『あの宮永プロに熱愛発覚!?』

 『日本代表宮永照! ついに婚期が訪れた!?』

 『恋愛は小鍛冶健夜に大勝利!? 宮永照の恋路を探る!』


 須賀咲ちゃんです。激おこです。

 朝から新聞の一面を賑やかすニュースが目に入ります。

 お姉ちゃんは世界ランカーの現役女子麻雀プロ。

 高校卒業からプロ入りして、ずっと最前線で戦い続けている。

 それに、美人だ。男性ファンも多い。


 『ついに「宮永姓」卒業か。女子麻雀プロのジンクスを覆すか!?』

 『お似合いの長身男性! ファンも思わず安心!?』


 あんなぽんこつ、お似合いじゃないもん!


 『クールな宮永照が甘える一面も!?』


 おい。外でやっちゃダメだって言ったよね。

 今や日本を代表する宮永照の熱愛発覚ともなれば、新聞記事は大いに沸く。

 私が言うのもなんだけれども、お姉ちゃんかわいいし、ぐぬぬ。

 それに『いろんな意味で』小鍛冶健夜の再来とも言われるお姉ちゃんだ。

 普通ならば男性ファンの嫉妬の嵐が予想されるも、何故か安心したとの声もあるらしい。

 確かにお姉ちゃんは美人なのだが、こう、胸にも乏しいのでアイドルというわけでもない。

 麻雀にストイックというイメージなので、安心したという声も出るのだろう。

 ふーんだ! 残念でした! 根も葉もないゴシップだからお姉ちゃんの婚期はまだまだ遅れちゃうもんね!



 「あー、咲。あんまり気にしないほうがいいぞー」

 「外で何をしてたのかが問題だよ!」


 もー、お父さんは黙ってて!

 そりゃ京ちゃんとお姉ちゃんで出かけることも多いし、デートみたいなことも許してるけどさ!

 立場が立場なので、お姉ちゃんも気を使って変装しているはずなのに。

 こ、この前なんか……。


 『お姉ちゃん……それ、何のつもり?』

 『咲のコスプレをしてみた。

  咲の髪型のウィッグ。モブ顔。完璧。

  あ、胸の大きさでバレちゃうかも』

 『黙れ同類。

  このまま持ってる包丁で刺すよ!?』

 『やだ。京ちゃん怖い。助けて』

 『さ、咲。それはさすがにシャレにならんぞ』

 『京ちゃん。アレは嫁さん違います。

  私が嫁さんです』

 『お ね え ち ゃ ん ! ?』


 あの時は本当にやっちゃおうかと思ったよ。咲ちゃん大人。

 お父さんなんかケタケタ笑ってたし。もー!


 「ほ、ほら、咲の好きな本にもよくあるシチュエーションだろ?

  プレゼントするために付き合ってもらうとか」

 「!?

  そ、そうなのかな。

  それなら仕方ないかな!」

 (宮永界ですが、娘がちょろいです)


 デュフフフフフ。

 そっかー。そうだよねー。こう言うシチュエーションって言ったらそれだよね。

 文学少女咲ちゃんだから喜んじゃっても仕方ないよね。

 あー、それなら許しちゃおっかなー!


 「ほら、京ちゃん帰ってきたぞ」


 待ってて京ちゃん! お嫁さんが今いくよ!




 「京ちゃん! おかえりなさい!」

 「おう。ただいま」

 「えへへー」

 「?」


 そんなとぼけた顔しても嫁さんにはわかっちゃうんだから。

 ……大丈夫だよね。なんか本気でとぼけた顔しているみたいだけど。

 いやいや、そんなはずないよねー。だよねー。


 「どうした。機嫌がいいな」

 「そりゃもう!

  ところでー。京ちゃん。

  何かあるんでしょ?」

 「へ?」

 「……またまたー、とぼけちゃってー」

 「?」


 あれかな。とぼけた振りをして後でこっそり渡すとかそういうのもあるもんね!

 良かったね、京ちゃん!

 私は文学少女だからいろんなシチュエーションを知ってるよ!

 あはははは!

