【冬休み7日目】


京太郎「ん……」パチッ

京太郎「……そっか、俺の部屋か」

京太郎「……まだ寝よ」




京太郎「うぐぅ……眠い……」

京太郎「けど流石に二度寝して昼間とかはダメ人間みたいで嫌なんだよな……」

京太郎「何か読んで暇をつぶそう」

京太郎「この前買った良子さんの本にするか」ペラペラ

京太郎「表紙の良子さん綺麗だなぁ」ポケー



京太郎「こういうのは前書きから読むのがいいんだよな」

京太郎「えーっと、なになに?」


『現代……ディーズデイズ、君たちヤングなガールやボーイたちのパワーが私たち全体への――――――』


京太郎「何これ、前書きどんだけ続いてんの」ペラペラ

京太郎「しかも良子さんらしく横文字ばっかだし……」

京太郎「……とりあえず読み続けよう」



―― 一時間後

京太郎「ようわからんかった……」チーン

京太郎「なんで注釈つけなきゃわかんないような英語使うんだよ……」

京太郎「今日はここまでにしておこう」



京太郎「さーて次の本は……」



                ´  ̄ ̄ `
              /              \
             /                ヽ
            /  / / |    |  ヽ  i i
         { イ   A A    A  l |  l| |
           X{   | v八  // \ト|  l| '\
        // \ト、{丐ミ、\/ ィテ丐   l|/¨\\
          〃  | ハ弋ソ   弋rソ1  l!    \ヽ
         /'    | 小     '       !  八     ヽj   表紙「」ジーッ
              |  j 丶、 ぃ   . イ /
           从/ / >-<´ト、j_/\

京太郎「……」


                ´  ̄ ̄ `
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京太郎「表紙に見られ続けてる気がするのは気のせいなのか?」

京太郎「なんかこえーよ……」

京太郎「続き、読んでみるか」






京太郎「前書きは読み終わったから、『Chapter.1-物真似とは』からだな」

京太郎「ふむふむ……」


『ミミング(注1)とは、インアザーワーズで言うと、トレースにニアーなミーニングである』

『そしてトレースとは―――――』


京太郎「あれ?これ前書きじゃね?」

京太郎「横文字の量もさらに増えてるし……」

京太郎「マジかあの人……さっぱりわかんないぞ」








京太郎「字ばっかで疲れた……」

京太郎「やっぱ冬休みなのに勉強するのは間違ってるな、うんうん」

京太郎「暇なのは変わんないから……他の人のとこに遊びに行こう」





京太郎「」ブルッ

京太郎「ボロアパートだから寒いな、ここ」

京太郎「そういや霞さんとこに掘りごたつがあったよーな……」

京太郎「よし、行ってみよう」



ガララ

京太郎「霞さーん、いますかー?」

霞「あらいらっしゃい、どうしたの?」

京太郎「部屋の中あんまし暖かくないんでこっちで暖まろうかと」

霞「こっちもちょうど暇してたし、いいわよ」

京太郎「じゃあお邪魔しまーす」

霞「お茶入れてくるから、京太郎くんはあっちの部屋で待っていてね」

京太郎「はい!」



京太郎(ここで霞さんだけと一緒にいるなんてクラス発表の日以来か?)

京太郎(いつもはみんながいて麻雀打ってたり、郁乃さんが騒いでたりしたっけ)

京太郎(来年は俺と霞さんだけになるのかな……)

京太郎(他にも誰かいた気がするけど)

霞「お待たせ、はい」

京太郎「ありがとございます、では」ズズッ

霞「……」ズズッ

京霞「ぷはぁー」

京太郎「寒い時に飲む温かいものって凄いですよね、五臓六腑に染み渡るというか、食道の形がわかるような気がしますよ」

霞「そうねぇ、あ、お茶請けの濡れせんべいもあるわよ」

京太郎「じゃあそれもいただきます」ボリボリ

霞「……まったりするわね」

京太郎「ですねー」



京太郎「ポーカーでもしましょうか」

霞「ポカポカしてるからかしら?」

京太郎「…………」

霞「…………」

霞「ごめんなさい」

霞「でも、ポーカーって三人以上でやるものなのでしょう?」

京太郎「ディーラーとか無しで競うだけにしましょう」

霞「まあ暇つぶしにはなるでしょうね……そうだ、負けた方が昼ごはんを作るっていうのはどうかしら?」

京太郎「いいですね、見せてやりますよ、俺の家事スキル!」

霞「負けること前提なのね……」







京太郎「霞さんから先にどうぞ」

霞「じゃあ……これ、とこれ」

霞「次は京太郎くんね」

京太郎「……はい」

京太郎(霞さんはまだ初心者、役も覚えきっていないと見える)

京太郎(だが、なぜ……)

霞「あら?まだ決めないのかしら」ニコニコ

京太郎(あんなに悠然としていられるんだ……?)

京太郎(まさか初心者でも知っている名物役、ロイヤルストレートフラッシュを揃えたのか?)

京太郎(……いや、これはハッタリ!)

京太郎(そうだ、いくらなんでもそんな強運は滅多にない!)

京太郎(ここは三枚交換で勝負をかける!)




京太郎「フルハウス!」

霞「ツーペア……負けちゃったわね」

京太郎「ウヒョヒョヒョー!俺の勝っちだー」

霞「じゃあご飯作って来るわね」

京太郎「あ、流しちゃうんすね」



トントン

京太郎(炬燵の中で包丁がまな板を打つ音が聞こえる……)

京太郎(暇だ……)

京太郎(霞さん、料理作るときは割烹着だったよな)

京太郎(ピンクのフリフリ付エプロンとか持ってそうだけど……)

京太郎(何かイタズラしてみるか?)




