さて、オーラスが終わったのだが一つ問題がある。

一つ目は大沼プロが入ったことによる急遽変更された半荘戦。

本来なら半荘二回か全荘一回なのだけど大沼プロがご高齢なので短めになったことを留意してほしい。

そして現在の各家の点数はこうだ。

咲ちゃんは20700点。
三尋木プロが29300点。
大沼プロが22200点。
京太郎君が27800点。

全員三万点に満たないのだ。

この場合本来なら西入するかどうか決めておくべき何だろうけど突然のルール変更だったので確認してなかった。

不安に思ったこーこちゃんが小声で話しかけてくる。


「ねぇすこやん、これ西入でいいの?」


「実は聞いてないんだよね。」


「げっ、どうすんの……」


そんなときに内線が掛かってきた。

こーこちゃんがとって応対する。

あれ? こーこちゃんが思ったより丁寧に応対している。

失礼と無神経が服を着ているようなもんだと思っていたのに珍しい。

やがてこーこちゃんが内線を切ると話を切り出した。





「すこやん、全員の許可が取れれば西入しても良いって局のお偉いさんが!」


なるほど、上司だから丁寧な対応だったのね。

事情はわかったので審判を通して対局者達に伝えてもらった。

対局室で京太郎君が三尋木プロに問いかける。


「どうします? 三尋木プロが現状トップなんで聞いておきたいんですけど。」


「その言い方だとまるであたしのトップが棚ぼたみたいに聞こえんだけど。」


「実際そうだろう。」

「儂が坊主を撃ち落さなかったら和了られていたな。」


大沼プロの言に三尋木プロは懐から出した扇子を広げて口元を隠して言う。

口は隠れているがその瞳は不適に笑っている。


「くく……気に食わないねぃ、爺さん。」

「いいぜぃ、西入しようじゃないか。」

「というか元よりそのつもりだっつーの。」


「いいんですか? 今のまま終わらせたら三尋木プロのトップですよ?」


「わっかんねーなー、だってエキシビジョンだぜ?」

「この試合、ここで終わらせるのはもったいないだろ?」


「そうだよ京ちゃん。」


「それになんでかわっかんねーけどさぁ……」

「あんたと打つとあたしの方まで熱くなっちゃうんだよねぃ。」


「話は纏った様だな。」


大沼プロがぼそりと言った言葉を皮切りに三尋木プロと京太郎君が吼える。




      西入
「「さぁ、延長戦と行こうか!」」




二人と一緒に吼えはしなかったけども咲ちゃんもやる気満々と言ったところか。

大沼プロも少しはやる気を出したのだろうか?

