「もう! 京ちゃんなんて知らない!」
「咲!」
須賀咲ちゃんです。
京ちゃんと喧嘩しました。私は悪くないもん。
喧嘩した内容は覚えてない。些細な話から始まって、些細な言い争いをして、それで喧嘩した気がする。
京ちゃんとはたまに喧嘩するけど、やっぱりムカムカする。
内容も覚えてないけど私は悪くないもん!
……胸がキュッとする。
締め付けられるように痛い。
京ちゃんとはたまに喧嘩するんだけど、いつもこうなる。
離れても私に辛い思いをさせる京ちゃんなんてやだ。
本当に女心がわかってないんだから。
「ばか」
そんな時はいつもこうして毛布に包まる。
何もする気が起きなくて、家事もしないし、本を読む気すら起きない。
……そういえば最近本を読んでなかったな。
昔は本の虫と言われるくらい読んでいたのに、子供が出来てから読書の比重が減った。
子供の世話と家事をしていたら自然と時間がなくなったのかな。
読もうと思っていたのに読んでいない本に手を伸ばす。
パラパラと何気なく開いたページは、今の私の心を抉った。
『幼馴染関係なんて簡単に崩れる。ずっと幼馴染でいることは出来ない。
進もうとしなければ進まない。どんな本でも幼馴染は大人になって別の人と------』
それは、辛くて読むのをやめてしまった本だった。
京ちゃんが告白してくれた時も、このことを言っていた気がする。
どんな本でもそうだ。
人の関係はお互い言葉にしないとわからない。
行き違いから関係が崩れる。昼ドラの浮気なんてそんなのばっかりだ。
行き違いで、有名な小説がある。
『賢者の贈り物』
貧しい夫妻が相手にクリスマスプレゼントを買おうとする。
妻は夫の大切にしている金の懐中時計を吊るす鎖を買うために、自慢の髪の毛を切って資金を手に入れる。
夫は妻の髪に通すための鼈甲の櫛を買うために、自慢の懐中時計を質に入れて資金を手に入れる。
この小説では結果的に暖かい結末に終わったけれども、そういかないことだってあるんだ。
ううん、夫婦の行き違いなんてそればっかり。……本の知識だけどね。
うん、人の気持ちなんて、言わなきゃわからないんだ。
「よし!」
布団に包まって足をバタバタさせている場合じゃない!
今日だってまだ家事が終わってないし、子供を放置して拗ねてる場合じゃない。
しょーがないから咲ちゃんからアプローチをかけてあげましょう!
そう思って居間に行くと、……なにあれ。
子供二人に包まれてショボンとしている京ちゃん。
子供もしっかり抱きついて、お父さんを慰めてあげているみたい。
あー、あの顔は後悔してる顔だ。嫁さんわかっちゃう。
ふふーん、それだけ反省してるなら、許してあげようかなー?
と、思うとまたギュッと子供を抱きしめる京ちゃん。
……そういうことするんだ?
「え、咲?」
京ちゃんの意見なんて聞いてあげない。
無言で走って行って思いっきり抱きつく。
子供の上からしっかり抱きしめると、子供もびっくりしたみたい。
京ちゃんは私をしっかりと受け止めてくれる。
京ちゃんには目線を向けないで、子供に向かって話しかける。
「パパは10年も前からママのなの」
京ちゃんが私をギュッと抱きしめる。
「ごめん」
「ばか」
「これからは気をつける」
「ばーか」
「咲、愛してる」
「……ばか」
それは卑怯だ。でも
「私も」
許してあげちゃおうかな。カン!
最終更新:2015年10月15日 16:04