京太郎(あ~右手から炎でないかな~)

京太郎(夏とか暑そうだからいいや~)

京太郎(…………)

京太郎(暇だ)

京太郎(眠い……)



霞「お待たせー……あら?」

京太郎「くかー……」

霞「待たせすぎちゃったかしら?」

霞「風邪引くわよー」

京太郎「くぉー……」

霞「起きなさそうね……こうなったら……」








霞「この鍋焼きうどんで京太郎くんを起こしちゃいましょう!」

霞「前に寝起きドッキリでびっくりしたから仕返しよ」

霞「……だけど、流石に熱いわよね」スッ

霞「少し冷ませば大丈夫よね?」

霞「ふぅーっ、ふぅーっ」

霞「このくらいでいいわね、どのくらい驚いてくれるかしら?」ワクワク

京太郎(気が付いたら霞さんが何やら企てている、直接じゃなくて良かったものの……)

霞「えいっ!」ピトッ

京太郎(案の定熱くない……)

京太郎(えぇぇ、何これどうしよう)

京太郎(どう反応したものか……)






京太郎(薄目を開けると目の前には霞さんの指があるわけで)

京太郎(うどんよりも白くて、綺麗な指なわけで)グー

京太郎(意趣返しだ)パクッ

霞「あっ……もう、何してるのかしらこの子は」ツンツン

京太郎(何だろう、霞さんの声が親戚の優しいおばさんのそれにしか聞こえないや)

京太郎(おいしかったし、もういいや)

霞「早く起きないとうどん冷めちゃうわよー?」ツンツン

京太郎「あ……どうも」ムニッ

霞「……お、おはよう」



京太郎「鍋焼きうどんですか、霞さんらしいですね」

霞「またおばさんっぽいって言うつもりなのかしら?」ジトッ

京太郎「いえいえ、家庭的だなー、割烹着似合うなー、と」ズズッ

霞「それならいいけど……」

京太郎「おっ!おいしいですよ、これ!」

京太郎「ちょーおいしいっすよ!」

霞「そ、そう?初めて作ってみたのだけど」

京太郎「今度は霞さんが作った朝ごはんとかも食べてみたいです!」

霞「ええっ!?」

霞「そ、それって毎日味噌汁作ってくれとかそういう……」

京太郎(あっれー?どこで勘違いしちゃったんだろこの人?)








京太郎「今月は金銭的余裕もあるし、たまには外で食べるか」

京太郎「適当にぶらついて探そう」



京太郎(松屋の主な長所は味噌汁が無料ということと、食券制ということの二点だ)

京太郎(食券制であることにより、す○家に見られる聞き間違いなどのトラブルが少ない)

京太郎(ネギたま牛丼とキムチを頼んだら、キムチ牛丼とキムチが出てきたのは良い思い出だ、整合性考えようぜ)

京太郎(味噌汁無料というのは他のとこと比べてお得感があってなんか良い)

店員「旨辛ネギたま牛めしですねー」

京太郎(というわけで松屋に来てみたのだが……)

竜華「な、なんで京くんがここにおるんや」ワナワナ

京太郎(わなわなしてる人がいた)

京太郎「奇遇ですね、竜華さんもここで夕食ですか?」

竜華「お、お母さんもお父さんもおらんし、せっかくやから食べてみたいと思って来ただけなんやからな!」

竜華「牛丼が好きとか、そういうわけやないんやからな!」カァァ

京太郎「前後で矛盾してますよ、落ち着いてください」

竜華「はぁーっ、はぁーっ」



竜華「京くんはよく来るん?」

京太郎「俺ですか?たまーにですね」

竜華「そっか……ええなぁ」

京太郎「え?」

竜華「あっ!ちゃうから!いつも一人で自由やな、って思うとっただけやから!」

京太郎「いつも一人……」ズーン

竜華「ああ!落ち込んでもうた!」

京太郎「竜華さんもこんな店に来るんですね、意外です」

竜華「変、やろか?」

竜華「千里山の麻雀部部長がこんなところで夕食って……」

竜華「女の子っぽくないと思う?」

竜華「京くんは嫌やろ?」

京太郎「嫌とか訊かれましても……」

京太郎「好きなものは好きっていうべきですよ」

京太郎「俺は牛丼好きな竜華さんだっていいと思います、変でも、嫌でもないです」

京太郎「だいたい、そっちにはセーラさんがいるんですから一緒に行けばいいじゃないっすか」

竜華「セーラはああ見えてファミレスでパフェ頼むかどうかで10分悩むくらいやで」

京太郎「案外行かなさそうですね……」

竜華「どうすればええんやー!」ウェェン!

京太郎「じゃあ、俺と一緒に行きましょう!」

京太郎「いつでも呼んでくれれば飛んでいきますよ!」

京太郎「まあ、どうせ一人ぼっちですし……」

竜華「そっか、ほなそんときは頼むな!」

京太郎「はい、それじゃあ食べましょうか」

京竜「「いただきまーす!」」






京太郎「読書に始まり、読書に終わる」

京太郎「嗚呼、なんという学生的な日々よ」

京太郎「さて、何を読むか」


京太郎「朝はよくわかんなかったけど、今度こそは十二分に噛み砕いて理解してやる!」

京太郎「ここから……」ペラッ

京太郎「良子さんのプロマイド、こんなのもあるのか……」





京太郎「ボタンを外して少しはだけさせたブラウスを着た良子さん……」

京太郎「この良子さんが俺に教えてくれていると思えば……!」キィィィン!




京太郎「妄想しすぎて集中できなかった……」

京太郎「心なしか使われてる英語が簡単になってる気がしたし、プロマイドって偉大」

京太郎「でもこのプロマイドエロすぎないか?」

京太郎「こういうの目当てで買う人もいるんだよな……」

京太郎「良子さんにストーカーとかいるのか?」

京太郎「なんか心配になって来た……」







京太郎「続きを読み進めよう!」

京太郎「今のモチベーションなら今度こそ理解できるはずだ!」ペラペラペラ

京太郎「やっぱりもうないよなぁ、プロマイド」





京太郎「ふんふむ」

京太郎「えーっと、つまり本の内容を総合すると……」

  • 物真似、トレースにおいて最も重要なのはイメージである
その人の打ち筋を見て、思考をイメージ、理解しようとする
  • 第二にそのイメージを投影すること
その人だったらこの場面でどうするか、考えて実際に打ってみる

