須賀京太郎です。今日はとっても重要な日。

 咲は家でぐだぐだしていたいーと、言っていたけれども、今日だけは外デートが必要なんだ。


 「京ちゃん。今日は暑いし混んでるよー。家でゴロゴロしよ?」

 「咲。今日はどうしても、外のデートに付き合ってくれないか」

 「わ、わかったよ。たまには外デートも良いもんね」


 幸いにして外は晴れ、うん、歩いて散歩するには十分な天気。


 「どこいくのー」

 「東京周りでデートしよう。渋谷とか六本木とか。希望があるなら秋葉原でも」

 「うえぇ。人多いの苦手……」

 「おいおい、たまには付き合ってくれよー」

 「だ、大丈夫大丈夫! ちょっと待ってて!」


 自分用のバッグに、こっそり買ったプレゼントを忍ばせ、心臓の鼓動を抑える。


 「化粧整えるから待ってて!」

 「あ、咲。駅で待ち合わせな。

  俺は先に行くよ」

 「え、ええぇぇー!?」


 二人で使う最寄駅。

 いつもは家からデートするものだけれども、今日だけはそうじゃない。

 ちゃんとコイツに、ロマンチックな思いをしてもらいたいし。

 まぁ、緊張してて顔を合わせられないってのもあるけどさ。


 あの時と同じように、駅で待ち合わせ。


 「もー、京ちゃんどうしたの!?」

 「え?」

 「何か雰囲気おかしいもん」

 「そ、そんなことないぞ。まぁ久しぶりのデートをしよう」


 咲が相変わらずジト目で見つめてくるが、頬を掻きながら目線を逸らす。


 「たまにはちゃんとしたデートをしたかったんだってば」

 「はいはい。エスコートしてね」

 「了解。お姫様」

 「なにが姫だ」


 懐かしい。中学・高校時代によくやっていたやり取り。

 今の俺と咲は恋人同士。

 高校一年で恋人になって、大学の四年を過ぎて、社会人になっても変わらない。

 俺はそこそこの企業に就職して、咲は就職に失敗して家で家事をしている。

 そのことに焦っているのがよく分かる。だからこうして、仕事が休みの日にはデートに誘っているんだ。

 まぁ今日は、それだけが目的なわけではないんだけれどね。

 未だに心に残る、咲の才能。

 嶺上牌に届く唯一のオカルトと、姉という存在。

 あの時の咲は照さんと戦うために生み出された存在だった。

 だが、そのしがらみを解いた時、もし咲が本気で麻雀プロを目指していたら……。

 これは俺の憶測だけれども、「宮永照」を容易に超える存在になったのではないか。

 プロになればきっと、最強姉妹として広告塔に使われるかもしれない。

 そうなれば麻雀界はもっと発展したかもしれないし、咲もこうして普通の就職に困らず、大金を得ていただろう。

 それをさせなかったのは、俺、須賀京太郎だ。

 咲は大会の後、麻雀へのモチベーションを完全に失った。

 部活に所属している以上、最低限のことはしていたが、そもそも麻雀の練習といってもひたすら打つくらいしかできない。

 もともと、咲が麻雀に戻ったのは姉に会う、その一点だ。

 後に強い人たちと戦いたい、となったのかもしれないが、咲はその才能を生かそうなどと考えていなかった。

 そしてその姉への執着の部分に須賀京太郎が入り込んだ。

 その後、咲は麻雀より俺を優先することとなり、あの時の咲の力はどんどん失われていった。

 照さん曰く、「牌に愛されなくなった」とのことだが、何のことだか凡人の俺にはわからなかった。


 結果だけを言おう。残りの2年間で咲が全国へ行ったことは一度もない。


 負い目はある。就職面接で何度も落とされる咲を見て、落ち込んでいる咲を見て、俺のせいではないかと自問自答した。

 高校のあの時、俺は咲を手に入れた。

 その時、こうなる未来も見えていたし、乗り越えてやると思っていた。

 それでも、咲が辛い思いをしているのには、耐えられそうになかった。




 「咲!」

 「ぅひ! ……京ちゃん!

  いきなり後ろから声かけないでよ!」

 「あ、あれ? ごめん。ちょっと寝てた」

 「歩きながら寝てたの!?

  もー、京ちゃんはー!

  エスコートしてくれるんじゃないの!」

 「わかったわかった。気をつけますよ、と」


 やばいやばい。本来の目的を忘れてはいけない。

 今日はローマンチックなデート!

 ……このぽんこつ、何も気づいてない気がする。

 隠しているつもりとはいえ、ここまで気づいてくれないといざって時がどうなるかワクワクしてくる。

 よし、いつもの気分に戻って、緊張も取れた!


 「じゃあお姫様をエスコートしますか!」

 「街中でなにやってんの……」


 ジト目で見られた。

 そうそう、咲はそういう反応をしてくれなきゃな!


