夕日の差し込む大通り、京太郎と由暉子は近所のスーパーで買い物を終えて帰り道を歩く。
今日は9月も終わりが近付いたというのに、珍しくまるで春の様な陽気だった。

夕日の下で影が伸びる先は、由暉子が一歩引いた位置で歩いている為か同じ位置。
その立ち位置から由暉子はぼんやり、と京太郎の背中を見ながら歩く。

京太郎「なぁ、ユキ」

由暉子「はい、どうしました?」

そこでふと立ち止まった京太郎が肩越しに振り返る。夕刻を過ぎて尚暖かい気温の為か、額にはうっすらと汗がついている。

京太郎「いや、大したことじゃないんだけど。なんでいっつも後ろを歩くのかなって…」

少し不思議顔で聞いてくる京太郎を見やり、んー、と考え込んだ由暉子が出した答えは。

由暉子「多分、私は好きなんだと思います」

京太郎「何がだ?」

由暉子「京太郎君の背中が」

由暉子のその言葉を聞いた京太郎は「はい?」と少し変な声で少々困惑した。
そんな京太郎を気にする事もなく、由暉子は静かに目を閉じて今までの事を振り返る。

『俺は須賀京太郎、よろしくな!』

中学校の頃に初めて京太郎と出会ってから、目の前には何時も京太郎の背中があった。

最初は少し頼りなかったそれは、気付けば逞しく、頼もしく。

『お前ら、ユキにばっかり押し付けるの止めろよ』

『ユキ、また何か押し付けられたら俺に言ってくれ』

『俺がお前に代わってはっきりと言ってやるから』

そして、自分はいつもその背中に守られていた。だからだろうか、視界に京太郎の背中があると、とても安心出来るのだと。
そう京太郎に告げると、彼は少し照れて。

京太郎「………そう改まって言われると何だか恥ずかしいな」

それでも満更では無さそうに微笑む。けれど、次にその口から出てきた声にはどういう訳か困惑の響き。

京太郎「うーん、そうだったのか………」

由暉子「京太郎君は私が後ろに居るの、嫌ですか?」

京太郎「いや、そういう訳じゃないんだけど」

じゃあどういう訳ですか、と由暉子が聞くと今度は少し照れ臭そうな笑みを浮かべ。

京太郎「なんて言うか俺は………出来れば隣に居て欲しいかなぁ、なんてさ」

それはそれで、由暉子にとって魅力的な提案をしてくれたのだった。
じゃあ試しにとばかりに由暉子は隣り合って歩く、こちらも結構良い物だ。

京太郎「へぇ、タコスを扱った新しい店ねぇ」

由暉子「この前皆で帰りに食べに行ったんですよ………そう言えば爽先輩が何時でも食べられる様に、京太郎君に作らせようって言ってましたよ」

京太郎「ええ、マジかよ?タコスなんて作れるかなぁ……」

当たり前と言えば当たり前だけどこちらの方が話が弾むし。

由暉子「ええ、私は冗談のつもりだと思ってたんですけどね。皆、結構乗り気でした」

京太郎「ははは、俺は漫画に出てくる執事とかじゃないんだけどなぁ」

何より、京太郎の笑顔が良く見れる。

問題らしい問題と言えば、ともすれば京太郎に見惚れてしまいそうな事くらいだろうか。

京太郎「な?隣も悪くないだろ?」

そんな由暉子の思惑を見透かした様に京太郎は問い掛けてくる。
全く持ってその通りだったが、自分の事は全てお見通し、そんな視線で由暉子を見やる京太郎に彼女は少しやり返したくなったのか。

由暉子「そうですね、悪くないです」

肯定の返事を返してから、京太郎の手を指まで絡めて握りしめる事にした。

京太郎「………こっちから握るつもりだったんだけどなぁ」

由暉子「ふふ、たまには私からでも良いでしょう?」

京太郎「まぁ、それはそれで確かに嬉しいけどな」

夕暮れの空の下、ゆらりゆらりと揺れる二人の影。その影はその手の所で重なって結局、彼らが家の中に入るまで離れる事は無く。
今日も二人にとって優しくて温かい一日でありました。

カンッ