宮永咲ちゃんです。
時の流れは早いもので、気づけば私たちも三年生になりました。
「きょ、京ちゃん待ってよぉ……」
「いや、もう待ってるから……。ゆっくり来なよ」
「うう、ごめんね? 一緒に遅くなっちゃって」
「いつものことだし、気にしてねーよ」
うん、やっていることは中学生の頃と全く変わらないんだけどね!
違う場所は、私たちの距離。
「その、手、組んでいいぞ」
「それは恥ずかしいからダメ!
手をつなぐくらいなら……」
宮永咲と須賀京太郎は、高校生で恋人になりました!
それが、この高校生活を彩りのあるものに変えた関係です。
「咲は昔っから、何にも変わらないよなァ」
「ム。そんなことないもん」
「だって、麻雀だってあんまり気合い入れてなかったろ?」
「京ちゃんと遊ぶからいいんですー」
「そんなこと言ってさ。また俺と優希と和以外、友達できなかったじゃん」
「うう……」
「後輩だって、ムロマホが苦手って……あんなにいい後輩はいないぞ?」
「だってぇ……」
「ホント、咲は俺がいないとダメなんだから、俺から離れるなよ」
「はーい」
ふふふ。顔を真っ赤にして言ってる京ちゃんかわいい!
全く、京ちゃんも私がいないとダメなんだから!
今日は私たちの卒業式。
面倒臭い式辞は置いておいて、私はとっても必要なものがあるの。
「京ちゃん。第二ボタンちょーだい!」
「お、おう」
ムフフー。彼女なんだからもちろん優先権があるもんねー!
寝取ろうとしていた人たちは残念でしたー!
これで京ちゃんの第二ボタン、心臓は私のものです!
「ってなんで前閉めないの?」
「そのボタンが最後」
「え?」
「ボタン全部取られちゃったよ……」
……えっ?
「第二ボタンだけは勘弁してもらったんだけどさ。
なんか他のでいいから欲しいって」
「な、な、な、なんでそこでOK出しちゃうの!?」
「えっ。でも咲がいるって話したし」
「むー!
彼女がいるのに第二ボタン渡す人がいる!?」
そしてもらう方ももらう方だよ!
「って言っても、あげたのは和とかマホ相手にだぞ?
恋愛感情とか抜きで、思い出にって」
「余計ダメな人だよ!」
和ちゃんはこじらせてるからともかく、マホちゃんはいけない匂いがするよ!
あの子は私とかお姉ちゃんと同じ匂いがする! 京ちゃんと相性が良すぎるよ!
優希ちゃんですら自重してるのに、あの子は妹分の立場を生かしてやりたい放題すぎるんだから!
「まぁ、でも俺には咲がいるし、関係ないだろ」
「ぅひ。
そういう急なデレは反則!」
「?」
「他には来なかったの?」
「あー、ちょっと話す程度の後輩とかよく来たよ。
でも顔を覚えてる程度だしなぁ」
「京ちゃんにとっての顔を覚えている程度って」
それは人によっては惚れちゃうよ!
喪女相手にでも普通に話す京ちゃんは、いろんな子に人気です。
コミュ力が高いので誰相手にでも仲良くなれるんだけど、特に人気がある相手がコミュ障と後輩相手なんだよね。
面倒見の良さに惚れちゃうよ! ソースは私!
「咲さん。ついに卒業ですね」
「思えばいろいろあったじょ」
「そうですね。
私と咲さんで『俺とお前でスーパーのどっち』した日も懐かしいです」
「何その単語!?
覚えがないよ!?」
和ちゃんがおかしくなったのはいつだろう……。
京ちゃんと私がくっついてからおかしくなった気がするんだけど……。
「須賀君とも気づけば3年間の付き合いですね」
「和みたいな美少女とお近づきになれるなんて、いい三年間だったぜ!」
「ム」
「ほら、お嫁さんが拗ねてますよ」
「まだ嫁さん違います!」
「咲とは大学も同じだし、3年の付き合いじゃないすまないし」
「咲ちゃん咲ちゃん。遠回しにお墓に入るまで一緒って言ってるじょ」
「いぃ!?」
あ、京ちゃんが顔を赤くしてる!
もー、大きい図体してそんな顔するのは卑怯だよ! 可愛い!
どーせ私を嫉妬させたくて和ちゃんにデレデレしてるんでしょ、知ってる!
というか、そうじゃなかったら頬を抓っちゃうもん!
「のどちゃんも祝福できるようになったみたいで本当に安心したじょ。
いやマジで」
「いいえ、優希。
私はデジタル的に行動しているだけですよ?
まだ勝負はついていません」
「勝負?」
「のどちゃん……。
そんなことを言ってると行き遅れちゃうじょ」
「私が行き遅れるなんて、そんなオカルトありえません!」
「そうだよねー。和ちゃんは美人さんだし、相手だって選り取りみどりでしょ」
「だよなー! くー、和の恋人になれるやつが羨ましいぜ!」
もー、京ちゃんったらまたそんなこと言って。
でも、和ちゃんはこの三年間もモテモテだったし、大学もレベルの高い女子大に行くし、行き遅れとは縁がないんだろうなぁ。
うん。和ちゃんが結婚できないんだんてありえないよね!
