「ふぁ~朝か…朝食作らないと」

少しばかりうるさいぐらいに鳴る目覚ましを止めつつ京太郎はのそりのそりと動きだす。
まだ朝日も顔を出したばかりの時間だがこれから仕事なのだからしょうがない。

「今日はっと…これがあるか」

冷蔵庫を開け京太郎は頭の中でどんな朝食とお弁当を作ろうかと考える。
ここで手抜きをすればすぐに減給なので考えるのも一生懸命だ。
料理もあぶげなくこなした、何回も同じことを繰り返しているので手馴れたものだ。
暫く料理に時間をかけると主人を起すのにちょうどいい時間になる。

「おーい、朝だぞ」

この家の主である彼女の部屋をノックするが出てこない。
まぁ…判ってたけどさと思いつつ京太郎は自分の部屋へと向かった。

「やっぱりいた」

自分の布団を捲ると小柄な少女が幸せそうに寝ている。
先ほどは気づかなかったが京太郎と一緒に寝ていたらしい。

「おきろー飯だぞー」

「……ん~だっこ」

「はいはい」

少女の我侭に京太郎は頷き抱きかかえた。
少女の世話と我侭を聞くことが京太郎の仕事なのだから…

「もぐもぐ…美味しいよ、キョウタロー」

「ありがとって口元にご飯ついてるぞ、ネリー」

京太郎は朝食を食べながらも自分の主であるネリーのお世話をする。

「むぐっありがとー」

「それで今日は何処で仕事なんだ?」

ネリーに雇われ彼此5年ほど経過した、最初こそ戸惑ったものの今はでは感謝している。
京太郎が高校2年に上がる頃に両親が多額の借金を置いて逃げたのが始まりだ。
やのつく人に借りたらしく家に帰ると黒服の人でいっぱいだった。

京太郎は逃げるのを諦め素直に着いて行き覚悟を決めた。
広い和式の部屋に通され顔を青くしていると何故か開放される。
何でも自分の借金を代わりに払ってくれた人がいたらしい…それがネリーだった。

「いってきまーす!」

「いってらっしゃい」

(借金返済までこのまま働いて50歳間際…)

ネリーを見送りながら京太郎はこれからについて考える。
既に京太郎は自分の人生を諦めていた。
払い終わってもいい年だ、このままネリーに貰ってもらおうかなとさえ思ってしまうぐらいに…


「オォーお久しぶり智葉!」

「ん?あぁネリーか相変わらずの姿だな」

お昼になり何処で食事をしようかと思っていると親しい友人であるネリーと出会う。
智葉は高校の部活仲間と今でも交流を続けている。
他の3人は残念ながら故郷に戻ってしまったが目の前のネリーだけは東京に残った為、多々会うことがあった。

「むーこれでもネリーも成長してるから!」

「どこがだ…2週間前に会った時と変わらないぞ」

頬を膨らませ両手を腰に当てぷんぷんと怒る姿は小学生といわれても違和感がないぐらいだった。
膨れるネリーに少し苦笑しながらお茶でもどうだと言ってみる。

「智葉の奢り?」

「それでいいよ…私より稼いでるくせに相変わらずだな」

「お金は大事だからね…それとさっきのは冗談、流石に払うよー」

2人は笑いあいながら喫茶店へと入っていく。

「それだけでいいのか?」

「うん、キョウタローのご飯食べたから」

飲み物だけを頼んだネリーに対し智葉が聞くとそんな答えが返ってきた。
その言葉に納得し智葉は自分の料理へと口を運んだ。

「京太郎は元気にやっているか?」

「勿論、弱らせたり悲しませるような事しないよ」

ネリーの家に訪れた際に紹介された彼を思い出す。
柔和な笑みに優しい物腰、家事も出来しっかりとしている、最近にしては珍しい男性だ。
出来ればお近づきにと思ったが彼にはネリーの首輪がかかっている、おいそれと会えなく諦めた。
智葉はため息をつき京太郎の事を頭から追い出すとネリーとの会話を楽しんだ。







  • 帰り道-

「………」

ネリーは仕事を終え気分よく家に帰る。
家に帰れば京太郎が優しく出迎えてくれて美味しい料理を-自分の為だけに-作って待っているのだ。
これ以上に幸せな事はないだろう。

るんるん気分で歩いているとTVに写っている彼女達に気づいた。
ネリーはその彼女達を冷ややかな目で見る。

「今更必死に稼いでも遅いのに…」

TVに写る彼女達は今頃必死にお金を稼ぎ京太郎を解放しようとしているのだろう。
だが、それはあまりに遅すぎた。
既に京太郎はネリー以外に眼が行かないように教育している…本当に今更だ。

「心はお金で買えないって言うけど……」

ネリーがその場で綺麗にくるんと1回転した。
その姿は可憐でありながら何処か恐怖を感じさせる綺麗さだった。
誰もいない道でネリーは口を歪めにこやかに笑う。

「お金で得られないものはないんだよね♪」

初めて京太郎を見たときから欲しくなった。
だけど…京太郎の周りには自分よりいい人が多く居て邪魔だ。
相手の心を掴んでから?
そんなの遅い…遅すぎる、悠長に構え他の人に取られたら目にも当てらなれないではないか。
ならどうするか?簡単だ京太郎の時間を買ってしまえばいい。

だからお金と自分が使える伝手を使って京太郎の両親を陥れ、京太郎に首輪をつけた。
京太郎は自分に恩があり、逃げる事が出来ない。
彼女も作れなければ気になることも出来ないのだ。
京太郎は借金を返すまでの間ネリーの物なのだから…

「ただいまー♪」

「お帰り…ネリー」

家に帰るとネリーは一目散に京太郎に抱きついた。
それを当然だと言わんばかりに京太郎も抱きしめ返す。
2人の関係は歪だろう…だがそれでも2人は幸せだった。

<逃がさない カンッ>