微かに上がった口角に、昔見た大沼プロの面影を見た気がした。









西一局。

所謂ネト麻の西入サドンデスとは違って雀荘などでは一度西入すると西場が終わるまで対局は終わらない。

誰かがトぶか、もしくは西場が終わったときに三万点を越している者がいれば終われる。

巡目進むにつれ配牌から手牌に加えられるツモ牌まで違和感を感じる。

先ほど撃ち落された時の失速が響いたのか京太郎君の手は伸びていなかった。

それに今まで猛り狂ったように逆巻いていた炎が弱まっているようにも見える。

そこに追い討ちを掛けるように三尋木プロは攻撃をする。

このチャンスを見逃すほど甘くは無いってことだろう。


「そいつだ。」

「ロン、8000じゃね?」


この段階での8000点の失点はかなり痛い。

更に言うなら三尋木プロがトップの状況なのにそこへ点棒を与えるのはかなりまずい。

このまま行けば点差は開く一方だ。

こーこちゃんが小声で問いかけてくる。


「ねぇねぇすこやん、あの子達大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。」

「私が骨の髄まであの子に技術を叩き込んできた。」

「それはしっかりとした背骨となってあの子を支えてくれる。」

「大丈夫、あの子は負けない。」


とは言え苦しいのは事実。

それでもあの二人は諦めていないだろう。










「カン。」

「カン。」

「ツモ、1300・2600です。」


私の予言に応えるかのように西二局を制したのは咲ちゃんだった。

2飜80符という普通に和了った方が楽な和了り方だと思える点数を和了る。

というよりは点数が低いから槓して無理矢理上げたのだろうけど。











西三局。

不可解なことがある。

場を見る限り京太郎君の能力が発動していないように見える。

失速したとは言え加速できたはずなのにしない。

それに先ほどまで辺りを囲んでいた炎は今では鳴りを潜めている。

そもそも何故火の鳥をしなかったのか。

確かに何回も使うものでもないし使えるものでもないけど使えた状況はあったはず。

少なくとも三尋木プロのロン8000は返せた。

それなのに彼は返さなかった。

大沼プロの能力によるものなのだろうか。

それとも……

私が考え込んでいるうちに巡目はそれなりに進んでいた。


「ちっ……ポン。」


大沼プロが何かに気付いたのか微かな舌打ちをした後、鳴いてずらす。

その答えは三尋木プロが持っていた。


「ツモ、4000・8000。」

「残念、直撃は取れなかったか。」


つまり三尋木プロは大沼プロを狙って撃とうとしていたということだ。

それに対し大沼プロはそれを察知し鳴いてずらす。

本来自分に対しての直撃だったものをツモに変える。

通称『爆発反応装甲』、大沼プロの防御率の高さの所以がこれだ。

とはいえ点差は絶望的になってきた。

トップの三尋木プロが52000点。

二位の咲ちゃんですら21900点。

現在三位の京太郎君は13200点。

ラスの大沼プロは僅差で12900点だ。

かなり不可解な状況ではあるけどどう凌いでどうひっくり返すのだろうか。









西四局。

正真正銘のオーラスになるだろうこの局。

如何にして動くのか見物である。

わずか六巡目。

それは起きる。


「立直だ!」


「立直でそいつを切ってよかったのかい?」


京太郎君が切った牌を曲げて宣言する。

その切った牌を見て三尋木プロは問いかけた。

その問いに対して京太郎君は答える。


「意地があんだよ、男の子には。」


「いいねぃ、だけどポンだぜそれ!」


口端を歪めて呼応する三尋木プロ、一発消しのためかその牌を鳴く。

それを見た京太郎君が幽かに揺らぐ。

それはまるで陽炎のように。

京太郎君が今まで火の鳥を使って和了らなかった理由がここにある。

砕けた鉄の鎧を掻き集めて作った鉄の箱。

中身の知れぬ謎の箱を。

三尋木プロは開けてしまっていたのだ。









          パンドラの箱
今、この瞬間にブラックボックスが開かれる。

その箱の中身は私にも解らない。

だけどそれはすぐにわかる。

何故なら今から箱の中身が見えるからだ。


「待っていた。」

「このときを、その牌を。」

「待ち焦がれた。」


開けた箱の中身は小さな炎。

とてもとても小さくなった炎。

だけどもそれはすぐに変容する。

今までチアノーゼに罹っていた炎が開かれた場所から流れてくる酸素を得て大きく呼吸をする。

そうすると瞬く間に炎は体積を増やして膨れ上がり周りに衝撃を与えた。


「ロン。」


京太郎君が三尋木プロが捨てた牌を指して宣言し手牌を開く。


1123455678999s


京太郎君が出した役は索子の九連宝灯。

奇しくも和了った牌は一索だった。


「俺の取っておき、痺れましたか?」


ここで全てをひっくり返した彼がいた。

オーラス親で、全てをひっくり返したのだ。

















先ほどの能力に関してだけど大体の考察は着いた。

ちょっとした理科の話だ。

それは時間は掛かるけど少量の火種で良い。

密閉された空間で火が焚かれるとそのうち酸素が無くなり火が弱まる。

だがそこに酸素を再び送るとどうなるだろうか。


『バックドラフト』


およそ消防士である須賀さんから受けた着想。

だけどあんな技、教えたことも無ければ使っているところを見たこともない。

もしかして密かに技の練習していたのだろうか……?

