講師1「須賀くーん、B教室の自動卓!ちょっと見てきてー!」

京太郎「うぃっす!」


講師2「須賀くん、もうA教室使えるー?」

京太郎「はいオッケーです!もう生徒さんたち入れて大丈夫です!」



俺の名前は須賀京太郎、大型の麻雀塾で掃除や卓の点検なんかのバイトをしながら暮らしている

まあ要するに雑用だな……高校時代と変わらず

こう見えても俺は今や強豪の一角として知られる清澄高校麻雀部の出身だ
しかもまだ無名だった頃、突如インターハイに現れ、強豪を次々と沈めていくというあの”奇跡の夏”を成し遂げたときの部員だ

ちなみにその時の清澄の男子部員は当時一年の俺一人だった

今となっちゃ嘘みたいな話だけどな


…といっても、あの夏の日々で俺は何かに貢献したわけじゃない
とっくの昔に個人戦で予選落ちしていた俺はただついていっただけで、観客と変わらない存在だった

そこで何が行われていたのか、残念ながら全部は理解できなかった
次元が違いすぎてな、凄いとも思わず、ただぽかんとしてた

だけど、なんとなく分かったことがある
俺は麻雀で生きていくことはできない、と

そんなわけで高校時代はとにかく裏方に徹した
背が高くハンドボール経験のあった俺はたまにスポーツ系の部活から勧誘されるときもあったけど断った

なんだかんだで麻雀部が好きだったし、なんか筋を通したかったんだ

波のように入ってきた後輩は皆優秀な奴ばかりで、俺はもうすっかり出る幕なんかなかった
でもついこの前までは消えかけていた麻雀部が盛り上がってくれて嬉しかった、だから率先して面倒をみた

おかげで後輩たちには慕われたけど、実力は相変わらず

そのまんま卒業しちまった




高校を出てからは進学せずに家も出た
このままずるずると大学にいっても、またぼけーっと過ごしそうで怖かった
そしてそうなっても問題のない裕福な実家に依存するかもしれない自分も怖かった

だから、全部置いていく覚悟で長野県を飛び出したんだ


そして行き着いたのがこの麻雀塾でのアルバイト

時給はまあ普通、だけど都会にあるもんだからアパートの家賃が洒落にならず、貧乏暮らしを強いられた

でも楽しく過ごしている、あきらめた麻雀の世界に端っこの隅っこでも触れて生きている事が出来るから



咏「おーっす京太郎!」

良子「ハロー、京太郎」


京太郎「あっ、咏さん!良子さん!」


この二人は有名なプロ雀士の三尋木咏さんと戒能良子さん

大型塾だけあって、何度かこうしてプロの人が教えにきてくれる


咏「おいおい、うたたんでいいって言ってんだろー?ほれほれ」

京太郎「講師の先生たちがいるのに、そう呼べるわけないでしょうが…
    それと扇子でつつくのやめてください、割と痛いです」

良子「教えるのはいつもの教室でいいんですか?」

京太郎「あ、いえ、今日はちょっと大きめの教室でやってもらいます」

咏「なんだい、大人数相手はちと面倒くさいな~

  ……そうだ京太郎、アンタも来いよ」


京太郎「え、俺がですか?」


良子「オー、グッドアイディア
   京太郎なら私も歓迎です」

京太郎「ちょ、ちょっと!俺トーシローっすよ!?」


咏「いいじゃんか、アンタ生徒らから評判いいって聞いたぜ?知らんけど」

京太郎「知らないのかよ!」

良子「タイムイズマネー、早速いきましょう」

京太郎「マジかよ…」


高校のときに麻雀の基礎とかを後輩に教えたことはあったけど、複雑な理論なんか俺にわかるわけない

とにかくそれっぽく立ち振るまおうと思って、二人についていった


……

京太郎「うん、ちょっと手牌見せて?
    ふむ…ちょっと対面の河見てみな、さあ何がある?

