照「あなた」

 京太郎「……ん」


 自分は寝てしまったのか、覚えていない。

 仕事で疲れていて、帰ってきてから妻を放っておいてソファで寝てしまったようだ。

 妻は嬉しそうに膝枕をしてくれていて、頭を撫でてくれる。

 正直、少し恥ずかしい。


 京太郎「てるねえ、恥ずかしいよ」

 照「あ、またてるねえって言った。じゃあやめてあげない」

 京太郎「……恥ずかしいよ、照」


 おそらく自分の顔は真っ赤になっているだろう。

 それを見てニコニコと嬉しそうに頭を撫でる。……俺の嫁さんだ。

 年上の可愛くてしっかりものの嫁さんをもらえた俺は……本当に幸せだ。


 照「あなたは疲れてるんだから、ゆっくりしていていいの」

 京太郎「そんな、照だって疲れてるだろ」

 照「ほら、あなたは横になって。あ、服がしわになっちゃうから脱いで」

 京太郎「う、うん」

 照「ふふっ、あなた、かわいい」


 いつもこうなのだ。ずっと前から照に勝てた試しがない。

 割とズボラな俺をいつもフォローしてくれるのは照だ。本当に頭が上がらない。

 例えばお弁当を忘れてしまったり、デートで迷子になってしまったり、事欠かない。

 そんなときいつも、嫌な顔を一つせずにニコニコと俺と一緒にいてくれるんだ。

 でも、ちょっと寂しい。


 京太郎「なぁ、照」

 照「なぁに、あなた」


 照を後ろから抱きしめて、首筋に鼻をぶつける。


 照「どうしたのー?」


 照が聞いてくるが、反応してやらない。

 ふふっと笑った声が聞こえた。


 照「本当に寂しがり屋なんだから、『京ちゃん』」




 照「……スー」

 京太郎「照さん。起きてください。今日は対局でしょう?」

 照「……?
   あなた、なにをいっているのかわからない」

 京太郎「また寝ぼけてますね……。

     咲が朝食用意してくれてますから早めに降りてきてくださいね」

 照「……えっ」


 私は須賀照(オネエチャンハミヤナガテルデショー!)……宮永照。

 麻雀女子プロ。世界ランカー……何位だっけ?

 愛読書はスガライク・ザ・フラット。みんなにもおススメ。

 京太郎「朝ごはんとお弁当は咲が……って他の準備できてないじゃないですか!

     ああ、俺も出社だし、ええぃやっちゃいますよ!」


 京ちゃんがなにやら忙しく私の髪にドライヤーを当ててくれている。

 手ぐしが気持ちいい……。

 しかし、どうやら先程のは誠に遺憾ながら夢のようだ。

 だけどこうしてお世話してもらえるならばこれが現実でもいいと思う。


 照「京ちゃん、お菓子」

 京太郎「京ちゃんはお菓子じゃありません。

     とにかくこれであとは自分でなんとかしてください!

     じゃあ咲、行ってくるぞー!」

 照「京ちゃん、ちょっとだけ」

 京太郎「えっ、なに……?」


 思いっきり背伸びしてギュッと抱きしめた。

 京ちゃんの体、ガッシリしていて固い……。いい匂いする……。

 名残惜しいけどすぐ離す。


 照「これで勝てる。京ちゃん、いってらっしゃい」

 京太郎「あ、はい。行ってきます……」


 ダッシュで玄関に向かう京ちゃんを見送る。奥さんみたい。

 私は京ちゃんが好き。京ちゃんは咲が好き。二人の関係も好き。

 でも私には京ちゃんが必要。二人の関係が壊さないように配慮しながら、攻める。

 私もいい年。京ちゃん以外考えられないままになってしまった責任、とってもらわないと……。

 あ、お菓子の場所聞くの忘れた。カン