うちの娘と、新しく出来た息子。

 そしてかわいい孫を見守る宮永界だ。

 毎日毎日騒がしくて、自分が若かった時、照と咲が小さかった頃を思い出しちまう。

 二人とも静かで迷惑をかけなかったから、これはまた大変で、全く新しい経験をしてるよ。


 「あーもう! 静かにしなさい!」


 自分の息子に怒鳴り散らすのは俺の娘である咲だ。

 照以上に自己主張をせず、いつも相手の顔を伺いながら本を読んでいた。

 そんな咲が、中学時代になって変わった。

 京ちゃんを連れてきて、京ちゃん相手に接している咲を見たときにはビックリしたもんだ。


 『これ、私のお父さん』

 『須賀京太郎です。クラスメイトです』

 『なんだ咲。彼氏でも連れてきたのか』

 『彼氏違います! たまたまクラスが同じで隣の席なだけだもん!』

 『真っ向否定ですか』


 普段の咲と違って、怒鳴るわ怒るわの自己主張。

 そんな相手が出来たんだなぁと思ったもんだ。

 言い訳にもならない。俺たち大人の都合でそうなっちまった咲を、京ちゃんは連れ戻してくれたわけだしな。


 ………
 ……
 …


 『京ちゃん、ちょっとそこで待ってて!』

 『部屋まで連れてってやれよー?』

 『今部屋誰も入れない状況だから!!』


 今もなお、精細に思い出せる過去。

 あの日、咲が初めて友達を連れてきた日だ。

 それも男友達ともなれば父親の警戒センサーも全開ってね。


 『あー、君が噂の須賀京太郎君?』

 『は、はい! 俺、須賀京太郎って言います!』


 声をかけてみると、体育会系のノリなのか、しっかりとした挨拶が返ってきた。

 身体中が見てわかるほどがっしりしている。まずいな。おっさんじゃ勝てないかもしれない。


 『何かスポーツやってんだ?』

 『はい! ハンドボールをやってます!』


 緊張しているだろうに、元気のいい声を出す。若いねぇー!

 別に脅そうってわけじゃねーんだが、からかうの面白いしねー。


 『須賀君と、うちの咲はどんな関係?』

 『えっと、どんな関係って言われても、友達、です』

 『うちの咲はアレで極度の人見知りでね。

  そんな咲が懐く男の子ともなれば、男親としては心配なのさ』

 『そう、だと、思います』

 『特にさ。よくあいつと仲良くなれたんだと思う。何か特別なことした?』


 そう、一番聞きたかったことはこれなんだ。

 あの咲が他人と関わっている。それだけで俺はビックリなんだよ。

 どこか抜けて浮世離れしているような、まぁ言っちゃうと天性ボッチの咲と運動部の好青年。お父さん心配。


 『何か……した覚えはないです……?』

 『へ?』

 『中学校の最初の席が隣で、そこからずっと話していただけですよ。

  最初はオドオドしてましたけど、今はすっごく突っかかってきますし』

 『それだけ?』

 『はい。特に何もないですよ』


 心を閉ざしていた咲がここまで戻ったということは、何かがあったということだ。

 しかし、それは『この少年が何かをした』のではなく、「この少年に出会った」ことだったのだろう。

 彼は持ち前のコミュニケーション能力で咲に話し続けて、話し続けて、話し続けて、それで今に至るんだろう。


 『わかっちゃいたが、父親失格だな』

 『え?』

 『あー、気にすんな。そういえば「京ちゃん」なんて呼ばれてるから彼氏を連れてきたのかと思ったんだぞ』

 『あ、あれはですね……!!』


 いざ、会話の主導権を彼に与えてみると彼は本当に楽しそうにその話を続けた。

 見ているこちらの方まで笑顔にしてしますくらい、ただそこにいるだけで心が安らいだ。


 『これは、いーな』


 心地よい音程の話し方。盛り上げて最後の結末にオチをつける。

 俺も笑わされちゃったよ。


 『もう上あがっていいよ!

  なんで笑ってるの?』

 『これからもうちに来ていいからな

  京ちゃん!』

 『え、はい! 是非!』

 『え、なんで京ちゃんとお父さんが仲良くなってるの?

  ……ああ、京ちゃんのいつものかぁ』


 …
 ……
 ………


 「こら! ベッドやソファーに飛び移らないの!」


 咲の息子は京ちゃんに似てヤンチャらしい。

 逆に娘は咲に似て物静かだ。

 でもそんな娘も兄相手だと容赦がないようで、ボーッとしているところを邪魔されると本気で怒り出す。

 あー、お前ら。両親に似すぎじゃねーか。

 どーするんだか。


 「ただいま、咲」

 「あ、おかえりお姉ちゃん。

  夕飯もうちょっとだから子供の相手しといて!」

 「わかった」

 「お父さんもちょっとは手伝ってよ、もー!」


 我が家の稼ぎ頭、日本トッププロの宮永照のおかえりだ。

 テレビの前ではクールに気取ってるが、家に帰ると子供とほとんど変わらない。

 京ちゃんに甘え、咲に甘え、堕落の限りを尽くしている。

 ……俺は照の将来が心配だよ。将来って今だよ。

 もー本当に京ちゃんに頼むしかないんじゃないかと……。

 親心としては娘は二人もやらんと言わなきゃいけないが、照の年齢を考えると……。

 それに普段から世話ばかりさせてほんとーに申し訳ないしな。

 よし、照でいいなら持って行ってくれ。むしろ頼む。京ちゃんしかいない。


 「やっと寝たよー」


 お、子供たちがようやく寝ついたらしい。

 咲がクタクタな顔で台所に戻ってくる。母親の貫禄ってやつが出てきてるなー。


 「おー。大丈夫か」

 「お姉ちゃんまで寝ちゃったよ。

  変な時間に起きてお菓子を食べ出しそう」

 「あいつはもー……」


 そんなこんなで俺の嫁も帰ってきてあとは京ちゃんだけ。


 「ただいまー」

 「あ、京ちゃんだ」


 トテトテと嬉しそうに玄関に向かう咲。男親としては複雑だねー。

 あんなに嬉しそうな咲の顔なんて、京ちゃんが絡まないと見られないしなー。


 「お父さん。まずい」

 「照、どーした」

 「さっきの京ちゃんの『ただいま』に反応して子供達が起きた」

 「あーあ……」


 ものすごい勢いで走りながら京ちゃんに飛びつく子供達。


 「あー! 今寝たとこだったのに!」

 「え、ええぇ!?」

 「もー、静かに帰ってきてよー!」

 「そんな無茶な」


 おい。家族の前でイチャイチャすんな。

 まぁこうして毎日。ドタドタ楽しくやってるぞー。カン!