「トリックオアトリート」

 お姉ちゃん……珍しく朝早いね。須賀咲ちゃんです。

 休日のお姉ちゃんは朝食を食べたら寝なおすことが多かったのに、なぜか元気に戻ってきました。

 それに、どこで買ったのかヴァンパイアのコスプレをして、悪い顔、どこかのDVDのパッケージ絵になるような顔してる……。


 「トリックオアトリート」

 「はいはい。

  あっ、お菓子切らしちゃってる。どうしよう」

 「それなら悪戯する」

 「もー、やめてよ何する気……?

  いやどこ行く気!?」


 急にパッと笑顔になったお姉ちゃんが、マントを翻しいそいそとどこかへ向かおうとしてる。


 「京ちゃんに悪戯してくる」

 「何で!?」


 最近のハロウィンはお菓子を渡さなかったら旦那を持ってかれるの!?

 ちょっとハードすぎるよ! 追いかけたいけど、家事を疎かに遊ぶわけには……ぐぬぬ。


 「ちょっとだけだからね!

  寝てるんだから起こしちゃダメだよ!」

 「了解。トランザム」


 嬉しいのか、スキップを踏んで……あれ、お姉ちゃんスキップできたっけ……あっ、転んだ。

 まぁ、お姉ちゃんも京ちゃんを起こしたりはしないだろうし、大丈夫かな……?




 ……

 「お邪魔します。

  悪戯しにきました」


 声を抑えて京ちゃんの部屋に侵入する。

 夜は結構いびきがすごい京ちゃんも、朝方になってくると静かに寝ているみたい。

 仕事をしているような真剣な顔でもなく、普段浮かべている楽しそうな笑いでもなく、赤ちゃんのように無防備な表情で寝ている。


 か

 かわ

 かわいい


 普段はとっても頼りになる京ちゃんが、無防備に寝ているってだけでかわいい。

 これが好きって気持ちなのかな。

 咲は毎日これを見てるのかな。ずるい。

 私も早起きして……ダメそう。

 寝顔を見るために『1京ちゃん』で咲が写メ撮ってくれないかな。

 ちなみに『京ちゃん』は姉妹間取引の単位。内容はないしょ。

 京ちゃんポイントを貯めると何かが起こる。


 「トリックオアトリート。

  お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ」


 絶対に聞こえない程度の小声でトリックオアトリート。

 寝ている時の京ちゃんは何をしてもそうそう起きないらしい。

 試しに、頬をつついてみる。……固い。

 あっ、寝間着がはだけている。直してあげ……。

 ちょっと待って。その前に堪能する。

 ジャージの前のファスナーが全部開いているので、上半身が丸見え。

 ……咲が堪能した後? まぁいい。

 ゆっくり、起こさないように人差し指で京ちゃんの胸板を突く。


 「お、おぉぉ」


 思わず感嘆の息を漏らす。

 男の人の胸板ってこんなに固いんだ。

 抱きついたりはしたけれど、こんなにじっくりと触ることなんてなかった。

 少し加えて、手のひら全体で触ってみる。

 す、すごくゴツゴツしてる……。女の子とは全然違うんだね。

 私や咲も大きくないけど、女の子特有の柔らかさはある。

 ……ちなみに、来世で京ちゃんに揉んでもらうために成長をまとめて溜めているだけだもん。


 「むふー」


 胸板をずっと触っていたくなるけれど、ここは我慢。

 他にも触りたい場所はある。

 例えばその……腹筋。

 最近スポーツができていないと言っていたが、かつてがっつり鍛えられたその腹筋は割れている。

 そこに指を垂らしてみると、くすぐったいのか京ちゃんが呻いた。


 「あっ……zzz」

 「かわいい、かわいい、かわいい」


 そんな様子がいじらしくて、ついつい虐めてしまう。

 一通り腹筋を堪能して、一旦離れる。顔も体もすごく暑くなっている気がする。

 これだけされても全然起きない京ちゃん。

 やっぱり、疲れているのかな?

 あまり起こさないように気をつけつつ、せっかくのチャンスを堪能しよう。

 というわけで、二の腕で腕枕をして欲しかったけれども、今日はやめよう。

 ちなみに、咲は京ちゃんの二の腕が大好き。私は胸板が好き。胸板枕やってもらいたいな……。

 寝汗をかいていたのか、京ちゃんが少し汗ばんでいる。

 それを見た途端、ボーッとして、気づけば胸板を舌で舐めていた。


 「んっ……zzz」

 「!?」


 自分のした行動なのに、ビックリする。

 すぐに離れようと思ったけれども、京ちゃんの匂いに包まれてそのまま胸枕をしてもらう。

 ……咲が羨ましいなぁ。これをいつでもしてもらえるんだもん。

 京ちゃんの匂いに包まれて、お酒を飲んだ時のような陶酔感。ボーッとして何も考えられない。

 顔を上げると、無防備な京ちゃんの顔。

 気持ちよさそうに寝てる。

 唇が柔らかそう。

 食べたらお菓子みたいに甘いのかな。

 呆然として自分が何をしているのかわからない。

 もうちょっと、もうちょっと伸ばせば……


 「!?」


 唇に触れた瞬間、正気に戻った。

 自分が何をしたのかわかって、顔が真っ赤になる。

 咲と京ちゃんを裏切って申し訳ないだとか、初めてのキスの感覚だとかに惑わされて正常な思考が出来ず、自分の部屋に走り込んでしまった。

 ……




 「京ちゃん。お姉ちゃんの様子がおかしいんだけれど、ナニしたの?」

 「えっ、俺は照さんと一回も顔合わせてないぞ?」

 「あれ? 朝起きた時お姉ちゃんいなかった?」

 「俺は咲が起こしてくるまで寝てたよ。

  そういや最近、寝てるうちに上半身脱いじゃうみたいで、朝寒いんだよね」

 「そ、そうだね! 早く直さないとね!」

 「?」


 じ、実は朝、京ちゃんの体を堪能するために私が脱がせているなんて言えないもん!

 だって京ちゃんの二の腕枕……ぐへへへへへ。


 「咲ー」

 「なぁに、京ちゃん」

 「トリックオアトリート!」

 「京ちゃんまで……」


 ジト目で見返す。もー、いつまでたっても子供なんだからー。


 「じゃあ何かお菓子作ってあげるから」

 「今お菓子ないの?」

 「うん。だから作るから……きゃっ!」


 え、なにこれ、どゆこと

 あすなろ抱き?

 あ、まさか!

 「きょ、京ちゃん。ダメ!」

 「えー、いいだろー」

 「今日は……んむっ」

 「唇もーらい!

  もっと悪戯するぞ」

 「ダメ、今日はその、可愛くないやつだから……」

 「……」

 「ね? だからせめて、明日とか……」

 「その反応がかわいい」

 「ぅひ」

 「咲……」

 「ひゃう!?

  耳元で囁かないでぇ……」

 「今日は休ませないぞ」

 「ドキッ」

 「今興奮した?」

 「し、してない! してないもん!」

 「じゃあ、発情してるかチェックしないとな」

 「ちょ、やめ、恥ずかし、……あっ」

 「びしょびしょじゃん」

 「」


 う、うるさーい! 咲ちゃんは京ちゃんに抱きつかれた段階で準備OKになっちゃうの! カン!