「椅子取りゲーム」 前の話(停車禁止)


――― 曲は流れ始めてしまった ―――


見知らぬ誰かに攫われる位なら

始めてしまおう 椅子取りゲーム

たった一つのイスをかけて

ゆっくり ゆっくり まわりはじめる


――― 曲に合わせて ぐるぐると ―――


「これ、どうすればいいんだ?」「この場合はね」

彼女はイスに 一番近い

長年彼のそばに居て 一緒に歩んできた彼女

私に勝ち目はあるのだろうか?

私は少し 不利かもしれない


――― タイミングを 計りながら ―――


「犬ー!タコスはまだかー!」「そこの袋に入ってるぞ」

彼女はとても すばしこい

小回りのきく 元気な彼女は

彼とはすぐに仲良くなって

今ではじゃれあう仲の良さ

私に勝ち目はあるのだろうか?

私は少し 不利かもしれない


――― 曲の終わりを 聞き逃さないように ―――


沈んでいてはいけないと

休日に 街へお出かけ

ふらり ふらりと ウィンドウショッピング

舞い落ちる 羽毛のように

ふわり ふわりと あっちへ こっちへ

かわいい服や小物を見て

心を明るくしようと努力する


心はすっかり明るくなって

そろそろ帰ろうと思った矢先

少しずつ下りてくる 夜の帳とともに

ポツリ ポツリと 降り出した雨

私は小さくため息をついて

シャッターの閉じた小さなお店のアーケードに隠れる

そして、カバンの底にいる 折り畳み傘を探していると

パシャ パシャ パシャ と誰かの走る音

突然駆け込んできた誰かは

「お、奇遇だな!」

突然現れた幸運で


二人で並んで雨宿り

少しだけ雨に感謝して

ゆっくり流れる二人の時間

けれども雨はいじわるで

「あ、通り雨だったみたいだな」

あっという間にやんでしまって


「もう暗いし、送るよ」と

彼は優しく微笑んで

ゆっくり歩く二人の時間

雲間から現れた月が辺りを照らして

「すっげぇ、ほらあれ!」

彼の指差す先には

夜空に架かった銀色の橋

「月虹ですね、初めて見ました」

幻想的な光に包まれて

彼の横顔を見上げながら

トクン トクンと 早鐘のように

脈打つ胸を押さえつけて

すぅっと小さく深呼吸

最後はしっかり覚悟を決めて


――― そして 曲は 止まった ―――


「あの!」



これは後から聞いた話

私が気付かなかったこと

私だけが知らなかったこと

ぐるぐる ぐるぐる 周りをまわる

私に合わせて クルクルと

イスさんは ずっと


私の方を向いていたんだって