……いや、思いついたんだ、打ってる中で。

オーラスが終わったときに三尋木プロが京太郎君に聞いた。













「しかし四索切るかい、ふつー?」


「こいつ(一索)を引きたかったんで。」


「それなら五索切りでもよかったろ。」


「それだと三尋木プロは出さないでしょう?」

「それに何より真ん中が二つあるほうが形的にかっこいいですから。」


「ま、そうかもね。」

「楽しかったよ、これで終わりと思うと尚のことな。」


「何言ってるんですか、まだ点棒は残っていて、俺の親でしょう?」

「俺はずっと待っていたんだ、だからもうちょっと付き合ってください。」


「……ったく、しょうがない男だねぃ。」

「そんなに熱い口説かれ方されちゃあ、袖には出来ないだろ。」


まさかの和了り止めをせずに続行。

燃え滾ったその空気の中、一人の笑い声が木霊する。








「くくくく……」

「坊主、中々面白いものを見せてもらった。」

「少し本気を出そう。」


そういった大沼プロは薬を取り出して口の中に含んだ。

周りの何をしているのかという訝しげな表情を見て老人は応える。


「ただの持病の薬だよ。」

「ただ、誰かがこれを揶揄して儂のことを『火薬』と呼んだがな。」


笑いながらそういうと配牌を取っていく。

配牌を取り牌を並べ替えると大沼プロがまた言い直した。


「そうそう、さっきはいいものを見せてもらった。」

「これはその礼だ。」


大沼プロがそういうと牌を曲げて宣言する。


「立直。」


まさかのダブル立直。

ほぼ最速の状況から爆弾の投下。

あまりに突然なことに周りにいる人間は対応できない。

刻一刻と大沼プロのツモ番は近付いてくる。

それは止まらない時限爆弾のように。

それは消せない導火線のように。


「ツモ。」

「12飜で6000・12000の一本付けで横浜の嬢ちゃんのトびだな。」

「今回は裏は捲らないでおいてやる。」









大沼プロの和了りに三尋木プロは汗をかいており、咲ちゃんは呆然としていた。

大沼プロはその中でにべもなく席を立ってその場を離れながら京太郎君に忠告する。


        遊び
「今回はエキシビジョンだからな。」

「多少は遊んでもいい。」

「だが勝ちを取れるときには取れ、真剣勝負はそういうもんだ。」

「次に会うとき、坊主が望むなら今度は本気で打ってやる。」


そういうと大沼プロは対局室から出て行った。

それから三尋木プロは誰に言うでもなく言い放つ。


「全くとんでもない爺さんだな、おいしいとこ全部持ってきやがった。」

「ほんと、底がわっかんねー。」


大沼プロが捲らなかった場所。

多分裏ドラは乗っていた。

つまり実質役満だ。

もし裏を捲っていたら京太郎君は100点差で負けていただろう。

そしてそれはあの対局室に居た全員が気付いているはず。

これは大沼プロの挑発なのかもしれない。

ただそこの卓には……

咲ちゃん15800点。
三尋木プロ-2100点。
大沼プロ37200点。
京太郎君49100点。

そんな仮初の点棒表示が虚しく残っていた。

















祭りが終わり、閉会式などを終わらせて恒例行事に付き合う。

参加メンバーは照ちゃんに福路さん、靖子ちゃんとか他のチームのプロといえばわかるだろう。

そこに加えて今回は京太郎君と咲ちゃんと片岡さんも連れてきた。

お酒は絶対に飲ませないという条件で入れてもらった未成年たちに目を光らせながら私は他のプロと世間話をしている。

隣から靖子ちゃんと京太郎君の会話が聞こえる。


「靖子さん、靖子さん。」

「あの、あちらの方々からすごい熱い視線が……」


「バカ、目を合わせるな、あの人たちと目を合わせると就職先が決まっちまうぞ。」


「あ、はい、気をつけます。」


トキメキ熱視線を送ってくるスカウトやアラサー三人。

ちなみにアラサーというのはキツイプロとレジェンドプロとプンスカプロのことである。









何故こんなに熱い視線を送っているのか。

スカウトやアラサー共が狙っている理由。

実は言ってしまえば京太郎君や咲ちゃんより強い人はいる。

今回負けてしまったとは言え勝ち越している三尋木プロ。

一線を引いたとは言え実力があり、今回実質優勝者の大沼プロ。

私たちと一緒に打って尚も腕を磨いた福路さんに照ちゃん。

その妹であり女子インハイチャンプの咲ちゃん。

そんな将来性が洋々たる面子相手でも即戦力のレア度で言えば京太郎君の方が上である。

今男子の花形プレイヤーが減っているため、各チームは挙って有望な男子を取り入れるか、

さもなくば半ば男性部門を切り捨て女性部門に重点を置いてスカウトしているのが現状なのである。

つまり京太郎君は咲ちゃんと大して腕は変わらないとは言え男子というだけでかなり稀少なのだ。







本来のそれとは別の人もいるようだけど。


「あんた試合見取ったで、中々の男前やんな。」

「これはうちのヒロにはもったいないな、絹とかどうや?」

「私に似て胸も大きいし気立てもよくて美人なんやけど。」


「あははは、俺にはもったいないっすよ。」


別のスカウトしてる方がいますね。

あと京太郎君適当に会話しすぎ。

それもある意味処世術だけどさ。

そういえば以前、合宿のときに京太郎君が「勝ってやりたいことがあるんだ。」って言ってたけど結局何がしたかったんだろう?

本人は実質負けだと思ってそうだから中止にしてそうだけど。





それから少しすると宴も酣になり解散になった。

途中京太郎君と大沼プロとお孫さんの付き添いで来ていた南浦プロが話をしていた。

就職活動かなー?

まぁいいや、どうせウチのチームにくるだろうし!

それかホテルに戻って皆で軽くお疲れ様会をしてから明日は一日遊んで帰ることにした。

それを聞いた生徒達が連絡を取っていた。

何でも個人戦で仲良くなった子とか白糸台の子と遊びに行くらしい。

若いって素晴らしい。

流石の私でも高校生に混じるのは難しいので私はその間適当にぶらつくことにした。





そして翌日、遊びに行くという子供達を見送り私は引率者が集まる場に向かった。

別に出なくてもいいのだけれど、というか今まで出たこと無かったのだけれど手持ち無沙汰なので出ることにした。

そこにはプロの集まる飲み会とは違って引率者が多く集まっていた、とはいえ元プロや現役プロもいるにはいるけど。

私は誰か知っている人がいないかと見回して知っていそうなのが戒能プロと愛宕元プロと赤阪監督を見つけた。

何でまたこの場に戒能プロが?