次第にその人の精神に身体が乗っ取られ、その人特有の運、オカルトチックな法則を手に入れることができる



京太郎「結局オカルトじゃねえか!」

京太郎「……打ち筋を見て思考を理解、ならできるかもしんねえけど……」

京太郎「MAOはリアルだからこっちで練習してみるか」

京太郎「プロのなら公式の牌譜があるし……」

京太郎「よし、やってみよう!」



チュンチュン

京太郎「ふぅ……こんなもんか」

京太郎「もう朝4時、ウソだろ……」

京太郎「早く寝よう」





【冬休み7日目】終











【冬休み8日目】


京太郎「結局あまり眠れなかった……」

京太郎「昨日はやたらと疲れたなぁ……」




京太郎「気分転換にちょっと歩いてくるか」

京太郎「朝の公園は、冬の陽気にあいまっていい感じだ」

京太郎「」ブルッ

京太郎「さっさと帰ろう……」

憩「あ、京太郎くん?」

京太郎「……憩さん?」



憩「朝から散歩かぁ、偉いなぁ」

京太郎「偉い、ですか?」

憩「冬休みやっちゅうのに朝早く起きて散歩なんて偉いでぇ」

京太郎「それを言ったら憩さんも同類じゃないっすか?」

憩「あははっ、せやねー」

京太郎「……憩さんは麻雀の調子、どうですか?」

憩「二年生の子たちと頑張ってるで、大会が楽しみやね」

京太郎「当たることになっても、容赦はしませんよ?」

憩「ふふっ、それはこっちの台詞やで」

憩「……はぁー」

憩「ちょっと寒くなって来たなぁ」

京太郎「寒ささえなければ、冬は最高なんですけどね」

憩「晴ればっかりやしなぁ」

憩「けど、晴れてばっかで暑くないのは冬が寒いからって、バランスええよな」

京太郎「ですよねぇ」

憩「んーっ」ノビーッ

憩「はぁ……もうこんな時間かぁ」

憩「京太郎くん、この後予定とかあるん?」

京太郎「特にないですね、憩さんは?」

憩「ウチは勉強、息抜きに麻雀や」

京太郎「うわぁ、大変そうだ」

憩「楽しいと思えばそうでもないんやで?」

憩「図書館におるから、京太郎くんも暇やったら来てなーぁ」

京太郎「はい、気が向いたら!」








京太郎「暇だー」ゴロゴロ

京太郎「あれ?いつも暇だったら暇が普通になって暇であることが暇でなくなるんじゃないか?」

京太郎「そうなったら暇って一体どうなるんだ?どんだけ暇になるんだ?」

京太郎「…………」

京太郎「そういや憩さんが図書館にいるっつってたな……」

京太郎「行ってみよう」



京太郎「どうも、憩さん」

憩「きゃっ!……なんや、京太郎くんかぁ」

京太郎「誘われたんで、来ちゃいました」

憩「集中しとったんやから、びっくりさせんといてなぁ」

京太郎「はい、気を付けますね」

憩「そんで、京太郎くんはどこ悩んでるんや?」

京太郎「えーっと……この辺りですかね?」




憩「せやから、ここはこーやって……」

京太郎(憩さんが隣で懇切丁寧に教えてくれてるけど、暖房が気持ち良くて、憩さんの声が耳に優しくて……)

京太郎(……あー…………やばい……)ガクッ

憩「こーすれば……ほら、完成やで」

京太郎「くこー……」Zzz

憩「京太郎くん?」

京太郎「…………」Zzz

憩「教え方悪かったんかな?……それやったら凹むなぁ」

憩「京太郎くーん?」

京太郎「…………」Zzz

憩(ちょうどペンもあるし、落書きしたろ)

憩(二人っきりの時間を無駄にした罰や)カキカキ

京太郎「くー……」Zzz

京太郎「んあ……」

憩「……」スラスラ

京太郎「あ……おはようございます」

憩「あ、やっと起きた……ブフッ」

京太郎「え!なんで吹き出してんですか!」

憩「だ、だって、ふふっ」

京太郎「何なんすかもー!」



―――トイレ

京太郎「……」

京太郎「額に肉ってどんだけ幼稚なんだよ」

京太郎「しかも水性ペンってあたりも優しいよな……」

京太郎「これは何か仕返しをしないとな」

京太郎「これに見合うくらいの仕返しを……」




京太郎「憩さん♪」トントン

憩「何や?」プイッ プニッ

京太郎「ははっ、引っかかりましたね?」プニプニ

憩「懐かしいなぁ、それ」

京太郎「お返しですよ」

憩「あ、どうやった?ウチのいたずら、恥ずかしかったやろ?」ワクワク

京太郎(恥ずかしいというより可愛かった……ってのは無しだよな)

京太郎「もう、勘弁してくださいよ?」

憩「京太郎くんが寝るから悪いんやでー」

京太郎「そりゃあ確かにそうでしょうけど……」

憩「さ、もう少し頑張ろか」

京太郎「はい!今度こそは寝ませんよ!」

憩「あはは、頼もしいやら頼もしくないやらようわからんなぁ」







京太郎「今日は散歩行って、朝飯食べて、昼飯食べて、憩さんと勉強して、晩飯食って風呂入ったのか」

京太郎「勉強したこと以外いつもと変わんないなぁ……」

京太郎「まあ一昨日とか合宿行ってたし、バランスが取れてるとは思えるな」

京太郎「寝る前に誰かにメールしよう、暇つぶしだ」

京太郎「暇そうな人……っと」

京太郎「……怜さんなら暇そうだな」

京太郎『今暇ですかー?』

京太郎「……よし」ピッ



ヴーッ ヴーッ

怜『なんやいきなり、まあ暇やけど』

京太郎『やっぱりそうでしたか、予想どおりでした』ピッ

怜『京くんはうちが冬休みに何も予定無しの可哀想な子やと思ってんのか
  なんや傷つくなぁ』

京太郎『そういうつもりじゃなくてですね!暇な怜さんなら俺の暇つぶしにも付き合ってくれるんじゃないかな、と』ピッ

怜『はいはい、夜は暇な怜ちゃんですよー
  …こう言うといやらしいな』

京太郎『怜さんは冬休みの予定、何かあるんですか?』ピッ

怜『昨日はセーラと買い物行って、今日はりゅーかと服買いに行ってたで
  明日は二日遊んだから一日中ダラダラして、明後日は一日ダラダラしたからもう一日ダラダラするんや
  明々後日もダラダラするつもりやで』

京太郎『ダラダラばっかじゃないっすか』ピッ

怜『しゃあないやろ、去年までは休みになったら検査入院とかして友だちの誘い断ってばっかやったんやから
  この前やって「園城寺さん…は病院があるから駄目やろ?ごめんな」って言われたし…』