 ……いや、自分を騙すのはやめよう。

 京ちゃんの顔を見れば嘘ついてるかなんかわかるもん。

 ここは率直に聞こう。


 「私にプレゼントは?」

 「え、ないぞ」


 静まり返る玄関。



 「宮永界ですが。家庭の空気が最悪です」


 お父さんは夜食に必ずカップラーメン食べさせる刑に処すね。


 「あー、あの件で機嫌悪かったのかァ。

  いや照さんと出掛けるなんていつもの」

 「いつものことでも! 有名になったらダメなの!」

 「ご、ごめん」

 「……何してたの」

 「いや、普通に照さんを迎えに行っただけだよ。

  本当にいつもどおり」

 「……むー」


 玄関で口論。

 と言っても、京ちゃんはあっけらかんとしていて困り顔。

 そりゃ私だって京ちゃんが浮気するなんて思ってない。

 だって、根がチキンな京ちゃんがそんなこと出来るわけないし!


 それに、京ちゃんは酔っ払ってても私のことを思ってくれてるのに、浮気なんてするわけないもん。

 それはわかってる。

 でも、でもね。


 「お嫁さんはね。

  世界で唯一、この人のお嫁さんです! って言えるんだよ!」


 結局、私にとって文句があるのはここなんだ。

 女の子にとってお嫁さんは憧れ。

 一番好きな人のお嫁さんだって、自分は『須賀』咲ちゃんなんだって普及できるのが嬉しいんだ。

 それなのに、こうして世間ではお姉ちゃんが京ちゃんのお嫁さんみたいに扱いを受けているのが辛い。


 「咲。ごめんな。

  もう少し考えるべきだった」

 「ううん。私もごめんなさい。

  京ちゃんはいつものことをしただけだし、お姉ちゃんだって悪くないもん」


 この件は誰も悪くないんだ。

 だから静まるまで我慢して……。


 「咲。大丈夫。そろそろ始まるテレビを見ればいい」

 「お姉ちゃん!?」


 え、いつの間に!?

 というか京ちゃんの後ろにいるならわかるけど、なんで家の中でソファーに座ってお菓子食べてるの!?

 とりあえずご飯食べられなくなるからすぐに没収! そんな顔してもダメ!!



 お姉ちゃんが映したテレビ番組には、なんとお姉ちゃんが映っていた。


 『いやー、小鍛冶健夜の再来と呼ばれた宮永さんにも春が来ているようで、安心ですねー!』

 ー目線を隠した小鍛冶プロの写真が映るー

 『いや、本当に安心しました。本当に!』


 ちょ、ちょっとこれは小鍛冶プロが可哀想なような。


 『いえ、あの人は妹の旦那なんですよ。

  何かと世話を焼いてくれるので、つい甘えてしまうんです』

 『えぇ!? それでは!?』

 『ええ。残念ながらまだ私には春は来てないんですよ。

  いつかは子供も欲しいな、とは思うんですが、『今はまだ』時期じゃないです』

 『あ、あらー。それは残念です。

  おっと、テレビの前の男性ファンは安心したのかな?』

 ースタジオに笑いが起こるー

 『妹には何かと苦労をかけているので、旦那と幸せそうにしているのを見るのが嬉しいですね』

 『そうだったですかー』

 『妹夫婦は、見ている方が恥ずかしくなるくらいラブラブですよ』



 「予期していたわけじゃないけれど、全世界に発信できた。

  咲、良かったね」

 「お、お、お、お、おねえちゃぁぁぁん!?」

 「うん、お姉ちゃんだよ」


 私も京ちゃんも顔とか出てないし、疑惑も晴れたと思うけどぉぉぉ!?

 なにこれ!? すっごく恥ずかしい!

 というかこれ和ちゃんとか優希ちゃんとかが見てたらまた弄られるんじゃ!?

 もー! なにを考えていいかわからない!

 京ちゃんも顔を赤くしてるし!

 お父さんは腹を抱えて笑ってるし! 明日お弁当作らないから自分で買ってね!


 「これで一件落着」

 「そ、そうだけどさぁ」

 「まぁまぁ。照さんは有名人なんだから、仕方ないよ」

 「ブイ」


 あ、アラサーが声出してブイって……。

 まぁ今回の件はお姉ちゃんのファインプレーかな?

 一件落着!


 『なんでこれからも街中で彼と歩いているのが見つかっちゃうかもしれないですね』


 テレビから流れる音声に、お姉ちゃんがニッコリ笑ってこっちを見る。

 ……これが本当の狙いかぁ!! カン!!