私は疑問に思いつつも挨拶をして軽い歓談をする。

そんな時、ふと後ろから声を掛けられた。


「お、小鍛治じゃないか。」


「え……」


掛けられた声のほうに振り向くと懐かしい顔があった。





忘れもしない強烈な人。

印象は男前でしかし姉御肌の面倒見良し、私もお世話になったこともあった。

顔は割りとイケメンだけどそれ以上に女性的な体。

女が惚れると同時に嫉妬しそうな悩ましさ。


「何でここにいるんですか、ナイスバディ先輩……」


「久しぶりなのに『何で』とはずいぶんな挨拶だな。」

「しかも未だに俺のことその呼び方なのかよ。」


「で、なんでここにいるんですか?」


「いやいや、ここにいてもおかしくないだろ、俺も教師なんだし。」


そういえばそうだった、同じ学部学科の先輩だから教師でもおかしくないんだよね。

ナイスバディ先輩は続ける。


「いやまぁ、大学卒業した後、実家の鹿児島に一旦帰る羽目になってさ。」

「今は奈良で何とか教師やってるよ。」


「鹿児島?」


「知らない? 霧島神宮ってところ。」

「俺そこの派生した分家なんだ。」

「といっても結構遠縁だけどな。」

「そこにいる良子とは付き合い長いけど。」


「ああなるほど。」


私は得心した。

その乳は家系だったんですか。









ここで疑問に思ったことを聞いてみる。


「そう言えばさっき先輩奈良に居るって……しかもここに居るって事は教師として引率してるって事ですよね?」


「ん? ああ、阿知賀女子学院ってところなんだけど、個人で出てた高鴨や去年の松実玄はわかるか?」

「一応そいつらに麻雀教えてやったりしてる。」

「子供相手してるようであいつらホント手が焼ける。」

「そっちはどうだ?」


「こっちも似たようなものですよ、手が焼けるけど京太郎君が面倒見良いから何とかなってます。」


「直に見たわけではないけどあいつらも成長してたな。」

「もっとも咲の方は成長してなかったけど、どことは言わんが。」


「本人が聞いたら怒りますよ。」


「そんくらい受け止めてやるよ。」


「多分二人とも会いたがってるのであとで会ってあげてくれませんか?」


「おうともよ。」






あっさりと快諾してくれたナイスバディ先輩。

伊達に男前ではない。

そのあとは適当にアレクサンドラ監督や他の監督などと話してホテルに戻った。

そして二人を呼び出して部屋に招く。

二人の第一声はこうだった。


「ナイスバディお姉さん……」


「ナイスバディさん……」


「なぁ小鍛治、あいつら俺の名前忘れてるわけじゃないよな?」


「違うと思います。」


多分。

でも正直その胸を見たら名前なんて覚えてられないくらいのインパクトだから仕方ないね。

私も久しぶりとは言え忘れてたし。









ナイスバディ先輩がアイコンタクトで京太郎君と私を部屋から出させて咲ちゃんと二人きりになった。

数分後、中から盛大に響く泣き声。


「うわあああああん! 妬ましいよおおお!」

「大きいおっぱいが妬ましいよおおお!」


気になってちょっとドアを開けて中を覗き見るとそこには……

咲ちゃんは泣きながら何度も何度も先輩の胸を揉んでいた。


「羨ましいよおおおお!」

「私にもこんなおっぱいがほしかったよおおお!」


「おおよしよし。」


慰めてる先輩に号泣しながら胸を揉む咲ちゃん。

なんともシュールな光景だ。








それからそわそわしている彼を宥めて待っていると二人が出てきた。


「終わったよ、色々とね。」


そういった先輩に続いて咲ちゃんが口を開いた。


「何で私あんなに巨乳に拘ってたんだろうね……」


多分周りのせいだと思う。

ナイスバディ先輩(嫉妬の対象)と私(嫉妬の権化)と京太郎君(嫉妬の助長)とか。


「ナイスバディお姉さんに胸を揉ませてもらってるとき天から声が聞こえた気がしたんだ。」

「『競うな! 持ち味をイカせッッ!』ってね。」

「そこで気付いたよ、私には胸はなくても尻とふとももがあるんだ。」

「だから胸は無くても良いんだって。」


進歩したね、咲ちゃん。

多分それは天からの声じゃなくて一種の悟りだとおもうよ。

まぁ何にせよこれでこれ以上巨乳の子が咲ちゃんによって泣くことはないね。

めでたしめでたし。

あれ、何か忘れてるような……










それから東京を満喫した後、長野に戻って初めての部活をする。

と言っても三年生の引退と部長の引継ぎだけど。

京太郎君が次期部長に注意するところやアドバイスをしている。

室橋さんは普段から見てるし京太郎君も普段から教えているから軽めだったけどね。


「しかし悪いな、ムロ。」


「へ? 何がですか?」


「いやさ、俺らがもっと人員獲得出来ていれば来年も麻雀部は安泰だっただろ。」

「それを思うと申し訳なくてな。」


「いえ、須賀先輩からは既に色々大事なことを教わってますから。」

「それだけで十分ですよ。」

「それよりミカやマホに声を掛けて上げて下さい。」

「そっちのほうがありがたいです。」


「そっか、わかったよ。」

「一応俺たちはこれで引退にはなるけどちょくちょく顔は出すから困ったときはいつでも言えよ。」


「ありがとうございます。」


軽く会話した彼ら。

確かに来年部員を獲得できなかったら部ではなく同好会に格下げである。

さて、どうするか。









その日三年生の労いも兼ねた送別会を執り行った。

長野にちょうどいい場所が無かったので私の家で。

ご馳走は私の手料理である、女子力高くて困っちゃうね。