京太郎『なんかすみません』ピッ

怜『ええんやけど、りゅーかとセーラが両方とも旅行に行ったときは寂しかったなぁ
  京くんの方はどうなん?』

京太郎『俺は去年までは咲とモモと遊んでたんですけど、確かに誰もいないときは寂しかったですね
     最近は用事なんてないですよ』

怜『そーか、うちら暇人同士なんやなー』

京太郎「うっ、認めたくはないけどその通りだ……」

京太郎「どう返そうかな」




京太郎「待てよ?怜さんくらいの人だったら学年選抜に選ばれてるんじゃないか?」

京太郎「だったら一緒に麻雀とか良さそうだな」

京太郎『俺と一緒に麻雀の練習しましょう』ピッ

怜『それやったらいつかの千里山に来る権利を行使させてもらうわ
  うちはいつでもええけど、京くんはいつ来れるんや?』

京太郎「明日……かな?でも朝はゆっくりしたいから昼間くらいに……」

京太郎『えっと、明日の午後からなら大丈夫です』ピッ

怜『予想できたわ、昼まで寝てるつもりやろ?』

京太郎『怜さんじゃないんですからそんなことしませんよ(笑)』ピッ

怜『残念ながら、うちの休日は午前9時起きなんやで』

京太郎『俺の怜さんのイメージが……』ピッ

怜『うちはどんなイメージなんや、逆に気になるわ』

京太郎『そのうち教えてあげますよ、今日は明日に備えて寝ましょうか』ピッ

怜『せやな、楽しかったで、おやすみー』

京太郎『おやすみなさーい』ピッ

京太郎「さーてと、さっさと寝ますかね……」

ヴーッ ヴーッ

京太郎「メール?誰からだ?」






智葉『須賀、起きているか?』

京太郎「辻垣内さん?」

ヴーッ

智葉『起きていないよな、こんな時間にすまなかった』

京太郎「何やら困っている雰囲気かな?とりあえず返そう」

京太郎『どうしたんですか?』ピッ

智葉『実はだな……』




智葉『監督が須賀成分が不足しているとうるさいんだ』

京太郎『須賀成分?』ピッ

智葉『監督曰く須賀の匂い、声、触感のいずれかを味わった時に得られる栄養のようなものらしい』

京太郎『何すかそれ…、俺にどうしろと言うんですか?』

智葉『ちょっと抱いてやって落ち着かせてやれないか?』

京太郎『距離的に無理があるじゃないですか』ピッ

京太郎(それに「抱く」って……)

智葉『冗談だ、5分後にそっちに電話をかけるから、下に書いてあるセリフを言ってくれればいい』

京太郎「えっと……「月が綺麗ですね、カントク」「毎朝俺に味噌汁を作ってください」「ずっと君を隣で見ていたい」」

京太郎「「ずっと離さないよ」「ねえ、ずっと一緒にいるって言いましたよね?」「貴女がいけないんです、俺の、俺の傍にいてくれなかったから……っ!」……?」

京太郎「なんかおかしくないかこれ?」







智葉『助かったよ、監督も満足している』

京太郎『お役にたてて良かったです。でも俺なんかの声で良かったんでしょうか?』ピッ

智葉『君の声は男らしくて快い気分になるんだ。今日は安眠できそうだよ』

京太郎「……あれ?」

京太郎『それはよかったです、他に何か用事はありますか?』ピッ

智葉『十分だ、おやすみ』

京太郎『おやすみなさい』ピッ

京太郎「今日は安眠できそうだ……って監督さんのことだよな?」

京太郎「……そうだよな?」




『ずっと離さないよ』

『ねえ、ずっと一緒にいるって言いましたよね?』

『貴女がいけないんです、俺の、俺の傍にいてくれなかったから……っ!』

『……ようやく、本当に貴女と一緒になれる』

『ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとZUTTOォ!』

智葉「……ふふっ」

智葉「これでよく眠れる……」


「お、お嬢が笑顔で眠っていらっしゃる……」ザワザワ

「お前ら、絶対に邪魔すんじゃねえぞ」ザワザワ

「一体何を聞いてるんでしょうか……」ザワザワ






【冬休み8日目】終







【冬休み9日目】


京太郎「あと二日で交流戦か、オーダーは明日提出でいいんだよな」

京太郎「そこも考えつつ、今日は怜さんと麻雀だ!」




京太郎「健康志向な俺は朝の散歩に行きましょうかね~」

京太郎「どうせやることないし……」





京太郎「クーリスマスが今年もやってくるー」

憩「京太郎くーん!」

京太郎「あっ、憩さーん!」

タッタッ

憩「京太郎くんは今日も散歩?」

京太郎「はい、憩さんもですか?」

憩「せやで、今日も会うなんて奇遇やねー」

京太郎「実を言うと、今日も憩さんに会えるんじゃないかな、と思ってここ通ったんですよ」

憩「ウチも同じやで、えへへ」

京太郎「ははっ、なんかお互い通じ合ってるって感じっすね」

憩「せやねー、以心伝心ってやつやろか?」

京太郎「それなら俺たち夫婦になれますねー」

憩「……へ?」

京太郎「……あー……」

京太郎「いや、そんな変な意味は無くて、ほんの冗談のつもりだったんです」

京太郎「……すみません」

憩「ええよ、気にしいひんさかい謝らんでも」

憩「京太郎くんと結婚っていうの、楽しそうやね」

憩「毎日笑顔で幸せにできそうや」

京太郎「じゃあ、俺たち結婚します?」

憩「……それができたらええんやけどな」

京太郎「え?」

憩「なんで……ウチは……」ウツムキ

京太郎(冗談なのになんでこんな暗い雰囲気になってんだ?地雷踏んじゃった?さっきまで笑い合ってたよな?)

