「...何やってんだろ、私」


辺りは既に真っ暗。確認してないけど多分九時とか十時くらいだと思う。

こんな時間に外に出て、何かあったらどうするのか。明日は大事な、試合なのに。


今だって迷惑掛けているのに。


「ははは、だって、仕方ないじゃん」


最初から分かってる。うちが勝ち進んでいるのは爽のおかげ。

でも、それだけじゃ、


「カッコ悪いじゃんかよ......」


そんな気は、そんな気はないのに、視界が歪む。


「クソ.....!」

「あのー?すみません」


唐突に掛けられる声。顔を上げるとやたらでかい金髪がいた。

......やばくない?これ。

何て内心すげー焦ってると、その金髪はこう言った。


「もしかしてですが、あの、」





「迷子ですか?」


「迷子?」


何言ってんだこいつ。ナンパとかだったらもうちょっと言い方とかあるんじゃないの?会ったことないけど。


「いや、すいません!道の真ん中で涙目になってたんで」

「はぁ!?泣いてないし!大体高校生にもなって迷子になる奴なんて居るわけないじゃん」

「.....................ソウデスヨネ」


くっそ!なんか知らんけど馬鹿にされてんだよね、これ!


「まぁ、あれです。その辺にベンチあるので座っといてください」

「へ?いや何でお前の、っておい!」


何か行っちゃったんだけど私も帰っていいかな?いいよね?

別に付き合う義理なんてこれっぽちもないし、明日試合だから早く寝ないといけないし。

ていうかあいつ、ふつーに不審者じゃん。とっとと離れたほうが身のためだよねー。


「ココアとコーヒーどっちがいいですか?」

「...ココア」


別にあれだし。こいつヘタレっぽいから大丈夫って思っただけだしっ。

何て誰に向けたのかよく分からない言い訳をしつつ、ココアをすする。

...アイスじゃん。確かに夏にホットはきついけどさぁ。

「えっと、やっぱ明日の試合ですかね」

「え、何で知ってんの?」


まさかこいつストーカか?やっばいわぁ。ほら、私って美人だし。

......。


「もしかして熱あります?」

「ふぇ!?い、いや別に!つか質問に答えろよ!」


くっそ恥ず...。変なこと考えるんじゃなかった、まったく。


「ああ、というか今この場に居て貴女のこと知らない人の方が少ないんじゃないですか?準決勝出場校、有珠山の岩舘............さん」

「何かむかつくな」


別に知ってて欲しい訳じゃないけど腹が立つ。

というか私そんなに有名人か。そーかそーか。


「やっぱ熱ないですか?」

「ないつってんだろ!」

「まあいいですけど。それでまぁ貴女の牌譜とかも調べてるですよね」

「......あー」


それで明日の試合か。

私じゃ、私じゃ全然実力が足りてないから。あの場に立つ資格なんて持ってないから。


「...お前に何が分かるんだよ」

「さあ?さっぱりですけど」

「はぁ?」

「そもそも、岩舘さんより下手なんですよね、俺」


そう言って笑う金髪。でもその笑いには明らかに自嘲が含まれていて―――私とよく似ていた。


「まぁ、一つ話をしましょうか。下には下が居るっつう」

「...」

「あー、貴女がオカルトを信じるかどうかは知りませんけども、俺も持ってるんですよ。オカルト」


オカルト。爽のあれみたいなやつだよな。

だったら明らかに強いじゃんか。やっぱり馬鹿にして


「んで、その能力が『直撃を当てた相手に一翻つけて放銃する』っつう使いどころに困る能力でして」

「えっ」

「しかも制御出来てないんで勝手に発動するんですよ、これ」

「まてまて、逆じゃないの?ふつー」

「どんなオカルトなら普通なのかは知りませんが、とりあえず俺のは相手に放銃する能力ですね。強制で」


なんつー難儀な。つーかそんなん勝てるわけないじゃん。

上手く使えば確かに武器にはなる。でも勝手に発動する以上、上手いも下手もないだろう。


「んでまぁ、地区大会ですら一回も一位にはなれず」

「その、なんだ」

「30局中でラスを22回、3位を7回をとりました」


22回ラスってよく麻雀続けてるな、こいつ。それとも、もう止めてんのか?


「言いたいことはこんな俺でも30回やりゃあ一回は2位とれるんですよ」

「ああ、22+7じゃ29か」

「それでまあ、先輩は何局打って来たのかっつう話です」

「それは...」


初めて打ったのは幼稚園だったか。思えば数え切れるわけないくらい牌に触ってる。


「そろそろ来るんじゃないですか?30分の1」

「でも、来ない確率の方が、大きい」

「それは相手も同じでしょう。だったら前向いてた方が楽しいですよ?」

「楽しい...」

「ええ、振り返るのは後からでも出来るんですよ。でも前を向けるのは」

「今しかない」

「...そういう事です」


ははっ。こいつの言うとおりかもしれない。いやそうなんだろう。

私が麻雀を続けているのは私のため。だったら楽しまなきゃ損だ。

掴めない月を掴みに行った馬鹿もいるんだ。倒せない相手を潰しに行く馬鹿が居ても問題ないだろ?


「『暗雲低迷でも雲外蒼天。天が下の萬の事には期あり、萬の事務には時ありだ』」

「あー、すいません。どういう意味ですか?」

「私も知らん!」

「えー...」

「ただ、」

「ただ?」





「信じるものは強い。そうだろ?」