料理が揃って飲み物を注いで準備する。


「ではかんぱーい!」


「「「「「「かんぱーい!」」」」」」


本当はお酒が飲みたかった。

でも後片付けがあるのでお酒が入ると面倒になると予想できるので我慢。

この三年間色々あったけど楽しかったなぁ……咲ちゃんはそう言いながらジュースを飲んでいた。

片岡さんは食べ物を口一杯に頬張り旨い旨いと食べてくれていた。

京太郎君は何か物思いに耽っている。

本当に色々あったし思うことはあるだろうね。

終わった最後のインターハイ。

そしてこれからの進路。

色々区切りが終わって色々始まる。

三尋木プロとのリベンジが終わったけど大沼プロとの因縁が始まった。

もしかしたらあっさり決着が付くかもしれないけど付かないかもしれない。

しかしそんな先のことはわからない。





送別会が終わって生徒を帰らすと京太郎君が戻ってきた。

どうやら咲ちゃんと片岡さんと加藤さんを送ってきたみたいだ。

夢乃さんと室橋さんを送った私の代わり送ってくれたのである。


「お疲れ様。」


「お疲れ様です。」

「何か他に手伝うことありますか?」


「後は片付けだけだから休んでいていいよ。」


「じゃあ皿洗い手伝います。」


「君は人の話を聞かないね。」


「性分なんで。」


「知ってた。」


私がゴミの分別やら何やらをしていると彼が皿洗いをしてくれた。

それらが終わる頃にはすっかり祭りの後は綺麗になっていた。





全てが終わり、一息付く為にお茶を入れる。


「はい。」


「ありがとうございます。」


「ううん、こっちこそ手伝ってもらって助かったよ。」

「それより、何か言いたいことがあるんじゃないの?」


「あ、そういうの分かっちゃいます?」


「何年君達と一緒に居ると思ってるのさ。」


「じゃあちょっと話を聞いてもらっていいですか?」


「うん。」


多分彼にとってそれなりに重要なことだとは分かる。

雰囲気で掴み取れるものだ。

付き合いが長いってのもあるけど。










彼が神妙な面持ちで口を開く。


「それで、話って言うのはこの間言ってた『インハイ終わったら』ってことに関係していることなんですけど。」


この雰囲気……もしかして愛の告白?

駄目だよ、彼とは幼馴染でもあるが今は教師と生徒。

それは許されぬ恋愛。

それなのに将来有望な男の子を誑かしてしまうなんて私って罪な女。

なんてくだらないことを考えていたが彼はそんなことは露とも知らず喋りだす。


「実は俺、大学に行こうと思ってるんです。」


「え?」


思わず私の口から洩れ出てしまった声。

私はてっきり高校卒業後はプロになるんだと勝手に思っていた。





「プロにはならないの?」


「咲や優希のやつはそうみたいですね。」

「俺はプロもやりたいけど……」


「京太郎君はインカレで打つのかな?」


「……打たないでしょうね。」

「打ちたい相手がプロにしかいないんで。」


「じゃあ、麻雀やめちゃうの?」


「……許されるなら、大学とプロの二足の草鞋で行きます。」

「学費のこともあるんで。」

「父さんに負担を掛けたくないし。」


「ああ、学費かぁ……」


お金の問題は切実だとは思う。

それに大学とプロの両立はかなり大変である。

しかし彼の家は片親で裕福とは言えないけど困窮しているというほど苦しいわけではないはずだ。

そこで私は気になったことを聞く。





「行きたい大学って特待取れるんじゃないの?」


「俺の目指す学部は麻雀の特待を取って無いんですよ。」

「そもそもさっき言った通りインカレで打つ気は無いので。」


「そっか……」

「ねぇ、行きたい学部ってもしかして……」


「ええ、分類としては公務員です。」


やっぱりだった。

この件は私が手助けしないといけない気がする。

先生として、身近な大人として。

人生と麻雀の先輩として。

そして手本を見せた先駆者として。

私は彼を導かないといけない。

そんな思いに駆り立てられる。


「わかった、社長に私からもお願いするよ。」

「一応成績が良いのは知ってるけど、京太郎君も受験に向けて勉強頑張ってね。」


「はい、ありがとうございます。」


「ねぇ、外を歩かない?」


「わかりました。」



外に出ると夏も過ぎたせいか日は沈んで辺りはすっかり真っ暗になっていた。

空にはぽっかりと綺麗な月が浮かんでいる。

それを見た彼がふと溢す。








「良い月ですね。」


「うん、綺麗だね。」

「綺麗なんだけどね……」


「どうかしましたか?」


意味深なことを言った私に、彼は訝しげな表情をしている。

私は構わず続けた。


「私は嫌いだな、夜。」

「だって暗いし、怖いし、気持ちが暗くなる。」

「……だから私は好きになれない。」


全てを飲み込んでしまいそうな闇夜。

自身が吸い込まれそうな黒なせいか、つい綺麗な月と星を妬んでしまいそうになる。

こんな夜は小さな彼を抱いて眠る過去を思い出す。

私が嫌いな黒、お別れの黒。

でも離れられるようなものではない。

しかもその黒に気を許せば孤独が隣人のようにやってくる。

そんな気がする。

夜は暗くて、怖くて、切なくて。

本当、名前通りで嫌になる。

そんなことを思い、耽っていると隣から声が返ってくる。









「俺は好きですよ、夜が。」

「夜は邪悪だと言われるけど、夜がなければ世界はもっと病んでいたかもしれない。」

「俺が健やかで居られるのは夜があるおかげです。」


彼がにこやかに言った言葉。

私を勇気付けようとして言ったのだろうか?