憩「……ごめん、もうウチ帰るわ」ダッ

京太郎「えっ、憩さん!?」

京太郎「…………」

京太郎「何だったんだろう、あれ」







京太郎「今日は他の人の部屋に遊びに行こう」

京太郎「誰か部屋にいるかなー?」

京太郎「……あれ?」




京太郎「何か忘れてるよーな……」ポクポク

京太郎「あっ!」チーン

京太郎「怜さんとの練習忘れてた!」

京太郎「やっべーよ何やってんだよ俺!」

京太郎「早くいかねえと!」




――校門前


怜「はぁー」コシコシ

怜(京くん、まだやろか)

怜(このままやと凍え死にしそうや……)ブルブル

京太郎「おーい、怜さーん!」ブンブン

京太郎「はぁ、はぁ、すんません、遅れました」

京太郎「ひょっとして、待っててくれたんですか?」

怜「いや、偶然や、偶然」

怜「京くんのことなんか待ってへんもん」

京太郎「そんなに指赤くして何言ってんですか、怜さんは病弱なんですから無理しないでくださいよ」

怜「無理なんてしてへんわ、ほないくで」

ギュッ

怜「ちょっ、なんで手ぇ繋いどるんや」

京太郎「差し出がましいですけど、そんな手は放っておけないですから、せめて片手だけでも」

怜「……好きにすればええやろ」プイッ

京太郎「はい、それじゃあ行きましょうか」




怜「ほんで、何するん?」

京太郎「怜さんと特訓に決まってるじゃないっすか!」

怜「ふーん……そっか」

怜「特訓いうても京くんが強くなるとこもうないやん」

京太郎「ところがどっこい、最近本を読んで身に付けた業があるんすよ!」

怜「本読んだだけでわかるなんてえらい軽いな」

京太郎「まあまあそう言わずに」




京太郎「そういえば、怜さんはどうして麻雀を始めたんですか?」

怜「きっかけ?」

京太郎「はい」

怜「ん……確か小学生の頃に、隣のベッドで寝とったおじいちゃんに教えてもろたんや」

怜「そっからセーラと竜華に教えて、三麻してばっかやったわ」

京太郎「そうだったんすか」

怜「結局、後の二人の方が上手なってわたしは置いてけぼりなんやったんけどな」

怜「京くんの方はどうやったんや?」

京太郎「俺は照と咲の家に行ったときに教えてもらいましたね」

京太郎「最初はカモにされっぱなしでしたよ」

怜「そっかぁ、懐かしいなぁ」

怜「最初の時のまま、ずっと楽しく打ってたいわ」

京太郎「ずっと楽しく、ですか」

京太郎「どうやったらそんなことができるんでしょうか」

京太郎「どっかで俺たちは勝利に執着しちゃって、勝てないとつまんなくって麻雀を嫌になる」

京太郎「そういうの、俺は嫌なんですよね」

怜「……せやったら、京くんが楽しく打てばええんやないの?」

京太郎「俺だけでですか?」

怜「人のプレイスタイルってな、意外に伝わるものがあるねん」

怜「この人頑張ってるんやなーとか、この人麻雀好きやないんやなーとか」

怜「京くんだけでもそうやって打ってれば、きっと誰かが気づいてくれるはずや」

怜「多分、対局しとったらもっとわかりやすいはずやで」

怜「ほら、一遍笑ってみぃ」

京太郎「こうですか?」ニコッ

怜「うん、振り込むのも負けるのも全部麻雀なんやから、そのまま明るく笑ってれば、楽しいやろ?」

京太郎「なるほど、なんか掴めた気がします!」




京太郎「集中したから疲れました……」グダー

怜「わたしもー」グデー

怜「京くーん、何しよかー」ムニムニ

京太郎「俺に聞かないでくださいよー」ムニムニ

怜「やっぱり時間持て余すなー、あと京くんのほっぺやわらかいなー」ムニー

京太郎「怜さんの方こそ柔らかいじゃないっすかー」ムニー

怜「暇やなー」






怜「こほっ、こほっ」

京太郎「大丈夫ですか?」

怜「ただの咳やから大丈夫や」

京太郎「そっすか……!」ピコーン

京太郎「いかん、いかんよ園城寺くん」

怜「なんやいきなり」

京太郎「これは、あれだ、須賀病院の院長である私、須賀京太郎が診てあげよう」

怜「はぁ、ほなお願いします」

京太郎「お任せあれ!」



京太郎「で、症状は如何様に?」

怜「咳と鼻水とダルいですね」

京太郎「そうですか、じゃあまずは触診で」

怜「なんでその症状で触診するんや……」

京太郎「えっと、熱は無いみたいですね」ピトッ

怜(首筋か……それ触診言わんやろ)

京太郎「じゃあ次は口開けてくださいね」

怜「あー」

京太郎「さてと、次の人のカルテは……」

怜「あー……」プルプル

京太郎「眼鏡眼鏡……」

怜「……」イライラ

京太郎「あっ、今日はコンタクトだった!」

怜「ちゃんと見んかい!」

京太郎「やだなー、放置プレイなんてするわけないじゃないですかー」

京太郎「次は心臓の音とか聞いていきますねー」

怜「結局見てへんやないか!」ビシッ

京太郎「ほら、早く服めくってくださいよ」ニヤニヤ

怜(この医者腹立つなぁ、セクハラ根性丸出しやん、って、京くんやったわ)

京太郎「さあ早く!ハリー!ハリー!」

怜(面倒くさいけど、大阪のノリの良さも見せへんと……それに、京くんやったら、服の下やって……)カァァ

京太郎「ハリー!ハリーアァァ「シャラァァァァァップ!」!」

ゲシッ

京太郎「そげぶっ」

怜「あ、死んだ」

竜華「大丈夫やった、怜?」

怜「見とったんなら途中から止めてぇな」

竜華「そ、それはちょっと……」

竜華(服捲るかどうか迷って顔赤くしとった怜が見たくて助けへんかったんやで……)

竜華「で、この下衆はどないしよか」

怜「そこに座らせたまんまでええよ」

竜華「ん、わかったわ、よいしょ」

怜「ほな私寝るから~」グデー

京太郎「」ピクピクッ

竜華「怜、ちゃんと練習せなあかんで」

怜「わかってるから、竜華はセーラたちと打ってきぃ」

竜華「もう、後でこっち来るんやで」

怜「はーい」



怜「……はぁ」

怜「今日も疲れたなぁ」ムニッ

京太郎「」ピクピク

怜「誰のせいやと思ってるんやー?」ムニー

京太郎「ふご……」

怜「ふふっ」

怜「今日はこのまんまごろごろしてるだけでええわ……」






キーンコーンカーンコーン

怜「京くーん、部活終わったでー」

京太郎「んあ……はっ!俺は今まで何を!?」

怜「ずっとピクピクいうとったわ」

京太郎「……あれ?部員の皆さんは?」

怜「みんな帰ったで、もう後片付けも牌の掃除もしたで」

京太郎「じゃあ俺って凄く邪魔だったんじゃ……」

怜「うん、その通りやで」

京太郎「くっ、屈辱……っ!」

怜「残ってるの私らだけやさかい、はよ出よか」

京太郎「はーい、そうっすねー」



怜「鍵返してきたでー」

京太郎「はい、靴」

怜「おおきにー……んしょ」

京太郎「んじゃ、行きましょうか」

怜「ちょっと待ちぃ」ギュッ

怜「……うん、温かいな」

京太郎「えっ、いや……帰りもそうするんですか?」

怜「行きにしたんはどこの誰やったやろな~」

京太郎「そりゃそうっすけど……」

怜「ほな帰ろか」グイッ

京太郎「あーもう待ってくださいよー!」

怜「遅いでー男の子のくせに~」

怜(手だけやなくて顔も胸も熱いわ)