きっと大学に行ってもモテモテで、彼氏に困らないんだろうなぁ。
優希ちゃんも男友達との付き合いが得意そうで、本当に羨ましい。
私に京ちゃんがいなかったら……、うぅ、想像するのも怖いよ。
「京ちゃん先輩!」
「おっ、マホか」
「えへへ! 卒業おめでとうございます!」
「なんか照れるな」
(無)邪気が来たか!
マホちゃんは私の天敵です……。和ちゃんや優希ちゃんはマホちゃんの側面を知らないんだもん!
『宮永先輩は須賀先輩の恋人なんですよね?』
『う、うん。そうだよ』
『京ちゃんって呼び方も宮永先輩しかしてないですよね!?』
『私とお姉ちゃんだけかな?』
『わかりました! 私も京ちゃん先輩って呼びます!』
『なんで!?』
『?
宮永先輩をコピーすれば私も京ちゃん先輩の恋人になれるってことですよね?
マホはコピーが得意です!』
『どういう理屈なの!?
私が彼女なんだから諦めてよ!?』
『なんで諦める必要があるんですか?
マホは京ちゃん先輩が好きだから努力するんです!
えへへ』
『え、いや、えぇー!?』
『だから安心して別れていいですよ!
マホにおまかせあれ! です!』
あ、あれは別次元の生物だよ。日本語が通じなかったよ!
それでも、京ちゃんたちの前では普通のマホちゃんなのが怖いよ……。
「これであの時の清澄麻雀部もみんな卒業ねぇ」
「竹井先輩!」
「ふふっ、久しぶり、須賀君、咲、優希」
わ、わ、わ。ぶちょ、じゃない、竹井さんまで来てくれたんだ!
「みんな、元気かの」
「染谷先輩!」
「後輩の晴れ姿はいいのう。
……ところで、優希。久しぶりにタコスを食べに行かんかの?」
「……。
京太郎! 咲ちゃん! ちょっと最後にタコスを買いに行くじょ!」
「え、どうしたんだよ」
「いいから早く!」
優希ちゃん、強引だなぁ。
でも、これでタコスも食べ納めだし、優希ちゃんと染谷先輩と一緒にタコスを食べに行きます。
「竹井先輩、悪待ち()の成果はどうですか?」
「あら、和。いたの?
そっちこそ、自慢のデジタルは3年間じゃ機能しなかったみたいね」
「デジタルは統計的に見るものですから。
短く見積もっても80年近く連れ添うとして、3年は大した時間じゃありません」
「悪待ちだって、最終的に私のものにするための作戦よ?」
「マホは若さをアピールできない人は見苦しいと思います!
宮永先輩を一番コピーできるのはマホです!」
「「あ”!?」」
急に優希ちゃんに連れ出されたりもしましたが、本当に解散の時間です。
高校3年間、本当に色々とあったなぁ。
最初は何もないと思っていたけれど、麻雀部に入ってから激動の毎日。
友達ができて、お姉ちゃんと和解して、京ちゃんと恋人になった。
うん、本当に楽しい3年間だったよ!
「では、これでお別れですね」
「咲ちゃんまたなー!
大学生になっても、みんなで女子会しようじぇ!」
「おい、女子会じゃ俺が混じれないだろ」
「それでは、『京太郎君』はまた別の時にお誘いしますね」
「!?
うおおおおーーーッ!?
和が俺のことを名前で呼んでくれたぞー!」
「ふふっ」
あ! 和ちゃんあざといよ!
まぁ、優希ちゃんも呼んでるし、名前で呼ぶくらいならいいけどさ。
ちゃんと私を見ててよね、って手をつないでアピールしてみます。
み、みんなの前だと恥ずかしい!
優希ちゃんと染谷先輩がニヤニヤしてて直視できない!
……
これから大学に行って、就職して、ずっと京ちゃんと一緒にいるのかな。
高校からの帰り道、この道を通るのもきっと最後。
京ちゃんと手をつないでこの道を通るのも、もしかしたら最後。
自然と、ぎゅっと強く握ってしまう。
「大丈夫だって」
「?」
「みんなまた会えるよ。
女子会誘ってくれるって、言ってたろ?」
……そっちじゃないんだけどなぁ。
まぁ、京ちゃんに女の子の気持ちを悟れって言っても、仕方ないかな!
「ありがと、京ちゃん」
「それに、さ」
「?」
「お、俺はずっと一緒だから」
……
もー、すぐにそういうこと言う!
そういうこと言えば満足すると思ってるんでしょ!
「手、離したら迷子になっちゃうんだからね」
「その時は探すよ」
「そこは、手を離さないって言うところでしょ!」
「咲は手を繋いでてもすぐに迷子になるからなァ」
全く、本当に女心がわかってないんだから!
そんな京ちゃんの手は、咲ちゃんが離してあげません! カン!
最終更新:2015年11月04日 23:19