「夜があるから健やかで居られる。」か。

ありがたい言葉だね。

でもね、京太郎君。

私には勇気付けられるような資格は無いんだよ。

私が貴方を歪(イビツ)に歪めてしまったんだよ。

今までの君が直面した困難や苦労を用意したのは私で。

そして咲ちゃん達の性格が本来とは違って捩じ曲がっていく中で、君だけは変わらないようにしていた。

きっと取り返しの付かないことだけど、もう元には戻せないけど。

私は君に精一杯のことをするよ。

話している内に散歩は終わり、彼の家に着いてしまった。

遠回りしたとは言え隣なのだから当たり前なのだけど。

家を見て私は最後に一つ聞いてみることにした。









「なんで公務員になろうと思ったの? やっぱり須賀さんの影響?」


「……健夜さんの真似ですよ。」

「俺健夜さんのことが好きですから。」

「別に返事がほしいわけでもないんで聞きませんけど。」


そういうと京太郎君は家の中に入って行った。

君はさらっと言ってくれるね。

並みの女ならば今の不意打ちの科白でコロっと行ってしまうだろう。

憖(なまじ)顔格好がよろしいから言う方も言われる方も危険なのである。

私も好きだよ、君は掛け替えの無い存在だから。

勿論、咲ちゃんや照ちゃんも大切だけどね。

今日はたまたま京太郎君の進路相談を受けたけど咲ちゃんや片岡さんはどうするんだろ?

二人ともプロになるっぽいけど直接は聞いてないから何とも言えない。

それはまぁ置いといて、今後やるべきことが色々出来たから忙しくなりそうだ。










インハイが終わり、夏が過ぎて秋が来る。

秋にもなると暑さも控えめとなり汗ばむ陽気も鳴りを潜める。

ある日、暇を持て余した咲ちゃんと片岡さんが部活中にこんな話をしてた。


「最近、ミカがボクシングジムに通ってるらしいじぇ。」


「なんでボクシングに?」


「それはさっぱりだじぇ。」

「ただ、ミカ曰く強くなりたいらしいじょ。」

「麻雀しながらボクシングとは斬新だな。」


え、何で……?

麻雀とボクシング関係ないよね!?

チェスとボクシングでもミスマッチなのに……

もしかして私に対するお礼参りとか!?

いやいや、加藤さんに限ってそんなことは……ないよね?

私は不安に思いつつも雀荘に行かせた下級生三人を信じて待つ。

今頃靖子ちゃんとかと打ってるはずだけど大丈夫だよね?










進路相談などで忙しくなる10月も軽くこなして咲ちゃんを祝う。

はぁ。

来月か。

というか来月なんてすぐだった。

当たり前だ、咲ちゃんのは27日だもの。

そして少し日にちが経つとその日が近付いてくる。

それは私の嫌いな日である。

いつの間にか今日で最後の二十代。

明日からは三十路を名乗ることになる。

三十路。

それは一つの区切り。

三十路。

それは逃れられぬ宿命。

三十路。

それは、大台。

……明日から二十九歳(と十二ヶ月)ってのは駄目かな?

