怜外伝外伝・~天衣無縫の仮面~


あれは数年前の『今日』

当時、急な事故で両親が亡くなり

心神喪失していた私は

近場にあった大きめの川の河川敷で

見るともなしに川を眺めながら

ただただ、ぼーっと過ごしていた

そんな頃


???「おいお前!」


唐突に現れたのは


???「俺は月からの使者!サンダーマスク!」


いかにもお祭り帰りといった感じの

珍妙なお面を被った男の子だった






衣「」ポカーン

男の子「どうした?」

衣「お前はなんなんだ…?」

男の子「正義の味方だ!」ビシッ

衣「いや…」エート

男の子「月からの使者!サンダーマスク!」ビシッ

衣「ええと、なんで月からの使者なのにサンダーなんだ?」

男の子「カッコイイからだ!」

衣「」イミワカラナイ

衣「衣になんの用だ…?」

男の子「お前最近ずっとここにいるな」

衣「だからなんだ…?」

男の子「よっこいしょ」ドサッ

衣「なんで隣に座るんだ…」

男の子「知らなかったのか?ここは俺の指定席なんだ」

衣「そんなわけあるか!」

男の子「あるんだよ」ニヤリ

男の子「正義の味方だからな!」ビシッ

衣「」イミワカラナイ





衣「はぁ…」

男の子「…」

衣「…」

男の子「…」

衣「…」

男の子「なぁ…」

衣「…」

男の子「わたあめ食うか?」

衣「こども扱いするな」

男の子「お、おう」

衣「…」

男の子「いらないのか?」

衣「いる」

男の子「いるのかよ!」





衣「…」モシャモシャ

男の子「…」

衣「…」モシャモシャ

男の子「最近なんかあったのか?」

衣「…」

男の子「いじめられたとか?」

衣「ちがう」

男の子「ふむむ」

衣「というか、お前はなんなんだ。なんで衣に構うんだ」

男の子「女こど…女の子には優しくしろって、とーちゃんが」

衣「とーちゃん…か…」

男の子「うん」

衣「…」グスッ

男の子「とーちゃんと何かあったのか?」

衣「…」ヒックヒック

男の子「お、おい」グイッ

衣「うるさい!」ドンッ

男の子「うおっ!」トット

衣「どっかいけ!衣に構うな!」

男の子「はぁ…」

ザッザッザ

衣(いつもそうだ…)

衣(こうやって自ら拒絶して…)

衣(周りからどんどん人が去って行く…)

衣(自業自得も甚だしい…)

衣(我ながら滑稽千万…)



……

ピトッ

衣「ふわああぁぁあ!?」

男の子「へへっ…アイス攻撃だ!」ニヤリ

衣「なにするんだ!寝耳に氷水!」

男の子「いまだ!」グイッ

衣「うわぁ!」パタッ



仰向けに倒された私の目に映ったのは

夜空に輝く幾万の星と

ひときわ大きく、強く輝く月だった



男の子「泣く時は上を向いたほうがいい」

男の子「下には地面しかないのだから、目の前が塞がれてしまう」

男の子「でも上を向けば美しい空が広がっているって」

衣「それも『とーちゃん』か?」

男の子「…うん」

衣「良い父を持ったな」



それからまたしばらく泣いた

あんなに綺麗だった月は

私の目には不恰好にぼやけて見えた

そして、月がまたぼやけなくなるまで

男の子はずっと隣に居てくれた





衣「はぁ…」

男の子「落ち着いたか?」

衣「うん」

男の子「そっか、じゃあ、さっきのアイス。パピコだけどさ。食おうぜ」

衣「パピコ?」

男の子「うん。ちょうど半分こ出来るし。ほら」

衣「ありがとう」

男の子「ちょっと融けちまったけどな。あ、でもこの位が丁度いいかも」

衣「では、いただくぞ」

男の子「あ、ちょっと待った!」

衣「ん?」

男の子「こうやって、俺とお前で手を交差させて」ガシッ

衣「えっ」

男の子「これで俺達は友達だ!」チューチュー

衣「なんか意味あるのかこれは?」チューチュー

男の子「分かんないけど、このあいだテレビでやってて」チューチュー

衣「カッコヨカッタ…から?」チューチュー

男の子「うん」チューチュー

衣「はは」チューチュー





衣「衣はきっと、悲しんでいるだけではいけないんだな」

衣「これから先の事を考えていかないといけないんだ」

衣「さっき、ようやくその考えに至った」

衣「感謝するぞ。えーっと…?」

男の子「ライトニングマスクだっけ?」

衣「かわってるぞ!って、それはもういい!」

男の子「へへっ、京太郎」

衣「ありがとう、きょーたろー」

京太郎「なんか良く分からんけど、元気になって良かったな!」

衣「ふふふ、なあ、きょーたろーはずっと衣の味方でいてくれるか?」

京太郎「おう!パピコを分け合った仲だからな」

衣「なんだそれは」クスッ

京太郎「そういうのがあるんだよ!…多分」

衣「それも『とーちゃん』が?」

京太郎「いや、さっき俺が考えた!」

衣「あはははは」





衣「衣はお前が気に入った!いつか比翼の鳥とならぬか?」

京太郎「ひ、ひよどり?」

衣「はぁ…平たく言うと、夫婦にならないかということだ」

京太郎「結婚?」

衣「そーだ」

京太郎「うははは、おませさんだなぁ!」ポンポン

衣「こども扱いするな!」

京太郎「ま、大きくなったらな!」

衣「そうか、ではやくそk」

京太郎「おっぱいが」

衣「」ピキッ

ドゲシッ

京太郎「ぐおおおおおお!石はやめろ石は!」ゴロゴロゴロ

衣「帰る」フンッ

京太郎「お、おい、一人で帰れるか?」

衣「こども扱いするな!すぐそこだから大丈夫」

京太郎「そっか、またなー!」

衣「また、いつか」





その後、様々ないざこざがあり

私は龍門渕に拾われた

結局再会できなかったあの男の子は

今も元気でやっているだろうか


今の私は、かぐや姫のように

厳重に守られた部屋の中に閉じ込められて

自由に外に出る事すらままならない


いつか

あの時見た月のように

大きく 強く 気高くなれたなら

『月からの使者』がやってきて

この閉ざされた部屋から私を連れ出してくれるのだろうか


今年の『今日』も


月は


見えない


おわり