今は放課後、部室には二人きり
だからちょっとだけ、気が抜けていたというか、油断していたんだと思う

「……いきなりどうしたんだ?」

だって、聞かれたくない、聞かれてはいけない人に思いっきり聞かれてしまったから


聞かれてしまったのなら仕方ない
どうしよう、どうやって誤魔化そう

やっぱりすぐに逃げようとする
でも、もういいかもしれない
聞かれてしまったんだ
もういい加減、前進したい


「人生ってさ、儘ならないことだらけだよね」

「おいおいさっきのは……まぁいいか」

ごめんね京ちゃん、やっぱりいきなりは勇気がいるから、ちょっと遠回りさせて


「京ちゃんはさ、兄弟が欲しいとか思ったりしない?」

「兄弟?あーどうだろ。ってか今日の咲ちょっとおかしくないか?」

「おかしくない!もう、京ちゃん失礼だよ。それより兄弟が欲しいか欲しくないか答えて」

「えー。まぁいきなり聞かれてもあれだけど、今は欲しいとは思わないかな」


まぁそうだろうな
京ちゃんは私と違って友だちいっぱいいるし

「もし京ちゃんときょうだいだったらどうなってただろう」

「どうなってって……どうなんだろうな。どっちが上だ?今のままなら咲になるけど」

「京ちゃん、咲おねーちゃんって呼んでいいよ?」

「お前みたいなちっちゃい姉なんていねーよ。それなら俺のほうがお兄ちゃんって感じだろ」

「おにーちゃん」

「!?」

「京太郎お兄ちゃんどうしたの?」

「こ、これはなかなか」ゴクリ


うん、やっぱり京ちゃんはお兄ちゃんがいいな

金髪で不良っぽいけど優しくて、臆病だけど勇気があって、背も高くて顔も悪くなくて、人をよく見ていて思いやりがあって

「京ちゃんと兄妹だったら自慢のお兄ちゃんだね」

「そ、そうか?」

「ふふっ、照れてる?」

「照れねーし」

ホントに兄妹だったらよかったな



そうすれば、こんなこと思わなくてすんだのかな
でも、それもやだな

「私と京ちゃんってさ、とっても仲良しだよね」

「そうか?。まぁそこらのやつよりもいいとは思うけど」

「そうだよ、まるできょうだいみたいに」

「それはちょっとわからないな」

そう言って苦笑いする京ちゃん

どうしようか
たぶん止まるならここしかない気がする
これ以上進めばきっと……


ううん、さっき決めたんだ
もう、止まっているのは嫌だって
進んだ結果後悔したって、ずっとこのままよりはるかにマシ

「私ね、最近よく思うんだ。京ちゃんときょうだいなら良かったなって。だってきょうだいだったらたぶんずっと京ちゃんといっしょにいられるから」

「でもね、きょうだいじゃなくて良かったとも思うんだ。だからこそ京ちゃんといっしょにいられるから」


京ちゃんはずっと黙ったまま
だから私は続ける

「京ちゃんがどう思ってるかはわかんない。でもね、私はずっと前から京ちゃんが好き」

「中学生の頃も京ちゃんには友だちいっぱいいたけど、それでも私といてくれて嬉しかった」

「でも高校に入って、麻雀部に入って、京ちゃんはみんなといっしょにいて、自分勝手なのはわかってるけど、京ちゃんのそばには私がいたかった」

「私だけがいたかったな、って」

「だから最近はよく想像するの。私と京ちゃんはきょうだいで、だからこんなこと思わなくていい自分を」



全部言った。言っちゃった
自分勝手でワガママで、ホントにどうしようもないな、私

「……全然、気づかなかった」

やっぱり京ちゃんは鈍感だな
まぁそこも好きだけど

「あー、どうすりゃいい?」

「京ちゃんにおまかせします」

「そっか」

ふふっ、悩んでる悩んでる
ちょっとくらい京ちゃんも私の気持ちを思い知るべきだよ、うん

そんなことを思っていたら、覚悟を決めたらしい京ちゃんの顔があった

「じゃあ、言うぞ」

「うん、お願い」

少し間を開けて、固く閉じられていた京ちゃんの口が開く
審判を待つ罪人は、こんな気持ちだったのかな、なんてどこか他人事のようなことを思いつつ、京ちゃんの言葉を聞きもらさないよう全身が強張っていくのを感じていた







「咲、俺はーーー」







誰もいない部室
今は一人きり

「咲、俺はお前のことをそういうふうに見たことなかった。ずっと親友だと思ってた」

「咲に好きだって言われて嬉しかったけど、やっぱり俺はそういうふうにお前を見れない」

そう言って彼は、頭を下げて「ゴメン」と言った

「やっぱり無理だったよ」

窓の外からさしこむ光は、いつの間にかに闇に飲まれて、あとには何も残さなかった

今は部活が終わった後の帰り道

いくら待っても誰も来ないので部長にメールすると、

「今日はおやすみ」

というとてもわかりやすい返信が来たので二人で顔を見合わせて苦笑いしたあとどちらともなく帰ろうか、ということになって今に至る

「き、今日はいろいろあったねー」

「だなぁ」

間延びした返事にしかし頬を綻ばせながら、もし兄妹だったならば到達できなかったであろう距離を感じる

今日最後の太陽が、繋がった影を、二人の後ろにうつしていたのだった



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