くだらないことを考えて現実逃避していると家のインターホンが鳴る。

誰だろうと考えなくても誰だか見当が付く。

玄関の扉を開けるといつものメンバーが雁首揃えているわけで。

こんなに三十路を祝われるとは思わなかったよ。

今までで一番の三十路を祝われ方だった。

でもまぁ、悪い気はしないかな。

先生やってて良かった気もする。





それから少しすると彼らの進路がより確かなものになっていく、

片岡さんと咲ちゃんはプロになれそうだし、京太郎君はきっちり推薦を取れそうだ。

彼に関しては今までの輝かしい功績や部長という責任ある立場があったので推薦枠はすんなりと通った。

勿論普段から学生の本分である勉学もしっかりやっていた上に受験勉強も余念が無かった。

進路はほぼ確定だけど未来のことはわからない。





クリスマス。

バレンタイン。

リア充爆発しろ。

そんな風に思えるイベントは全部流して学生最大のイベント。

卒業式。

受験はあっさりとクリアして行ったので割愛するけど卒業式はそうはいかない。

私も手伝いをする破目になったんだけど結構大変。

司会進行とかやる人とかすごいと思う。

卒業式とかやってる最中って感極まって泣く子とかいるよね。

リハーサルのときは泣かなかったのに、まぁ気持ちはわかるけど。

あと加藤さん泣いてた。

貴女の卒業式ではないのに泣くのか。

きっと貴女が卒業するときはもっと泣くんだろうね。





卒業式が終わり、一息ついたので旧校舎に向かう。

部室に入るとそこには同じ考えを持った人がいた。

今日、卒業する三年生三人が卓の前に立っていた。


「打っていく?」


「ええ、お願いします。」


「今日が学校で打つ最後の麻雀だね。」

「皆準備はいい?」


「もちろんだじぇ。」


「それじゃあ打とうか。」


感慨深いのか皆一手一手ゆっくりと打つ。

皆して能力の使用はせず普通に打っているのだ。

それでも少しずつ少しずつ巡目は進む。

そしてやがて終局する。


「お疲れ様でした。」


「お疲れ様。」


「お疲れ様だじぇ。」


「お疲れ。」

「最後の麻雀はどうだったかな?」

「やっぱり寂しい?」


「うーん、別にもう打てないわけじゃないし、この面子とはまた毎日顔を付き合わせるわけだけど。」

「やっぱり高校最後となると感慨深いじぇ。」


「俺は毎日顔を出すとは思うけど大学が忙しいときは出れないかもしれないぞ?」


「何だと!? それじゃあ私のタコスは誰が作るんだじょ!?」


「知・ら・ねー。」


「多分あんまり変わらないね。」

「お姉ちゃんとも同じチームになるし京ちゃんとも離れるわけでもないし。」

「高校からプロには移るけど顔は同じだもん。」


確かにあまり代わり映えしないというか実家のような安心感のあるチームではある。

というのも、よく佐久フェレッターズの面々とは交流があったからである。

生徒の練習にも良く付き合ってもらったね。









打った後、三人が帰っていく。

私は少し部室に残って外を眺めていた。

京太郎君たちが坂を降りていく途中、向こう側から人影が現れた。

どうやら加藤さんが走って三人を新校舎から追いかけてきたようだ。

別に声が聞こえるわけでも口が見える距離でもないので何を言ってるのかわからないけど、咲ちゃんと片岡さんが二人を置いて先を行く所を見る限り何か重要なことを言おうとしているのだろう。

どうやら何か言ってる様だ。

そのあと加藤さんが目線を下げて待っていると京太郎君が頭を掻いて頭を下げた。

加藤さんは頷いた後にもう一度、頭を下げた後に京太郎君の胸に向かって腕を動かして何かを持っていった。

多分第二ボタンだと思うけど何でそんなに強引に……

というかボクシングを習っていたのはそのためか。

そもそも普通に言えば彼だって渡しただろうに。

傍から見てて何とも不可思議な光景だった。




ウチのチームに新しくメンバーが加わる。

知っての通りの三人。

長期スパンでみると強い京太郎君。

彼は大学の関係もあるから少し特殊な雇用契約がなされているけどそこは問題ないだろう。

これからの男性の部の星として頑張って頂こう。

咲ちゃん、言わずと知れたチャンピオン。

彼女は割りと団体戦のほうが強いのでそっちをメインに行くと思う。

ちなみに彼女の雇用契約は京太郎君とは違って倍の期間の二年更新。

最後に片岡さん。

彼女はもう東風戦特化の対局に絞る。

かつての私みたいに東風フリースタイルとかそっち一本である。

彼女も咲ちゃんと同じタイプの契約。





「今までもよく来ていましたけど改めて、今後もよろしくお願いします。」


「本当によく入り浸ってもんな。」


靖子ちゃんや照ちゃん福路さんと話を盛り上げる三人。

そのあとも挨拶周りなどをして一日は終わる。

幸いにして学校はまだ春休みなので三人に係わってあげられた。

室橋さんたちには少し悪いけど今はこっちが重要なのだ。





色々終わって京太郎君と二人で須賀家に向かう。

今日は休みの取れた須賀さんと就職&入学祝いを行うとのことだった。

咲ちゃんや片岡さんもそろぞれの家庭で祝うらしい。

そういえば何か照ちゃんが張り切っていたけど嫌な予感しかしないのはなんでだろう。

宮永家に一抹の不安を抱きつつもご馳走を用意する。

途中京太郎君が手伝いにやってきたけど追い返しておいた。

主役は座って待ってなさい。

須賀さんと共同で作っていたが意外や意外で案外料理の手際がいい。

考えてみれば男やもめが長いんだから料理出来ないわけがない。


「あいつ変な味の物が異様に好きなんだよな。」


「ああ、確かに。」

「京太郎君良く変なタコス作ってました。」


「そうなんだよ、それでいてちゃんとしたものも食べる。」

「小鍛治さんには感謝してますよ、でも変な味が好きなのは誰に似たんだか……」


「あはは……」


軽い会話をして流しておいた。

一方京太郎君はといえば仏壇に手を合わせたあとカピちゃんの相手をしていた。









「乾杯!」


「「乾杯!」」


京太郎君の乾杯の音頭で食事を取り始める。

彼は未成年でまだお酒を飲めないからジュースだけど私たちはお酒だ。

いやー悪いね、京太郎君のお祝いだけど私たち思いっきり楽しんじゃってる。

しかも須賀さんによる「大魔王」と言うチョイス。

厭味かこんちくしょう。

お酒が大分進み、良い感じに酔っ払うと片付けが面倒臭くなってくる。

結局須賀さんと二人してばたんきゅー。

京太郎君が敷いてくれた布団で寝て京太郎君が後片付けしてくれた。






朝になるとぬーぬー言ってる鳴き声で起きる。

鳴き声の主はカピちゃんだった。

昔はキュルルルって鳴き声だったのに今ではおじさんが唸っているような鳴き声。

というかカピちゃんも結構なおじさんだった。

君とも結構長い付き合いだね。

起きて今に行くともっさい須賀さんときっちり朝ごはんを用意している京太郎君がいた。


「おはようございます、朝ごはんどうします?」


「あ、うん、いただこうかな。」


おかしいなぁ、今回朝早く起きて作ってあげようと思ったいたのにいつの間にか彼に作られていた。

彼の女子力が上がるのは最早運命力とか世界の強制力とかなのかな?