怜(これは新発見でええんやけど、京くんにこんな顔見せられへんやん)カァァ

京太郎「歩くの速いっすよー!」







京太郎「俺には、明後日に負けられない戦いがあるんだ」

京太郎「今日の内に邪念を断っておこう」



京太郎「まずは……今朝会った憩さんにしようかな」

京太郎「シチュエーションは……そう、俺が入院して看護婦の憩さんが夜に俺の部屋を訪ねてきたとしよう」

京太郎「そして憩さんは俺にご奉仕を……」




―――一時間後


京太郎「駄目だ、あの笑顔の罪悪感からか全然出ねえ……」

京太郎「憩さんは諦めよう、次は……」

京太郎「怜さんにしてみるか」

京太郎「シチュエーションは……今度は逆に医者になった俺を頼ってきた怜さんに、俺は座薬を注入しようとして……」



―――一時間後


京太郎「……ふぅ」

京太郎「満足だ、実に満足だ」

京太郎「風呂入って寝よ」





【冬休み9日目】終










【冬休み10日目】 ※大会までの休日最終日


京太郎「明日だってえのにもう緊張するぜ」

京太郎「ハッスルのおかげで目覚めもいいし、朝から頑張るぜ!」




京太郎「今日も千里山の様子を見に行こう」

京太郎「昨日も得られるものはあったからな」



京太郎「というわけで今日もよろしくです!」

浩子「ほーん、あっそ」

京太郎「何すかその素っ気ないリアクション!」

浩子「この寒い中迎えに行かされる身になってみぃ、ほんま邪魔やわ」

京太郎「」グサッ




京太郎「今日は対局をするぞ!」

京太郎「空いてる卓は……っと」



雅枝「おう、京太郎、ええ所に来たな」

竜華「ウチらと打とー!」

怜「勝たせへんで」メラメラ

京太郎「ふっ、上等です!俺は負けませんから!」



京太郎 22+200+55=277
竜華 76+140+25-30=211
雅枝 71+200+90+30=391
怜 62+124+45+15=246



雅枝「……」コォォォォオオオ

京太郎「何も、できなかった……」

怜「ま、監督が本気になればこんなもんやな」フフン

京太郎「-収支なのになんでそんな得意気なんですか」

怜「諦めはつけるもんなんやでー」

京太郎「また飄々と……竜華さんも何か言ってやってくださいよ」

竜華「…………」ズーン

京太郎(これが正常なリアクションだった!)

京太郎「竜華さん?大丈夫ですか?」

竜華「……うん」

怜「竜華ああ見えて真面目やから、練習とは言うても人一倍ショック受けとるんや」ヒソヒソ

京太郎「ああ見えてっていうか見たまんまじゃないっすか、どうするんすか」ヒソヒソ

怜「二人で何かして励ますくらいしかでけへんやろなぁ」ヒソヒソ

京太郎「それじゃあ……」ヒソヒソ

雅枝(何話しとるんやろ……)

竜華(おなかすいた……)



京太郎「あははっ!それ最高にスベらないっすよ!」

怜「せやろー流石やろー」

竜華「」グー

竜華「」カァァ

雅枝(何話しとるんやろ……)

竜華(あかん……あの二人がずっと話しとるから席から離れられへん)

竜華(泉が持ってきてくれたお茶菓子、食べたいなぁ)ソワソワ

京太郎「そうだ、俺お茶入れてきますね」

怜「行ってきー」

竜華(もう、なんで怜も一緒に行かないんや!)

京太郎「入れてきましたー」

怜竜雅「「「はやっ!」」」

京太郎「お茶菓子もあったんで、持ってきました、はい」

怜「おおきにー」

雅枝「すまんな」

竜華「……ありがと」

竜華(一個だけか……)

京太郎「あ……でも俺部外者だから食べちゃダメか」

京太郎「戻してくるのもアレなんで、竜華さん食べてください」

竜華「ええの……?」

京太郎「そのために取って来たので」

竜華「えっ」

京太郎「そうそう!そこで俺の友だちがですね!」

怜「いや、京くん友だちいないやん」

京太郎「一応いますから!」

竜華(ウチ、今京くんに気ぃ使われたんか……?)







怜「ほな私セーラんとこ行ってくるなー」

京太郎「はーい」

雅枝「私も抜けるわ」ガタッ

京太郎「はーい」

竜華「…………」モグモグ

京太郎「おいしいですか、お茶菓子」

竜華「うん……」モグモグ

京太郎「そっすか」

京太郎「……」

竜華「……」モグモグ

京太郎(この沈黙は竜華さんの行儀がいいから仕方ないんだ、俺に落ち度があるわけじゃない)

京太郎(……あんな腹の音出してたら誰でも気づくもんな)

京太郎(ひょっとして竜華さんが喋らないのは恥ずかしいから?)

京太郎(そうだとしたら嬉しい気がする……あくまで妄想だけど)

京太郎「竜華さんは大会の前の予定とかあるんですか?」

竜華「予定?」ゴックン

竜華「特にないけど、それがどうしたん?」

京太郎「いえ、最近怜さんが暇だ暇だ言ってるんで試合のない時間に一緒に出掛けたりとかすればどうかな、と」

竜華「へ?怜ならいつも遊び誘ったら」

怜『あー行けたら行くなー』

竜華「って」

京太郎(それいっつも来ないやつの常套句だろうが!)

京太郎「その割には本人寂しがってるみたいですけど」

竜華「せやったらウチら三人で出かけよか?」

京太郎「三人?竜華さんと怜さんと江口さんですか、いいんじゃないでしょうか」

竜華「ちゃうちゃう、ウチと怜と京くんや」

京太郎「えぇぇ……」

京太郎(試合前に女の子二人と出かける選手ってどうなんだ?)