    そうだな、ということは…」

……

京太郎「君がいま最下位なんだね?
    それならこれ以上は点を削られないようにガードしようか、それから反撃の機会をじっくり待てばいいさ

    防御の打ち回しについては教わったろ?ならオーケーだ」

……

京太郎「ほら、泣くなって…君はまだこれからだよ
    小さいのに大人たち相手にここまで食い下がるなんてたいしたもんさ

    来年には誰にも負けないようになれるよ」


……


京太郎「あー、疲れた……慣れないことしたから肩がこった……」


咏「ふふ…」

良子「ふふ…」


京太郎「あ、咏さん、良子さんお疲れ様でした!タクシー呼びましょうか?」


咏「…やっぱり私らの目に狂いはなかったな?」

良子「イエス」


京太郎「?」



そんなことがあってから



講師3「あ、須賀くん!ちょっと一時間だけ俺の代わりに生徒見てくれない?頼むわ!」

京太郎「え?あっ、ちょっと!」



講師4「須賀くん、掃除はあとでいいから私のヘルプをお願いしたいんだが…」

京太郎「すみません!今汚れがいい感じでとれてるんで!陰陽ドメストをくらえー!」

講師4「まあ、今度でも構わんさ…」



更に生徒さんたちまで…


生徒1「須賀さん、この牌譜の見方なんですけど…」

京太郎「俺は用務員なんだけどな……ん?どれどれ」



ああ、こんなこともあったな…



和「須賀くん……とうとう、とうとう見つけました…!」

優希「うぅ…うわああああん!きょうだろぉぉぉーー!!」


咲「京ぢゃああぁぁーーん!会いだがっだよぉぉーーー!!」



京太郎「お前ら…どうしてここが……って、ひっつくな!とりあえず鼻かめ!ほら、チーン!」

咲・優希「チーン!」

和「なんで黙って去っていったんですか…なんで連絡してくれなかったんですかぁぁ…須賀くんのばかばかばかー!」

京太郎「和っ!こいつらに構ってる最中に背中攻撃するなって!」



生徒2「お、おい…あの人らって”伝説の清澄三女神”…!昨日もテレビに出てたじゃんか…!」

生徒3「まさか…あの鬼神とまでいわれた妹のほうの宮永プロが、須賀さんの前ではまるで乙女じゃないか…!」

生徒4「試合のときは人外じみてる片岡プロも原村プロも、普通の人間の女の子みたいだ…!」

生徒5「原村和サイボーグ説信じてたのに…!」



咏さんたち経由でプロからプロへ話が巡って咲たちに行き着いたらしい…

あいつらが俺のことを仲間だって思ってくれていたのが意外といえば失礼だけど、なんか嬉しかった



ああ、あとは…


衣「うわぁぁん!きょーたろぉぉぉぉ~~~!!」

照「京ちゃん…こんなところにいたんだね…」

淡「あわぁぁん!キョータロぉぉぉぉ~~~!!」

小蒔「突然失踪したと聞いたときは驚きましたけど…元気にしているから心配するなって神様たちが……
   でもっ…お会いしたかったです…ずっと…!」


京太郎「ごめんなさい、心配かけて……」


生徒6「ひぃっ…牌に愛されし者たち…!」

生徒7「生で見たら魂を取られるって聞いたぞ…!」

生徒8「俺なんか魔神こと姉のほうの宮永プロを見ているだけで震えが止まらないというのに…須賀さん、凄すぎる…!」



はは、そのあとも色んな人が来てくれたなぁ…

麻雀打ってた人間としては恥ずかしいことだけど俺にはライバルらしいライバルはいなかった

でも…友達はこんなにたくさんいたんだな……



あっ、そういえば今日は塾長に呼ばれてたんだった

過去にひたるのはまた後でいいや




塾長「須賀くん、君を正式な講師として迎えたい」


京太郎「…え?」


塾長「講師たち、生徒たちに請われていてね

   勿論、プロのライセンスがない君をそのような立場には置けないのだが、
   多くのプロ雀士たちが君のために連盟に推薦状を送ってね

   異例ではあるが、君にはプロ相応の資格があるものとして望めばライセンスの発行が認められる事になった

   あとは君次第だ、どうする?」




諦めていた麻雀人生…それが急に目の前に出てきた

どうするって、そんなの決まってるさ




京太郎「……お断りします」

塾長「………そうか」



京太郎「みんなの気持ちはありがたいのですが、こうした形でライセンスをいただくわけにはいきません」

塾長「……」



京太郎「俺は……自分の手でプロ試験に合格してみせますっ!」

塾長「…ほう」



ようやく分かった、本当は自分が何をしたいのか

俺も麻雀バカだった、バカなのに挑戦もしなかった

これまで未練がましくグズグズとしていただけだった

もうそんな自分を許していくわけにはいかない

だから、プロ試験を受ける決意をした


部屋を出る前、塾長は「いつでも帰ってきなさい」とだけ言ってくれた




こうして俺はようやく、ようやく一歩踏み出した

咲のことをノロマだなんて、笑えないな



外に出ると、青い空の中を飛行機が飛んでいき、後引く雲も残さなかった


明日はきっと晴れだ


カンッ