堕落の悪魔(別名ダメ人間製造機)になりそうで怖いよ。





事務所に向かうとダメ人間製造機代表と会う。

京太郎君の世話焼きな性格は福路さんの影響もあると思う。

福路さんも良い子だけどダメ人間製造機な上に駄メンズに引っかかりそうで怖い。


「あ、先生、スタイリストの方が呼んでましたよ。」

「何でも衣装合わせがしたいとのことでしたけど。」


「ありがとう、後でいくよ。」

「あと福路さん、ここで先生っていうのはどうなのかな……」


「あらすみません。」

「でも小鍛治先生は私にとって先生ですよ。」

「勿論チームの先輩後輩になった今でもです。」


「あはは……」


何か小恥ずかしいからやめて。

早々に話を切り上げてスタイリストさんに会いに行く。

残念女子力の私でも何とか姿格好だけでも整えられるのは偏(ひとえ)に彼女のおかげである。

当然それは私の後継者と言われている宮永姉妹も例外ではなく今後は姉妹揃ってお世話になりそうだ。





学校が始まり職員室に向かうと割りと話すことの多い国語担当の先生が話しかけてきた。


「小鍛治先生、貴女に伝えておきたいことがあります。」


「は、はい。」


「実は、この度私結婚することになりまして。」


「……はい?」


「年上の小鍛治先生よりもお先に籍を入れるのは心苦しいけど私も今年で29なんでぶっちゃけ待ってられないです。」


「あっはい。」


今年一番目のショックな出来事。

お仲間だと思っていた年下の同僚が結婚することになりました。

くやしい。






「小鍛治さんもチェックお願いします。」


「あ、宣材出来上がったんだ。」


「ええ、一応プロの人に補正や加工とかやってもらったんですけどね。」


「毎年だもんね。」


そう言って広報の人から写真を貰う。

この間撮った宣材写真が出来上がったのでそれに目を通すのだ。

これをちゃんとやらないとあとでクソコラと呼ばれる類のものが出来上がるので大変である。

と言っても全員やるわけでもない。

靖子ちゃんや照ちゃん、福路さんは一昨年に撮っているので変わらず。

咲ちゃんと片岡さんが新しく入ったのと私は29とXX月過ぎたのでその節目にという理由で撮った。

京太郎君は正規雇用ではないので撮ってないらしい。

しかし仕事の一環とは言え宣材写真の方は毎年では無いけどプロカードは毎年更新なので面倒くさいものである。

今年から30表記かぁ……毎回のこととは言えやっぱりクるなぁ。




さて、今年もやってきました。

毎年恒例のインハイの麻雀より死に物狂いになってやること。

「部員確保のお時間」です。

今年は室橋新部長と加藤さんのペア。

そして私は夢乃さんとのペアで部員の勧誘を行うことにした。

毎年皆で一塊になって勧誘するから威圧感があったりエンカウントが少なくて失敗するんだ。

だから今回は二手に分かれる。

これで片方が失敗してももう片方は大コケしないという目論見である。

二手に分かれる前に私が念を押す。


「わかってるとは思うけど今年インハイに団体出場出来るかどうかはここに掛かっているからね。」

「しっかりやろう。」

「……あと先生としてはあまり大きな声では言えないけど多少は強引に行って麻雀を楽しませるのも手だと思うよ。」

「ほら、『麻雀の面白さを知ったら入りたくなる』でしょ?」


「「! はい……!」」

「……? はい。」


加藤さんと室橋さんが言った意味を理解してくれて嬉しい。

夢乃さんは純粋なのか額面通りに受けたようだ。

出来れば君はこのままでいてほしい。

それにしても確実に黒い部活になって行ってるなぁ。










数時間後。

部室に数人連れ込み加藤さんと私、新部長と副部長が頑張って接待していた。

私たち側は多少腕に覚えがある人を受けて打っている。

部長達側は初心者に優しく教えながら打っている。


「えっと自分のツモ番のときに立直をして和了ると一つ役がプラスされるから……」


「はい、あ。」

「和了れました!」


「すごいですね! マホも嬉しくなっちゃいます!」


「ありがとうございます! 麻雀って面白いんですね!」


あっち側は楽しそうにしているね。

一方こっちはというと……



「た、助け……」


「もうやだなぁ、そんな大げさだよ。」


「もう点棒が……」


「大丈夫だよ、練習だからハコ下ありだから。」

「マイナスになっても麻雀を楽しめるね。」


「ひぃいぃ……」


いやぁ、部員確保はいつもついつい力が入るね。











で、結果は私たちが相手していた子が悲鳴を上げて逃げ出してアウト。

その異様な雰囲気を察した部長達側の初心者さん達もそそくさと逃げていってアウト。

見事なゲッツーである。


「どうしよう。」


「どうしようじゃないですよ先生、何してくれてるんですか。」


「いやね、ちょっと本気で逃がさないようにしようとしたら力が入っちゃって……」

「……ごめん。」


新三年生二人から溜息で漏れる。

そこに夢乃さんが発言をする。


「大丈夫です! マホたちは個人戦でも頑張れます!」

「例え部員が来なくても先輩達の顔に泥を塗るような打ち方はしません!」


「夢乃さん……」


「集まらなかったものは仕方ないですし、マホの言う通り個人戦頑張りますか。」


ナイスフォロー夢乃さん。

そして英断室橋さん。

やっぱり君達部長の器だよ。