京太郎(天国だからその話はぜひともお受けしたいけど……)


京太郎「是非行かせてください!」

竜華「うん、ええ返事やな」

竜華「試合は15時から4試合やから……いつまで遊ぼか」

京太郎「えっと、じゃあ……」

京太郎「じゃあ明日の朝だけ遊んで、昼間は各自自由ってことでいいんじゃないですか?」

竜華「せやね、それがええわ」

竜華「怜には後で伝えておくとして……あ、京くん連れてきたいことかおる?」

竜華「流石にセーラに悪い気がするから京くんもそんな子がおったら連れてきてな」

京太郎「考えておきますよ」

セーラ「竜華ぁー、こっちで打とー!」

竜華「わかったわー!」

竜華「ほなウチ行くわ、京くんもサボってへんでしっかり頑張ってな」

京太郎「はーい」





京太郎(ここ最近、憩さんと朝から喋って、勉強も教えてもらった)

京太郎(だけど、あの人はあのアパートにはいない)

京太郎(……そういや、憩さんの部屋って入ったことあったっけ)

ピンポーン

京太郎「須賀京太郎です!」

京太郎(憩さんを連れ戻して、憩さんの部屋に遊びに行こう)

『なんで……ウチは……』

京太郎(あんな表情はさせたくない)

「入りたまえ」

ギィィィィ

京太郎(憩さんには、笑っていてほしいんだ)

京太郎(……事情を知らないと何が何だかよくわかんないんだけどな)



京太郎(今日も憩さんのお父さんと話そう)

京太郎(前回来たときは仕事で話せなくて、その前は……)

『ここから先は私たち家族の話なんでね』

京太郎(って言ってたよな)

京太郎(今回こそはちゃんとその事情を聞かなきゃいけないんだ)



荒川父「よく来たね須賀君、この前もここに来てくれたらしいじゃないか」

荒川父「相手ができなくて残念だったよ」

京太郎「今日は予定が空いてたみたいでよかったです」

荒川父「明日が娘の最後の晴れ舞台だからね、今日から休日なんだ」

京太郎「最後?」

荒川父「立ち話も難だ、座りたまえ」

荒川父「今日はほうじ茶を入れてある、お茶請けのまんじゅうもおいしいから食べてみるといい」

荒川父「……さて、今日は何を話しに来たんだい?」


京太郎「憩さんのこと、あなたの言う「家族の話」について教えてください」

荒川父「家族の話……ああ、君はそんな言葉の節々まで覚えているのか」

荒川父「だが、それを知って君はどうする、君にはどうにもできない話なんだ」

京太郎「話を聞かずにそんな判断を下せるほど、俺は臆病じゃないんですよ」

荒川父「はっはっは、そうか、うむ、それでは話すとしよう」

荒川父「この荒川家が病院を持っているのは知っているね?」

京太郎「そして三箇牧高校の設立にも支援をしたってことまでは知っています」

荒川父「それは……ああ、石戸先生が話してくれたんだね」

荒川父「私の病院は大規模で、自分で言うのはどうかと思うが、地域の信頼も厚い」

荒川父「この病院をさらにいい病院へと成長させたい、と私は常々思っているんだが、その一環として、やはり若い力を取り入れたいと思っているんだ」

荒川父「若さというものは素晴らしい、将来があって、我々よりも大きな可能性を秘めている」

荒川父「だが、私は病気を患っていてね、そう長くは持たないんだ」

荒川父「だからまずは若い跡継ぎが欲しいと思ったんだ」

荒川父「新しい世代が新しい医療を育んでいく、いい響きだろう?」

荒川父「そこで、私は懇意にしてもらっている先生の息子と憩を婚約させることにしたんだ」

京太郎「婚約……!?」

荒川父「もちろん婿養子として彼を迎えるんだ、こちらがちゃんとしていなくては釣り合わないだろう」

京太郎「それで、憩さんを清々荘から連れ戻した、って言うんですか」

荒川父「そうだ、そして明日の大会が終わった後、憩には麻雀から手を引いてもらう」

荒川父「正確には麻雀部を辞める、だがね」

荒川父「これが私たちの話だ」

京太郎「……憩さんは、それに納得しているんですか」

荒川父「憩と彼は私たちの付き合いでよく遊んだりしていてね、知り合ってまだ一年の君よりも多く、お互いについて知っている」

荒川父「だからだろうね、利口な憩は納得してくれたよ」

京太郎「なっ……」

荒川父「君が彼の代わりになるというなら話は別だけどね、そこまでの覚悟はないだろう」

京太郎「…………」

京太郎(憩さんが婚約して、麻雀部をやめる……?)

京太郎(……なんだよ、それ)

京太郎(確かに俺じゃああんな病院を継げるほどの医者になれるかどうかなんて不可能に近い)

京太郎(俺は憩さんを放っておくことしかできないのかよ……)

荒川父「話は済んだね」

京太郎「憩さんと話させてください」

荒川父「よかろう、おい」

秘書「はい」

荒川父「須賀君を憩の部屋に案内しろ」

秘書「かしこまりました」




京太郎「……はぁ」

秘書「貴方、どうするつもりなの?」

京太郎「あんなの親のエゴじゃないっすか、憩さんを道具みたいに扱って」

京太郎「俺は、憩さんを救いたいですけど、それがどうやったらできるのかわからないんですよ」

秘書「男ならシャキっとしなさい」

秘書「まだ可能性はあるんだから、頑張りなさい」

秘書「この先にお嬢様がいるわ、何を話すかは貴方の自由よ」

秘書「それじゃ、また後でね~」フリフリ



コンコン

京太郎「憩さん、俺です、京太郎です」

ガララ

憩「聞いてるで、入ってええよ」

京太郎「お邪魔します」

憩「京太郎くんがウチの部屋におるって変な感じやなー」

憩「で、何しよか?」

京太郎「……俺、話があって来たんです」

憩「話?」

京太郎「……はい」

京太郎「憩さんの話、お父さんに聞きました」

憩「ウチの話?」

京太郎「憩さんが、婚約させられるって」

憩「ああ……聞いてもうたんか」

京太郎「憩さんは、その婚約に納得してるんですか?」

憩「納得は……してるで」

憩「お父さんのためになるんやったら、ウチは構わへん」

憩「ウチは荒川家の娘やから、しょうがないんよ」

京太郎「…………」

京太郎「憩さんの気持ちはどうなんですか」

京太郎「親に良いように使われて、麻雀部に来れなくなっても、それでもいいのかって聞いてるんですよ」

憩「それ、は……」ポロッ

憩「うっ……うぅ……」ポロポロ

憩「まだ、麻雀、打ちたい」ポロポロ

憩「みんな、ぐずっ、と、いたい……」ポロポロ

京太郎「…………」

京太郎「嫌なら嫌だ、ってお父さんに言いに行きましょう」

京太郎「俺が付いていますから」サスサス

憩「うぅ……」ポロポロ

京太郎(憩さんが納得してるならって思ったけど、こんなの許してたまるか)

