「はぁ……はぁ……」

1人の少年が自前の金髪を揺らしながら街を駆け抜ける。
その様子はまさに必死の一言だった。
もはや泣き始め目には涙さえ浮かべている、肺が空気を寄越せとバクバクとなり体を虐め始めてきた。
それでも足を止めるわけには行かない、止めてしまえば自分の命がないのだから…

人や異界の住人に当たりながらも彼…京太郎は走り抜ける。
時折後ろを少し見ては汗を流す。
未だに着いてきているようだ。

「まったくしつこいな!こっちは善良な一般人だってのにっ!」

異界と人界が混じりあった街で京太郎は生き残る為に走る。

5年前、この街…元の名前は東京言った、この街はNYと同じく異界と人界とが交差して一晩で変わり果てた。
今でもよく思い出す…インターハイ最後の日その日に起きたのだから……
あれ以来この街は名前を変え、住み方を変え今では異界と人界を繋ぐ『NYに次ぐ剣呑な緊張地帯』と成り果てた。
そこで日夜、世界の均衡を守るために結成された組織、ライブラ-日本支部-に京太郎は働いている。
眼を戻すため……咲を助ける為に……

「まだっすか!ゆみさん!!」

『ん~…後100M行った所の裏路地を入れ』

耳に付けた通信機からライブラのメンバーである、ゆみの指示が入る。
それを聞きあと100Mかと嘆き悲しむ、既に何Kmも走り限界一歩手前だ。

「ちくしょー!」

京太郎の叫びが街へと木霊し消えていった。





  • 事務所内部-

「ぶー」

京太郎の所属するライブラの事務所で『不可視の人狼』こと東横桃子が不貞腐れる。
今回の人員の配備に文句があるのだ。

「そうむくれるなモモ」

「そうはいっても…私も京ちゃんさんとババーと活躍したかったっす!」

腕を大きく広げガーとアピールする桃子にゆみはくすりと笑った。

「笑うのはひどいっす」

「いや、微笑ましくてな…それと今回の相手は美穂子君と京太郎君がぴったりだからな」

「…私の方が相性いいっすのに」

「なに言うとるん?相性ならウチやろ!腐れ狼」

「でたっす、馬鹿猿が出たっす」

大きく扉を開け豪快に洋榎はソファーに座る。
そしてカチンと何時も通りにジッポライターに火を灯した。
それに対して桃子は嫌そうに洋榎を睨みつける。
相変わらずの喧嘩越しの2人にゆみは我関せずと静かにコーヒーを啜った。

「やれやれ…あー聞こえるか。美穂子君そろそろそっちに京太郎君が行くぞ」

『京太郎君は、大丈夫かしら』

「あれで彼も丈夫だからな」

そう言ってまたコーヒーを啜る。







  • 京太郎sied-

(ここを曲がって!!)

「って行き止まりじゃねーか!」

ゆみに言われたとおりに曲がり進むと壁にぶち当たる。
大きなビルのせいでどうやっても閉じ込められている。

「きヒヒヒヒヒ…ようやくだな」

「うへーい…なんでこんな目に」

嘆く京太郎の後ろで声が聞こえる。

「うらむぜ、お前」

「きヒヒヒヒヒ!!これから居なくなる奴に何が出来るってんだ!!」

後ろを振り向き声の人物へと視線を向ける。
だが、後ろには誰にも居らず声しか聞こえない。
不可視の人狼に似た能力-不可侵の領域-Inviolable territory……
この数日の間にこの男は何人もの人を殺め盗みやりたい放題をしていた。
京太郎に見つかるまでの話だが。

「まさかな~-神々の義眼-なんてものがあるとは」

「こいつのせいで俺の人生はめちゃくちゃだ」

京太郎は眼を開ける、開けると其処には青白く複雑な模様が描かれた眼があった。

  • 神々の義眼-

  • 超光速の挙動を捉える動体視力
  • 物体を透過する遠隔透視
  • 他者の視界を奪う視線を操作
  • 視界の中継
  • 視覚神経をトレースして遠隔地にある脳を発見
  • 個体レベルで生物の残留思念の『色』を識別し追跡
  • 他者の眼球から視覚情報をサルベージ

「視る」ことや「眼」にまつわることなら何でも出来る。

最高の義眼にして最高の芸術品だ。
京太郎はコレのせいでここのイカれた街に来ることになり日々追われる身となった。
今現在もこの眼で見てしまったせいでこいつに追われている。

「本当にはっきり見えちゃってさ…困るわ」

「まぁ…俺はラッキーだがな、きヒヒヒ…お前さん殺して眼で大もうけだ」

青い義眼から見る光景にははっきりと奇怪な輩が見えていた。
ガイコツに近い骨の身に血塗れた刀を持ち一つだけ残った眼で此方を見ている。

「まぁ…いいヤ、シね!!」

「そうは行きません!」

「あん?」

相手が京太郎へと飛びかかる瞬間に声が聞こえた。
声の主はビルから飛び降り空中で回転し手に嵌めた武器を構える。
綺麗な金髪を揺らし穿いていたスカートがふわりと宙を彩った。

「美穂子さん!!」

「うん!」

京太郎が眼を開き神々の義眼を発動させる。
発動させる能力は視界の中継、相手が見えない美穂子の片目に京太郎の視ている視界を中継させる。
その御蔭で美穂子の片目にはしっかりと相手が見えている。

  • ブレングリード流血闘術……-

彼女の手に嵌っている少し形が変わっているメリケンから血が溢れ出し大きな十字架を作り出す。

  • 111式 十字型殲滅槍!!-

「なぁ!?」

「アブねー!!!??」

綺麗な血の十字架が容赦なく相手を貫く、まさに一瞬の出来事であった。
相手を砕き地面を砕き辺りに地面の破片が飛ぶ、何個か京太郎に当たり蹲ったりもした。

「ゆみ、こちらは終わったわ」

美穂子は倒した相手を見て改めて通信機でゆみへと連絡をする。
だが、幾ら待っても返事が無い。
美穂子はどうしたのだろうかと思い何度も通信機に呼びかけるが返事が無い。

「どうしましょう!ゆみ達に何か……」

「いや、通信機切れてますし…スイッチ切れてます」

あわわわわと慌てふためく美穂子に京太郎はツッコミを入れる。
先ほどから美穂子の通信機の光が消えている事が視えていた。

「そうなの……!…京太郎君、良かった無事でっ!」

「わぷっ……何時も通りに生き残りました」

美穂子は眼に涙を溜め京太郎を抱きしめた。
豊満な胸が当たり顔を赤くするも顔を引き締める、美穂子は純粋に此方を心配しているのだ。
ここで煩悩に負けるのは、美穂子に失礼だ。

「ゆみさん、終わりましたよ」

『あぁ…確認できた直ぐに迎えを寄越すよ』

美穂子に抱きつかれながら京太郎はゆみ報告をする。
ゆみの言葉に安堵する。良かった今日も生き延びたと

「取り合えず…帰りますか」

「あ…途中でお買い物しないと」

「付き合いますよ」

そんな会話をしながら二人は何事もなかったかのように歩き出す。
これがこの街での日常だ。

カンッ