 『あの日』と全く同じデートプラン。

 前は高校生でお金に余裕がなかったからってのもあったけれど、俺はあえてこのデートプランを選んだ。

 いろいろな店を回って、面白い品物を探して、咲が好きそうな本屋に入って、社会人の財力で買ってやる。

 咲はあんまり何かを求めたりはしないからなァ。

 俺と図書館に行くなり、本屋に行くなりが唯一の楽しみなのかもしれない。

 それはそれで、出不精なのを何とかした方がいいな。


 「あー、そろそろ夜だね」

 「夜はまだまだこれからだろ?」


 あの時とは違う行動制限。

 もっと遅くまで動ける年齢に財力。


 「でもこの時間にどこ行くか決めてるの?」

 「東京スカイツリーからの夜景がめちゃくちゃ綺麗らしくてさ。

  どうしても見たいんだよね」

 「スカイツリーかー。行くの……あ!」


 咲が何かに気づいたようで、顔を赤くする。


 「お、思い出の地巡りも悪くないっしょ」


 おそらくこちらの考えていることまでは考えついてないはずなので、ゴリ押しで通す!

 「咲。今日は一番高いところにまで行くぞ」

 「え!?」

 「お金は俺が出すから大丈夫だよ」

 「ちょ、ちょっと怖いんだけど!」

 「前に行けなかったし、気になるじゃん。

  俺にくっついておけばいいからさ」

 「う、うー!!」


 何か文句があったようだが、強引に押し通す。

 高さを展望デッキまで上げ、夜景を楽しむんだ。

 それに、こっそり予約したレストランが、そこにある。

 今日の外デートに行きたくないと言われていたら、ちょっとへこんだかもしれない。




 「こ、こ、怖いよ!

  高すぎて怖い!」

 「それなら俺の手を離すなよー」

 「それも恥ずかしいんだよ!」

 「おい」


 東京スカイツリー展望台。

 視界に広がる東京の夜景。イルミネーションは俺の語録力じゃ言葉に表せないほど綺麗で、俺も咲もしばし見入ってしまった。


 「す、すごいねー!」

 「確かに怖いけど、ここまで来ると凄さが勝るよね」

 「あ、でも座れそうな場所あるかな?」

 「それなら大丈夫」

 「?」


 咲と手を繋ぎ、心臓の鼓動が伝わってないことを祈りつつ、目的の場所まで歩く。


 「スカイレストランってトコ、予約しといたから」

 「え?」

 「いいから、座って」


 心臓がバクバクしてきて咲のことを考えている余裕がない。

 鈍い咲ですら、これから何か起こるのかとそわそわしている。

 普通の女の子ならプロポーズくらい想像がつきそうだが、咲はどうなんだろうな。

 見ている限りだと、プロポーズされるとすら思ってなさそうだ。

 全く、ぽんこつはこれだからな

 ぽんこつ、か

 ……


 それも含めて、俺はお前のことが好きになったし

 これから一生、一緒にいたいと思ってる


 ……

 「咲」

 「ふぇ。

  はぃ……」

 「これを受け取ってくれ」

 「?」

 「三ヶ月分、ってほどは出せなくてごめん。稼いだ金で買った」

 「これ、まさか」

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  「咲」         、           イj   / /
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        |Ⅵ :.:.:.:  ,  弋こソ l/|: :イ: : ,  「なぁに、京ちゃん」
          人   、     :.:.:. /: j' ,ノ/:/
            、    ´    ム:イ-' /:イ
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                    ∨ {/ '   / /      Vzソ   V}
                    {   、                 リ
                         ∧   `
                        、
    「結婚しよう」               ∧ `
                         |l∧      ̄         <
                          「´∧           ´
                        .:'//>--==≦ゞ
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 言葉はすんなり出てきた。

 それを言うのが当たり前だったからかもしれない。

 心が決まったのがついさっき。

 こいつのぽんこつっぷりを見せられたってのがもうダメだ。

 俺はコイツにベタ惚れだよ。もう認めるしかない。

 でも理由だけは、絶対に本人には言ってやらねー!


 しばらくの無言。

 咲は震えている。

 何か間違ってしまっただろうか。でももう俺の思いは伝えた。

 あとは咲の気持ちだけだ。


 咲は俯いている。

 その表情を伺うことはできない。


 「京ちゃん。私就職もできなかったんだよ」

 「だから俺が養ってやる」

 「ぽんこつだから、家事だって迷惑かけちゃうよ」

 「ぽんこつな咲が好きなんだ。

  だから俺はお前と一生一緒にいたいと思ったんだ」


 咲は、俯いている。

 俺は、咲の返事を待つ。



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 「だから外デートに誘ったんだね」

 「途中で気づいた?」

 「全く気づかなかったよー。

  もー、京ちゃんは本当に……」

 「今回のデートも、告白した時のデートをそのまま使ってさ。

  最後のスカイツリーも今回は展望台に上るってことで、前より上の関係になりたい、とか考えてたんだけどなぁ」

 「えっ……!

  た、確かにあの時と同じだ!」

 「気づいてなかったのか」

 「う、うぅぅ」


 赤くなってそんなジト目で見られても、可愛いとしか思えないぞ。


 「これから界さんところに行って伝えてくる」

 「え、もう行くの!?」

 「咲は貰います。俺が養いますって伝えないとな」

 「……もー! 京ちゃんは!!」


 少しは気が安らいだかな?

 主婦になってくれれば、楽になるだろ?

 主婦になるということで、咲の就職活動は……カン!