解らないとか、努力で磨かれた才能を才能だけで叩き潰すとか…
事実を混ぜるだけに信憑性があるやつ。
べ、別に教えるの面倒くさい訳じゃないからね!?


◇  ◇  ◇  ◇  ◇

京太郎「へー…で、麻雀は教えてもらえるんですか?」

あれえ?
特に気にしてない?
あっれえ?

健夜「いや、あの…怖いとかそういうの、ないの?」

京太郎「いや、別に…すげーってのはありますけど」

健夜「あれえ…?」

京太郎「いや、だってそりゃ出来る人には出来ない人の気持ちが解るわけないですし」

あらま。
この子、意外とシビア?

健夜「努力と才能を才能だけでって方は?」

京太郎「勝つ方には勝つ要因があるし負ける方にも負ける要因があったって話じゃないんですか?スポーツだって一緒でしょう?」

健夜「えぇ…」

確かにその通りではあるけど…
なんかこう…

京太郎「トラウマがどうたらってのも厳しい事を言えばどこかで慢心があったって話でもありますしね」

健夜「……」

京太郎「まぁ俺なんてそんな風に人生懸けてやったことってのは特に無いですからその人の気持ちは分かんないですけど…本当に好きだってんなら時間掛かってでも立ち直りますよ。きっと」

健夜「…本当にそうかな?」

京太郎「そうですよ。だからそんな暗い顔しなくてもいいんじゃないっすか?」

健夜「…!」


そんな風に言われてつい自分の顔を触ってしまった。
…確かにちょっと顔がこわばってたかもしれない。なんか、ちょっと硬いし。
年のせい?うるさい。

京太郎「つかんなこと言ったら俺なんかどうなるんだっつの。入部してから一度もトップ取ったこと無いっつーの」

健夜「それはそれで極端だね…」

京太郎「まぁ色々言いましたけど俺だって後々どうなるかはわかりません。もしかすると嫌になって止めるかもしれませんし…けど、今は勝てなくても楽しいからいいんすよ。んで、より楽しむために俺はここに来たんです。だから、健夜さん!」

健夜「は、はいっ」

京太郎「俺に麻雀を教えてください!」

健夜「……はぁ」

京太郎「!」

健夜「わかったよ、教えてあげる。ここまで言わせて教えなかったら私ひどい人だもん…」

京太郎「いやあ、人にトラウマ刻み込む時点で」

健夜「白紙に戻そっか?」

京太郎「サーセーンッす!!」ペッコリン

健夜「ふふっ、冗談だよ。冗談」クスクス


なんだろ、久しぶりだなぁ…私と一線引かない付き合いが出来そうな子。
こーこちゃんが初めてだっけ?
じゃあこの子は異性初か。

…ん?異性?


健夜「!!!???」ガタタタッ

京太郎「うおっ!? どうしました!?」

健夜「や!ご、ごめん!何でもない何でもない!」ワタワタ


何でもあるけど!
異性!歳は離れてるけど!異性!
どうしよう私お付き合いどころかまともに喋ったことなんて無いよ!?
何を!何を話すの!?最近の高校生って!?
あわわわわわ!


健夜「ご、ごめん!ちょっと席外すね!」パタパタ

京太郎「あっ、健夜さん!?」


◇  ◇  ◇  ◇  ◇

携帯携帯携帯!どこ!?確かアラームがわりに!あった!
連絡先連絡先連絡先!はやく!!


prrrrrrr...

恒子『はいこちら独身アラフォー対策室』

健夜「アラサーだよ!」

恒子『おっ、その突っ込みはすっこやーん。どしたん?』

健夜「今大変なの!はやく!!はやくきて!!!」

恒子『お、おう…?何かピーンチくさい?』

健夜「お、男の子の弟子入り志願が高校生で!!」

恒子『何そのスキャンダりそうな話すごく面白そうなんだけど』

健夜「いっ、一体どんな話をすればいいの!?」

恒子『すこやん!とりあえず私がつくまでその面白そ…愉快…大変な状況を保っておくんだ!いいね!?』

健夜「本音は隠せてないけど今は凄くありがたいよ!出来るだけ早くお願い!」

恒子『ラジャー!えりさーん!すこやんが未成年男子略取の疑いがあるのでちょっと行ってきまーす!』

えり・健夜『「ちょっ!?」』

恒子『じゃーねすこやん!すぐ行くから』ブツッ

健夜「えっ、ちょっ!?こーこちゃん!?こーこちゃあん!!?」


もしかしたらやっぱりこれ呼ばない方が良かったんじゃあ…


――結局この日はまともに指導出来なかったそうな。

カンッ








おまけ:申し訳程度の誕生日要素


京太郎「あ、そういえば今日誕生日だって聞いたので。これ、どうぞ」

健夜「て、手作りお菓子?」

京太郎「本当ならちゃんとしたもの用意したいんですがどういうものが好みか解らないので…とりあえず消え物をと思いまして」

恒子「すこやんすこやん。年齢どころか性別も違う子に生活力で負けてるのってどんな気持ち?」

健夜「うるさいよ!」


モイッコカンッ