京太郎(……どうにかして阻止してやる)

憩「……もう、大丈夫やで」

京太郎「憩さんはどうしたいんですか?」

憩「ウチは……まだやりたいことがあるんや」

憩「……せやから、あの話はお断りしたい」

京太郎「それで十分です、それじゃあ行きましょうか」

憩「……うん」

憩「京太郎くんも、傍にいてくれるんやろ?」

京太郎「俺もそんな話は許せませんからね」

憩「おおきに」

京太郎「お礼はまだ早いですよ」

憩「これは先払いになるから、大丈夫や」ニコッ




秘書「お嬢様と須賀様をお連れ致しました」

荒川父「入りたまえ」

京太郎「失礼します」

荒川父「……それで、今度は憩を引き連れて何の話かな」

憩「えっとな……その……」

京太郎(何だこれ、さっきよりもはるかに緊張するぞ)

京太郎(気張って来たのに、何も考えつかねえじゃねえか)

京太郎(憩さんも言葉がつかえてるし、ここはサポートするべきなのか?)









京太郎「……憩さん」ボソッ

京太郎「俺がフォローしますから、憩さんは憩さんの考えを言ってください」ボソボソ

憩「……うん」

京太郎「憩さんなら大丈夫ですよ、もっと自信を持ってください」ボソッ

憩「……せやね」

憩「お父さん……ウチ」

憩「……ウチな、婚約の話、無かったことにしてほしいんや」

荒川父「ほう、なるほどね」ジロッ

京太郎「!」ビクッ

荒川父「それは一体なぜだ?」

憩「そ、それは……」

京太郎「憩さんから、麻雀を奪わないでください」

憩「!」

憩「ウチには、まだしたいことがあるんや」

憩「清々荘のみんなで楽しくパーティーやって笑いたい」

憩「クラスの友だちと話しながら学校に行きたい」

憩「お昼ご飯やって、この家で貰った弁当より、友達と購買とか学食で買ったのとか、自分で作ったんが食べたい」

憩「放課後も、京太郎くんたちと仲良く麻雀打ちたい」

憩「清々荘のみんなとパーティーして、他愛もない話して笑いたい」

憩「まだ自由でいたいんや」

荒川父「……ふむ、自由、か」

荒川父「ならば、高校生活はお前の言う自由にさせてやろう」

荒川父「清々荘に戻ってもいいし、弁当も家では作らない、送り迎えもしない」

京太郎(案外早く引き下がったな……)

荒川父「だが、高校を卒業した後、結婚をしてもらう」

荒川父「これでいいだろう?」

荒川父「私は憩、お前の主張通り自由を与えた」

荒川父「ならばそれで解決だ」

憩「…………っ」

京太郎(どんだけ意固地なんだよ)

京太郎(なんでそんなに憩さんを縛りたいんだよ……)

憩(そんなん、自由やないやん)

憩(人を好きになったって、そんなん……)

京太郎(……ここは、どうすればいいんだ)








京太郎(俺が頑張らないとどうする)

京太郎(このまま譲ってたまるかよ)

京太郎「……それは違う、と思います」

荒川父「ふむ、言ってみたまえ」

京太郎「……憩さんは、貴方に作られる未来が嫌なんです」

京太郎「最初は医者になれって言われて、次は親が決めた相手と結婚しろって言われて、与えられたのがたった三年の高校生活だけなんておかしいですよ」

京太郎「親の言いなりにされて、自由の無い未来を据えた今の自由の何に意味があるんですか」

憩「…………」

荒川父「やはり君は、憩を取り戻したいようだねぇ」

京太郎「大事な人が嫌な目に遭っているのに、放っていられるわけがないじゃないですか」

憩「え……」

荒川父「……はぁ」

荒川父「ならば、君は憩のために何ができるんだ?」

京太郎「それは……」



京太郎「…………ふふっ」

京太郎「簡単な事だ…」

京太郎「俺が憩さんのことを幸せにするッ!!!」

京太郎「これが、俺のできることです!」

荒川父「この状況でふざけられるとは、君は大胆な男だな」

荒川父「……では、君が憩のためにどこまで動けるかを見せてもらおうか」

荒川父「私の出す課題をこなせば、君を認めて、その意見を認めよう」

荒川父「そのバカげた精神で何もできるわけがないだろうがな」

京太郎「課題?」

荒川父「ああ、勝負内容は……君の得意分野でいいだろう」

荒川父「こちらへ来たまえ」



荒川父「この部屋だ」

京太郎「失礼します……」

憩「こんな部屋あったんや……」

京太郎「……パソコンが置いてあるだけですが、ここで何を?」

荒川父「君には憩と打ってもらう」

京太郎「憩さんと?」

荒川父「MAOというネット麻雀ゲームを知っているな?」

京太郎「ええ、やったことはありますから」

荒川父「そこで、憩を忠実に再現したCPU二体、そして本物の憩と打ってもらう」

荒川父「君が一度でもトップを取れば、憩の婚約は破棄し、君は宣言通り憩を幸せにするために生きる」

荒川父「どうだ、簡単だろう?」

京太郎「そんなゲームで娘の将来をどうこうしようとするなんて、どうかしてますよ」

荒川父「…………ああ、何とでも言うがいいさ」

荒川父「最後に一応確認しておこう、君はこの課題に挑戦するか?」



京太郎「はい、絶対に勝ってみせます」

荒川父「まあ精々頑張りたまえ」

京太郎「では、行きましょうか」

憩「うん!」