鼻歌を歌いながら、須賀咲ちゃんです。

 明日のバレンタインのために仕込みを行ってまーす。

 ふふふ、専業主婦になった咲ちゃんにとって、お菓子作りなどお茶の子さいさいなのだ!

 市販のチョコレート溶かすだけとも言うよ!

 まぁ今回はちょっとだけ凝ってみて、チョコレートケーキを作るつもりだよ!

 京ちゃん喜んでくれるかなぁ……。

 ……っと、ここまではいいんだけれども、うちには問題児が一人います!


 「咲。チョコレートを溶かせばいいの?」


 そう、このぽんこつお姉ちゃんだ。……私もぽんこつだけど家事は出来るもん。

 何事にも最大火力で行おうとする料理スタイルは麻雀のスタイルとは真逆。

 まず、包丁の持ち方から教えなければならないんだけど……。


 「お姉ちゃん! またそんな持ち方して!」

 「逆手持ち。カッコいい」

 「また変な本読んだでしょー!」


 こんなことをしだすからお姉ちゃんがキッチンに入ると戦争なのです。

 でも、そんな姉でも思うことがあるようで、今日は比較的真面目なんだ!


 「お姉ちゃん、ドキドキしてる?」

 「っ!!」


 ……ハァ。そりゃそうだよね。

 お姉ちゃんの初恋の人にチョコレートを渡すんだもんね……。


 お姉ちゃんを横で見ていると、緊張しているのが丸わかりだ。

 いつものクールな表情でもなく、ボケーっとしている表情でもなく、営業スマイルでもない。

 ここにいるのは、恋のために必死なお姉ちゃん。……それ人の旦那なんですけどー。


 「お姉ちゃん落ち着いて。成功するまで横で指南しててあげるからさ」

 「咲」

 「うん。好きな人には美味しいものを食べてもらいたいもんね」


 私だってそうだ。

 京ちゃんに美味しいものを食べてもらいたいと思って、献立はかなり工夫している。

 初めてバレンタインのチョコを作った中学生。

 あの時は酷かったなー。

 形をうまく作れなくて、半泣きになりながら渡したんだよね。

 それを空気を読まずムシャムシャ食べてくれた京ちゃん。あっけらかんと美味しいぞ、って言ってきて、思わず腹パンしちゃったね。

 それでも渡すまでの緊張と言ったらなかったよ。

 だからお姉ちゃんをこうやって支援してあげる咲ちゃんは優しいのだ。

 お姉ちゃんだから、ちょっとだけ、助けてあげるんだからね!


 「咲、この先どうすれば良い?」

 「はーい。ちょっと待っててねー」


 自分の方の仕込みを終わらせ、後は冷まして渡すだけ。

 時間が空いたので、プルプルしているお姉ちゃんのために、妹が頑張っちゃうよー!


 「唾液を入れるって聞いた」

 「唾液なんて入れてどうする気!?

  また漫画知識でしょ!」

 「?」

 「女の子なら、好きな人には美味しいものを食べて欲しいでしょ!

  余計なものを入れるのは恋する乙女レベル減点!」

 「なるほど」

 「だから髪の毛とか入れてる漫画を参考にするのはダメ!」

 「うん。わかった。

  咲、教えて?」

 「オネエチャンカワイイ」

 「咲?」

 「う、うん。とりあえず今回は簡単なものにして、味わって食べてもらおう?」

 「……うん。咲、一つだけお願いがある」

 「なぁに?」

 「そ、その、言いにくいんだけど」

 「?」

 「ハート型のチョコを、どうしても作ってみたい」

 「……大丈夫! 型に嵌めるだけだもん!

  一緒に、がんばろ?」

 「うん。頑張る」


 そして迎えた当日。少し早めに帰宅して、チョコの前でジーッと座る。

 ちょっと型が崩れちゃったりして、やっぱり咲が作ったものには及ばない。

 そうなると、咲より早く渡したほうがいいのかな。

 でも、踏み台になっちゃうみたいで、悔しい。


 『女の子はね、美味しく食べてもらいたいって、作るんだよ』


 ……っ!!

 京ちゃんが帰ってきた?

 早く行かなきゃ!


 「私は後で行くから、ゆっくりでいいよー」


 ……咲、ありがとう。

 タタタタと、駆け足で玄関まで向かう。


 「京ちゃん。おかえりなさい」

 「うお、照さん。ただいまッス」

 「そ、その、に、荷物を」

 「照さんに重いもの持たせられませんって」

 「そ、その、こ、これ」

 「?」

 「ちょ、チョコ。

  一応、手作り」

 「……え?」


 彼の反応が固まる。

 だ、だって京ちゃんは咲の旦那。

 受け取れない、って言われたら、立ち直れないかもしれない。


 「やっぱり「うおおおおおお! 照さんの手作りチョコだー!!」」


 ……え?


 「嬉しいッス! 嬉しいッス!」

 「え、え、あうう」

 「これ、ここで食べてもいいですか?」

 「あ、それ、形崩れちゃってて、美味しくないかも」

 「うまーい! めっちゃ美味しいですよ!」

 「本当?」

 「はい! いやー、美人の照さんにチョコもらえるなんて俺は幸せ者だー!!」

 「……」



 「えへへ」


 「もー、普段からかってくる癖に、こういうところは純情なんだからー」


 一部始終を見ていたが、予想通りです。

 だって私の旦那なら絶対に喜ぶに決まってるもんね!

 さて、あとは……


 「咲ー。ただいま」

 「おかえりなさい。どうせお姉ちゃんのチョコ食べたんでしょ?」

 「うっ」

 「というわけで、夕食は私が作ったチョコレートケーキです!

  食べられるだけ切って食べてねー」

 「え、今回の咲のチョコ……」

 「チョコレートケーキじゃ満足できない?」

 「み、みんな用だろ?」

 「……ふふーん、はい。

  そう言うと思ったから、今回はカップチョコ。

  もう十年以上もらってるんだから、今年はこれとチョコレートケーキね」

 「やったぁー!」

 「もう。ホワイトデーのお返し、待ってるよ?」

 「任せとけって!」


 カン!